OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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アインズ様のセリフ、一部変更致しました。


戦後報告~ナザリック篇~

 桜花聖域で目覚めた翌日、デミウルゴスは緊張感に苛まれながら第九階層の廊下を歩く。

 

 そして、あるドアの前にたどり着くと、ネクタイを正し、さらなる緊張感を持ってドアをノックする。すぐにドアが開かれ、本日のアインズ様当番のメイドが顔を出した。用件を伝えると、すぐに許可が下りデミウルゴスは部屋の中へと歩を進める。

 

「どうしたのだ? デミウルゴ――」

 

 デミウルゴスと言おうとしたアインズの言葉が途中で止まる。その理由は、デミウルゴスの姿にあった。

ビクトーリアの職業(クラス)による効果で、一部の傷が治っていないのだ。端的に言えば、殴られた頬の腫れが。

 

「ど、どうしたのだデミウルゴス! お、お前、その顔……」

 

 アインズは驚きを顕にする。後半、演技を忘れるほどに。

 

 デミウルゴスは苦笑いを浮かべながら事のあらましを説明する。もちろん、かなりぼかしてだが。

 

「ふむ。お前が先日提案した現地亜人のLv調査において、少々やり過ぎて、プッ、ビッチさんに、ププッ、怒られ、プププッ。殴られた、と?」

 

「はい」

 

 アインズの言葉に、デミウルゴスは(こうべ)と尻尾を下げ、小さな声で返事を返す。その返事が呼び水となったかの様に、アインズは大爆笑とも言える笑い声を挙げる。それは、何度も何度も沈静化を繰り返しながら十分程続いたのだった。

 

「あー、いや、すまんな、デミウルゴス。お前の受けた罰が、あまりにもウルベルトさんと似ていてな」

 

「ウ、ウルベルト様とですか?」

 

 デミウルゴスの問いに、アインズは顎に指を当て暫し考える様な仕草をした後

 

「あれは何時だったか、ウルベルトさんが人間、そう人間に宣戦布告をしたのだ」

 

「おお!」

 

 デミウルゴスが感嘆の声を挙げる。

 

「その時、攻撃の手段として使ったのが、第十位階の最終戦争 悪(アーマゲドン・イビル)でな、無秩序な悪魔の軍勢に人間を襲わせたのだ」

 

「流石はウルベルト様」

 

「だがな、一つ誤算があったのだ」

 

「!」

 

 デミウルゴスの顔に、緊張が走る。

 

「その人間達は、初心者………………非常にLvの低い者達でな、うっかり全滅させてしまったのだ。その時、たまたま居合わせたビッチさんに、殴られたそうだ。やり過ぎだ、馬鹿者! と言う言葉と共に、な。」

 

 そう言うアインズは、酷く楽しそうで

 

「ナザリックに帰還したウルベルトさんを見て、皆で笑った物だ。何せウルベルトさんのHPは、一桁まで削られていたのだからな」

 

 言葉を聞き、デミウルゴスからは冷や汗が流れる。まさか、親子共々同じ失態を犯し、同じ理由で叱られたのだから。

 

「ははっ」

 

 最早、デミウルゴスからは乾いた笑いしか出て来なかった。穴があったら入りたい。まさに、そう言う心境だった。

 

「おっと、話が逸れたな。それでデミウルゴス、用件は何だ?」

 

 アインズの軌道修正に対し、デミウルゴスはうやうやしく腰を折ると

 

「はい、アインズ様。ダーク・エルフ、ダーク・ドワーフ共に、リザードマンとの差異は感じられませんでした。しかし、ごく一部の者は脅威になる可能性を秘めておりました。」

 

 デミウルゴスの報告に、アインズは一度頷き「そうか」と了承の言葉を口にする。だが、デミウルゴスの報告はそれだけでは無かった。

 

「それとスレイン法国の事なのですが……」

 

「うん? あの国がどうした?」

 

 アインズの問いに、デミウルゴスは表情を引き締め

 

