今回、メインで指摘されたことを踏まえて書いて
みました。
それではお願いします。
1
本日の私は、楽しいバカンスを送る為に頑張った仕事の成果を届けようとして
いた。まあ、いってみれば納品だね。納品までが仕事ってね。
なんていっても、向こうに東京まで来てもらっているんだから、納品というの
は微妙かな。
私は待ち合わせの喫茶店に入ると、客は席に着いていた。
相手も私が来たのに気付いた様で、軽く手を振っている。
「こっち!こっち!」
ポニーテールが可愛い女性で、武術家らしくアクティブな恰好をしていた。
この人は、願立流という流派の剣士で、私が九字光虎をを名乗ってからのお得
意様である。
願立流というと実際にある流派だけど、こっちの世界では某・有名作品で、
なんたら大戦小説版に出てきた妖魔を狩る人達である。実際の流派とは関係ない。
何せ、アニメみたいな魔法必殺技あるんだから。
「ごめんね。色々注文付けちゃって」
今回の注文は長刀だった。断っておくと私の打った刀に問題はない。
色々と試している人だから、偶に蟲で不死身になった人が持っている武器みたい
なのを注文してきたりと、なかなか面白い仕事をくれる人なんだよね。
「いえ。仕事ですし。まだまだ女の刀鍛冶なんて嫌って人多いですから、仕事が
あるのは有難いですよ」
本音だよ。彼女は不快そうに眉を寄せている。
「嫌よね。女の剣士っていうのも現場に出ると、あからさまに嫌味いう奴が、
まだいるもの。時代遅れったらありゃしないわ。貴女だって腕がいいのに、勿体
ないことするわ」
男社会の文化が根強く残っている職業は、存在している。
私の職とか。女が打った刀なんて使えないとか、驚愕なことをいってくる奴が、
この世界にもいるんだよね。まあ、同じくらいに認めてくれる人もいるけど。
彼女も妖魔退治に邁進する職だから、思うところは多いようだ。前世に比べれば
マシだから、私は気にしないけどね。稼げてるし。
私は気を取り直して刀を渡す。
「こちらで確認できるところはやりましたけど、使用前に確かめて下さい。何か
あれば対処しますから」
流石にここで試して貰う訳にはいかないからね。どっか場所借りられればいい
んだけど、どこも微妙でね。
「分かってるわ。それじゃ!」
雑談の継続もせずに、彼女は席を立った。まあ、いつものことだ。
彼女は忙しいしね。
因みにお金は、動作に問題がないと確認できた段階で、入金という仕組みを
とっている。
私も仕事が一段落したことだし、フラフラウィンドウショッピングでもと思い、
立ち上がったところで、なんか美人さんと目が合った。ただそれだけだけど。
周りの男共も大注目だよ。
でも、周りの男の目は、どうにも欲望丸出しの視線でないのが気になった。
2
刀を渡し終えた私は、宣言通りにウィンドウショッピングをしながら、フラ
フラしていると、おかしなことに気付く。
何やら黒服の怪しい人達がウロウロしている。
うん。怪しいよ。源田さんに通報する?
悩んでいると、女の子が辺りを気にしながら、早足で歩いているのがみえた。
それは喫茶店で目が合った美人さんだった。
黒服達の動き方からすると、女の子がターゲットかな?
うん。怪しい黒服と女の子、どっちに付くといわれれば、有名な怪盗三世も
女の子に付くね。
面倒だから関わらないけどね。通報はしておこう。感謝はいらねぇ。飛行石さ。
なんて馬鹿なことを考えていた罰でも当たったのか、先程の美人さんが急接近
してきたかと思えば、私を真正面から見据えた。
「貴女。それ、使える?」
美人さんは、いきなりそんなことをいってきた。
そりゃ、使えるでしょ。
何をいってるのかねと思いながら、通信端末を見ると見事に通信状況に問題が
発生し、不通状態になっていた。
「あ~。使えないみたいですね…」
美人さんは、険しい表情で私の通信端末を睨む。
そんな顔しても復旧はしないよ。
美人さんが止まったと見た黒服達が、一斉に包囲しつつ網を絞ってくる。
「っ!こっち!」
「は?」
美人さんは、私の腕を掴むと建物の間の裏路地へ走っていく。
ちょっと待て!なんで私の腕を引っ張る!?私、何も関係ないんですけど!?
