司波家の長女は何をする?   作:孤独ボッチ

34 / 39
 書く時間が中々取れずに、余計遅くなっております。
 これからも遅くとも書いていく積もりです。
 それでは、お願いします。



 


横浜騒乱編3

               1

 

 :源田視点

 

 千葉の野郎は、すっかり女にのぼせ上って本来の用件を忘れてやがる。

 藤林のお嬢さんは、千葉と話しながらもこっちに目を配ってやがる。

 マスターに用件を代わりに切り出そうとすると、途端に話を振ってきやがる。

 機先を制するを話術でやってやがるぜ。

 こりゃ、警部殿を引っ叩いて正気に戻すしかないか?

 さて、職人と名高い情報屋が、このお嬢さんに大人しく従うとは思えねぇが…。

 このお嬢さんがいなけりゃ、情報は聞けそうではある。

 だが、もう向こうのペースに引き込まれてやがる。

 俺はコーヒーを味わいながら、ジッとマスターと藤林のお嬢さんを観察していた。

 その時、藤林のお嬢さんのハンドバックから着信音が鳴った。

 そっちにだけ目を向けるのではなく、全体を見つつ注目する。

 藤林のお嬢さんは、ハンドバックから情報端末を取り出すとメッセージに軽く目を落とした。

 すぐに俺や千葉に笑顔を向ける。

「すみません。少し席を外させて下さい」

「勿論、結構ですよ」

 藤林のお嬢さんは、笑顔のまま通信端末を持って外へ出て行った。

 それを千葉がのぼせ上った目で追っていやがる。

 俺は、無言で警部殿の頭を引っ叩いた。

「痛たぁ!」

 不満気にこっちを睨んでくるが、俺も逆に睨み返してやると奴はそそくさと視線を逸らした。

「行くぞ、警部殿」

「あの…、俺、上司なんですけど…」

「なら、それらしくしろ。そうなったら態度はいくらでも改めてやるよ」

 千葉が苦虫を嚙み潰したような顔で呻いた。

「情報まだ聞いてないですよ?」

「あのお嬢さんに先乗りされた状態じゃ、いいように使われるのがオチだ。出直すか、こっちで捜査するしかないってこった」

 千葉も分かってはいたのか、気落ちしたような顔をした。

 本当に懲りろよ。

 

 俺達が金を払って、外に出ると藤林のお嬢さんはまだ話中だった。

 お嬢さんが通信端末を耳から離すと、声を掛けて来た。

「あら、もう出られるんですか?」

「ああ」

「すいません。職務がありますので」

 俺は素っ気なく頷き、千葉の奴は全く懲りずに名残惜しそうに言った。

「それでは、残念ですがまたお会いしましょう」

「それは是非!」

 お嬢さんの言葉に千葉が大袈裟に敬礼していった。

 俺は蹴飛ばすように千葉の背を押す。

 千葉はムッとした顔をしたが、大人しく歩き出した。

 それを見届け、俺はお嬢さんの耳元で囁いた。

「警察舐めんなよ」

 圧を籠めていう。

「勿論ですわ」

 お嬢さんは、並みの犯罪者なら縮み上がるような圧をものともせずに笑顔で答えた。

 俺は、それに応えずに千葉を追った。

 

 全く、ただでさえ難航してるってのに、面倒な横槍入れてこなきゃいいんだがな。

 

 

 

               2

 

 :響子視点

 

