どうも申し訳ありません。
では、お願いします。
1
私は黒服達の間合いに一瞬で入り込んでは、身体ごと核を斬り捨てる。
私の使っている刀は、元ネタ知ってる人どの程度いるよ?って感じの物だ。
特に元ネタでも銘はない。ただ
達也の分解と似た機能を持っているが、それだけではない。
実はこれ霊子を変換して力に変えるんだな。
つまり、妖の核をこれで破壊したりもできる。
まあ、相手の力量にも左右されてしまうんだけどね。
これを刻印と魔法陣技術で再現して、刀という形にした。
元ネタは光剣なんだけどね。
細工も簡単、経路を幾つか塞ぐだけ。偽装し易い。今は刀の制限を解除している。
試合で使うには物騒だが、実戦で使うなら問題はない。
雑魚妖なら核だけ確認して斬れば、容易く倒せるし、力に変換して溜めて置けば
強力な一撃も放てるという訳だ。
私は素早く踏み込み、刀を振る。
血煙が上がり、黒服が倒れる。
宿主に気を遣う必要はない。
こいつ等と一体になった段階で、人間の価値観なんて大体変質している。
相手も棒立ちになっている訳ではない。当然こちらを倒そうと手を尽くしてくる。
雑魚でもCADすら必要せずに、向こうは魔法を使用できるし、かなり速く動く
ことも可能だ。
次々と高速で連携して襲い掛かって来る黒服に、私は縮地をもって応える。
連携の隙ともいえない隙を掻い潜り、斬り捨てていく。
だが、相手もその事を学習し網を絞ってくる。
逃げ場がない状態で囲み込まれるが、私は不敵に笑い、刀を上空に投げる。
黒服が一瞬不意を突かれたように止まると同時に、跳び上がり伸身の要領で身体を
捻る。
私は回転し下を向く瞬間に拳銃型のCADを抜くと、サイオン徹甲弾を早撃ちする。
下で核を撃ち抜かれた黒服が倒れ込む。
私はそれを見ずに、空中で刀をキャッチして着地。
素早く着地と同時に走ると、稲妻が爆ぜて黒服が吹き飛ばされる。
かなりの威力で身体が損壊している。
思い切りがいいな。
命知らずその一が再起動したようだが、この攻撃は問題だ。
身体を失えば、妖の本体が身体を求めて他に憑依する。
私は飛び出した妖をサイオン徹甲弾で射貫く。
「こいつ等は妖だよ!パラサイトって呼び名の方が分かる!?」
「それがなんなの!?」
意外と命知らずは余裕がないようだ。声がヒステリックだ。
私は動きを止めずに、縦横無尽に刀を振るって黒服を始末しながら答える。
「つまり、身体を失うと新たな依り代を探すってこと!次は貴女かもしれないよ!」
「っ!!」
私の言葉を黒服の攻撃をどうにか躱しながら、命知らずが息を呑む。
「人間辞めたくなかったら、動きを止めて!なんとかするから!」
「…分かったわ」
素直で宜しい。
そこから命知らずは、私に合わせるように動いてくれるようになった。
脚を魔法で吹き飛ばすことに専念する。
次々と脚を吹き飛ばされ、動きを少しの間止める。
すぐに脚を再構築し出すが、雑魚では再構築には時間が掛かる。
そこに私が迅速に止めを刺す。
流石に尚武の校風な学校だ。連携して戦うのに、すぐに慣れてきたようだ。
いつの間にか、互いの背を庇い合う戦い方に落ち着いた。
「貴女!効率がよくないわね!」
命知らずが、失礼なことをいってくる。
「魔法が苦手なもんでね!便利な手札が少ないの!」
まあ、表向きそうなんだから文句をいっても仕方ない。
「決着は付けるわよ!別の機会にね!」
「いや、いいよ。面倒だし」
「ちょっと!」
緊張感緩み過ぎですね。はい。
2
:将輝視点
向こうは案の定、こちらの挑発に乗ってきた。
今のところは、こちらの想定通り。
あちらは食い下がっているが、手数が減ってきている。ジョージの見立て通りだ。
いよいよ対応しきれなくなってきたようで、司波達也は走り出した。
手筈通り、ジョージと一色が同時に左右に別れて、走り出す。
俺達を迂回して敵のモノリスへ。
一色の方は深景さんに阻まれたようだが、ジョージの方は問題ない。
ジョージの実力ならば、例え吉田家の術者であっても対応して見せるだろう。
問題があるとすれば、深景さんの相手をしている一色だ。
深景さんは、やはり魔法より身体技能が達人級であるようだ。
普通ならば、躱し切れない程の攻撃を一色はしているが、悉く躱されている。
一色が冷静に戦っているのが救いか。
ジョージの方は、司波達也の隠し玉に
念の為に、救援に入る準備はすべきだな。
俺は周りの状況を把握しつつ、司波達也を追い詰めていく。
だが、左右に別れた二人がほぼ同時に危機に陥った。
司波達也に振り分けていた攻撃を、二人の救援に少しだけ回す。
油断なく畳み掛けたかったが仕方がない。
魔法を撃ち込もうとしたまさにその時、異変は起こった。
黒服の男がいつの間にか、大勢こちらに向かってきていたのだ。
明らかに大会職員ではない。
となれば、正体は…。
答えに行き着く前に、深景さんが黒服の一人を斬り捨てた。
妨害だとしても何故こんなタイミングで?
