司波家の長女は何をする?   作:孤独ボッチ

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 随分お久しぶりです。漸く七転八倒して最新話です。
 それではお願いします。


 


横浜騒乱編7

               1

 

 少々派手に血が飛び散ってスプラッタなテロリスト掃討を行い、VIP会議室へ移動している途中のこと。

「それにしても、エリカは面白い物を持ってきているな。鞄に入らないだろう?」

 移動しながら達也がエリカの得物について言及した。達也にしてみれば、本当に気になっていたことを訊いただけだろうけど、未だに顔色が優れない非戦闘系の友人達の気が少しは紛れるかもしれないなぁ、と友人たちを見守る。

 エリカもちょっとやり過ぎたと思ったのか、少し大袈裟に得物を掲げて笑って見せた。私に次いでエリカのやり方が刺激的だったからね。勿論、マイブラザーもだけどね。

「うん。このままじゃ入らないけど、こうすると!」

 エリカはまるで手品でもやるみたいに勿体ぶった手付きで、柄尻のスイッチを弄る。するとあっという間に短い棍棒みたいなものに変形した。

 達也がそれを見て感嘆の声を上げる。本気で感心しているね、こりゃ。そのうち、このギミックも何かに取り入れそうだね。

「凄いでしょ?来年に警察に納入する形状記憶棍刀」

 非戦闘系の友人達も感心したみたいで、目を丸くして棍刀を見ていた。気が紛れたみたいで結構です。

 それで思い出したけど、千葉家ってこういうのも造ってるんだったっけ。

 エリカの家がココと同業だったとはね。

 そんな下らないことを考えている間に、VIP会議室に到着した。

 達也が雫に目を向けると、雫は承知したとばかりに前に出て暗証キーを入力していくと、アッサリと扉が開いた。

 いや、役に立ってるからさ、突っ込むべきじゃないと分かってるんだけどさ。かなり重要な情報を娘が勝手に見れる状況にして置くって、どうなのよ。いいんだけれども。

 そして、アクセスコードを入力すれば、本来学生程度が知ることが許されない情報が表示された。

 海岸線だけじゃなく、所々にゲリラ戦が繰り広げられているみたいだね。人員も本格的に投入されている。

 大規模な陽動と、本命の海岸からの上陸部隊。まあ、臨機応変にそこら辺は変わるんだろうけどさ。

「酷でぇ…」

「何よ、これ…」

 レオ君とエリカが思わずといった感じで声を上げる。もう以下略。

「どうなさいますか?」

 深雪が冷静に問い掛けてくる。ホント、どうしようかね。

 少なくとも、CADオタ達は地下通路が使えないから地上から移動するしかないけど、この状況なら原作より敵とのエンカウント率が高い。

「船…もなんだか安全とは言えなさそうね」

 エリカが目を細めて戦況を示したモニターを見詰めて呟くように言った。

 達也も無言でエリカに同意する。

「状況は見ての通り悪い。だが、すぐにでも動く必要がある。国防軍も事態を把握して動き出しているだろうが、到着までこっちが持たないからな。海もエリカの言うように危険が伴うし、何より乗れるか怪しい。加えて交通機関も動いていない」

「となるとシェルター…になるのかな」

 雫が珍しく眉間に若干の皺を寄せて、窺うように達也を見た。頼りになる人物の意見を仰ごうというのは合ってる。

「地下通路は敵と迎撃の魔法師で芋洗いだぜ?」

 レオ君も腕組みしつつ意見を述べる。済まんかった、原因の一端は私です。どっちにしろ使えないんだけれどもね。

「ああ。だから上から行く」

 達也は簡潔に結論を口にする。

 方針が決まったことで非戦闘系の友人達は、ある意味ホッとしているようだね。動かずにジッとしてるって辛い時があるからね。

 だがしかし、ちょっと待ってね。

 私は敢えて達也が承知している事項を口にした。このままだと、私空気だし。嘘だけど。

「お嬢…七草先輩達はデモ機のデータ処分し終えてるかな?でも、他の学校のまで手が回ってないかもだし」

 私は、達也の方を見ながら他校のデータも物理的に処分してこうぜ、と提案する。達也は自分でも言おうとしていたことだからか、考えることなく同意した。

「そうだね。敵の目的に、入っているかもしれないしね」

 ラッキースケベ幹比古君が、気付いていなかったとばかりに悔しそういった。完璧主義の気がある彼には忸怩たるものがあったんだろうけどさ、気にせんでいいのに。

 だが、ここで意外な人物が声を掛けて来た。

「お前達もまだ避難していないのか?」

 いや、接近には気付いていたから意外でもないんだけどね。本当は。

 

 そこにいたのは、ぬりかべと助さん格さんよろしく控えているカンゾウ君と沢木のお兄さんだった。

 

 

 

               2

 

 うん。なんというか、辰巳の親分と違って沢木さんは体操のお兄さんって感じだよね。

 暑苦しいぬりかべから目を逸らし現実逃避する私。ってそんなことしてる場合じゃないんだけどね。

 三人共、完全武装って感じのボディアーマー着用だった。見たところ怪我はなそうだね。

 それにしても、何故アンタがVIP会議室に?っていうのも可笑しくないか。この人、正真正銘のVIPだったわ。

「十文字先輩!」

 ラッキースケベ幹比古君が直立で姿勢を正す。うん。訓練で随分と可愛がられたんだな。勿論、薔薇的な意味でなく、物理的に。

 達也が、そんな幹比古君を横目にしっかりと答える。

「今は七草先輩達がデモ機を処分している最中です。我々は想像以上の事態が進行中の為、情報を収集してから動く為に彼女の伝手でここへ。ついでに他校のデモ機やデータの処分も手伝おうかと。十文字先輩も情報を収集しに?」

