それではお願いします。
1
ヒスママをビンタしてからまだそれ程日にちが経っていない夜のこと。
私は電子戦をやっていた。
達也と一緒に。
「おバカさん」
私の呟きに達也が私をチラリと見たが、何もいわなかった。
敵が攻性防壁に引っ掛かったのだ。
今頃は電子機器が使用できなくなっているだろう。
探査ウイルスというお土産付きで。
「さて、場所はっと…」
「意外と遠くはないね。行ってみるかい?」
表示された場所を見て、達也が訊いてくる。
確かにガルムで行けば、そう遠くない。
「内部のカメラ映像来たから、それから決めよう」
いつまでも留まる程、馬鹿な集団じゃないだろうからね。
電子戦を仕掛けてきたのが運の尽きよ。
映像が来たので見てみると、映ったが一瞬でブラックアウトした。
「流石にすぐに拠点を捨てたか。今頃はきっと確保した逃走ルートで行方を晦ませているだろうね」
達也も期待はしていなかったみたいだ。
ただ、こっちも位置が分かれば追える。
周辺の監視カメラ映像を勝手に取得する。
「あんまり派手にやると、藤林少尉が怒るよ?」
達也が窘めるようにいってきたが、その顔は苦言を呈しているとは思えないくらい穏やかだ。
怒るのは知ってるけど、誤魔化すし尻尾を掴ませるようなことしないし。
この時代、なんの痕跡も残さずに監視カメラを掻い潜るなどできはしない。
一部の例外を除けば。
おっと、改竄の形跡発見!
ドンドン糸を手繰り寄せていく。
猛烈な勢いでキーボードが叩かれる。
今はノッテいるよ!
なんて調子に乗っていると、痕跡が中華街で途切れた。
思わず舌打ちする。
見事に痕跡を消している。
ここからの足取りが辿れない。
まあ、あのナルシストが関与しているだろうから、仕様がないか。
初めから関わっているのは知ってた訳だし、当然の帰結かな。
不自然なくらい見事な痕跡の消え方だね。
直接中華街訪問も視野に入れるしかないかな。
「姉さんにも掴ませない…か」
私は拘りなく頷いた。
もう慣れたよ、この展開。
「まあ、次はこうはいかないけどね」
取り敢えず小物感満載の捨て台詞を吐いておく私。
2
達也が合法ロリ巨乳から情報をぶっこ抜いてきた。
やっぱり、CADメーカーが狙われているという。
アフロも大変だねぇ。
あそこも私のお節介で特別製の攻性防壁が張り巡らせてあるから、簡単に貫けないけどね。
これに懲りてくれれば、まあよし。
だが、もっと遊びたいならお付き合いしますよ?
直接伺いますよ?おもちゃは充実していますので。
関係ない人間まで巻き込みそうだから最終手段ですけどね。
あとは 横浜・横須賀からの不法入国も増えているのだとか。
しかも捕まっていないとか、源田刑事お疲れ様です。
こうしてみると、みんな知り合いが関わってるな。
彼等の犠牲になった休暇の冥福を祈ろう。
いや、アフロは要らない人か。仕事こそ我が人生みたいなアフロだし。
合法ロリ巨乳からは、データの扱いに注意するようにいわれたそうな。
という訳で、おかっぱ先輩に我が家に遊びに来た連中の話を作業中にしてみる。
勿論、電子的に遊びに来た連中のことだ。
断じてライフルを持った連中の方はいっていない。
因みに、今は絶賛模型製作中です。
何故か間にキャノンが挟まってます。
卑猥な意味ではない。現実の人間がいるんだよね。
なんか威嚇してんだけど、取り成ししてっていったよね、私。
ダメじゃん。意味ないじゃない。
「それで被害は無かったのかい?」
取り敢えずキャノンは見なかったことにしよう。
婚約者が指を絡ませて落ち着かせてるし。
イチャイチャするなら別室に移動しましょうかね。
思わず汚い言葉が出そうになるわ。
「ええ。全く」
それどころか、相手の機材全滅させてやりましたよ。一拠点のだけど。
「それよりも五十里先輩も一応は用心しといた方がいいと思いますよ?」
「それは…クラッカーの狙いはコンペのデータってことかな?」