潰し合わせて疲弊した瞬間の方が効果的だろうに。
「プリンス!試合は中止だ!!幹比古!!」
司波達也が、こちらに大声で伝える。いわれるまでもなく、分かっているさ。
吉田選手も西城選手も当然分かっているようで、もうモノリスに拘っていない。
「保坂!!身を守ることを第一に考えろ!!ジョージと合流を!!」
俺も保坂にモノリスの放棄を伝えるが、保坂の方は事情を上手く呑み込めていない
ようで、戸惑っている。
ならば…。
「ジョージ!!保坂と合流してくれ!!」
「分かった!!」
ジョージは返事と同時に保坂のところまで戻って行った。
流石に参謀だな。打てば響くように応えてくれる。
司波達也が何か古式と思しき魔法を放つと、黒服が倒れた。
何をしたのか分からんが、こちらも始めるか。
と思った矢先。
「プリンス。くれぐれも身体を爆散させるなよ。本体が新たな身体を求めて出てくるぞ」
「むっ…」
出鼻を挫かれて、俺は思わず顔を顰めてしまう。
「戦うなら、俺に合わせてくれ。俺にはアレを倒す手段がある。姉さんと同じくな。
うちの吉田はいうまでもないだろう?」
そちらが主体で戦闘をやるという訳か。
「姉さんを見ろ。キチンと一色選手に動きを止めることに専念させているだろ」
「俺に露払いをやれという訳か」
「手段がないなら仕方ないだろう」
「…了解した」
実戦に置いて手段がないなら、プライドに拘るなど愚の骨頂でしかない。
俺は競技用のCADをホルスターに戻した。
偏倚解放などでは、この場合使い勝手が悪い。
「では、行くぞ」
「露払いなのだろ?先に行くのは俺だ」
俺は敢えて司波達也の前に立った。
後でフッと笑う気配がして、眉が寄るのを感じたが無視だ。
「ジョージ!!俺はこのまま司波達也の後塵を拝す積もりはない!!」
俺は信頼篤い参謀に叫ぶ。これで通じる筈だ。
「補佐が僕の役割だからね!!無茶振りにも精一杯応じるよ!!」
俺は、不敵に笑う。お前ならそういってくれると思っていた。
そう、俺にもこいつ等を倒す手段を用意するように頼んだのだ。
司波達也に用意できて、ジョージにできない筈はない。
ジョージならば、この短時間でもやってくれる筈だ。
無茶振りなのは承知の上だがな。
3
:達也視点
随分と負けず嫌いな男だ。
いくらカーディナルジョージでも、決着が着く間にパラサイトを討つ魔法を完成
させるのは不可能に近い。にも拘らず頼み、なんの躊躇もなく頷くカーディナル
ジョージに、思わず笑みが浮かぶ。
プリンスが走り出す。
口頭詠唱であるにも拘らず魔法の発動が早い。CADなしの戦いも想定している
とは、流石実戦経験済みの魔法師だな。
一瞬にして一番前を走るパラサイトの脚が、一斉に吹き飛んだ。
俺は、サイオン徹甲弾で動きの止まったパラサイトを撃ち抜いていく。
姉さんが、こんなこともあろうかとと用意していた手段だ。
姉さん曰く。
「習得しといた方がいいと思うよ。うん。そんな気がする」
ということだった。
姉さんは、古式が専門のようなこともあり、こういう応用が得意だ。
習得には師匠にも付き合って貰ったが、かなり酷い目に遭った。
時間が掛かったが、無駄にはならなかったな。
狙いも正確に打ち抜けるようになった。
俺の眼には、青白い燐光が弾けるように消えるのがハッキリと見える。
幹比古達も順調に同じ戦術で殲滅しているようだ。心配はないな。
実戦経験済みの魔法師同士、すぐに相手の呼吸を読んで素早く合わせられる。
味方だと心強いものだな。敵だと厄介な相手だが。
この調子でドンドン数を減らしていく。
意外に簡単に済みそうだ。
などと思った瞬間、プリンスと俺、同時に反応する。
「「っ!?」」
同時にその場から大きく跳躍して離れると、轟音と共に巨漢が着地する。
完全に見た目から鬼だ。これはパラサイトなどといっていいものじゃないな。
姉さん風に妖と呼んだ方がいいものだ。
「オオオォォォォォーーー!!」
雄叫びと共に拳を放つ。
黒服の雑魚とは違うようだ。連中よりも動きが洗練されている。
黒服の動きはアレと比べれば、どこかぎこちなさを感じる。
どうやら雑魚の戦いを観察していたようで、プリンスがCADを使っていないこと
を踏まえて時間を与えないように動いている。
だが、プリンスはやはり凄腕だった。
大雑把なように見えて研ぎ澄まされた一撃を躱すと同時に、相手に向かって
踏み込んでいく。
ここまででプリンスは口頭詠唱を終えている。
鬼の巨体が地面に叩き付けられる。
衝撃波の方向性を集中させて相手を殴り倒したのだろう。
だが、相手もそのままやられる程、弱くないようだ。
サイオン徹甲弾を撃とうとしたが、鬼が倒れた姿勢から勢いを付けて回り
跳び退いたのだ。
鬼が距離を取った瞬間、声が響いた。
「将輝!!」
カーディナルの声だ。
まさか、もう完成させたというのか…。
鬼が距離を取った瞬間を狙い、ブレスレット型のCADが投げ込まれる。
プリンスは、それを鬼を見据えたままキャッチした。
「御望みの魔法以外、消去済みだ!」
それを聞いて、プリンスが不敵に笑う。
CADをなんの躊躇いもなく操作。
その場で急造しただけあって、ところどころ間に合わせというか、強引なところ
があるが、キチンと発動に耐えるものになっていた。
鬼の身体のあちこちが、俺の眼には光って見えた。
成程、俺や美月、姉さんのようにパラサイトの本体が見えないから、見えなくて
も倒せるように組み立てたという訳か。
核の霊子が突如膨張して破裂する。
鬼の動きが止まり、身体がボロボロと崩れ落ちていった。
これは、カーディナルという天才を甘く見ていたな。
4
:吉祥寺視点
将輝から頼まれたことを考えてみる。
手元にあるのは、競技用のコードを打ち込むだけの端末にCAD。
これが全てだ。
ならば、頭でシュミレートするしかない。
仕事柄、現代魔法のことばかりだと視野が狭まるので、一条家に縁のある古式魔法師
に話を聞きに行ったりしていたので、パラサイトのことはある程度の理解はある。
「そこから考察するか…」
「おいおい!マジでここで新魔法でも造る気かよ!?」
どうやら考えが声に漏れていたらしく、保坂が反応する。
確かに、試験もなしにぶっつけ本番で新魔法を試すなど、狂気の沙汰だ。
真面な研究者のやることではない。
しかし、将に望まれては仕方ない。僕はそれに応える義務がある。
その為に、僕は生きているといってもいい程だ。
「済まない。殆どはこっちに来ないようだけど、来たら身体をなるべく破壊しない
ように足止めに徹してくれないかな?」
パラサイトの殆どは、司波深景と一色さん、将輝と司波達也、吉田選手と西城選手
の方へ行っている。僕達の方に構っている暇のある奴はいなさそうだ。
相手にされていないのは、思うところもあるが、今は思考に集中できる環境ができた
と思うことにする。
「おいおい!マジか!?」
保坂の信じられないといわんばかりの声に、心ここにあらずの状態で頷く。
「頼んだよ」
まだ保坂が何かいっていたが、僕は思考の海に潜り込んでいて聞いていなかった。
時間がない。
プライドに拘っている場合でもない。
だから、司波達也がどうパラサイトを滅しているかも考察しないといけない。
パラサイトは通常の魔法攻撃では倒すことができない。
つまり魔法の干渉が届かない場所にいると考えられる。
ここで古式魔法師に話を聞いた時の事を思い出す。
そこから推論すると、おそらくはパラサイトは精霊の一種又はそれに類するものだ。
だとすれば、情報体次元、所謂精霊がいる場所といわれている場所にいるのでは
ないのか?