暫く、追手を撒く為に路地をランダムに曲がり、どんどん胡散臭い雰囲気の場
所へと入り込んでいく。
追手が付いてこないのを確認し、美人さんは私に顔を向けた。
「巻き込んでごめんなさい」
美人さんは、申し訳なさそうに謝ってくれたが、24時間のおっさんかアンタ。
すっっごく迷惑ですわ。
「今朝から付け回されているみたいで…」
いや、事情なんて聞いてないから。
そして、決定的な言葉が飛び出した。
「私はリン=リチャードソン。大学生よ」
これは…四葉の呪いか?転生者の呪いか?
3
朧気ながら覚えている。確か、短編か何かでちょっと出てきた子だ。
そして、無頭竜の時期トップ(ただし、お飾りの可能性大)だ。
私は二重の意味で後悔した。
ぶっちゃけ私は、無頭竜など地上から消えればいいと思っている。
更にいうなら、ぶっちゃけ怪しかろうが黒服に引き渡したい。
そもそも確かこれ、森崎君が唯一といっていい魅せ場じゃないの?
あの男、何やってんの?
魔法を不発して、モノリスコードで潰されて、ここでも登場なしって。
そりゃ、二枚目から三枚目に変えられるわ。これからは不発弾森崎と呼ぼう。
これからは暴発に注意しないとね。
某エッタちゃんみたいに銃口を覗き込むのかもしれない。
うん?ということは、爆弾岩な宿六と仲間だったか!?今、気付いたわ。
「あの、大丈夫?」
美人さんことリンが、返事をせずに考え込んでいる私を心配そうに見ている。
「ああ~。なんでもないです」
全くもって迷惑な。これは絶対、知られたら口封じのパターンじゃないの!?
これはサッサと送り届けて、さよならするしかないな。
そして、逃げる。
「それよりも誰か頼れる人はいないんですか?」
危険な情報は流石にいわないだろうけど、変なことを口走られたら更なる
面倒が発生する。
だから、慎重に質問した。
「駅まで出れば、迎えが来ることになってるわ」
「それじゃ、そこまで行きましょう。すぐに行きましょう」
「訳アリなんだけど、付き合ってくれるの?」
先に巻き込んだの貴女でしょうが!
その気遣い、もっと早く発揮して欲しかったよ!
「この国には、袖振り合うも他生の縁って言葉がありまして…」
奇しくも不発弾と同じことを、引き攣った顔でいうことになった。
「まあ…それは知ってるけど、危険よ?」
だから!いうの遅いんですよ!!
「ああ!!もう!!ハッキリいいますけどね!もう巻き込まれてるんです!
