OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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アルベド、クレマンティーヌのセリフ、一部変更致しました。

ドミニク・ズボズボフさんが、美しいビクトーリアを描いて下さいました。
あらすじに表紙として挿入しました。
ぜひとむ閲覧して下さい。


泥の悪魔

 ナザリック第一階層にコツコツと言う金属音が響く。その音を響かせる者は、形容するならば、しゃなりしゃなりと石造りの回廊を歩く。その表情は硬く、何か思い詰めたかの様に見える。

 

「何処へ行くでありんすか? アルベド」

 

 柱の影からその者、守護者統括アルベドに声を掛ける者がいた。その者はゆっくりと姿を現す。

 

「何の用かしら? シャルティア」

 

 声の主はシャルティア・ブラッドフォールン。この地、ナザリックの第一~第三階層の守護者である者。

 

 アルベドは、若干の不機嫌さを滲ませながら応対する。

 

「何の用とは御挨拶でありんすぇ。守護者統括であるあなたが、外に出るなんて、異常を疑いせん方がどうかしてると言う物でありんす」

 

「そう。では言うわ。ビクトーリア様のお手伝いに行くところよ」

 

「お姉さまの?」

 

「ええ」

 

 シャルティアは一度その赤い瞳を瞼で隠すと、ここからが本題だと口を開く。

 

「アルベド。今一度聞きんす。お姉さまは、至高の方々を殺したのでありんすか?」

 

 アルベドは振り向く事無く。

 

「ビクトーリア様が、そう仰ったのならば、そうなのでしょう。信じるか、信じないかは各自の自由よ」

 

 今回のデミウルゴスの行動で、アルベドの思いは、半ば諦めていた。ナザリックの全ての僕に、ビクトーリアを信じさせるのは無理なのでは無いかと。だからこそ、自分だけでも共に歩もうと決心したのだ。たとえ、ナザリックを、ひいては絶対的支配者であるアインズ・ウール・ゴウンを敵に回しても。

 

「ならば質問を変えるでありんす。今、この場に至高の方々がお戻りになったら、どうするでありんすか?」

 

「………………解らないわ。ただ、そうね。報いは受けてもらうわ。ビクトーリア様に掛けた呪いの分の」

 

 その冷たく、研ぎ澄まされた言葉に、シャルティアは背筋が寒くなる思いだった。そして、アルベドはゆっくりと振り向くと

 

「ビクトーリア様は、あの御方は、とっても嘘付きなの。それでいて………………嘘が下手なの」

 

 そう言ったアルベドの顔は、酷く悲しそうで、まるで泣いている様だった。その言葉を最後に、アルベドは眼前に開いた漆黒に溶けて行った。

 

 一人残されたシャルティア。そこに、近づく五つの影があった。

 

「聞いていたでありんすか?」

 

 シャルティアの問いに影は頷きで返す。

 

 第六階層守護者 アウラ・ベラ・フィオーラ。同じく マーレ・ベロ・フィオーレ。プレアデス ユリ・アルファ。同じく ナーベラル・ガンマ。そして、メイド長 ペストーニャ・S・ワンコ。

 

 それぞれの心が、それぞれの思いの天秤が、僅かにだが傾いて行った

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 良く晴れた朝、上空に一点の染みがあった。良く目をこらせば、それが染みではでは無い事が解る。蝙蝠の様な羽を生やし、赤いスーツで身を飾った悪魔。デミウルゴスである

 

 上空に漂う彼の者は、遠くに霞む集落を宝石の瞳に映しながら

 

「そろそろ良いでしょう。さあ、我らが支配者 アインズ様の礎となりなさい! 魔法最強化(マキシマイズ・マジック)悪魔の宮殿(イビル・レジテンス)!」

 

 デミウルゴスの力ある言葉に反応し、地面から巨大な建造物が現れた。高さ十五メートル、幅十メートル。その外見は、様々な遺骸が絡みついた様な禍々しい物で、その中央に古ぼけた巨大な両開きのドアが存在していた。

 

 その姿を満足げに見つめると

 

「さあ行きなさい。地獄の門よ、開きなさい!」

 

 その言葉に呼応し、地獄の門はゆっくりと開いて行った。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「来やがったな」

 

 呟く様にダーク・エルフの族長が口を開く。

 

「まあ、分かっていた事じゃねえか」

 

 そう言ったヒジカタに、ダーク・エルフの族長は自嘲気味に口角を上げる。

 

「そんでさぁ。作戦はどーすんの?」

 

