OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿
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心の内

 自身の前に立つ異形の者、リリー・マルレーンに対し、憤怒の魔将(イビルロード ラース)は奇妙な違和感を覚えていた。自分の姿を見、存在を知覚しながら目の前の者は、何の恐れも無く只そこに居るのだ?

 

「誰だ? お前、は?」

 

 憤怒の魔将(イビルロード ラース)の低い声が響く。

 

「あなた如きゴミが知る必要はないわ。只一つ、覚える事は、私はリリー・マルレーン。頂上の者と言う事だけよ」

 

「舐める、な。獄炎(ヘル・フレイム)

 

 憤怒の魔将(イビルロード ラース)の力ある言葉に呼応し、リリー・マルレーンの身体に黒い炎が絡みつく。それは、徐々に勢いを増し、終には丸い球体となりリリー・マルレーンを飲み込む。

 

「グハハハハハ! 矮小な者よ、我が力の前にひれ伏すがいい!」

 

 憤怒の魔将(イビルロード ラース)は勝ち名乗りを挙げる。

 

 だが、その声はすぐに驚愕の物へと変化いた。目の前の黒炎が霧散したのだ。いや、そうでは無い。リリー・マルレーンが振るったフラッグポールの一撃で掻き消されたのだ。

 

「この程度の炎で勝利者宣言とは……度し難い程の無知ね。その程度では、この身に纏う月詠の耐性は、抜けはしないわよ」

 

 

――タブラ・スマラグディナの製作した、アルベドの決戦装束。花魁の様な艶やかさを形作る衣装の名は“月詠”。その効果は、物理耐性、支配、呪いなどに対しての精神耐性、炎、令気などの各種耐性。

そして、一番の特徴は………………帯電――

 

 

 リリー・マルレーンは地面に落ちていた小石を拾い上げると、嬉しそうに笑い声を漏らし

 

「くふふっ。こう言う使い方も出来るのよ」

 

 そう呟き、指で小石を弾いた。何気ない行動に油断し、憤怒の魔将(イビルロード ラース)は無防備でそれを受けた。結果は………………左腕が根元から消失していた

 

超電磁砲(レールガン)と言うらしいわ。ビッチ様から御教え頂いた物よ。そうね、これ以上旦那さまからの贈り物を、煤で汚すのも忍びないわね」

 

 リリー・マルレーンは左手で仮面を剥ぐ様に撫でる。その行為に追従する様に、仮面は姿を消した。

 

 その事で、憤怒の魔将(イビルロード ラース)は全てを悟った。今、自分が相対している人物が誰なのかを。

 

「ア、アルベ――」

 

「黙りなさい」

 

 憤怒の魔将(イビルロード ラース)が、名を口にしようとした瞬間、リリー・マルレーンのフラッグポールが、憤怒の魔将(イビルロード ラース)の身体を横に薙いだ。二つに分かれ、宙を舞う憤怒の魔将(イビルロード ラース)の身体に、連檄で再度フラッグポールを振るう。その軌道は縦。結果、憤怒の魔将(イビルロード ラース)の身体は十時に切り裂かれ、砂の粒と消えた。

 

「さて、こちらは片付きましたわ。あちらの方は………………くふっ、恐怖をその身に刻みなさい、デミウルゴス」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「覇道の何がいけないのです! アインズ様こそ至高の支配者! 世界を統べるに相応しい御方なのです!」

 

 デミウルゴスは激昂し、腕を巨大化させ――悪魔の諸相 豪魔の巨椀――ビクトーリアへと殴り掛る。ビクトーリアは苛立ちを顕にしつつ「馬鹿者が……」と小さく呟くと、身体を回転し攻撃をかわすと

 

「あの小市民が、そんな孤独に耐えられる訳が無かろうがぁ!」

 

 言葉と共に、デミウルゴスの顔面に拳を叩きつける。いや、打ち抜いた。

 

 その衝撃で、デミウルゴスの赤いスーツが土に塗れる。

 