サッサと終わらせたいんです!!OK!?」
「O、OK…」
私の剣幕に怯み気味にリンが返事する。
思わずいっちゃったけど、当人の素性に突っ込まなければ、まあいいでしょ。
「確かに、軽率なことをしてしまったわね。ごめんなさい。じゃあ、駅までお願
いするわ」
リンが今気づいたとばかりに、そんなことをいった。
無頭竜。アンタら人選ミスったんじゃないの?まあ、滅んでいいけどね。
4
道々、リンは言い訳がましく魔法のお守りがあるから、注目を引かない筈なん
だとか、ブツブツいっていたが黙殺した。
「もしかして…貴女、魔法師?」
何やらブツブツいっていたが、結論が出たらしい。
「そうですが何か?」
アッサリと認めた私を見て、リンの表情が暗くなる。
「そう。道理でお守りが効かないと思ったわ。今、付き纏ってる連中にも効いて
なかったみたいだし」
何やら魔法師に対して、思うところがあるようだけど、関係はない。
あの黒服に確保されようと、自分が無事なら別にいい。
サッサと駅で引き渡して、終わりにしよう。
なんなら、壬生パパにチクっとけばいいだろう。
だが、次の一言で私は余計なことをいわざるを得なかった。
「魔法師って、やっぱり特別で怖いわね」
「貴女達の方が怖いですよ」
「え?」
冷ややかな声になったのは、致し方がない。
それ程にふざけた発言だったんだから。
「魔法師は確かに力を持っていますよ。怖いと思うのも当然なんでしょうね。
でもね。
魔法師への悪感情を煽っているのもね」
私も前世では魔法なんて使えなかったんだから、そうしたくなるのは理解はする。
だが、納得できるかは別問題だ。
しかも、無頭竜は、その非魔法師の命令でソーサリーブースターなんて物を、同
じ魔法師が製造していたのだ。
そんな連中の次期トップに、特別で怖いなんていわれたくない。
やっぱり、引き渡してから壬生パパに通報だ。
まあ、代わりなんて幾らでもいるだろうけど。
そんなことを思いながらも話を続ける。
「魔法師の都市伝説、多いですよね?」
「都市伝説かは、分からないけど…」
私が気分を害していると流石に分かっているのか、リンは気まずそうにいった。
魔法師の都市伝説は、かなり酷い。
曰く魔法師の秘密結社があり、非魔法師に対して人体実験や生贄に捧げている
などが一番有名だ。
特番で如何にも魔法に詳しくなさそうな奴が作った番組を観て、達也達と唖然と
したものだ。
錬金系の魔法で貨幣経済を破壊するだのもある。
しかも、できないなどといわれているが、実は…みたいなのを、一般の非魔法師
の方々で信じている人がなんと多いことか。
「どこかで聞いた話ですが、都市伝説には有名になる要素が幾つかあるそうですね。
その一つが、差別ですよ」
都市伝説が有名になる要素を盛り込んで、誰かが意図的に悪意を持って噂をバラ
撒いているのは確実といっていい。
「…そんな」
「魔法師なんていっても、人間なんですよ。殆どの魔法師は大したことはできませ
ん。だからこそ、魔法師の間でも実践レベルの魔法が使えると勘違いする奴がいる
のは事実ですよ。でも、そんなの非魔法師の数に比べれば、ほんの一握りの存在
です。非魔法師の軍の方が、数も一定の威力を維持する戦いも得意で、強力なんで
すよ。権力だって非魔法師が握っていますしね。魔法師がいる軍でさえ、魔法師の
部隊の責任者の上に、非魔法師の上官が必ずいるんですよ?どっちが怖いですか?」
戦略級魔法師なんて化物もいるが、あれも有形無形の行動制限が設けれている。
うちの弟でいえば、サードアイがないと精密な照準ができない為に、迂闊に使え
ない。
まあ、達也なら自作しそうだが、そんなものを造ろうとすれば、金の流れで足が
付く。なんせ、お偉方は達也のことを一方的に知っているんだから。
おかしな真似をすれば、即座に殺される。魔法師を殺す術など、幾らでもあるん
だからね。
「……」
リンが黙り込んでしまった。
