司波家の長女は何をする?   作:孤独ボッチ

27 / 39
 相変わらず時間が取れない…。
 いい訳ですけどね。
 それでは、お願いします。


 


九校戦編19

               1

 

 達也に聞いた話になるけど、窮奇針はダニを使用していたらしい。

 どうもお疲れ様といいたい。

 難易度は蚊を上回るだろうに、達也にさえ居場所を特定させない腕前とは、最早変態と

断じていい。

 それだけ用心深い奴なら多分もうトンズラしたろうが、用心に越したことはない。

 多分、そろそろ破れかぶれになってフランケン大暴走をやってくるんじゃないかと、

疑われる状況で面倒臭い。

 原作じゃ、フランケンは一体しか登場しなかったみたいだけど、原作とは違うこの世界

だと、当てにはならない。毎回のことですよね。フラグですよね。分かります。

 単なる決意表明とか心配がフラグとか、泣いていいでしょうか。

 などと泣いている余裕はない。

 マイシスターのことは任せたぞ、弟よ。

 心の中で密かにエールを送っていると、大会委員会のお歴々が訪ねて来た。

 フランケン退治に出掛けようとしていた矢先だったのに、気になるじゃないか。

 サブエンジニアとして、是非聞かせて貰おう。

 同席させて貰うと、思い出した。

「つまり、飛行魔法の術式を公開してほしいと?」

 達也が淡々とした声で、大会委員会お歴々の長い話を要約した。

 そうそう、こんなこといってきてたわ。

「何分、不正疑惑が出ているからね。まあ、こちらもそれなりの対応をしないといけない

のだよ」

 達也は特に怒っていなかったが、よく知らない人には圧が凄い為、怒っているように

見えるのだろう。

 術式タダで公開しろとか、本来なら舐めるなの一言で終了案件だもんね。

「いいですよ」

 だから、アッサリと承知されて向こうは拍子抜けした感じだった。

 達也にしてみれば、想定内の反応だったろうし、原作でもタダでデータが取り放題と

腹黒いことを考えていたような気がする。このデキる弟は、損をするような間抜けでは

ないのだよ。

 大会委員会のお歴々は、ホクホクして帰って行った。

 仕事完遂してやったぜ(ドヤァ)ってところかな。

「もうちょっと困らせてやってもよかったんじゃない?」

「いや、これでいいんだ。こっちも損する訳じゃないよ。データをわざわざ提供して

くれるというんだからね」

 あ、やっぱりそう思ってたよ。

「じゃ、そういうことで、そっちは任せたよ?」

「姉さんは、どうするんだい?」

「私は勿論、警戒だよ」

 具体的にフランケンの。

 それかイレギュラーの。

 達也には自分が代わろうか?とかいわれたが、無理に決まってるでしょ。

 達也はそれよりもダニの警戒の方を宜しく。

 多分、もういないと思うけどさ。

 そういったら、達也は眉間に皺ができていた。

 納得いかない?それとも厄介事に反応してるの?

 まあ、どちらにしてもさ。

 

 決勝はまだとはいえ、メインのエンジニアが消えてどうする?

 

 

               2

 

 :愛梨視点

 