「彼の国は、ビクトーリア様が責任を持って見守る、との事で………………」

 

「どうした? 遠慮せずに言え」

 

 アインズからの許しを受け、デミウルゴスはビクトーリアからの伝言を口にする。

 

「もし、干渉しよう物ならば、そのあばら骨でギロの演奏会を開催してやる! と」

 

「えーー」

 

(あいつの事だ、やると言ったら、絶対にやる。俺のあばらがギロになるどころか、頭蓋骨を打楽器に、掌をカスタネットに、足の裏をシンバルと化し、世にも奇妙な不協和音の演奏会を開始する。)

 

「そ、そうか。では、法国はビッチさんに任せよう。………………それにしても……デミウルゴス、お前は何時からビッチさんに敬意を払う様になったのだ?」

 

 アインズの問いにデミウルゴスの心拍が跳ね上がった。それどころか、大量の汗が額を伝い、本体、もとい、サングラスの中で目が泳ぐ。それはそれは縦横無尽に。誰も居ない巨大な露天風呂で、一人大はしゃぎする子供の如く。デミウルゴスは、ゆっくりと本体、いや、サングラスの位置を直すと

 

「ははっ。何を仰いますかアインズ様。私は最初からビクトーリア様を敬愛申し上げてりますよ。ははっ、ははっ」

 

 ぎこちない言葉と共に、デミウルゴスは乾いた笑いを浮かべる。

 

(あー、これは、ずいぶんこっぴどくやられたなぁ。一度火が付くと、ビッチさん手加減しないからなぁ。ウチのギルドで、ビッチさんにやられていないのは………………やまいこさんくらいかぁ。後で、ねぎらってやら無いとなぁ。見ているコッチが可哀そうになって来るよ)

 

 そんな思いを胸に秘め、アインズは右手を僅かに挙げると

 

「御苦労だったデミウルゴス」

 

 この言葉で報告会は終了となった。

 

 アインズの部屋を出たデミウルゴスは、礼を持って扉を閉め、十メートル程廊下を歩くと、壁に寄りかかる様に蹲る。その弱り切ったデミウルゴスに、二つの影が近付く。

 

「あれ? デミウルゴスじゃん。どうしたの!」

 

「あ、あの、大丈夫、ですか?」

 

 第六階層守護者、アウラとマーレであった。デミウルゴスは、声のする方へとゆっくりと振り向き。

 

「あぁ。あなた達、でしたか」

 

 そう言うデミウルゴスを、二人は憐みの瞳で見つめる。今のデミウルゴスは、なんかもう、疲れ果て幾分げっそりとして見えたからだ。

 

「何があったのさぁ」

 

 アウラが代表して聞くが、デミウルゴスは首を横に振り

 

「同じ階層守護者として忠告します。あの方には、ビクトーリア様には決して逆らってはいけませんよ」

 

「え? それってどう言う――」

 

 再び問いかけるアウラの言葉を遮る様に

 

「あの御方は、我々の創造主そのものですよ。私は言葉を聞き違えていました。ビクトーリア様の仰った血肉を食らったと言う御言葉は、咎などでは無く、私達の創造主、ウルベルト様やぶくぶく茶釜様の、心と意思を受け継いだ、と言う事だったのですよ」

 

「「ええーー!」」

 

 双子の声が重なる。

 

「覚えておいて下さい。ビクトーリア様には、私達の創造主様の意思が、思いが、宿っているとぉぉぉーーー」

 

 その言葉を最後に、デミウルゴスは意識を手放した。ここ数日の心労ゆえに。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ビクトーリアは、久々に我が家とも言える星青の館に戻って来ていた。御供の者は居なく、いや、恐らくタナトスはいるだろうが、連日の激務の疲れを癒すために、二日程ダラダラすると決めていた。ちゃっかりと法国の食糧蔵から、酒を拝借すると言う事も忘れずに。

 

 懐かしき我が家を見つめ、そのドアのノブを回し、扉を開く。後は適当な肴を用意して、自室でのんべえを気取るのみ。そんな晴れやかな気分で、屋敷に一歩踏み入れる。

 