「キサマは、キサマらは解っておらぬ。何も理解しようともしておらぬ。至高の支配者? 最後まで残った心優しき御方? はぁ? 笑わせるな! キサマらの助言が、あ奴にどんな影響を及ぼした! リザードマンの村を滅ぼし、アンデッドの作成研究じゃと? フザケルな! そうやってキサマらは、アインズの中から妾の友を、四十人が愛した友を、モモンガを消し去って行くのじゃ! なれば妾は敵となる! 何度でもキサマらの計画を潰してやる! それでも止まらぬなら………………ナザリックごと、キサマらを消し去ってやるわ!」

 

 激昂するビクトーリアの瞳には、涙が浮かぶ。

 

 ビクトーリアは好きだった。

 

 寂しさを内に秘めながらも、笑うモモンガが。

 

 楽しそうに話す仲間達を、一歩離れて眺めている時の楽しそうなモモンガが。

 

 そして、仲間の事を語るモモンガが。

 

 だからこそ言う、モモンガと、友と日の下を歩く事が出来るのならば、どんな物でも破壊する。それが、世界の常識でもだ。それが、世界を敵に回す事になってもだ。

 

 デミウルゴスは、話を聞きながらゆっくりと身体を起こす。だが、起こした片膝に重みを感じる。自身の右ふともも、その場所には黄金のグリーブがあった。デミウルゴスは、ビクトーリアによって立ちあがる事を阻止されたのだ。

 

「な、何を?」

 

 デミウルゴスは焦りを浮かべ、短い言葉を口にする。

 

「あほうなクソガキには、躾が必要じゃろう?」

 

 そう答えたビクトーリアは、デミウルゴスのふとももを踏み台の様に利用し身体を浮かせると、空いた右足を上空へと投げだし………………踵落しの要領でデミウルゴスの頭部を撃ち抜いた。

 

 スコーピオン・ライジング。

 

 その攻撃によって、デミウルゴスの意識は刈り取られた。

 

「終りましたね、ビクトーリア様」

 

 後ろからリリー・マルレーンが、いや、アルベドが語りかけて来る。その表情は落ち着いた様を伺わせながらも、恐怖の色を含んでいた。自分達がいかに主人の、アインズの心を考えていなかったのか諭されたためだ。

 

「うむ。すまぬがこ奴を桜花聖域に運んでくれ。妾の頼みじゃと言えば、オーレオールも受け入れてくれるじゃろう。それと、内密にペストーニャを呼び治療を。あと、これが最重要なのじゃが、今回の事、決してモモンガにばれてはいかんぞ。………………それとアルベド」

 

「は、はい」

 

「うぬも同様じゃ。もし、今後もう一度モモンガに害を成す様ならば、うぬとて消し飛ばすぞ」

 

 

「か、畏まりました」

 

 若干の震えを含みながらそう言うと、眼前に出現させたゲートの魔法に、デミウルゴスを引き吊りながらアルベドは消えて行った。ビクトーリアはそれを見送り、疲れた様な溜息を漏らすと

 

「少し、言い過ぎたかなのう。しかし、酷い扱いじゃ。あれは、相当溜まっていたと見える」

 

 楽しげに微笑むのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

~ナザリック地下大墳墓 第八階層 桜花聖域~

 

 まどろみの中、デミウルゴスは声を聞いた。自分に周りで、何人かの人物が話している様だった。

 

「これ、デミウルゴスよ、返事をせんか!」

 

 これはビクトーリアの声の様だ。

 

「全く。あれほどの事を、不敬を働きながら、ダンマリとは!」

 

 アルベドの声に聞こえる。

 

「ほんとうだねぇ」

 

「ふけいだよねぇ」

 

 子供の声。

 

 デミウルゴスはゆっくりと、その宝石の瞳を外気に晒し、声のする方へと視線を巡らせる。だが、自分を呼ぶ声の主達は自分の方には向いては居なかった。自分に背を向け、下の方、畳に向かって話しているのだ。

 

「そろそろ起きても良い頃なのじゃがなぁ」

 

「ええ。ペストーニャの話でもその様で……」

 

「「なんでかな? なんでかな?」」

 

 全員が心配そうに声を掛けている。子供達はどうやら、オーレオールの僕達の様だ。

 

