OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

84 / 115
集う者達

 ヤルダバオトの宣戦布告から四日後、ダーク・エルフとダーク・ドワーフの連合軍は、戦場となるダーク・ドワーフの集落に集結していた。

 

 全軍で三百二十名。ダーク・エルフの総勢三百の内、戦える者は百。ダーク・ドワーフ、五百の内二百。そして、スレイン法国の勅使隊、二十。僅かこれだけ。実に心もとない数字だ。

 

「自殺行為だねぇ」

 

 周りに視線を巡らせながら、クレマンティーヌは呟く。

 

「まあ、仕方ねぇだろ。俺達もドワーフ達も長命種だ。子が産まれ難いからな。それに…………俺達は一度故郷を捨てて、散り散りになっちまっているしな」

 

 ダーク・エルフの族長が自嘲気味にそう答える。

 

 そこで一度目を瞑り

 

「それで、法国の動きはどうなんだ?」

 

「火滅と陽光が動くみたい。合計で二百ってトコかなぁ」

 

「それでも五百ちょい、か……負け戦だな」

 

 ダーク・エルフの族長はそう言いながらも、それを楽しむ様に口角を上げる。

 

「私もまともじゃ無いけど、あんたも大概だねぇ」

 

「喧嘩は派手な方が良いだろう? それに、まともじゃねえって言うなら、おめえさんとこの大将だ。土地を渡す代金が、俺達の命と繁栄だ? 大法螺も此処まで行くと気持ちが良いじゃねえか」

 

 そう言って太く低い笑い声を上げた。だが、その姿を見るクレマンティーヌの瞳は細くなり

 

「陛下が参戦するなら、もっと面白くなるけど」

 

「はあ? おめえさんそりゃあどう言う……」

 

 ダーク・エルフの族長がそこまで口にした時、村の入口を警備していた年若いダーク・エルフの男が駆け込んで来た。

 

「ぞ、族長! な、謎の集団が近付いて来ています!」

 

 この言葉を受け、ダーク・エルフの族長はクレマンティーヌへと視線を向ける。その視線にクレマンティーヌは一度頷いた。

 

「ギャーギャー騒ぐんじゃねぇ。おい、髭達磨一緒に来な」

 

「お、おう」

 

 短い言葉を交わしながら、ダーク・エルフ、ダーク・ドワーフの両族長とクレマンティーヌは村の外れへと歩き出した。

 

 

 

 村外れで、五人の者達が相対する。

 

「おいオキタ、こりゃあ外れだ。色白の髭達磨に、妙チクリンな格好した色黒爺。それに、ウチの重罪人様まで居るじゃねえか」

 

 ヒジカタが言葉を切った途端、オキタが動く。神速、そう言えば良いのだろうか、ブロードソードとは思えない程のスピードで剣を抜き、眼前のダーク・エルフの族長へ下段から切り上げる。だが、その煌きは細い鋭利な刃によって受け止められた。

 

「刀、ですかい?」

 

「ああ」

 

「ヒジカタさん。案外ハズレじゃあ無いかも知れやせんぜ」

 

「そうだな」

 

 剣を引くオキタをダーク・エルフの族長はその視界に捉えつつ

 

「全く、おめえらみたいなひよっこの狂犬を送り込んでくるたぁ、法国も随分変わった物だなぁ。興味が出て来たぜ、おめえらの大将に」

 

 冗談を言う様に口を開くダーク・エルフの族長に対し、ヒジカタは

 

「幻滅すること請け合いだぜ。こんな死地に、可愛い信徒を送り込む様な法皇様だ。ロクなヤツじゃねえ」

 

「「ふふっ、ははっ、あーはっはっはっはっ!」」

 

 どちらからとも無く笑いが起きる。

 

「しかしヒジカタさん。これじゃあダメみたいですぜ」

 

 そう言ってオキタは、自身のブロードソードを背後に居た部下に投げ渡す。

 

「そうだな。少し癪だが、使うしかねえか」

 

 ヒジカタも同じ行動を取り、部下から新たな得物を受け取る。

 

「ほう。おめえらも刀を?」

 

