司波家の長女は何をする?   作:孤独ボッチ

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 今年、劣等生初めの投稿になります。
 では、お願い致します。

 


九校戦編12

               1

 

 午前の競技が終了し天幕へと戻ると、暗い話題ばかりでオドロ線が支配していた空間が、

若干持ち直していた。

 ほのかの方は、達也の作戦通り、通路に影を落とす作戦で勝利して、決勝戦へと駒を

進めたそうな。分かってたよ。

 そして、男子は絶賛空回り中。分かってたよ。

 エイミィも起き上がれるくらいに回復していた。

 その彼女と一緒に閣下の元へ。

 重大な用件との事で呼び出されたけど、やっぱりあれだよね?

 一校一年ピラーズブレイク組が集結する。

 勿論、エンジニアも。

 閣下が厳かに三人を見る。

 どんな話か分からない一年は、深雪を除いて若干緊張気味。

「時間がないので、手短に。決勝リーグは我が校の独占という結果になりました。

皆さん、よくやってくれました」

 厳かな顔を引っ込め笑顔で閣下はいった。

 緊張の糸が緩むが、三人でお辞儀した。

 全く、揶揄っちゃいかんぜよ。

「この快挙に、大会委員から三人を同率優勝としては?と提案がありました」

 出た!ザ・手抜き!

 達也も皮肉っぽく口元が歪んでいる。

「提案を受けるかは、皆さんの判断に任せます。ただ、時間がないので、ここで決めて

下さい」

 そんな中、真っ先に手を挙げた人物が一人。

「はい!私は勝負…」

 するといいだす前に、私は口を塞ぐ。

「しません」

 続きがいえないエイミィに私が代わりにいってあげた。

 エイミィは抗議しているようだが、エンジニアとしてやらせる訳にいかない。

 覚悟は立派だが、やらせるかは別ですよ。

 次の競技もあるしね。

「ええっと…。明智さんは降りるという事でいいの?」

 閣下が私とエイミィを見比べて、困惑したようにいった。

「はい」

 私はエイミィを押さえ込んだまま、笑顔でいい切った。

 私は失礼します、といってエイミィを引き摺ってその場を後にした。

 後でエイミィに文句をいわれるだろうけど、甘んじて聞いて上げよう。

 それと、原作通り深雪と雫は戦う事にしたようだ。

 

 それでは、姉として妹に試練を与える壁となりましょう。

 

 

               2

 

 エイミィの文句を、菩薩のように聞いてあげても、エイミィは拗ねていた。

 拗ねるエイミィを大事を取って休ませ、私は次の準備へと取り掛かる。

 だが、深雪と雫の大一番の前にバトルボード決勝がある。

 それの応援を私はモニターで見ている。

 何故なら、私は雫の方に付いていないといけないから。

 自分の仕事は最低限しないといけないしね。

 雫にも悪いし。

 バトルボード決勝が終了した後、すぐにピラーズブレイク決勝というスケジュール

なのだ。

 殆ど準備は終えていても、直接ほのかの応援には行けない。

 移動が間に合わないからね。

 だから、モニター越しに応援させて貰おう。

 沓子には悪いけど、今回はほのかを応援させて貰うよ。

 

 決勝は二人での一騎打ち。

 ほのかVS沓子

 達也がまたも作戦を授けたと聞いているから、一方的な展開にはならないだろうけど、

力量としてはほのかが不利かな。

 そして、レーススタート。

 序盤はほのかが達也の波対策もあり、沓子を抑え込んでいたが、中盤で沓子がほのか

の光に対する感受性の高さを見抜いた。

 それによりダミーをバラ撒かれ、ほのかに隙が生じてしまった。

 それを見逃す沓子ではなく、あっさりとほのかを追う抜いていく。

 しかも、使用魔法は古式魔法ではなく、現代魔法。

 あの子も食わせ者だね。

 両方使えたんだね。

 一気に加速した沓子がほのかを突き放す。

 ほのかの士気が落ちていくのが、目に見えて分かる。

 これは不味いかな?

