OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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黄金の輝き亭はエ・ランテルでした。
名前を変更致しました。


王都にて

 リリー・マルレーン達を乗せた馬車は、エ・レエブルと首都リ・エスティーゼの堺にたどり着こうとしていた。一定の速度を維持していた馬車は、急激に速度を落として行く。

 

「合流の様じゃな」

 

 それが、何を意味しているのかを知っていたのか、リリー・マルレーンが小さな呟きを洩らす。

 

 御者は馬を操り、早駆から、歩く様な速度に落とし、そして馬車を停止させる。

 

 馬車が止まったその場には、もう一台の馬車が待機していた。それは、大きさと、僅かな装飾の違いはあれど、ほぼ同じ様な車両。つまりは、スレイン法国の物である。

 

 イサブロウが馬車の扉を開けると同時に、向こうの馬車も扉を開いた。こちら側は、リリー・マルレーン、イサブロウ、クレマンティーヌ。向こうからは、ヴァイエストにジロチョウ、馬車の屋根上にヤエモン。そして、護衛として風花、陽光聖典から選ばれた者が馬上に控える。

 

 ヤエモン、クレマンティーヌは護衛、密偵として控え、王城へはリリー・マルレーン、イサブロウ、ジロチョウ、御側付きとしてヴァイエスト、表向きの護衛としての風花、陽光。これが王国攻めのメンバーである。個々が自分の役割を持って、各馬車に分乗し、馬車は再び王都を目指す。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 事前の連絡と、先頭で馬に乗る神官の差し出した書簡によって、王都へはすんなりと侵入、いや、入国出来た。

 

 カタコトと揺れる車内で、リリー・マルレーンは物想いにふけっていた。何か大切な事を忘れているのでは無いか、と。ヴァイエストは、心から心配する顔で見つめるが、イサブロウ、ジロチョウ親分はどこ吹く風である。そこに至る思考は、コイツがこんな顔をする時は、大した悩みでは無いと確信しているからである。物騒な事を考えている時は………………もっと嬉しそうな表情を創る、と。

 

 そんな微妙な空気が流れる車内で、リリー・マルレーンは声を上げる。

 

「そうじゃ! 羅紗じゃ! 馬車を止めい!」

 

 いきなり此の発言である周りの者は置いてけ掘りだ。

 

「陛下。月の物ですか? 顔が面白いですよ?」

 

 イサブロウがそう口にした瞬間、腹部に鋭い痛みが走る。何て事は無い、イラついたリリー・マルレーンに蹴られたのだ。ぐぬぬ、と腹を抱えるイサブロウを余所に、リリー・マルレーンは事の経緯を開示する。

 

「失念じゃった。この王都には、妾を知る人物がおる。そこから妾の素性がバレれば……」

 

 ゴクリ、とヴァイエストの喉が鳴る。リリー・マルレーンの素性がバレると、一体何が起こると言うのだろうか? もしかして、法国の崩壊に繋がるとでも?

 

 嫌な思いだけが、ヴァイエストの脳裏を巡る。今、法国が消えれば、自分達の種の存続にも影響を及ぼしかねない。リリー・マルレーンは何を語るのか? ヴァイエストは、その瞬間を今か今かと待ちわびる。

 

 リリー・マルレーンの口が開く。法皇は何を語るのか? 

 

「……妾の暗躍が知られてしまうでは無いか」

 

「は?」

 

 一体リリー・マルレーンは何を言いたいのであろうか? ヴァイエストには、その真意が見えない。

 

「ここには、妾の力を知る者がおる。その事が広まれば、法国は諸国に対して脅威以上の存在となる。解るじゃろ? そんな物を前にした者達の行動が如何なる物か」

 

 そうして真実とも言える推察を語るリリー・マルレーンだったが、ヴァイエストの鋭敏な耳は、最後にボソッと呟いた「後からバラす楽しみが減るでは無いか」と言う本音を聞き逃さ無かった。さてどうしようかと思うヴァイエストを余所に、ジロチョウが唐突に口を開く。

 

「ちょうど良い。馬車を止めたらどうだ?」

 

「急にどうしたんですか、親分?」

 

 ヴァイエストが発した親分と言う言葉、リリー・マルレーンがジロチョウと言うあだ名と共に使いだした言葉であり、そちらの方が呼びやすいと、聖典隊長以下の者達がジロチョウに対しての呼び名である。

 

 それはさておき、突然馬車を止めろと言うジロチョウの真意は何なのか?