 外に出ると、喫茶店の中を窺いながら通信に出る。

 内容は、吉田家の元神童の尻拭い。

「古式魔法でも、痕跡は残るんだけど…。まあ、元神童も自分の殻を破りつつあるってところみたいだけど」

 監視システムの記録を消しておく。

 餌になって貰っている訳だから、これくらい報酬のうちにも入らないけど、愚痴はいいたくなるわ。

 そう、達也君達が標的になっていることや、レリックの複製を会社から押し付けられてレリック本体も預かったことも把握しているのに、私達は敢えて放置しているのだ。

 内心でそんなことを考えていると、刑事二人が出て来た。

 噂通り源田刑事は、容易に使われるような警察官じゃなさそうね。

「警察舐めんなよ」

 千葉の御曹司を急かして先に行かせてから、私の耳元でそういった。

 流石は、剣の腕前ならば千葉の麒麟児にも勝るといわれるだけあって、気迫が凄いし、それを私以外に一切悟らせないのが凄い。

 私でなければ、冷汗の一つも搔いていたかもしれないわね。

 凄腕の巣窟のような独立魔装大隊に居れば受け流すことは可能になる。

「勿論ですわ」

 私は笑顔で返事を返した。

 それに特に反応を示すことなく、源田刑事は振り返らずに千葉の御曹司の後を追っていった。

私は、それを見送ると止めてあった車に乗り込み、データを改竄していく。

 一段落ついて一息吐く。

「舐めた積もりはないけれど、こちらの都合通りには動いてくれなさそうね」

 独り言を呟く。

 千葉警部だけなら、どうにかなりそうだけど、お目付け役がおいそれと許しはしないだろう。

 やはり、達也君達に頑張って貰うしかなさそうね。

それにしても、深景さんにも追撃を許さない相手がいるなんてね。

 余程能力の高い魔法師なのか、それとも達也君のようなピーキーな力の持ち主なのかね。

 餌が頑張ってくれる以上、釣り上げる私達は上手くやらないといけないわね。

 

 私は、支払いを済ませると原隊に復帰した。

 

 

 

 

               3

 

 :幹比古視点

 

 非合法工作員を逃がしてしまった次の日、エリカの機嫌はあまりよくない。

 二人をカバーする為に深景さんが、非合法工作員を追ったところ駄目だったらしい。

 戻った彼女は、首尾を訊かれて不敵な笑みを浮かべて、こういった。

「ふっ!コテンコテン!ぴゅーと飛んできてパァン!!ってなもんよ!!」

 意味が全く分からないけど、ようは失敗したってことらしい。

 エリカにとって、カバーとか気分のいいものじゃないだろうし、しかも失敗となると機嫌も悪くなるだろう。

 機嫌は悪くなるだろうけど、それでも珍しいと思う。

 エリカは気分屋だけど、気持ちを次の日にはリセットできる筈なのに珍しい。

 拘りなく昨日仲良くしてた子と、いきなり疎遠になったりするくらい切り替えが早いのに。

「エリカ、もしかして昨日のこと気にしている?」

 深雪さんも気になったのか、エリカにズバリ尋ねた。

 僕には真似できない。

 そんなことをすれば、鋭い目付きで睨まれそうだし。

「何?ミキ」

 エリカが突然僕をジト目で睨む。

「ぼ、僕の名前は幹比古だ。別に何もいってないだろ?」

 エリカは疑わしそうに、深雪さんに視線を戻す。

 凄い勘だな…。

「ああ、ごめんごめん。気にはしてないっていえば嘘になるけど、気になっていることはあるってとこ」

 深雪さんは、エリカのいわんとするところが分かったのか、表情を曇らせた。

「学校の中だからって気を抜くなっていったわ」

「つまり、また校内に…」

 表情を曇らせた深雪さんの肩に達也が励ますように触れた。

「俺もああいう事態は御免被りたいがな」

「でも、残念ながら、そうならない可能性が高いからねぇ」

 達也が励ましている横で、深景さんが溜息交じりに呟くようにいった。

「直接殴り掛かってくるようなら楽なんだけどよ。このまま受け身ってのも不利って感じだな」

 レオが困った顔でぼボヤいた。

 事実、そのことにばかりを気に掛けている訳にはいかないからね。

「アッサリとしてやられる積もりはないさ。それに怪し気な情報に振り回されもしない」

 達也が笑みを浮かべていい切った。

 流石の自信だね。

「でも、警戒は怠らない方がいいだろうね」

「ああ、勿論だ」

 達也の頼もしい返事に僕は頷いたけど、深景さんやエリカ、レオが何か考え込んでいるのが気になった。

 

 だが、結局三人が何を考えていたのか話す機会は、その日にはなかった。

 

 

 

               4

 

 結局、本格的に外でデモ機の試験を行う日から、私もデータのセキュリティ面で参加させられることになった。

 本当は模型造ってお役御免の筈だったんだけどね。

 因みに、天狗さん達には、東方全敗の死やそれをやった奴の手掛かりになりそうなことは報告した。

 そこら中にあるカメラは、案の定仕事をしてなかったらしく今のところ暗殺犯は不明のようだ。

 電子の魔女さんが今も頑張ってくれている最中である。

 達也達は頑張って作業している中、私はデモ機のデータを守るために…座っている!