 飛行魔法。

 確かに、ミラージバットであんなの使われたら反則といいたくなる気持ちは分から

なくないわ。

 でも、インパクトに惑わされている部分もあるわね。

 光球が現れてステッキで打つまでのタイムを考えると、対抗できなくはないわ。

 私も飛行魔法に動揺することなく、決勝への切符を捥ぎ取っている。

 そんな私達に驚きの知らせが届いた。

「飛行魔法!?私達にも使っていいっていうの!?」

 なんと大会委員会から直接、不正疑惑を晴らす為という理由で開示されたのだ。

 ミラージバットで戦術的理由からエンジニアを引き受けてくれた栞が、若干困惑した

顔で教えてくれた。

「でも…」

「ええ。問題は使い熟せるかどうかね。しかも、ほぼぶっつけ本番になるわ」

 流石に栞は特性を把握していて、私と同じ危惧を抱いていた。

 確かに、使えれば便利。だけど、ぶっつけ本番で使い熟せるような魔法ではないこと

を考えれば、寧ろ混乱の元であるともいえる。

「他校は飛び付くでしょうね」

「ええ。文字通りね」

 こんな冗談が出るくらいには、冷静さを保っている。

 お互いに皮肉っぽく笑った。

 だが、他校は違う。他校に私のように跳躍のスピードで勝負できる選手はいない。

 あの司波深雪に勝つ為には、飛行魔法を使うしか手がないと考えるでしょう。

 他校は自分達なら使い熟せると思い込み、使うだろう。

 だが、練度に違いがあり過ぎて、勝負になるとは思えない。

「跳躍を柱に戦うわ。飛行魔法は使うにしても、状況次第というところかしら?」

「貴女なら、そういうと思ったわ。調整はしておくから、できるだけ試してみて」

「分かったわ」

 返事してから、私はあるアイディアが浮かんだ。

 かなり無理のあるプランだけど、頼んでみて損はない。

 まあ、我儘と呆れられるだろうし、無謀と怒るだろうけどね。

「どうしたの?」

 栞が突然苦笑いした私を不思議そうに見た。

「いえ。少し頼みたいことがあるのだけど、無理なら無理でいいわ」

「ちょっと怖いわね。一応、いってみて?」

「跳躍の術式に飛行魔法の行動の自由度を加えられないかしら」

 栞が難しい顔になる。

 それはそうよね。

 跳躍は高く跳ぶ為の魔法。

 相手をブロックしたり、ブロックを躱したりしたら跳躍速度が落ちる。

 何も飛び回る必要はない。飛行魔法を狭い範囲で応用できれば、減速することなく

回避やブロックが可能になるのでは、と思ったのだけど。

「いわんとすることは分かるわ。でもそれ、吉祥寺君の手を借りること前提よね?」

 栞の顔に苦いものが混じる。

 吉祥寺真紅郎に自分が私のエンジニアを担当するといい切った手前、いい辛いの

だろう。

「ごめんなさい。私自身も賛成した身としては、勝手なことをいってる自覚はある

わ。でも、同じ三校で今は味方なんだもの。手が届かないところを頼ったっていい

んじゃない?」

 司波深雪とは、そういう敵だ。下らないプライドなら捨てて望まないとね。

 絶対に譲れないことは抱えていけばいい。

 栞は少し目を見開いて、困ったようにフッと笑った。

「はいはい。選手の為に私が吉祥寺君に頭を下げればいいのよね」

「やってくれる?」

「残りは愛梨だけだもの。勝つ可能性があるのは。なら、私も覚悟を決めないとね」

 栞は憑き物が落ちたみたいに笑った。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 お互いに笑い合った。

 その直後、水を差すみたいに通信機が呼び出し音を鳴らした。

 何かと思って出ると、信じ難い相手からだった。

 

「お母さま?観戦にいらっしゃるの?」

 

 

               3

 

 ミラージバットの予選は続いている。

 まあ、マイシスターが終わっている以上、私にとって後は決勝までは、消化試合

みたいなものだけど、フランケンを警戒しておかないといけない。

 確か、普通に観客席に座っていたような記憶がある。

 途轍もなく怪しいのだから、すぐに分かるだろうと思っていた時期が私にもあり

ました。

 

 あれ?見当たらないよ?

 

 遂に勝利した?いや~素晴らしい成果だ!君は英雄だ!ってそんな訳ないよね。

 会場にいないなら、外で待機してる可能性を除外できない。

 なんせ、あの怪しさ大爆発の見た目だからね。フランケンは。

 戸愚呂だってそうだった筈だけどさ。

 まあ、あの化物は自分の犯行を隠す技量が半端なかったからだとしても、あの

フランケンはマークされたらお仕舞いでしょ。

 まして軍が警備してるんだからさ。

 戸愚呂の時はふざけた対応だったんだから、こっちは真面にやって貰いたいね。

 いつまでも愚痴ってても仕方ないから、探すか。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で会場の外を探してみる。

 

 ですよね~。

 

 トラックに仲良く座ってらっしゃいますよ。

 十人程。多!!

 原作通り魔装大隊三人掛かりで倒すとか、無駄な割り振りしなきゃいいけどね。

 最悪、一人でお掃除ですかね、これ。

 

 さて、気が進まないけど、片付けに行きますか。

 おや、丁度リミッター解除ですか?

