司波家の長女は何をする?   作:孤独ボッチ

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 少し時間が掛かりましたが、なんとか書き上がりました。
 長くなりました。
 それでは、お願いします。


九校戦編16

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 直前の試合観戦が無駄に終わって、私達の出番がやって参りました。

 九校と渓谷ステージ。原作通りです、ありがとうございます。

 試合も女子交じりのイレギュラーにも負けず、原作通りの決着がつきました。

 幹比古君が霧を発生させ、相手の視界を奪うと同時に結界を張り、自陣を護る。

 そして精霊を用いて、河童の如く選手を川に引き摺り込んでいた。

 王子様マーチのあとは、リア充独壇場ですね。

 私達、特にすることなかったよ。

 達也が一人で走っていってモノリス開いて、コード打ち込みして試合終了。

 

 今回もちょっかい出してこなかったね。いいんだか、悪いんだか…。

 だが、襲撃はきっとある。

 肌に感じるヒリついた刺激を、私はそっと撫でて宥めてやった。

 この空気は非常に覚えのあるものだった。

 いい要素もあるけど、決勝とか結構ハードモードだね。

 

 

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 もう決勝の準備を達也が始めている。

 どうも達也は小野先生をパシリに使ったようで、いい笑顔で荷物を受け取っていた。

 その後は、何やら怪しい笑みを浮かべて密談してたけど。

「お待たせ、姉さん。行こうか」

 荷物を持って私と合流する。

 私は、柱に手をついて猿の反省ポーズで燃え尽きている小野先生に敬礼を贈った。

 ウチの弟がすまん!

 勿論、心の中だけだけど、私は小野先生に詫びを入れて達也に続いた。

 

 試合前のブリーフィングを開始する。

 達也が用意した切札に、皆さん興味津々だ。

 さあ、聞いて驚け!見て呆れろ!

 達也が切札を開陳する。

 集まった生徒会メンツと二科生の勇者二人が覗き込む。

 そして、暫し沈黙。

「…コート?」

 閣下の声が虚しく響く。

「いえ。マントとローブです」

 どうだ。凝ったCADだとでも思ったでしょ?でも、出てきたのは古式の術式媒体だ。

 私の専門分野だけど、今回は達也の伝手で用意したものだ。

 何故、私は用意しなかったのかって?私の造ったやつは表に出せないって、達也に

却下されたからさ。

「ええっと…防御力の強化…とか?」

 閣下が窺うように私を見る。

「まあ、そんな感じですかね」

 間違っている訳でもないので、私は頷いておく。

 達也の方も特に訂正する気はないようだ。

「お兄様。もうデバイスチェックは通していらっしゃるのですか?」

 深雪が肝心な部分を訊く。

「いや。まだだが、おそらくは大丈夫だ。魔法陣を織り込んだ装備を着用してはならない

とは、ルールブックには書かれていないからね」

 達也の言葉に閣下の頭の上に?が浮かぶ。

「古式の術式媒体で刻印と仕組みは同じですよ。設定された魔法の使用が容易になります」

 助け舟を出した私を見て、閣下がポンと手を打って納得した。

「補助効果って訳ね!…確かにルール違反って訳じゃなさそうだけど、ただ想定外って

だけなんじゃない?」

 閣下が一転して心配そうな顔をするが、達也は平然としたものだ。

「ダメだといわれたら、素直に諦めますよ。これがないと試合が成り立たない訳では、

ありませんからね」

 閣下の表情からまだ心配の色が抜けず、少し考え込んでいるようだ。

 暫く黙っていたが、意を決して顔を上げる閣下。

「決勝戦に出てくれただけで、こちらの目的は達しているし、これ以上の無理はしなくて

いいのよ?」

 閣下が気遣って、そんなことをいってくれた。

 結局なんだかんだで、帳尻が合って新人戦優勝は一校で決まったからね。

 だが、決着を付けずには終われない。ハードだろうとなんだろうとね。

 決勝は別の意味で荒れるだろうな。

 

 この素晴らしい装備は、勇者二人のものだと明かされて、二人は沈黙していた。

 ヒーローの定番だよ、いいじゃない。ガンバ!