 だって、攻性防壁は張り巡らせてあるし、やることっていったら直接有線して痛い目に遭うのを防ぐ程度しかない。

「達也く~ん!深景!!」

 エリカが大声で存在を主張した。

 男衆は他人のフリ、美月だけは友人として真っ赤になりながらもエリカを止めているが、残念ながら美月ではエリカを止められない。

 更に自己主張をする結果となった。

「お前、空気読めるか?今、大声上げていい場面じゃねぇぞ」

 護衛の一人として見兼ねた桐原兄貴が、呆れた声で声を掛けてるね。

「あっ!さーやも見学?」

 兄貴を華麗に無視して、その彼女に声を掛けるエリカ。

 兄貴は、苦虫を嚙み潰したような顔で拳を握り締める。

 気持ちは分かるよ、兄貴。

 彼女さんは、友人と彼氏の板挟みになって困っていた。

 ここは私が。

「エリカは見学?」

「美月の付き添い」

 私の質問にエリカが端的に答えた。

 すかさず深雪が近付いてくる。

「エリカ、こっちよ」

 深雪がエリカ達を纏めて回収していった。

 深雪がこっちに笑顔でお任せ下さいとばかりに頷いて見せた。

 よくできた妹を持ってお姉さん幸せだよ。

 これ以上のトラブルを嫌ったのか、兄貴と紗耶香先輩が付いていく。

 そこで深雪が色々と教えている。

 興味を実験の方へ向けることに成功したようだ。

 その間に市原さんとおかっぱ先輩が、頷き合う。

 達也が私が居なくなったタイミングで、デモ機のモニター前に座る。

 私もそちらに駆け寄ると、市原さんがデモ機のCADにサイオンを流し込む。

 複雑な魔法式が発動し、電球のお化けみたいなものに明かりが灯る。

 その瞬間、大歓声が上がり大盛り上がり。

 うん。まあ、凄いことだよ。

 私はテンションだだ下がりだけどね。

 無線式のパスワードブレイカーを、暗い笑みで弄ってる奴を見掛けたからね。

 ああ、やっぱりやるのかコイツ。

 でも、止めとかないと怪我するよ。

 無線式の対策もしてるからね、バッチリと。

 特殊な装置を自作してたりして。

 そして、心の中の警告は無駄に終わる。

 奴の持っていたバスワードブレイカーが、ボン!という音を立てて壊れたからだ。

 周りが一斉に奴こと平河妹に視線を向ける。

 特に怪我をした様子はないが、バスワードブレイカーは放り出していた。

 逸早くその存在に気付いた紗耶香先輩が駆け寄ると、奴も慌てて駆け出した。

「待ちなさい!」

 エリカと兄貴が遅れて追い掛ける。

「姉さん」

 達也が声を掛けてくる。

「私の防壁は、あんな玩具で破られないから大丈夫だよ」

「それは分かっているし、信頼してるよ。姉さんは大丈夫?」

 私は意味が分からず達也を見返す。

「今までにないくらい嫌そうな顔をしてたからね」

 ああ、そういうことね。

 

 そりゃそうだよ。これからアレに粘着されると思うと嫌になるよ。

 

 

 

               5

 

 結果を言えば、あれだけの戦力を投入されて平河妹が抵抗できる訳もなく御用と相成ったようだ。

その時、頭を強打して気絶してしまったらしい。ざまぁ。

 暫く異常がないか確認する為に、グラップラー保健医がいる保健室に転がされているらしい。

 事情聴取は意識の回復を待たなければならない。

 それでエリカとレオ君は、サッサと帰って来たらしい。

 当然、キャノン先輩から有難いお言葉を頂戴したみたいだけど、二人は気にした様子はない。

 戻ってきて丁寧に説明してくれるのは、有難いんだけどね。

 私は特に奴のことなんて知りたくもないんだけどさ。

 

 正直にいうと、私は平河妹が嫌いである。

 

 

 

               6

 

 そして、こっちはこっちで問題が発生したりする。

 使い捨て工作員(笑)2号の登場である。

 エリカとの口喧嘩で疲れたキャノン先輩が向こうから慌ててやって来る。

 戻ってもエリカ(ついでにレオ君)が居て揉めてれば、そりゃ慌てる。

「ちょっと!司波君!どういう状況なの!?」

 訊き易いとはいえ、作業中の達也に訊くのはどうなのかな?

