賛美歌が聞こえる(女神転生Ⅳ)   作:アズマケイ

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第3話

これはまた尖った子が来たなあ、とミヤコは思った。緑色の蛍光塗料の入れ墨に似たデザインの身体は、やせて頼りないラインにひどく不似合いだが、よく見ればカサブタだとわかる。魔神と取り引きして黄泉がえりの力を得た少年に流れる血潮は悪魔と同じ緑の蛍光色なのだ。致命傷を負うたび蘇生するのは魔神の加護があってこそ、ふさがれた怪我の数だけ発光する箇所が増える。ぼろぼろに傷だらけの手をみて、ミヤコは目を細めた。くぐり抜けた修羅場の数を物語っている気がしたのだ。

 

 

1週間もたたずに名をあげた将来を渇望されたハンターは、今や人々の恐怖と嫌悪の対象だ。なにせ悪魔と天使を退け、最終決戦に臨もうとしていた英雄を誘拐した第3勢力の封印を、騙されたとはいえ解いてしまったというのだから。戦犯ものである。しかも魔神はその第三勢力に組みした疑惑があり、少年はすでに死んだ身であり魔神に生かされている。裏切り者と断罪するには状況がそろいすぎていた。

 

 

処刑されずに済んでいるのは、今、東京はその第三勢力によって悪魔召喚プログラムそのものが利用できない上に、ターミナルで転送移動できないからだ。人間は悪魔を利用して悪魔に対抗している。そのハイテクがなければただの人なのだ。皮肉にも魔神のおかげで悪魔召喚プログラムを使える唯一の人間となった彼は、こうして状況の打開に向けて東京を奔走しているらしい。やけに眼孔が鋭いのは生まれつきか、それとも悪魔の影響なのか。そのわりに仲間がいない。事前情報では阿修羅会の少年と十字軍の隊長、幼なじみの少女、そしてミヤコもよく知るノゾミがいるとのことだったのだが。ここにいるのはナナシひとりだ。アゼルの言うとおり、ひとりのハンターしかいない。これが人外ハンター商会の出した条件なのだろうか?そんなバカな、上層部がそんな軽率なことするわけがない。

 

 

瞬き数回、じいっとこちらを見上げてくる少年は、大きく目を見開いているので、首を傾げる。ミヤコはナナシとは初対面のはずだ。驚いているのはわかる。待っているのが女のハンターだと思わなかったのかもしれない。

 

 

「初めまして。アタシはミヤコ。ここ、南砂町を拠点に活動している人外ハンターの端くれよ。どーぞよろしく」

 

 

差し出された手に視線を落とした少年は、相変わらず挙動がおかしい。

 

 

「ん?どしたの?なんかあった?」

 

「・・・・・・・なんでもねえ。コンゴトモヨロシク」

 

「ん、ヨロシク」

 

 

遅れて交わされた握手である。

 

 

「この子はケットシー。ちゃんと強化してあるから安心して頂戴。このあたりの悪魔なら立ち回れるから」

 

「よろしくだぜ、ブラザー!」

 

「ぶ、ぶらざー?」

 

「ミヤコのぱいおつが気になっちゃう年頃なんだろ、怖い面のにーちゃん!」

 

「こわいつらって・・・・っ、つーかなにいってんだよ、この悪魔!やな悪魔だな!」

 

「あははっ、ノゾミで見慣れてるんじゃないの?ずいぶんと女の子多いメンバーみたいだけど」

 

「ちょ、アンタまで、なにいって!」

 

「耳までマッカだなーもしー」

 

「あーもううるさい、黙れ!」

 

「ちなみにミヤコのスリーサ」

 

「あ、黙らせたいときには銃撃が必須なのよ、この子。弱点だからね」

 

「まさかのフレンドリーファイアー!?ミヤコっ!?」

 

「調子に乗りすぎなのよ、ケットシー。少し黙って」

 

「あい」

 

 

長靴を履いた猫は大人しくなる。息を吐いたミヤコは笑った。緊張がほぐれたのか、調子を取り戻したらしいナナシはばつ悪そうに目をそらす。不機嫌そうに口元がゆがんでいた。がしがし頭を掻いて、ナナシはミヤコを見上げる。