憑依という形を取っている以上、手に入れた身体からそう遠くない座標にいるだろう。
彼の動きからするに、僕の考察はそこまで的が外れていない筈だ。
次元の座標に違いはあっても、身体と本体は近くにいると仮定する。
司波達也はサイオンの塊を放っているようだ。では、どうやって当てている?
司波達也も特別な視界、例えば霊子放射光過敏症などの特殊な視界を持っていると
考えられる。当てられる理由は、それ以外に考え辛い。
ならば、視界で捉えずに情報体次元にいるパラサイトを潰す手段がいる。
………。
そうだ。古式魔法師が精霊を使う時、術者と精霊の間に魔法的な繋がりを設ける。
といっても、例え特殊な眼を持っていても、見えない程の繋がりらしいけど。
だが、確かに存在しているらしい。
パラサイトは、向こうから繋がりを強引に作っているんじゃないのか?
ならば、身体と本体は魔法的な繋がり、回線と呼べるものが存在する。
視野の狭窄を起こさない目的で、古式魔法師の話や術について秘奥に迫るようなこと
以外は、一条家の伝手で聞けたのが、ここにきて役に立ちそうだ。
司波達也や古式魔法師達のように直接の攻撃は無理だが、身体から回線を通して相手
を破壊すればいい。どうせ無駄だと、精霊との繋がり方などザッと話してくれた術師に
感謝だ。
繋ぎ方を逆利用で辿り、パラサイトの核といえる霊子にサイオンを送り込んで砕けば
いい。
僕は、腕のウェアラブルキーボードを取り外し、回線を幾つか引っ張り出す。
そして、自分のCADからも回線を引っ張り出し、繋げる。
かなり強引なやり方だと承知の上だ。試す時間と余裕もない。
研究者としてあるまじき行い。だが、今は無理を通さないといけない。
小さいキーをもどかしく思いながら魔法式を構築していく。
魔法式を打ち込む事くらいは可能とはいえ、こんなことをする日が来るとは。
凄く荒削りな魔法式で不格好。
だけど、これでやるしかない。
魔法名は、起爆といったところかな…。
僕は、すぐさま走り出した。
将輝はデカい鬼と交戦中だった。
戦況を見定めて渡すしかない。
将輝が鬼を地面に叩き付け、司波達也が止めを刺そうとした時、鬼が勢いを付けて
跳び退いた。
身体が自動的に反応する。
「将輝!!」
機を逃さず、CADを投げる。
精密機器にこんな扱いをするのは、これで最後にしたいものだ。
将輝は、鬼を見据えたままキャッチした。
「御望みの魔法以外、消去済みだ!」
顔は見えなくとも、将輝が不敵に笑うのが分かった。
CADを操作する。それは信頼。
魔法発動の直後、鬼の身体が崩れ去った。
司波達也の驚いた顔が見られたもの痛快だった。
5
:幹比古視点
達也の声で事態は、この上なく把握した。
試合は信じられないくらいに尻切れトンボに中止になった。
普通じゃない。
これだけの数が乱入しているのに、誰一人駆け付けてこない。
来れないのか、それとも
考えている時間は、もうない。やるしかない。
深景さんを見ると、一色選手に動きを封じて貰い、止めを刺すという形にしている。
成程、上手いやり方だ。
「レオ!!」
「分かったよ!あれと同じことをすればいいんだな?」
レオも頭は悪くない。すぐに僕の要求することを察してくれた。
この感想は彼に失礼かな?
