司波家の長女は何をする?   作:孤独ボッチ

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 やっと書き終わりました。
 相変わらず時間が掛かってますが、更に時間がズレ込んでおります。
 それではお願いします。


 


横浜騒乱編4

               1

 

 :周視点

 

 とある料亭に私は足を運んでいた。

 面倒と思わないでもありませんがね。

 襖を開けると、そこには存在感のあり過ぎる二人が座って、こちらをジロリと睨み付けるように見た。

「申し訳ありません。お待たせしまして」

 私は、それに一切反応する事なく微笑んだ。

 実際、可愛いものですしね。顔を除いては。

「いえ。我々も今来たところです」

 素っ気なくもう片方の陳閣下が答えた。

 私の知り人も陳閣下なので紛らわしいですね。

 まあ、この場には一人しか居ないのでよしとしますか。

 それにしても、武器商人をしている方は、にこやかに対応してくれていたんですがね。尤も目が笑っていませんが。

 こっちは始終仏頂面ですね。

 答えが返ってくるだけマシですかね。

 もう一人など、口を開く気配もありませんしね。喋りたい訳でも、声が聞きたい訳でもありませんがね。

 陳閣下が、早速話を切り出す。

「周先生。例の少女は失敗したようですが」

「ご懸念は理解していますよ」

 私は神妙に頷いて見せた。

「情報の漏洩を気になさっておられるのでしょう?ご安心を、こちらの情報は元々与えていませんので放って置いて大丈夫でしょう」

 私の言葉に陳閣下が胡散臭そうにジロリと睨む。

「それでよく納得して協力出来るものですな」

 陳閣下が猜疑心の籠った視線を向けてくるが、私は真実を言っている。

「あの年頃は、色々言い聞かせるよりも話を聞いてやる方が有効なのですよ。面倒な時期ではありますが、誘導するのには簡単なのです」

「ほぅ。そんなものですか。周先生がそう仰るなら大丈夫なのでしょう。ただし、万が一が起こらないようにして頂きたい」

「勿論です。近いうちに様子を見てきましょう」

 私は二人からの探るような視線を無視して微笑むと、呼び鈴を振り料理を運ばせる。

「ここの料理もなかなかのものですよ」

 私は微笑みながら、そう言った。

 

 二人の視線が和らぐ事も、私の笑みが崩れることも最後までなかった。

 

 

 

               2

 

 お粗末な逮捕劇から翌日の昼休み。

 私達は食堂にいた。

 相変わらずの深雪が歩くと人が左右に分かれて道を開けるモーセ現象があったりはしたが、まあ、いつものことだ。

 いつもと違うことがあるとすれば…

「そういえば、エリカと西城君は、まだ教室ですか?」

 ほのかがなんの意図もなく、呟くように達也に訊いた。

 まあ、私達いつでも昼休み一緒って訳じゃないからね。

 居なくても、特に珍しいってことはない。ここ最近は特に私と達也が忙しいし。

「特に連絡はきてないけど、このまま休みだよ、あの二人は」

 達也もなんの気なしに答える。

 学校には連絡してるだろうけど、私達にはなんの連絡もない。

 な~にやってんでしょうね?(白々しい)