 

 

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 五十里先輩にデバイスチェックを丸投げして、私は決勝に向けての根回しをすることに

した。

 達也は決勝前に身体を温めて置くつもりのようだ。

 本来なら遊撃の私もやるべきなんだろうけど、こっちの方が優先度が高い。

 という訳で、ズンズンと幹部が泊まるエリアに踏み込んでいく。

 天狗さんの部屋の前には、二人の軍人が立っている。

 その二人が私を見て目を見開くと、私の前に立ちはだかる。

「特尉。アポイントメントはないでしょう。お引き取りを」

 軍人の一人が私にそんなことをいってくる。

「重要な話があるのですが、取次も無理だと知っているので、押し通ります」

「「はっ!?」」

 二人はまさか私がそんな無茶をするとは思えなかったのか、隙だらけになって驚く。

 悪いけど、隙を見逃すほどお人好しでもないんだよ。

 私は流れるような動きで、二人に拳の一撃を見舞う。

 二人が崩れ落ちるようにダウンする。

「悪いね」

 私はそういうとノブに手を掛けようとして、手を止める。

「特尉。問題行動だな。処分は避けられないぞ?君は四葉の関係者でもだ」

 扉越しに天狗さんの冷たい声が響く。

 残念ながら、そんな声出しても怯まないよ。

 更に残念なお知らせを教えて上げよう。私も今、非常に不愉快な気分だ。

 この不愉快な気持ちを分かち合いましょう。

「それも含めて話し合いたいので、入りますよ?」

 部屋に掛けられている術を、サイオンで強引に破壊して扉を開ける。

 天狗さんは、ちゃんと椅子に座っていた。

 隠れている訳でも幻影でもない。

 頭痛を堪えるような渋面で天狗さんが迎えてくれる。

 招かれざる客だろうしね。

「やり過ぎだぞ。処分を覚悟しろ」

 私は鼻で嗤ってやる。

「そちらはどうなんです?九校戦にちょっかいを出しているのが、独立魔装大隊・隊員

であったという問題は」

 それを聞いた天狗さんは苦り切った顔で黙り込んだ。

 やっぱり図星か。

 そもそも電子の魔女(エレクトロンソーサリス)が、こんな単純な作業で無回答なんて有り得ないしね。

「それを問い合わせても、梨の礫でしたが?疚しいことでも?襲撃があるとすれば、次の

決勝でしょう。いい加減待てないんですよ。護って貰えないなら、自分達の身は自分達で

護る必要があるでしょうが」

 ハッキリいって、元だろうがなんだろうが独立魔装大隊に所属していたヤツが、絡んで

いる以上、警備を担当している国防軍全体の問題だ。それを伏せて、裏でコソコソしてる

だけで動かないとか、舐めてんの?思いっ切り迷惑を被ってるんだけど?