リンにしてみれば、ただの妬みとかそういった感情で軽くいった積もりだろうが、
魔法師としては、あまり愉快な感想じゃない。
「ごめんなさい。不用意な発言だったわ」
そうそう。アンタは都市伝説を地でいく組織の人間にあるんだから、発言には気
を付けて置いてほしいね。
「こちらこそ余計なことをいいました。行きましょう」
サッサと別れて、壬生パパにチクろう。
私が一思いに殲滅するよりキツイだろうから。
私は先頭に立って歩き出した。
5
結局は、駅に行くのは中止になった。
先方の都合が悪くなったとかいっていたが、明らかに尾行を考慮した結果でしょ。
何気なく背後を私の眼で確認すると、付かず離れずの距離をキープしながら
追ってくる。
監視カメラでもリアルタイムで観てるのだろう。
九校戦の時のお仕置きで使ったリアルタイムハッキングは、安易に使えない。
あれをやったのが、私だと宣伝することになるかもしれない。
何しろリアルタイムで監視しているなら、私の顔はバッチリ見られている。
観た人間全員の記憶を消すなんて真似は、流石にやる訳にはいかない。
ただでさえ、独立魔装大隊からは疑われているのだ。
天狗経由で壬生パパに伝わっていれば、落ち目の無頭竜を始末するより面倒になる。
うんざりする。
私は不景気な顔で先頭を歩いた。後のリンがどんな顔で歩いているのかは、確認
してない。
そんな時、背後でメールの着信音がした。私は若干、歩く速度を落として後を伺う。
「レインボーブリッジの真下に船をつけるから、そこでって」
リンが緊張した声で、そういった。
真下って橋から飛び降りろって意味じゃない。
多分、公園っていうか広場のことだよね?ハリウッド映画やれって話じゃないよ
ね?その時は、一人で飛び降りて貰うけどね。
「じゃ、そこまで行きましょう」
私は、再び足を速めて答えた。
私は眼で追手を確認すると、リンにお守りとやらを仕舞わせた。
逆に周りの目があった方が、強硬手段を取り辛くなるだろうから。
そうなると表通りより、今の時間は公園経由の方が人が多い。
という訳で、公園を散策する振りで歩いていたんだけど平和にいかなかった。
別口によって。
「よぉ!俺達と遊ばない?当然、後にいる美人にいってるんだぜ?芋臭ぇ眼鏡女は、
どっかいっていいからよ!」
公園の道に突如現れた(知ってたけど)世紀末救世主伝説のヒャッハー!劣化版
みたいなお友達が、大挙して道を塞いだ。
うん。別に相手して貰いたい訳ではない。
リンを連れて行って面倒を引き受けてくれるのも歓迎だ。
だがしかし…。
私は無言で十手を取り出し、無造作に失礼な男の顔面を打ち据えた。男が悲鳴と
共に鼻血を噴き出して倒れた。
自分で自覚していることでも、他人にいわれると腹立つことってない?
「ふ、船橋君!?」
「テ、テメェ!よくも船橋…ぐへっ!」
遅い。バカを同じく顔面打ちしてやる。
動揺するヒャッハー!劣化版達の膝、肩、肘を流れるような動きで打ち据えていく。
このくらい魔法抜きでも余裕ですよ。
あっという間に有象無象が床に転がる。
気付けば、全員が痛みを訴えて転がっていた。
「ふっ。詰まらぬものを殴ってしまった…」
「……」
私はふっ!と十手に息を吹きかけ、クルクル回して十手を仕舞った。
リンの冷たい視線を感じたが、私は気にしない。
6
雑魚キャラらしく瞬殺されたヒャッハー!達を残し、私達は先を急いだ。
リンは漸く黙ることを覚えたようで助かる。私も特に話したいことはない。
だが、それは長いこと続かなかった。
「ねえ。貴女って魔法師なのよね?」
なんだ。その今更な発言。
「そうですけど?」
私は先を急いでいたので、振り返りもせずにいった。
「さっきいったわよね?人間だって。でも、力を振るうのが、実は好きなんじゃな
いの?常人には持ち得ない力を振るいたくて仕様がないんじゃないの?」
このアホの子どうしたらいいだろうか。
「やっぱり、自分達のことを特別だと思ってるんじゃないの?」
