地味に書き続けています。
それではお願いいたします。
1
治癒魔法様様な他の人と違うと不便な事もある。
私と達也は既に治っていたりするが、かったるい傷の定着待ちを偽装する日々が
始まった。
現在進行形で怪我治療中の人達は、割と深刻であったりするけどね。
「いや、大型二輪に撥ねられた事あるけどよ。あれ、それ以上だったぜ。我ながら
よく生きてたもんだぜ」
これはレオ君談である。
やっぱり原作通り大型二輪に撥ねられたようだ。
向こうが全然本気じゃなかったからよかったね!
筋肉妖怪の本性を現したら、指弾だけで死ぬよ。
幹比古君は、平然としている私達やレオ君を遠い目で見ていた。
閣下からは休んでもいいのよ?なんていわれたが、休める訳もない。
妖のカチコミという大事があったとしても、九校戦は続いていく。
休息などある訳もない。
そもそもこれからミラージバットの本戦が始まるんだからさ。
マイシスターの出番ですよ。
当然の如く、私もCADオタと一緒に補佐しますとも。
念入りにチェックしていく。
正直、CAD自体は達也が殆ど仕上げている訳だから問題ない。
新人戦から本戦に変わったとしても、あのズル…もとい切札の前では勝てる選手が
いる訳がない。
だったら、何をチェックしているのかというと機器の安全確認だ。
機器が汚染されていたら、目も当てられない。
外周部の警備や見回りは軍がやっているが、内部の各校の天幕は学生で運営している。
プロではない学生では、余程注意しないと好き放題やられて仕舞い兼ねない。
そう、妖が退場したとしても、賭けを楽しんでいらっしゃるお歴々が健在である以上、
用心は必要だ。原作では電子金蚕をCADに潜り込ませていた。
こっちではまだ使用されていない。
使われない保障がない以上、チェック体制を厳重にしないといけない。
勿論、全く別手段である事も念頭に入れないとダメだろう。
という訳で、余裕はなく忙しく動き回る羽目になっている。
私は達也と違って、深雪さえ無事なら後はどうでもって訳でもないから、一応、閣下を
通してエンジニア組に注意を促している。これで無視して同じ結果なら、もう知らん。
「ウチの機器は異常が認められないです。後は人を寄せ付けないようにしましょう」
達也がダブルチェックの為の機器の安全を保障する。
機器は完全にスタンドアローンで、特殊な手段でなければハッキングはまず受けない
が、遮断シールドと警戒の為の人員を置く事を追加で決める。
その案を持って、私と達也は生徒会の面々の所に向かった。
CADオタは上級生と残っている為、私達で報告に行く事になったのだ。
オタも生徒会だが、今はエンジニアの纏め役と化しており、そっちを優先している
ようだ。
報告と対策承認はスムーズに済んだ。
「もう終わった、と考えた瞬間が一番危ないものね。ローテーションはハンゾー君と
十文字君に組んで貰うから、大丈夫として…。でも、CADの細工を見抜けるといい
けど…」
そう閣下にしてみれば、所詮学生の集まりであり、プロの犯罪者の攻勢を凌ぎ切れる
か不安なのだろう。その本音が思わずポロリと出た感じだった。
「データは、一校のエンジニアがおかしなところがないか調べればいいと思います。
それ以外の工作に関しては幹比古君に頼ろうかと思います」
データに関しては、自分で組んだプログラムだ。違和感くらい気付くだろう。
流石に達也にチェックを依頼すると、一科生がエリート発作を起こすので無理だから
諦める。
精霊に対する注意に関しては、渡辺お姉様の件ですんなりと受け入れて貰えた。
今度は人間の術者がなんかやるかも、で済んだ。
妖が退場したのになんで?とか言われなくてよかった。面倒だし。
電子金蚕も精霊だ。幹比古君もCADに精霊が潜んでいれば気付く事が出来ると確認
している。
彼には、ここでも活躍して貰う事になる。
二科生であっても、精霊魔法の大家である家柄の彼なら、発作も軽く済むと見越して
の事だ。
生徒会も今まで尽力してくれた幹比古君の評価は高いようで、すんなりと納得して
くれた。
態勢も出来る限りは整えて、いざミラージバット本戦へ。
2
:術者視点
私はミラージバット本戦開始前の会場を歩いていた。