 あれれ?チョイヤバですか。

 ゾロゾロ出てきてるよ!?

 

 私は全力で駆け出した。

 

 

               4

 

 :ダグラス・黄視点

 

 戸愚呂達に持ち込ませたジェネレーターは十体。

 その全てのリミッターを解除すれば、大会の継続は不可能だ。

 日本の軍隊であっても対応などできるものではない。

「では、皆、異存はないな?…リミッターを解除する」

 私はリミッターの解除信号を送る。

 トラックの荷台の中には内部が見えるようにカメラが設置されている。

 トラックに座っていたジェネレーター達が、一瞬震えるような反応を示す。

 全員が一斉に立ち上がる。

 まずは舐めた真似をしてくれた第一高校の連中を優先してやらねば。

 リミッターを解除すると複雑な命令が理解できなくなるのが難点だが、簡単な命令

で事足りる。

 

 私達は、もう終わりだが、貴様等も道連れにしてやるぞ。

 

 

               5

 

 最速で向かったが、時既に遅しでフランケンはバラバラに遊びに出掛けたようだ。

 できるだけ殺して回る為だろう。

 まあ、妖連中より対処は楽だけどね。普通に魔法効くしさ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で行く先を突き止める。

 どうやら一体は柳さんが原作通りやってくれるようだから、仕事して貰うとして、

他の面々も動いてるな。これで動いてなかったら、本気で怒るけどね。

 一般の警備を担当してる軍人じゃ、相手は厳しい。

 イチイチ追い付いて斬るには、犠牲者が増え過ぎる。

 なら、答えはこれだ。

『タチコマ。聞こえる?』

『『『『『ほ~い!』』』』』

 やっぱり来てたか。

 反応を探ると、近くにいるようだ。

 この子達にも色々経験させてやらないとだしね。連れて来てると思ったよ。

 この場にいなかったら、エージェント機能でサポートして貰う積もりだった。

『敵の現在地を送る。足止め宜しく!』

『別に倒してしまっても構わないのだろう?』

『……』

 どこで拾ったんだ、そのネタ。それ死亡フラグだからね。笑えないよ。

『無理しない程度に宜しく。魔法の射程に入らないように気を付けてね』

『『『『『『ほ~い!』』』』』』

 何故、態々フラグを立てた?

 内心の不安を押し殺して、気を取り直す。

 そして、私は一体型の拳銃型CADをホルスターから引き抜く。

 私のやること、それは狙い撃ちだ。

 だから、足止めでいいのだよ。

 タチコマでも上手く立ち回れば倒せると思うけどね。

青魔烈弾波(ブラムブレイザー)

 柳さんのところ以外の九体のフランケンに同時に照準する。

 タチコマ達は見事自分達の仕事を果たしている。

 注意を引きつつ、適度に距離を保ち、射撃で足止めしてくれていた。

 優先的に被害が拡大しそうなところを教えたから助かるよ。

 それに比べて魔装大隊の皆さん。仕事ショボ過ぎませんかね。

 響子さん仕事杜撰過ぎない?位置特定できてないの?

 柳さん以外の他の面子がタチコマより到着が遅いよ。

 まあ、私が片付けるけどさ。

 離れていても、この眼なら問題にならない。

 銃口がフランケンの近くに出現する。

 流石に人間辞めさせられただけあって、照準した瞬間にフランケンは反応して

見せたが、避けられるより速く私は九つの青い衝撃波を放つ。

 タチコマがいるところはタチコマの対応があったから余計に遣り易かった。

 フランケンが避けるより速く頭が吹き飛んでいた。

 貫通力のある衝撃波を放つ魔法である。

 何故か、衝撃波が青い為に目立つが、簡単に真似できて便利だったんだよ。

 だから、同時照準で撃ち抜くくらいは、今の状態でもできる。

『特尉!任務完了しちゃいました!』

 タチコマ。しちゃいましたって…。嫌味をいえるようになったのか?