「襲撃?この状況の動かしようのない時にか?有り得んな」

 天狗さんがバッサリと切り捨てる。

「まさか、この空気が感じ取れないとでも?」

「……」

 やっぱり天狗さんも察してるんじゃないですか。

 鼻もぐぞ。

「まさか達也が何もいわないのが、忖度の結果だなんて思ってないですよね?私は親切で

来てるんですよ?今のうちに黙認して下されば、口裏くらい合わせますよ?」

 何について黙認するかはいうまでもなく、これから暴れることに関してだ。

 暗躍の大好きなクソ爺とか、野心のある軍人とかを刺激しないように、そっちで対処

してほしい。何もしないなら、それくらいのフォローは遣ってほしい。

 アレが原作通りで本気なら、軍を含めて全滅してる。妨害工作も本気なら、もっと上手

く、一校をズタズタにできただろう。B級妖怪とかいうカテゴリーが生きているか知らな

いが、向こうは本気を出す気が今のところないのでは、と思う。

 メンツもネタ元と多少変われど、本気のメンバーじゃない。勿論、ここは魔法科高校の

劣等生の世界だから、存在していない可能性はあるが、取り敢えず最悪を想定しておいて

損はないだろう。元ネタ通りじゃないなら、それは朗報だ。だがもしいるなら、向こうは

まだ本気を出す時期じゃないと考えている可能性が高い。それなら、私の封印を解除せず

ともやりようはある。向こうが負けてくれるなら、想定より痛い目にあってもらう。

 エイミィの傷の借りは返さないとね。

 いずれ、本気でやる時がくれば、こっちも正式に倍返しするまでだ。

 達也が何も反応しないのは、いざとなれば自分で強引に片付けると決めているからだと

思う。何しろあの子は、原作二年の時の九校戦でコース消し飛ばそうなんて考える子だし。

 野放しにすると、本気で軍がヤバいですよ?

「達也がやるより、私の方が穏便に済みますよ?」

 天狗さんは、改めて達也のやらかしそうな事柄に、思いを馳せているようだ。

 実は達也、ちょくちょくやり過ぎてたりするし。

 この天狗さん、達也のことは評価してるけど信用はしてないからね。ある種の信用は

してるだろうけど。ついでに私の評価もあんまり変わらないだろうけど、達也ほど無茶は

しないよ…?説得力?…まあ、気にしないで。

 黙考した後、天狗さんが溜息を吐いた。

「分かった。ただし、達也には言い含めて貰うぞ」

 はい。言質頂きました。

「了解しました」

 私は笑顔で敬礼してやった。

 私は別に魔装大隊が、いつまでも味方だなんてお花畑な考えは持っていない。

 私が読んで知っている未来でさえ、魔装大隊との関係は微妙になっていた。

 故に、私はいつまでも仲良くできるとは考えていない。

 気に入らない時は、ハッキリいうし、行動しますよ。

「ああ()()

 出て行こうとした私を天狗さんが呼び止める。

 なんぞや?

「処分だが、減俸とする。二人の慰謝料の代わりになるからな。かなり長い期間になる

だろう」

 天狗さんよ。この場で勝手に決めていいのかな?

 私の心を読んだように皮肉っぽく笑う。

「それが妥当だと、説得するさ。懲戒の上、身柄を押さえるなどというのは悪手だろ?」

 これはあの生臭坊主、何か吹き込んだな。

「それに、こっちの方が効くだろう?」

 きゃー。小父様素敵!斬りたくなっちゃう!

 

 まっ、本業があるから困らないけど…。

 嫌な仕事なのに、薄給とか。地味に嫌だ。  

 

 

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 天狗さんにも断ったし、気紛れでも本気を出されたりする前に、想定外のダメージを

負って()退()()()貰わないといけない。凄く高度なミッションだよね。

 何故、撤退かって?あの真正の化け物、軍の手に余るし、手段を用意してないほど

迂闊だとも思ってないからだよ。

 心の中でブチブチ愚痴りながら帰ると、達也が眉間に皺を寄せていた。

「どうしたの?」

 私が声を掛けると、達也が困った顔でいった。

「深雪に勝ってほしいといわれたんだ」

 あ~。成程ね。無茶しないと王子様には勝てないよね。

 最悪を想定するなら、決着が着いた直後、或いは直前にあの化け物に参戦されるのが、

一番困るから、もう少し楽に勝てるようにしたいけどね。

 やっぱり刀を使うのが、一番無難か。レギュレーションに引っ掛からないように偽装

してあるが、王子様と残念参謀のコンビくらいなら、どうにかできるだろう。

「達也。分かってるだろうけど…」

「分かってるよ。襲撃のことを考えると苦戦程度で勝たないと不味い。更にハードルが

上がるな」

 私の言葉に、達也が苦笑いする。

 お互いハードルが高いことやらなくちゃいけなくて、大変だよね。

 それに達也も襲撃はあると踏んでる訳だ。まっ、達也も同じ位実戦経験あるしね。

 当然か。

 残念王子のことは任せたよ(丸投げ)