組織からは今回は保険としていろと言われていたが、ヘマをやった奴等のお陰で
目出度く本命として活動する羽目になっていた。
チケットを何度も確認して見せる。
勿論、監視カメラを意識しての行動だ。
チケットは本物だし、素性も滅多な事ではバレないように戸籍を丹念に育てたもの
を使用している。
名義を売っている日本人から戸籍を買い取り、何年にも渡り税金を払い。
顔を変え、生活費を滞納する事なく払い続ける。
日本人としてなんら不自然な事もなく国民の義務を果たし、戸籍の信頼を高めていく。
これを我々は戸籍を育てると呼んでいる。
原始的なやり方のように感じるかもしれないが、意外と少し疑われたくらいでは発覚
しないのだ。
日本に長く滞在して仕草も完璧だ。
今の私はどこからどう見ても、そこらのオジサンだ。
いかにも迷い込んだといった風を装って歩く。
向こうから軍人が歩いてくる。
こちらを見て、日本軍の軍人が目を細める。
「止まりなさい。ここからは関係者以外立入禁止だ」
軍人が、小銃をいつでも撃てるように構えつつ口を開いた。
「ああ!すいません!ちょっと迷っちゃって!D-45って区画に行きたかったんです
けど…」
私は両手を上げて、アタフタと慌ててチケットを振って見せた。
軍人は苛立ち交じりに溜息を洩らした。
「D-45区画はもっと先の通路だ。立入禁止の看板があっただろう」
「ああ!すいません!急いでたもんで…。ほら!もうじきミラージバットが始まる
でしょ?いい場所取らないと、目の保…試合が見れないじゃないですか!?」
私の態とやった失言とその後の誤魔化しを見て、軍人が冷ややかな視線を向けてくる。
これは呆れも混じっているかな?
大方、スケベ野郎がとでも思っているのだろう。
「分かった。もう行け。二つ先の通路だ」
「いやぁ。ありがとうございます!」
私は踵を返して、早足でアッサリと戻っていく。
私はカメラの死角で口角をキュッと上げて笑った。
これで仕込みは終わった。
私の魔法は発覚し難いし強力だ。
これからが疲れるが、仕事なんだから仕様がない。
3
ミラージバット本戦が始まった。
DJアーミーが例によってノリノリで喋り倒している。
本日は曇天。ミラージバットをやるにはいい天気だ。
深雪の出番は次だが、私は気になっている事があった為に、この場に居る。
どうせ、私に深雪の戦術やらCADに何か口出しする余地などないんだから、
いいよね?
何が気になるのか?
決まってるよ。これから小早川さんが出るんだよ。
名前を見て思い出したよ。ここで小早川さんが原作だと犠牲になるんだよ。
一応、平河姉にも閣下が注意を促してたけど、どうなったか気になってさ。
何しろ、原作では平河妹に逆恨みされる原因になった出来事だからね。
勿論、これから出てくる横浜中華街の長髪イケメンの所為ではあるが、変なネタは
なるべく作りたくない。
是非とも回避して貰いたい。なってしまったとしても、最小限に抑えたい。
故に、この場に居る。
今のところ忠告は聞いて貰えているようで、平河姉は念入りにデバイスチェック後の
CADを調べているし、幹比古君もチェックしている。
幹比古君は私の視線に気付いたのか、頷いて見せた。
流石に何も仕込まれていないか。
そして、本戦は始まった。
小早川さんは順調に点を取っているようだ。
お姉様曰く、小早川さんは気分で調子の良し悪しが決まるところがあるそうだが、
今のところは乗っているようだ。
ホッとしたのも束の間、小早川さんの様子がおかしくなってきた。
呼吸が荒く苦しそうな様子だ。
だが、タイムなどというものは九校戦には、基本存在していない。
どうしたのか訊くことすらできない。
他校は調子に乗って息切れしたと思っているようだが、あれは様子が違う。
体調に悪い変化が起きている。
練習に付き合っている筈の平河姉もおかしいと思っているようで、身を乗り出して
見ている。
幹比古君も眉を顰めている。
私は
何が増殖しているか、目を凝らして確かめる。
ウイルスじゃないし、寄生虫でも勿論ない。
あれは…魔法式だ。しかも大陸系の特徴を有している。
CADじゃなく、直接選手に手を出す事にしたのか!