 ダーク・エルフの族長が、興味深そうにそれを見つめる。

 

「キクイチモンジって言うらしいですぜ。おい、犯罪者。お前の分も預かって来てる。とっとと受取りやがれ」

 

 クレマンティーヌに向け、二本の刀を放る。

 

「そいつは小太刀って言うらしい。刀身が短いんで刺殺武器(スティレット)と同じ感じで使えるそうだ。ついでに言うと、ヒジカタさんのは妖刀らしいんで、抜いたら呪われやすぜ」

 

「何渡してんだ、あのクソ女ぁ!」

 

 決戦まであと三日、戦場は場違いな程の笑いが漏れていた。

 

「それで、何か新しい情報はあるのか?」

 

 ダーク・エルフの族長は、柔らかな表情を消し、そう問いかける。

 

「確定の情報では無いが、相手は第七位階の魔法、悪魔の宮殿(イビル・レジテンス)ってヤツで仕掛けて来るだろう、と言う事だ」

 

「だ、第七位階だと!」

 

 ヒジカタの発言にダーク・エルフの族長は驚きを示す。隣に視線を移すと、声には出さないがダーク・ドワーフの族長も同様の反応だった。

 

「おいおい、六大神や八欲王じゃねーんだぞ。それで、そいつはどんな魔法何だ?」

 

「ああ。何でも巨大な転移門を出現させて、そこから低レベルの悪魔を無尽蔵に召喚するらしい」

 

「無尽蔵だあ! それで、止める方法は?」

 

 それを問われ、ヒジカタは如何にもウンザリとした表情で両手を上げる。

 

「簡単な事でさぁ。門を破壊するか、術者を殺せば魔法は解除出来るって事でさぁ」

 

 補足する様にオキタが答える。

 

 ダーク・エルフ、ダーク・ドワーフの両族長も、ヒジカタと同じ思いに至っていた。確かに簡単な事だ。だが、それが最も困難であると知っている。何せ相手は第七位階魔法を使うと言う、神話級の化け物なのだから。ならば選択する手段は一つ。門の破壊である。

 

「その転移門ってのはどう言う物なんだ?」

 

 ダーク・エルフの族長の問いに、ヒジカタ、オキタの両名は首を横に振る。

 

「解らねぇ。巨大な門だってのは聞いているが……」

 

「巨大ねえ……」

 

 場は静まり返る。巨大な門。情報はそれだけだ。自分達で破壊可能かも解らない。だが、その中でオキタがダルそうに口を開く。

 

「一様、こんな物を預かって来ているんですがねぇ」

 

 そう言って一枚のカードを差し出した。

 

「なんだいそりゃ?」

 

 問いかけるダーク・エルフの族長の言葉に、オキタは黙ってカードを手渡した。ダーク・エルフの族長は、珍しがる様に裏、表とカードを遊ばせながら確認をする。

 

「そいつに、微量な魔力を通してみてくだせぇ」

 

 ダーク・エルフの族長は、言われた通りに魔力を通す。すると、一瞬でカードは大きな筒状の物に変化した。直径三十センチ、長さ一メートル五十センチ程の物に。

 

「これは?」

 

「陛下から頂いた物なんですがねぇ。何でも魔法の筒(マジック・シリンダー)とか言う物で、ケツの魔法石に魔法を貯めて打ち出す物らしいでさぁ」

 

「ほう。どれほどの魔法を貯め込めるんだ?」

 

火球(ファイヤーボール)なら、三十発」

 

「ほう。すげえじゃねえか。で、数は?」

 

 素直にダーク・エルフの族長は、関心の意を示す。

 

「二十本。陛下の言葉を借りるなら、敵が見えたら問答無用でぶっぱなせ。とのことでさぁ」

 

「物騒過ぎるだろ、あの女ぁ!」

 

 オキタの言葉に、ヒジカタはツッコミを入れる。だがその言葉を聞き、クレマンティーヌは思わず噴き出した。

 

「ああ? テメェ、何が可笑しいんだ?」

 

 ヒジカタは威圧的に口を開くが、当のクレマンティーヌは涼しい表情で

 