 原作では確か優勝してたような気がするけど、イレギュラーじゃ仕様がないかな。

 

 なんて思った時期もありました。

 達也が、魔法偏重の作戦立てる訳ないよね。

 ほのかは種でも割れたのか、別人のようにサーファーと化した。

 どんな荒波も乗り、沓子の罠を躱していく。

 逆にそれを利用して加速すらしている。

 勝負は最後のカーブまで縺れ込んだ。

 沓子がインベタでほのかをブロックする。

 だが、ほのかは幻影魔法でコースに影を落とし、沓子の認識を狂わせていた。

 沓子はインを塞ぎ切れていなかったのだ。

 ほのかが、その隙間から沓子を抜き去る。

 それが決めてとなり、ほのかが優勝を飾った。

 

 いや!感動した!

 次は私の番だね。

 

  

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 :将輝視点

 

 いよいよ女子ピラーズブレイクの決勝。

 一色も四十九院の応援ではなく、こちらに来ている。

 一色としてもミラージバットで対戦する相手だ。

 見ておきたいだろう。

 この試合に注目している人間が多い事は、観客の顔触れで分かる。

 企業、研究者、軍の人間もチラホラ見える。

 注目しているのは、司波深雪一人だろうが。

 勿論、北山選手も卓越した力の持ち主だが、司波深雪には及ばない。

 観客の方も、司波深雪の実力をどの程度引き出せるか興味があるといったところだろう。

 俺の方としては、北山選手を応援するが。

 何故なら、エンジニアの担当が深景さんだからだ。

 北山選手も本来なら司波達也がエンジニアだが、今回は一校生同士の戦いになる。

 メインとサブで別れた形だ。

「司波深雪の勝利は揺るがないだろうが、ジョージ、お前はどう見る?」

 俺は隣にいるジョージに声を掛けた。

 だが、いつもなら自分の意見をすぐに答えるジョージが、考え込んでいた。

「どうした?」

「ああ…。うん。難しいところだと思ってね」

 俺の怪訝な声に、ジョージが歯切れ悪く答えた。

 難しい?何が?

「司波達也が、厄介なエンジニアなのはその通りだけど、司波深景も別の意味で厄介

だからね。確かに司波深雪が圧倒的優勢だろうけど、司波深景が黙ってやられるとは、

あまり思えなくてね」

 俺の疑問が伝わったのか、先回りして答えるジョージ。

 だが、その答えに俺は驚いた。

 ジョージは確かに深景さんの選手に敗北しているが、思いの外高い評価だったからだ。

 ジョージが驚く技術を見せた司波達也なら分かるが、ジョージは深景さんをエンジニア

としては、優秀ではあるが驚く程ではないと評価していたからだ。

 深景さんを、いつの間にか司波達也同様の強敵とジョージは認識していたのだ。

 そこでジョージは、深景さんのCADの事を説明してくれた。

 特化型CADに、刻印を刻んだ銃口を取り付けていたという。

 それどころか…。

「何!?銃口に二つの魔法を組み合わせて使用していたのか!?」

「うん。レギュレーション違反はしてない。だけど…刻印魔法は古式魔法に分類される。

 それを現代魔法を刻印化して、尚且つ組み合わせるなんて、常識では考えられないよ。

 司波達也の戦術は、ルールの隙を突いてくるクレバーなものだけど、技術は正統派と

いえる。でも、司波深景の方は、何をやってくるか分からない怖さがある」

 勿論、刻印魔法は古式の魔法を刻印として表したものだ。

 現代魔法には適用されない。

 一部されているものもあるが、まだまだ分からないことの多い発展途上な分野といえる。

 それを簡単に実行した深景さんの実力は、脅威だろう。

 成程。何が起きるか分からない以上、ジョージとしては評価が難しいという訳か。

 意外に見応えのある試合になるかもしれないな。

 

 ジョージが深景さんを評価していることに、内心で喜んでいる俺は重症なんだろうな。

 俺は試合に意識を集中しつつ、そんなことを考えていた。

 

 

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 :達也視点

 