それじゃ、分からなかった訳だよ!
小早川さんの顔は青白く脂汗がダラダラ流している。
魔法の発動も不安定になってきているのが分かる。
てっきり今度はCADの細工でくると思ってたよ。直接は散々やったんだしさ!
平河姉に御注進に行かないとダメだ。
私は走って一校のエンジニアの待機エリアに飛び込むように入る。
幹比古君がギョッとした顔で私を見る。平河姉も目を見開いている。
「試合を止めて下さい!」
私の剣幕に二人がさらに驚く。
いやいや、アレだけ具合悪そうなんだからさ。検討ぐらいしてたんじゃないの!?
「僕もそう言っていたところなんだ」
幹比古君が驚いたのは、どうやら私が関係ない他人の為に飛び込んで来た事にある
らしい。
私は達也程、他人がどうでもいいと思っている訳じゃないんだけどね。
いや、変わらないか。
これも深雪に同様の手が使われた時の為に、手段を明らかにしたいだけなんだし。
だけど、ほんのちょっぴり、小早川さんを心配しているよ?
平河姉は、まだ迷っているようだった。
基本的に体調不良に陥った時は、審判員の制止か選手自身が申告する。
そこにはエンジニアも含まれるのだが、基本的に選手出ないと試合の深いところまで
理解する事は難しいとされている。それを補う為の審判員の筈だが、連中は知らん顔
している。
「文句をいわれる事を恐れるより、小早川さんの無事を考えましょうよ」
私の言葉に平河姉は、漸く重い腰を上げた。
棄権を申し出ようと平河姉が動いたその時、私は偶々小早川さんや審判員連中を視界
に入れた。
「っ!?」
危うく声を上げるところだったが、なんとか耐えた。
一気に小早川さんの体内で魔法式が活性化したのだ。
そして、審判員連中。動かない筈だ。本職のプロの癖にしてやられていた。
既に敵の魔法に汚染されていたんだ、こいつ等!
迂闊だった!こいつ等をチェックしてなかった!
私は走り出していた。
平河姉を追い越し、自己加速でスピードを上げる。
審判員連中が無表情で私の前に立ち塞がる。
連中は既にCADに手を掛けている。
だが、私はスピードを緩めるどころか更に加速した。
魔法の照準が外れる。
その隙に私は、体術で迎撃しようとした審判員連中の懐に飛び込んでいた。
実際に寸勁も叩き込んでいる為、妨害しようとした審判員は内側に直接打ち込まれた
衝撃で崩れ落ちた。
術を完全に破壊するに至っていないが、邪魔さえされなければ今はいい。
私は勢いを殺すことなく、競技場を仕切っているフェンスを蹴って跳び上がる。
小早川さんが吐血して、魔法が中断される。
自由落下を開始して、会場に悲鳴が上がる。
私は小早川さんを空中でキャッチすると同時に、体内に
吐血は止まったが、すぐに病院に行く必要があるだろう。
一校のお偉方が走り込んでくる。
大会警備の軍人が後に続いている。情けないプロだな。
「担架!!」
着地と同時に私は叫ぶ!
