では、よろしくお願いします。
1
精神干渉魔法の使い手探しは、難航中。
活動を停止しているのか、尻尾がまるで見えない。
こういう時、無闇に焦らない我が弟は頼もしい。
そして、調査状況を聞く為、昼休みに生徒会室でお手製弁当を食べている。
大した話は案の定なかったんだけどね。来て損したわ。
寧ろ、なんで私がいるのかって話だけどね。
達也と深雪だけでいいんじゃないの?
理由は小悪魔に我等姉弟妹セットで指名されたから。
会話は二人に任せて、黙々と弁当を食べていると、渡辺お姉様が話し掛けてきた。
「深景君。噂じゃ二年生の壬生をエリカとイジメていたそうだが、本当かい?」
ああ…。やっぱりそんな噂になったか。そんな気がしてた。
「大嘘です」
私はキッパリとそういった。
イジメてなんていませんよ。エリカの剛速球に壬生先輩が反応出来なかっただけですよ?
失礼な。
「そんな噂になっているがな」
そんな事いうなら、私も聞かせて貰おう。
「それなら、こちらからも聞かせて頂きたいですね」
「何をだい?」
「壬生先輩の稽古の申し込みに、二科生如きと練習できない(超意訳)といったのは事実
ですか?事実だとしたら、リーサルウェポン・エリカを差し向けますけど?」
渡辺お姉様の顔が、盛大に引き攣った。
「風紀委員長に堂々と刺客を送ると宣言するんじゃない!!それとなんだ!超意訳って!!」
渡辺お姉様は、怒ってるのか焦ってるのか分からない態度だ。
まさか、原作と違って事実なの?
「壬生に練習相手を頼まれたのは覚えている!だが、そんな失礼な事はいっていない!!」
まあ、ですよね。
「じゃあ、摩利はなんて言ったの?」
小悪魔会長が口を開く。
渡辺お姉様がいうには、いった事は原作通りらしい。
「摩利は壬生さんの方が強いから、自分では相手は務まらないといったの?」
「ああ。そりゃ、魔法を使えば私が勝つだろうが、剣のみでは壬生に勝てん」
安心しましたよ。
と、なると。
私は横にいる達也を見る。
達也も私が何をいいたいか察して頷いた。
「御二人ともどうしたんですか?」
深雪が不思議そうに訊いてくる。
まあ、犯人を捜す範囲が多少狭まったってだけだよ。
「何か分かったんなら、聞かせて貰いたいんだがな」
渡辺お姉様の棘のある声で口を挿む。
「俺も壬生先輩が話をしている時、一緒に聞いていましたが、壬生先輩はハッキリすげなく
あしらわれたといっていました」
「だから!」
声を荒げようとする渡辺お姉様を、達也が制止する。
「分かっています。話を聞いた時に委員長らしくないと感じました」
渡辺お姉様が、分かっているのならといった感じで引き下がる。
「壬生先輩の記憶違いは激しいものです。通常では考えられない程に」
達也の言葉に、全員の顔が険しくなる。
「つまり、記憶をすり替えられたって事!?」
小悪魔会長が核心を突く。
「おそらく、セリフを弄っただけだと思いますが、それで印象も変わります」
記憶の操作まで可能となれば、本物の邪眼である可能性も視野に入れる必要がある。
「手口から言って、今までバレていないのですから同一犯と見ていいと思います。ならば、
魔法は近距離から行使されたと、考えるのが妥当です。距離が開く程にサイオンセンサー
に引っ掛かる可能性が高まりますから」
難易度を例えるなら、後ろからコッソリ近付いて背中を押すのと、同じく近付いてポケットから
財布を取り出して中身を一部取り換えるくらいの違いがあるからね。
原作だと催眠術でやったって事だけど、それには壬生先輩をアジトに連れ出さないと
いけない。一応、アレも魔法だし。
でも、壬生先輩の口振りでは、渡辺お姉様の件が切っ掛けっぽい事を言っていた。
ならば、記憶の改変はその場か、近場で行われた筈だ。
「お兄様。それでは…」
深雪も私達の考えに気付いたようだ。
「ああ。俺も姉さんも、壬生先輩の周囲に術者がいる可能性を考えた」
面と向かって話しても違和感がない相手だろう。
「早速、壬生に話を聞こう」
渡辺お姉様がそう言って立ち上がる。
お待ちなさいな。
「ダメです。壬生先輩は
と分かれば、裏切りを疑われます。最悪、危害が及ぶかもしれません」
私の言葉に、お姉様が言葉に詰まって席に座り直した。
「周囲を探る事は、出来るでしょう」
達也のフォローで、生徒会役員と渡辺お姉様が頷く。
「あくまで、推測とも呼べない憶測ですから注意して下さい」
私が最後に釘を刺した。
慎重にお願いしますよ。
2
:紗耶香視点
なんだか頭の中にあった靄が、晴れた気がした。
それ程に、あの立ち合いは衝撃だった。
あの二人の剣に魔法は殆ど使われていなかった。
だけど、最小限の魔法で最大効果を出していた。
あれを見れば、自分がいかに無駄な事に時間を費やしたか分かる。
勿論、剣の才が並外れて高い二人だからこそだろう。
だが、自分にもできる事が示されていた。
今からでも、私は本当の意味で剣を握り直したい。
それには、エガリテから抜けなければならない。
辛い時の支えになってくれたメンバーには、申し訳なく思うけど。
私はやっぱり剣道が好きだ。この道で頑張りたい。
声を掛けてくれたのは、主将だ。まずは主将に話そう。
決意を持って、第二小体育館に入った私は、ビックリしてしまった。
だって。剣道部と剣術部が合同で練習してたんだから。
どうなってるの!?
