お付き合い願えればと思います。
それではお願いします。
1
エガリテの連中が潜伏している場所は、ブランシュのお下がりだった。
これは、小野先生情報。
つまりは、原作通りの使われていない工場ですよ。
いる連中が違うだけ。
桐原兄貴は、普通に参加していた。いやいや、アンタ怪我人でしょうが。
てっきり、十文字さんに止められて、途中下車の旅に出ると思ってたけど。
あの怪我で第一高校まで戻って知らせてくれた根性を、買ったのかもしれない。
それとも男同士で、原作以上の語りがあったのか。
腐った展開を想像しないようにね。
まあ、何はともあれ、私も失敗したとはいえ、私も兄貴を買っている。
だから、傷を治して上げた。
達也が使う再成のマイナーチェンジ魔法。名付けて再築。
再成が、エイドスをフルコピーするのに対し、再築は情報を限定してコピーして上書き
する魔法になっている。勿論、特典フル活用した結果です。カンニングですが、何か?
これは、私にも使える。無傷の状態の部位を、ピンポイントでコピーするから痛みも、
それ程じゃありません。今は、達也に目を借りて、コピーしたけどね。
再成も実は天眼で使えるけど、あれ痛いからさ。
何かいいた気な、二人にウインクして黙って貰う。
惚れた女を護る為、奇蹟を起こしたって感じでよろしく。
作戦は達也が立てた。
殆ど、軍用車みたいな車で、目的の工場に突撃を敢行。
ここでもレオ君大活躍。ゲート破壊に。
原作と違って、外にも人員を配置していた。
銃を抜き身でぶら下げてたよ。大胆だね、どうも。
十文字家自家用車で、外の奴等を蹴散らし、混乱したところに車から飛び出したエリカ・
レオ君コンビが片付けていく。特にエリカの活躍が凄い。私達は観戦モードでした。
粗方掃討されたところで車を降りる。
「作戦通りいこう」
達也が指示を出していく。十文字さん、口出しなしとは凄いですね。
原作通りの指示で、エリカ・レオ君コンビはニヤリと笑う。
コンビ・漢は、裏口から突入。
私達は正面からだ。
さて、お仕置き第一弾いってみよう!
2
:桐原視点
十文字会頭の前を俺は走る。
会頭は、後ろから悠々と付いてくる。
対魔法師用の高速弾を相手は撃ってくるが、問題にならない。
回避し、剣術部に置いてある刀で銃弾を弾く。
腕や脚の腱を斬り、銃を斬り、鞘で殴り、接近戦で膝を打ち込む。
剣術部は伊達じゃねぇぞ。
剣道は竹刀しか使えないが、剣術大会は組打ちも有りだからな!
俺達を襲った連中がいない。ここじゃねぇんじゃねぇだろうな!?
不安を押し殺して、目の前の奴等を倒す事に集中する。
どこだ!?壬生!!
3
:紗耶香視点
私が連れてこられたのは、ブランシュが使用していた場所だった。
目隠しはされていなかったけど、後ろ手に魔法師を拘束する為の手錠は
されていた。
桐原君を撃った男と、外国人らしき集団は、到着と同時に姿を消していた。
そして、今まで集会で使っていた場所ではなく、事務室内の一室に連れて
こられた。
部屋の真ん中に椅子が置かれていて、そこに座らされる。
暫くすると、ガッチリした体型の大男が現れた。
「随分と久しぶりな気がするな?同志壬生」
郷田さんだった。
エガリテの武闘派の名に相応しい、鍛えられた身体の持ち主だ。
因みに一般大学生だ。
魔法大学への進学が出来なかった事で、エガリテに入ったと聞いた。
「もう、会う気はありませんでした」
キッパリとそう言うと、郷田さんは嗤った。
「随分ストレートな物言いだな?一応、念の為に確認するが、我々に協力する気はない
んだな?」
私は相手の目をしっかりと見て、ハッキリと頷いた。
例え、どうなろうと怯えた態度など絶対に取らない。
郷田さんは、余裕な態度を崩さずに、そうかとだけいって、後ろにいる連中に目配せ
する。
二人が部屋を出て、すぐに戻ってきた。
手には注射器と薬瓶を持っていた。
「なら、仕方がないな。無理矢理、協力して貰おう」
薬物。やっぱり、私は間違えていた。
自分の馬鹿さ加減に情けなくなった。遂にツケが回ってきたという訳ね。
「こいつはな、洗脳に使う薬品だ。何でもいう事を聞くようになるぞ?裏切り者には
甘い処分だと思うがな」
連中が何人か私を動けないように、押さえ付ける。
制服の上着の袖が、乱暴に引き千切られた。
怖い…。でも、最後の最後まで屈したりしない!