やっぱりレオは接近戦になると強いな。
次々と黒服を薙ぎ倒していく。止めを刺す方が大変な程だ。
何しろ、試合用のCADだから昔ながらの詠唱で術を使わざるを得ないからね。
大変だ。
これじゃ、最後まで持たないな。
「レオ!ちょっと纏めてくれないかな、一箇所に!」
「難しいこというな!まあ、やってみるけどよ…」
無茶は承知だけど、みんなが順調に片付けているのに、本職というべき僕が他に回す
訳にいかない。僕にも意地がある。
こんなところで発揮するものじゃないと、承知の上だけど…。
レオもやってくれるんだから、有難い。
多分、こいつ等は生まれて大して経っていない
これだけ悪いのは珍しい。
何かがおかしい気がするけど、これを追及している場合じゃない。
逆に考えるべきだ。今が倒し時とでも考えて、倒すことに集中しよう。
他の二組がドンドン片付けていくから、最後まで息切れせずに倒し切ることができた。
レオも流石に無茶をした所為でボロボロだ。ごめん、レオ。
残念だけど、他に回さないのが精一杯で応援に向かうのは、流石に無茶が過ぎる。
邪魔にしかならないだろう。
あとは任せるしかないだろうな、なんて考えていた時だった。
背筋に悪寒が走る。修行で培った感覚が僕から完全に失われた訳ではなかったようだ。
視線を走らせると、レオに目が留まる。
「レオ!!避けて!!」
咄嗟に注意を促す。
レオは思いっ切り地面に身体を投げ出して転がった。
鮮血が散る。
「レオ!!」
レオが転がった勢いのまま立ち上がる。
「大丈夫だ!!」
レオの背には引っ掛かれたみたいな傷が、プロテクターも斬り裂いて付いていた。
敵が見えない。攻撃の瞬間に気配のようなものを捉えられたのは運がよかった。
「んだよ。避けなきゃ、楽に死ねたのによ」
どこからか、声が響く。
「テメェ!出てこい!!」
レオが怒りの声を上げる。
「アホか、誰が出るかよ」
嘲笑うように声が聞こえるが、どこから聞こえてきているのか、まるで分らない。
レオも相手の位置を探ろうとしているが、効果はあまりない。
ドンドンレオに切傷が刻まれ、鮮血が散る。
僕の方も攻撃を完全に避けられない。このままではやられる。
向こうが嬲る気じゃなければ、既に二人共死んでいるだろう。
攻撃の瞬間は、なんとなく感じ取れる。頼りないが、これが突破口だ。
この草原に誘い込めるような限定空間はない。おびき寄せて広範囲攻撃で一気に殲滅
とはいかない。
方法は一つしか思い浮かばない。
『レオ。なんとかヤツの術を無効化して姿を見えるようにする。だから、その隙に一撃
食らわせてくれるかな?そしたら、最後に僕が止めを刺す』
教わった念話。役に立つな。
レオは使えないから、僕に向かって黙って頷いた。
僕は意識を集中する。どんな些細なことでも見逃すな。
今から使おうとしている術は、効果が微妙過ぎてあまり使ったことがない。
練度に問題があるし、口頭詠唱で攻撃される前に素早く術を完成できるかどうか
分からない。
だが、やるしかない。まずは相手の術を破らないことにはどうにもならない。
少し前の僕だったら、やろうとすら思わなかっただろう。
でも、そんなことをいっている場合じゃないというのもあるけど、少しづつ僕も
変わったからだと思う。
あの姉弟を見ていると、僕の心にも負けん気というものが、まだ息衝いていると
驚かされる。僕だってやれる筈だ。いや、やれる。
詠唱開始。
レオの周辺で気配の影のようなものが感じられる。
もう少し、もう少し。
何かが振り抜かれようとしている。
カッと目を見開く。
「霊威を持って払え!オオカムヅミ!」
草原の草が黄金色に輝き、妖気に反応して伸びる。
何もない虚空に黄金色の草が絡みつき、小柄な猿のような体格のフード男が姿を現す。
本来なら、オオカムヅミは黄泉の軍勢を追い払った桃を指すが、うちの術はただの
植物に干渉し同じ効果を発揮させ、対象の動きを絡め捕り拘束し、相手の術も無効化する術だ。
妖には嫌な臭いと神威で弱い雑鬼程度なら、拘束されるだけで滅する力を持つ。
時を経た大妖怪でなければ、動きを一時的に止めるくらいはできる。
「っ…ぅ」
思わずといった感じで、フード男が呻き声を上げるが、すぐに拘束を解こうと藻掻く。
レオがそれを見て不敵に笑う。
「待ってたぜ。この瞬間をな!!」
鬱憤が溜まっていたのか、レオがとんでもない勢いで棍棒のような小通連を振り抜く。
グシャリと嫌な音と共に土煙が上がる。
レオがフード男の肩から袈裟斬りで地面に叩き墜としたのだ。
悲鳴もなかった。
土煙が晴れると、レオが小通連でフード男を押さえ込んでいた。
「舐めるな、クソガキィ!!」
足からも刃が飛び出し、フード男がレオを斬ろうとする。
頭に血が上っているようで、姿が消えていない。これなら!
「レオ!!」
「応よ!!」
刃がスピードに乗る前に、レオが肩で刃を止めて、フード男の脇腹に蹴りを入れる。
僕の方にフード男が蹴り飛ばされてくる。
こっちは使い慣れている。
「滅せよ!朱雀の焔!!」
金色の炎が眩く光りフード男を絡め捕る。
「ギィィィィヤァァァーーーーーー!!」
身体ごとコアを焼き払う。
灰すら残さず燃え尽きていた。
「終わったか?」
「こっちはね。でも…」
レオの言葉に答えたけど、もう他に加勢に行く気力はない。
僕は情けない限りだけど、座り込んでしまった。
「少し休んでろって!俺は行って来るぜ!」
レオは結構血だらけにも拘らず、元気に走って行った。
なんて、頑丈で体力があるんだ。僕もまだまだだな…。
レオを背を見て、僕は溜息を吐いた。
6
命知らずと奇しくも共闘状態で、ドンドン敵を片付けていく。
見る人が見れば、私の刀が発光しているのが分かっただろう。
結構溜まってきたな。これなら…ふふふふふ。
そして、突如の違和感。
空間が飴のように伸びた感覚がした。ああ、これはあれだな。
命知らずも違和感に気付いたようで、辺りを警戒している。
空間が揺らぐと、今まで倒した敵が一斉に再生される。
「なっ!どういうこと!?」
命知らずが驚きの声を上げる。
「まあ、落ち着きなよ。大丈夫だから」
もう、術式は解析済み。同じ手が二度も通じるとでも思ってたのかな。
多少は変えてあっても、似た部分が多ければ私や達也には一発で分かるのだ。
相手はできるだけ力を浪費させようとしたんだろうけど、相手が悪かったね。
すぐさま解除を実行すると、何かが破砕する音が聞こえる。
疑似体験迷路が壊れたのだ。
目の前で武器を振りかぶったまま固まる女が一人。
「いやはや、久しぶりだね。かっ…会長が随分とお世話になったようで!」
私はにこやかに挨拶をして上げる。
コイツは閣下に妨害工作した輩だ。あの時は逃げられたが今度は逃がす積もりはない。
命知らずは驚きで固まっている。まあ、放置でいいでしょう。
「うっ…あああ!!」
女はまたあの時のように逃げようとしたが、
これもまた一つの魔法。発動タイミングさえ見切れば壊せるんだよ。
女が青白い顔で目を見開いて驚愕している。
「悪いね。私はここで見逃す程甘くないんだよ」
「うわぁあああーーー!!」
女が覚悟を決めたのか、素早い動きで襲い掛かって来る。
私は思うところあって、刀を鞘に戻すと同じく動いた。
一瞬の交錯。
「見切った」
私は振り返り、亜空間から出したアルコール除菌ティッシュで手を拭く。
元ネタからもしかしてと思ってたんだよ。
コイツも幽遊白書からの登場だ。確か名前が妹とかぶってるんだよね。
「貴様!!」
無駄だと思い知っただろうに、性懲りもなく向かってきた。
私は神速の踏み込みで抜刀する。
相手を思いっ切り斬り上げ、勢いのまま背後に回り返す刀で斬り下ろした。
核の霊子が刀にエネルギーとして吸収される。
敵は倒れた。
確か妖って、姿とか自由に変えられるんだよね?