 ほのかの目が乙女の輝きを宿す。

「二人で、ですか?」

「ああ、二人揃って、ね」

 達也が意味有り気に不敵に笑う。

「意外って…感じじゃない、かな?」

 雫も無表情系女子ではあるが、その目は好奇心に満ちていた。

 九校戦で、それなりに付き合ったから私にも分かるよ。

 美月は真っ赤になって狼狽えており、深雪はそれを呆れた目で苦笑いを湛えて見ていた。

 そこが美月クォリティだからね。ツッコんだらいかんのよ。

「そ、そんな素振り…なかったけど?」

 美月の狼狽え振りが伝染したのか、幹比古君も顔を赤らめてボソボソとコメントする。

「昨日、二人で帰っていたしな…」

 達也が悪い笑みを貼り付けて呟く。

 深雪は苦笑いするだけで、何もいわない。

「本当はどうして休んだんでしょうね?」

 美月と幹比古君の狼狽振りに満足したのか、ほのかがアッサリと本題に戻す。

 ほのかもそれを分かってて、喜ぶあたり女の子だねぇ。

「そうだね。あの二人が病気ってことはないだろうし」

 雫が無自覚に二人をディスった。

 二人だって病気ぐらいするでしょ。病気なんて無縁でしょ?みたいな発言止めて上げなさい。

「それはいい過ぎだが、確かに昨日二人が体調を崩している様子はなかったな」

 達也が流石に若干憐れに思ったのか、少しフォローした後真面目な発言をする。

 幹比古君も賛成とばかりに頷いていた。

「勿論、ただの偶然ってこともあるだろうけど…」

「偶然じゃない可能性もあるよね?」

 ほのかと雫が話題をまた戻してきた。

 美月と幹比古君が敏感に反応し、顔を赤くする。

 息ピッタリじゃない。そのまま付き合ったら?爆発しろ。

「でも、偶然じゃないようなことが起こる余地が、あの二人にあるかな?」

「それこそ可能性はあるんじゃない?」

 ほのかと雫が楽しそうに他人を肴に盛り上がっている。

 美月も雫の意見に同意するように頷いていた。

「でも二人で何をやっているのかしら?」

 遂に深雪まで悪乗りし出した。

 お二人が茹蛸になりそうですよ。爆発しろ。

「二人共、何を想像してるの?」

 深雪が意地の悪い問いをする。

 二人はやはりしどろもどろに別に…といった反応。

 何考えてたか、モロバレです。いいんだよ。年頃なんだから。爆発しろ。

「まあ、想像に過ぎないが、案外レオがエリカにしごかれてるんじゃないか?」

 達也は、美月達がイジリ倒されているのが憐れになったのか、苦笑いで正解をいった。

「ありそうですね!お兄様」

 深雪がアッサリと達也に乗っかり賛同した。

 そこからは別の話題に緩やかに移行していった。

 

 まあ、あの二人が付き合うとしたら、甘々な恋人同士には、まずならないだろうね。

 案外あのまま悪態を吐きつつ一緒にいるような気がする。

 

 そして、レオ君はエリカにしごかれた上に、エリカの裸体をもう少しで見るところまでいったそうな。

 何故、知ってるのかって?

 通信で盛大にエリカが喚いていたからだよ。

 

 レオ君、惜しかった…いやご愁傷様です。

 

 

 

               3

 

 土曜日。

 それは惰眠を貪れる日。ではない。

 朝から生臭坊主の寺に私達家族(家族に宿六夫婦は含みません(注))は赴いていた。

 勿論、説法を聞く為ではない。訓練の為だ。

 発端は生臭坊主こと八雲先生が、射撃訓練場をリニューアルしたから遊びに来ない(意訳)?といったことだった。

 それで折角だからと達也が家族を引き連れて来たという訳だ。

 まずは深雪から。

 可愛らしい悲鳴と気合の声が漏れるが、結果は微妙な感じだ。

 得意分野じゃないから仕様がないんだけどね。

 なんか動き回って髪が乱れていたので、私が手櫛で直してやる。

「ありがとうございます、お姉様」

 若干顔を赤らめて礼をいう深雪を見てると、感慨深いもんだね。

 昔の話しをしたから、そんなことを考えちゃうよ。

「お姉様?」

「いや、なんでもないよ」

 考えごとをしてた所為で深雪に怪訝な顔で見られてしまった。

「じゃあ、次は私かな?」

「そうだね。先に試して」

 追及を逃れるように達也に声を掛けて、自分のCADを取り出し開始地点へ立つ。

 レディ・ゴー!