郷田を睨み付ける。このくらいの抵抗しかできないけど。
だが、突如何かが破壊される音が、響き渡った。
「なんだ!?何があった!!」
郷田が声を上げる。
「襲撃です!何者かに襲撃を受けている模様です!」
遠くから状況が知らされる。
警察?でもこんなに早く動ける訳が…。
銃声と悲鳴が上がる。
警察じゃないなら、まさか!?
4
我等三姉弟妹の道を阻める者などいない。
先陣は私が走る。達也と深雪が付いてくる。
「姉さん。次を右。敵3、ライフルを構えてる」
「OK!」
スピードを上げて角を曲がる。勿論、魔法のアシストを使った歩法があればこその
動きだけどね。
銃弾がフルオートで放たれる。
だが、銃弾はほぼ真っ直ぐにしか飛ばないんだな、これが。
狙いもまる分かりだし、霞むように私の姿が消えたもんだから、敵は射撃を少し
緩めてしまった。
「疾!」
スピードを生かし、駆け抜けながら一人目の胴を斬り払い、二人目の首筋に一撃、
勢いを落とさずに三人目の側頭部を打つ。
仲間が倒されて、遅れてワラワラと敵討ちに馳せ参じるも、達也の魔法で沈黙する。
戦力逐次投入とか、流石ド素人。
雑魚を掃除し、倉庫のような場所の前に辿り着く。
「中にいるのは、おそらく本隊だと思う。射撃体勢で待機している」
達也の言葉に私は軽く頷くと、想子剣を振るうと同時に、扉から飛び退く。
勿論、二人も退避済み。
想子剣で斬られた穴から銃弾が、大量に飛び出してくる。
暫く続いたが、銃弾が止んだ。
「誰だ。何が目的で来た?」
男の声が、穴だらけになった扉の向こうから聞こえる。
今更、そんな事訊いてどうすんの?
「お礼参りだよ。端的にいえば」
中から嘲笑の合唱が聞こえる。
「なら、返り討ちにするまでだな」
余計なお喋りに、時間を費やすアンタには無理だよ。
中から金属が床に散らばる音が響き渡る。
達也がシルバーホーンを構えたまま、頷くのを見て、私は先に入室した。
お邪魔します。
「それじゃ、お仕置きタイムといきますか」
遅れて二人が倉庫に入ってくる。
皆さん、呆然自失中だった。が、一人逃げ出す奴がいた。
纏め役臭い、ガタイのいい男。
あれがジャイアンだ。
「お姉様、お兄様。ここは私が」
深雪の言葉に私達は頷いた。
平然と、案山子のモノマネ中の人達を縫って、ガタイのいい男を追う。
「御二人に銃など向けねばよかったものを…祈りなさい」
後から深雪の怖い声がしたが、敢えてスルーした。
なんか、後から強烈な冷気が迸ってたけど、気にしない。
でも、これだけはいわせて。
ちゃんと解凍すれば、蘇生するんだろうね?あの連中。
あとで、深雪のフォローもしないといけないね。
さっきまでの偉そうな口調、どうしたの?っていいたくなる逃げっぷり。
ジャイアンは、扉に手を掛けようとしていた。
逃げたのは当たりだけど、運が悪かったね。
逃げた先の扉から、刀が飛び出したんだから。
5
:桐原視点
もう抵抗も殆どない。
粗方雑魚は倒したみたいだな。
警戒は緩めずに奥へ進んでいく。
「壬生!!いるなら返事してくれ!!」
耐えられずに、俺は声を上げる。
本来なら、壬生が目的だと知られるのは、こちらの弱味を教えるようなもんだし、
悪手といえる。それでも声を上げずにはいられなかった。
会頭も咎めなかった。
声を張り上げ、出てくる奴を斬り倒していく。
もう、会頭が障壁で防ぐ事もなくなっている。
微かに声が聞こえて、俺は足を止める。
耳を澄ます。
俺は振り返って会頭を見ると、会頭にも聞こえていたようで頷いた。
待ってろよ。壬生!!
