お話の方が…。
では、お願いします。
1
:将輝視点
結局、懇親会では彼女は見付けられず、そのまま大会関係者のスピーチになった。
そして、最後は十師族の長老・九島烈の登場になった。
魔法の巧みさから老師、或いは最巧の魔法師ともいわれている。
父さん曰く、食わせ者の爺さんという事だが、直接お会いした事はない。
まあ、実務はまだ父さんが担っているのだから、当然だが。
舞台袖から老師が出て来たのだが、違和感を感じた。
尤も、すぐに理由は分かったが。
「ジョージ、奈津」
二人に注意を促す為に声を掛ける。
「大丈夫だよ、将輝。気付いてる。前に学会ですれ違った事があるけど、歩き方や雰囲気が違う」
「そうなのですか?」
ジョージは、いわれるまでもなく気付いていた。流石だな。
奈津は気付けなかったようで、舞台を歩く偽物を気付かれないように窺う。
俺達は普段の九校戦なら持ち込み不可のCADを、いつでも使用可能な状態にした。
俺達の行動に触発され、奈津もいつでも動けるように身構える。
彼女はあまり魔法が得意ではない為だ。
やはり、気付く人間は気付くようで、人が動く気配がする。
でも…少ないな。
予想以上に警戒態勢に入った人数が少ない。
大声で警戒を促せば、報道の影響でパニックになるかもしれない。
偽物が予定を変更して、無差別に暴れ始めるかもしれない。
思わず舌打ちしたくなった。
周りの気付いたメンバーはどう動く?
さり気なく視線を巡らせる。
第一高校の三人は動き出している。それと同時に二人動いているのが見えた。
俺が探していた彼女と、彼女の隣にいた男だ。
随分親し気だが…、いや、今はそれどころではない。
意識を戻す。
緊張感を保っていると、偽物がマイクの前に辿り着く前に、照明がマイクを照らした。
そこには老師が、立っていた。おそらく本物の。
「まずは、悪ふざけに付き合わせた事を謝罪する。だが、君達の警戒の甘さが露呈した
結果になったな」
あの偽物は、注意を逸らす為のデコイか!
「これは魔法というより手品だ。大したものではない。しかし、君等はそれを見破れず、
騙されてしまった。私の見たところ、最後のタネまで見抜いた者は二人だけだった」
確かに手品だ。タネを明かされれば。食わせ者だな。
内心悔しく思ったが、表情には出さなかった。
そして、老師は手品を見破った者が二人いるといった。
それは彼女とあの男の事だった。老師の注意が、一瞬だが二人に向けられ、二人もそれに
気付いた様子だった。男は軽く目礼し、彼女だけは一人憮然としていた。
偶然か、男の方と視線が合ってしまった。
だが、向こうは関心もなくすぐに視線を逸らしてしまった。
お前は彼女と同じステージにいない。
そういわれた気がして、自分自身の不甲斐なさに怒りが沸いた。
次はこんな無様は晒さない。
俺はそう決意した。
次の日、開会式が恙なく終了し、あっという間に競技が始まった。
新人戦参加の選手は、それまで時間がある。
当然、俺達もだ。
先輩方の応援は勿論するが、俺達は別に有力選手の試合を見て置く事にした。
特に一校の三人は、来年にはいない。競う事はほぼないだろうからな。
だからこそ、見て置こうと思ったのだ。ジョージも賛成し、奈津も同行する事になった。
そして、彼女を見付けた。
彼女はまたあの男を連れていた。
あの男は、さり気なく彼女が歩き易いようにガードしながら歩いていた。
彼女もそれを承知していて、気を遣っていた。
心の中に嫌なものが広がる。イライラする。
気付けば俺は彼女に向かって歩き出していた。
苛立ちのお陰か、躊躇せずに彼女に歩み寄る。
「ちょっ!将輝!どこ行くの!?」
ジョージが、突如進路を変えて歩き出した俺に声を掛けてくるが、返事をしなかった。
「あっ!君!」
俺は気取った呼び掛けになってしまった事に、またしても不甲斐なさを感じたが、
取り敢えず、今は気にしない事にする。
「ああ…。一条さん。どうも」
彼女は驚いていたが、折り目正しく挨拶する。
礼が綺麗だ。キチンとした作法を教わっているのだろう。
「知っていましたか」
自分が有名人モドキだとは自覚していたが、思わずそんな事をいってしまった。
「偶々、見掛けたものだから、失礼かと思いましたが、声を掛けさせて貰いました」
これは本当だ。
「これのお礼を迂闊にもいっていなかったので」
袖を見せて、俺はいった。
「姉さん。これは?」
隣の男がこちらを胡乱な目で見ている。失礼な。
しかし、姉さんという事は、コイツ、彼女の弟か!
