OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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短めの話となっております。


争いへの序曲

 ダーク・ドワーフの襲来。突然の襲撃に、ダーク・エルフの集落は騒然となった。

 

 法国勅使との会議中であった族長も例外では無く、言葉短く中座して行った。その光景を沈黙のまま見送ったスレイン法国の者達も、一度頷き後を追う。

 

 扉を潜り外へと出ると、集落の中央に位置する広場がやけに騒がしい事に気づく。面々はクレマンティーヌを先頭に、その場へと急ぐのだった。垣根の様に集まったダーク・エルフ達をかき分け、現状確認が出来る所まで来ると、報告とは少々違う空気に気付かされる。クレマンティーヌは一歩前に出、族長の娘であるヴォルフラムに声を掛ける。

 

「どういうこと? 敵襲にしては随分と静かだけど?」

 

 その声に驚いた様にヴォルフラムは振り向き、人物を確認しつつ口を開く。

 

「まあ、ね。襲撃は襲撃でも、別の襲撃みたい。コイツ等は、被害者」

 

 そう言ってダーク・ドワーフ達を指差す。

 

 

 ――ダーク・ドワーフ。ドワーフの亜種である。通例ではダークと誇称される種族は、ダーク・エルフなどと同じく肌が黒くなるのが知られているが、ダーク・ドワーフだけは例外である。通常のドワーフが健康的な肌色をしているのと違い、ダーク・ドワーフは病的にまで青白い。その理由は、祖がほぼ地上には出ず、地下で一生を終えていた事が起因と言われている。

 そしてもう一つ、瞳の異常である。通常のドワーフと比べると、黒眼の部分が異常に大きいのが特徴だ。それ以外には大きな差は無く、鍛冶を主な仕事としているのも同様である。唯一、信仰の加護によって、“黒き炎”と呼ばれる火を扱える、と言う事以外は――

 

 

 広場の中央に腰を降ろすダーク・ドワーフの人数は二十名程。全員では四百から五百名程になる様だが、広場にいる部族の纏め役以外は、別の場所に集められているらしい。そのダーク・ドワーフの、恐らく族長と思われる男に、ダーク・エルフの族長が話かけているのがクレマンティーヌの眼に留る。その二人の方へと、クレマンティーヌは如何にも当然と歩き出した。

 

「その話、私も混ぜてくんない?」

 

 あまりにも無作法に、そして自然に声を掛ける。

 

「雌猫か。おめえさん話に加わるって事は、法国も巻き込むって事だぜ。解ってんのか?」

 

 低くドスの利いた声でダーク・エルフの族長が問いかける。

 

「ま、それもやむ無しだねぇ。ここで見捨てて帰ったら、陛下に何されるか」

 

 おどける様に両手を上げ、クレマンティーヌは答える。

 

「ほう。おめえさんの所の大将は、随分と面白いヤツ見たいじゃねえか。神様狂いの国の王様とは思えねえな」

 

「とーぜん。陛下の機嫌を損ねたら、六大神のクソッタレだって殺されるからねぇ」

 

 そう言うクレマンティーヌの言動が気に入ったのか

 

「まあいい。聞くだけ聞いてけ」

 

 ダーク・エルフの族長は許可を出した。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 話は数日前まで遡る。

 

 アベリオン丘陵から南へ僅かの上空に、その者は居た。夕日を背に、赤を基調とした異国風のスーツと呼ばれる物をきっちりと着込み、清潔感漂うオールバックの髪を風に揺らし、人では無い特徴を顕にしながら。

 

「あの村ですね」

 

 そう呟きながら、サングラスの位置を正す。この者、ナザリック地下大墳墓 第七階層守護者 デミウルゴス。その宝石の瞳に、しっかりと標的を定め、ゆっくりと降下していった。

 

 ダーク・ドワーフ達が夕食の支度で忙しくしている所に、それは降り立った。何でも無い様に。当たり前の様に。右手を胸に当て、左腕を水平に広げ、まるで道化師の様に腰を折る。何者か? と斧を手に男体が集まり警戒の様を見せる。だが、デミウルゴスは意にも解さず口を開く。

 

「慌ただしい時間にお邪魔して申し訳無い。この村の全員を集めて貰えますか?」

 

 実に丁寧な言葉だった。だが、ダーク・ドワーフ達は口々に「何者だ!」「何用じゃ!」などと真意を問う言葉を放つ。これでは話も出来無い。デミウルゴスは理解に苦しむと思いながら、力を振るう。