 立て板に水な説明にぬりかべもニッコリですよ。実際は強面のままだったけどね。

 ぬりかべはといえば、重々しく頷くといつも以上に圧のある声でいった。

「まあな。丁度よかったかもしれん」

 既に情報を表示したモニターに御老公一行…もといぬりかべ一行は視線を向けて顔を強張らせる。ただし、一名は顔色が変わらないものとする。

 暫く重い沈黙の後に何事もなかったようにぬりかべが口を開いた。情報を整理していたんだろうとわかっていても、この圧よ。

「シェルターへの地下通路からの敵は退けたとはいえ、中条達に使わせる訳にはいかなかったのでな。護衛を付けて地上から行かせる積もりだったのだ。悪いがお前達も参加して貰う」

 ああ。そう変化しますか…。確かに敵があれだけ湧けば、遭遇戦を予測するのは容易だからね。あとどれだけいるかも分からないのに、オタ達を突撃させられないよね。それに他校も方針が随分異なるみたいだし、協力してって訳にもいかない様子。

「他校は、足を用意しているからな。幾つかの学校で固まって戦力を集中して一点突破する積りの様だからな。こちらに手を貸せとはいえん。あっちも大変だからな」

 そういえば、三校はバスで来てたっけ。沓子は大丈夫かね。まあ、若様とかショタジョージとか一色さんとか居るから大丈夫か。

 問題は近い一校の方針。地上ルートでシェルターを目指すとなると、戦闘不可避なのは当然のことで奇襲で撃たれでもしたら大変。魔法師も人間です。撃たれれば死にます。最悪の場合は、達也か私が治すしかないけど、それは最終手段。

 多分、どうにかはなる…筈。

 だってねぇ。真田さんが玩具を持って近くまで来てる筈だしね。

 

 それからなら魔装大隊から護衛だしてくれるよ…きっと。

 

 

 

               3

 

 ぬりかべが出て来たので、丁度いいやとばかりにお嬢様達が撤退しているかチェックしに行くことにしたんだけど…。

 それが…まだ居たのです…。

「あら、深景さん!」

 お嬢様が笑顔で出迎えてくれましたよ。流石の達也も若干呆れ気味です。

「で?何やってるんです?」

「何って…デモ機のデータを処分してるのよ?」

 私の質問に簡潔に答えてくれるお嬢様だが、ここは一校のデモ機が置いてある所じゃない。そんな何いってんの?みたいなリアクションされても困るわ。デモ機の処分に向かうとはいっていたけど、他校もついでにやっちゃおうぜ☆は、この非常時に止めて欲しかった。私と達也で物理的に破壊で良かったんだよ。衆人環視の中やるようなことでもなしに。しかも、原作組の殆どが居残りしてんじゃないの。

「じゃあ…私達も手伝おうか?」

「そうだね」

 私の提案に達也が素っ気なく頷いた。折角、簡単に済まそうと思っていたのに、衆人環視の中じゃ達也の魔法が使えない。私は…切断でいいんだけどね。

「そうね。予想以上に時間を食ってるしね」

 お嬢様が唇に指を当てて、考えながらいった。それ、素でやってます?あざといと思いますよ。可愛いと様になるよね。

「十文字君。皆をもう出発させて。こっちはまだ時間が掛かるから、待ってもらう訳にはいかないわ」

「護衛の手が足りないのだがな。確かにここも放置はできんか…」

 ぬりかべが腕を組んで唸っている。その姿は、もはやオッサン。しかも、重役クラスの圧を持つ。

 ここで私も助け船を出す。

「護衛に付いていなくても戦える人間はいるでしょう。どうせ、一科生が大勢を占めてるんですから、普段威張っている実力を発揮して貰えばいいのでは?」

 その言葉に友人の一科生も困り顔。いや、魔法特性や向き不向きがあるのは知ってるけど、選り好みできる状況じゃないでしょうに。命が懸かってる以上、頑張って生き残りましょう。無い袖は振れないんだからさ。戦えなくても補助くらいはできるでしょ。

「流石に、それはちょっと…」

「いや、ない袖は振れないだろう。なんとかそれで乗り切るしかあるまい」

 おかっぱ夫先輩が苦言を呈するが、それをとんでもない圧を放つぬりかべが意外にも支持してくれた。

「大丈夫なの?」

「それ以上の良案がなければ、これ以上話し合ったとしてもただ時間を浪費するばかりだ。殿として俺が周りの敵を片付けつつシェルターまで行く」

 心配そうな声を上げてますが、居残ってる貴女も私と同じようなもんだから。オタ達の護衛をしてないという点に関してだけどね。そしてナイスフォローだ、ぬりかべ。

「まあ、心配なら次の行動にサッサと移りましょう」

 私の提案に全員が頷く。一部渋々な態度なのはご愛敬というところでしょうか?

 

 それぞれに行動を開始して、時間を早回し。

 いや、サッサと片付けただけだしね。特に語ることはないよ。

「早かったわね」

 打ち合わせた集合場所である会議室に到着した早々にキャノン先輩から疑惑の眼差しが向けられる。心外な。

 きちんと処理してきたとも、達也が魔法で。私が物理的に。

 因みに既にオタ達は行動を開始しており、カンゾー君と沢木のお兄さんを筆頭に地上ルートで駅シェルターへ向かっている。ここには桐原の兄貴や紗耶香先輩も含まれている。

 ぬりかべは、宣言通りに殿兼囮として戦っているようで、外で断続的に爆発音が響いております。

「首尾は?」

「全て片付けてきましたよ」

 お嬢様の問いに私は簡潔に答えたけど、キャノン先輩は半眼で睨んでくる。何故でしょうか?