 私は、達也の横でウイルスチェックをしてたりする。

 まあ、大丈夫だけど一応ね。

 深雪は眉を顰めて、キャノン先輩を見るに止まっている。

「エリカとレオがウロウロしているのが、関本先輩にはお気に召さないようですよ」

 達也は切りのいいところで手を止め、キャノン先輩の問いに答えた。

 それでキャノン先輩は周りを見る余裕ができたのか、少し冷静さを取り戻したように見えた。

 代わりに嫌そうな顔になったけど。

 何しろギャアギャアいってウザがられているのは、あの三秒で描けそうな顔の使い捨て工作員2号の方だし。

「関本さん…。どうしたんですか?」

 声でウンザリしてるのがバレバレだった。

 しかし、ヒートアップしている工作員2号は気付く様子もない。

「千代田か。大したことじゃない。護衛の邪魔だから、あまりウロつくなと注意していただけだ」

 キャノン先輩は、それを聞いて重い溜息を吐いた。

「一年は、これからの為に見学した方がいいでしょう。護衛に邪魔なら私達が注意します。関本先輩は護衛ではないんですから波風立てるのは困ります」

 工作員2号がキッと眦を上げるが、口を開く前にキャノン先輩はエリカとレオ君に向き直る。

「貴女達も帰ってくれない?これ以上揉めないうちに」

 かなりストレートにいったな。

 だが、エリカはそれを鼻で嗤った。

 おお、キャノン先輩怒ってる怒ってる。

 我慢してるけど。

「それじゃ、深景、深雪、達也君。先に帰るね」

「俺も帰るわ」

 エリカがアッサリと背を向けて去って行くのを、レオ君が続く。

 エリカの背を睨み付けていたキャノン先輩だが、通信端末が着信音が鳴るとそれに出る。

 少し話すと、まだ居残っている工作員2号を置き去りにして引き返していった。

 工作員2号は、無視されてムッとした様子だったが何もいわなかった。

「花音!待って!」

 作業中だった筈のおかっぱ先輩が職務放棄して、婚約者の後を追う。

 え?これ私が代わる流れ?

 市原さんと達也から視線を感じる。

 

 ですよね。

 

 

 

               7

 

 私は溜息交じりに、おかっぱ先輩が放置したモニターに覗き込もうとした工作員2号を押し退けて座った。

「おい!」

 先輩ではあるが工作員だし、いいでしょ。そんなに怒んなくて。

「関本君。千葉さん達のことを邪魔といっておきながら、関係者でもない貴方がデータを覗くのはどうかと思いますが?」

 語外にお前の方が邪魔だと、市原さんが容赦なく突っ込む。

「それに、こういうテーマは関本君は興味ないのでは?」

「応用技術に興味がないなどといった覚えはない」

 そこから二人が議論を戦わせ始めた。

 もう何度もやってるなと分かる平行線っぷりだ。

 火花が散っているのが幻視される程に、考え方が違う。

 達也は作業の手を止めずに、それを聞いているのが分かる。

 分かるよ。マイブラザー。

 厄介事にならなきゃいいな~とか思ってるでしょ?

 

 残念ながら、君の予感は当たる。

 

 

 

               8

 

 :レオ視点

 

 揉め事でダチに迷惑掛けるのも気が引けるし、帰ることにした。

 前をエリカの奴が歩いているが、追い付いて一緒に帰ろうなどという気はない。

 向こうもそんな事を考えてないだろうな。

 この女は、そういうのを基本嫌うだろうからな。

 いつも達也達と一緒にいることが多いが、俺にはそう思えた。

 この女の心の壁みたいなもんを感じてはいたんだ。

 だから、突然振り返ったのには少しびっくりした。

「レオ。アンタ、今日これから予定ある?」

 このセリフで倍ビックリだ。

 デートの誘いだなんて勘違いする余地はないぜ。

 その眼は、刃のように鋭いからな。

 そんな冗談いったら殺されかねない。

「特にないぜ」

 俺も正直に答える。

「だったら、付き合いなさいよ」

 そういうとサッサと歩き出した。

 俺も気を引き締めると、後を追って歩き出した。

 来るべき時が来たってヤツか。

 漠然としたもんだが、その時俺はそんなことを思った。

 