 まあいいや。

『ありがとうね!あとで天然オイル差し入れるよ』

『『『『『『わ~い!』』』』』』

 まあいいけどね。

 

 頭のない死体を残しとくと面倒だなと考えて、処理までやるかと決めた時だ。

 後から気配が湧いてくる。

 咄嗟にしゃがみ込む。

 私の頸があった場所をワイヤーが通過する。

 ワイヤーは魔法の輝きが宿っている。

 危うく首が物理的に飛ぶところだったよ。

 拳銃型とはいえ、銃口が相手を向いていなければ何もできない訳ではない。

 振り返らずに、背後に衝撃波を放ち、素早く転がり距離を取る。

 立ち上がりながら、衝撃波を連射する。

 一発目の衝撃波を躱しつつ、突撃してくる。

 姿を見れば、女型のフランケンでしたよ。いたの?造ってたの?

 そんなことより倒さなきゃだけど、どこに隠れてたの?

 私の眼を誤魔化すとか、随分と完成度が…って、こいつパラサイトじゃん。

 憑いてんじゃん。誰の撃ち漏らしだ。文句をいってる場合じゃない。

 疑問が解消されたところで、やりますか。

 女フランケン改め、パラフランケンが人間離れした動きで迫って来る。

 人間だったら、あんなにグネグネ動いたら身体がヤバいことになるが、

お構いなしだ。どうなってるんだか。雑技団にでもいたのか、この女。

 憑かれた奴特有のスキルESPで魔法を発動する。

 不可視の刃が無数に舞う。

 ワイヤーとの合わせ技のようで、かなり厄介な攻撃だ。

 私は遠当てで弾幕を張って対応。

 やっぱり、シューティングは好きになれないな。

 力の無駄遣い臭くて。

 弾幕を掻い潜って飛んでくる不可視の刃を躱しながら、顔を顰めた。

 私はCADをホルスターへ戻す。

 好機と見たのかパラフランケンが、攻撃の手数を増やしてきた。

 集中している私にとって、それはゆっくりとしたもので防御も回避も問題はない。

 私は拳を徐に突き出して、開いて見せた。

 その瞬間に凄まじい閃光で周囲が真っ白に染まる。

 ほのかが、最初に原作で使おうとしていた閃光魔法の強力なヤツである。

 パラフランケンはニヤリと嗤った。

 そう妖連中には目潰しなど、あまり効果はない。

 肉体は人間ベースだから視界は利かなくなるが、妖はそれで困らない。

 何故なら、情報体である連中は、別の視点を持っているからだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 閃光が収まる。

 パラフランケンが自分の視界が回復した時、怪訝な表情に変わる。

 それはそうだろう。

 目の前には無傷の私がCADを構えて立っていたんだから。

「残念でした」

「っ!?」

 パラフランケンは、すかさず腕を振るうが攻撃は空を切った。

 振るうべきワイヤーは、切断されて使い物にならなくなっていたからだ。

 とうにワイヤーは無効化されていたのだ。

 ただ闇雲に振り回させただけだとでも?

 私はCADの引き金を引いて魔法を放つ。

 コアを正確に狙って。

烈閃槍(エルメキアランス)

 戸愚呂みたいな化物には、あんまり効果がないだろうけど、アンタみたいなヤツ

にはキツイでしょ?

 コアが消滅したのを確認し、槍を消した。

 私が何をしたかといえば、簡単なことだ。

 まずはパラフランケンの視界を潰し、敢えて妖本来の視界に切り替えさせた。

 そして、偽の情報体を仮装行列(パレード)の劣化版で偽装して、それに注意を

向けさせた。ただそれだけである。あくまで劣化版であるし、情報体を見易くして

やっただけだ。

 見えていれば不自然極まりなかっただろうが、閃光で視界は利かない。

 ワイヤーに関しては、私自身が狙われていた訳じゃないから、対処は簡単だった。

 振り回されたワイヤーを切断するのは余裕である。

 おまけとばかりに、閃光魔法を派手にブチかましてサイオンを撒き散らし、劣化版

の魔法を正確に検知できないようにしてやった。

 これでバレても幻影ですとかいって誤魔化せる。いや誤魔化す。

 

 さて、面倒な人が来る前に遠山の金さんみたいにドロンしよう。

 死体の始末は諦めよう。仕様がないし…。

 

 

               6

 

 :ダグラス・黄視点

 

「なんだとぉ!?」

 私は思わず絶叫してしまった。

 ジェネレーターから妨害報告が来たが、すぐに途絶えた。

 何故なら、十体のジェネレーターの反応が消えたからだ。

 しかも、会場内にいた女型のジェネレーターまでも謎の行動に出て、始末される

有様だ。

 まだ、何もしていないというのに…。

 視覚情報取得可能な個体の情報をモニターに投影すると、青いチャチな

多脚戦車が映っていた。

 確か、あのチャチな多脚戦車は日本の特殊部隊の装備だったな。

 あの多脚戦車にそんな性能があるというのか!?