「どうやって?」

 キャノン先輩は睨み付けたまま、私に問い質すようにいったけど、私は良い笑顔で口に指を当てて見せた。

「花音。魔法師に術式のことについて尋ねるのはマナー違反だよ」

 夫たるおかっぱ先輩が窘めるようにいった為、キャノン先輩は口を噤んだ。まあ、引き下がってくれるなら別にいいんだけどね。

 そこでお姉様が無駄話は終わったと判断したのか、険しい顔で前に進み出て集まった皆を見回し重々しく口を開いた。

「さて、これからの我々の方針を考えよう」

 お姉様が宣言すると、今度はお嬢様がモニターの状況を指し示しながら説明を始める。

「現在、湾内に侵入した敵艦は2隻。東京湾にも敵艦が確認されているようで、横須賀から海軍が動いて敵艦への対処と救出船の手配、護衛を行うみたい。本格的な動員は、まだまだこれからみたいだけど。上陸部隊とゲリラがどの程度いるか正確な数は不明だけど、こちらの予想を大きく上回るでしょうね」

 地上の惨状を示すモニターをみつつ、お嬢様が溜息を吐いた。だが、すぐに気を取り直して説明を再開する。

「海岸付近は敵の勢力圏と考えて動いた方がいいわね。交通機関は当然の如く麻痺」

「彼等の目的は、侵略…という訳ではなさそうですが…」

 おかっぱ先輩がお嬢様に遠回しに目的を尋ねる。

 まあ、こっちは原作を外してないでしょ。

「推測だけど…侵略にしては規模がお粗末だし、メインは情報なり貴重な品の奪取ってところじゃないかしら。となると、横浜にしかないものの可能性が大きいわね。正確には京都にもあるけど」

「魔法協会支部…ですか」

 お嬢様の言葉でキャノン先輩が正解をいい当てる。

「そう、正確には魔法協会支部内にあるメインデータバンクでしょうね。重要データは横浜と京都で一括管理しているから」

「まあ、侵略者の目的の推察もいいが、我々の行動をいい加減決めて動かないとな」

 どこまでも真面目に考察を進めようとするお嬢様とおかっぱ先輩を制して、お姉様が声を上げる。

 お嬢様が苦笑いでお姉様に謝った。おかっぱ先輩も顔を赤くして頭を下げた。

「船の方は案の定湾内の敵艦の攻撃で足が止まっているようですね。元々キャパ的に私達は乗れそうにありませんけど」

 市原さんが冷静かつ淡々と現状を告げる。

 原作だと救助船を攻撃してないんだよね。描写されてないだけかな?大亜連合にとって日本国民なんて殺してもなんとも思わない相手だろうに。目的に集中していたから、余計なことはしなかっただけなのかな?

「地上からシェルターへ向かったあーちゃん達は、どうにかハンゾー君達が頑張ってくれてるお陰で順調みたいね」

 お嬢様が通信端末片手にオタ達の現状を教えてくれる。

 それを受けて、全て今段階で決断すべきと感じたのかお姉様が再び口を開く。

「状況としては聞いての通りだ。シェルターがあとどの程度の収容が可能か未知数だが、現実的な選択としてはシェルターへ後追いするべきと考えるが、どう思う?」

「賛成です」

 お姉様の結論にすぐにキャノン先輩が肯定の声を上げるが、誰からも否定的な反応は返ってこなかった。

 まあ、船には確実に間に合わないし、原作と違って脱出に危険がかなり伴いそうだしね。取り敢えず民間人逃がそうっていう姿勢は立派だけど、これって戦力の逐次投入の典型なんじゃ…。

 だが、若干一名程空気が読めていない子がいた。マイブラザーである。いや、私は理由判ってるんだけどね。他の子からしたらさ、何もない壁ジッと見て固まってたらポカンとなるでしょう。しかし!私はお姉ちゃんです!フォローしようではないか!

 私は素早く達也の肩に手を置く。達也はこっちを一瞥しただけで、すぐに視線を戻す。だが、こっちの要求には的確に答えてくれた。

 私にも見えるぜ、硬化魔法を使って突っ込もうとするトラックと…ミサイルが飛んできますがな。大変なことですよ、これは!それが六発ほど飛んできます。原作にそんなもん突っ込んでこなかったでしょうが!

「達也!ミサイルの方を!私はトラックをやる!」

 達也は答える代わりに、シルバーホーンを空から突っ込んで来ようとするミサイルを照準する。

 私はトラックに切断を使用する。

 何やらお嬢様が何かいっているが、今は返事する余裕はない。

 食らえ!何もやらせない鮮やかな魔法を!

 トラックに関係するエネルギーを切断すると、冗談みたいにトラックが停止して動かなくなった。運転手であるやさぐれたポパイみたいな人が必死にアクセルを踏んでいる姿が見えるが、無駄な努力だ。動かないと悟ったのか、すぐに諦めてトラックに積載した爆発物を遠隔点火しようとするが、そっちも爆発のエネルギーを切断させて頂きまーす。おお、焦ってる焦ってる。じゃあの。私は止めにやさぐれポパイに向けて切断を放った。うん、終了だね。

 達也の方も遠にミサイルを分解していた。

 そして、原作通りに見られちゃった私達。マルチスコープで一部始終を見られちゃってましたね。

 因みに外では、敵さんに危険兵力と判断されたお陰で、御代わりのミサイルが飛び交っております。それに伴いぬりかべが奮戦しております。そして、ぬりかべ何故戻った?お嬢様、そっちも気にしてやってね。

「達也君…今のは?それに深景さん、今の魔法はどういうこと?」

 やっぱり私達に話がいきますよね。

 達也、舌打ちは止めなさい。聞こえないと思うけども。

 それにもう大丈夫そうだし?