なんでオカマのままだったんだろ?
何?どうやって確認したんだって?当然、あっちの主人公と同じ方法だよ。
恥じらい?精神年齢おばちゃんの私にそんなのあるか、っといかん。
今更ながら恥じらって見せとこ。
まっ、なんにせよ。妹と同じ名前なのが気に入ら…閣下に迷惑を掛けた借りは
返したよ。
そこで、場違いな拍手が聞こえて来た。
振り返ればヤツがいた。
それは間違いなく戸愚呂弟だった。
7
「いやいや、お見事だねぇ。まさか一瞬とはねぇ」
うわっ!生戸愚呂だ!!実物見て、これ程喜べない奴はそうはいない。
私は刀を握り締める。自身の力を封印したままでも一泡吹かせる備えもした。
準備も整っている。あとはベストを尽くすのみ。
「な…な…」
命知らずにも感じられるか。このヤバさが。
長身で細身であるにも拘らず、巨人の如きオーラを発している。強い。
目の前に立たれて実感する。まだ素の状態だというのに鳥肌が立つ。サッサとご退場
願いたい。
「それじゃ、今度は私がお相手願おうかね」
そういうと戸愚呂弟が気合の声と共に、全身に力を入れる。
上着が筋肉の盛り上がりにより弾け飛ぶ。
ズボンもヤバい。色々な意味で。
まあ、アッチの原作では百二十%の力にも耐えたズボンだから平気だと信じたい。
アンタの筋肉マッパなんて需要は…もしかしたら腐女子にはあるのか?
更にヤバいのは、筋肉の盛り上がり以上に妖気が跳ね上がったことにより、その影響
が風圧となって直接きていることだ。気の弱い奴だったら、心臓が停止してるよ、これ。
筋肉の膨張と風圧が収まる。
来る。
視界から戸愚呂が消える。
それ程の速さで、しかも滑らかに動いたのだ。武術の腕も破格のようだ。
独立魔装大隊にいたなら、そりゃそうだろうけど。
私はビビっている命知らずを突き飛ばし、自身は迎え撃つ。
ここまでを戸愚呂が消える寸前に済ませる。
拳が私の顔面を粉砕する前に、刀を滑らせるように拳に割り込ませる。
ただの正拳突きが、一撃必殺の威力を帯びる。
これは真面に受けたら、封印した力じゃ吹き飛ぶくらいじゃ済まないな。
刀で拳を逸らすように捌いていく。
スウェーバックのように後退しながら、腕が伸び切るタイミングで合わせているにも
拘らず、物凄い衝撃が私の腕に伝わってくる。
腕を斬り付けるように叩き付けているのに、向こうは腕に薄っすらと赤い線のような
傷ができては再生して傷が消えていく。このまま押し切られては不味い。
私は刀で戸愚呂の腕を跳ね上げ、更に踏み込む。
姿勢を低く、下から斬り付けようとすると、今度は向こうが後退しながら拳を
打ち下ろす。
地面が拳の風圧で草が千切れて舞い、土が舞い上がる。
堪らず後退する、ように見せて止まり、逆に踏み込む。
後退する気配に釣られた戸愚呂は、間髪入れずに追撃しようとしたのだ。
「っ!」
この程度の視界の悪さで、攻撃を断念なんてするか。
私は剣術研究家の教え子だ。当然、闇稽古なんて当たり前に熟している。
文字通り視界ゼロで行われる稽古で、心眼が鍛えられていないと控え目にいって
酷い目に遭う。
完全に攻撃タイミングを外したのに、平然と攻撃を修正してくるが、こちらの方が
速い。
頬に拳が掠めていく。
一瞬遅れて血が流れるが、私の動きは止まらない。
サイオンを籠めて刀が走り、戸愚呂の左脇腹から右脇までを深く斬り上げた。
普通ならここで勝負ありだが、相手は真正の化け物だ。斬り上げた刃を返し体捌きで
脇を抜ける瞬間にクルリと体制を変えてさらに斬撃を加えようとして、強引に身体を横
に倒す。
戸愚呂が、すぐさま後ろ蹴りを放ち攻撃の流れを断ち切る。
蹴りが私の上半身を粉砕する勢いで飛んでくる。
かなり強引に身体を捻った甲斐はあったが、すぐになりふり構わず地面に転がる羽目
になった。
後ろ蹴りを器用に連撃してきたのだ。
戸愚呂が態勢を立て直しながら、後ろ蹴りから回し蹴り、拳での攻撃に繋げていく。
やっぱり封印の限定解除くらいしないとダメか!?
下手に立ち上がろうとすると、軽く身体がなくなりそうだ。必死に転がって避け
続ける。
なりふり構っていられないと、決意と共に刀を握り締めた時、戸愚呂へ金属板が
飛んできた。
「うぅぅぅおぉぉぉらぁぁあーーーー!!」
レオ君だ。
「っ!!」
戸愚呂はすぐに反応し、小通連の剣先を拳で叩き墜とす。板状の剣先はひしゃげて
見る影もない状態で地面に叩き付けられた。
だが、その隙に私は体勢を立て直すことができた。ありがとう、レオ君。
って、ちょっと!
レオ君は何を思ったのか、そのまま拳を振り上げ突撃を敢行した。
私は迷わずに戸愚呂へ突っ込んでいく。
「パンツァーーー!!」
いやいや。
私の姿が掻き消える。
案の定、レオ君渾身の一撃は効果を発揮せず、逆に痛烈な一撃が返される。
寸前で割って入ることができたが、受け流すことはできそうにない。
覚悟を決めて、受け止める。
レオ君諸共、ギャグみたいに吹き飛ばされる。
私は空中で身体を捻って着地したが、レオ君は上手く着地できずに遠くに転がって
いった。
レオ君の行方を心配する暇はない。非常識な威力の拳がもう私を捉えている。
そりゃ、追撃されるよね。
封印限定解除の前に切れるカードを切る。
縮地で拳を躱す。
戸愚呂が予想していたとばかりにニヤリと笑う。
このスピード・動きも見切られたようだ。縮地を使った私に攻撃を合わせる。
悪いね。こっちも予想通りだ。
無理矢理止まる。
「っ!」
まさか強引に止まるとは思わなったようだ。
だが、驚くのはここからだよ!