閣下が軍人連中の上着を脱がせると、即席の担架を造らせると即搬送されていった。
そして、当然ながら私は身柄を拘束された。
説明してやろうじゃないか。アンタ等の情けなさを。
特に逆らうことなく連れて行かれてやった。
閣下が後で猛烈に抗議している声を聞きながら、平河姉を見ると顔が真っ青を通り越し
て白くなっていた。
これ、もしかして私が平河妹に恨まれる流れか?
もしかして、幹比古君も巻き込んでしまったかも…。
こんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ない!
4
:響子視点
身内ということで祖父の監視をやらされることになったけど、私では相性が悪いの
だけど。
隊長のことだから私の方は囮みたいなものだと思う。
だから、一応の監視をしつつ、別に仕掛けられたカメラで映像を見る。
監視カメラで確認していたが、深景さん達と戦っているのは間違いなく
動揺していても監視は怠らなかった為、私は見た隣にいる男の顔を。
楽し気な顔で見ていた。
この男は知っていた。ずっと前から、彼がパラサイトとなって生きていたことを。
本来なら、パラサイトになったなら性格も変質する傾向にあるが、彼は全く変わって
いないと会った隊長がいっていた。
生きていたとしても人でなくなったことで関係を断つ。
彼らしいとも思うが、何かいってほしいと思ってしまう。
祖父に向かって、声を荒げたくなるのを必死に堪える。
戦闘は実質三対一。
だが、彼にはまだまだ余裕があるように見える。
実力に枷が掛かっている達也君や、専用のCADが必要な深景さんでは厳しい戦い
になっている。プリンスも競技用のCADでは本領発揮とはいかないだろう。
だが、無茶ともいえる方法で深景さん達は勝った。
意外に冷静に結果を受け止めている自分に驚いてしまった。
いや、受け止めているといういい方は間違いだろう。
彼は死んでいないだろうという確信に近い予感があったからだろう。
祖父も驚きはしても、彼が死んだとは思っていないようだった。
これで一件落着と考えるような人間は、魔装大隊ではやっていけない。
警戒を密にしていた筈だが、またしてもやられていたようだ。
ミラージバットで深景さんがそれを暴いた。
そして、軍人に危害を加えた生徒として拘束された。
調べが付けば無罪放免だろうが、早い方がいいだろうというのが隊長の判断だ。
私達はただでさえ彼の対応で彼女を怒らせている。
関係修復を図る為にも素早い行動が大事だ。
そういう訳で私が身元保証人として出向いた…んだけど。
扉の前に到着した途端に怒号が聞こえた。
「バッカじゃなかろうか!!」
「貴様!なんだ!その態度は!下手に出てれば調子に乗りやがって!!」
遮音魔法くらい使いなさいよ。
隊長…。遅かったかもしれないです。
私は頭痛を堪えながら、扉をノックして修羅場と化した部屋に突入した。
最初は苛々としていても落ち着いて話もできたようだが、軍の不甲斐なさを声高に
主張し始めると深景さんは止まらなくなり、軍の取調官も頭にきたようだ。
これだけ頭を下げたのは結構久しぶりね…。
達也君や深雪さんが突入してくる前に、片付けられてよかったのが唯一の救いね。
試合は第一試合の終了後、中断になっているから二人共突入可能だったのよ。
彼のことを考える暇がないのはいいけど、もう少しマシな仕事ならよかったわね。
まだ怒りが収まらない彼女を連れて一校の天幕まで連れて行った。
そこで二人から嫌味の雨が降ることになるんだけど、思い出したくないから省略
するわ。
5
「あんまり無茶しないでね…」
迎えに来てくれた響子さんには悪いけど、お世話になりましたという気になれない。
なれないけど…。
「どうも。ありがとうございました」
達也と深雪に集中砲火を浴びたことには、心からご同情申し上げる。
だから、お礼くらいはいっておいた。
トボトボと帰っていく響子さんに心の中で敬礼してやる。
私が心からのお見送りをしていると、後ろから咳払いが聞こえた。
振り返ると、そこには閣下が立っていた。
「それで、そろそろ事情を聞かせて貰える?」
ですよね。
私は達也と二人で一校首脳陣と相対する。
達也に付いて来て貰ったのは、何も心細かったからではない。
連行される時に、実は達也に小早川さんの体内の魔法的な残留物の調査を、念話で
お願いして置いたからだ。
勿論、深雪の安全に繋がることなので二つ返事で了承してくれている。
そして、幹比古君にもオブザーバーとして参加して貰っている。
今回は古式が大活躍しているし、私の予想通りとするなら彼の知識も有用だからね。
「では、聞かせて貰おうか」
ぬりかべが厳かに口を開いた。
体調はあまり芳しくないようだが、表面上それを窺わせることはない。
流石、御当主様といったところか。いや、代理だったけ?
