OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

86 / 115
光の一撃

「私はリリー・マルレーン。ビクトーリア・F・ホーエンハイム様の妻よ」

 

 そう言うとリリー・マルレーンは、クレマンティーヌから視線を外し、フラッグポールを一凪する。ゆっくりと振るわれた様に見えたソレは、周りの悪魔を巻き込み、数十体の悪魔を砂の粒へと変える。その攻撃は一度では終わらず、二度、三度と猛威を振るう。

 

「おい、ボウズ共。あいつ、リリー・マルレーンとか名乗っていたが、アイツがおめえらの大将か?」

 

 悪魔を切り捨てながら、ダーク・エルフの族長が疑問を口にする。オキタは口を開かずに、ヒジカタに視線を向ける。それを受け、ヒジカタは溜息を吐くと

 

「知らねえ。名前だけは確かにそうだが、だが、ウチの陛下には、角も翼もねえ」

 

「ほう。じゃあ、アイツは何者だ?」

 

「それこそ知らねえ。只、今解るのは……」

 

「ああ。解るのは……」

 

「「勝てる見込みが出て来たって事だ!」」

 

 ヒジカタとダーク・エルフの族長は、重なる様にそう叫ぶと、再び砂粒を舞い上がらせる。

 

 一方リリー・マルレーンは何十、何百の悪魔を砂粒へと変え、それでも減らぬ悪魔に苛立つ様に小さく舌打ちをし

 

「私の……愛して、愛して、愛して、愛して…………ちょー! あいしているビクトーリア様の物に手を出すなんて! 消え去りなさい、このぉゴミがぁ!」

 

 叫びと共に、フラッグポールを地面に叩きつける。その衝撃で、直径約十メートルの地面が陥没し、その衝撃で倍の面積に存在していた悪魔が消し飛んだ。

 

「今だ! 一気に潰せ!」

 

 オキタの号令で、部隊が殲滅に動く。徐々にだが、連合軍に流れが向き始めた。だが、依然悪魔は湧き続け根本的な決定打が打てていないのも事実だった。その様子を呆れた様に見ていたクレマンティーヌだが、後方から迫る羽音の存在に気付く。

 

「チッ! ここまで来て新手かよ!」

 

 焦りの表情を浮かべ、クレマンティーヌは上空に視線を移す。蒼天の空には、無数の巨大な鳥が飛来して来ていた。その鳥達は、まるで得物を狙う様に戦場の上空を埋め尽くす。

 

「あれは…………セイレーン?」

 

 クレマンティーヌが小さく呟く。今の自分達には上への対処法が、ほぼ残ってはいない。魔法の筒(マジック・シリンダー)を扱っていた陽光聖典の隊員達は、ほぼ魔力切れと言っても良い状況だ。悪魔を切り伏せつつ周りに目を向ければ、二人の隊長やダーク・エルフの族長も同じ考えの用だ。リリー・マルレーンだけは、気にも留めず暴れ回っていたが。

 

 

「オイ! 上がヤバイぞ! 魔力が満ちていやがる!」

 

 ダーク・エルフの族長が叫ぶ。人である法国の者達には解らなかったが、魔法に通じるダーク・エルフにはその力の根源が見えていた。

 

 上空のセイレーンから力ある言葉が発せられた。

 

風葬槍(ウインド・ランス)

 

 上空のセイレーン達から風を纏う魔力の矢が放たれた。約二百のセイレーンから、一人当たり五本の矢。地面に突き刺さるその光景は、最早絨毯爆撃と言っても良い物だった。

 

 戦場に土煙が広がる。セイレーン達の攻撃により巻き上げられたソレは、まるで濃霧の様に人も悪魔も包み込む。一寸先も見えない中、徐々に煙が晴れていった。そして、霧がはれた戦場を目にした連合軍の面々は目を見開く。魔法の矢に穿たれていたのは、悪魔達だけだったのだ。

 

「お、おい。これは一体?」

 

「解らねえ」

 

 ダーク・エルフの族長の問いに、ヒジカタは答えられなかった。いや、この場に居る全員が答えられなかった。そんな一瞬の静寂が訪れた荒れ地に、一体の鳥が舞い降りた。雀の様な、茶と白の羽を持つ魔物が。