「説明は詳しくはできませんが、その理由はもうすぐ判明すると思いますので」

「どういうこと?」

 私の説明にお嬢様が少し険しい顔で問い質すようにいったけど、こういうことです。

「お待たせ」

 扉から響子さんがやたらとセクシィな軍服姿で現れ、軽く挨拶してきた。この人が着れば、なんでもセクシィになるだけか。

 流石に面識があったのか、お嬢様が驚いてる。

「響子さん!?」

「お久しぶりね、真由美さん!」

 

 響子さんは、ホント軍人とは思えない笑顔で答えた。

 

 

 

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 :十文字視点

 

 敵の眼をできる限り引き付ける。適した仕事だ。

 粗方潰したが、散発的な攻撃がまだ仕掛けられている。それを丁寧に潰していく。ファランクス本来の使用法で。

 そろそろ中条達の後を追うとしよう。

 敵影が見えず感じられなくなった為、移動しようとしたまさにその時、ミサイルが飛んでくる。咄嗟に防御しようとしたが、それより早く魔法の気配を感じて足を止めた。未知の魔法によりミサイルが一瞬にして消失した。

 好奇心を優先するなど、この現状において愚かな行いだ。それが分かっていても足は勝手にそちらに向いていた。これも何が起きたか確かめる為と自分を偽ってだ。まあ、服部や桐原達が付いているのだ。少し遅れても問題はないだろう。

 高速移動で走り抜け、その場に到着する。ミサイルは粉塵ゴミと化していた。こんな魔法の使い手に心当たりがない。そこに更にミサイルが飛来する。目標に着弾しなかった為だろう。当然のことながら敵の偽装戦闘艦から放たれている。

 条件反射で多重防壁を構築し防ごうとするが、こちらにとって幸運なことにミサイルは横合いからの攻撃により対処された。魔法で全てのミサイルを受け止めていたら、こちらの負担は大きかっただろう。

「スーパーソニックランチャーか…」

 衝撃波の発生源に目を遣ると、軍用車両から上半身を出したままの軍人がミサイルランチャーに似たものを担いて、こちらに向かってきた。傍で車を停止させると、軍人はソニックランチャーを軍用車両の中に置くと、車両から飛び降りて目の前で敬礼する。一見すると軍人に見えない程、穏やかな笑みを浮かべた人物だった。人を食ったような笑みであるのが透けて見えるものではあったが。

「101の方ですか」

 ソニックランチャーなどという最新鋭の装備を持つ部隊の心当たりを思わず口にしていた。

 軍人が笑顔を浮かべたままであったが、目を細めた。気配が若干変化している。迂闊な発言だったか。

「国防陸軍第101旅団独立魔装大隊大尉・真田繁留であります。我らのことをご存知とは流石は十文字家ご当主」

 若干不覚にも反応してしまった。しかも、それを相手に悟られただろう。自分もまだまだということか。素早く気持ちを切り替える。

「失礼。お互い言葉の選択には気を付けなければなりませんな」

「こちらこそ失礼しました」

 こちらが頭を軽く下げると、鋭い気配が消え元の穏やかだが人を食ったような笑みに戻った。服部達が居なくて助かった。このような無様を後輩に晒さずに済んだな。

「恐れ入りますが、十文字家次期当主殿、同道願えますか?」

 ここらの敵は片付けただろうが、中条達を追わなければならず、ほんの僅かだが返答が遅れた。

「ああ。護衛や侵略者への対処は既に手配済みです。ご安心ください」

 こちらの状況は遠に把握済みという訳か。噂に違わず優秀な部隊らしい。

 真田大尉が視線を外すと、その先には蜘蛛のような小型戦車が並んでいた。

「君達は、彼女に指示して貰った方がいいかな」

『そうですねぇ。他の人達、僕達の扱い雑過ぎますし』

 真ん中にある戦車が喋った。特に珍しいものではないが、必要な機能なのだろうか?それどころか他の戦車も喧しく一斉に部隊員への不満を漏らし始めた。こんな色物まで配備しているのか。

「こらこら、次期当主殿が困惑しているじゃないか。取り敢えず指示があるまで、邪魔が入らないようにしててくれよ」

『『『『『『りょ~かい!』』』』』』

 それだけいい残して四方に散っていった。

「それでは参りましょうか」

 真田大尉は、何事もなかったかのように笑顔で歩き出した。

 最後まで、どこに何の目的で案内されるのか説明されなかったが、無駄話ではないだろう。

 それに後輩達の護衛の手配も済んでいるなら、問題もないだろう。

 

 珍しく自分の好奇心が刺激され、言い訳染みたことを考えて黙って付いて行った。

 

 

 

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 勿論、響子さんオンリーな訳もなく、後ろから偉そうな天狗が登場した。

「特尉、情報統制は一時的に解除されています」

 響子さんが厳かに告げたた為に、私達は困惑したような小芝居を止めて敬礼した。

 そこでタイミングよくぬりかべが登場。原作通りって感じだ。

 ぬりかべを含めた全員が何やってんの?って感じの顔で私達を見る。ただし、深雪は除くけどね。事情知ってる身内だしさ。

 済まんな皆、普段は普通の学生、だがその実態は!非常勤軍人である!因みに特別技能保持者に与えられる特別な階級なのだよ、特尉っていうのは。

 私達が敬礼したことを確認して、天狗さんがぬりかべに視線を向ける。

「国防陸軍少佐・風間玄信です。所属に関しては口にできませんのでご容赦下さい」

 ああ、ぬりかべは知ってるから、他の子に喋んなってことね。

「師族会議十文字家代表代理・十文字克人です」

 ぬりかべは空気を読んで、自己紹介の身に留める。

 天狗さんは、軽く一礼して私達とぬりかべが見える向きに変える。

「藤林。現在の状況を説明して差し上げろ」

「はい。我が軍は現在、保土ヶ谷駐留部隊が侵攻軍と交戦中、鶴見・藤沢から各一個大隊が当地に急行中。横須賀から海軍が救出船及び護衛。海上戦力に対処すべく本格的な動員を掛けているとのことです。魔法協会関東支部も独自に義勇軍を結成し、自衛行動に入っています」

「ご苦労」

 天狗さんは、響子さんに一言いうと、私と達也に鋭い視線を向ける。

「さて、特尉。現下の特殊な状況に鑑み、別任務で保土ヶ谷に出動中だった我が隊も防衛に加わるよう、命令が下った。国防軍特務規則に基づき、貴官等にも出動を命じる」

「ちょっと待って下さ…」

「国防軍は皆さんに対し、特尉の地位について守秘義務を要求する。本件は国家機密保護法に基づく措置であると理解されたい」

 お嬢様が何やらいい掛けたが、天狗さんが人睨み&厳しい口調で遮ることによって黙らせる。流石の貫禄にお嬢様も黙らざるを得なかったようだね。いわずもがな他の面子も何もいえずに黙り込む。

「特尉。君達が設計したムーバルスーツをトレーラーに準備してある。行こう」

 ぬりかべを連れて来た真田さんが、良い笑顔で私達を出口へと促す。さては、早く自慢したいんだな?あれから変な変更してないだろうな?真っ裸じゃないと装着できないように戻してたら斬るぞ?