おかっぱ先輩は、中性的なお顔の眉を寄せて囁くようにいった。
いや、お宅は大丈夫だと思うんだけどね。
連中の狙いは一応知ってるし。
一応、注意しておくに越したことないから。
「どうも魔法理論辺りを重点的に攻めてたみたいなので…」
「僕に心当たりはないかな。でも市原先輩にもいっておいた方がいいかな」
ですね。
内心でおかっぱ先輩に同意しておく。
話が一段落したのを見計らったように達也とお姉様が入室してきた。
「姉さん。どうだい?」
「深景君。久しぶりだね」
達也は私の調子を尋ね、お姉様は私とおかっぱ先輩の間に挟まったキャノンを苦笑いで見ながらいった。
そこから話題はキャノン先輩の豪快なお片付けの話に移行したが、関係ないので割愛する。
「では、そろそろ本題に入ろう」
達也に視線で促され、お姉様がお片付けの話に終止符を打つ。
「論文コンペの警護についての相談なんだ」
ああ。そんなのあったっけ。
警護・警備は会場ではなく、学校内や会場までの道程の話であると説明される。
場合によっては、下校ルートも含む。
貴重なデータも使用する為に、産業スパイもハッスルするらしい。
「例えば、ホームサーバーをクラックするなどもですか?」
達也が若干眼を鋭くしてお姉様に訊く。
「いや、精々がチンピラが小遣い稼ぎで置き引きやひったくりをする程度だ」
お姉様も何故そんなことを訊くのかといった感じで、目付きが鋭くなる。
一応、お姉様にもウチに電子的に遊びに来た連中の話をしてやる。
「聞いたことがない事例だが、時期的に無関係と断じる訳にもいかないな」
お姉様が考え込んで暫し沈黙したが、すぐに顔を上げる。
「もし、それがコンペ絡みだとすれば、余計にコンペの関係者全員に警護を付けるべきだな。問題は君等二人の警護だが…」
おかっぱ先輩のガードは当然キャノン先輩。
メイン執筆者である市原さんにはカンゾウ君と兄貴が付くそうだ。
だけど、私等二人にとなると人材がいないようだ。
「「要りませんよ」」
奇しくも達也とハモってしまった。
「だろうな」
お姉様は分かっていたようだ。
なら、奮闘を祈るでいいような?
「ところで渡辺先輩。何故メインで動いているんです?」
達也が疑問を呈するが、当然だろう。
何しろ次代に風紀委員は代替わりしているんだから。
引退した三年生が出てくるのは、おかしな感じだよね。
「何故って…」
お姉様がきまり悪そうに沈黙する。
そのことで理解する。
ああ。この人も市原さんに借りがある人なんだなって。
3
模型の材料やら諸々が足りなくなったので私と達也、それにおかっぱ・キャノンペアと買い出しに行くことになった。
だが、達也でさえ隣の熱々なお二人に辟易させられていた。
「わざわざ先輩に来ていただかなくとも…」
だからこそ、達也のこのセリフが出たんだと確信している。
「いや、流石に協力して貰ってるのに任せきりはね…」
おかっぱ先輩の常識的思考には頭が下がるが、私等が息苦しい。
胸焼けがする。
カップルの所為で店への到着が遅れたが、空気を読んで文句はいわない。
私と達也は必要なものをサッサと購入し、カップルに断り外で待つ。
そして、同時に気付く。下手くそな監視に。
そちらを必要以上に見ないように、何気なく様子を窺うといたよ。
ことあるごとに因縁を達也につけていた平河妹が。
ウンザリする。
やっぱり行動に出たか。
顔を歪めないように注意していると、漸くカップルが出てきた。
「お待たせ…って、どうかしたの?」
おかっぱ先輩が私達の様子がおかしいのに気付いたようだ。
鋭いね。
達也は別に隠すことなく、サラッと答えた。
「いえ、監視されているので、どうしようかと」
そして、チラッと平河妹がいる方に視線を遣る。
慌てて隠れる平河妹。
嫌がらせ程度の囮要員なのかもしれないが、あのナルシスト何を考えてアレを引き込んだのかな?
囮にしてもお粗末なような気がするんだけど?