 いや、常識的に考えるなら魔法師の魔法による攻撃と考えるべきだ。

 日本軍は我々のような思い切りはない。

 妙なヒューマニズムに縛られている。

 あの多脚戦車に人間の脳が繋がれているなどということは、ないだろう。 

 多脚戦車に魔法を使うことはできない。操縦士か?

 いずれにしても、余計な場面でしゃしゃり出てきおって!!

 悔しさのあまりテーブルを叩き割ってしまった。

「おい!もう万策尽きたぞ!!逃げよう!!」

 幹部の一人が世迷言をいう。

 それをキッカケにそれぞれ勝手に喚き始めた。

 ふん。どこに逃げろというのだ。

 逃げるぐらいでどうにかなるなら、遠の昔にそうしているわ。

 私はドッカと椅子に座り、喧騒を眺めていた。

 

 私は最早、万策尽きた。

 こんな終わり方をするとはな…。

  

  

               7 

 

 :愛梨視点

 

 通信機で聞いた久しぶりの母の声は、元気そうだった。

 十師族に並ぶ存在として実力をアピールしてこい、というのが一色家の

意向だが、それを抜きにしても無様な試合をする訳にいかなくなった。

 もとよりする積もりなどないけれどね。

 

 栞から魔法の準備が整ったという連絡がきたので、急いで練習に向かう。

 時間の無駄はできない。

 到着すると、栞と吉祥寺 真紅郎が話込んでいた。

「待たせたかしら」

「いえ」

「いや、予め問題点になりそうな部分を探していただけだよ。悪いけど、

着いたなら早速始めてくれるかな?」

 私の言葉に二人が答える。意外と協力し合えるじゃない。

 頼んでおいてなんだけどね。

 私は渡されたCADを操作する。

 身体が重力から解放された。

 軽く跳ぶだけで、フワリと身体が宙に浮かんだ。

 私は姿勢を色々と変えてみる。

 問題はなさそうね。流石、飛行魔法といったところかしら?

 さて、次が問題ね。

「光球を出してくれる?」

「分かったわ」

 栞が空中に本番さながらの色とりどりの光球を投影する。

 私は地面に一度着地すると、再びCADを操作する。

 大地を思いっ切り踏み切って飛び上がる。

 私の魔法特性も含んでいるとはいえ、物凄いスピードで目標の光球まで到達した。

 光球を叩くタイミングは覚える必要があるわね。想定より速いわ。

 同じ位のスピードで着地すると、今度は違う光球に狙いを定める。

 ()()()()()()()()()

 私は着地すると、ニヤリと笑って見せた。

 吉祥寺真紅郎は目を見開いた後、脱帽とばかりに拍手したが、栞は当然とばかり

に頷いただけだった。でも、栞の顔には隠し切れない笑みがあった。

 

 これで勝機が見えてきたかしら?

 

 

               8

 

 フランケンとパラフランケンというおまけを片付けたが、まだ九校戦は終わって

いない。気を緩めずに行こう。

 達也が合法ロリ巨乳に無頭竜のアジトを調べて貰っている筈だから、そこを横

からインターセプトして私が片付ければ、今回のお仕事は完了ですな。

 何故、インターセプトするのかって?