事務所として使っていたであろうスペースから、声がした。
会頭と共に慎重に進んでいく。
「壬生!!」
『桐原君!扉に、ッ!!…』
殴りつけられたようで、途中で壬生の声が途切れる。
だが、どこの部屋かは分かった。
俺は扉のノブに手を掛ける。
案の定、銃弾のシャワーが浴びせられるが、全く問題ない。
ここには、鉄壁の護りを得意とする魔法師がいるんだからな。
銃弾は全て障壁に弾かれた。
穴だらけになった扉を蹴破る。
部屋の中には、壬生の他にも二人いた。
壬生は口内を切ったのか、血が出ていた。
一人が壬生を人質に取り、残りがこちらに銃を構えていた。
「そこを退け!こいつがどうなってもいいのか!?」
壬生に銃を突き付けている。
床には注射器と薬瓶が転がっている。
「ああ。分かったよ。ほらよ!」
俺は、持っていた刀を捨てて見せて、扉の前から退く。
会頭も黙って道を空ける。
「ハッ!馬鹿が!」
壬生を人質にしていない方が、俺に銃を向ける。
だが、次の瞬間、不可視の刃に切り裂かれ、銃を取り落とす。
俺は司波姉に貰ったCADを、刀を捨てている間に握り込んだのだ。
壬生を人質に取った方も、気が逸れる。
俺は迷わず踏み込んだ。
咄嗟にどうするか判断に迷ったんだろう。何もできずに斬り捨てられた。
壬生を人質に取ってた奴が、倒れ込む。
「下衆野郎が」
俺は倒れた奴に、不可視の刀を振り上げた。
「桐原!」
会頭が刀を投げて寄こす。咄嗟に受け取った。
「手錠を外してやれ」
俺は渋々刀を鞘に納めて、手錠を斬った。
俺は壬生の頬を軽く叩いて声を掛ける。
「壬生!壬生!大丈夫か!?」
それに反応して、壬生が薄っすらと目を開けた。
「桐原君…」
「大丈夫か!?気分は?」
意識がハッキリしたのか、すぐに立ち上がろうとしたが、それを押し止めた。
「少し休んでろ。片を付けてくるからよ」
だが、壬生は首を振って拒否した。
「気持ちは嬉しいけど、結末を見届けたいの。お願い」
それでも渋っていると、会頭が口を開いた。
「桐原。連れていってやれ」
「会頭!?」
「足手纏いにならないなら、構わんだろう」
会頭が親切からいったのではない事は、分かった。
会頭は初めから、壬生に結末を突き付ける気でいたんだろう。
もし、壬生が何もいわなければ、無理矢理連れて行ったかもしれない。
「ありがとうございます。十文字会頭」
壬生もそれを承知で礼をいった。
壬生を連れて、更に奥へ進んでいく。
扉を開けようとした時、誰かが走ってくる音が聞こえてくる。
この慌て振りからすると、味方じゃねぇな。
これは、司波姉弟妹に追われてきたな。只者じゃなさそうだったしな。
俺は使い慣れた高周波ブレードを発動させ、扉に突き入れた。
6
桐原兄貴が、態々扉を切り裂いて現れた。
ジャイアンは挟み撃ちされた形だ。
流石にチキン支部長よりは、狼狽えなかったのは褒めるべきところかな。
「よう!司波姉に司波」
桐原兄貴が、危険な笑みを浮かべてジャイアンと向かい合う。
「で?こいつは?」
もう予想は付いてますよね?