「監視!?スパイ!!」
瞬間的に沸騰するキャノン先輩。
人の話も聞かずに即走り出す。
あっという間に平河妹の背に迫る。
あっちは普通に走ってるだけだからね。当然だわ。
そして、平河妹は手に持っていたカプセルをポイっと投げた。
流石に意図を察したキャノン先輩は目を庇うが、一瞬早く強烈な閃光が辺りを照らす。
私も達也も無事だ。
意外なのはおかっぱ先輩も間に合っていることだね。
少し間に合わず片目をやられたキャノン先輩が魔法を遣おうとしたのを、達也が
「何すんのよ!?」
やられてキレ気味のキャノン先輩が達也に怒鳴る。
私はといえば、おかっぱ先輩の腕を掴んでいた。
「司波さん?」
意図が分からず困惑するおかっぱ先輩。
そうこうしているうちに平河妹が平和的にスクーターに飛び乗り走り出した。
「逃げられちゃったじゃないの!」
キャノン先輩が私達に怒る。
気持ちは分かるんだけどね。
でもね…。
「訊きますけど、なんの容疑で捕まえるんです?」
「え?」
キャノン先輩が呆けたような顔になる。
おかっぱ先輩は理解したようだね。
「彼女がやっていたのは、こっちを見ていただけです。ストーカーとして捕まえるにしても材料が不足しているかと」
私の言葉にあ!って感じで固まるキャノン先輩。
最後に閃光による目潰しをやったはやったけど、あれだけ猛然と殺気立った魔法師が迫ってきたら怖いだろう。
怒られる程度で済んだ可能性すらある。
失明するような威力じゃないし、護身用で売っているものだろう。
それにあの子は尾行してたって訳じゃない。
多分、私達が行く場所に当たりを付けて張っていただけだろう。
尾行なんてされたら私達が即気付くからね。
大丈夫か風紀委員長。
「それに顔は丸出しで、スクーターはナンバーを隠してすらいない相手です。簡単にボロを出すでしょう」
達也が冷静に説明するのを、おかっぱ先輩は頷きつつ聞いていた。
「もしかして…先走っちゃった?」
気まずそうにキャノン先輩がいう。
まあね。再度いうけど気持ちは分かるよ?
「ドンマイです!」
「五月蠅いわよ!」
キャノン先輩が真っ赤になって騒いだ。
まあ、捕まえるのは決定的なことやった後でいいよ。誰かも知ってるし。
4
:陳視点
溜息が出る。
今はある車の車内が映されているが、周の若造から紹介された現地協力者が笑っていた。
何故、あんなお粗末な結果を出しながら笑っているのか理解できん。
「あの小娘、このまま使っていてよいものか…」
「車を用意したのは周大人です。我々には辿り着きません」
私の言葉に参謀の一人が答える。
周か。アレも信用ならない男だ。
こちらが注意して置けばよい話だが。
「例のレリックは?」
「現在は所在不明です」
簡潔に参謀が答える。
まあ、まだ始まったばかりだ。
じっくりと攻めればよい。
「司波小百合周辺の監視を怠るな。先日確保を邪魔した人物の情報は?」
司波小百合が出入りした先は、調べてある。
問題は貴重なスナイパーを始末してくれた相手だ。
「夫の連れ子でした。邪魔をした人物は長女の司波深景。三人姉弟で他住んでいるのは長男・達也、次女・深雪です。三名は第一高校一年であり件の現地協力者の報復対象です」
連れ子のご機嫌伺いというだけではなさそうだな。
ただの連れ子ではないのは明白だからな。
何しろ、その司波深景とやらはうちの連中を片付けている。
不確定要素として警戒すべきだな。
となれば、使えない現地協力者も正体を探る足掛かりくらいにはなるかもしれん。
「第一高校を活動対象に追加。小娘への支援を強化しろ。機密情報の漏洩が一番の報復となると教えてやれ。それと小娘用に武器を準備してやれ」
そして、最後に後ろに控える信頼できる戦力に目を向けた。
「呂上尉」
「是」
「現地で指揮を執れ。任務に支障がある者がいれば排除しろ」
「是」
呂上尉はすぐさま部屋を出ていった。
5
達也が論文コンペの作業から、我等が1Eの教室に帰還する。
「早かったね!」
エリカが真っ先に声を上げる。
「なんの話をしてたんだ?」
エリカやレオ君、幹比古君に美月、それに私が固まって話していたのを見て達也が訊いてきた。
まあ、一番は美月が不安そうにしていたのが一番の理由だろうけどね。
「美月が視線感じるんだって」
エリカが簡潔に状況を説明する。