ホッとした。
「ちょっと困ってたみたいだから、手助けしたんだよ」
説明を求める弟君に、彼女が簡潔に説明した。
「そうか…」
一応の納得をしたのか、弟君は引き下がったが、まだ視線が鋭い。
「改めて、一条将輝です。ありがとう。助かったよ」
ようやく礼がいえた。
これから、名誉挽回していかないとな。
「よかったら、君の名前を教えてくれないかな?」
テンションが上がり過ぎて、彼女との距離をグッと縮める。
すると、弟君が俺を制するように手で止めた。
「プリンス。少し不躾じゃないか」
なんだ、コイツも俺を知っていたんじゃないか。
なら、なんで俺をあんな目で見る。不審者じゃないぞ。
だが、彼女も戸惑っているようだった。
「失礼した」
いかんいかん。もっと、紳士的であらねば。
「若。思いっきり引かれてますよ。落ち着いて下さい。それと一緒に観戦しませんかと、
誘って下さい」
奈津が小声で耳打ちしてくる。
そうか!そうだな。それは自然な流れだ。ありがとう、奈津。
「私は司波深景です。ご覧の通りの第一高校の生徒です」
凛とした声で名前が告げられる。
「深景さんですか…」
いい名前だ。似合っている。
「制服、気を付けて下さいね。では…」
迂闊な行動が響いたのか、彼女が移動しようとする。
俺は咄嗟に声を掛けた。
「あの!よかったら一緒に観戦しませんか?」
2
:奈津視点
若の惚れた
顔は悪くないのに、野暮ったい黒縁眼鏡が台無しにしている。
まあ、若を間近で見たのに引いていた事から、玉の輿狙いとか、一条家の権力狙いの女
ではなさそうですね。
そこら辺の若の人物眼は信用してますが。
若も見合いの話が舞い込む年で、候補のお嬢さんと会わされたりしていますが、そういう
あからさまな相手は、ハッキリと断っている実績があります。
しかし、マニアックな趣味ですね。
まあ、別に私が付き合う訳じゃありませんからいいですけど。
あとは人となりを確認したいですね。
なので、若に一緒に観戦するように耳打ちしました。
ここで、自己紹介が入りました。司波深景さんというらしいですね。
しかし、綺麗な所作ですね。
サッサと去って行こうとする二人を、なんとか若が引き止めてくれました。
一緒に観戦する事に了承を貰いました。
隣の彼はなんか嫌そうです。
私達の事は取り敢えず無視して、姉をエスコートしていますね。
う~ん。隣の彼は紳士ですね。顔は若が圧勝ですが、紳士としては若の負けですね。
勿論、私達を無視している点は、しっかりと減点した上です。
ああ、私もクロウも自己紹介しましたよ。
隣の彼は、司波達也。
正真正銘の弟さんだそうで。
「奈津さん。いいんですか?」
クロウが小声で訊いてくる。
ここでのいいのかは、御当主様の意向を確認しないでいいのかという問いでしょう。
まあ、御当主様は、そこら辺の事は気にしませんよ。他家が寧ろ気にしますかね。
「それを今から、じっくり観察するんじゃないですか」
クロウは一条家に恩義がある所為か、私以上に一条家の心配をしますからね。
ま、相応しくないと感じたら、若がどう思おうが引き離しますよ。
放って置けば、向こうから距離を置きそうではありますが。
3
一緒に観戦しませんかって…。
どうするよ?いや、私が決めていいんだろうけど。
まあ、一条家の御曹司ともなれば、すぐに興味を無くすでしょ。より取り見取りだし。
金沢と東京だし。
よし!大した事ない!