「まあ、新人戦優勝の結果は動かないから、どうなるかまだ分からないけどね」

 自分でも信じていないようなことをいってみる。

 そう、妨害するには本当なら遅い。もっと前にやっておかないといけないが、あちら

は何もしてこなかった。これが向こうが本気じゃないと判断している要因の一つに

なっていたりもする。

 達也も頷いたけど、同じことを考えているみたいだ。

 次が本命だと、戦場の勘と空気が告げている。

 実戦を経験すると、そういう勘が働くようになり、独特の空気も感じられるように

なってくる。

 どこでそんな実戦を積んだんだって?勿論、ブラック職場・魔装大隊でだよ。

 原作じゃ、どうだったか知らないけど、結構チョコチョコ入り込んだ他国の工作員と

やり合う機会があるんだわ、これが。

 

 その勘がいっている。襲撃はあると。

 なんかもうね。ずっと鳥肌が立ちっぱなしなんだよね!

 達也は、もっと理性的な理由かもしれないけど。

 

 

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 うんざりする程の原作通り、私達の決勝ステージは草原ステージに決まった。

 襲撃があったら、何も盾にできないじゃないですか。少しくらいこういうところは、

変わってもいいのだよ。駄神よ。

 知らせを聞いた一校の天幕は、重苦しい沈黙に包まれた。

「厳しい戦いになりましたね。お姉様、お兄様」

 全くそうだね!

 深雪が自分自身でハードルを上げておいて、そんなことをいってくれた。

 まあ、いいんだけどね。頑張るの達也だし。

 それにしても、この空気で真っ先に口を開くとは、流石マイシスターよ。

「いや、一条家の爆裂を考えれば、渓谷ステージや市街地ステージにならなかっただけ

マシといえる。限定された空間で水蒸気爆発など起こされたら堪らないからね」

 達也が非常にポジティブな発言をした。

 本来の使い方したら、ルール上アウトだけど、水蒸気爆発なら加減すればセーフになる

からね。

 でもそうか、それを考えれば盾がないくらいは耐えないといけないのかな?

 ギャグみたいに吹き飛びたくないし。

「しかし、遮蔽物のないステージで、砲撃戦の得意な魔法師と対峙しなければならない

ことには変わらないだろう。策はあるのか?」

 カンゾー君が珍しく私達の心配をしてくれているようだ。

 原作よりこの人、マイルドだけど親しいとまではいえない先輩だから、やっぱり多少

驚くよ。

 達也が軽く目を瞠っている。

 閣下は俯いて考え込んでいる様子だ。

 表情からは、漠然とした不安を感じているのが読み取れる。

 閣下も理性では襲撃は現実的でないと思っているようだが、本能の方は警告を発して

いるのだろう。カンゾー君に任せ切りである。

 達也がお触りしなければいいんですよ、なんて説明を聞きながら、私も覚悟を決めた。

 

 さあ、それじゃツケを払わせますか。

 

 

 

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「やっぱり、これ、おかしくね?」

 レオ君がマントの襟を立てながら、赤面していった。

 少しでも顔を隠したいんだろうけど、逆に目立つから、それ。

「なんで僕達だけなんだ…」

 幹比古君がフードを深く被りつつ、そんなことをいった。

「お前の方がまだいいじゃねぇか。俺なんて顔がモロだぜ」

「じゃあ、交換するかい?」

 レオ君の愚痴を、ヤケクソ気味にぶった切る幹比古君。

「……」

 結論、どっちも変わらない。

「いいじゃない。マントなんてヒーローのお約束だよ?実際は事故の元になるらしいけど」

 洋物ヒーローの博士が、事故ったヒーローの例を挙げてたっけ。

 おっと、余計なことをいってしまったか!二人の顔にオドロ線が!