 甘ったるい声で、クレマンティーヌが問いかけた。まるで遊びの相談でもする様に。

 

「犯罪者様にしては、随分真面目だな。作戦? そんなもん一つしかねぇだろ」

 

「ふふっ。そうだな」

 

 ヒジカタの言葉に、ダーク・エルフの族長が同意する。

 

「「目の前の敵を、切り続けるだけだ」」

 

 シンプル イズ ベスト。あまりに単純な答えに、流石のクレマンティーヌですら言葉を失う。

 

「そう言う事でしたら、目の前のヒジカタさんを切っても良いって事でさぁね」

 

 ヒジカタの首筋に冷たい刃が当たる。

 

「何で、そうなるんだよ! 切るのは敵だろぉ!」

 

「俺の敵は、ヒジカタさんだけでさぁ」

 

 じゃれ合う二人の聖典隊長を目にし、ダーク・エルフの族長はクツクツ笑う。

 

「そう言やぁ、隊長とか言うヤツがもう一人居たんじゃねえのか?」

 

 ダーク・エルフの族長に言われ、法国の三人はハタと思いだす。そう、この場にはもう一人、聖典の隊長がいたのだ。

 

「おい、犯罪者。お前んとこの隊長はどうした?」

 

 ヒジカタの問いに、クレマンティーヌは苦笑いを浮かべ後方を指差した。そこには、(こうべ)を垂れ、地面に座る漆黒聖典の隊長と第五席次の姿があった。

 

「何やってんだ、アイツら」

 

 首を捻るヒジカタに、クレマンティーヌは愉快そうに顔に半月を形造り

 

「何でもさぁ、話について行けないんだってぇ。笑っちゃうよねぇ。」

 

「はぁ? ドラゴン・ロードがどうとか言ってたエリート様が…………情けねぇ」

 

 そう言ってヒジカタは、葉巻の煙草を地面で消すと、オキタ、クレマンティーヌと共に歩きだす。

 

「オイ、コラァ! なーにやってんだ? このヘタレ共!」

 

「お、お前、達」

 

 虚ろな瞳で、漆黒聖典の隊長はヒジカタ達を見つめる。

 

「あぁ。こりゃダメですぜぇ、ヒジカタさん。こいつら恐怖に飲まれちまってまさぁ」

 

「はんっ これだから坊ちゃん育ちは。………………使えねぇな、こりゃ。」

 

 頭を掻きながらそう言うと

 

「おい、犯罪者。略式だが、今からお前が漆黒の隊長だ」

 

「はぁ? 何言ってんの? バカじゃない?」

 

「オメェさんは知らないかもしれねぇが、戦時で隊長を失った場合、副隊長以上の階級の者、二名以上の許可が下りれば、そいつが隊長の権限を持てるんでさぁ」

 

 ヒジカタの言葉に、オキタが補足を入れる。

 

「あー、そう。そんで、なんでアタシが隊長な訳? 聖典だって来て無いじゃん」

 

 クレマンティーヌの正論に、ヒジカタは溜息を吐き

 

「一応、建前ってヤツがあるからな。法国に戻ってから、漆黒聖典が何もしなかったてのも不味いだろ」

 

「そう言うことでさぁ」

 

「メンドクサ」

 

 ぶっきら棒に呟くクレマンティーヌに、ヒジカタは詰まらなそうに

 

「仕事って言う物はそう言うもんだ」

 

 言い聞かせる様に言葉を紡ぐ。クレマンティーヌはその言葉を受け止め

 

「はぁ。それ前にも陛下に言われたなぁ」

 

 諦めた様に、そう口にする。

 

 その時、前方から声が掛る。

 

「来たぞ!」

 

 悪魔の襲来である。急ぎ三人は前方へと駆け出した。

 

 

 

 

 前線に到着したクレマンティーヌ達の瞳に映った物は、単に言うと波、だった。

 

 黒く蠢く数千と言う悪魔達。

 

 その姿は酷く歪で、まるで姿を変えながら向って来ている様であった。

 

「はーあ。アレに突っ込むのぉ。私は陛下に突っ込まれる方が望みなんだけどぉ」

 

 クレマンティーヌは冗談交じりに軽口を叩く。

 

「こんな時に下ネタかよ。女同士で何言ってやがる、犯罪者の漆黒聖典隊長さんよぉ」

 

 疲れた様にヒジカタが突っ込む。

 