 

「なんじゃぁ、ジロチョウ。良い女でもおったかや?」

 

 そういって、リリー・マルレーンは茶化す様な言葉を口にするが、ジロチョウの言葉は意外な物だった。

 

「いやあ、なに。昔の知り合いが居たんでな、ちょっくら顔を見て来ようかと、な」

 

「ほほう。王都に知り合いなど居ったのじゃな」

 

 単純に感想を述べるリリー・マルレーンに、ジロチョウは僅かに口角を上げると

 

「いや、そうじゃねえ。知り合いが王都に来ていたってだけだ」

 

「成程の。それでも驚きじゃて。外界と接触を断ってきた、うぬらダーク・エルフの知り合いが居るなど」

 

「そうだな。まぁ、知りあいと言っても、何百年ぶりかの再会だがな」

 

 そう言うジロチョウを視界に収め、リリー・マルレーンはニヤリと笑い

 

「行って来るが良かろう。妾も羅紗を買いに行かねばならぬゆえな。イサブロウ。王城へは明日で良いのじゃろ?」

 

「はい。本日は、天女の歌声亭で宿を取り、明日の午前中に王城入り、となっております」

 

 腹部の痛みから、やっとの事で解放されたイサブロウが、滑らかな口調で行動予定を口にした。

 

 その言葉で、我が意を得たりとリリー・マルレーンは行動を開始する。馬車を止め、急ぎ外へと出ると、早着替えのマントを使い何時ものドレス姿へと衣装を替える。ヴァイエストもそれに続き、法服を脱ぎ、冒険者の様な軽装備を纏う。

 

「それでは各々方、集合場所は天女の歌声亭。後は任せたぞイサブロウ」

 

「畏まりました。陛下ならば心配無いと思いますが、御気を付けを」

 

「うむ。ジロチョウも旧交を温めるが良いぞ」

 

「ああ。そうなる事を祈るがな」

 

 そう言葉を交わし、三者は目的へ向け散って行った。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ゆっくりと視線を巡らせながら、久しぶりにビクトーリアに戻ったリリー・マルレーンは王都の見聞を開始する。町並みは、ごく普通に見える。だが、一つだけ気になる事があった。

 

 ビクトーリアは、おもむろに後を振り返りヴァイエストを睨みつける。

 

「こりゃメロディや」

 

「は、はい」

 

「なぜにそんな物を被っておる」

 

 ビクトーリアの不満の先、それはヴァイエストの装備にあった。革の胸当てに貫頭衣。ぴっちりとしたパンツルックに革製のブーツ。そこまでは良かった。問題は頭部である。

 

 ヴァイエストは、種族の特徴である頭頂部から生える長い耳を、バンダナの様な物で押さえつけ、隠していたのだ。その行為が、ビクトーリアには我慢が出来なかった。

 

 それゆえに強引な行動をビクトーリアは選択する。頭を叩く様な速度で、ヴァイエストの頭上からバンダナを剥ぎ取ったのだ。その瞬間、ヴァイエストの頭頂部で種族特有の長い耳がピョコンと立ち上がる。

 

「へ、陛下! 何を! お戯れは、およし下さい!」

 

 ヴァイエストは、必死でバンダナを取り返そうとうるが、ビクトーリアは頑として受け付けない。

 

「何がお戯れを、じゃ。この馬鹿者が」

 

「え?」

 

「え、でも無いわ! うぬらは、そうとして産まれ、そうとして育った。そして、そうとして生きておる。それに何の恥がある。答えよ」

 