 私は最後の言葉を誤魔化す為に、笑顔でサムズアップしてあげた。

「フォローしてぇのか、とどめ刺したいのか、せめてハッキリしてくれねえ?」

「じゃあ、交換しよう!そうしよう!」

 レオ君は私の発言にげんなりしているが、幹比古君はなんか壊れていた。

 そんなに嫌かな?

 リアルに私は付けてもいいけど?魔法の世界だし。

 なんだったら、私の魔法少女コスと交換してやろうか!?

 おっと、熱くなってしまった。失敬。

「二人共、それくらいにしておけ。使い方の説明はしたし、意図も説明して納得した

だろう?」

「「……」」

 達也の言葉に黙り込む二人。

 正論は人を助けない。

 分かっていても、つい愚痴りたくなるんだよ。

「今頃、笑ってやがるんだろうな…」

 レオ君の哀愁漂う言葉に、幹比古君が項垂れた。

 

 その誰かさんは、予想通り周りが引くレベルで笑っていたとか。  

  

  

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 :将輝視点

 

 こちらに都合よく草原ステージになってくれて、喜んだジョージだったが、相手陣営の

姿を見て顔を強張らせた。

「なんだありゃ?」

 男子の最後のメンバー保坂が、軍用プロテクターの上から羽織るマントを見て鼻で嗤う。

「意味のないコスプレではないでしょう」

 女子唯一のメンバーである一色が、冷静な声でいった。

 保坂は発言者が一色とあって、肩を竦めて黙った。

 保坂からすれば、ナンバーズにものはいい辛いだろう。

 確かに新人戦において、今までにない戦術や魔法を見せ付けてきた二人が、ここにきて

遊びに走った訳じゃないだろう。現実的な意見としては…。

「おそらくは、不可視の弾丸(インビジブルブリット)対策じゃないからしら」

 一色は、そういってジョージを横目で見た。

「その可能性は高いね。でも、貫通力がないとはいえ、あんな布一枚で防がれるものじゃ

ないし…」

 司波達也はジョージのことを知っていた。

 一色のいう通りの可能性は極めて高い。

 ジョージもその可能性が高いことを認めている。だが、不可視の弾丸(インビジブルブリット)はジョージにとって

特別な魔法だ。ジョージが初めて成した大きな功績だ。それが破られると完全には肯定

できないのだろう。

「幸いこちらはただのハッタリではないと分かっている。分からないなら、これ以上あれ

これ考えても仕様がない。力押しする以上、食い破っていくしかないさ」

 ジョージが本格的に考え込み、調子を崩す前に俺は明るく声を掛けた。

「そうだね」

 俺の考えが分かったのか、少し申し訳なさそうにジョージは答えた。

 保坂も俺の考えを察したのか、ジョージの肩を軽く叩いた。

 ジョージもそれに苦笑いで応えていた。

「新人戦優勝は持っていかれてしまったが、せめてモノリスコード優勝くらいは貰おう」

 俺の言葉に全員が力強く頷いた。

 

 だが、なんだ?この不安感は…。

 

 

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 :九島烈視点

 

「九島閣下!このようなところに何故!?」

 本部席近くのスタンドにある来賓席に座った私に、大会運営を担う軍人がやって来る。

 私の姿を見た観客の一部が騒めいている。

「なに、偶にはこちらで観よう思ったのだよ」

 別に君に落ち度があった訳ではない。そう気にすることもないのだがね。

「それは光栄ですが…」

 それでも急な行動の疑問は解消されない軍人が、こちらを窺うように見た。

 私は、その視線に笑顔で応える。

「面白そうな若者の多い試合でね。ここで観たくなった。それだけだよ」

 一応の納得をしたようで、軍人は部屋を出て行った。

 嘘はいっていない。

 面白そうな若者は多い。だが、それ以上に興味深いことがこれから起きるだろうと私は

見ている。

 この空気には覚えがある。戦場で稀に感じる感覚。極めて重要なことが起きるという

予感だ。私は未だにこの感覚を信頼している。

 

「さて、見せて貰おうか。我が国の将来の国防の姿を」

 