「しかし、そもそもこ奴には口が無いのじゃから、話すのは無理かものう」

 

 そう言うビクトーリアに

 

「そうですわねぇ。ウルベルト様も酷な事を」

 

「「ほんとだね。ほんとだね」」

 

 アルベドの言葉に、オーレオールの僕達が同意する。

 

 一体何が起こっているのか? デミウルゴスには理解出来なかった。デミウルゴスは、一度ゴクリと喉を鳴らし、声が出る事を確認すると恐る恐る声を出す。

 

「あ、あの。君達は何をやっているんだね」

 

 その声に反応して、オーレオールの僕達が振り向いた。そして、発せられた言葉は

 

「ビッチさま。めがねかけきがおきたよ」

 

「おきたよ!」

 

 その言葉に対しビクトーリアは

 

「ああ、気にせんでも良い。眼鏡掛け機は頑丈じゃからな。心配なのは、デミウルゴスじゃ」

 

 そう言いながら依然畳を見つめている。一体何を言っているんだ? デミウルゴスは、ビクトーリアの視線を辿る。そこには、良く見知った物があった。自分のサングラスが。

 

「でもすごいよね! めがねがほんたいだなんて!」

 

「すごいよね! すごいよね!」

 

「ええ本当に。まさか、デミウルゴスの本体がサングラスの方だったなんて」

 

「!」

 

 デミウルゴスに衝撃が走る。彼らは一体何を言っているのか、と。

 

「これはアレじゃな。彼奴はサングラスを掛けた悪魔じゃのうて、悪魔を掛けたサングラスじゃった、と言う訳じゃ」

 

 その瞬間、(ふすま)が開けっぱなしの隣室から、大爆笑の声が響く。その方向に視線を向けると、あの貞淑さではナザリック一のオーレオールが腹を抱えて笑い転げていた。畳の上を転がり回り、時には畳を叩きながら。

 

 そして、視線をビクトーリアへと戻すと………………いやらしい満面の笑みが。デミウルゴスは理解した。いや、やっと理解出来た。自分はからかわれていたのだと。ビクトーリアはサングラスを手に取ると

 

「ほれ眼鏡掛け機よ、本体と合体じゃ!」

 

 声高らかに、そう口にする。

 

 デミウルゴスは震えながらサングラスを受け取ると。ゆっくりと、位置を確かめる様にそれを掛け

 

「何をやっているのですか、あなたと言う人は!」

 

 プライドが傷つけられ、デミウルゴスは激昂する。だが、ビクトーリアは涼しい顔でデミウルゴスに近づくと

 

「何を怒っておるのじゃ? これで許してやると言うておるのじゃ、感謝せえ」

 

「は?」

 

 今までとは打って変り、ビクトーリアは真面目な表情を浮かべ

 

「今回の件、決してモモンガに、アインズに知られてはならぬ。僕同士が、それも妾を加えての大喧嘩など、あ奴の小さな小さな肝が耐えられるはずがないからのぅ。それに………………妾の腹の中を知ったのじゃ、手伝ってもらうぞ、デミウルゴス。アインズを殺し、モモンガを守る、そして、ナザリックを外に出す計画をのう」

 

 ビクトーリアの言葉に、デミウルゴスは身が震える思いだった。ナザリックを外に出す。それはすなわち、ナザリックによる世界統一と言う事なのだとデミウルゴスは考える。

 

 煉獄の王と不死者の王。二人の王が協力し合うのならば、それは不可能では無い。矮小な自分が考えるよりも、もっと効率の良い手段で。デミウルゴスは、痛む身体に鞭を打ち起き上がると片膝を付き

 

「煉獄の王 ビクトーリア・F・ホーエンハイム様。ナザリック 第七階層守護者 デミウルゴス、モモンガ様とビクトーリア様に、永遠の忠誠を」

 

 誓いの言葉を口にした。

 




あらすじの場所にて、掲示してあるイラストが、ロゴ付きの物に変えました。
描いてくれたドミニク様に感謝を。
そして、読んで頂いている皆様、好きだと言って下さる皆様に感謝を。

感想お待ちしております。





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