 達也が真田さんの催促を受けて、友人達に向き直る。

「済まない。聞いての通りだ。皆は一緒に避難してくれ」

「特尉。皆さんには私と私の隊が同行します」

「少尉。ありがとうございます」

 達也の言葉に、響子さんが気遣いで皆を護ってくれるといってくれた。まあ、確か原作でも同行してくれてるから大丈夫…かな?

 それとは別に、私は確認しときたいことがあった。

「ありがとうございます。それとタチコマは、どうしてます?」

「今は、周辺を警戒させています。ウチだとアレを使いたがる隊員が少ないですから」 

 そう、タチコマは魔装大隊では不評なのだ。あのふざけたような性格だからかね。そういや原作の方の少佐もあの子達の扱いに頭を悩ませている回があったな。それに近い理由かな。労働の概念がないからね、あの子達。

「じゃあ、タチコマ達もオ…生徒会長達の護衛に加えて貰えますか」

「分かりました。手配して置きます」

 響子さんがアッサリと了承してくれる。設計した人間としては悲しいね。人間相手には滅茶苦茶強いんだけどね、タチコマ。

「では、少尉。お願い致します」

 達也が私の用件が済んだとみて、一言だけいうと出口に向かって歩き出した。

 

「お待ち下さい。お兄様」

 

 その時、深雪が思い詰めたような表情で達也を呼び止める。ああ、あれだね。

 深雪が、ゆっくりと達也に歩み寄る。

 達也も用件を察したのか、騎士のように跪く。

 深雪が、少し躊躇うように動きを止めて、眼を閉じてその時を待つ達也を見詰める。

 待ってあげたいんだけどね。

「深雪、戦況が差し迫ってる」

 私の口から出た厳しい言葉に、深雪の肩がビクッと震える。

 達也の頬に触れずに、ただ真っ直ぐに達也の額にキスをする。想いは完全に消し去れるものではない。でも、いずれそうなればいい。だって、どんな理屈を捏ね回そうと二人は兄妹なんだから。

 達也が主人公覚醒イベントで本来の力を取り戻す。

 周りの友人達はポカンとして、その様を見ていた。致し方ない。

 でも、演出がカッコイイな。スーパーサイヤ人みたいで。一瞬そう見えるだけだけど。

「御存分に」

 深雪が優雅な仕草で貴族みたいな礼をする。

 それを見て、達也は微かに微笑む。

 

「征ってくる」

 

 私もカッコイイ覚醒イベントやりたいもんだけど、それは流石にね。だけど、今回は演出が必要だ。

「深雪。これを預かってて」

「「っ!!?」」

 達也と深雪の顔が強張る。やっぱりそう予想してたよね。私は神妙な顔を崩さず、心中でほくそ笑んだ。甲斐がある。

 私が手渡したものは、眼鏡だ。

「姉さん!」

「お姉様!」

「大丈夫。あの時より成長してるから」

 嘘はいってないよ、嘘は。

 それにアレを使うと、デメリットまで激しいから後遺症に悩ませられるのも事実だ。こればっかりはどうにもならない。二人の心配もある意味当然といえる。

 そして、成長しているのも事実だ。自分の特典を過信していた、あの頃とは比べ物にならないくらい成長した。今度は、きっと大丈夫だ。()()()()()()()()()()()()()

 友人一同が、頭に?マークを浮かべていそうな顔をして、こっちを見ているが二人にそれを説明するゆとりは存在してないね。

 私は、深雪の頭を撫でてやると、微笑む。

「征ってくる」

 ちょっと達也を真似ていってみたが、深雪のウケも友人一同もノーリアクション。すべったか。

「はい。ご武運を」

 深雪は、祈るように言葉を掛けてくれた。

 私はそれに手を振って応える。

 ちょっとすべったけど、まあ、こんなこともあるさ。

 

 そう自分を慰めて、達也に続いて部屋を出て行った。

 

 

 

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 :中条視点

 

 続々と他の学校がバスで出て行くなか、私達は徒歩でシェルターへと向かうことになりました。

 どうして、こんなことにとか、何がどうなってるのとか、色々な言葉が浮かぶけど、今は私が生徒会長。真由美さんに後を託されたからには、私が真実は頼りない存在であっても胸を張っていなければならない。少なくとも無事に普通の学生生活に戻るまでは。

 いつ銃弾が飛んでくるかも分からない状況で、歩く皆の顔も強張っている。

 それでも散発的に仕掛けられるゲリラと思しき敵は、服部君をはじめ護衛担当の一科生がなんなく撃退している。他の一科生も防御を担当したり、援護したりと活躍している。特筆すべきは、二科生である壬生さんの存在。彼女は魔法が不得意にも拘わらず、そんなものは関係ないといわんばかりに二本の小太刀で敵を斬り伏せ、投げては敵を無力化していた。それを苦々しい顔で見ていた桐原君の顔は印象に残りました。彼は最後まで彼女の参戦に反対していました。気持ちが分かるとはいいません。でも、なんとなくくらいは分かるのです。御免なさい。戦力は少しでも欲しい時なんです。私も彼女の参戦に賛成した身です。綺麗事だけでは前に進めない。そんな事態を自分が味わうとは思いもよりませんでした。