 

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 試合開始のブザーと共に、砲撃魔法が幾つかこちらに向けて発動する。

 王子様マーチ再びである。

 達也は冷静に発動直前の魔法を無効化して、王子様同様にマーチして行く。

 今頃、観客席は驚きと歓声に包まれていることでしょう。

 こんな真っ向からの撃ち合いなんて、中々見る機会はないだろうしね。

 ステージは静かだ。一応、魔法を打ち消す音、魔法を防ぐ音はするものの、その印象は

変わらない。私は三校の動きは見つつ、周辺を警戒していた。

 肌がピリピリする。

 どこで仕掛けてくる?

 ここで達也が王子様の攻撃を捌き切れなくなってきた。

 それと同時に三校陣営が動く。

 残念参謀と命知らずその一が左右に別れて走り出す。

 達也を迂回して二人で攻めに来るか。

「幹比古君。私はいの…もといあの派手な子を引き受けるから、カーディナルよろしく!」

 私は幹比古君に断りを入れると、決意に満ちた顔で幹比古君が頷く。

 これは想定通りだ。王子様が前の試合で、達也を挑発したことを考えれば、当然の帰結

といえる。

 レオ君も笑顔でサムズアップして応えてくれた。

 私は拳銃型CADを腰から引き抜くと走り始めた。

 命知らずその一が、物凄いスピードでこちらに向かって来る。

 迂回する様子もなくこっちを見据えている。

 こっちも真っ向勝負か。二科生相手に大人気ないなぁ。向こうには関係ないか。

 でも、嫌いじゃないわ!

 思わず不敵な笑みが零れてしまう。

 CADを走りながら構えた瞬間、命知らずその一の姿が掻き消える。

 私は慌てることなく横っ飛びで転がると、私が通ったであろう進路が爆ぜる。

 雷撃。

 しかも雷と遜色ないスピードでの移動魔法も使えるか。

 まっ!予想の範囲だけどね!

 私は転がりつつも、素早く起き上がる。

 人の身体能力を越え、人外の技を持って戦う剣士に稽古を付けて貰ってたんだ。

 速い程度では、やられてあげないよ。

 一瞬にして相手の姿が掻き消えては、現れる。

 魔法発動も流石に速い。

 達也と王子様の対決とは違い、私と命知らずその一の戦いはお互い触れられるような

距離での接近戦となった。

 お触りしなければいいんですよって?意外に達也と気が合うのかな?

 私もスピードが落ちる攻撃魔法発動の瞬間を狙って、霊丸を発動するが避けられる。

 ほんの僅かだが、私には十分な時間だ。

 至近距離で高速移動しつつ、撃ち合う。

 どうやらあちらは、ガチでの戦いを所望らしい。

 距離を取っては、避けられると初手で悟ったようだ。

 尤も、撃ち合うといっても弾数制限がある私が不利で、一方的に撃たれてますが何か?

 だが、あちらの攻撃も当たらない。

 動きが速くとも、攻撃の瞬間は移動に比べれば遅い。そんなもの余裕で躱せる。

 私は辛抱強くチャンスを待つ。

 大体動きのリズムも把握している。そろそろか。

 これだけのスピードだと、ある程度リズムを無意識に決めて動いてしまう。

 スピードに乗ると、それだけ動きに融通が利かなくなるから、その方が楽なのだ。

 それに反応できて、避けられるなら、捉えられる。

 私は視線を動かすことなくCADの銃口を背後に向ける。

「っ!?」

 見なくても、驚愕が伝わる。

 グッバイ、命知らずその一。

 

「っ!?」

 

 だが、私はCADの引き金を引くことはできなかった。

 咄嗟にCADを捨て、身体を捻ると逆手で命知らずの首根っこを掴み地面に引き

倒した。

「ルール違反…」

 命知らずがいい終えないうちに、命知らずの頭があった場所が燃え上がる。

 咄嗟に引き倒さなかったら、首から上が焼け落ちてただろうね。

 命知らずも、それが分かったのか、非難を飲み込んだ。

 私は、それをやったヤツの方に向き直る。

 感情のない顔で黒服の団体さんが歩いてくる。

 タイミングが想定より早いな、まだ余裕がある時にくるなんて、向こうは余裕だ

ね。

「ちょっと!なんなの!?どうして試合中にこんな連中が!」

「わぁ。団体さんがお着きだ」

「感想がそれなの!?」

 命知らずが喚くが、今は無視だ。

 ちょっとネタが通じず悲しい…なんてこと、ないんだからね!