「では、友人と一緒でよければ」
「勿論です。一緒に観戦できるだけで十分です」
うわっ!イケメンスマイル!私には目の毒だね、これ。
隣で不機嫌オーラを発している弟を宥めて、豪華メンバーを引き連れて歩き出す。
それで弟よ。人混みをブロックしてくれるのは有難いけど、ヘタレ?王子もブロック
してるよね?まあ、いいけどさ。
「そういえば、申し遅れました。私は市乃瀬奈津と申します。以後お見知りおきを」
身のこなしから、魔法より武術の人みたいだね。
転生者って訳じゃないよね?イレギュラーだと…いいのかな?
「彼女は幼馴染です」
いや、お気遣いなく。彼女でも怒りませんよ?
「市乃瀬家は、一条家の補佐をしている家なのです。若にはなんら異性としての関心は、
ありませんからご安心を」
若!!凄い呼び方だね!私もヘタレに?が付いたから、若様とお呼びするかな。
「吉祥寺真紅郎です。将輝の友人であり、参謀です」
おお!残念参謀!お疲れ様です。
「親友です」
ココでも訂正を入れる若様。
そして、全員から視線が集中して達也がようやく口を開く。
「第一高校一年、司波達也だ」
「姉弟、だよな?」
若様が分かり切った事を確認してくる。
達也も短く肯定の言葉を口にするのみ。
ええっと、ずっとこの微妙な空気の中観戦すんの?早まったかな…。
4
準決勝でスタンドは既に満員。
エリカ達は私達の分は確保してるだろうけど、若様御一行の分は保証の限りじゃないよ?
「深景!達也君!こっちこっち!」
エリカがブンブン手を振っている。
見えているし、聞こえてるよ。
近付いていくと、みんながビックリした顔をする。当然ですよね。
それから、若様御一行が自己紹介と、ここに来た経緯を説明してくれる。
まあ、楽でいいけど。
「あら~。そうなんだ!丁度、三つ席を余分に確保しててよかった!」
エリカの顔が猫に見えるよ。
雫とほのかが、何か妄想を展開しているのが分かるよ。
嫌だ!雫さん!ご覧になって!
ええ、ハッキリと見てますわ。
まさにこんな感じです。
それより、何故満員なのに三つ席を余分に確保したんだ、アンタ等は。
若干二人程を除いて全員がニマニマした顔で、自己紹介をする。
因みに、笑っていないのが、深雪、雫。リタイヤが幹比古君。
体調を悪くして原作通り休んでるそうな。
貧弱な。そんなので美月をゲットできるとでも?できそうですね、はい。
それじゃ、座りましょう!となって問題が発生した。
「お姉様!こちらへどうぞ!」
深雪の右側に二つ、左側に一つが空いている。
深雪が強力に自分の左隣をプッシュしてくる。
あれ?そこ達也じゃないの?そう思ったから、私は右隣りに座る事にする。
私が座ると若様が付いてくるが、深雪は何を思ったのか、瞬時に席を移動し私の右隣りに
席を移した。そして素早く達也が私の左隣に座った。
若様、一瞬の事で硬直。
もう、達也の隣しか空いていない。
残念参謀と市乃瀬さんは、既に席に座っている。
「君が席を移動する必要があったのかな?」
穏やかなのは顔だけで、目が鋭い光を放っている。
「嫌ですわ。一条さん。お姉様を初対面の殿方の隣に座らせる訳に参りませんわ」
深雪も微笑んでいるが、目が氷のように冷たい光を放っている。
「実は初対面ではありませんがね」
「お姉様から、親しくされていると伺った事はありませんわ」
冷気と熱気が激突する。
リアルインフェルノが展開されてるよ。
原作と大違いですね。それと別のところでやって貰う訳にいきませんかね?