そこから縮地で方向転換する。
捕捉されそうになれば、強引に方向転換し、再度縮地を発動。地面が抉れて土が草と
共に巻き上がる。身体強化されているからこそ可能な無茶な動き。身体が強化していて
も悲鳴を上げる。
勢いのまま刀を振るうが、まるで木刀でタイヤを斬ろうとしているような感触だ。
手応えがまるでない。攻撃の為の、十分な踏み込みができていない所為だ。
なんとか十分な一撃を放つ機会を窺う。
その時、達也のサイオン徹甲弾が戸愚呂を捉える。
同時に戸愚呂の霊子核の回路のようなものが発光する。
「むぅん!!」
同時に戸愚呂の尋常じゃない霊子核が膨張し、徹甲弾を弾き返した。
霊子核への攻撃?の方も同様の方法で、伝わる力を拡散させたようだ。
うっそ!!効かないだろうなって思ったけど、ええ!?何、その脳筋な対応!?
振り向かなくても達也の驚愕が伝わる。達也にしたら十分驚愕といっていいレベルの
反応だ。
うむ。あと一人は王子様か。あんな魔法使えたっけ?
まあ、いいや。レオ君はお星さまになったし、二人に援護をお願いするとしよう。
「達也!!」
「分かってる」
「協力します!!」
二人が背後で同時に動く。
私の指示で動くとか、しかも呼んでないのに動くとかいいのか?王子様。
頼む気だったからよかったけど。
私は戸愚呂を達也達のところに行かせない役割だ。
正直、割って入って来られると、レオ君のようにお星さまになりそうだし。
そして、達也達が隙を作ってくれたら、切札を切る。
その為には、この距離は維持したいところだ。
私は変則縮地で翻弄し、刀を振るう。
死の風が吹き荒れる中、私は平然とそれを縫うように攻める。
達也は効かないと分かっていても、サイオン徹甲弾を放つ。
それだけではなく、王子様も流石なもので、すぐさま効果のない魔法を捨てて、
動きの阻害を目的とした人体破壊にシフトしている。
私を捉えそうになる一撃を内部爆発で破壊して防いでくれている。
すぐ再生してるけど。
雑魚とは再生速度が桁違いだ。
達也も核への攻撃を継続している。
手足に妖気が尋常じゃない程集中する。
「っ!…散開!!」
二人がハッとした顔で慌てて跳び退く。
間合いを詰めて接近戦をしているからこそ、逸早く気付けてよかった。
間一髪で、手足から繰り出される鎌鼬・衝撃波を含んだとんでもない威力の連撃から
逃れた。閃光も何もない。
一瞬でも退避が遅れていたら、私達姉弟は兎も角、王子様とかヤバかった。
まだマッチョのレベルであれとか、バカ過ぎる。
筋肉で化物形態になった時の強さは知りたくない。
手足が文字通り霞んで消えたと思ったら爆撃でもあったかのように周辺が抉れ、
もうもうと土煙が上がっていた。
土煙が晴れる。
ニヤリと笑う戸愚呂が構えを維持したまま、こちらを見ている。
随分と余裕だ。こんな攻撃手段も持っていると態々教えてくれた訳だ。
あっちの原作より強くない?
こりゃ、強引にでも決着を急ぐ必要があるね。
「一条さん。お願いがあります」
「なんでしょうか?」
「次で決めようと思います」
王子様は、まだ詳細を聞いていないのに力強く頷いてくれた。
「達也。切札を切る。今のうちにいっとく、ごめん…」
「姉さんを護るのも、俺の仕事だと思っているから、気にしないでいいよ」
姉弟だから、これだけで伝わる。
何やら不快そうな気配の王子様と、機嫌がいい弟。
何が背後で繰り広げられているのやら。
それで、私はプランを王子様に素早く手短に伝えた。
8
:戸愚呂視点
いやはや、予想外というべきだね。
二十%とはいえ、これだけ戦って無事とはね。
結構今の状態で本気でやってるんだけどね。
嬉しくなって、つい大人気ない攻撃を見せてしまった。これも躱されたけどね。
向こうの作戦会議も終わったようだね。
次で決着を付ける気だね?分かるよ。目がそういっている。
ならば、それを受けて立つのが先達の義務というべきかね?
自分でも口元が緩むのが分かる。
司波深景と司波達也。だったかね?二人が同時にこちらに迫る。
二人で攻める気か。いや、後から一条の御曹司が続いている。
御曹司にラストアタックさせる積もり…ではないだろうねぇ。
面白い魔法だったが、私には通用しないからね。
何を隠してる?撃ってこい。全力で。
相手をしてやるとも。だから、楽しませて見せろ。
司波達也が牽制攻撃を継続する。
これも面白い魔法だが、私には効かない。
だが、防御は必要だ。核に当たれば、多少なりにもダメージを受けそうだからね。
微々たるものだが。
撃ちながら近付けば、どうにかなる程甘くはない。
攻撃を弾いた隙を突いて、司波深景が神速の踏み込み。
その歳で大した腕前だ。これだけ接近して攻撃を捌ける相手はそうはいない。
拳でラッシュを掛けるも、刀で捌かれてしまっている。
だが、こちらもある程度、攻撃を見切っている。反撃の機会はみるみるうちに減って
いる。
それでも焦りなど微塵も見せない。
ここで司波達也が素早く踏み込み、接近戦に介入しようとした。
「っ!」
接近戦ができないとは思わないが、姉に任せるものだと思っていたが。
司波達也が手刀を繰り出してくる。
この一撃は受けるべきではない。
一瞬の判断。
初めて後退する。一歩だけだが、後退は後退だ。
腕がスッパリと斬り裂かれた。
魅由鬼が見たことのない魔法を使うといっていたが、これが、いやこれもそうか。
危うく腕を一本落とされるところだった。
その隙を司波深景は見逃さずに、刀を走らせる。
銀閃が防御より速く身体を斬り裂く。
この時、私は一条の御曹司のことが一瞬頭から抜けていた。
身体が魔法干渉をされる。
爆裂を使う気か?随分と本気でやるようだ。
身体が傷んでも面白くない。抵抗するかね。
再び、手足に力を集中すると、披露した時よりも素早く攻撃を繰り出した。
受け切れないと悟っている二人は、逸早く離脱。
一条の御曹司は魔法干渉中であった為、対応がゼロコンマのレベルで遅れる。
拳で二人を退けて、御曹司までの道を開くと、前蹴りを放つ。
御曹司はガードが間に合ったようだが、吹っ飛んだ先で地面に激突し沈黙した。
「この!」
司波深景がやはり一番早く戦闘に復帰する。
霊子核だけになっても、対応がある程度可能な人間がこの場に三人いる。
本体では攻撃手段がない訳ではないが、限られてしまう。私クラスでもだ。
だから、思い切って身体を破壊しようと思ったのだろうが、当てが外れたといった
ところかね?