「まず、小早川先輩の血中から蟲毒が発見されました。おそらくは最初の注入では大した
量ではなかったでしょう。
達也の報告に、一校首脳陣が驚きを露わにする。
「そんなことができるの!?」
閣下が声を上げる。
蟲毒は本来の使い方をするなら、呪術の媒介として使用される。
だが、解毒困難な毒としても使用用途はある。
欠点は解毒困難であり、解毒は不可能ではない点だろう。
今回の不可解な点は、毒が体内で増殖した点にある。
蟲毒にそんな性質はないからだ。
閣下も良家のお嬢様だし、暗殺に対する知識もある程度あるんだと思う。
だからこそ、疑問を呈したのだろう。
「おそらくは今回用いたのは、窮奇針だと思います。しかも、現代魔法や化学を駆使
したかなり高度な代物だと思います」
私の言葉に、考え込んでいた幹比古君はハッと顔を上げる。
「窮奇針って何?」
閣下がすかさず質問してくる。
まあ、当然の反応ですよね。かなりマニアックな大陸系の古式魔法だ。
窮奇は四凶の一角であり、人心を惑わすモノである。
実際は怪物にされたり、霊獣にされたり忙しいモノだが、これは悪い方を象徴とした
魔法である。使われた者は、操られたり呪殺されたりと碌な目に遭わない。
それを使う重要な役割を果たすのが化成体で、蚊などの針を持つ虫を使う事から
窮奇針と呼ばれる。刺された人間は、目的の効果を作り上げる設計図を注入され、
その当人の血液を媒体にして増殖し、望む効果の魔法を完成させる。小さい化成体で
あるなら、小さいし感知が難しい。しかも、魔法式は極小を極める。制御も難しいし、
構築もマゾのレベルだ。
ハマれば強力といった魔法である。
だが、使うのは困難を極める。そら廃れますわ。
今回は人を操る術と、蟲毒の成分の増殖を促す術式を体内で作成したということ
だろう。
古式剣術も守備範囲の私の先生から聞いたことで、使い手は殆どいないそうだ。
知名度が低ければ、使われても気付かれ難い。
それにしても、幹比古君はよく知ってたな。
私の説明に一校首脳陣の顔が曇る。
「でも、化成体なんて使ったら分かるんじゃないの?」
またも閣下が疑問を口にする。
「流石に小動物サイズなら分かりますが、蚊くらいなら余程のセンサーでないと分かり
ませんよ」
幹比古君が私に代わり答える。
「上手いな。季節として蚊が飛んでいても化成体だと疑って掛かる要素はないでしょう」
達也が捕捉を入れる。
「一応、軍の方には?」
ぬりかべが私に訊いてくる。まあ、今まで聴取されていたんだから訊かれるか。
「その疑いがあるとはいいましたよ。本当かどうか疑われましたけどね」
あのボケ共からは、君の創作じゃないのか?と鼻で嗤われたよ。
誰得の嘘だよ。全く。実際にあるわ!
「…俺からも注意は促して置こう」
ぬりかべが似合わぬ溜息を吐いていった。
このままでは、またぞろ同じことになり兼ねないのに、無策はぬりかべ的にも不味い
だろう。
閣下も一緒に行くということで、各人、虫に注意という微妙な対策案が出されること
になった。
化成体には蚊取線香効かないけど、どうすんのかな?