 私は敢えて動き回りながら標的を撃ち抜いていく。

 勿論、足を止めたまま殲滅することも可能だけど、それは流石に達也達にも見せられない。

 八雲先生もいるしね。

 軽い運動だと思えばいい。

 適当に標的を一つ二つ見逃し、惜しくもパーフェクトならずといった形に持っていく。

 そして、フィニッシュ。

「流石お姉様です!息一つ乱しませんね!」

 まあ、刀振り回す戦闘スタイルだからね、普段は。これくらいじゃビクともしませんよ。

「もう少しでパーフェクトだったのに惜しいねぇ」

 八雲先生の目が怪しく光っている。

 見抜かれてそうだけど、別に直接見られなければいい。

 見られてもどうとでもなるけど。

「しかし、あの意識の隙間を突くような意地の悪いアルゴリズムは誰が組んだんです?」

 達也が八雲先生に尋ねる。

「風間君に貰ったけど、誰が組んだかまではねぇ?」

 すっ呆けたことをいう八雲先生に、達也が溜息を吐く。

「真田さんですね」

 モロバレですね。あの人くらいだろう。

 深雪も眉を寄せている。機嫌が宜しくなさそうだ。

 恥を掻かされたと怒っているのかもしれない。

 達也の目の前でだったし。

 達也はそれを察したのか、深雪の頭をそっと撫でる。

「それじゃ、二人の仇は俺が討とう」

「頑張って下さい!」

 達也が流石の貫禄で開始地点に立つ。

 立ったままそのまま動く気配がない。

 シルバーホーンも前に構えたままだ。

 開始の合図と共に標的が現れる。

 それを達也は視線すら動かさずに引き金を引き続ける。

 それだけで、次々と標的が打ち落とされていく。同時に幾つもの標的を照準できるからこその芸当だ。

 一つのミスもなく当然のようにパーフェクト。

 深雪が大喜びで達也を褒め称える。当然、私も流石だね!みたな感じで乗っかった。

 

 二人が独特な空気を発して、余計なことを口走ろうとしたけど私が止めたよ。

 この二人の秘密なんだからさ。不用意なことをいうのは止そうよ。

 

 

 

               4

 

 射撃訓練場から出て、八雲先生の庫裏へと案内された。

 これは忠告があるね。

「君達も色々とやることがあるだろうから、手短にいこう」

 単刀直入、結構ですね。

「珍しい物を手に入れたみたいだね?」

「預かった物ですか」

 達也がアッサリと応じる。

 八雲先生は分かってていってるんだろうから、惚けても無駄だろうしね。

「できる限り早く返すべきだろうね。それが無理ならキチンと保管できる場所へ移した方がいい」

 達也が他人には分からないレベルで強張る。

「狙われているのは、やはりあっちの方でしたか」

 達也は八雲先生の方へ完全に身体を向けると、礼儀正しく礼をしてからそういった。

 まあ、学会誌にも取り上げられるとはいえ、学生の研究成果に他国のスパイが本腰入れるなんて考えられないもんね。

 もっと研究費用とか費やしてる研究狙う方がいいでしょ。

「かなりの手練れだよ」

 八雲先生が目を更に細めていった。

「何者なのか…は訊いても無駄でしょうね」

 達也のセリフに、八雲先生が笑う。

 肯定ですね。分かります。

「助言はしておこうか。方位を見失わないように気を付けるんだよ」

「方位?」

 深雪が呟くが、八雲先生はそれに何も答えず微笑んだままだった。

「ここからは流石にね…高いよ?」

 笑みの質が変わる。

 ここからは報酬を貰うってことね。

「先生」

 私はダメ元で声を掛ける。

「うん?何かな?」

「魔法を使う狙撃手に心当たりはありませんか?凄腕の」

 私は追尾弾を相手に立ち回ったことを話した。

 八雲先生は、笑みを引っ込めて頭をポリポリと掻いた。

「ああ、それね。最近、活躍してるみたいだけどね。正体はまだ掴めてない。残念だけどね」

 うん?これは本当っぽいな。

「立て続けに暗殺を熟しているから、僕等も気にはしていたんだ。だから、近いうちに分かると思うけど…」

「高いんですね?」

「勿論」

 私と八雲先生は、同時にはっはっはと笑った。

 

 ケチ臭いな。まあ、自分で調べるよ。いつも通りに伝手も頼って。

 

 

 

               5

 