「それがジャイアンですね」
「何だ!?ジャイアンって!?」
世界の名作ドラえもんを知らないとは、貴様それでも日本人か!
いや、だが、ジャイアンは、ただのいじめっ子ではない。
男気のあるガキ大将でもある。
同じ扱いは、ジャイアンに失礼だったか。
ごめん、ジャイアン。
「エガリテの郷田という男のようですよ」
私が下らない事を考えている間に、達也が後からフォローしてくれる。
達也にも、関係者リスト渡しててよかった。
「そうか、テメェが」
桐原兄貴が無言で刀を構える。
怒気がここまで伝わってくるよ。
お任せしますか。
「ガキが、舐めるなぁぁーー!!」
郷田が剛腕を生かし、殴りかかっていく。
だが、剣術大会の上位の兄貴に素手で挑むのは、無謀だったね。
アッサリと郷田の片腕は、宙を舞った。
声にならない悲鳴を上げ、郷田が蹲る。
だが、兄貴は止まらない。刀を振り上げて止めを刺そうとしている。
「先輩!そこまでです。そいつは先輩の手を汚す価値はありません」
私の言葉に兄貴の動きが止まった。
後から十文字さんが、滑り込むように入ってきて、郷田の止血をする。
壬生先輩は無事だね。よかったよかった。
気持ちの整理は、壬生先輩自身がやるだろう。
さて、私はやり過ぎた妹を慰めにいきますか。
7
さて、私は今、埠頭にやってきています。
何故か。それはお仕置きファイナルを決行する為です。
あれから、警察が押っ取り刀で駆け付け、後はお任せしてきた。
源田刑事よろしく。
因みに、エガリテ壊滅と同時にチキン支部長は逮捕されてます。
第一高校襲撃を企てた人物ですからね、逮捕は当然ですよ。
直前で関わらなかったとはいえ。
余罪もまだまだあるそうですよ?
そして、本物の司甲もあの工場から発見された。
脱水症状で衰弱していたが、命に別状はないそうだ。
まあ、それは兎も角、お仕事です。
『特尉!団体様がそちらに向かっています!』
今、私が装着している顔半分を覆うゴーグルに、連中の姿が映し出される。
『全く。こんな下らん仕事で、本国の信用など得られるのか!?』
タチコマも気が利いている。音声まで拾ってるよ。
『やれといわれれば、下らなかろうがやらねばならん。ただそれだけだ。それで我等の
待遇がよくなるなら、安いものだ』
『日本軍相手なら兎も角、ガキの相手だぞ!?』
『ガキじゃない奴も、相手をしただろう。火傷したようだがな』
舌打ちしている。
今は全員が作業服姿だ。
今夜のうちに連中は船で、帰宅する予定になってるんだよね。帰さないけど。
始めますか。
「タチコマ。船の中を制圧してきて。手加減無用」
『りょ~かい!ではっ!』
タチコマ六機が船に向かう。
『では、そろそろこちらもいいかな?深景君』
八雲先生からも連絡がくる。
「はい。お願いします」
気配が波紋のように消える。まさか、直々に対応してくれるとはね。
霧が立ち込める。
濃霧で連中が立ち止まる。不自然さに気付いているだろう。
だが、構わない。
私は亜空間から刀を取り出す。
私が鍛えた自信作の一振りだ。
連中の前まで跳躍し、着地すると、霧が晴れていく。
一人を除き、倒されていた。流石、今果心。
八雲先生は返り血一つ浴びずに、いつも通りに飄々とした態度で立っていた。
一人残った男は、八雲先生を感情のない目で見詰めている。
「九重八雲か」
「いや~。まさか高名な
捨てたものじゃないねぇ!」
八雲先生は軽薄に笑っていった。
「では、高名な先生の相手は私が」
私がそう申し出ると、こちらに人形遣い大先生が視線を向けた。
纏う空気が変わった。
私の、そしてあちらの。
刀を構える。あちらもどこからか剣を取り出した。