「まぁ、つべこべ言ってても仕方ありやせんぜ。まずは俺達が数を減らしやす。その後は……」

 

「俺達が突っ込む、と言う訳だ。狂犬らしい作戦だ」

 

 オキタの言葉に、ダークエルフの族長が賛辞を贈る。

 

 僅かの沈黙。

 

 全員の口角が上がる。

 

「行くぞオメェら! ダーク・エルフの意地、見せてやれ!」

 

「悪魔ごときで………………ビクトーリア様の剣を止められると思うんじゃねーよ!」

 

「一歩も下がんじゃねーぞ! 火滅の名を汚すヤツは、その首跳ね飛ばす!」

 

「数を減らせぇ! 撃ちまくりやがれぇ!」

 

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 まるで泥の中にでもいる様な感覚に襲われながら、連合軍は剣を振るう。所々で爆発が起こり、赤い炎が地面を晒す。だが、それもすぐに泥に沈む。あちらこちらで黄金の砂粒が舞い、同じだけの赤い霧が立ち込める。

 

「切りが無ねえぞ! こいつら、切っても切っても湧いて来やがる!」

 

 ヒジカタが刀を振りながら叫ぶ。

 

「ははっ。無尽蔵に湧くって言ったのは、オメェらじゃねえか」

 

 息切れ一つなく、悪魔を切り捨てダーク・エルフの族長が答えた。

 

「でもさぁ、こんなんじゃ門には近づけないじゃない」

 

 軽口を叩きながら、クレマンティーヌは踊る様に双刃を振るう。

 

「しかし、ヒジカタさん。このままじゃぁ、ジリ貧ですぜ」

 

 オキタが的確に悪魔を切り伏せながら、冷静に状況を語る。

 

「テメェ、オキタ! 何でテメェが居やがる! テメェらは後方支援だろうが!」

 

「部下には言って来やしたぜ。ぶっ倒れるまで打ちまくれ、って。それに、ヒジカタさんが、あまりにも情けないんで、出張って来やした」

 

「よーし解った。テメェ後で覚えてろよ」

 

「後があったら、お付き合いしやすぜ」

 

 口喧嘩をしながらも、何体もの悪魔を切り伏せる。

 

「こりゃあ、数も数だが、俺達の体力が持たねえかもな」

 

 状況を分析したヒジカタが、ポツリと呟く。

 

「坊主が何言ってやがる。三百五十歳の爺が頑張っているんだ! 若けえなら………………気張って見せろ!」

 

 ダーク・エルフの族長の檄が飛ぶ。

 

「そうですぜぇ、ヒジカタさん。そんなんじゃ、女の一人も喜ばせられねえですぜ」

 

「ホントだよねぇ! 一発や二発で中折れなんて………………ヒジカタ弱ーい!」

 

「オメェら………………戦の最中に、何下ネタ言ってんだぁ!」

 

 そんな軽口を叩き合う面々だが、状況が劣性なのは誰が見ても明らかだった。徐々に軍勢は押し寄せ、何人かの部隊員達が孤立して行く。そして、隊員達が恐怖に蝕まれて行く。

 

 これでは本当に負け戦になる。ビクトーリアの到着まで持たないかも知れない。そんな思いがクレマンティーヌの脳裏によぎった。そして、それが僅かな隙を造った。

 

 背後から悪魔達が迫る。クレマンティーヌは死を覚悟した。只一つ思う事は、ビクトーリアの役に立てずに命を落とす事への後悔だった。

 

 だがその瞬間、クレマンティーヌに迫る悪魔達が消し飛んだ。それも一体や二体では無い。五十、百のレベルでだ。

 

 クレマンティーヌ、いや、場の全員の眼がそこに釘付けとなった。その現象は、その現象を起こした者は、優雅に、何も無かった様にそこに居た。

 

 流れる様な黒髪。そこから生える捩れた角。真っ白な仮面に、見た事も無い衣装。そして、腰から生える漆黒の翼。

 

「ア、アルベド様?」

 

 クレマンティーヌは呟く。仮面の女は振り返り、首を横に振る。

 

「違うわ、クレマンティーヌ。私はリリー・マルレーン。ビクトーリア・F・ホーエンハイム様の妻よ」

 




リリー・マルレーンと言う名は、ビクトーリアがゲーム時代に使っていた偽名です。
その名を、歌と共に口にしたタブラさんによって、アルベドは知りました。

デミウルゴスの放った悪魔達のイメージは、真ゲッターのインベーダーをイメージしています。

感想お待ちしております。

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