 まあ、あれから幹比古君がコンペ会場の警備隊に志願してぬりかべに襲われたり、美月が幹比古君に揉まれたりしたが特に何もなく時は過ぎていった。

 え?意味が分からない?気にする必要ないよ。知らなくても問題ないし。

 

 私達はというと、バイクを走らせていた。

 達也のバイクには後ろに深雪がしがみ付いている。

 その後ろを私がマイバイクで追う。

 実は、FLTに向かっている最中です。

 目的は、ヒスママが持ち込んだ(私が押収した)ブツを八雲先生の忠告に従って返す為だ。

 私はチョロチョロ移動させるのは反対だったんだけど、達也が安全第一にいきたいっていうものだからね。仕方がなくてね。

 そして、返却先はヒスママのところではなく、アフロのところだったりする。

 因みに、ヒスママにはいっていない。面倒だから。

 本来であるなら休憩などしなくてもラボまで向かうのだが、達也は早朝からオープンしている全国展開してる喫茶店へと入った。

 私も当然入ったよ。

 まあ、用件は分かっているんだけれども。

 席に着くと、コーヒーのみを人数分注文する。

「尾行が付いている。姉さんは気付いているだろ?」

 達也は唇を殆ど動かさずいった。

 勿論です。どこか適当なとこで墜落して貰おうと考えていました。

「車ですか?それともバイクですか?」

 それらしいものに気付かなかった深雪は、平静を保った振りをしつつ俯き加減で尋ねた。

「鴉だ」

 達也が簡潔に答えた。

 向かいの建物にジッとこちらを窺う怪しい鴉の姿が見える。そっちは見ないけど。

 怪し過ぎんだよ、飛び方といい、止まった姿といい。ワザとかね。

「使い魔ですか?」

「九校戦の時のものとは質は落ちるけど、化成体だよ」

 そういやあったね。今は何もかもが懐かしい。

「姉さん。どこの国のものか判別できるかい?」

「多分、大陸系だね。そこまでくると大亜連合の可能性大」

 達也の問いに、私はアッサリと答えた。

 癖があちらのものだから、原作知識関係なくほぼ当たりだと思うよ。

「それでは、今回の相手は…」

 深雪は、過去の記憶が呼び覚まされたのか、険しい顔付きになった。

 それは達也もだけど。

「一応、報告して置こう。それとは別に、このままラボまで連れて行きたくない」

 達也がチラッと深雪に目配せする。

 私がやる訳にもいかないしね。

「お任せ下さい」

 深雪は、出されたコーヒーを両手で掴み口元を隠しつつ、冷たい声音で請け負った。

 達也が無言で深雪に手を差し出すと、若干顔を赤らめて深雪がコーヒーカップをソーサーに置くと達也の手を取った。

 

 そして、化成体は無へと返った。

 

 

 

               6

 

 結局あれから何事もなくラボに到着。

 アフロよ!私は勝手にお邪魔している!