 

「ご無事でしたか? どうやら間に合った様ですね」

 

「て、てめぇらは一体?」

 

 ヒジカタの問いに、鳥の魔物は丁寧に腰を折ると

 

「私はニケと申します。煉獄の王の勅命により、セイレーン二百と共に参戦致します」

 

「煉獄の王だと? それでアイツは? 陛下はどこに?」

 

 矢継ぎ早に問うヒジカタに、ニケはニッコリと微笑みで返し、一点を指差す。連合軍全ての者が目にした。門へ向け、上空から一粒の砂金が舞い落ちる様を。そして、恐怖した。一粒の砂金が起こした、圧倒的な暴力に。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 砂粒と血煙の舞う戦場の遙か上空に、その者達は居た。

 

 白き翼を持つ者。セイレーンの族長、サイレン。

 

 そして、黄金の輝きを放つ神話。煉獄の王 ビクトーリア・F・ホーエンハイム。

 

「陛下。そろそろだ」

 

 サイレンは眼下の門を瞳に映し、ビクトーリアに告げる。

 

「うむ。ご苦労じゃったな、また子よ」

 

 礼の言葉を口にし、ビクトーリアはサイレンの足を手放した。

 

「うぬは、皆の下へ。指揮は任せる」

 

「承知」

 

 その言葉を最後に、サイレンは戦場へと飛び立ち、ビクトーリアは自重落下を始める。

 

 ビクトーリアの黄金の瞳に、転移門が大きく映る。それを見つめ、ニヤリと笑みを浮かべると

 

「超位魔法――」

 

 その瞬間、転移門を中心に、多重魔方陣が展開した。

 

illminati(イルミナティ)(我は光となり、全てを滅する)!」

 

 力ある言葉と共に、ビクトーリアの身体は、黄金の弾丸となり、転移門と激突する。戦場が光に包まれ、僅かに遅れ轟音と爆風、そして衝撃波が襲う。再び濃霧の様な土煙が舞い、それが晴れた時、全員が眼にした物は………………何も無くなった大地に、悠然と優雅に、そして威風堂々と立つビクトーリアの姿だった。

 

 深紅のドレスを揺らし、金色の髪をなびかせ、手に持つフラッグポールの旗が揺らめく。ビクトーリアはフラッグポールの石突で地面を一度叩き

 

「新たなる日の始まりである! 祝福の叫びを挙げよ! 煉獄の王 ビクトーリア・F・ホーエンハイムが命じる! 悪魔の残党を殲滅せよ! 一匹残らず塵と化せ!」

 

 高らかに鬨の声を挙げた。

 

 その言葉によって、力を取り戻したかの様に、兵士達は立ち上がり、悪魔の残党へと向かって行く。

ビクトーリアはその光景を、勇士を満足げに見つめると

 

「出てこい。居るのであろう?」

 

 何も無い方向へと言葉を掛ける。その言葉に呼応する様に空間が歪み、人型の悪魔が姿を現す。デミウルゴスが直々に召喚した三体の魔将(イビルロード)の内の二体。

 

 蝙蝠の羽に、鍛え抜かれた身体。赤い髪に、目元を仮面で隠した強欲の魔将(イビルロード グリード)

 

 肉感的な女性の身体に、鴉の様な顔を持つ、嫉妬の魔将(イビルロード エンヴィー)

 

 二体の魔将が、ビクトーリアと対峙する。

 

「ふん。憤怒の魔将(イビルロード ラース)は居らぬ様じゃな。この程度の悪魔で、妾の足止めか? 舐めおって、クソガキ。いや、バラガキが!」

 

 ビクトーリアは地面を蹴り、強欲の魔将(イビルロード グリード)へとフラッグポールを振るう。その一撃を強欲の魔将(イビルロード グリード)は何とか得物の鎌で受け止めるが、Lvの差、とでも言えば良いのか、鎌の柄は砕かれその身に一撃を喰らう。一撃で強欲の魔将(イビルロード グリード)の右腕を切断し、その勢いのまま胴を両断する為にフラッグポールを右上方へと走らせる。

 