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で確認すると、既にカメラは全て破壊され、人員も始末されている。

 そして、誰も応援に遣って来ないし、人も近付いて来ない。

 随分、隠密や人を寄せ付けない術に長けたヤツがいるようだ。

 

 そして、全員がパラサイトだ。

 

 これであっちは本気で仕事してないことが確定した。

 試合で刀を使うことがなくなってしまった。フラグ回収ならず。要らんフラグを回収。

 まあ、どっちにしろエイミィの借りを返さないといけないから、いいか。

 まっ、何はともあれ…。

 

「100秒目標で…六根清浄!!」

 私は、命知らずを置き去りに一瞬で間合いを詰めると、炎を放ったパラサイトを一刀で

斬り捨てた。

 コアが極彩色を放って消えていった。

 

 

 

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 :エリカ視点

 

 試合は最初から凄い展開になった。

 クリムゾンプリンスは、有名人だ。実力者であり実戦経験済みの魔法師として。

 これは試合だから加減しているとはいえ、ドンドン砲撃しながら1校のモノリスに向けて

歩いてくる。

 達也君もそれを無効化しながら、等速度で近付いていく。しかも反撃を入れながら。

 ホントに達也君は二科生というのが詐欺な存在ね。一科生でもあれができる学生は殆ど

いないと思う。

 観客からも歓声が沸き上がる。

 でも、だんだん達也君の手数が減ってる。

 それはそうだ。地力が違うんだから。

 遂に誤魔化し切れなくなって、達也君が走り出す。

 魔法が地面に着弾し、地面が派手に爆ぜる。

 それでも達也君は止まらない。魔法を無効化しつつ走って行く。

 そうこうするうちに、三校側が動く。

 カーディナルと一色家の娘が左右に別れて走り出す。

 予め決めてあったんでしょうね。

 その動きを見て、深景達も動く。といっても走り出したのは、深景だけだったけど。

 一色は、深景を見据えて一直線に一校のモノリスへ走っている。

 深景と一対一で戦うつもりなんだ。

 三校の生徒は誰もあの姉弟をナメたりしない。

 さて、お手並み拝見しますか。

 なんて考えた瞬間、一色が姿を消した。

 移動系魔法!?

 深景がほぼ同時に横っ飛びに転がる。

 地面が爆ぜる。

 深景は、そのまま転がりながら器用に起き上がった。

 そこから始まった戦いに観客も私達も驚くことになった。

 瞬間移動でもしているのかって位のスピードで移動し攻撃する一色に、深景は足捌きと

一瞬の起こり、第六感のみで一色の攻撃を躱し、一撃だけとはいえ反撃までして見せた。

 まるで深景は一人で舞でも舞っているように見える。

 私でも一・二回は躱せるだろうけど、あれ程までに回避するのは不可能だ。

 無意識に私は手を強く握り込んでいた。

 魔法がなくても人は、あそこまでいけるのだ。私は感動すらしている。

 今すぐにでも稽古がしたくなる。 

 私の目指す剣は、あの先にある。

 魔法剣術ではなく、古武術としての剣術。私はそれを極めたい。

 勿論、魔法剣術だって好きだけど、一生続けたいのは剣術なんだと改めて確認した気分

だ。

 私の興奮を余所に深景の戦いは動きを見せる。

 最初は冷静だった一色も、全く当たらない攻撃に痺れを切らしてきていた。

 深景は、一方的といえる猛攻にも全く動揺を見せない。寧ろ集中が高まっているように

見える。

 そして、遂に深景が後に突然現れた一色に視線も向けずにCADを突き付けた。

 勝負あった。

 そう思った瞬間、草原ステージを映すモニターがブラックアウトした。

 観客が戸惑いの声を上げる中、私は立ち上がりもう映らなくなったモニターを睨んだ。

 