 服部君が魔法で蹴散らし、沢木君が舞うような体術で敵を無力化し、十三束君が小さいからを流れるように動かし、銃弾を躱しつつ接敵し敵を仕留めていきます。桐原君も大昔の時代劇フィルムの主役みたいに敵を斬り伏せています。

 勿論、私や他の一科生もサポートに徹して邪魔をしないように気を配ります。でも、消耗がいつもより激しい。当然のことなんでしょうけど、これは早いところシェルターへ行かないといけません。

 そんな時、建物の陰から銃口が覗いているのを、偶々私が見てしまいました。声を上げる間もなく銃口から火が吹く様が幻視されました。対魔法師の高速弾です。視認する間もなく誰かが引き裂かれたでしょう。幸い護衛の一科生も気付いていましたが、どうも間に合いそうにありません。

 眼をぎゅっと瞑った私でしたが、それはアッサリと防がれました。魔法の障壁によって。えっ?と声を上げる前に迷彩服の大人達が私達を援護する位置に付き。手にした銃で敵を撃ち倒していきます。

「国防軍!!」

 服部君の声で漸く私も何が起きたのか把握しました。

 素早く国防軍の一人が私の傍まで、周辺を警戒しつつ寄ってきます。

「遅れて済まない。シェルターまで誘導する」

「は、はい!」

 思わず私は安堵した。これで助かる確率が飛躍的に上がる。

「助けて頂いたのは感謝するが、どこの所属…」

 服部君が再び口を開くが、それに答える前に黒い影が複数着地した。

 国防軍の軍人さん以外、思わず一瞬身構えてしまった。

 そして、着地した影は、陽気な声で言った。

『さ~ん上!!』

 軍人さんが揃って渋い表情を浮かべて、それを見ていました。味方…のようですね。

 それは小型の多脚戦車でした。それも思考型。こんなの開発されていたんですね!新しい物が大好きな私は思わず目を輝かせてしまいます。

「こ、これは…」

『タチコマです。僕達が来たからにはもう安心ですよ!』

 服部君の呆然とした声に、多脚戦車は気取った口調で答えました。

 三本の指?の一本を立てて振る姿は、どことなくユーモラスなんですが、大丈夫なんでしょうか?この子達。

 

 軍人さんの顔が渋面に磨きがかかっていたのが印象的でした。

 

 

 

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 :真由美視点

 

 外に出て、シェルターへ向かおうとしたけど、響子さんが残念そうな顔で近付いてきた。

 また、トラブル発生かしら?少し身構えてしまったけど、内容は大した話ではなかった。響子さんには悪いけど。

 曰く、全員が車に乗れない。

 元々徒歩で向かう予定だったから、別にいい。寧ろ、護衛が付いてくれる分、有難いくらいだ。

 響子さんが私に話し掛けたのは、私が顔見知りだったからだと思う。決して、十文字君の年齢詐欺みたいな圧の所為じゃない…多分。

 避難先の確認をされたけど、一応十文字君に確認を取る。

「予定通り、シェルターでいいわよね?」

「そうだな。それが現実的だろう」

 即答で返事が返ってきた。こういうところは本当に頼もしい。だけど、気になるのは彼がらしくないくらいに考え込んでいる点だ。その答えはすぐに知れることになったけど。

 護衛態勢について響子さんから説明された後、早速行動しようとした時だった。

「藤林少尉殿」

 ただ一人動かなかった彼が、響子さんを呼び止めた。

「なんでしょうか」

 響子さんも何か感じるものがあったのか、反応が早かった。

「勝手ながら、車を一台貸して頂けないでしょうか」

 その一言で彼が何を考えているのか、私にも分かった。彼は一高生と私達の安全が担保されたと考えて、次に自らが責任を果たすべき場所へ行こうとしているのだ。

 だが、車は二台しか使えず、私達全員が乗れないというのは、輸送すべき武器弾薬を含んで私達を車で運べないといった意味。それは十文字君も理解しているから勝手ながらっていったんだ。

「何処へ行かれるのですか?」

 響子さんも分かっていて訊いている。部下に彼の返答を聞かせる為に訊いているのだと分かる。

 一瞬、私も行くべきかと考えた。父は、そんな役割は望んでいないだろうから、余計にその考えが頭に浮かんだ。何処かで戦っているであろう彼女のことも、少し頭に浮かんだのは否定しない。

「魔法協会支部です。私は代理ではありますが、師族会議の一員です。魔法協会の職員達も義勇軍を結成して抵抗しているのでしょう?ならば、私は責任を果たさなければならない」

 十文字君の年齢に全くあっていない覚悟が、言葉として紡がれる。若造の言葉とは信じられないくらいに重々しく決然とした声に、軍人達も反論の声を上げない。見たことがないくらいに歴戦の雰囲気を漂わせた軍人達も彼を侮れない。

 その段階で私は馬鹿な考えを引っ込めた。父の反発で彼の覚悟を穢してはいけない。

「分かりました」

 響子さんは、アッサリと了承した。彼女は始めから許可する気だったんだろうから当然かもしれないけど。

 響子さんは了承しただけでなく、自分の隊から護衛を二人付けた。これには流石の十文字君も困惑顔だった。年相応な顔に私も少し笑ってしまった。直後に凄く圧のある視線を向けられたけど、素知らぬ顔で明後日の方向を見て誤魔化した。

 彼は、溜息を吐くと二人の護衛と共に走り去った。だけど、彼の最後の視線に皆を頼むというものも含まれていたことには気付いていた。

 任せて。ちゃんと全員で帰るから。

 私は、走り去る彼を見ずに心の中で応える。

「それでは行きましょう。時間を無駄にはできませんから」

 響子さんは颯爽と歩き出した。

 

 皆無事だと良いんだけど。

 

 

 

               8

 

 :将輝視点

 

 警備隊が解散され、各校で避難・撤退を行うことになった。まあ、固まって大所帯で移動すれば目を引くから、学校単位でやるしかないだろうが、これでも数がまだ多い。だが、これ以上、実戦経験のない魔法師のみを当てにして行動させるのは危険だ。

 だからこそ、俺の口から思わず愚痴が零れる。

 もう辺りは戦場だ。対魔法師の高速弾が飛び交い、爆発が断続的に発生している。ゲリラの仕業だろう。

「なんだって、こんな離れた場所に…」

「そういう場所の造りなんだから仕様がないでしょ!」

「若、口より手を動かして下さい」

 俺の思わず漏れた愚痴に、即座にジョージと奈津が優しさの欠片もない言葉が飛ぶ。

 俺だって理解はしている。だが、いわずにいられないことだってあるだろう?