 

 

「・・・・・・よろしく」

 

「うん、よろしくね。早速なんだけど、ナナシ。聞きたいことがあるんだけどいい?みての通り、ここのエリアは毒が土壌にしみこんでる状態なわけだけどさ。毒を軽減できるアプリはもってる?」

 

 

ナナシは首を振った。

 

 

「ダメ半減はできるけど、無効まではとってねえ」

 

「ならアタシのポイントあげるから、とっといてくれる?ここの土地、ぜんぶ毒で汚染されてんのよ、豊洲みたくね。道具がもったいないしさ」

 

「ども」

 

「どーいたしまして。ダグザって魔神がスマホを管理してるでしょう?なら、これ、アタシのね。使って」

 

はい、とミヤコはスマホを渡す。ナナシが腕につけているスマホは、ミヤコが以前使っていて銀座で落としたスマホとよく似ていた。どうやら最近の新人ハンターはいいものをつかっているようだ。あるいは期待の新人に誰かがあげたものかもしれない。ミヤコのスマホはあそこまで新品同然じゃなかった。使い込んでぼろぼろだった。すべての技術が25年前でとまっているこの世界で、新品同然のスマホがどれだけ貴重かはいうまでもない。よっぽど期待されているようだ。そんな中のダグザの判明とやらかした事件の衝撃はさぞ大きかったに違いない。ミヤコからスマホを渡されたナナシはダグザを呼び出し、転送の手続きをする。

 

 

「ところでさ、ナナシはどんな戦い方が得意?魔法?物理?」

 

「魔法。どうしようもないやつは、こいつで殴るけどあんま期待できねえ。アンタは?」

 

「アタシも魔法なのよねー。補助が中心だけど。あとはこの子ね」

 

ミヤコは使い込んでいる銃をナナシに見せる。女性が扱うにはあるまじき重量と威力が出そうな見た目をしている。ナナシの頼りない体つきから繰り出される斬撃よりは威力がありそうだ。脱いだらすごいんだぞと言うケットシーのしっぽを踏みつけながら、ミヤコは思案する。

 

 

「アタシとケットシーが前張った方がよさそうね。ガイドもかねてるし、後ろは任せたわ、ナナシ」

 

「おう」

 

「聞き分けがいい子は好きよ、アタシ」

 

「子供扱いすんなよ、オレもう15なんだけど」

 

「え、そうなの?ごめんね、てっきり12、3くらいかと」

 

「どうせ低いよ、ちっ」

 

「ごめんごめん、拗ねないで。チャクラドロップあげるから」

 

 

魔法と素早さに特化して鍛錬している少年特有の体つきである。攻撃や銃撃に重点を置いたトレーニングとはどうしても体格に差が出てくる。コンプレックスを刺激されたナナシはますます拗ねてしまう。年齢相応な反応にちょっと安心したミヤコは笑ってしまう。ナナシはじと目でミヤコをにらむ。

 

 

「だから子供扱いするなっての」

 

「ごめんごめーん、許して。というわけでお詫びの印よ、受け取って。期待の新人君の活躍に期待してるわ」

 

「しかたねーな」

 

 

ナナシは皮袋を受け取った。ここから先は長いのだ。魔法攻撃が得意ではないミヤコにとって、ナナシの魔法は頼りになる後方支援になるだろう。いつもアイテム頼りなミヤコにとっては、魔法攻撃を石に頼らなくて済むだけで安定感が違うのだ。ん、とスマホを返され、受け取ったミヤコはポイントがちょうど減っているのを確認する。反抗期に入りたてなのか、やけにあたりが強いが根はいい子なのだろう。無駄にポイントが減ってないあたり几帳面なようだ。

 

 

「ところでノゾミたちは?」

 

「悪魔呼び出せない奴が行ったら死ぬって、白い奴に止められた。仕方ねえから、他の奴らはみんな錦糸町に行った」

 

「しろいやつ?なにそれ」

 

「アンタ知らないのか?ここ、結界が張ってあるんだ」

 

「結界?ああ、ターミナルとか、悪魔召喚プログラムが使えないとか言うあれのこと?」

 

 