「今朝からなんだか、嫌な視線を感じて…物凄く気味の悪い視線で…」
「ストーカーか?」
達也が常識的な意見を述べるが、本人もそれが正解だと思っていないのは分かる。
私に視線向けてるし。
「今朝から矢鱈と式神を差し向けてくるんだよ。執拗に。多分、それを感じ取ってるんだと思うよ」
私が正解をいってやる。
美月にもそういったけど、正体見たり枯れ尾花って訳にはいかない。
人間が絡んでれば余計怖いよね。
「普通なら防御術式に弾かれれば、諦めるんだけどね」
幹比古君が心配そうに美月を見ながらいった。
「幹比古君の話じゃ、外国の式神じゃないかってさ」
私も補足して説明する。
大陸の方の術式だから、原作通りに大亜連合の連中だろう。
式神が手酷くやられれば、術者にも影響あるのに何度もアタックさせるとか流石はブラック国家。
「それは他国のスパイということか?」
達也が私を見ながら幹比古君に訊く。
「時期的にそれが濃厚だね。でも、ここまでやるなんて聞いたことないよ」
「全く、やりたい放題やられてるわね。警察は何やってんのかしら」
幹比古君の言葉に、エリカが不機嫌そうに吐き捨てる。
貴女のお兄さんは知らないけど、源田さんは頑張ってると思うよ。
6
:源田視点
鼻がむず痒いな。
聞き込みは思うようにいかない。
「目撃者はいるんでしょうけどねぇ」
隣の千葉がやる気なさげに頭をポリポリ掻いていやがる。
だが、こちらをチラッと窺う。
コイツのいいたいことは分かっている。
「違法捜査はしねぇぞ?」
「ちょっと話を聞きに行くだけですよ。何も証拠として採用しようっていうんじゃありませんって」
確かに行き詰ってるからな。
俺も多少強引なことをすることがあるし、一線を引いてるなら見ぬ振りをするか。
「喫茶店で一服しましょう」
千葉が愛想笑いをしていった。
その喫茶店が曲者なんだろうが。
到着したのは喫茶店・ロッテルバルトだ。
横浜の山手にある洒落た店で、とてもあらゆる分野の情報を握っている人間のいる場所には思えない。
そこも曲者なんだがな。
コーヒーは旨いものを出す。
安月給には優しくない値段だ。
諦めて入るとするか。
千葉が運転する車から降りて店内に入ると、客が一人座っていた。
その客が問題だ。
千葉と二人でカウンター席に陣取り、マスターが視線を向けた瞬間に注文する。
「ブレンド二つ」
千葉が俺の分も勝手に注文する。
千葉は顔を正面に戻そうとしているが、先に来ていた客が気になるようだ。
地味な化粧と地味なスーツ姿だが、見目の良さとスタイルの良さを隠しきれていない。
千葉はそれを目敏く見抜いたんだろうが、俺にいわせれば見事に釣られているとしかいいようがない。
そりゃ、いい女は見たくなるもんだが、あれは堅気じゃない。
俺はチラチラと女を気にする千葉の首を掴んで正面を向かせる。
大袈裟に痛がる千葉に遂に女の口から小さい笑いが漏れる。
「すいません。源田刑事に比べて千葉の御曹司は女に不慣れなんですか?」
それ見ろ。
千葉の顔から一瞬表情が消える。
次男は有名だが長男であるコイツの知名度は低い。
隠している訳ではないが、ちょっと調べたくらいではコイツの顔を知ることはない。
つまり、この女は魔法関係の人間ということだ。
犯罪者絡みの女の臭いはしないからな。
「失礼しました。私は藤林響子と申します」
ホラな。堅気じゃないだろうが。
7
私と達也は、深雪とお馴染みのメンバーで帰ることになった。
私達が駆り出されてから結構久しぶりだ。
「達也さん!論文コンペの準備はどうですか?」
積極的に動いているほのかが、知っているであろう情報をわざわざ訊いている。
達也があとは調整等の作業が残っていると答えている。
「ふうん。大変だね。確か美月のところも模型作り手伝ってるんでしょ?」
横で達也の話を聞いていたエリカが、二人の邪魔をしないように美月に話を振った。
「私は本当にお手伝い。五十里先輩や深景さんがどんどん設計図通りに作っちゃうから、二年の先輩も大変そうだよ」
「模型作りは五十里先輩や姉さんに任せきりだからな。自然と二年が主力になるんだろう」
美月の答えに達也が追加情報を放り込んでくる。
私も頑張っているんですよ。
「ん?じゃあ、達也は何してんだ?」
レオ君が、あれ?って感じで訊いてきた。
具体的に何をしているって、そういえばいったことなかったっけ?