明らかに動揺した様子の司波深景は、攻撃が粗くなっていた。
まだ若いのだ。仕様のないところもあるだろう。いい経験ができたと思うんだね。
粗くなった動きは、捉えやすく容易く拳を打ち込むことができた。
ミシリと拳に手応えを感じる程、真面に攻撃が決まった。
御曹司同様に司波深景は吹き飛ばされて行った。
さて、残りは一人。
司波達也に目を向けると、ヤツは思っていたより私に接近してきていた。
注意は払っていた筈だが…。
そんなことを考えたのは一瞬のことだが、それが隙となった。
司波達也が手刀を先程と同じに繰り出す。
同じ手が何度も通じるとでも思っているのかねぇ。
手刀ごと相手を粉砕すべく、全身の力を拳に乗せる。
小賢しい攻撃ごと粉砕する一撃は、意外なことに他ならぬ司波達也に止められた。
グシャリと嫌な音が響く。
常人ならば、意識を保つことなどできないだろう攻撃を、司波達也は受け止めた。
手刀は餌か。私が拳を自分に受け止め易い場所に打ち込むように誘導したか。
だが、それで…。
そこで気付いた。私の影が拘束を受けている。
これは…忍術か。古式の動きだとは思っていたが、こいつは忍術使いか。
だが、動きを止めたところで、どうしようもないだろうに。
そう思っていたところに雄叫びと共に接近してくる者がいた。
「っ!」
流石に驚かされた。
あの棍棒のような武装一体型CADで攻撃してきた若者だったからだ。
あの攻撃に耐えられたのか!呆れた頑丈さだ。
そして、可能性が頭を過ぎる。
「まさか!」
視線を吹き飛ばされた二人に向ける。
一人いない!司波深景が!
そして、気付く。司波達也が私の動きを封じた訳が、黒い影が走る。
縮地を習得している彼女なら、これだけの短い時間でも再び接敵することぐらい
可能だったのだ。とすれば、あの動揺は演技か。
面白い!!
制限が煩わしい程に!!
この化物を殺すことを彼女達は、少しも諦めていない!!
ならば、制限の範囲内とはいえ、私も本気で、全力で相手をしなければ失礼という
ものだ!!
「ぬうぅぅおぉぉぉーーー!!」
私は、力を籠めて片腕の拘束を強引に振り解く。
普通ならこれで魔法効果が破壊されるところだが、この司波達也という男は並では
ない。すぐさまリカバリーして片腕を除く、部分の拘束をして見せた。
だが、これで十分だ。
まずは頑丈な若者を片付けようと、拳に力を集中し、一撃。
「ふざけんな!何度も殴られて堪るかよ!!」
驚異的な反射神経で私の拳を掻い潜り、私の脚にタックルしてくる。
それでも拘束になんら影響が出ない。
私は若者の背中に拳を打ち下ろそうとして、軌道を変える。
捨て身の突きを放つ態勢の司波深景に。
捨て身の全力攻撃である為に、隙だらけだ。今度こそ終わりだろう。
そう思った。
だが、突如私の眼をもってしても彼女の姿を見失った。
「何!?」
直後、身体を貫く衝撃が伝わる。
私の眼は彼女の後に向けられていた。
私の眼でも捉えられないスピードの正体。
一条の御曹司だ。
縮地中の彼女の背に、衝撃波を集中させて弾き飛ばしたのだ。
身体強化を彼女が習得しているのは分かっていたが、まさかそんな無茶をやるとはねぇ。
敬意を表して、ここで引くとしようかねぇ。
「こんな無茶を…やるねぇ…」
刀は核を素通りさせているが、彼女には核を突き刺したと錯覚している筈だ。
これで、手打ちだね。
拘束が解かれ、後に倒れる小芝居をしようとした時だった。
「二人共!離れて!!」
司波達也が、無事な方の腕で若者の首根っこを引っ掴み、走り出す。
「術式一番・開放。
吸収した霊子が収束されていくのが、分かる。
本能が危機を激しく告げている。
「霊子性質変換・
咄嗟に左京さんとの約束を破棄する。
三十%では足りない。
もっとだ。
危機の中にあって、冷静に状況を見極める。
赤い光が一瞬にして青に染まる。
光が爆発する。
「オオォォッォオーーーー!!!」
光を腕で抑え込むが、腕がボロボロと黒く崩れていく。
胸の刺し傷が拡大していく。
五十%!!
だが、それすら呑み込み光が私を塗り潰した。
これは、手加減要らなかったかねぇ…。
そんなことを思って、ニヤリと笑った。
9
今、私はベットに寝かされている。
当然の話でボロボロだったからね。
実力を隠さないと面倒になる家ってこれだから嫌だ。
なんていっても仕様がないけど。
御神流の奥義・閃の概念とあっちの主人公・桑原コンビの作戦を融合させた作戦
だったけど無茶やったよ。脚が普通に砕けたからね。強化がやっぱり足りなかったよね?