「あら? いらっしゃいませ」

 

 聞き覚えの無い声がかけられた。そして、その物と視線が交差する。箒を持ち、メイド服を身に纏った、白い蜥蜴と。

 

 ビクトーリアは「おじゃましました」と小さな声で告げ、ゆっくりと扉を閉めると、脱兎の如く駆け出した。近隣の木の陰に身を潜め

 

「モモンガァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」

 

 呪文を介しての大絶叫を伝えた。

 

『ノウォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!』

 

 そいて、受けた方も驚きの声を上げる。

 

「モモンガ! モモンガ! モモンガ! モモンガァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」

 

『え? ビッチさん? どうしました?』

 

「モモンガ! モモンガ!」

 

 どうにも要領を得ない。アインズは溜息を一つ吐くと、対ビクトーリア用の魔法の呪文を口にする

 

『落ち着け駄巨乳! やまいこさんに連絡するぞ!』

 

「す、すいません! もうしません!――――あれ?」

 

『落ち着きましたか?』

 

「う、うむ」

 

『それで、どうしました?』

 

 アインズの問いに、ビクトーリアは一度喉を鳴らし

 

「あのね、わたしの家にね、白くてね、でっかいね、ウーパールーパーみたなのがいるの。そんでね、メイド服着てね、掃除してるの。それでね、いらっしゃいませって、いうの! どーゆうこと! どーゆうこと! 説明せんかい! クソボッチ骸骨がぁ!」

 

 ビクトーリアの絶叫を聞きながら、アインズは「ああ」と思い出す。リザードマンの適性を見る為に、色々な仕事をさせていた事に。ビクトーリアにすぐに行くと伝え、アインズは転移の指輪を発動させた。

 

 

 

 アインズが館に到着した時、ビクトーリアは未だ木の陰に隠れていた。あの魔女と呼ばれた者が、まあ可愛らしい事で。記録用のスクロールを持って来ていない事が、悔やまれる様な姿であった。

 

「ビッチさん」

 

 アインズは思い切って声を掛ける。錯乱状態なら、いきなり襲って来る可能性も考慮しつつ。聞きなれた友の声に、ビクトーリアはゆっくりと視線をそちらに向ける。

 

「モ、モモンガ?」

 

「ええ。今はアインズですが」

 

 そう答えるアインズの声など聞いていないと言うばかりに、ビクトーリアは館を指差す。アインズは一度頷くと、館へと消え、扉が開いた時には、あの珍獣と共にいた。

 

「ビクトーリアよ。この者はクルシュ・ルールー。リザードマンだ」

 

「へ?」

 

 アインズの言葉に、クルシュは驚いたように瞼をパチクリさせると、一歩前へと出

 

「ビクトーリア様、この度は我らリザードマンの命を御救い頂き、全部族を代表し感謝を」

 

 そう言ってペコリと頭を下げた。

 

 だが、そう言われても、ビクトーリアには身に覚えが無い。

 

「あのー、モモンガさんや。」

 

「アインズです」

 

「そのアインズですさんや、この人は何を言っておるのじゃ」

 

 困惑するビクトーリアに、アインズはテラスの椅子に座る様に進め、お茶を入れて来たクルシュと共にリザードマンの村での経緯をビクトーリアに語って聞かせた。

 

「ほう。あのコキュートスがのう」

 

「ああ、私も驚いた物だ。まさか、土壇場になって計画の変更を告げられるとはな」

 

 クルシュの前であるからか、アインズは支配者モードで会話を続けている。

 

「では、うぬが貸したアンデッドの軍勢は?」

 

「結局は一度も戦闘せずに終わったな」

 

 そう言って「ふふふ」と笑う。その笑い方が支配者の笑いだと思っているのだろう。ビクトーリアは思いっきり茶化してやろうかと思ったが、クルシュの手前止めてあげる事にした。自分の優しさに感謝しろと思いながら。

 

「それで?」

 