「俺はデモ用の術式調整だな」
「普通は逆だよね?」
達也の返答に雫が鋭いツッコミを入れる。
だが、これが順当で間違いない。現実は非情なのだよ。
「物作りに関しては五十里先輩の方が断然上だと思うが?」
「まあ、啓先輩はそっちが合ってるかもね」
雫はそこを問題にしたんじゃないだろうに。
達也のズレた返答にエリカが苦笑いでフォローを入れた。
無理にフォローしなくてもいいんだよ、エリカ。
「寄っていくか?」
達也がよく利用する喫茶店・アイネブリーゼの前で提案する。
理由は分かっている。
「いいね!」
「そうだな。これからはもっと忙しくなるだろうし、いいじゃねぇか?」
「うん。ゆっくりお茶を飲んでいこう」
エリカ、レオ君に幹比古君といった事情を理解している組が賛成して店内へ入っていく。
客はそこそこ入っていて、私達のいつも利用している席は埋まっていたのでカウンターを占拠する。
達也の周りが花々しい。
誤字ではない。まさにそんな感じで女子が固まっている。
私を含んでいるがね。
「いらっしゃい。モテるね、達也君」
この喫茶店のマスターがニヤニヤしながら揶揄う。
哀れマスター、この後達也の髭弄りで女子からも攻撃を食らい、凹んでいた。
「へぇ。達也君、論文コンペに出るんだ。一年生だろ?凄いな!」
マスターが分が悪いと悟り、話題を変えた結果、またコンペの話になった。
「今年は横浜だっただろ?実は僕の実家も横浜なんだ。しかも実家も喫茶店なんだ。ロッテルバルトって店。会場は国際会議場だろ?その近くにあるんだ」
コーヒーを淹れながら淀みなく喋るが、手抜きはない。
この人は、魔法科高校の近くにある喫茶店の店主なだけあって魔法の情報を常に仕入れている。
親と違って情報を扱っているって訳じゃないみたいだけど。
「近くというとどの辺りなんですか?」
美月が差し出されたコーヒーを受け取りながら訊く。
「山手の丘の真ん中辺りだね!是非コーヒーの味を比べてみてよ!」
結構自信ありですか?多分、行かないと思うけどね。
「マスター。商売上手」
雫が礼によって感情が大して混じらぬ声でいった。
マスターがドヤ顔で笑ったのを見て、私達も笑ってしまった。
8
コーヒーをまったりと楽しんでいると、エリカが徐に立ち上がる。
「さてと、ちょっとお花摘みに行ってくるね!」
「エリカちゃん!そういうのは大声でいっちゃダメだよ!」
エリカの便所発言に、美月が顔を真っ赤にして注意した。
確かに洒落た表現すりゃいいってもんじゃないかもね。
用件は別だと知っているけれども。
エリカはカラカラと笑うと姿を消した。
「おっと!電話だわ」
レオ君が、わざとらしく胸ポケットに手を当てて立ち上がり同じく姿を消す。
「幹比古。何やってるんだ?」
達也が突然お習字を始めた幹比古君に声を掛ける。
「ちょっと忘れないようにメモッとこうと思って…」
もう集中しているのか、幹比古君の返事は御座なりだった。
いや、メモってそれ無理がないかな?
一番酷い理由だよ、君。
「あまり派手にやると見付かるぞ」
達也も強いて止めはせずに、残ったコーヒーを味わっていた。
さて、私も席を立つか。
「姉さん?」
「うん。ちょっと座り過ぎて最近硬くなっちゃってね。ストレッチしてくる」
「え?ここで?」
ほのかが変な人を見る目で見られてしまった。
うん。適当な理由って、難しいわよね…。
達也と深雪は苦笑いで見送ってくれた。
別にいいんだ…。
背中に哀愁を漂わせて姿を消す。
「オジサン!私とイイことして遊ばない?」
エリカがあからさまに怪しいことをいい放った。
誤解されるようにわざといったよね?