「ハッハハハハハハ」
「フフフフフフフフ」
丁度、位置的に私が真ん中にいるんで、勘弁してほしかったりして…。
5
そんな心臓に悪いイベントを乗り越えて、なんとか腰を落ち着ける。
達也は後のほのかに気を遣って、声を掛けたりしている。
もうじき準決勝開始というところで、美月がビクリと反応した。
奇遇な事に私も選手の出入り口辺りに、嫌な気配を一瞬感じたりした。
でも、一瞬の事。
「美月。何か感じた?」
私は後ろを振り向き、美月に訊いてみる。
「一瞬ですけど、何か嫌なオーラが出入り口から漏れた気がしたんですが…」
今は感じないと。私と同じだな。
達也と深雪が顔を見合わせる。
そして、選手の入場。
だが、相手選手は出て来たけど、閣下の姿がない。
最初は特にみんな騒がなかったけど、時間が経つにつれて会場が戸惑いの空気に包まれる。
和泉先輩が審判に駆け寄り、何かいっているようだ。
「おい。もうすぐ失格だろ?」
そんな声がどこからか漏れる。
そう、時間内に位置についていないと失格なんですよ。大体の競技がそうですけどね。
やむを得ないか…。
私は眼鏡を外して、出入り口から奥を見通す。
根源にアクセス。
完了。
ここまでで刹那の間だ。
達也にだって、疑ってみないと分かりはしない。
閣下はっと。
うん?控室の扉の隣で立ち尽くしてる?
更に解析。
しかも、凄い高度な認識阻害。
私は眼鏡を掛け直すと、立ち上がる。
「お姉様!?どうされたのですか!?」
「姉さん?」
深雪と達也が、突然立ち上がった私に声を掛けてくる。
「達也。深雪をお願い」
私はそういうと座席を蹴って飛び上がると、駆け出した。
後で若様の声が聞こえたが、今はそれどころではない。
6
走り出すと後から追ってくる気配が二つ。
これは、若様と残念参謀か。
申し訳ないけど、有難迷惑かな。
監視カメラの死角となる場所で、亜空間から刀を取り出す。
商売用の商品ではない完全な私物。
鳴神尊。
元ネタでは小刀だが、こっちでは私が鍛えた刀だ。
ある技を使う為に、使えると思って鍛えた物だ。
刀としても優れ、魔法とも相性がいい為、比較的表沙汰にできない事によく使う。
今回あの技は流石にいらない…と思う。
認識の壁が見える。
私は
が、術が崩壊したように見えたが表面のみで、壁は健在である。
ファランクスじゃあるまいし!!
だったら、全部打ち抜いて斬り捨ててやる!!