私は司主将に駆け寄った。
「主将。これは?」
「見ての通りだ。桐原からの申し出でな。基礎練習を合同でやらせて貰えないかとな」
司主将が感情の読めない顔のまま、私の質問に答えた。
「もう一度、魔法抜きの剣を磨く必要を感じたそうだ」
桐原君が…。
「失礼な態度は取らないし、取らせないからと頭を下げられたら断る事ができん」
司主将の苦悩が聞こえた気がした。
剣道部員も剣術部員も、ただ自らの腕を磨く為だけに竹刀を振るっている。
こんなに簡単に関係が改善されてしまった。
主将もこれを見て思うところがあったんだろう。
顔には出ていないけど、声には苦いものが感じられるから。
「おお!壬生!遅せぇぞ。相手をして貰っていいか?」
桐原君が声を掛けて来た。
私はぎこちなく承諾した。
「突然で驚いたか?」
私の態度に桐原君が苦笑いする。
「ええ。まあね」
「だろうな。でもよ。あんなもの見せられて、今まで通りなんて奴いねぇよ」
二人の立ち合いは、格闘技系の部員の殆どが見ている。
確かに、そうね。私も変わった一人だもの。
「手加減しないわよ」
私の言葉に桐原君がニヤリと笑った。
「当然だ」
空いた場所に移動する為に、桐原君が背を向ける。
私も移動しようとしたけど、その時に不意に桐原君が口を開いた。
「俺が好きだった壬生の剣が戻ってきた。ホッとしたよ」
呟くような声だった。
私にしか届いていないだろう。
私は思わず立ち止まってしまった。
なんとなく、恥ずかしくて頬が赤くなった。
3
夜、我が自宅にて。
私は引き続き、ブランシュ叩きを行っていた。
ネットにダイブして、情報を漁る。
タチコマ達は、あれ以来うろついていない。
響子さんとか、真田大尉に見付かってとっちめられたんだろう。
ああ、因みに、これ魔法だよ。エレクトロキネシスから派生させた魔法。
ええ、特典で探し当てましたよ!
ゴーグルみたいな奴は、専用CADです。
魔法でネット世界を可視化してるんだよ。
源田刑事に情報提供しまくってるけど、術者の情報が出てこない。
ブランシュ?もう、ズタズタだよ?
幹部は大体逮捕されたし。
これで、腰砕けになってくれるといいんだけどね。無理か…。
バックにあの困ったちゃんの連合がいるし。
問題は術者にお仕置きが出来ていない事だ。
5
:紗耶香視点
ようやく主将と話す事が出来た。
結局、あの後、動揺があって話さずに帰っちゃったし…。
主将にエガリテを辞めたいと申し出た。
てっきり、あの目で睨まれるって思ったら、眉間に皺が寄っただけだった。
「今は認められない」
「主将!」
主将は声に苦いものが混じっていた。
「郷田さんが騒いでいる。今辞めるといい出せば、郷田さんが何をやるか分からん。
徐々に距離を取っていけ」
郷田さんとは、エガリテの取り纏めをやっている人達の一人だ。
過激な言動が多い人だ。
騒ぐって何を!?
「ブランシュが頼りにならない今、自分達が立ち上がるべきだといっている」
「何を馬鹿な事を!?」
主将が苦々しく頷いた。
「全くだな。だが、残念だがあの人には勢いがある。身辺に気を付けろ、壬生」
「どういう事ですか?」
「お前の父親の事はバレているという事だ。郷田さんはお前をジャンヌダルク
にしようとしている」
衝撃の発言だ。
「父から何か引き出そうとしているのですか!?」
公安の情報とかを、私を使って引き出そうっていうの!?