 開発第三課のラボは、いつもならある出迎えはなく大変忙しそうだった。

 どうやらハッキングらしい。

 アフロが冷静に指示を飛ばしている。

 ここのセリュリティも私が弄ったんで、早々破られやしないよ。

 ウィルスを送り込んだり、それを囮に侵入を試みたりとなんでもやっている。

 ただし、本当に突破してやろうって気がない。

 私は、勝手で申し訳ないが、オペレーターの一人と席を代わって貰う。

 勝手は今に始まったことじゃないけどね。

 猛烈な勢いでコンソールを操る。

「こりゃ、御曹司に御前来てたんですかい」

「それは後にしましょう、牛山さん。手を止めては駄目だ。モニター続行!」

 挨拶しようとするアフロを止めて、達也が鋭い声を上げる。

 チラッと私の方を見るのも忘れない。

 まあ、前回拠点をサッサと捨てられたから、今回も駄目だと思うけど探査ウイルス送り込みますかね。

 と、見せ掛けてハッキング。

 気付かれたけど、できる限り情報をぶん取ってこよう。

「姉さん、どう?」

「今、できる限りデータをぶっこ抜いてるとこ」

 ラボの面々の顔が引き攣るのが分かる。

 コラ!君達、引かないように。

 おっと、強制的に回線切断。しかも物理。

 まあ、いいか。ゴミみたいな情報しかないだろうけど、手ぶらじゃないし。

「目的は何だと思う?」

 達也の問いに、アフロも真剣な表情で私の回答を待っている。

 アフロにしてみれば、よく分からない攻撃だもんね。

「あの化成体と関係があるんじゃないかな?偶然の一致というにはね」

「化成体ってどういうこってす!?」

 私の話に危ない単語が飛び出し、アフロの声が思わず大きくなる。

 達也と深雪が、掻い摘んで先程の出来事を教えてやるとアフロは唸り声を上げて黙り込んだ。

「ま、総合的に考えて持ってきたヤツに興味があるんでしょ。持ち帰るのが無難かな」

 ラボにカチコミされても困る。

 どこまで当てになるか分からないからね、ここの警備員。

 

 まあ、持ち帰りましたよ。

 

 

 

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 :陳視点

 

「拠点の放棄は?」

「滞りなく済んでいます。抜かれたデータも当然大したものではありません」

 そこから読み取れる情報で、こちらの居場所を特定されるようなものではないという報告に密かに胸を撫でおろす。

 あまりハッキングで手を出さない方が利巧だと認めなければなるまい。

 あちらには、電子戦においては達人がいるようだ。

 やはり、現地工作員を使い捨てていく方がいいだろう。

「これからどう出ると思う」

 副官であり、有能な将である呂剛虎に問うてみると、彼はただ一言不明であると告げてきた。

 彼は武人であり文官ではない。この手の問いに武骨な答えが返ってくることは分かっていたが、自分の考えを纏める為に問うたようなものであったから気にしない。

「まあ、逆に攻められたのは気に食わんが、それはよかろう」

 こっちの人的損害がないのなら挽回は可能だ。

 本国からは資金を無駄遣いしたと嫌味をいわれる可能性はあるが。

「不穏なことが起こる場所に、貴重な品を置くのには躊躇するだろう」

「論理的に考えれば、その通りでしょう」

 呂の返答は簡潔だった。

 彼は万夫不当の武人ではあるが、猪武者ではない。

「そうだな。なかなか腕が立つようではあるが学生だからな。持ったままであることに不安を感じるかもしれない。その時は改めてラボから情報を奪うまでのことだ」

 呂が無言で肯定する。

「出て貰うことになるだろう」

「お任せを」

 即座に頼もしい返事が返されることに、内心笑みを浮かべる。

 その前に…。

「周が、例の小娘に面会に行くようだ。消しておけ」

 誰をとはいわない。呂には分かるだろうからだ。

「是」

 呂は短くそういった。

 このような漢に些事をやらせるのは気が引けるが、この漢を出すのが最適解なのだから仕様がない。

 

 何か別のことで、報いることにする。

 

 

 

               8

 

 案の定、FLTでぶっこ抜いたデータはゴミで使えなかった。

 拠点も既に証拠隠滅済みで放棄された後だった。腹立つわ。

 そして、予想通りに平河姉から妹の情報を達也が得た。

 当然の如くハッキングだ。やっぱり、あの姉妹仲が悪いだろう。妹を庇うような発言もなかったそうだし。

 