 ビクトーリアが先を促す。

 

「ああ。何度かの示威行為によって、彼らの緊張感と危機感を高め、最後の詰めとして私も使われたのだよ。ふふふ、素晴らしい成長だろう?」

 

「ほう。それが最後の引き金となって、同盟状態だったリザードマン達は、一致団結した訳じゃな」

 

「ああそうだ。その後で、コキュートスは一族の代表を選ばせ戦った」

 

「成程のぅ。して、被害は?」

 

「死亡者三名、だな」

 

「怪我人を含めると?」

 

 ビクトーリアが尋ねると、アインズは顎に手をやり、暫し考えた後。

 

「最初に行った宣戦布告の混乱で五十名程と聞いている。まあ、ほとんどがかすり傷程度だがな」

 

 それを聞いたビクトーリアは、ティーカップに口を付けると

 

「死した者達は?」

 

「うむ。三人の内の一人は、全リザードマンの族長として、彼の村にいる。他の二人は……」

 

 今まで流暢に話していたアインズが言い淀む。ビクトーリアに嫌な予感が湧きあがる。一体何をしたのだろうか? まさか本当にアンデッドの製作実験を?

 

「あー、そのー、ハムスケと修行しています」

 

「は?」

 

「ですから、ハムスケと修行中です」

 

「ハムスケ。ハムスケ。ああ、モモン専用のメリーゴーランド!」

 

「やーめーてー!」

 

 結果を言えば、リザードマンの村への襲撃に対し、コキュートスが猛烈に反対したため、アインズは全ての作戦をコキュートスに一任した。そしてコキュートスは、自身の強さを見せつけ、繁栄を対価とし支配下に入る事を要求したのだと言う。そしてリザードマンの村は、ほぼ無血開城の体を見せ、無事ナザリックに併合されのだ。

 

「成程。見事な采配じゃったな」

 

 そう言うビクトーリアを見、アインズは僅かに笑みを浮かべ

 

「ビッチさんの入れ知恵でしょ。コキュートスから聞きましたよ」

 

 モモンガの口調でからかう様に言葉を投げかける。

 

 それに照れたのか、ビクトーリアは頬を掻き立ち上がる。

 

「さてと、妾は二日程自堕落に暮らすからの。決して邪魔をするではないぞ!」

 

 そう宣言して館へと消えて行った。

 

「面白いヤツであろう?」

 

 アインズはクルシュへと言葉を掛ける。

 

「はい。それに、とても照れ屋なんですね」

 

 そう言って二人は笑うのだった。

 

 ビクトーリアは照れ隠しからか、若干憤慨した様に自室のドアを開ける。

 

「まったく! あ奴らは揃いも揃って妾で遊びよって」

 

 文句を口にしながら入室し、ドアと向き合い閉じようと腕を前へと伸ばす。その瞬間、後から誰かに抱きつかれた。

 

「誰!」

 

 瞬時に攻撃に移ろうとした時、聞きなれた笑い声が聞こえた。

 

「くふぅぅ」

 

 ビクトーリアの背筋に冷たい物が流れる。自分の記憶が確かならば、この声は性欲の権化。愛欲の通い妻。守護者統括 アルベドの物だ。

 

 ゆっくりと後ろに視線を向けると、予想通りの者が居た。それも全裸で。

 

 そしてその者は、ゆっくりと、ジリジリと自分をベッドの方角へと引きずって行く。ビクトーリアは床に這いつくばり、腕の力で脱出を試みる。

 

「照れなくても宜しいですわ。夫婦ですもの。くふぅぅ。さあ、ア・ナ・タ」

 

 外へと伸ばされたビクトーリアの腕は、徐々に自室へと引き吊り込まれ………………ドアが閉じた。

 

 その時、一階エントランスに飾られた花が一凛ポトリと落ちたのだった。

 

 

 

 

「あっ! そう言えば」

 

「どうしたクルシュ?」

 

「アルベド様がいらしている事を、お教えするのを忘れていました」

 

 




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