 俺は深雪と最後のミーティングに臨んでいた。

 相手は雫に姉さん。

 そう雫の実力は、悪いが深雪には届かないだろうが、姉さんが付いた段階で油断は禁物

だ。

 それは勿論、家族である深雪も認識を共有しているところだ。

 証拠に、雫も静かな闘志の中に自信を覗かせていた。

「おそらく、今回は苦戦するだろう。深雪の魔法力を活かせない局面も想定したが、どう

だ?」

 深雪は念入りにCADをチェックし、頷いた。

「問題ありません、お兄様」

 いつもある笑顔がない。

 かといって緊張しているでもない。

 姉さんのいう通りで、こういう戦いも深雪には必要だな。

 いつも以上の集中力を発揮している深雪を見て、俺は口元が緩んだ。

 問題は、深雪の相手が務まる魔法師が少ないということだ。

 今後、考えていかなければならない課題だろう。

 

 深雪が部屋を出る前に、渡辺先輩が一人で俺のところに顔を出した。

 ここのところセットでいる会長の姿がない。

「真由美なら、深景君のところに行ったぞ?」

 俺の視線をどう誤解したのか、渡辺委員長が頓珍漢なことをいった。

 いつもなら過剰に反応する深雪も、今回は黙って渡辺先輩に頭を下げて部屋を出て

いった。

 俺はそれを見送り、渡辺先輩の頓珍漢な言葉に返答する。

「いえ、渡辺先輩はいいんですか?」

 会長を放置して、とはいわなかった。

 渡辺先輩は面白くなさそうに頷いた。

「流石に試合前なんだから平気だろう」

 姉さんは、おそらくそれでも迷惑しているだろうが。

「で?自信の程はどうだ?」

「やってみなければ分かりませんが、調子は最高にいいですよ」

「まあ、見物ではあるな」

 俺はそれに関しては、ノーコメントで通した。

 姉さんの手の内は、おそらく…という程度は予想できているが、問題はどの程度、

()()()()()()()

 

 会場に深雪が姿を現す。

 もうじき始まる。 

 

 

               5

 

「ほのか…。優勝したね」

 実は一緒にモニターで応援していた雫が、隣で感慨深げに呟いた。

 ひやひやしたけどね。

「さて、じゃあ雫も続かないとね」

「うん」

 下手をすればプレッシャーになるような私の言葉に、雫は淡々と頷いた。

 できることはやり尽くした。

 あとは全力でやるだけ。

 そんな状態の雫には、この程度の言葉はプレッシャーにならない。

 いいね。

 私はCADを二つ取り出す。

 ブレスレットと短刀。

「具合を確かめて」

 雫は無言でチェックする。

 緊張して見えるが、そうではない。

 もう雫は試合に集中している。

「うん。更に扱い易くなってる。完璧」

 最高の評価だ。

「それなら、あとは雫次第だよ?」

「分かってる」

 雫は口元に笑みを浮かべて応えた。

 ブレスレットを付けて、短刀は腕に巻き付け目立たないようにする。

 

 あとは会場へ、という時に乱入者が一人。

「深景さん!北山さん!応援に来たわよ!」

 閣下だった。

 この人、達也の方に行かなかったんだ。

「摩利は達也君・深雪さんの方へ行ったから大丈夫よ!」

 私の訊きたいことに、先回りで答えてくれる。

 何が大丈夫なのか分からないけど。

「それでどう?勝ち筋は見えているの?」

 顔は笑っているが、目は真剣だった。

 非常に興味があるだろうしね。

「そうですね。一泡吹かせることは最低でも可能ですね」

 あとは雫次第。

 私の言葉に閣下が、正直に驚く。

「それは凄いわね」

 閣下が素で驚いている隙に、雫に目配せする。

 この隙に行っちゃっていいよ。

 雫は正しく私のメッセージを受け取ったようだ。

「それでは行ってきます」

 雫は閣下に頭を下げて席を立った。

「え?ええ!頑張ってね!」

「ありがとうございます」

 雫は控室を出て行った。

 閣下は、それを見送り私に向き直った。

「それじゃ、見せて貰おうかしら。貴女の秘策」

 流石に魔法師。

 目が怖い。

 有効そうなら取り入れる気満々ですね。

 まっ、当然か。

 