 ヴァイエストを見つめるビクトーリアの瞳は、怒りで満ちていた。だがその眼差しは、酷く悲しげで、泣いている様にヴァイエストには映る。

 

「ありがとう御座います。陛下」

 

 何故かは解らないが、ヴァイエストの口からは感謝の言葉が漏れた。

 

 だが、そう言う事なのだろう。この法皇と言う人物の傍に居ると言う事は。法皇の傘の下に有る、と言う事は。

 

 そして、ヴァイエストは思う。この王の創り上げる世界はきっと、と。

 

 一方ビクトーリアはと言うと、正面切って礼を言われた事に恥じたのか、頬を掻きながらキョロキョロと辺りを見渡していた。

 

「しかしのう、メロディや」

 

「はい」

 

「羅紗はどこに売っておるのかのう」

 

 目的の根源とも言える疑問を口にするビクトーリアに、困惑を顕にするヴァイエスト。

 

「申し訳無いのですが、陛下、私は王都へ来た事が……」

 

「無いのかや?」

 

「……はい」

 

 ヴァイエストの発言に対し、ビクトーリアは「ぐむむ」と唸りを上げる。が、その唸りもすぐに止み、次の一手を打ちに掛る。単純に、誰かに聞いてみよう、と。

 

「ですが陛下」

 

「何じゃ? それと陛下と呼ぶで無い。そうじゃなぁ。うん。そうじゃ。妾の事はボスと呼ぶが良いぞ」

 

「ボ、ボス、ですか?」

 

「うむ。それで何じゃ? 何か発見でもあったかや?」

 

 戸惑いながらも、ヴァイエストは大通りの反対側を指差した。

 

 そこに視線を向けると、周りの者達とは違った装束を纏った二人組が目に入る。冒険者? で良いのだろうが、かつての漆黒の剣のメンバーなどと比べると、格段に豪華な物を身に付けていた。金回りも良いのだろうと判断し、ビクトーリアは声をかけてみる事にする。

 

 だが、一つだけ解らない事がある。二人組の一人、白い鎧を着た金髪の女は、まあ良い。

 

 問題はもう一人の方だ。赤? 紫? そんな色の鎧を着込んだ偉丈夫だ。隣の女と同じような金色の髪。渋みが感じられる、その相貌。鍛え抜かれた体躯。どこに出しても恥ずかしくない戦士。

 

 その見本の様な人物だ。だが、どこか妙な感じがする。ビクトーリアは、その違和感を確認する作業に没頭して行く。

 

「顔は……好みによるからのう。身体は丈夫そうじゃ」

 

 そう言いながら、視線が下半身に至った瞬間、ビクトーリアは驚きを顕にした。

 

「うおっ! 何じゃ、このハイレグパンツは! ブーメランじゃ、ブーメラン! メロディ見てみよ! 変態じゃ!」

 

「へ、いえ。ボス! 失礼ですよ!」

 

 偉丈夫戦士のブーメランパンツを見つけ、大騒ぎするビクトーリアを、ヴァイエストは何とかなだめ様と必死だった。だが、その喧騒は収まらず、徐々に熱を帯びて行く。それも、本人の目の前で。

 

「おい、ラキュース。俺は馬鹿にされているのか?」

 

 偉丈夫戦士が、隣の金髪女性に声をかける。どうやら、金髪女性はラキュースと言うらしい。

 

「さあ、解らないけれど、多分そうじゃないかしら」

 

 ラキュースは呑気な口調で偉丈夫戦士にそう返す。偉丈夫戦士は一度盛大な溜息を吐くと、ビクトーリアを視界の中心に納める。

 

「おい、オメエ。俺を何だと思ってんだ?」

 

「うん? ………………変態戦士かのう」

 

「はぁ? じゃあ、俺の性別は?」

 

「オス?」

 

 ビクトーリアは首を傾げながら、思ったままの答えを告げる

 

「オスって何だよ! 俺は女だ! オ・ン・ナ!」

 