主将が首を振る。
「そこまで甘い事は考えていないようだがな。公安の地位ある人物の娘が、
先頭に立って運動する事に意味を見出しているようだ」
よく見れば、主将の顔には疲労の色がある。
「お前を引き込んだのは、俺だ。許してくれとはいわん。気を付けろ」
今までの主将なら、こんな事はいわなかった。
主将も変わった一人という事だろう。
「主将もこんな事は止めましょう!」
主将はハッキリと表情を歪めた。
「俺は手遅れだ。今更、手を引けない。母の事もある」
母?何の事だろう?いや、主将のお兄さんは、確か…。
「まさか!?人質に取られているのですか!?」
主将が首を振る。
「いや。兄は母に気を遣っているよ。それに親子が同居するのは違法ではない」
「そんな!!」
「お前は引き返せ。頑張れよ」
去って行く主将に、私は声を掛けられなかった。
6
あれ以来、活動を完全に停止しているようで、私と達也でも探し出せない。
面倒だから、学校ごと吹き飛ばすとかダメですか?ダメに決まってますね。
昼も夜も調査に当ててるから、怠いです。
それで机に突っ伏している時だった。
『皆さん!!私達は学校の差別撤廃を目指す有志同盟です!!』
放送が大音量で流された。
この状況で動くとか暴走してますね。
主張内容。一言でいえば、立てよ二科生!!です。
真面にヤル気あるのかしら。
通信端末にコール。あれ?私、風紀委員じゃありませんが?
私は通信に出る。
「このナンバーは現在使われておりません。ナンバーをご確認…」
『深景さん?手伝ってほしいのだけど?』
小悪魔会長だった。有無をいわせない口調でした。
一人称が吾輩な大悪魔様みたいに、閣下とお呼びするのがいいかもしれない。
『深景さん?駆け足で生徒会室まで来てくれるかしら?』
「サーイエッサー」
7
:紗耶香視点
私は今日剣道部の活動が休みの為、近所の道場で練習しようとしていた。
主将の話を考えながら、放課後の学校を歩く。
誰かに相談すべきと思うが、どう話していいか分からない。
あの下級生二人か。フッと桐原君の顔が浮かんだが、首を振って追い出す。
そんな事を考えていると、いきなり放送が流れた。
立ち上がるって、まさか、こんな事を!
私は踵を返す。放送室へ。
だが、私は手を掴まれ立ち止まった。
振り返ると桐原君だった。
「桐原君!今、急いでるの!放して!」
桐原君は手を離さなかった。
「お前は関わるな!」
強い口調で桐原君が止める。
事情を知っていそうな雰囲気だった。
「もしかして、立ち聞きしてたの!?」
「なんの事か分からねぇが、ヤベェ話を聞いたのなら会頭に話してるぜ。奴等は暴発
した。お前が出てけばややこしくなるだろ!」
「……」
桐原君なら声で気付くかもしれない。
あの声は空手部の沼田君のものだ。私も一緒に差別撤廃のビラを配ったりしたから、
そこから気付いたのかもしれない。
「なんかヤベェ事があるにしても、あの三巨頭が見逃す程間抜けな訳がねぇ」
私は力なくスピーカを見詰めた。
私は桐原君に手を掴まれたままだった。
8
「ごめんなさいね。ハンゾー君とあーちゃんは調査の取り纏めやって貰ってるし、
リンちゃんは現場だし、人手が足りなくて」
閣下曰く、そういう事らしい。それでパシリ登場ですか。
やる事は閣下の補佐だった。
学校側との交渉だ。
一言で言えば、この問題は私が預かる!文句あるか?
私は前例をピックアップして、文書にする。
閣下の言葉に根拠を付け加えるのも、お仕事の一つです。
校長が気の毒でしたわ。
十師族相手だから、あんまり強く出れないみないだし。
かといって、仕事したくありませんとか態度で示せば、どこに転勤になるやらだし。
まあ、チャンと問題を片付ける事を条件に任される事になった。
貴方の毛根の無事を祈ってる。
9
そして、現場へ。事件は現場で起こってるんだ!懐かしいネタですね。
原作と違って、壬生先輩が放送室にいなかったみない。よかった。
現場は収まり掛けている。
私達は空きスペースを縫って、渡辺お姉様のところに行く。
静まれ!こちらのお方を何方と心得る!現生徒会長・七草真由美閣下なるぞ!
閣下に気付いた人は、道を開けている。
そして、私に視線が向けられる。
分かるよ。私も何故くっついてきてるか分かってないからね!
「摩利。彼等を放して上げてくれる?」
お姉様の顔は不満そう。
達也と深雪は傍観してたようだ。
深雪が動くと惨事になるけどね。
閣下が学校との交渉結果を話す。
それでエガリテ一同は解放された。CADは校則違反で預かりになったけどね。
余談だけど、彼等を捕まえた方法は、達也が十文字さんと市原さんに交渉に応じる
と、扉越しに交渉させたからなんだって。
原作と違って、深雪から嫉妬されなくてよかったね。
そろそろ入学編クライマックスですね。
あと二話か三話ってとこですか。
では、次回も頑張ります。