 私は適当に頷いておいた。

 もうすぐこちらも決戦だ。

 

               6

 

 決勝を戦う二人が姿を現すと、会場が歓声に包まれる。

 一校生同士の決勝でも注目度は、当然のように落ちない。

 何しろ達也がエンジニアで、深雪が選手だからね。

 閣下と同じ目的の人とか、スカウト目的とか、色々な人が集まっている。

 みんなが、深雪達を見詰めている。

 それじゃ、会場を驚かせてあげようか?雫。

 

 歓声が少しづつ静まっていく。

 二人が放つ静かな闘志が会場を黙らせている。

 DJアーミーも大人しい。

 開始のカウントダウン。

 

 開始のブザーが響き渡ると同時に、両者魔法を発動。

 

 深雪はまずは小手調べで氷炎地獄(インフェルノ)

 雫も序盤は原作通り、共振破壊。

 深雪は雫の共振破壊を完全ブロック。

 雫も情報強化で耐える。

 それにしてもやっぱり最初は大技できたね、深雪。

 深雪の顔に落胆が見える。

 だけど、見損なうのは早いよ?

 このまま深雪が例によって押し切る。

 会場にいる全員がそう思った時。

 

 どれくらいの人が気付いただろう。

 雫の口元に微かに笑みが浮かんだことに。

 

 雫が満を持してブレスレット型CADを操作する。

 

  

               7

 

 :雫視点

 

 深雪の凄まじいまでの猛攻。

 本人は、まだまだ余裕を持っているみたいだけど、私からすれば十分な猛攻。

 でも、まだこっちも一つのピラーも破壊されていない。

 そして、漸く綻びが見えた。

 深雪でも勝ちが見えた瞬間は、気が緩む。

 既に十分こちらに魔法の影響を引き込んだ。

 そろそろいくよ?

 私はブレスレット型CADを操作する。

 魔法式は深景さんに見せて貰っている。

 深雪の得意な魔法は全部。

 正直、ここまでやっていいのってくらい。

 どこを突けばいいかも、感覚的にだけど理解した。

 私は深雪の魔法に干渉を掛ける。

 勿論、深雪の魔法を完全に抑え込むなんて私には無理だ。

 だけど、()()()()()()()()()()()()

 突如、深雪の魔法が揺らぐ。

 深雪は感性が鋭いから干渉されていることに気付いた筈。

 今まで干渉なんて許したことがない筈だ。

 深景さん曰く。

『強力な魔法、Aランクの魔法っていうのはね。総じて繊細な制御を要求されるの。深雪

なら立て直すだろうけど、でも主要な部分を弄られると、なかなか立て直せずに大崩れする

んだよね。いくら深雪でもね。私達はその隙を突いて戦うって訳』

 深雪に初めて動揺させた。

 ここまでが準備。

 ここまでは問題ない。

 ここからが本番。

 更に効果範囲を設定している部分に干渉して、書き換える。

 私のピラーを範囲外へ。

 猛火と吹雪を深雪に押し付ける。

 自陣から深雪の魔法が消えた。

 氷炎地獄(インフェルノ)が深雪のピラーに襲い掛かる。

 深景さん曰く。

 他人の褌で相撲を取ろう作戦。

 ネーミングはどうかと思うけど、やってるのはその通り。

 深雪は即座に魔法の制御を諦めて、魔法を終了させる。

 あれだけ乱れたのに、一瞬で収めるなんて流石深雪。

 だけど、チャンス。

 私は袖から短刀を取り出す。

 会場がどよめき、深雪が驚きに目を見開く。

 CAD同時操作って程じゃない。

 私は短刀を振り抜く。

 熱線が深雪のピラーを撃ち抜く。

「フォノンメーザー!?」

 どこからか正解を告げる叫び声が聞こえる。

 深景さんは、最終的にはモノにできるだろうけど、試合には間に合わないと踏んだ。

 それは正しい。

 だから、それを補うものを用意してくれた。

 フォノンメーザーの魔法式を刻印化した短刀を。

 私が普通にCADから放ったのでは、深雪の防御にここまで被害を与えるのは、

難しかった。

 深雪のピラーが二つ崩れ去る。

 