一番の痛手は刀が出力オーバーで砕けて修復不能になったことだ。
いいとこ取りなんて上手くできないよね。
一番幸いなのが、刀がお釈迦になったことだ。
レギュレーション違反だったのでは?なんて今更なこと大会委員に勘繰られて、
かなり不愉快な思いをさせられた。失礼な、解除したのは試合どころじゃなくなって
からだ!なんていえる筈もなく。王子様がやったことにした。
証拠が木端微塵で調べようもなく、王子様の発言もあり有耶無耶になった。
私の刀の力を王子様のパワーでもって、引き上げたということにしたんだよ。
王子様のパワーに耐えられず刀は壊れたってことで。
因みに、王子様は笑顔で引き受けてくれたよ。
あの後、軍人連中が漸く来ることができたといった感じで、押っ取り刀で駆け付けて
きた。
まあ、その間に王子様に話を通して置いたのだよ。
でも、これで王子様の手柄になったし、師族会議も原作程五月蠅くないだろう。
これで貸し借りなしってことで一つ…。
被害状況をいうと、達也は肩と腕を粉砕骨折、レオ君が骨折箇所多数に罅多数。
レオ君が一番の大怪我だったのは、戸愚呂の攻撃の余波と、私の攻撃の余波を不幸
なことに受けてしまった結果だった。
「いや、大型自動二輪を正面から受け止めたことがあるけどよ…。あれ、それ以上
だったぜ…」
これはレオ君の言である。
他の被害状況もお知らせして置こう。
王子様は肋骨三本骨折、幹比古君は、切傷多数。残念参謀及び三校の男子、ほぼ
無傷。命知らずは、ところどころ擦り傷ができた程度。
達也はもっと酷かったが、自己修復で内臓とかは治し、内臓に刺さった骨も骨折程度
にしたからであり、本来なら死んでいる。
やっぱりチートな能力で、治るからといってやらせていい訳がない。
レオ君共々、巻き込んでしまって本当に申し訳ない。
治癒魔法で表面上は治っているけど、当面は安静にして傷の定着を待つことになる。
面倒だが、この偽装は必要だ。
試合がどうなったかといえば、一校の優勝ということになった。
表向き戸愚呂を倒したことになっている王子様率いる三校を優勝に、という声は
あったが、王子様自身がそれを辞退した。
「この勝利は、一校の選手が主に戦果を挙げた結果です。私は止めを刺すのに協力
したに過ぎません。この上、優勝の栄誉など貰えません」
三校の参加選手からも当然、異議は出なかった為、一校が優勝と相成った。
普通は、再試合か中止して同率優勝かにするだろうが、王子様は英雄扱いである。
贔屓もされるってものだ。
大会委員会は不満タラタラだったようだが、知ったことではない。
因みに、王子様は決着は次回に付けると達也と話していた。
これから、王子様は原作より強くなるかもね、と予感めいたものを感じた。
さて、これで暫くはあの化物も動けないだろうから、あとは原作連中の始末だ。
達也には休憩して貰って私が遣ろうと思う。
せめてそれくらいはしないといけないだろう。姉としては。
だが、この時私はあの化物を侮っていたと鬱になることになるとは思いもしなかった。
10
:戸愚呂視点
随分と遠くまで吹き飛ばされたものだねぇ。
私は山の中に落ちていた。富士山まで飛ばされるとはねぇ。
登山道から外れていて良かったよ。
見付かったら、始末するか記憶を弄る必要が出るからね。
本当なら九島の老人に回収して貰う予定だったんだけどねぇ。
回収の手間は省けたかねぇ。
腕は崩れ去り、胸には大穴が空いている。
それでも自分の口元には笑みが貼り付いている。
あれは私と同じく、力を隠していた。あの瞬間確信したよ。
司波達也と御曹司もいい敵になりそうだが、司波深景はもう立派な敵だ。
まだ、この世には楽しいことがあるんじゃないか。
向こうの連中は、こっちに出たがるようだが、何故こんな退屈なところへ行き
たがるのか不思議だったが、今は少しだけ理解できた。
自分にも妖としての価値観はあるが、そこだけは理解が及ばなかった。
主だった仲間もそうだったが、少し意見が変わった。
井の中の蛙大海を知らず、か。
自嘲の笑みがくっきりと浮かぶ。
「随分と派手に壊されましたね。大丈夫ですか?」
接近は感じていたが、反応しなかったのはよく知る者だったからだ。
「鴉か。ああ、大丈夫だよ」
私は上半身を起こした。
鴉は相変わらずの黒尽くめで立っていた。
「二十%では足りませんでしたか?」
「瞬間的に六十%まで上げたよ。直撃を受けたら
だろうね」
「っ!それ程ですか」
鴉が珍しく目を見開いて驚いた。
私は身体をほぼ一瞬で復元した。身体の傷など人間を辞めた私には何の意味も
ない。核は咄嗟に六十%まで引き上げたお陰で、無傷だ。
「
私は頷いてやる。
そう私が取り込んだのは、古式の連中がいうところの親だった。
私は、それを食らって生き延びたのだ。
「さて、左京さんのところに戻るとしようかね。その前にやることがあるが」
私はニヤリと鴉に笑ってやった。
彼女への挨拶も必要だろう。
11
:ダグラス・黄視点
どうにか潜り込ませた連中から、信じられない知らせが届いた。
通信で席を立て正解だった。
その場で受けていたら、他の幹部に知られて大変な騒ぎになっただろう。
戸愚呂が敗れたというのだ。
映像で確認ができなくなって、気が気ではなかったが、こんな結末とは!
あの男!!散々偉そうなことをいって結果これか!!
使えない奴め!!
壁に拳や蹴りを入れる。
一頻り、怒りをぶつけたところで、漸く頭が冷える。
どうする、これから…。
項垂れたのは短い時間。
すぐさま遣るべきことを決める。
まだだ。まだ戸愚呂達に持ち込ませたジェネレーターや、観客に紛れ込ませた
術者がいる。
終わっていない。まだ終わっていないぞ!!
あまり言い訳染みたことは書きたくないのですが、正直
書く時間が確保できなかったことが大きいです。
勿論、苦手な戦闘メイン回だった所為もありますが。
魔法科高校の劣等生原作、全然読めていません。
もしかして、パラサイトについて詳しいことが解説され
ているかもしれませんが、魔法理論に関してはこれで
ご勘弁を…。自分なりに脳みそを絞った結果ですので。
暫くは、こんな日々が続きそうです。
良ければ、次も読んで頂ければと思います。
正直、いつになるか明言できない状態ですが…。
因みに、魔剣はブレイブレイドからの出典です。
それを拡大解釈して出したものです。