 別の学校の連中や、近いが故に徒歩になっている一校の連中は大丈夫だろうか。一校には十文字さんや七草さんがいるからまだいいが、他の学校はどうなっているやらだ。他人の心配をしている場合じゃないが、俺の頭に一人の女性が浮かぶ。傍にいない自分が心配しても仕様がないことも承知しているが、どうしても考えてしまう。

 ゲリラを蹴散らしながら、バスへと慎重かつ迅速に向かう。今のところ強敵はいない為に問題はないが、そろそろ集中するべきだろう。

 バスの無事も祈らないといけないな。などと考えたのが悪かったのか、バスが見えてきたまさにその時、ロケット砲が冗談みたいなタイミングで飛んできて、バスの近くに着弾する。爆発。

 不幸中の幸いというべきか、着弾が後部付近だった為、運転手は無事だった。だが、バスのタイヤが無事でいられなかったようだ。

 思わず舌打ちしたくなるのを我慢して、飛び出していく。バスを護らなければならない。それには、これが最善だ。奈津もすぐに追い掛けてくれる。彼女の魔法で飛んできたロケット砲は、悉く爆発する。奈津の魔法だ。

 対象の内部を破壊することに特化した魔法師。魔法の精密照準。座標設定を得意とする。所謂、古式の寸勁を現代魔法として確立した家だ。奈津の場合は衝撃波を内部に設定してミサイルを内側から破裂させている。

 ジョージは、阿吽の呼吸で俺と奈津から離れ、他の生徒や教員に今後の行動を進言しに行った。

 俺と奈津は、敵の只中へ飛び込んでいく。

 俺も奈津も敵を蹂躙していく。彼女は、俺の初陣に付き合い従軍した実戦経験のある魔法師だ。背中を任せるに不足はない。

 問題は、やる気のある同級生や先輩だな。もう位置取りを開始して攻撃を始めそうな勢いだ。今は数が少ないが増えてきたら厄介だ。

 

 ジョージ達がバスのタイヤを交換するまで、俺達で敵を釘付けにする。

 

 

 

               9

 

 :真夜視点

 

 アンティークを模した受話器を置く。

 やはりといえばやはりという通信だった。達也さんと深景さんを使うという国防軍からの要請でした。勿論、答えは是。国防も我々十師族の役目ですものね。風間少佐からも通信があった。義理堅くて結構なこと。

 思わず、笑みが口元に浮かんでしまう。

「軍からですか?」

 近くに控えている執事である葉山さんが口を開いた。いつもは影のように気配を感じさせない人だけど、訊ねてくるなんて余程気になったのね。

「ええ。今の進行中の事態解決の為、とね」

「宜しかったのですか?達也殿は兎も角、深景殿まで駆り出して万が一がありますと…」

 私は思わず声を出して笑いそうになって、慌てて口元を押さえた。そうそう、葉山さんは知らないんだったわね。いえ、葉山さんだけじゃなく、軍でさえ自分が何を使っているのか理解していない。もしかしたら、私でさえも本当の意味で、あの子を理解していない可能性もあるわね。

「心配は要らないわ。葉山さんが危惧するような事態にはならないわ」

「達也殿も深雪様の護りを最優先である以上、万全ではないのではありませんか?」

 達也さんの誓約は葉山さんも知っている。それに深雪さんには劣るとはいえ、深景さんにも達也さんの護りは及んでいる。とはいえ、深雪さんが最優先であるのは変わらない。だからこそ、葉山さんは恐れている。深景さんが戦死でもしようものなら、最悪の暴走を達也さんがするのではないかと。深雪さんもそれを止めないのではと。

 でも、前提が間違っているのよね。

「そうね。そろそろ葉山さんにも話しておこうかしら」

 葉山さんは、もう長いことウチに仕えているし、仕事に関しては信用できる人ですしね。

 葉山さんも無言で話の続きを待つ。

「深景さんが沖縄で暴れたという話は流石に聞いているでしょ?」

「はい。比喩でなく斬り捨てた人間の血で沖縄が紅く染まったとか」

「ええ。これを軍は、あの子の魔法と剣腕とみた。それも間違いじゃないわ。でも、もっと大きな要因があるのよ。かの天狗といわれる程の魔法師でも勘違いしているのだから仕様がないけど」

 私は、あの時の光景を思い出して笑みを深くする。

 血に染まった大地に、大量の死を前に哄笑する紅い少女。

 この世の終わりのような風景。夢のような美しい風景。

「あの子はね。四葉が目指す魔法の到達点にいるのよ」

 私は決定的な言葉を発する。

 葉山さんは、表情こそ変えなかったものの驚愕したことは伝わった。彼にしてみれば、考えられない程の失態と考えているでしょうね。

「父ですら、死神の刃(グリムリーパー)がやっとだった。それが四葉の最高到達点だった」

 達也さんの魔法に関しては、姉さんの答えであって四葉の答えではない。寧ろ深雪さんの魔法の方が四葉の答えに近いくらいでしょう。

「でも、あの子は生まれながらに到達したのよ。死神の領域にね。神にしか見通せない世界へよ?勿論、欠点はあるけど、それは改善していけばいい話だもの」

 このことに関しては、気付ける人間の方が稀だ。何しろ、現象的に見れば魔法との併用でやったとしか見えない。達也さんでさえ、見通せないもののようで正体がハッキリしないようですしね。間近で見たにも拘らずね。