刀を振り上げ、壁一杯まで距離を詰める。
「疾っ!!」
気合一閃。
青白く光る刀身が、多重に展開されている認識の壁を真っ二つにする。
壁が一気に消し飛ぶ。
「なっ!?」
「馬鹿な!?」
若様と残念参謀が追い付いてきて、第一声がこれです。
残念ながら、突っ込んでいる余裕はありません。
刀を鞘に納める。
控室の扉の横で立ち尽くして、脂汗を滝のように流している閣下に駆け寄る。
「どうしてしまったんですか?七草さんは…」
若様が閣下が未だに何も反応しない為、私に訊いてくる。
「兎に角、警備を呼んでくるよ!」
「そうだな…。頼む」
残念参謀が競技場に走る。
「深景さん?」
私が閣下の頭を両手で挟む形で動かない為、訝しく思ったようだ。
こっちでは精神干渉魔法の分類で存在する魔法・疑似体験迷路。
いわば相手の意識を、脳内に閉じ込める魔法だ。
ここで、達也と深雪、お馴染みメンバーと市乃瀬さんも駆け付ける。
「姉さん。これは…」
達也も閣下を険しい顔で観察している。
「精神干渉魔法…だね」
「っ!!」
深雪がそれを聞いて、怒りの表情を浮かべる。
私は魔法を無力化する為に、徐々に術式を解体していく。
一気にやると後遺症が残ったりするんだよ、この魔法。
脳に作用してるから。
人が懸命に救助しているというのに、警備の軍人と和泉先輩がドヤドヤと大挙して
やってくる。
「ちょっと!!二科生が何やってんの!?」
和泉先輩が苛立たし気に怒鳴り付ける。
五月蠅いな。見れば分かるでしょ?救助してんだよ。
「和泉先輩。今大事なところです。お静かに願います」
達也が有無もいわせぬ口調で、和泉先輩を黙らせる。
あとは、最後のコードを処置する。
閣下の瞳に理性の色が戻ってくる。
「大丈夫ですか?」
私は閣下を覗き込んでいう。
「えっ!?深景…さん?どうして…ここに?」
「もう大丈夫です。競技場に行って下さい」
軽く混乱している閣下に、私は言い聞かせるようにいう。
「で、でも…」
「大丈夫です。術はもう解けています。それとも、相手の思惑通りに棄権しますか?」
私の挑発の言葉に閣下の瞳に炎が灯る。
ゆっくりと首を振る。
「だそうです。和泉先輩。一緒に行って下さい」
和泉先輩は返事もせずに、閣下を連れて競技場に向かった。
慌てたように警備の軍人も後を追う。
「随分と失礼な態度だな」
若様の声は小さな声だったが、よく通った。
まあ、私が何かやったから閣下が正気に戻ったのは、明らかだしね。
例え、何をやっているか分からなくとも。
和泉先輩にも非難の声は、聞こえていただろうが振り返らなかった。
そして、若様のセリフは、この場にいる全員の気持ちでもあったと思う。
まあ、感謝して貰いたくてやった訳じゃないけどね。
7
さて、残りはっと。
達也が無言でシルバーホーンを抜き、反対側の壁にポイントすると、躊躇なく魔法を放つ。
私以外の全員が突然の行動に驚く。
空間が揺らぐ。
何かが弾けるようにサイオン光が飛び散る。
「あら、怖いわね。坊や。そんなんじゃ、女にモテないわよ?」
額に一筋汗を垂らして、外見は女の人外が姿を現す。
だが、ここにいるメンバーも只者ではない者ばかり、動揺をねじ伏せて素早く戦闘態勢に
入っていた。
私はほのかと雫を後ろに下がらせる。
「余裕だな。この人数に囲まれて逃げられると思っているのか」
人外が嗤う。
「ええ、勿論よ」
いうや否や、人外が腕を振るうと壁面が水面のように波紋を描く。
私は誰よりも速く反応し、超神速の抜刀術を放つ。
「っ!?」
私の剣は誰にも認識できなかっただろう。
光の筋が走ったくらいには、見えたかもしれないけど。
それでも人外は反応した。
咄嗟に壁に逃れていた。
だが、ただで逃がした訳じゃない。
致命傷は避けられたが、重症の筈だ。
「姉さん」
「うん。一応は、捜索を依頼しようか。無駄だと思うけど」
達也が苦い顔で頷いた。
仲間達を振り返ると、みんながCADを構えたまま、ポカンとしていた。
8
:魅由鬼視点
私は反対側の壁から出ると、疑似瞬間移動でその場から離れる。
あの化け物から、少しでも距離を取らないと。
追手が掛かっていない事を確認し、傷口を塞ぐ。
脇腹から肩にかけて大きく切り裂かれている。
服も酷い有様だから、ホテルに見られないように戻らないと。
あの女!あの一撃は、魔法を一切使っていなかった。
それであのスピードで斬り付けるなんて、有り得ないわよ!!