「陛下の言葉が物騒だっていうからさぁ。本当に物騒なのは、陛下自身だってーの」

 

 ダーク・エルフ、ダーク・ドワーフの族長は不思議な表情を浮かべるが、ヒジカタ、オキタの両名は「ああ」と納得の意を告げる。

 

「しかし、おめえらの大将は一体どこからそんな情報を?」

 

 今まで疑問に思っていたダーク・エルフの族長が不意に告げた。

 

「知らねえ。と言いたい所だが、あいつも神話級の、いや、神話その物の化け物って言う事だ」

 

 ヒジカタの言を聞いたダーク・エルフの族長は、ニヤリと笑みを漏らし

 

「ほう。面白れえじゃねえか。法国の変化もソイツの仕業か?」

 

「ああ。コリ固まっていた法国を、天災さながらに更地に変えて行きやがった」

 

「ははっ! 会うのが楽しみだ」

 

 そう言ってダーク・エルフの族長は、遙か遠くに位置するスレイン法国を見つめた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「小娘は?」

 

「迎えに出立致しました」

 

 リリー・マルレーンの問いに答えたのはニグン。傍らには、サイレンとヴァイエストが控える。

 

「左様か」

 

 言葉少なく、リリー・マルレーンは眼を瞑る。

 

(まず間違いなく手駒の無いデミウルゴスは悪魔の宮殿(イビル・レジテンス)で仕掛けて来る。問題は……その後ろに控える三魔将じゃな。門の破壊と魔将の殲滅。そしてデミウルゴスとの対決。妾一人で可能かどうか。小娘を前に出すか? いや、もし法国が言う様にドラゴン・ロードの来襲なぞ起きたら……収拾が付かんか。さて、どうするか)

 

 思いを巡らせ、リリー・マルレーンはその黄金の瞳を外気に晒すと

 

「また子。うぬらはどの程度の魔法を行使できる?」

 

 この問いに、サイレンは僅かに沈黙し

 

「シーリィ達は第四位階の風葬槍(ウインド・ランス)まで、我はその上第五位階の暴風葬槍(テンペスト・ランス)までだな」

 

「左様か。ならば上空からの奇襲は、うぬらの一族に任せる。また子は妾とちいと危ない事をしてもらう」

 

「はう。それで危ない事とは?」

 

「門の破壊じゃ」

 

「了解した」

 

 サイレンは緊張感を顔に滲ませながらも、迷い無く答える

 

「そう緊張するで無い。うぬの役目は妾を門まで運ぶ事じゃ」

 

「!」

 

 ニグンの顔色が一瞬にして曇る。

 

「わ、我が王よ。それは……」

 

「そうじゃ。門から後は、妾一人で対応する」

 

「き、危険です! 王に何かがあれば……」

 

 ニグンの言葉に、リリー・マルレーンは自嘲気味に笑うと

 

「彼奴等はうぬらでは敵わん。むざむざ死ぬ事もあるまい」

 

「ですが、我が王よ!」

 

 それでもニグンは一歩も引く事無く、法皇に苦言を呈す。ニグンのしつこさに、リリー・マルレーンは困った様に頭を掻くと

 

「頼まれたのじゃよ。遙か昔に別れた友にな………………じゃから、妾がやらねばならぬのじゃ。今、地の底で妾の名を呼んでくれる友の為に。その友と、日のあたる場所を並んで歩く為にな」

 

 リリー・マルレーン、いや、ビクトーリアの独白を、ニグンはじっと、噛みしめる様に胸に刻む。自身の王が創ろうとしている世界は、その為の物なのだろうと感じながら。

 

「我が王よ。無事の帰還、お待ちしております。ビクトーリア・F・ホーエンハイム様」

 

 そう言って最大級の礼を持って腰を折る。その姿を見つめ、照れたようにはにかんだ笑顔を浮かべ

 

「とうぜんじゃ」

 

 何事も無いかの様にビクトーリアは言うのだった。

 

 




オーバーロードの二次で、この様な展開は望まれていないかもしれません。
お読み頂いている読者様に、感謝を。

次話からは、本格的な戦争に突入します。

感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。