 私も映像が残っていなければ、気付かなかった。姉さんには、この点では感謝しなければね。地獄というものを覗き込んだ私だからこそ気付けるものもあるのだと、あの時悟ったものよ。父の魔法研究を間近で見ていたのが他ならぬ私であったのも関係しているでしょうけど。

 だから、あの子が実戦はやるのは大歓迎。やむを得ない事態となれば、あの子は絶対に手札を切る。

 さあ、見せて頂戴。貴女がどれだけの存在なのかを。

 今度は、私が映像を手配したから特等席で観戦しないと。

「まあ、ゆっくりと見物しましょう。もしかしたら、葉山さんにも異常さが理解できるかもしれないわよ?」

 私の言葉に葉山さんが黙って軽く頭を下げる程度の礼をする。

「ああ、そうそう。達也さんは大亜連合で摩醯首羅なんて呼ばれているそうだけど、深景さんがなんて呼ばれてるか知っているかしら?」

「いいえ。把握しておりません」

 まあ、そこまで重要な情報ではないですものね。でも、知ると笑ってしまう。

「あの子はね…」

 

 私は、ある神の名を口にした。

 

 

 

               10

 

 独立魔装大隊の大型装甲トレーラーに真田さんに先導されて到着する。

 中に乗り込むと、ムーバルスーツが並んでいる。う~ん。趣味の世界ですな。全くもってクソッタレな事態だけど、少しテンション上がるわ。

「どうかな?特尉。要望はクリアしてると自負しているけど」

 真田さんが鼻の穴を膨らませて自慢げにいった。

 うん。凄い凄い。

「流石ですね。脱帽です」

 達也が素直な賞賛を送ると、更に嬉しそうに何度も一人頷いている。こういう時のこの人は、実に子供っぽい。私もタチコマ再現した時は喜んだもんだよ。他の連中には不評だったけど。

 私と達也は、インナー姿になるとムーバルスーツの横に設置してあるスイッチを押すと装甲部が開いた。背中をくっ付けるように立つと、システムがオートで装着してくれる。

 装甲以外の場所が布のようなもので覆われ、サイズが調整される。これで装着完了だ。

 うん。カッコイイじゃないですか!特撮ヒーローっぽくて!(異論は認める)

 私は腰に刀を二本装着し、達也はシルバーホーンを二丁腰のホルスターへセットした。

「問題ないようだね」

 装着後の私達を見て、真田さんが満足気に大きく一つ頷いた。

「ええ。注文通り…それ以上ですね!」

 私はニッコリですよ。

 真田さんは、失礼にも苦笑い気味。

「防弾、耐熱、防刃、緩衝、対BC兵器、それにパワーアシストも完璧だ。深景君に提供して貰った装甲で防御も底上げされているしね。当然、飛行ユニットもベルトに仕込んである。緩衝機構を組み合わせて射撃時の反動相殺で空中での射撃も問題ない」

「お見事です。想像以上の装備に仕上がったようですね」

 真田さんが良い笑顔で解説を締め括ると、達也が手放しで褒める。いや、私が褒めると苦笑いで達也が褒めると笑顔ってどういうことですか、貴方。

 まだ、続けそうな真田さんに天狗さんが口を開く。

「真田。そろそろいいだろう」

 天狗さんが圧を強めて、達也と真田さんの無限褒めループを断ち切る。

 そんな圧を受けたのに、笑顔で平然と頷く真田さん。メンタル強いですよね、貴方。

「早速だが、大黒特尉は柳の部隊と合流。白崎特尉はゲリラの掃討へ参加せよ。

「柳大尉の位置はバイザーに表示されるようになっているよ。ゲリラの掃討を行っている部隊の位置も同様だ」

 天狗さんの言葉の後に、真田さんがすかさず情報を追加する。

「「了解」」

 私達は揃って敬礼すると、二人揃ってトレーラーの外へ出た。

「姉さん。何かあれば必ず交信してくれ」

「分かったよ。ありがとね。でも、大丈夫」

 私は先にベルトバックルを叩き、飛行ユニットを起動させ、空へと飛び上がる。達也も一瞬遅れて空へ上がってくる。

「それじゃ、また!」

「分かった。気を付けて」

 達也の気遣いが伝わってくる。

 自らに課した誓約を一部解除してやる。

 私は達也から十分に距離が離れたタイミングで心中でキーワードを呟く。

 

 インストール…。

 

 その瞬間、久しぶりの凶悪な衝動が私を突き動かそうとするのを、精神力を総動員して抑え込むと、腰の刀を二本とも引き抜く。

 唐突だが、私の天眼もなんでも有りではない。制限が存在している。凄まじいまでのチートは、大体情報を読み出しても、そう簡単に使用できないようになっている。有り体にいえば文字化けしていて再現する為には、研究と実験が不可欠なのだ。にも拘らず、今使っている力は私の魔法特性と相性がいい所為か、何故か使用することができた。これこそ文字化け案件だろうと思うんだけどね。これと同じ作品に出てくる他のチートは揃って文字化けだったのにさ。

 沖縄の時は、私はいざとなればなんでもできると思っていた。そう願ったんだから当然だ。再現しようとした魔法は、ホイホイできたのから、余計想勘違いしてしまった。でも、今は違う。

 インストールが完了する。

 私の眼が世界中の、いや、世界の死を映し出す。

 

 さあ、始めようか?

 

 

 




 次回、深景が何と呼ばれているか明かします。中にはうん?と思う方もいるかもですが、変えずにいこうと思います。

 深景が沖縄で、どのチートを使ったかは、察しの良い方はお気付きかもしれませんが、次回です。

 深景の天眼の誓約の詳細も次回くらいですね。

 それでは、次回もお付き合い頂ければ幸いです。


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