 そんな些事があったが、作業は進めないといけない。勿論、コンペの作業ね。

 その日は雨が降っていた。屋外でお化け電球を使った作業は出来ない。

 屋内でやるのも無理じゃないが、他にもやることがあるから、そっちをやろうってことになった。

 私は達也の作業を少しばかり肩代わりすることになり、ロボット研究部に赴いた。

 前世でのロボットではなく、もっと本格的なやつだよ。

「お帰りなさいませ」

 メイドロボことピクシーがお出迎えしてくれた。

 声とかまだロボットだけど、それと継ぎ目とかなければまんま人間と変わらない。

 凄い技術だ。既製品だけど、ロボット研究部が自前で違法改…カスタムしたそうだ。

「一年E組・司波深景」

 警備もやってるから、登録がないと排除される。摘まみ出されるだけだけど。

 僅かなタイムラグがあった後に、深々と頭を下げる。

「只今、コーヒーをお持ちします」

「どうも」

 反射的に返事してしまったが、それにピクシーは反応せず給湯室へ向かった。

 こういう融通の利かなさがロボットだよね。

「サスペンドモードで待機」

 コーヒーがくれば、ピクシーにやって貰うことは特にないからね。

 ピクシーは、命令を受諾すると所定の椅子に腰かけた。

 それを見届けると、私は作業を開始した。

 既に達也が組んだ魔法式の動作試験だ。

 それくらいなら、私でも協力できるからね。達也には次の作業に手を出して貰っている。

 無言でチェック作業を継続する。

 単調な作業の所為か、眠気が襲ってきた。

 いかんな。コーヒーを一口…ってそんな訳あるかい!

 催眠ガスだね。あの落書きみたいな顔の使い捨て工作員2号の仕業だね。分かります。

 自身の魔法特性でガスのみを遮断し、自分の周りのガスを無力化、ガスの影響を浄化して無力化した。

 バレなきゃいいんですよ。使ったって。

「空調システムに異常発生しました。マスクをお使いください」

 一向に動かない私にピクシーがガスマスクを差し出す。 

 趣味人だな、ロボット研究部。今の時代には有り得ないくらい古さだよ。機能は問題ないんだろうけどさ。

 持ってきて貰って悪いけど、要らないんだよ。

「角膜への汚染が発生する可能性があります。外へ誘導します」

 手を差し出して貰って悪いけど、要らないんだよ。

「換気システム強制起動。私は大丈夫だから、救助の為の入室は許可して。貴女は待機しといてね」

「かしこまりました」

 即座に換気され、ガスが室内から抜けていく。

 ピクシーが椅子に戻ったのを確認し、私はドッキリ作戦を実行することにする。

 机に突っ伏して落書き工作員を待つ。

 そして、ターゲットが接近してくる。

 ピクシーが、落書き工作員をガン見しているのが分かるが、見送っているので放置。

「司波?」

 CADで人をツンツン突いてくる。

 往年のギャグ漫画に出てくる汚物じゃないんだから、そう人を突くもんじゃない。

「眠っているのか?」

 残念、狸寝入りだわ。

 眠っていると誤認した落書き工作員は、まんまとハッキングツールという証拠物件を取り出し、接続しようとする。

 CADは片手で保持したままだけど構わないよね?怖い助っ人が到着したし。

 はい、お疲れ様です。

「関本先輩、そこで何をしてるんです?」

 そこにタイミングよくキャノン先輩の声が掛かり、落書き工作員はハッキングツールを握り締めたまま振り返ってしまう。

「どうしてここに!?」

 パニックだとしても、自供といってもいいレベルで失言してるね。

 それでもキャノン先輩は、まだ先輩扱いしていた。

「警報を受信したからですよ。関本先輩は、何故ここへ?手に持っている物はなんですか?」

「俺も警報を、受け取ったから手助けに来たんだ。風紀委員だしな。これは端末だ。データが失われないようにバックアップをとってやろうと思っただけだ…」

 いやぁ~、苦しい言い訳ですわ。

 明らかに普通の通信端末じゃないし、警報は風紀委員にはいかずに警護を担当している生徒にいくんだよね。

 頑張ったけど残念。

「ハッキングツールを端末といい張る積りですか?で?警報を受信したんでしたか?どうやって?」

「い、いや!ち、近くに…」

「誰もいないですよね?もう、いいんじゃないですか?関本勲。CADを床に置いて」

「じょ、冗談はよせ!俺は助けに来たんだぞ!」

 往生際が悪いな。

 そんなことを思っていると、キャノン先輩も同じ気持ちなのか、私の方を見た。

「あの司波君のお姉さんだものね。証拠もおさえてあるんでしょ?」

 何故か、嫌そうにキャノン先輩が私に声を掛ける。

 私が貴女に何をしたというのか。

「ま、まさか!」

「ええ。起きてますよ」

 私はムックリと上体を上げて、落書き工作員を見た。

「警報は手動で届いたんですよ。警報は切られてたみたいですね。おまけにガスまで流したみたいですけど無駄でしたね。この姉弟がこのくらいでダウンする訳ないじゃありませんか」