6
:達也視点
中断されていたミラージバット本戦が再開される。
CADの調整も問題はない。機器の方にも問題はない。
妨害に厄介な魔法が投入されたからといって、機器に手を出されないという保証など
ない。寧ろ、隙あらば、そこを突いてくるだろう。
そろそろ攻めに転じたいところだ。
小野先生には無頭竜のアジトを調べて貰っているが、流石にまだ報告はない。
厄介な敵の方はなんとかなったと思えば、今度は犯罪組織がしゃしゃり出てくる。
鬱陶しいことこの上ない。深雪や姉さんの安全の為にも速やかに排除したいが、今は
ジッと耐えるしかない。前回は姉さんに大部分を頼ることになってしまった以上、今度
こそ俺が肩を付ける。
まずは深雪をこの悪意から護るのが先だが。
今、俺はデバイスチェックの為に列に並んで待っている。
姉さんと幹比古の見立て、そして、俺自身の調査で警戒すべき点は理解している。
姉さんが居なかったら、俺でもしてやられていたかもしれない。
それ程、馬鹿げた魔法であり、技術だ。
人に至っては、体内の状態まで読み取らねばならず、非常に神経を使うが仕様がない。
遂に俺の番になる。
俺はCADを検査員に渡した。
その時、俺の眼は異常を捉えた。
極小の何かが、俺の腕に飛び込んで来た。
検査員の身体から俺に向かって。
微かな違和感。
だが、無視はしない。目を凝らす。そして、正体が判明した。
それは蚊ではない。
ダニだ。
蚊なんてものを化成体にして操るだけでも大儀だろうに、まさか更に小さいとはな。
魔法式など考えることも放棄したくなる小ささだろう。
事前の情報がなければ見過ごしていただろう。
すぐさまダニを分解して無力化する。刺される前に処理してやった。
リンクは素早く切断したようだな。
まさに変態的な制御能力だな。これでは術者を追えない。
引き際まで鮮やかとは、と感心すらさせられる。
さて、となると、この検査員も操られているだろうな。
更に成程と思わせることがわかった。
CADにも何かが入り込んだようだ。
二段構えとはな。
CADを無感情に返してくるが、俺は受け取ったCADを即座に机に置き直した。
怪訝そうに検査員が見てくるが、俺は無言で検査員を殴り倒して気絶させた。
同僚がやられて周りの連中が殺気立って立ち上がるが、俺をそれを一睨みで動きを
封じた。
自分の不甲斐なさに腹が立っていたので、流石に殺気は抑えきれない。
魔方式の元が極小の為に、俺の眼を以ってしても検査員の体内の魔法からも術者が
追えない。
CADの方も辿れるか怪しい線だ。
思わず舌打ちしたくなるのを抑えていると、背後から騒ぎが起こった。
振り返ると、そこには九島烈が供を引き連れて立っていた。
「何事かね?」
「ハッ!当校への不正行為を認識した為、取り敢えず無力化したところです」
俺は姿勢を正して、九島烈の質問に答えた。
「ふむ。どれ…」
九島烈は供の一人に目配せすると、心得たように動きCADを九島烈に渡した。
じっくりと眺めた後、一つ頷く。
「成程。確かに異物が入り込んでおる」
「どうやら操られているようなので、尋問は無駄と判断し意識を刈り取りました」
九島烈が確認した後、事の次第を説明した。
「成程。そういうことなら致し方がない。司波君といったか?このような事態だ。