私達を尾行してた東方不敗風のナイスミドルは、若干動揺したようだ。
いわれたナイスミドルは、何を考えているのかあからさまに怪しいコート姿だ。
住宅街を帰宅サラリーマンが歩くには早いし、あからさまに浮いている。
そして何故かテイクアウトのコーヒーカップを握りしめている。
飲みながら、尾行してたのかね。
どうして某・ポンコツ少佐とか、こっちの奴って下手な偽装するのかね。
「何をいっているのかね。もっと自分を大切にしなさい!」
一瞬、エリカの揶揄いに動揺したナイスミドルだが、エリカの漏れ出た闘気に意識を反応し意識を切り替えている。
「うん?何か誤解してるのかな?イイことっていっただけなのに」
エリカは、あざとく小首を傾げていった。
「大人を揶揄うんじゃない」
さっと憤慨する大人を装い逃げようとするナイスミドル。
背を向けると、そこにはガタイのいい男の子が一人。
「まあ、そう慌てんなよ。訊きたいこともあるしよ」
レオ君が脳筋CADを打ち鳴らして引き留める。
後ろを窺えばエリカも警棒を既に引き抜いている。
溜息を吐くナイスミドル。
そりゃ、溜息も吐きたくなる状況だよね。
そして絶叫。
「助けてくれ!!強盗だぁ!!」
シーン。
「うわっ!情けな…」
「いやいや、そこは判断の早さを褒めとこうぜ」
情け容赦ないエリカの言葉に、流石に憐れになったのかレオ君がフォローしてやる。
「オッサン。悪いけどよ。助けを呼んでも誰も来ないぜ?」
レオ君、それ悪役のセリフだよ。
「まあ、来させないんだけどね。結界でここ等を覆ってるから、私達を倒さないと出られないよ?」
ナイスミドルは今更ながらに状況を理解したようで、渋面でコーヒーを路上にポイ捨てした。
マナーの悪いナイスミドルだ。
それから拳を構える。
「へぇ。武器ぐらい出すと思ってたぜ」
「最初から出すとは限らないのよ!」
レオ君の勘違いを厳しく正すエリカ。
いつもなら怒るレオ君だが、今回ばかりは表情を引き締める。
その表情を見て、ナイスミドルは不意を打てなくなったことを悟り舌打ちした。
そんなことで諦める筈もなく。
物凄いスピードでレオ君に狙いを定めて襲い掛かる。
魔法の気配は一切ないことに一瞬だけ驚くレオ君だが、こちらも素早く迎撃に入る。
だが、経験値の差は如何ともし難く善戦したものの、レオ君はアッパーカットを食らい壁に打ち付けられた。
その間、エリカも何もしなかった訳じゃない。
レオ君の援護に入っていたが、あちらもレオ君の拳を捌きつつエリカにスローイングダガーを投擲し接近を許さなかった。
そして、満を持してエリカを相手取ろうとした時に復活したレオ君のタックルを食らい、憐れナイスミドル、高校生に取り押さえれたのであった。
「痛ってぇな。コイツ、機械仕掛けって感じでもないし、ケミカル強化か?」
レオ君が顎に手を当てて顔を顰めつついった。
エリカは呆れた顔で、それをいったレオ君を見ている。
「アンタにいわれたくないと思うわよ。そこのオジサンもね」
普通なら、あの拳を顎に食らったら死ぬと思う。
そうじゃくても脳震盪は避けられない。
それ以前に首の骨が逝くよね。
それを痛いで済んでるんだからレオ君も普通じゃない。
「そりゃ、俺も自分の遺伝子が完璧に天然だっていい張る気はないけどよ」
レオ君の拘束を解こうと試みたナイスミドルを、レオ君が頭を地面に叩き付けることで大人しくさせる。
「ま、待て!私は元々敵対する気はなかった!話すから、落ち着きなさい!」
ナイスミドルが東方不敗らしからぬ情けない態度をとる。
「よくいうぜ。アンタの攻撃、俺達じゃなきゃ死んでたぜ?」
「いきなり武器を持ち出したのは、君等が先だろう。私は身を守るだけの積もりだったさ。相手の力量に合わせてね」
レオ君の言葉に、ナイスミドルが皮肉交じりにいった。
「そりゃ、こっちも同じだよ」
「敵じゃないっていうなら、手早く話してくれない?結界を長々と維持する訳にもいかないから」
レオ君の不貞腐れたような態度を気にする様子もなく、エリカが話を促す。
「まずは名前からいこう。私はジロー・マーシャルだ。詳しい身分はいえないが、どの組織にも所属していないとだけいっておこう」
「私達の自己紹介は不要よね?」
「ああ。勿論だ」
「非合法工作員ってことよね?」
エリカの問いにナイスミドルは沈黙するが、それが答えだ。
「私の仕事は、魔法科高校の生徒から東側へ魔法技術が渡るのを防ぎ、万が一渡ってしまった場合はそれに対処することだ」
エリカの言葉を無視してナイスミドルは、淡々を目的を話す。
「アンタのクライアントは、うちの国ってわけじゃないんだろ?なんでそんなことすんだよ?」