 酷いいわれようだな。

「証拠は記録してありますよ。投降した方がいいと思いますよ?」

 落書き工作員はワナワナと震えていたが、突然私に飛び掛かって来た。

 なので、遠慮なく迎撃した。

「ただパンチ」

 気合もへったくれもない声と共に右の拳を唸らせる。

 顔面に拳がめり込む。

 喜べ、今のお前の顔は3秒じゃ描けない。

 手からハッキングツールとCADが落ちた。

 魔法に頼らなかったのは評価するけど、相手の力量を見誤ったのは頂けない。

 キャノン先輩にピクシーが記録した映像を引き渡してやったのに、ジト目で睨まれた。解せん。

 かくして落書き工作員は、キャノン先輩に引き摺られて退場した。

 

 キャノン先輩の、やっぱりコイツもダメだわ的な目が気になり涙した。

 

 

 

               9

 

 何やらお姉様が彼氏と病院デートをして、虎に襲われたらしい(平河妹の入院している病院に見舞いという名の尋問をしに行った)。

 ベッタリと七草さんが張り付いているから理由を訊いたら、そんな答えが返ってきた。

 流石に虎とはいわなかったが、危ない奴に襲われたっていってたし、時期的にあの残念な虎のことだろう。

 お前は虎になるのだ…。

 私も影分身で相手したけど、タイガーな仮面のレスラーの方が強そうだ。

 いくらなんでも冗談だけどね。

 それにしても平河妹め、生き残りやがったか。

 そういえば、平河姉が妹から強奪したデータは、達也が電子の魔女さんに引き渡した。

 私がやってもよかったんだけど、2度も補足できないというケチが付いているからね。

 原作パワーに任せてみることにした。天狗さん達にも花を持たせないといけないだろうしね。

 因みに、電子の魔女さんは、本物の魔女として男を誑し込んでいるところだったようだ。

 源田さんが知ったら怒りそうだよね。間違いなくキレる。

 まあ、私の所属は独立魔装大隊だから、いう訳にいかないけどね。

 

 そんなこんなでエリカとレオ君が復帰した頃には、表向き事件は鎮静化していたりして。

「まあ、犯人は捕まったから取り敢えず安心だろう」

 達也が無情にもそんなことをいったが、幹比古君は納得していない表情だね。

「バックが不明じゃない。これで終わりとは思えないわよ」

「まあ、そうだな。まだ騙されてる連中もいるかもしれないしな」

 折角の習得技術の出番がないのが納得できないエリカとレオ君が、真剣な表情でそれぞれコメントする。

 確かにまだ終わってないけどね。

「やっぱ、本人に訊いてみたいよな」

 レオ君が不満気にいった。

「偶にはいいこというじゃない。締め上げましょう」

 エリカが物騒なことを宣う。

「でも、エリカちゃん…。関本先輩は…」

「分かってるわよ。特殊鑑別所にぶち込まれてて、簡単に面会できないっていうんでしょ?」

 美月がいい難そうにいったが、エリカは不機嫌そうに理解していると告げる。

「大丈夫よ。話を聞く手段なんて幾らでもあるんだから」

 エリカがまるで犯罪者のようなコメントをする。

 いやいや、アンタ一応は警察官とか国防軍とかに強い家柄でしょうが。

 一番いっちゃいかんヤツでしょ。

「いや、普通に手続きすればいいんじゃないのか?」

 達也が冷静にツッコミを入れる。

 エリカが不満そうに黙り込んだ。

 レオ君も今の発言には、かなり引いていたから安堵の表情を見せた。

 幹比古君やら美月があからさまにホッと息を吐いていた。

 

 まあ、今のエリカだと本気でやりかねなかったからね。

 

 

 

               10

 