 その隙、とでも言う様な一瞬の残心を見逃さず、嫉妬の魔将(イビルロード エンヴィー)が背後からビクトーリアに襲いかかる。だがその行動は、すんでの所で阻まれた。嫉妬の魔将(イビルロード エンヴィー)の身体は二つに分かれ、遙か後方に弾き飛ばされその身体を地に横たえた。

 

「下等な悪魔の分際で、私の旦那様に襲いかかろうなんて………………死になさい」

 

 ビクトーリアは強欲の魔将(イビルロード グリード)の胴を両断し、ゆっくりと立ち上がり援護の者へと振り返る。

 

「………………アルベド?」

 

「はい。ですが、今の私はリリー・マルレーン。もう一人のビッチ様ですわ」

 

 そう言って妖艶に微笑んだ――――気がした。

 

 アルベドの発言に、ビクトーリアは頭を抱えたい気分になった。コイツは何を言っているんだと。

 

 だが、すぐにそんな気持ちは消え去り、妙な楽しさと言うか、可笑しさが込み上げて来た。

 

「かかっ! くくっ! あはは! そうか、妾が二人か………………煉獄の王 ビクトーリア・F・ホーエンハイムと、黄金の魔女 リリー・マルレーン。ならば負ける気がせんな。覚悟せえデミウルゴス。妾二人、止められると思うなよ」

 

 そう言ってビクトーリアとリリー・マルレーンは、戦場から姿を消した。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 遠くから戦場を確認していたデミウルゴスの前に、突然その者達は現れた。

 

「!」

 

 勝利へと向かっていた戦いを一気に覆したイレギュラー達。ビクトーリアとリリー・マルレーンである。

 

「あなたですか。邪魔をしたと言う事は、あなたはアインズ様と敵対すると言う事ですね」

 

 眉間に皺を寄せ、苛立ちを隠さずデミウルゴスは言い放つ。

 

「敵対? 何を言うておるのじゃキサマは。妾は最初からアインズの敵じゃぞ。何時の日にか、妾はアインズを殺す!」

 

 衝撃的な言葉だった。隣で聞いていたリリー・マルレーン、いや、アルベドですらその言葉に恐怖した。だが、それは一瞬で溶けて消えて行く。

 

「妾の友は、アインズ・ウール・ゴウンなる人物では無いわ! 妾の友は、私が守る友は、モモンガ一人じゃ!」

 

 アルベドは理解出来た。

 

 だが、デミウルゴスには理解出来なかった。

 

 それは何故か?

 

 それは、アインズ・ウール・ゴウンと言う人物と、モモンガと言う人物を分けて考える事が、認識する事が出来なかったからだ。

 

 デミウルゴスの横の空間が歪み、一体の悪魔が姿を現す。三魔将の最後の一人。

 

 憤怒の魔将(イビルロード ラース)である。獣の様な身体のあちらこちから炎が噴き出している。

 

 ビクトーリアは、意地の悪い笑みを浮かべながら

 

「アレの相手、頼めるか? リリー・マルレーンよ」

 

 その言葉を受け取り、リリー・マルレーンはビクトーリアから距離を取ると

 

「我が名は、黄金の魔女 リリー・マルレーン。下等な悪魔よ、私に相手をして貰える事を、光栄に思いながら死になさい」

 

 静かに、そして優雅に、流れる様に口状を口にし、フラッグポールの石突を鳴らす。

 

 それが合図となり、二つの戦いが口火を切った。

 

 フラッグポールを振り下ろすビクトーリアに、デミウルゴスは剣の様に伸ばした爪で応戦する。悪魔の諸相 鋭利な断爪。デミウルゴスが持つスキルの一つである。お互いの得物が火花を散らせる。だが、負けたのはデミウルゴス。その結果が納得行かなかったのか、デミウルゴスは珍しく感情を爆発させる。

 

「あなたは、何故私の邪魔をするのです!」

 

 言い放つデミウルゴスに、ビクトーリアは怒りの形相を向け

 

「気に入らんからじゃ! 我が友の行く道を、覇道で塗り固め様とする、キサマらの行いが!」

 

 再び二人は激突する。

 

 




オリジナルとして、魔女の夜明けの執筆を始めました。
相当な亀更新となりますが、宜しければ読んで見て下さい。

さて、こん章もあと僅か。
感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。