改めて検査は不安が残るだろう。特例として予備があるなら検査は必要ない。それ
を使い給え」
勿論、予備も準備している。
「ありがとうございます」
「老師!」
九島烈の言葉に、検査を行っていた責任者と思しき軍人が、十師族相手に勇敢にも声
を荒げた。
「黙り給え。君達は注意を受けていながら、この事態を防げなかった。国防を担う君達
に言い訳が通用するなどと考えていないだろうな?」
「……」
どうやら会長と会頭経由で念押しした関係で、九島烈にも耳に入っていたようだ。
検査を担当する軍人達は、下を向いたまま同僚を拘束した。
目を覚ましたら、暴れないかふあんだったようだが、もう身体に影響は残っていない。
魔法の効果が切れて終了したことで、証拠も処分か。
厄介だな。
「司波君。いずれ
「ハッ!機会がありましたら」
「その時を楽しみにしているよ」
九島烈は背を向けて去って行った。
君達には、おそらく姉さんも入っている。
あの妖の件、あの男は関わっていないのだろうか。
どうもこの男が気付かなかったとは思えない。
俺は、そんなことを考えながら、去って行く背を見送っていた。
7
:術者視点
やれやれ、失敗したな。
まさかこれ見破る奴がいるなんて思わなかった。
こちらに影響が出る前に、リンクを切断しているし、魔法も用が済めば魔法式も残ら
ない。
少なからずプライドに傷が付いたが、そんなことより生きて逃げることだ。
そうと決まれば、ミラージバットが終わったら、サッサと逃げるのがいいだろう。
再度やるなんて危険な橋を渡る程の義理はない。プロなら引き際誤ってはいけない。
声掛けてくれる組織は他にもあるんだ。いいか。
という訳で、報告を入れる。
『ふざけるな!貴様!一度失敗した程度で逃げるなら、死ぬ覚悟をしておけよ!!』
ヒステリックに叫ぶ。
ボスはどうやら随分と正気を失っているようだ。
これを破る程の奴がいる以上、小細工ではもう無理だ。
大会そのものを潰すしかないだろう。
まあ、今のボスなら遣り兼ねないな。最悪、すぐに逃げられるようにしておこう。
「そういう訳ですので、長い間お世話になりました」
まだ何か喚いていたが、私はそれを聞かずに通信を切った。
私は周りにへこへこ頭を下げて、席に戻る。
さて、ここからは純粋に試合を楽しむとしよう。
悔しいから、精々スケベ親父丸出しで観てやろう。
この後、私は皮肉なことに再び代替わりした無頭竜に世話になることになるが、
それはまた別の話だろう。
8
遂にミラージバット本戦で、マイシスターの出番だ。
まあ、負けないよね。例のヤツがあるし。
しかし、まさかダニでやってたなんてね。予想外だったね。
軍も忠告聞かないとか、もうダメだこりゃ。
達也が深雪の周りに神経を尖らせている。
破られた以上、何をしてくるか分からないからね。
同じ手ではこないと思うけどさ。
でも、電子金蚕は結局使われたし、油断する訳にはいかない。
姉弟二人で厳重に警戒中です。
選手が会場に出揃う。
歓声が凄い。
主に深雪への。他の出場選手も美人さんやら可愛い子はいるのに不憫な。
深雪に比べると、他の子が霞んでしまうのは仕方ない。ドンマイ。
私は君達の理解者だ。いつもそういう経験しているからね!