「ダメ」

 風紀委員長であるキャノン先輩に私と達也で、落書き工作員の面会を許可して貰おうと出向いたんだけど、返答がにべもない先の返答だった。

 エリカとレオ君が乗り込むよりマシだろうと思ったが、やっぱりダメか。

 どうやら、私も達也同様にトラブルホイホイだと認定されたようだ。

「理由を…」

「ダメなものはダメ」

 達也のセリフも遮って拒否するキャノン先輩に、流石の達也も困り顔だった。

「門前払いでは納得できないのですが」

 シャー!とでも威嚇しているキャノン先輩に、どうにか達也がそれだけは伝えた。

「あのね!自覚がないようだからいってあげる!貴方達はトラブルメイカーなのよ!この忙しい時に何を好き好んで自ら厄介事を増やす必要があるのよ!ここは行かせないがベストなの!」

 あまりのどストレートの発言に私も達也も絶句する。

 え?そこまでいうか。

 だが、そこに救世主は降臨した。

 扉が開き、二人の人間が入って来た。

 お嬢様とお姉様である。

「流石に、いい過ぎだぞ。達也君達も、それこそ好き好んでトラブルに巻き込まれている訳じゃないんだからな」

「「……」」

 苦笑いでフォローした積もりのお姉様を無言で見る私と達也。

「ま、まあ、私達も同行するから許可して貰えないかしら?あーちゃん…いえ、生徒会長にも私から許可は取る積もりだし」

 引き攣り気味のお嬢様が、慌てて話を進める。

 サッサと話を打ち切らないと私達が、何をするか不安になったんだろう。

 本格的に私等の評価を問い質したくなったぞ。しないけど。

「まあ、七草さんと摩利さんが、そういうなら…」

 明らかに嫌々承諾してくれた。

 心配しないでいいよ。キッチリ片付けてくるから!冗談だけども!

「そういう訳だ。流石にエリカ達を連れてはいけないから、その積もりでいてくれ」

 まあ、4人でも多いくらいだものね。

 

 そんなことで人生初の鑑別所へと向かうことになった。

 

 

 

 

               11

 

 :陳視点

 

 傷を負って帰還した呂に不覚にも驚きを顔に出してしまった。

 失敗に終わったことは既に知っていたものの、この漢がこれ程の傷を負うとは思わなかったのだ。

 イレギュラーな事態が起きようとも対処できる人選だったが、私の予想を超えていたようだ。

 まさか妖刀鬼が出てくるとはな。

 呂は、再襲撃を望んだが却下した。

 再襲撃の際に呂を襲ったイレギュラーが現れれば、下手をすれば討ち取られる事まで有り得る。

 妖刀鬼には相応のダメージを与えたようだから出てこないだろうが、これであちらは警戒するだろう。

 優先順位は高くない案件だ。無用なリスクをこれ以上負う必要もあるまい。

 この案件でハッキリと分かったことは、やはりあの優男は信用できないということだ。

 流石に妖刀鬼がいたのは偶然だろうが、周の優男が呂を助けたのは偶然ではない。

 おそらくは奴が動いたからこそ、妖刀鬼に気付かれて失敗したのだ。

 これは指揮官である私のミスだ。

 あの優男に介入のチャンスがある状態で、呂を送り出してしまったのだから。

 故に呂に責任を問う気はない。

 それよりも、目下の問題に対処しなければならない。不甲斐ないことだがな。

「我々の協力者であった関本勲が当局の手に落ちた。収容先は八王子特殊鑑別所だ。こちらを優先して始末しろ」

「是」

 病院と違い、特殊鑑別所は魔法師を収容する。よって警備は病院の比ではない。

 そして、今回はあの小娘と違い、関本はこちらと繋がりがあった。

 対処しない訳にはいかない。

 困難な状況での任務となる。それにも拘らず、呂の顔に一切の表情はなかった。

 ただ淡々と拝命したのみ。

 

 今度は、こちらで足を引っ張るようなことがないようにせねばなるまい。

 

 

 

 




 病院での戦闘やエリカがレオを鍛えるシーンは原作通りなので省略しております。これで上巻はあと少しのところまできました。
 しかし、後半は苦手分野がてんこ盛り。
 頑張ります。

 それでは次回もかなり時間が掛かると思いますが、お付き合い頂ければ幸いです。



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