 私が長女であり姉だからだよ。だからなんだってツッコミは要らんですよ。

 面倒臭いことはしたくないけど、やらないといけないことだからね。

 

 それはそうと、フランケンの件では天狗さんから問い合わせがきたが、惚けて

置いた。これ以上、詮索しないでねの意味を込めて。

 向こうはこっちに貸しでも作る積もりなのか、アッサリと引き下がった。

 タチコマ無断使用で嫌味くらいはいわれるかと思ってたけど、よかった。

 今更って話だけども。

 情報体偽装の件もツッコミなかったし。勝った。

 

 なんて思っていると、DJアーミーが喋り出した。

 そう、いよいよ決勝戦ですよ。

 

『さあ!いよいよ始まります!妖精達のラストダンスが!皆さん一時も目を離せ

ないぞぉ!!』

 

 矢鱈、テンション高かった。

 

 

               9

 

 :深雪視点

 

 選手が一斉に定位置に立つ。

 決勝だけあって、随分と凝った演出をしている。

 一瞬、照明が落ちて再び照明が戻ると、私達が立っているという趣向だった。

 決勝は最初から飛行魔法を使う積もりだ。

 何故なら、お兄様の予想では全員が飛行魔法を使うだろうという予想があった

からだ。お兄様がそうなるというなら、そうなるんだろう。

 そんなことで私の勝利が揺らぐことはないけど、少し残念な気持ちはある。

 結局、お姉様から教わったことを、あまり活かせなかったから。

 最初に飛行魔法を使うと決断した私の所為ではあるのだけど。

 

 照明が点いた時、耳がおかしくなるくらいの歓声が上がる。

 それでもここに立っている選手全員が表情を崩すことはない。

 試合に集中しているからだ。

 申し訳ないけど、歓声も今はただの雑音。

 

 そして、開始のブザーが鳴り響く。

 一斉に光球に向かって選手が跳躍する。

 そして、()()()()()()誰も地上に下りなかった。

 私は思わず一人下りた選手を見てしまった。

 全員が飛行魔法を使うものだと思い込んでいたから。

 決然と宙を見ている。決して諦めている人間の眼じゃない。

 私はフッと微笑みを浮かべてしまう。

 なら、どんな手で戦うのか見せて貰いましょう。

 他の選手が光球を叩こうとした時、地上に居た選手が紫電と化す。

 飛行魔法を使っていた他の選手のステッキが空を切る。

 物凄いスピードで上昇し、光球を他の選手が叩くより速く叩いたのだ。

 その選手は、宙を蹴るように方向を変えて光球目掛けて突撃する。

 私とは違う直線で最短距離を最速で目標に向かうスタイル。

『す、凄い!!一色選手!!まさに神速というべきスピードで連続得点だぁ!!!

まさに稲妻!!エクレールの異名は伊達じゃない!!!』

 実況を担当している人が、興奮して大声を上げる。

 そうだ。彼女とは挨拶は済ませている。確か一色さんだったわね。

 私はリードを許したにも拘らず、口元に笑みを浮かべてしまう。

 ならば、私もそれ相応のプレイをしないと相手に失礼だわ。

 

 私はお姉様の教えも吸収している。

 だから、私は無暗に飛行魔法に頼っている訳じゃない。姿勢制御だけ荷重移動だけ

でも、自前でやれば負担が減るということをお姉様から教わった。

 魔法師のイメージは、それだけで負担を軽減できるものだと驚かされたものだけど。

 私は舞うように飛んでいる他の選手を躱して、雷光のような高速機動をやっている

選手も躱して、光球を叩き割る。

 本当に雷速で動いているなら、どうしようもないけど、そこまでに達していない。

『ミラージバットだと、イメージはフィギュアスケートかな?』

 お姉様の言葉が自然と思い浮かぶ。

 飛行魔法を使って練習していた時に、お姉様がしてくれたアドバイスだ。

 身体の使い方に参考になる点が多い。

 空中では叩く動作の関係上、立ち姿勢からの行動が多いから。

 期せずして、一色さんと目が合う。

 お互い不敵な笑みを浮かべて交錯する。

 確かに彼女の魔法は速い。

 彼女は直線でしか動けないけど、私は曲線で臨機応変に動くことができる。

 不利な訳じゃない。

 一色さんは器用に宙を蹴って猛スピードで動いている。

 私は慌てることなく、最小限の動きで得点を重ねる。

 もう私達二人の勝負と化している。

 他の飛行魔法を使った選手は、次々とサイオン残量が少なくなり、お兄様が構築した

システムで軟着陸させられていく。

 そして、同時に一色さんと同じ光球を狙うことになった。

 それだけ試合終了が近いということだ。

 私はステッキを伸ばすが、今回はスピードが速い彼女に譲ることになるかしら。

 

 だけど、速かったのは私だった。

 

 

               10

 

 :愛梨視点

 

 急にスピードが落ちた。

 不味い。魔法が弱まっている。

 原因は明らか。

 知らず知らずにいつもよりハイペースで飛ばし過ぎていた!