私は一つ溜息を吐く。
どうも、この犯罪組織の時期トップ様は、ヒャッハー!一党をボコったのが、
お気に召さなかったらしい。
もう、頭カチ割って去っていいだろうか。
「一ついっておくと、さっき私は魔法は一切使ってない。更に、目的地が既に目と
鼻の先だというのにどうすんの?逃げるの?逃げたら連中はお友達を呼んで追って
くるだろうけど、そこんとこ理解してるのかな?」
「……」
「暴力反対は大いに賛成。でもね、それを避けると余計な揉め事を呼ぶことだって
あるんだよ」
「……」
ああ、こりゃ納得してないな。
「力を振るうのが好きなんじゃないかって?貴女達は嫌いな訳?」
「え?」
虚を突かれたと言った感じで、リンが戸惑った顔をする。
「人間の歴史なんて、新たな力やら手に入れた力を振るうことの連続だよね?そこ
に魔法師の出番って、そんなにあったっけ?」
「っ!」
そう、魔法師は表舞台に姿を現すのは稀といっていい。
寧ろ、力を振るっているのは非魔法師達の方だ。
歴史は、非魔法師達の闘争の歴史といっても過言じゃない。
大学生なら、それくらい承知しておいて貰いたいね。
「結局は魔法師だろうが、非魔法師だろうが
リンが魔法師が闘争が好みだと思うなら、非魔法師だって同じだと歴史が証明し
ている訳だから、結論は両方人間ってことでいいでしょうが。
下らない区別しないで貰いたいね。
「同じ人間…私も差別主義者と変わらないってことか…」
理解頂けて幸いですわ。
魔法師がヤバいって、武器持ってる非魔法師だってヤバいでしょうが。
実力によって程度が違うなんて同じことだ。
なら別けるなって話だ。
顔を歪めて、リンが考え込んでいるが、新たな厄介事は既にやってきていた。
精神干渉系の魔法が発動したよ。
7
私はワザとキョロキョロしていると、得意気に宇宙人を管理するエージェントみ
たいな奴等が現れた。
雑魚と見て安心して現れたな。単純だね。
「我々は情報管理局の者だ」
内閣府情報管理局の身分証を提示して、エージェントは静かな口調でいった。
「これ、魔法ですか?」
ワザと挙動不審な演技を追加してやると、向こうは一瞬だが侮るような視線を私
に向けた。
「ええ。ミズ・リチャードソンの身の安全の為の処置と考えて下さい。彼女の身柄
は我々が引き受けます。あとは任せて頂きたい」
「ええ。いいですよ!」
「っ!?」
エージェントの言葉に、アッサリと了承した私にリンが私の服を思いっ切り掴む。
背後からふざけんなオーラが漂うが、当方では一切関知しない。健闘を祈る。
「話の分かる方で安心しましたよ。では、ミズ・リチャードソン。こちらへ」
「私は行きません」
うん。それでは、あとはお若い方々でどうぞ。私を盾にするな。
「我儘をいわれても困りますな。おい」
エージェントが同僚に一声掛けると、リンを私から引き剥がした。
「それじゃ、私はこれで」
「ご協力感謝します」
私は去ろうと背を向けた瞬間、横に飛び退いた。
それと同時に麻酔針が私がいた空間を通過する。
私は、ゆっくりとエージェント達を振り返り溜息を吐いた。
「やっぱりね。大人しく帰してくれるなら、見て見ぬふりをしたのに」
「っ!?」
エージェントが、袖に仕込んだ麻酔銃を構えたまま目を見開いていた。
何驚いてるかな。
リアルタイムに監視カメラをチェックするのは、アンタ等の専売特許じゃないん
だよ。
監視カメラがここら一帯で録画に切り替わった段階で、諦めムードでしたわ。
「まあ、真面なやり方じゃないし、素直に帰してくれないんじゃないかと警戒した
のが当たりか」
どう見ても、これは拉致だ。
政府の正式な組織だろうが、まだ何もしていないリンを拘束するのは違法だ。
まあ、次期無頭竜のトップを自分達の手駒にできれば、最高だからね。
変に目撃者を残すのは危険だろう。
人一人が騒いでも大したことにならないと思うかもしれないが、面白い話なら拡散
し広まったりする。侮るなかれだ。