 深雪がリードを許したことはない。

 でも、そんなことで満足する気はない。

 必ず勝つ。

 

 

               8

 

 :深雪視点

 

 お兄様は流石です。

 使われる魔法は、お兄様の予想通り。

 そして、お兄様は仰った。

 どの程度、予想を超えてくるか、問題はそこだと。

 私が展開した魔法式に一部とはいえ、干渉してきた!?

 咄嗟に魔法を終了させてしまった。

 エイミィの魔法を見て、お兄様は予想を立てていた。

 おそらくは私の魔法発動を妨害してくると。

 予想を超えてくるだろうと、いわれていても驚いてしまった。

 雫はこちらが攻めに集中し踏み込み、勝ちを確信する瞬間を待っていたのね。

 攻めが強力な分、それがこちらに跳ね返る形になった。

 まだ、破壊されていないピラーも、かなりダメージがあるとみるべきね。

 しかも、フォノンメーザーまで持ち出すなんてね。

 

 でも、このまま勝てるなどと思わないで、雫。

 

 私にもお兄様が用意してくれた対策がある。

 予想を超えていても、まだ対応できる範囲だったことは幸いだったわ。

 私は雫が次の攻撃を行う前に、CADを操作する。

 選択魔法はニブルヘイム。

 雫の陣地に極寒の地獄が現れる。

 それでも、雫は余裕の態度。

 そうよね?お姉様から私の得意魔法ぐらい聞いているわよね?

 その雫の余裕に罅が入る。

 雫にはお兄様の様な眼はない。

 お姉様のような感覚がない。

 一般の魔法師の範疇で、魔法式に当たりを付けて干渉している筈。

 エンジニア以外に、キルリアンフィルター付きのカメラは使用不可。

 なら、その感覚を疑わせればいい。

 当然お兄様なら、魔法式を私用に最適化したものを使うと思ったんでしょ?

 お姉様すらそう思った筈。

 干渉しようとして、大した妨害になっていない事実に戸惑っている。

 ニブルヘイムは、雫の陣地から多少揺らいだだけで、依然として雫の陣地に

居座っている。

 その動揺を今度は私が突く。

 ニブルヘイムを解除して、衝撃波を放つ。

 雫が咄嗟にCADを操作して、衝撃波に干渉して被害を抑える。

 それでも中央の四本のピラーが破壊される。

 氷炎地獄(インフェルノ)も、雫のピラーに確実にダメージを与えていた筈。

 ここで壊せなかったとしても、じっくりと攻めればいい。

 私は再びニブルヘイムで雫の陣地を襲う。

 

 悪いけれど、勝ちは譲らないわよ。雫。

 

 

               9

 

 やっぱり達也は、こっちの手を読んでたか。

 深雪のCADには、最適化したニブルヘイムと、公開されている魔法式そのままのニブル

ヘイムの二つが、入れられていたんだ。

 大体の感覚では、効果範囲設定部分の魔法式にズレが生じるだけで、効果が激減する。

 一方、深雪は魔法を使う側だから、魔法式は正確に把握している。

 主要部分が無事なら幾らでもリカバーしてしまう。

 深雪くらいの使い手ならの話だけど。

 普通の魔法師なら維持することもできない。

 雫。焦らないで。

 最適化されただけで、位置は若干変わっているだけだよ。

 落ち着いて探して。

 その祈りが通じた訳ではないだろうけど、雫が落ち着きを取り戻す。

 魔法師は冷静に。

 雫に練習でいい続けていた甲斐もあった。

 同じニブルヘイムなんだから、答えは雫にも出せる。

 雫がニブルヘイムを探るように干渉し出す。

 そう、落ち着いて。

 必ず分かる。

 雫が目を閉じて集中している。

 深雪が頃合いとばかりにニブルヘイムを終了させようとした、その時。

 雫が目を見開く。

 ニブルヘイムが深雪のピラーも巻き込み出した。

 これは博打としては分が悪いよ?