 この私が調子に乗るなんて!

 あの司波深雪と勝負できているという事実が、私に本来のペースを忘れさせた。

 意識したら急に息苦しくなってきた。

 汗が滴る。

 時間がやけにゆっくりと感じる。

 司波深雪は、まだ天高く舞うように光球を追っている。

 折角、拮抗していた点がドンドン開いていく。

 これが才能の差なの?それとも習熟度の差なの?

 私は今まで自分の才を恃みに戦ってきた。

 今度は私がそれ以上の才に叩き潰される番という訳ね。

 自嘲気味に笑う。

 ごめんなさい。私ももう…。

 そう思った時だった。

 視界に久しぶりに見る母の姿が入った。

 心配そうに私を見詰めている。

 瞬間、身体中の何かが沸騰した。

 

 終われない。

 

 こんなところで諦められない。

 一色家の事情なんかじゃない。

 一人の魔法師として、私はまだ全力を尽くしていない。

 折角来てくれた母に無様な姿など見せられない。

 この国に失望して去って行った母に、これ以上失望して欲しくない。

 諦めて膝を突いた他の選手のような姿を晒せない。

 私は、まだやれる!

 他の選手のようにまだ地上に降ろされていない。

 どれだけ差が開こうが、どれだけ時間が迫ろうが関係ない。

 私は自分の為に最後まで誇りを持って戦う。

 私は歯を食いしばって、宙を蹴る。

 この行為に実は意味などない。

 でもイメージが重要な魔法師には意味がある。

 残ったサイオンを考えれば、今までのような動きはできない。

 動きは直線で最短にしていた。これは変更できない。

 ならば、打つ光球を絞る。

 一点でも多く司波深雪から点を奪い取る。

 叩くという動作すら無駄だ。

 ならば、最適解は明白ね。

 

 私は司波深雪が狙う光球に迫る。

 

 叩いていたのでは間に合わない。点を取られる。

 だから、私はこうする!!

 

 私はフェンシングの要領でステッキを最速で振り抜いた。

 司波深雪のステッキより少しだけ速く光球が光となって散る。

 司波深雪が少しだけだが目を見開いた。

 これが私の本来の戦い方よ!!

 

 この戦い方を見出して得点を重ねたところで、インターバルに入った。

 

「凄いわ。愛梨。ここにきて調子を上げるなんて」

 栞が私の傍に駆け寄って来て、そんなことをいってくれた。

「ありがとう。でも、私自身、分かっているわ。もう逆転可能な点差じゃないって」

「愛梨…」

 栞の顔が曇る。

 私が落ち込んでいると思ったかもしれない。

 でも、違う。

「私は私の誇りの為に戦うのよ。最後までね」

 私は力強く笑って見せた。

「愛梨…。私も最後まで見届けるわ。貴女の戦いを」

 私はもう一度微笑んだ。

 言葉は要らない。

 

 インターバルが終了した。

 これが最後。ここで決着が付く。

 私はステッキを握り締めた。

 試合再開のブザーが鳴る。

 

 

               11

 

 :深雪視点

 

 魔法のパフォーマンスが落ちた一色さんが持ち直した。

 本来なら有り得ないことだけど、彼女は自身の技術をこの土壇場で応用し、もの

にして見せた。

 貴女にも譲れないものがあるのね。

 でも、それは私も同じこと。

 悪いけど、負けて上げられないわ。

 貴女が自分の限界を超えたなら、私もそれに応えるのみよ。

 私は、その後も手を緩めることなく点を容赦なく重ねていく。

 

 インターバルに入り、お兄様が傍に来る。

「流石に付け焼き刃では、誰も深雪に敵わないな。もう点差からいって、インター

バル後にそのまま立っていても勝てるくらいだが…」

 お兄様が開口一番に、そんなことをいってくれた。

 褒めて貰えるのは嬉しいけれど、でもダメ。

「お兄様。私がそんなことをするとお思いですか?」

 一緒に来ていた会長達が驚く。

 私がお兄様に珍しく厳しい声でいったからだろう。

 でも、お兄様はフッと苦笑いして首を振って見せた。

「いいや。お前の思う通りに飛んできなさい」

 お兄様の優しい声に、私は笑顔で頷いた。

 