 二人乗りの車内は、落ち着かないったらない。

 目的地は未だに分からない。

 会話なんてねぇ。予想はしてたけどな。

 いくらそういう対象ではないといっても、二人きりは意識するし居心地が悪いぜ。

 腕を組んで、なるべくエリカの方を見ないようにしていると、これまた突然アイツが喋り出した。

「簡単過ぎると思わない?」

「何がだよ?」

 声が変に上擦ってないか気が気じゃない。

「スパイがいるって聞いた次の日に、お粗末な手段を使う手下が捕まったのよ?」

「お粗末ね」

 取り押さえるのに気を遣ったぜ?

「データを密かに抜こうっていうのに、ハッキングツール剥き出しでアッサリ発見されたのよ?お粗末もいいところじゃない」

「そりゃ素人だからな」

「だからこそ、陽動じゃないかってことよ」

 体よく使われたってことか。あるかもな。っていうか、それが妥当か。

「要は本命を炙り出す手伝いをしろってことか?」

「アンタに繊細な作業を期待する訳ないでしょ?」

 おい。腹立つ奴だな。苦手分野だけどよ。

「アタシにしてもアンタにしてもそんなの柄じゃないでしょ。そんなの深景と達也君がやるでしょ」

 これだけ冷静に()()()向いてないといわれれば、反論し辛い。

 エリカ自身を除きやがったら戦争だったけどよ。

「もっと相応しいやり方があるでしょ」

「用心棒を買って出る…か?」

「防御じゃなくて、やるのはカウンター攻撃だけどね」

 エリカの眼が、物騒に輝く。

「おお怖っ、達也達を囮にしようってのかよ」

「あの二人なら、殺しても死なないでしょ?」

 確かに、そうかもしれないな。

 二人共、二科生なのに一科生の連中すら相手にしてない。

 まあ、それだけ超然として見えるんだよな。

「確かにな」

 俺も思わず頷く話だったぜ。

「深景にアンタも同意したっていえそうでよかったわ」

「おいコラ!」

 そこは巻き込むなよ!

 エリカが笑う。爆笑とでもいうのかね。

 思わず釣られて笑ったよ、俺も。

 これまた唐突にエリカは笑みを引っ込める。

 ホント、猫みたいにコロコロ感情が変化しやがる。

「で、ここからが本題というか問題。足りないものがあるのよ」

 語外にアンタにという言葉がハッキリと聞こえる。

「どういうもんだ?」

 俺は素直に訊いた。

 足りないところが思い浮かばないんじゃない。

 多過ぎて、どこか分からない。

「レオ、アンタの歩兵としての潜在能力は一級品よ。ウチの学校全体見回してもアンタ以上の素材は中々いないわ」

 ここまでコイツが褒めるのに驚いて、喜ぶどころじゃねぇな。

「で?素質だの素材だのいうってことは、現在に問題が有るってとこか」

「ええ。アンタには決め手、必殺技とでもいえば分かり易い?それがない」

 確かに…そんな技術はないな。

「オメエはどうなんだ?」

「あるわ。専用のホウキがいるけどね。使えば相手を殺すことができる秘剣がね」

「俺は確かに殺す前提の技術自体がねぇな」

 俺は素直に認めた。否定しても仕様がないしな。

「それを身につける覚悟がある?今度の相手は確実にその覚悟がいる連中よ。別に私達がやらなきゃいけない訳じゃない。それこそ深景や達也君が片付けるでしょうね。でも本気で関わるなら相手を殺す覚悟が、技が必要になる。どう?」

「愚問だぜ」

 もとより避けて通れると思ってなかったしな。

 心のどこかで、いつかくるって思ってた。

 漠然と考えていたものに答えが出たような気がした。

目的地に着いたのか車を降りて、歩き出す。

 海が近いのか、潮の香がする。

「だったら教えてあげる。秘剣・薄羽蜻蛉をね」

 エリカは、俺に向けてそう宣言した。

 

 上等じゃねぇか。やってやるよ。

 