レオ君の疑問に、ナイスミドルは重い溜息を吐いた。
「この国はまだ平和ボケが治らないのか…。いや、学生にそれを求めるのは酷か?世界の軍事バランスを保つには、日本の情報が東側に漏れたのでは意味がないと思わないかね?」
エリカはジッと聞いているが、レオ君は思い至らなかったのか気まずそうに視線を逸らした。
「今や世界中で魔法関連技術のスパイが暗躍しているのだよ。そして、君等の学校もターゲットになっているという訳だ」
「ご高説どうも。油断してなんかいないし、やられる積もりもないわよ。現にアンタの尾行だって気付いたでしょ?」
「それは、私が防ぐ立場だからだ。敵ではないからね」
話に気を取られていたのか、レオ君の拘束は少し緩んでいたようだ。
それを突いてレオ君自分の上から突き飛ばすと、素早く立ち上がった。
その手に魔法のように拳銃を握り締めて。
「「っ!?」」
「これが証拠だ」
拳銃を向けつつ、そんなことをいうナイスミドル。
「単に拳銃を使うと証拠が残るからでしょうが」
エリカが吐き捨てるようにいった。
「それも勿論あるがね。必要なことは話した。結界を解いて貰おうか?」
いくら魔法師でも至近距離で銃弾の速度より速く動くのは困難だ。
それくらい二人も、いや三人とも承知している。
「ミキ…」
エリカが囁くようにいうと、結界は空間に解けるように消えていった。
結界が解除された事を確認するとナイスミドルは、徐々に後退する。
「最後に一つ。お仲間に学校内だからといって気を抜くなと伝えて置いてくれたまえ」
いうと同時に懐から金属の筒を取り出し、叩き付けた。
白い煙幕が噴き出し、ナイスミドルは姿を消した。
さて、私の出番です。
9
:ジロー視点
確かに甘く見ていたことは否定できない。
それでも一時とはいえ捕らえられたのは、私の評判に係わる。
自分自身から出た錆だ。甘んじて受けなければならない。
「勘づかれた。交代要員を送ってくれ…っ!」
今の今まで全力で走って離脱していたが、その脚が止まる。
決して安全圏に入ったからではない。
その逆だ。
危機察知能力が低くては、この業界はやっていけない。
いつの間にか通信も途絶している。
冷汗が背を伝う。
全神経を集中し、索敵するが見付からない。
周囲にも異常は見当たらない。
だが、視線を正面に戻した瞬間に驚愕した。
一人の青年が気配もなく立っていたからだ。
いつの間に!?
その立っている青年には見覚えがあった。
とびきり危険な人物として。
「人喰い虎…呂剛虎」
逃げなければならない。
理性はそう告げていたが、動くことができない。
自らを叱咤し、素早く拳銃を引き抜くと狙いを定めようとしたが、それより早く何かが起きた。
「「っ!?」」
私と人喰い虎が驚愕する。
私の腕を潰そうと伸びた手は、どこからか出てきた刃に止められていたのだ。
「君は!?」
何やら珍妙な仮面を付けた女性が、刃を手に立っていたのだ。
服装で誤魔化しているが、おそらく先程まで相手をしていた監視対象と変わらない年の頃だ。
「走れ」
私が何かいう前に、彼女が短く命ずる。
私は弾かれたように駆け出した。
瞬間、背後で嵐が吹き荒れた。
どれ程走っただろうか。
流石に息切れし、立ち止まる。
「お疲れさん」
「っ!?」
今日はどれ程驚かされる日なんだ。
先程、人喰い虎と戦っていた筈の人物が、私の目の前に立っていた。
「君は…何者だ?」
私はいつでも拳銃を取り出せるように身構える。
彼女が仮面の奥で苦笑いしたような気配を感じる。
「命の恩人に随分ないい草だね?」
「タダより怖いものはないというからね」
「何ね、簡単なことだよ。情報が欲しいってだけ。当然中華街の情報も握っているでしょ?それが欲しい」
「ふむ。私の一存で話せるような内容ならいいがね」
私は慎重に離脱の機会を窺う。
「周公瑾。ふざけた名前だけど一応本名だ。居場所か分かれば最高だね」
周…。あの辺りに巣食う怪人だ。
大亜連合と繋がりながら、他にもパイプを持っている男だが証拠を掴ませない不気味な男だ。
「我々が訊きたいくらいだよ。あの怪人のことは。神出鬼没な男でね。ただ…」
少しだけ情報をくれてやろうとした瞬間。
「伏せろ!」
その声を最後に私の意識はなくなった。
10
折角、影分身に虎ちゃんの相手を頼んで、華麗に離脱して貰って囮までして貰ってここにいるのに、ここで本体の私に危機到来。
情報を楽して手に入れようとか思ってたのにさ。
何かが光ったと同時に私の本能が危機を知らせる。
この感覚を疑ったことはない。
ナイスミドルに手を伸ばすが、間に合わなかった。
大したスピードだよ、全く!