 

「黙りなさい!」

 

 一喝言葉を紡ぐだけで、ダーク・ドワーフ達の言葉は妨げられる。

 

 支配の呪言。Lv40以下の者達を支配下に置く事の出来るスキルである。

 

「もう一度だけ言います。この村の全員を集めて貰えますか?」

 

 ダーク・ドワーフ達は従う他無かった。本能的な恐怖が、目の前の者が強者であると警鐘を鳴らしていたからだ。ほどなくして集まったダーク・ドワーフ達に向け、デミウルゴスは演説の様に言葉を告げる。

 

「これより七日後。我が軍勢が、この地を強襲致します。皆様には御健闘頂きますよう。おっと、忘れていました。私の名は、ヤルダバオトと申します」

 

 そう名乗った瞬間、集団の中に居たダーク・ドワーフの女性が一言「何故?」と口にする。その言葉を受け止めデミウルゴス、いや、ヤルダバオトはニヤリと笑みを浮かべ

 

「簡単な事です。我が主の為の、実験に付き合って頂きたいと思いましてね。いえ、答える必要はありませんよ。あなた達は只、我々の期待通りの結果を示して頂ければいいのです。では、七日後に」

 

 そう言ってヤルダバオトと名乗った悪魔は去って行った。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

~ナザリック地下大墳墓 第六階層 星青の館~

 

 ビクトーリアの寝室。そのベッドの中で、産まれたままの姿で愛する者の香りに包まれ、愛する者との情事を思い浮かべながら艶っぽく秘め事を楽しんでいたアルベドの脳裏に言葉が響く。

 

「あら、姉さん。どうしたの?」

 

 言って自身の愛液で濡れた指をペロリと舐める

 

『………………………』

 

「ええ、そう。その中に? 解ったわ」

 

 ニグレドとのメッセージのやり取りを終えると、矢継ぎ早に次の相手へとメッセージの呪文を展開する。相手とはすぐに繋がった。

 

「私よ。そちらで問題が起こっているようだけれど、それに私の旦那様は関わっているの?」

 

『………………………』

 

「ええ。そう。解ったわ。くれぐれも言いつけ通りに」

 

 そう言って二つ目の確認を終える。

 

 そして、最後の相手へとメッセージを繋げた。

 

「申し訳ありません。お時間は大丈夫でしょうか? アインズ様」

 

『ああ。問題は無い』

 

 慈悲深き支配者の凛々しい声を聞き、緊張しながらアルベドは口を開く。

 

「大変不敬な事だとは存じておりますが、アインズ様にお願いの儀があります」

 

 その言葉を受け、アインズの言葉が一瞬止まる。

 

「申し訳御座いません。何卒御許しを!」

 

 アインズの沈黙を、不快と見たのか、はたまた最近仕事をサボリ一人遊びに熱中していた事への叱責と取ったのか、アルベドは酷く狼狽する。だが、驚いたのはアインズも同様だった。只、単に僕達からの願い、と言うかおねだりされた事に嬉しくて、言葉を失っただけなのだ。

 

『い、いや、待てアルベド! すまない、少しビックリしてしまってな。それで、何をおねだり……いや、願いは何だ?』

 

 アインズのいつも通りの優しげな言葉に、アルベドはほっと胸を撫で下ろし、願いを伝える。

 

『成程な。ビッチさんが関わっているのだな?』

 

「はい。ビクトーリア様のペットに確認を取りました」

 

『そうか。そう言う事であるならば許可しよう。いや……』

 

 途中まで言って、アインズは言い淀む。どう言うべきか悩んで居るようだ。許可、と言う言葉の後の沈黙。何故か今回アルベドは、安心して待つ事が出来た。

 

『そうだな。アルベドよ、アインズ・ウール・ゴウンの名において命ずる。ビクトーリア・F・ホーエンハイムを、全力を持ってサポートせよ!』

 

「有り難き幸せ。守護者統括アルベド、身命を持って」

 

 この言葉と共に、メッセージは途切れる。アルベドはその艶やかで妖艶な、まだ汗と女の淫靡な香りが残る身体をシーツで包み立ちあがる。

 

「アインズ・ウール・ゴウンか………………クダラナイ。ビッチ様の物に手を掛ける罪、その身に味わいなさい………………………………デミウルゴス」

 

 言葉と共に、リング オブ アインズ・ウール・ゴウンを発動させた。

 

 




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