 

 

 

               9

 

 エリカとレオ君が先に帰った代わりって訳じゃないけど、平河妹の事情聴取を終えたキャノン・おかっぱ夫婦が一緒に帰路についている。

 あの通信は、平河妹が意識を取り戻したという報告だったらしい。

 律儀に奴の動機やら、ある程度の事情聴取の内容を語ってくれた。

 平河妹は、ふざけた主張をやっぱりしていたらしい。

 やっぱりというかなんというか奴は私と達也を恨んでいるらしい。

 達也は、ミラージでなんとかできたのにしなかったこと、私はこれ見よがしに助けたのが気に入らないとかいったらしい。

 つまり姉の面子を潰したって訳だ。

 やっぱり達也も恨まれたようだ。

 私も恨まれるとは思ってたけど、だったらどうしろというんだろうか?

 恨まれるだろうって予想はしてたけどね。

 実際に聞けば納得しかねるわ。

「そういった動機ですか」

 達也はアッサリとした感想を述べた。

「ちょっと待ってください!それ、逆恨みじゃないですか!」

「寧ろ八つ当たり?」

 ほのかが達也絡みの為に思いっ切り怒っていた。

 雫の方は、奴の理屈が理解ができないのか不思議そうに首を傾げてる。

「お姉さんが大好きで、八つ当たりせずにはいられなかったんだろうね…」

 幹比古君の言葉に、美月が分かると言わんばかりに頷いた。

 納得してるお二人さんには悪いが私は別の意見だ。

「それはどうかな?」

「「えっ?」」

 私の言葉が自分でも思った以上に冷たかった所為か、幹比古君や美月が驚きの声を上げる。

「私だったら、平河先輩の名は出さないよ。勘繰る奴は、平河先輩の関与も疑うだろうしね。平河先輩の名前なんて出したら迷惑掛かるでしょうが」

「でも、お姉さんの為に何かしたかったってだけじゃ…」

 私の言葉に美月が弱々しく反論する。

「だったら、自分自身が私達を気に入らないからやったっていえばいいんだよ。それにね。あの姉妹がそこまで仲良かったとは思えないけど?」

「どういうことよ?」

 思わずといった感じで、キャノン先輩が口を挿む。

「一方は九校戦のエンジニアに抜擢される一科生のエリート。もう一方は二科生の落ちこぼれ。親がどっちに期待するかなんて自明の理でしょ?」

 この言葉には、期せずして幹比古君にも痛かったのか顔を顰めた。

「それなら、アンタ達だって同じだけど仲いいじゃない」

 キャノン先輩が思った通りのツッコミを入れる。

「私達だって最初から仲が良かった訳じゃありませんよ。切っ掛けがなければ今もバラバラだった筈ですよ」

「「「「「「えぇ!?」」」」」」

 意外な事実だった所為か、私達姉弟以外驚愕する。

 深雪と達也は苦い顔をしている。

 深雪は、私のことが嫌いで視界に入るなと暴言を吐く可愛げのない奴だったし、達也と私は口を利かなかった。

 ()()の存在がなければ、私は遠の昔にあんな呪われた家、二人を残して脱走していただろう。

 話が脱線したが、平河妹が姉と仲が良好じゃなかったと考える理由がもう一つある。

 それは姉の平河先輩だ。

 平河先輩は、今回のアホ行動(ナルシストの影響があったにしてもギルティ)をとった妹に対し、対話ではなくハッキングという手段で達也に証拠を渡していた筈だ。

 ここは印象に残っているので、よく覚えているから間違いない。

 それにそんなに自慢の姉なら、本人が自慢しまくっていた筈なのに、どこからもそんな話は漏れ聞こえてこない。

 女子のネットワークを舐めたらいかんぜよ。

 こんな仲良し姉妹いるか?