ナナシはちげーよと首を振る。しかし、アサヒやガストンが見えていなかったことを思い出し、普通の人間には見えないやつなんだろうと思い直し、疑問符が飛ぶガイドに間違えたと訂正した。ダグザがいうには未練を遺した思念体、ナバールみたいに実体化もできず寄り集まって塊になっている霊体の坩堝みたいなやつらしい。気づかない人生ならわざわざ気づかせる必要はない。ナナシの視線はケットシーへ向かう。不思議そうにケットシーはナナシを見上げる。

 

 

「なんでこいつ召喚できてんの?」

 

「もともと召喚してたのよ。護衛もかねてるからね、こいつ」

 

「じゃあ、アンタも悪魔召喚プログラムは使えないんだ?」

 

「まあね。でも、仲魔はいなくても大丈夫よ。自分の身は自分で守れるわ。だてにナナシのガイドする訳じゃないしね、期待してて」

 

「ふーん」

 

「あ、信じてないわね。ま、いいわ、いきましょ」

 

 

ミヤコ達は南に向かって歩き出した。悪魔の気配がする結界を突破すると悪魔の軍勢が押しかけてきた。

 

 

『だ、大丈夫なのかね、君!ここは一度退却した方が!』

 

「バカ言わないの、逃がしてくれると思う?」

 

『ナナシに言ってるんだ、きみじゃ・・・・って聞こえるのか!?』

 

「聞こえるもなにも見えるわよ、さっきから黄緑の発光体が飛んでるなあって」

 

『人を人魂みたいに言わないでくれないか!』

 

「似たようなもんでしょ、幽霊君」

 

『私にはナバールという名前があるのだ、幽霊という名前ではない!』

 

「ナバールねえ。ナナシ、アンタ、変わった仲魔つれてるわね。そーいうの好きなの?」

 

「は、まさか。ナバールは悪魔じゃない。幽霊だ」

 

「あれ、じゃあ、憑いてるの?それはまた。アンタって変わった奴に気に入られるタチなのね、なるほど」

 

「うるせえ、ほっとけ」

 

 

ミヤコはナナシをみる。茶番に興じてくれるわりに、周囲への警戒は怠らない。これは将来有望な新人君だ、恐ろしくなるほどに。

 

 

「ナナシ、炎が全体に届く魔法ある?」

 

「ああ、ある」

 

「なら期待してるわね」

 

 

ナナシはうなずいた。

 

 

『マスター、俺を呼べ』

 

「もちろん。アンタの力を借りるわよ、アゼル」

 

『ああ、好きに使え、我がマスター』

 

 

ミヤコの雰囲気が一変する。禍々しい光が大地に走り、魔法陣が浮かんだ。

 

 

『イビル・トランス』

 

 

無数の瞳から光が放たれ、すべての悪魔を貫いた。あたりには時計の針の音が心臓の鼓動のように響き渡る。

 

 

『小僧、焼き払え。小娘が爆弾に変えた奴らをな』

 

 

これは例の魔神の声だろうか。アゼルと同じくスマホに住んでいるようだ。ナナシは頷いて、スマホに呼びかける。

 

 

「こい、アエーシュマ!アギダイン」

 

 

あたり一帯には内側から弾け飛んだ悪魔の断末魔がこだました。ミヤコは驚きの眼差しをナナシに向ける。

 

 

「久々だな、小娘よ」

 

「アエーシュマ!アンタがいるってことは、やっぱりナナシのスマホ、アタシが落としたやつなのね!?」

 

「ああ、だが此奴が我が主だ。悪く思うなよ」

 

「ま、まあ、それはいいわよ。悪魔全書から分霊また呼べばいいんだし。しっかし、奇妙な縁もあったもんねえ」

 

「これ、アンタのだったのか?」

 

「そうね。なんか新しくなってるけど、もういいわ。好きに使って」

 

「わかった。...その、ありがとう。これのおかげで助けられた」

 

「ん、どういたしまして。さあ、例の歪みに行きましょうか」

 

「おう」

 

 

アエーシュマが使えるということは、ナナシはミヤコの考える以上の力があるのだ。これは期待できそうだ。ミヤコは前を見据えた。次こそはターンを回してくれとふくれっつらのケットシーをなだめながら先に進んでいく。

 

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