薄い剣だ。おそらく仕込みだろう。通常の剣筋と同じに考えない方がいいだろう。
「いやぁぁあーーー!」
「疾!!」
変幻自在に変わる剣をいなし、迫りくる脚や拳を受け流す。
激しく鋭い一撃を交わす。鎬が火花を散らす。
何合も入れ替わり立ち代わり打ち合う。
「ハイ!!」
「疾!!」
交錯する。私の制服の袖がハラリと切れる。あちらの肩から血が流れる。
すぐさま向かい合ったが、お互い動かない。
向こうの剣は、こんなものらしい。
あちらが一筋汗を流す。
魔法を使えば隙ができる。まして私が相手では魔法に気をやった瞬間に、斬り捨て
られる。
あちらは、静かに自分を消し去っていく。
そうきたか。自分を無にして、私という存在と同調し攻撃を読み取る。
ならば、読み取って貰おうじゃないですか。
私はゆっくりと太刀を動かしていく。
そして、刹那の間にお互い剣技を繰り出していた。
人形遣いは
腹を大きく切り裂かれた。
残心。
人形遣いが倒れ込んだ。
秘剣・燕返し。
いわずと知れた暗殺者のクラスの人が、使っていた必殺技である。
私は完全に
「お見事!」
八雲先生が称えてくれるが、私は騙されない。
八雲先生は、私の実力を測る為に態々霧を消した。自分の実力は見せなかったのにね。
「流石の
そうこの人は人形だ。本体ではない。だが、精神的に繋がりを持っていた。その繋がりを
操り糸として動かす。それが人形遣いの手口。
リンクを切られる前に殺したから、精神的なダメージは計り知れない。
八雲先生のいう通り暫く活動できないだろう。
できれば始末したかったんだけどね。
これらの情報も八雲先生のサービスだ。
私はタチコマから制圧の報告を受けて、撤退を命じた。
8
:八雲視点
怪我をした弟子の回復は順調だ。
依頼が失敗した時は、どうしようかと思ったけどね。
今回は相手が悪かった。最悪、命を失ってもおかしくなかったからね。
鍛え直しができる事を、感謝しないとね。
そして、通信端末が呼び出し音を鳴らす。
普段なら弟子が取るんだけどね。今回は私が取った。
受話器を耳に当てる。
通信端末は、古い電話機の形をしているんだよ。
相手は風間君だった。
「珍しいね。君から連絡してくるなんて」
『すみません。お聞きしておきたい事がありまして』
まあ、予想は付くよ。
「深景君の事かな?」
風間君は隠す事なく頷いた。
彼のところには藤林の御嬢さんがいた筈だ。彼女なら街中にある監視カメラを見る事が
できるだろうに。
てっきり、見ていると思ったんだけどね。
聞いてみると、苦い口調で答えた。
『街頭カメラで見ようとしたんですがね…』
彼の話だと、該当箇所のカメラを映すと、肝心なところで“暫くお待ち下さい”のテロップ
と、軍歌が流れるだけで、見られなかったそうだ。
彼には悪いけど、思わず笑ってしまった。
深景君は、そこまで細工して臨んだのか。
独立魔装大隊の多脚戦車の映像記録も、消されていたらしい。
そこまでやって、風間君のところ以外、映像を弄られた事に、気付いていないというのも
凄い。
それは近くで見た僕に訊くだろうね。
『それでどうですか?』
「うん。そうだね。これは僕からの忠告だけどね…」
端末の向こうで、彼が僅かに驚いたようだ。
こんな事を彼にいう事はないからね。
「彼女とは仲良くする事だよ。最悪、敵にならない事を心掛けた方がいいだろうね」
『…そこまでですか』
「君は、
隠し切れない驚愕が、感じられる。
当たり前だ。そんな事、世界中のどの先人にも成し得た者はいないだろうからね。
僕の知る限り、そんな事ができるのは彼女だけだ。