 それに何より全てを他人の所為にする根性が気に食わない。

「どうやらその平河のことは、放って置いてよさそうですね」

 驚愕から立ち直らない面々に対し、達也が話題を逸らすようにそういった。

 そのことで二年夫婦は強制再起動したようだ。

「あのね…。狙われてるの貴方達なんだけど?」

 気を取り直してキャノン先輩がいった。

「そうですね。俺と姉さんが巻き込んでしまったようですね。迷惑はお掛けしないよう細心の注意を払いますので」

「セキュリティに関しては、ウィザード級のハッカーでもない限り破られませんよ」

 私達の安心していいよ宣言も、おっかぱ先輩の胸には響かなかったようで顔を顰めていた。

「でも、エスカレートする可能性も否定できない以上、動機が平河先輩なら平河先輩経由で止めるようにいって貰えばいいんじゃないかな?」

 向こうも、そんな話振られても困るでしょ。

 人の話聞いてました?あの姉妹そんな仲良くないって、間違いない。

「姉さんの話じゃありませんが、平河先輩を巻き込むのは止めましょう。進路が絡む時期にこれ以上悩みの種を増やす必要もないでしょう」

「へえ…うん、そうね」

 キャノン先輩が、失礼な感想を漏らそうとしたのを敏感に感じたのか、深雪が実にいい笑顔を向ける。

 キャノン先輩は、失言を寸前に言葉を飲み込んだようだ。

 賢明な判断だね。

 深雪が、ドス黒いオーラを纏いニッコリと微笑んでいるのを見ればビビって当然だろう。

 達也は苦笑いだ。

「まあ、面倒になりそうだと考えたのは確かですよ」

 そして、達也は苦笑いを引っ込めた。

「それに、周りをウロウロしているのは、平河だけではありませんよ」

 達也の言葉に反応したように、サイオンの波紋が広がる。

 微かなものだが、おかっぱ先輩や幹比古君は気付いたようだ。

「ホントに護衛いらないの?」

 キャノン先輩が頭痛を堪えるようにいった。

「こっちはプロです。失礼ながら七草先輩くらいじゃないとどうにもなりませんよ」

 キャノン・おかっぱ両先輩が渋面で黙り込んだ。

 そりゃ、御当人に御出馬して貰う訳にいかないし、あの人クラスなんて、この学校にいやしない。

 ぎゃふんですね。おっと年齢が…。

 

 それから会話は弾まなかった。私達の所為じゃないぞ。

 

 

 

 

               10

 

 :美月視点

 

 帰る時に深景さんが話してくれたことは驚かされた。

 それに深景さんは凄く怒ってた。

 別に私や吉田君に怒ってる訳じゃないのは分かってるけど、なんとなく話を聞いて貰いたくてエリカちゃんに通信を送る。

 呼び出し音が鳴り、暫くするとエリカちゃんは出た。

 エリカちゃんは帰ればお稽古で忙しいみたいで、滅多に出てくれない。

 だから、出なくても仕様がないと思っていたけど、意外に早く出てくれて通信した側なのにビックリしてしまいました。

『どうしたの?』

「あっ!御免ね!疲れてるのに」

『いいよ。何かあった?』

 私は問われるままに、帰りにあった遣り取りを詳細に語った。

 エリカちゃんは黙って最後まで聞いてくれた。

『そりゃ、深景も怒って当然でしょ』

「……」

『達也君の身体は夏休み見たでしょ?あれは普通じゃないよ。当然、深景の実力もね。ああなるには当然あった子供としての時間を全て犠牲にしないと駄目だよ。それなのに頭ごなしに、お前に力があるんだから助けるのは当たり前、なんていわれたら気分悪いでしょ。私でもキレるよ」

 達也君も深景さんも確かに色々できる。

 正直、あんまり器用な方じゃない私は羨ましく思っていたけど、エリカちゃんの言葉は物凄い量の努力の話だった。

『資質だけじゃ、実力は磨かれないよ。どう使うかは二人の自由よ』

 心のどこかで、二人が妬まれるのは当たり前だって思ってしまっていました。

 エリカちゃんの言葉を聞いて、私は恥ずかしくなってしまい。

 お礼をいって、しどろもどろで通信を切った。

 

 私も二人のお友達だもの。もっと努力して変わっていかないと駄目だね。

 

 

 

 

 

 




 この話は、私が思っていたことを深景が代弁したような形です。
 人物視点の書き方忘れてたことに気付き、一部修正しました。
 大した違いなんてないんですが…。
 深景が何故ココと友人なのかとか、何を作ろうとしているのか想像しながら読んで頂ければと思います。
 次回もいつになるか不明ですが、お付き合い頂ければ幸いです。



 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。