情報強化の銃弾じゃなく、麻酔針ということは記憶操作して忘れさせるってとこか。
まあ、良心的な処置だ。相手が私じゃなければね。
「手荒なことをする積もりはなかったんだがな…」
「十分手荒だよ。私にしてみたらね」
人の頭勝手に弄るのが、手荒じゃないって?アホか。
エージェント達が、戦闘態勢に入るのが分かる。
私も十手を再び取り出すと、無言でサイオンを流した。
十手があっという間に魔力刃の付いた剣へと変わる。エージェント達が、私達を
包囲すべく行動した瞬間、私は手近に移動した一人に向けて、鋭い踏み込みをする。
「っ!!」
所謂、無拍子。
相手からしたら突然、私が目の前に現れたように感じただろう。
だが、これは魔法ではない。
立派な武術の技術だ。逆に新鮮に映るかな。
頭部に剣が振り下ろされる。
鈍い音と共にエージェントの一人が崩れ落ちる。
一応、殺さない。斬るのではなく殴る為の刃だ。
まあ、峰打ちみたいなもんだよ。
連携を補おうと他の連中が動くが、上手くカバーさせる積もりは毛頭ない。
カバーに動いた一人を流れるように下から斬り上げる。
倒れるのを確認することなく、魔法の照準を外す為に動き続け、拳銃で撃たれない
為に相対する相手を盾として斬る。
一瞬の躊躇を狙い又斬る。一対多は散々やった。
今は息をするように、これらのことができる。
最早、団体の利は失われてエージェントの動きは、精彩を欠いていた。
個人の技量は大したことないな。
私は容赦なく全員を昏倒させた。
「……」
戦闘が終わり、振り返るとリンが呆然としていた。
使用した魔法は剣を作成したのみ。
どこまでリンが理解して呆然としていたか知らないが、あまり見る機会がない戦い
なのは事実だろう。
「船が来たみたいですよ」
「え?」
丁度いいタイミングで、クルーザーが一隻接岸したので、教えてやった。
これまた怪しい黒服がゾロゾロ出てきて、リンに礼をした。
「有難う。ここまでで大丈夫だから。それと貴女の名前を…」
リンが振り返った時には、私は離脱を完遂していたのだ。
8
リン視点
私がこの国に来たのは、心の整理としかいいようがない。
別にこの国に恨みは、特にない。
父親が死んだ原因となった国であったとしても。父とは名ばかりで関係は薄い
ものだった。
孫公明。
犯罪組織のトップだった男。それが私の父だった。
母は、その男の情婦だった。小さい時には分からなかったけど、今は流石に理解
している。
その男が急に死んだ。
それだけなら、大した感慨もなく知らせを受けただけで済んだだろうが、事態は
思わぬ方向へ進んだ。後継者として私が指名されたのだ。
勿論、傀儡のお飾りだ。
拒否をするには、私は汚い金で育ち過ぎていた。
母の賛成もあり、今までの金銭の恩やら伝手の使用で断る権利は私にはなかった。
だが、大人しくいいなりになるのも癪に障る。
そこで父を破滅させた日本を、この眼で見るという無茶な要求をした。
そこで何か私の中で、なんらかの感情が湧き上がるのではと期待した。
だが、なんの感情も湧いてこなかった。
さて、日本に来た意味はほぼなかったがどうするか。
そんなことを考えながら歩いていた時、私は尾行者の存在に気付いた。
何者かが私を監視していると。
喫茶店に入って様子を見た限り間違いない。
気に入らないが、私を巻き込んだ人達に連絡をしようとしたが、通信端末が使えない
ようになっていた。
それで焦ったのが失敗だった。
女の子を巻き込んでしまったのだ。その子は相当不満そうだった。
それで済んでいるのが異常なことだと最初気付かなかった。
その子は暴力を全く厭わなかった。
だから、かなり頭に血が上った私は、かなり酷いことをいった。
それで逆に私の内面を見せ付けられた。
魔法師への偏見。
確かに、私は魔法師にあまりいい印象はなかった。
それでも自分は冷静に評価できていると思い込んでいた。
思い返してみれば、父が魔法師であり、犯罪組織の人間だった関係で、私は意識的に