 偉丈夫戦士の女発言に、ビクトーリアはグラリと身体を揺らし

 

「な、何じゃと。女じゃと?」

 

「ああ、そうだ」

 

「で、では、うぬのソレは、ハイレグアーマー、と言う事か……」

 

「はぁ? 意味は解らねぇが、言葉尻を取ればそう言う事だな」

 

「そうか。それは悪い事を申した。妾はビクトーリア。うぬの事は、敬意を込めてコング先輩と呼ばせて頂こう」

 

 腰に手を当て、踏ん反り返りながら謝罪の言葉を言うビクトーリア。これには、偉丈夫戦士もラキュースも呆れ返るしかなかった。

 

「はぁ。それであなた、何の用なの? ガガーランをからかうのが目的では無いのでしょう?」

 

 ガガーラン。それが、この偉丈夫戦士の名前なのであろう。しかし、それで相手の呼び名を変えるビクトーリアでは無い。ガガーランは、これから一生コング先輩なのである。

 

 脱線続きの会話であったが、ビクトーリアは本題へと軌道を向ける。

 

「実はのう、妾達は羅紗を探しておるのじゃ。うぬら、取り扱っておる店を知らぬか?」

 

「羅紗? おい、ラキュース。羅紗ってアレだろ? スケスケの布」

 

「ええ。羅紗……。申し訳無いけど、王国ではあまり見ないわね。帝国や聖王国とかでは、たまに扱っている店はあるらしいけど。そもそも、あなたは、何故羅紗を?」

 

 ラキュースの問いに、ビクトーリアはクルリとその場で一回転すると

 

「羅紗を求める理由など、二つしかあるまい? ソレを身に纏い踊るか、素顔を知らせぬためじゃ」

 

 悪戯っぽい笑みをニヤリと浮かべる。

 

「あなたは、踊り娘には見えないわね……何故顔を隠したがるの?」

 

 ラキュースは唐突に、そんな疑問を投げかける。王国の裏で、力を持っている、ある組織との繋がりを懸念したためだ。

 

 だが、そんな懸念など、ビクトーリアにはどこ吹く風である。ビクトーリアは、右手で左目を覆う様に隠すと

 

「妾の瞳には、世界を滅ぼす力が宿っておる。これは、妾と対をなす者との接触で解放されるのじゃ」

 

「な、何と!」

 

 ビクトーリアの言葉に、ラキュースが大きな反応を示した。

 

「で、では、素顔を隠すと言うのは……」

 

「左様。その対なる者に、妾の存在を知らせぬ為よ」

 

 適当な言葉を口にした後、ビクトーリアは「ふふふ」と不敵な笑みを浮かべる。その笑いに呼応する様に、ラキュースも不敵な笑みを浮かべる。そして、一度目を瞑ると、覚悟を決めた、とでも言うのか、慎重に口を開いた。

 

「ビクトーリア殿。この王都で羅紗を探すのは難しいであろう」

 

「左様か。それは困ったのう」

 

「だが、今、王都には、帝国の大商家の令嬢が滞在していると聞いている」

 

「ほう、帝国の」

 

 そこで、ラキュースは一度頷き

 

「その者達ならば、羅紗を手に入れる事も可能では無いかと思うのだが? どうだろう?」

 

 ラキュースからの提案。これを飲まないビクトーリアでは無い。ラキュースから、その大商家の令嬢の滞在している邸宅の場所を聞き、その場所へと足を向けた。

 

 去り際にビクトーリアは、ラキュースとガガーランに一礼すると

 

「感謝する。ラキュース殿、コング先輩。いずれ礼を兼ねて一献(いっこん)付き合ってたもれ。では」

 

 思いの外、礼儀正しく謝辞を言われた二人は、虚を突かれた様に固まってしまったのだった。遠ざかるビクトーリアの姿を、ラキュースは視界に留めながら

 

「ガガーラン。私は真の意味での友を見つけたかもしれない」

 

 熱の籠った瞳で、そう言った。




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