 原因なんて、一つくらいしか思い付かない。

 でも、こんな意味のないところで何故?という疑問で一杯だった。

 

 

               11

 

 :九島烈視点

 

 モニターがブラックアウトし、ここからでは何が起こっているか確認できない。

 私は残念に思いつつ、立ち上がった。

 頼まれていた後始末を片付けなければならない関係で、ゆっくり動かねば。

 来賓席の扉のノブに手を掛けようとして、止まる。

 何故なら、その扉が開いたからだ。

「閣下。こちらでしたか」

 扉を開けたのは風間君だった。

「どうしたのかね?」

 風間君が扉を塞ぐように立っているので、通ることができない。

 できれば早く対処しに行きたいのだがね。

「閣下はどこかへ行かれるおつもりでしたか?」

「不測の事態が起きたようだからね。対処しにいこうと思っているのだが?」

 風間君の質問に簡潔に答える。嘘はいっていないよ。

 風間君は、私の答えに頷く。

「では、こちらで既に手配致しましたので、暫くこちらで待機して頂けますか?」

「何?」

 戸愚呂の話では、邪魔が入らないように万全を期していると聞いた。

 なのに、手配しただと?

「腕利きですので、ご安心下さい。護衛も付けましょう。藤林」

「っ!?」

 風間君の後ろから無表情の孫娘が姿を現し、慇懃に頭を下げた。

「気を遣わせてしまったかな?」

 少し皮肉を込めていってしまったが、そんなことで恐れ入る可愛げはこの男にない。

「いえ。職務を遂行したに過ぎません。失礼いたします」

 いうことをいって、サッサと風間君は出て行った。

 腕利き。

 察するに深夜の子供か。風間君がそこまで評価するとは、戸愚呂の遊びも無理からぬ

ことか。あの男の強者への拘りは、人間を辞めても治らなかった。

 最早、仕事を無視して自分の楽しみに走っている。

 丁度いい。私も見せて貰おう。深夜の子供の力を。

 直接見れないがね。

「では閣下。こちらへ」

 孫娘が慇懃な態度を崩さずに座るように促す。

 私は苦笑いしつつ、椅子に座った。

 まあ、嫌われる覚えはあり過ぎるからな。仕様がないか。

 

 それに私が居なければ、どうにもならない訳ではない。

 いわずとも動いてくれる者はいる。

 問題ない。

 

 

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 :戸愚呂視点

 

『いいんですか?向こうが潰し合った後でも…』

 魅由鬼からの念話が届く。

『心配することはない。ある程度、向こうがウォーミングアップしたら私が相手をする

からねぇ』

 相手が多い方が面白いじゃないか。それに仮の依頼主には、意趣返しっていう理由で

出てきてるしねぇ。叩き甲斐のある若者に成長を促すのも、年長者の務めというものだ。

 そうこうするうちに、一人コアを斬り捨てられた。

 面白いねぇ。

 思わず顔が緩む。

 

 私は気軽に歩きながら遊びに行くことにする。

 どれだけ、楽しめるかねぇ?

 

 

 

 

 

 

 




 本格的な戦いは次回になります。
 深景は、魔装大隊と積極的に敵対したいと思っていませんが、
 だからといって、なんでも受け入れる訳ではありません。
 実は結構、抗議を入れたりもしてたりします。軽いもの
 でしたが…。
 今回のような処分に発展したのは、初めてです。

 ようやく九校戦後半になりました。
 随分、長くなったものだと思いますが…。

 次回もかなり時間が掛かるかと…。
 気長にお待ち頂ければ幸いです。

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