刀も見た事のない素材で、できてるみたいだし!!
しかも、私の傑作の結界を切り裂いた!!
男の方も見た事のない魔法だったし!!
第一高校の制服を着てたわね。
これは、報告しといた方がいいわね。
9
結果からいえば、閣下はスピードシューティング優勝をもぎ取った。
やっぱり、調子は崩していたようで、決勝戦は接戦だったけど。
若様御一行は、色々気になっていたようだが、準決勝終了後にお帰り願った。
帰りには深雪と若様が、またリアルインフェルノを展開してたけど、見なかった事にした。
お前がヘタレだって?実際にあのプレッシャーを受けてみなって!!無理だから!!
「疑似体験迷路!?あれって理論だけの話だった筈じゃ…」
閣下が私からの話を訊いて、驚愕する。
今は、一校首脳会議中です。
優勝の喜びなんて、この場にありません。
「ええ、私も達也や美月程ではないにしても、多少は見て分かりますから」
この眼鏡はライナスの毛布というだけではない!
私の目が、少し普通と違うというアピールでもあったのだ!
首脳陣が深刻な表情で黙り込んでいる。
疑似体験迷路は、こんな事も可能になりますよ~的な話しか出ていない魔法で、実用化?
何それ?のレベルの魔法だからね。疑いたくなる気持ちも分かりますよ?
「同じ所をグルグル回っていたんじゃありませんか?」
「…ええ、そう、ね。出られなかったわ」
その時の事を思い出したのか、閣下が顔を顰める。
まあ、実際は突っ立ってただけですけどね。動き回っていたのは脳内です。
捜索も案の定、空振り。術者が野放しです。
そりゃ、暗くなるわ。
「達也君も同じ意見?」
閣下が達也にも訊く。
「はい。魔法式からいって間違いないと思います」
達也の返答に、閣下は渋面で頷いた。
「そんな魔法が使える魔法師相手となると、応援の術者は来て貰っても仕方がないかしら?」
閣下が謎のセリフをいう。
「?妖なんですから、必要だと思いますよ?」
何いってんの?そうじゃなかったら、普通の人間じゃ使えない魔法の数々だよ。
私みたいな転生チートじゃない限りはね。
最早、首脳陣からは呻き声も漏れなかった。
応援到着まで、暇な時は私・達也・美月が試合を出来る限り監視する事になった。
10
:戸愚呂視点
『ほぅ。そんな事がね。分かった。暫く休んでくれ』
魅由鬼から報告を受けた。
面が割れた以上、顔くらいは変えて貰わないと、この仕事は続けさせられないね。
文句をいうようなら、今回の件から外すかね。
なかなか興味深い報告だねぇ。
未知の魔法に、魔法を使わずに魅由鬼の反応が遅れる程の剣を使う剣士。
詰まらない依頼が、一転して面白くなってきたねぇ。
「今はどのくらいの力なのかね?試してみるかね」
思わず独り言を漏らしてしまった。
足りなければ、叩いてみるのも一興だねぇ。
それで強くなってくれれば、御の字だ。
楽しめなければ、それこそ故郷に帰郷すればいい。
準備は本当の依頼主の方が、USNAで仕込んでくれている。
それが成功したら、いよいよ帰郷だ。その前にこっちの意地でも見せてほしいねぇ。
思わずニヤリと笑ってしまった。
七草真由美は調子を崩してくれているし、片手間の仕事もまずまずかね。
こういうセコイ仕事は嫌だね。ストレスが溜まるよ。
まあ、楽しみができたのが救いだねぇ。
本投稿ではお伝えしたんですが、これから投稿が
遅くなりそうです。
それでは、気長にお待ち頂ければ…。