微エロ表現あり。
ビッチと金の鳥 前編
ビクトーリアは必死にカーペットを掴む。だが、その行為は虚しい抵抗でしか無い。ドレスの留め具は、すでに
そして、その肌を
「くふぅ。ビッチ様、期待してくださいね。私、初めてですが、満足頂ける様頑張りますので」
ここで負ければ、快楽と引き換えに何かを失う。いや、失うと言うよりこのまま堕ちて行く。堕落して行く。そう思いながらも、七割方色香に流されて行くビクトーリアに、救いの手が差し伸べられた。それはもう、元気良く。
「ビクトーリア様ぁ! お時間良いですか!」
妖艶で淫靡な香りしか存在しなかった寝室に、明るい日差しが差し込んだのだ。
遠慮なくドアを開け放った存在。それは、第六階層 階層守護者 アウラ・ベラ・フィオーラだった。
そのアウラが、一歩踏み込んだ部屋で展開されていた大人のプロレスごっこ。その光景を視界に納めると、愛らしい顔を一瞬引きつらせ、ゆっくりとドアを閉じる。だが、その行動は阻害された。一歩前に出した右足を、ビクトーリアがガッチリと掴んでいた為である。アウラは、ゆっくりと視線を下に向ける。そこにあったのは、快楽からか頬を赤く染め、荒い息を吐きながら、瞳に涙を湛えたビクトーリアの姿。アウラは、溜息を一つ吐くと、
「アルベドさぁ、いい加減にしたら。ビクトーリア様、ビックリしてんじゃん」
声を掛けられ正気に戻ったのか、アルベドはビクトーリアの瞳を見つめる。その潤んだ瞳を。
「ビッチ様………………可愛いです! くふー!」
言葉と共にアルベドは、ビクトーリアの唇にむしゃぶりつく。時には啄む様に、舌をビクトーリアの口内に侵入させて情熱的に口付けを交わす。アウラは両手で目を隠し「わー」と呆れ気味の声を上げている。ビクトーリアは朦朧とする意識の中で、細い糸を手繰る様にアルベドを力一杯抱きしめる。瞬間、アルベドの身体がピクンと跳ねた。そして、僅かな後
「!!!!!!!!!」
声にならない叫びを上げ、アルベドは糸の切れた人形の様に倒れ込む。
どうやら
「危ない所じゃった。うっかり、流されそうな自分が居ったわ」
そう溜息混じりに口を開く。だがこの言葉は、背後に居た者から注意を受ける。
「危なかったって、身から出た錆じゃないですか。アルベド、最近すっごく寂しそうでしたよ。ビクトーリア様」
アウラの言葉に、ビクトーリアは「あー」と納得の意を示しながら頭を掻き、横で幸せそうな笑顔で眠るアルベドの髪を、優しく撫でた。その後、二人でアルベドをベッドに寝かしつけ、書斎での待ち合わせと言う約束の後、ビクトーリアは浴室へと向かう。ビクトーリアを見送り、アルベドの顔を眺め、書斎へと向かう為に背を向けたアウラに声が掛る。
「アウラ。何故此処に?」
アルベドの声だった。その言葉に驚き、アウラは後を振り返る。アルベドは豊かな胸元をシーツで隠しながら、半身を起き上がらせていた。
「起きてたの? 急に声を掛けるから、ビックリしたじゃん」
「そう。それは御免なさい。それで、もう一度聞くわ。あなたは、何故此処に来たの? 此処は、ビクトーリア様がお使いになっている屋敷よ」
アルベドは、言葉を選びながら問いかける。だが、言葉の意味はこうだ。ビクトーリアを憎んでいるあなたが、何故此処に居るのか? アウラは言葉の意味を汲み取り、バツが悪そうに頬を掻きながら
「そうなんだけどさぁ。あたし達、最初から決めつけてたじゃん。でも、ユリから話を聞いたり、こないだのアルベドの顔とかさぁ、見てたらあたしらも思う訳じゃん。ビクトーリア様を、もっと知る努力をしようって」
自分の心情を口にする。その言葉は酷く曖昧ではあったが、的確にアウラの今を語っていた。アウラの言葉に、アルベドは静かに「そお」と短く呟くと、再びベッドに横たわる。だがその表情は、心なしか微笑んでいる様に見えた。アウラはアルベドを視界に収めつつ、寝室を立ち去った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ビクトーリア様、ドードーって知ってますか?」
書斎でビクトーリアと向き合ったアウラの第一声がコレだった。
「ドードー?」
ビクトーリアは一度目を瞑ると、過去の記憶からドードーに関しての記憶を引き吊り出す。一致する項目は二つ。一つは実物の存在としてのドードー。どれほどだったかは忘れたが、昔に滅んだ鳥の名だ。ガチョウだか何だかに酷似した鳥だったはず。もう一つはフィクションとして。古典の物語に登場するキャラクターだ。はたしてアウラは、どちらを指して言っているのか? どちらも指していない可能性もあるが。
「アウラよ。詳しく話を聞こうでは無いか」
事実確認の為、ビクトーリアはこう話を切り出す。この言葉にアウラは頷き、懐から一枚の羊皮紙を取り出しテーブルに広げる。