 雫が干渉したのは、効果範囲を示す部分ではない。

 制御系の部分。

 深雪が暴走寸前の魔法の制御に追われる。

 雫のピラーだけでなく、深雪のピラーまで巻き添えにしている。

 深雪の表情に余裕はない。

 額には汗が大量に流れている。

 ここまでくると時間の勝負になる。

 雫のピラーには時間がない。深雪のピラーには若干だが、雫のピラー以上の余裕がある。

「フッ!」

 雫が気合一閃で短刀を振るう。

 熱線の形だけでなく、私の短刀は斬撃としても使用できるんだな、これが。

 深雪の陣地のピラーが、防御を貫いて斬り裂かれ崩れていく。

 

「ハァ!!」

 

 誰の声か一瞬分からなかった。

 声を発したのは、深雪。

 暴走寸前の魔法を収めてしまった。

 一瞬で。

 今度は雫もそんなことで動揺したりしない。

 

 次で勝負が決まる。

 

 

               10

 

 :達也視点

 

 破壊判定こそされていないものの、両陣地共にピラーはボロボロ。

 ここまでくれば、ピラーの本数が幾つ残っていようと関係ない。

 次の魔法で決まる。

 

 二人の選択魔法は奇しくも同じ。

 

 共振破壊。

 

 氷が砕ける音がやけに大きく響いた。

 

 会場が静まり返っている。

 深雪のピラーの残り二本の内、一本が崩れる。

 だが一本、深雪の傍にあったピラーが無事に立っていた。

 そして、雫の陣地には綺麗にピラーが消えていた。

 

『激戦を制したのは、第一高校・司波深雪選手!!!』

 

 耳障りな絶叫が会場に響き、会場も釣られたように歓声を上げた。

 ギリギリの戦いになったな。

 雫があそこまでギャンブルをやるとは、流石に予想できなかった。

 下手をすれば、ニブルヘイムを暴走に追い込んだ時点で終わっていただろう。

 深雪が咄嗟に制御に集中したことで、ニブルヘイムの威力が落ちた。

 それにより、雫のピラーの耐久度が多少残った。

 そして、雫に反撃のチャンスが巡ってきた。

 もっと、雫が干渉技術に習熟していたら、結果は違っていたかもしれない。

 深雪もそこを理解しているようで、勝ったというのに観客の歓声に応えることはない。

 同様に雫も健闘を称える拍手と歓声に応えなかった。

 もっと習熟していれば。

 それは雫こそ痛感している最中だろう。

 それにしても、姉さんもとんでもないことをする。

 魔法式の一部分のみを全力で押さえ込むなど。

 キャストジャミングなど目じゃない程、厄介な技術だ。

 姉さんも領域干渉に偽装しているだろうけど、効果が別物だ。

 惚けても厳しいだろう。

 これは風間少佐と相談しないといけない。

 姉さんが、また顔を顰めるのが目に浮かぶ。

 やり過ぎたんだから、堪えて貰おう。

 

 こうして、新人戦・ピラーズブレイクは、深雪の優勝という形で幕を下ろした。

 

 

               11

 

 :戸愚呂視点 

 

 やれやれ。

 新人戦くらいはゆっくりしていられると思ったんだけどねぇ。

 通信機を耳から離し、仮初の依頼主からの怒声という名の命令を聞いていた。

 ま、仕方ないかね。

 新人戦とはいえ、ここまでされたら妨害せざるを得ない。

「了解しました。新人戦・モノリスコード辺りで仕掛けますよ」

 

 そういい捨てて、返事も聞かずに通信を切った。

 溜息が出るねぇ。

 

 

 

 

 

 




 本当ならほのかを掘り下げて上げたかったんですが、
 沓子との戦いは優等生の通りだったので、端折り
 ました。

 やっとここまできたか。
 魔法に対するツッコミは無用でお願いします。
 私の脳ではこれが限界です。

 次回も気長に待って頂ければ幸いです。
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