同情しつつも、警戒は怠らないよ。
そんなこんなで開始のブザーが鳴り響く。
空中に光球が散りばめられる。
一斉にお嬢さん方がジャンプする。
一際速く高く跳んだ者がいた。
だが、それは深雪じゃなかった。
深雪ですら一呼吸ほど遅れている。
ああ、あれが原作の三校のミラージバット特化型の選手か。
参考にさせて貰いました。
三校選手が、深雪より先にポイントを奪い取った。
微かに深雪の眼が細められる。
おっ!マイシスター本気モードですな。
微妙な変化だけど、私達には分かるんだよね。練習中は結構拝む機会あったし。
違う標的をフェイントで狙えば深雪もそこそこポイントが稼げる。
だが、深雪はそれをしない。自分の狙いが読まれている事を承知の上で挑む。
そして、三校選手がお得意のブロックを敢行したが、今度は三校選手が驚愕する。
深雪は同じく身体を捻ることで三校選手のブロックを躱し、魔法力を存分に生かした
力強い跳躍で光球を打ち抜いた。
会場から歓声が沸き上がる。
観客は、高度な試合にも熱狂し出したようだ。
でも、そこは経験豊富な上級生の魔法師。深雪にリードは許さない。
そんな熾烈な乙女の争いに、皆さん興奮しっ放しである。
そして、第一ピリオド終了。
深雪は原作通り若干のリードを許した状態で終えた。
9
:深雪視点
第一ピリオドが終わり、お兄様の元へ戻る。
その途中に思い浮かぶのは、先程の試合内容。
慢心していた積もりはない。
でも、
お姉様と違って、ブロックは魔法を用いていたが、それだけにお姉様以上に抜くのが
困難だ。
お姉様に練習で身に付けた空中戦のやり方がなければ、ポイントはもっと開いていた。
姿勢制御の類だろうけど、跳躍に組み込んでくるとは流石に九校戦だわ。
できればお姉様に散々練習に付き合って頂いたのだから、切札はできるだけ使わずに
勝ちたかったけど、仕様がない。
多分、この僅かな差は大きく、試合中に埋まることはないと思う。
これだけで私には忸怩たるものがあるのだけど…。
かといって負けるという選択肢はナンセンスだもの。
「お兄様。アレを使わせて頂けませんか」
本来ならば、これは決勝の切札。
お兄様としても温存して置きたかったことは分かっている。
それでも、私は負けたくはないし、負ける訳にもいかない。
お兄様がフッと微笑む。
「いいよ。お前の為に用意したものなのだから」
本来なら、お兄様の微笑みの余韻に浸りたいところだけど、今はいけない。
そして、第二ピリオドが始まる。
試合内容は、一気に様変わりして、一方的な展開になった。
私一人がポイントを重ねていく。
当然だ。イチイチ跳ばなくてもいいのだから。
お兄様の切札。飛行魔法と専用のCAD。
お兄様の読みでは、想定されていないだけなので、将来的に規制のルールができる
といっていたけど、今はルールに抵触していない。
悪いけれど、存分にやらせて貰う。
こうして私はミラージバット決勝にコマを進めた。
観客の熱狂的な反応に笑みで応えたけれど、本心から笑うことは難しかった。
10
:ダグラス・黄視点
妨害対象が飛行魔法を使い、圧倒的な勝利を収めた。
その報告を受けて、思わず大声で叫び出したくなってしまったが、どうにか今回は
抑えた。
窮奇針を使う男が、仕事放棄をやり醜態を晒したばかりだ。
必死に自分を落ち着かせる。
最早、破滅を回避することはできないのか…。
いいだろう。死なば諸共だ。
不思議と腹を決めると、自分の顔に笑みが出た。
破滅の寸前だというのにな。
私は他の幹部が待つ部屋へと戻って行った。
「もう九校戦を終わらせようと思う」
私は部屋に入るなり、そういった。
幹部達が目を見開く。
「そ、そんなことをしては、顧客が納得せんぞ!!」
「納得?して貰う必要はない。皆も分かっているだろうが、もう取り返しが付かない
状況だ。ならば、意趣返しくらいせねばならないだろう?」
私の笑みに幹部達が追撃の言葉を失った。
私に狂気を感じたからだろう。
「戸愚呂達に持ち込ませた。ジェネレーターを全員を暴走させる。武器の持ち込みは
できなかったが、リミッターを解除してやれば、相当数客もガキも殺せるだろう」
舐めてくれた礼は、死んで償わせてやるぞ。
相変わらずのガバガバな魔法。
小早川先輩は、体内で毒を魔法式により合成しています。
これでも頭を捻っているんです。
なんか、また進みが悪くなったような…。
次回もいつ投稿できるか不明瞭な状況です。
次回もお付き合い頂ければ幸いです。