しかも、剣技のみですら、あれが本気だったとは思えない。
いや、本気ではあっただろうけど、全力ではなかった。
僕ですら、彼女の底は垣間見えなかった。
「兎に角、敵対する事になったら、僕を巻き込まないようにしてくれ。まだ死にたくない
からね」
彼女は、達也君にも技術の一端を、教えているようだからね。達也君も手強いだろう。
今の達也君なら、倒す事も可能だろう。でも、そうすると彼女が出てくる。
深雪君とて、無視できない。
あの姉弟妹に手を出さない事が、重要だろうね。
それに彼女の料理は、美味しいからね。あれが食べられなくなるのは、惜しい。
9
桐原兄貴は、まだ入院していた。
原因は、私だったりする。
そう、再築で治したから、治療魔法で定着するまでやる筈が、一発で治ってたもんだから
話がややこしくなった。
兄貴、こんな事に巻き込んでしまって、本当に済まない!
でも、いい事もあったんだよ。
原作と違って壬生先輩が入院しなかったから、彼女の方がお見舞いに頻繁に来てたそうだ
から。それでお付き合いまで漕ぎ着けたんだから、グッジョブでしょ。
エリカと私は、壬生先輩と仲良くなった関係で、惚気話を聞かされてウンザリですよ。
恋バナは好きでも、惚気話なんざ聞きたくないんじゃぁー!
こういう時は、なんていうんだろう?爆発しろ!?
ああ、そうそう、エリカと壬生先輩は原作通り、さーや、エリちゃんと呼び合う仲に
なったよ。
散々検査して、一発治癒の原因は病院では判明しなかった。
いいじゃん。愛の力が奇跡を起こしたで。
兄貴と壬生先輩にそれをいったら、茹蛸みたいになっていた。
中学生か、アンタ等は。
因みに、原因を知っている我が家族は、呆れた表情でこちらを見てたけどね!
肝心の処分の方は、誰もされなかった。原作通りの大人の事情って奴で。
まあ、いいけどね。
壬生先輩は勿論、司甲もエガリテの勧誘をやってたくらいで、殆ど閉じ込められてた
みたいだ。涙を誘う待遇だね。
それでも、彼は学校を辞める事に決めているそうだ。
彼は京都の神社で修行しながら、一般高校に通う事に決めたという。
以上が壬生先輩情報。
何気に一番大変だったのは、深雪の相手だった。
何しろニヴルヘイムで、とんでもない惨状を作ったからね。
解凍して、連中が無事だったのは、よかった…と思う?
けど、なんで達也じゃなくて、私に甘えてんの?
心を無にして甘えさせて上げたけどさ。
そして、退院の日。
私達司波家の面々とエリカ・レオ君コンビが来ていた。
勿論、壬生先輩もいますよ。
そして、真打登場。
退院した兄貴が登場する。
「お?わりぃな。態々来てもらっちまってよ。身体はなんともねぇっていってんのに、
医者が退院させてくれなくてよ」
達也と深雪が私に視線を向けるが、私はそれをにこやかに黙殺した。
「退院、おめでとうございます」
私達は代わる代わる退院を祝った。
深雪が花束を渡し、照れた兄貴に壬生先輩が、殺気を放つ一幕があったくらいで、
概ね平和だった。
「君が司波深景君かな?」
ダンディな声が後から掛かる。
振り返れば、そこに何故か壬生先輩のお父様がいらっしゃっていた。
壬生先輩が入院してた原作なら分かるけど、娘の彼氏の退院を見届けに来ないでしょ。
「ああ、済まない。突然だったね。私は紗耶香の父の壬生勇三だ」
私の疑問に満ちた顔を、誰やねんアンタにとった壬生父が、自己紹介してくれる。
そういえば、壬生先輩はお父さんの仕事を、公安だっていってたけど、原作通り内調の
人だった。
表向きは公安という事にしているらしい。
いい感じに、秘密にしなきゃいけない仕事だしね、公安って。隠れ蓑にし易いのかな?