 試合再開のブザーが鳴り響く。

 もう残っているのは三人程、あとの選手はサイオンの残量の関係で競技続行は、

もうできずに棄権している。

 一色さんが物凄いスピードで上昇する。

 インターバルの前より明らかに速く洗練されている。

 もう、勝敗は決しているし、疲労の度合いは厳しいレベルだろうに、ここまで

自身を高めるとは、素直に凄いと思う。

 でも、足りないわ。

 

 一色さんが狙った光球を横から叩いて点を奪い取る。

 一色さんは驚愕という言葉が似合うくらいに驚いていた。

 傍から見て、私の飛行速度は変わっては見えないだろう。

 当然だ本気ではあるけど、全力を出し切っている訳ではないのだから。

 私は空中を滑るように飛んで、得点を更に重ねていく。

 実況を担当している方が、どういうことか分からないというようなことを捲し

立てている。

 これは魔法の息継ぎの差だ。

 飛行魔法では息継ぎは重要な技術となる。

 位置情報を常に更新して飛んでいる現代版の飛行魔法は、常にループキャストで

魔法を使っているのと同じようなものだからだ。

 それが洗練されていれば、自然と空中機動に目では分かり辛くとも全く質の違う

ものになる。

 そして、一人また棄権して地上に降りていった。

 もう残るは一色さんと私だけになった。

 一色さんは、これだけの差が開いても瞳の闘志は衰えず、光球を追っている。

 その姿には一部の(三校生徒が主な面々)人達が声援を送る。

 そして、最後の光球が宙に灯る。

 一色さんが最後の力を振り絞るように飛ぶ。

 今までで見たこともない突き。

 それでも最後まで譲れない。

 そちらがフェンシングなら、私はお姉様の剣術を参考にする。

 イメージのまま身体を動かす。

 

 光球がステッキで斬られ儚く消えた。

 

 紙一重の差だった。

 僅かな差で私のステッキが、一色さんの突きより速く光球を薙いだ。

 一色さんがゆっくりと地上に降りていく。

 それは彼女の意思ではなく、彼女のサイオンが限界に達したことを示して

いた。

 

 私もゆっくりと地上に降りる。

 歓声が爆発するように上がる。

 私は穏やかにそれに応えた。

 

 こうして私は本戦・ミラージバットの優勝を勝ち取ったのだった。

 

 

               12

 

 いやいや、凄い試合だったね。

 ナイスファイトだったよ。命知らず、もとい()()()()は。

 深雪相手にあそこまで粘るとはね。

 試合観ていなかっただろうって?

 そう、それで深雪に盛大に拗ねられて大変だったんだよ。

 私は私で働いてたけどさ。それをいう訳にいかないからさ。

 試合の記録映像で観ての感想を述べたという訳だよ。

 勿論、深雪の無双には絶賛しましたとも。

 ここで一色さん褒めたら、私は氷漬けになったかもしれない。

 冗談抜きで。

 しかし、マイシスターは化物ですな。最後の一閃、完全に私の模倣でしたよ。

 完璧でしたよ。私の立つ瀬がないわ。

 

 という訳で、今回も暗躍のお時間です。

 憂さ晴らし…もとい、今回のお仕置きをせねばなりますまい。

 

 それで私はある人物に通信を入れる。

『誰?』

 警戒の混じる声が数コールの呼び出しの後に聞こえて来た。

『どうも!合法ロリ巨…もとい、小野先生!無頭竜のアジトの場所分かりました?』

 

 通信機の向こうで合法ロリ巨乳が息を呑んだ。

 

 

 

 




 響子さんはきっと自覚なく動揺しています。
 仕事に多少の影響が出ています。
 深景が早いというのもありますけどね。

 漸く九校戦も終わりが見えてきたようです。
 一色さんちの事情は、まあ予想はつきますが
 捏造するか、そのままスルーするかは、その
 時に考えようと思います。

 並行投稿している為、かなり長い期間開いて
 しまいますが、お付き合い頂ければ、幸い
 です。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。