「地図?」
「はい! アインズ様が王国で手に入れた物の複写です」
そう言って地図の一点を指差す。その位置は、バハルス帝国の北西。セイレーン達が住んでいた場所の近くだ。
「ここに、ドードーが?」
「あ、いえ。ドードーかは解らないんですよ」
「ん?」
――アウラの話はこうである。各地に情報収集に放っていたシャドウ・デーモン、レッサー・デーモンから報告があった。バハルス帝国の北西にて、未確認の鳥型モンスターを確認。その鳥型モンスターは飛ぶ事はせず、地面を歩く事で行動すると思われる。その情報が、ビーストテイマーであり、魔物に詳しいアウラに上がって来た。だが自身の持つ知識と照らし合わせても、その様なモンスターの情報は無い。そこで図書館に行き、過去のデータと照らし合わせの作業をしたが、YGGDRASILのモンスターとの一致は無かった。
この様な事例は、過去一件のみである。その存在は、ハムスケ。森の賢王である。と言う事は、その存在とは? 答えの道先は、弟であるマーレの手の中にあった。
[不思議の国のアリス]
そこに登場する鳥。それがドードー。――
「成程のう。それで?」
「行ってみませんか? ビクトーリア様」
身を乗り出し、満面の笑顔でアウラは告げる。この行動に、ビクトーリアは驚きの表情を張り付かせた。だが、すぐに普段通りの不敵な笑みを浮かべ
「面白い。未知を既知とする事こそ、YGGDRASILプレイヤーの本懐。行くぞアウラ! 共をせえ!」
「はい! ビクトーリア様!」
そう言って、二人連れだって暗闇へと消えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここらかのう?」
「そうですね」
黄色いヘルメットを被ったみょうちきりんの二人組は、森の奥深くにまで侵入していた。傍らには、大きな狼と思える物の姿もある。
「ホントにいますかねぇ」
アウラは呑気にそんな言葉を口にする。
「うぬが言った事じゃろう。ここにドードーが居ると」
ビクトーリアが、憮然とした表情で語る。だが、アウラも負けてはいない。
「あたしは、そうは言っていませんよ。ドードーらしき鳥がいたらしい? と言ったんです」
「確かにそうじゃがぁ……」
ビクトーリアの納得行っていない様な言葉に、アウラは矛先を変える事で対処する事にした。
「しかしビクトーリア様。このヘルメットに書いてある、安全第一ってなんですか?」
「うむ。それはのう、何事も安全第一。それが冒険ならば尚更じゃ。そう言う戒めの言葉、じゃな」
「なるほど!」
そんな緊張感の欠片も無い会話を続ける二人の耳に、ドスン! ドスン! と言う音が響く。狼、アウラの使役するモンスター。フェンリルのフェンも警戒を顕にする。
そして、森の奥からソレは姿を現した。森の木々に阻まれ、全貌は未だ見えない。だが足音はなお響き続け、さらにはその間隔も短くなっている。これは、対象が速度を上げた事を意味していた。ビクトーリアは視線を細め
「アウラよ、気を抜くでないぞ」
「はい!」
注意を促した。
ビクトーリアとアウラ、二人は遂にソレと邂逅する。
全高2.5メートル。
全幅2.5メートル。
全長2.5メートル。
姿を現したソレは、単に言えば玉だった。黄色い巨大な毛玉だった。例えるならば、巨大なひよこまんじゅう。それが、猛スピードでこちらに突進して来ていた。
「ぴーーーーーーーー!」
翼を広げ、ものすごく嬉しそうに。そして………………ビクトーリアを跳ね飛ばし、いや胸に貼り付け走り去って行った。
「あ、あれ? フェン! 行くよ!」
叫び、アウラはフェンリルに跨り後を追った。件の毛玉を見失ってから、どれほどの時間が経過しただろうか?ようやくアウラはソレを発見した。森の中の僅かに開けた場所で。ビクトーリアの上で、静かに鎮座した状態で。
「ビ、ビクトーリア様!」
「ぴーー!」
アウラは慌てて声を掛けるが、毛玉によって阻止された。翼を広げ、どうやら威嚇をしているらしい。
「ぐほぉ。こ、れ。動くで、無い。お・も・い」
「ぴぴ!」
ビクトーリアの声に反応して毛玉は嬉しそうに身を震わせる。
「動くな! うーごーくなー! と言うか、どけぇ!」
ビクトーリアは下から毛玉をほおり投げる。「まったく」と呟きながら立ち上がるビクトーリアだが、すぐ後ろには毛玉が現れる。そして、絡む様に頬ずりをし始める。
「……………………ずいぶんと、なつかれて、いますね」
その様子を見ながら、アウラが呟く。心配して損した、と。そして、二人同時に溜息を吐いた。
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