ナイスミドルの頭が爆ぜる。
弾丸と思しき物が威力を弱めることなく私に向かってくる。
防げたのは、まさに今までの鍛錬の賜物だ。
チートに驕り高ぶっていた頃の小さい私なら一緒に仲良く頭を失くしていた。
刀で弾丸を弾いた感があるが、それが軌道を変えて襲い掛かってくる。
それを限界まで強化した身体で弾丸を今度こそ破壊する。
神速と呼べる程の剣で漸く追い付ける。
澄んだ音と共に弾丸が砕ける。
弾丸の正体は、コインのようだ。
ゲームセンターか何かで使われるような。
こんなもので?
素早く建物に身を隠し、眼で索敵を開始する。
ビルの屋上にその人物が立っているように見えるが、あれはデコイだ。
舌打ちしたくなる。
当人は既に引き際がよく離脱した後のようだ。
建物の陰から出ると、頭がなくなったナイスミドルを見下ろす。
人員を大分使って調べている筈だから、聞いておこうと思ったんだけど。
東方不敗風な顔の癖に、これじゃ東方全敗だ。
なんて、今回は大失敗した私のいえた義理じゃない。
私は仕様がなく天狗さんに連絡することにした。
11
:周視点
私は隠れ家で寛いでいると、人が扉から滑り込んできた。
「ご苦労様です。結局フォローして頂いたようで、助かりましたよ」
その人物に声を掛ける。
「別に構わないさ。仕事だからな」
愛想のない声と顔でその人物はいった。
「監視していたのか?」
「まさか!心配すらしていませんでしたよ。素直ではない感謝がきたから分かっただけです」
陳閣下が不機嫌そうに礼をいっていたが、こっちの手札を探っていたようだ。
何やら他とは違う者が、周囲を嗅ぎまわっている様子だったので協力していると示す為に彼を配置した。
案の定、私の周りを嗅ぎまわっている者は、普通ではないようだ。
何しろ虎をあしらい、彼の狙撃すら防いでみせた。
彼がその人物を殺すとなれば、切り札を切った上で周辺の被害を度外視しないと難しいでしょうね。
これは明確な脅威だ。この私でも。
「まあ別にいいが。金は?」
「いつも通りに」
私はいつも通りに声を掛ける。
「どうですか?私達の下で働きませんか?日本に、十師族に義理もないでしょう?」
彼はフリーランスであって、私の手駒ではない。
将来的に欲しい手駒ではありますがね。
「エクストラ…でしたか?君の能力は大したものですよ。それを評価しないとはどうかしていますよ、この国は」
「これは俺が磨いたもので家の魔法じゃない。魔法とすら呼べない。向こうに義理もないが、それはアンタも一緒だ。断る」
そういうといつも通りに出ていった。
「それは残念ですね。またお願いしますよ?刃霧要君」
私はそういいながらも、既に敵のことを考えていた。
「それに司波深景ですか…。さて、どうしたものか」
口元に自然と笑みが浮かぶ。
彼女を、どう利用するかを。
モチベーション低下と忙しさで進みが更に遅くなっています。
ここらで何かカンフル剤になるようなもの探さないとなと
思います。
刃霧君、カッコイイ敵キャラだったなと思います。
彼は死紋十字斑を使わずとも、ある程度弾をコントロールできます。
魔法科の世界の彼なので。
原作より強いです。深景だからこその弾丸の破壊です。
これからどう係わっていくか見て頂けたらと思います。
因みに、深景の付けていた仮面は黒(ヘイ)の仮面です。
趣味です。はい。
更に投稿が不安定になるかと思いますが、気長にお待ち頂ければと
思います。