「今日はお礼をいいたくてね」
ん?原作と違って達也は壬生先輩とは、あんまり関係なかったし。私も特に何もして
ないけど?
おっと。エリカが兄貴をイジリ倒してる。
「深雪。ちょっと、エリカの暴走止めて来てくれる?なんか乱闘になりそうだから」
深雪は惨状を確認すると、苦笑いでエリカのところへ行った。
「君達のお陰で娘が、早く立ち直る事ができた。その礼がいいたくて、今日は寄らせて
貰った」
達也と私は顔を見合わせる。
「娘から聞いているよ。千葉の娘さんと君の立ち合いを見て、目が覚めたと」
苦笑いで壬生父がいった。
「いえ、あれはエリカが、積極的に壬生先輩の腕前を惜しんだからです」
「努力し続けた事は無駄ではないといったのは、君だろう?」
うん。確かにそんな事をいったけど。あれ、達也が本来いった事だしね。
「娘はその言葉に、本気で感謝していたよ。勿論、千葉さんにもお礼をいう積もりだ。
達也君…だったね。君も色々と奔走してくれたんだろ?」
おや?初耳ですよ?
私の視線に達也は、目を逸らした。
教師陣が原作通りじゃない事は、確認していたが、学校は当初壬生先輩達を処分して
終わりにしようとしたらしい。大人の事情どこいった?
そこで達也が色々と生徒会に深雪経由で、入知恵して処分を撤回させたんだとか。
いってよ!そういう事。
「だから、礼をいわせてくれ」
壬生父にここまでいわれれば、受けるけどね。なんだかな。
私と達也の反応を見て、壬生父が笑う。
「君達は、本当に風間のいった通りの子達だな」
「!!」
達也が風間天狗の名に反応する。
「少佐をご存じなのですね」
達也の声には警戒が混じっていた。
「君は驚かないのだね?」
壬生父が私の方を見る。まあ、そりゃね。
「歩き方からして、軍人かと思いましたから」
一定の歩幅に歩調だからね。
まあ、カンニングですけどね!本当は。
壬生父はそうかと苦笑いした。
「君達が、実際に救ってくれた事を知っている。そう伝えたいだけなんだ。改めて、
ありがとう」
壬生父は丁寧に頭を下げた。
本当に礼をいいに来ただけらしく、エリカに礼だけいって、彼氏に何も言わずに
去って行った。
父としては複雑なのかね。
礼は、兄貴にもいうべきだろうに。
私達は、エリカ劇場が開演している現場へと戻った。
騒ぎ過ぎて、看護婦さんに怒られたのは、いうまでもない。
大騒ぎが終了して、帰宅しようとした時だった。
「御二人は、学校が嫌ではありませんか?本来なら御二人ならば高校など行く必要
はないのに、侮られてまで高校に行くなんて」
深雪も今回の事で思うところがあったのか、そんな事を言った。
「俺は深雪と一緒に学生でいるのが、楽しいよ」
「私もね」
それに穂波さんとの約束もある。
「まあ、気にしない気にしない!サッサと帰ろうよ日常ってやつにさ!」
これにて、入学編終了でござい。
さて、次、いきなり九校戦編に突入しようか、考え中です。
今のところ、九校戦編にいく事に傾いていますが…。
気長に待って頂ければと思います。