魔法師を避けていた。
だから聞く評価が偏るのは当然のことだったのだ。
気付かずに毒されていたのだ。
あの子の言葉は、それを浮き彫りにした。
不愉快に感じただろうに、なんだかんだいってキチンと送ってくれたことに驚いた。
私を売ろうとしていたけど、結果は無事だったのだから何もいうまい。
私もあの子から見たら、いけ好かない人間だったろうし。
お礼をいおうとしたけど、その前に彼女は逃げるように去っていた。
私は呆然とその背を見送り、思わず笑ってしまった。
「追いますか?」
そう組織の人間が私に訊いてきたけど、私の答えはNOだ。
これ以上、あの子の嫌そうな顔をさせるのは悪い。
私は、男達に囲まれてクルーザーに乗り込むと、一人の老人が出迎えた。
私の教育係であり元組織の重鎮だ。
「メイリン様。ご無事で何よりでございました」
笑顔もなく、老人は感情の籠らぬ声でそういった。
「ええ、なんとか」
実際、私が助かったのは情報管理局のやり口のお陰で、あの子の意志ではない。
あのまま情報管理局が、あの子を見送っていたなら、私は今頃どうなっていたか
分からない。だからこその答えだ。
「お一人で出歩かれることが、どういうことか。お分かりになられたかと思います。
以後、このようなことのないよう、お気を付けください」
「私に指図するのですか?」
「いえ。諫言です。これも私の務めですので、ご容赦下さい」
老人のいいようにムッとしていい返したが、アッサリと受け流されてしまった。
まだまだ小娘では、この老人の表情筋を動かすことはできないようだ。
「先程の小娘といい、日本政府といい無礼ですな。相応の報復をせねば軽く見られ
ましょう」
「不要です」
「しかし…」
私は老人が何かいう前に遮るように口を開く。
「確かに無礼でしょう。日本政府は。ですが、あの子は私が巻き込んでしまったこ
とで迷惑を掛けてしまった。報復はお門違いでしょう。日本に関しては私の迂闊な
行動をしたことと相殺ということにして置きます。よき勉強になりましたから。
それでも今後は日本には干渉せずに活動します。関わり合いになって愉快な相手
でもありません。この決定に不服なら、私をカリフォルニアに送り返せばよいで
しょう」
私は一気にそれだけいった。
あの子は関わって欲しくなさそうだし、これで詫びになるでしょう。
あの子の暮らしもこれで脅かされることはない筈だ。おそらくは。
「全て、お心のままに」
老人は深く礼をして、顔を確認することはできなかった。
非魔法師の私が魔法師を管理する。
奇しくも彼女が怖いといったものに私はなる。
9
サッサとトンズラして、監視カメラのほんの一瞬のカメラの映像の切れ目を利用
して、空間凍結を掛ける。
監視カメラは、情報管理局が定時連絡をしない時点で解除されているだろうから、
こっからは気にしないといけない。
サイオンセンサーに引っ掛かるようなヘマはしない。
凍り付いた空間を、悠々と歩いて見晴らしのよい場所へと向かう。
そして一体型のCADをクルーザーに向ける。
あとは空間凍結を解除し、魔法を放つ。
それでお仕舞い。
「……チッ!」
私は、凍結を解除することなく舌打ちするとCADを下した。
リンは、まだ何もしていない。
私の知る限り、リンがこちらに被害を与えた記述は原作にない。
私は、ただ空間凍結を解除すると、センサーを掻い潜りその場から立ち去った。
これから、この選択を後悔する時がくるかもしれないが今は考えたくない。
宣言通り壬生パパにチクっといたが、リン達がどうなったか知らないし、調べて
ない。
ただ、無頭竜のトップが変わったという話は、噂として聞こえてきた。
今までの方が読み易いでしょうか?
そうだったら次回から戻します。
(少しできる限り修正しました)
次回で短編は取り敢えず終了する予定です。
選挙ですね。これはやらねば。
次回も時間が掛かるかと思いますが、お付き合い
頂ければ幸いです。