SBCフリューゲルは忘却の森の中にあるらしく、そこまでの道をシロとイツキの2人で下見に行っていた。
「ねえ、シロ。」
「どうしたの、イツキ。」
2人は息のあったコンビネーションで敵を倒して行く。
「さっきのジャンケンの事なんだけど。」
「うん。」
「僕に運がない事、知っていたよね。」
「…ワスレテマシタ。」
「もう終わった事だし、気にしてないよ。…ただ。」
イツキがエネミーの最後の1体を撃ち倒す。
「このお返しは近いうちに必ずするからね…なーんてね。」
その言葉に固まってしまうシロだった。
「…ここのダンジョンって入れるかな?」
「今はフリューゲルまでの探索を優先した方がいいんじゃないか」
「ちょっとだけ入ろうよ。」
道に逸れた所にダンジョンの入り口を発見して、シロは先に入って行ってしまった。
イツキは仕方ない、とため息をついて、後に続く。
*********
「特にめぼしい物はないねー。」
「レアアイテム落ちてないかと期待したけど、ダメだったね。」
先を歩くシロにイツキは注意する。
「ボス部屋には間違っても入ってはいけないよ。今回の目的はSBCフリューゲルなんだから。」
「分かってるよー。」
本当に分かってるのか…とイツキは2回目のため息をついた。
「…ちょっと待って。」
ふいにシロが足を止める。
それに従って、イツキも止まってシロの方を見る。
シロはいっけん何もなさそうな壁を触って、何かを確かめている。
イツキは周囲を警戒しながら、その様子を見守る。
「イツキ、ここに多分隠し扉があるよ。」
シロがスイッチを押してしまったのか、壁が一部光ったと思ったら、シロの姿が消えた。
「!?」
イツキは慌ててシロが触っていた所を確認する。
どうやら壁にあるスイッチを押すと、隠し扉が起動するらしい。
イツキの体が光って、壁の向こう側の部屋へ転送された。
「シロ!」
すぐさま、シロの安全を確認する。
「私は大丈夫。でもここ…。」
イツキは自分たちが転送された部屋を見ると、大きなトンネルの通路だった。
「気をつけて、ここはトラップ部屋だ。」
「巻き込んでしまって、ごめん。」
「謝るより、生きてここから出る事に専念して。」
この部屋の主であろうエネミーが転送されてくる。
「「!!」」
エネミーの正体を見たシロは記憶を必死に掘り返す。
過去に一度、倒した相手だ。
「シロ、避けるんだ!」
エネミーのバレットラインがシロへ伸びる。
慌てて、目の前の遮蔽物に逃げ込む。
イツキは違う場所から狙撃する。
「思い出した!」
シロはUFGを使って遮蔽物に身を隠しながら近づき、エネミーの背中に乗る。
狙うは背中の急所。
そう、前と同じように背中に乗って、弱点である赤い鉱石を破壊した。
急所を破壊されたエネミーは体を支えることが出来なくなり、ダウンする。
倒れているエネミーのHPを削ることは簡単だった。
「ドロップアイテムは…。あっスナイパーライフルだよ!」
シロはドロップアイテムを持って、イツキのもとへ走る。
「これ、それなりに強いからイツキが持っておく?」
「……。」
イツキが返事をしない。
「イツキ?」
シロはイツキの顔を覗く。
何かを考えこんでいる。
「イツキさーん!ドロップアイテム全部もらっちゃうよー!」
「…。」
「イツキのばーか…。」
シロが悪口を言った瞬間に、イツキが真顔でシロの顔を見る。
驚いて、嘘ですごめんなさい、と謝る。
イツキからは少し怒ってるようにみえるが、
悪口を言った事が原因ではなさそうだ。
「ねぇ、どうしてエネミーの急所がすぐに分かったんだい?」
「えっ…だって、前に一度戦ってるから…」
と言った所で、シロは『しまった』という顔をする。
「そうだね。前も君が倒したんだよ、《エリオス》。」
「…!」
「知ってたかい?君が倒したエネミー、攻略情報は出回ってない。なぜなら、初期のイベント大会でしか、今まで出現した事がないんだからね。」
「…。」
「何か言うことは無いの?」
「イツキ、今まで騙してたみたいで、ごめん。」
「みたい、じゃなくて騙してたんだろ。見てて楽しかったかい?」
イツキのとがった言葉に、シロの顔が曇る。
イツキの言っていることは真実であって、
シロに騙す気がなかったが、謝る事しかできない。
「ツェリスカも…あの様子だよ、知らないみたいだね。」
「うん…。」
「悪いけど、もう帰るよ。」
2人は黙ったまま、SBCグロッケンへと戻って行った。
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グロッケンに着くと、イツキは黙って歩き出す。
そのすぐ後ろをシロがついていく。
「あら、早かったわね~。」
「お二人とも、お帰りなさい。」
ツェリスカとデイジーが出迎える。
「やぁ、ツェリスカ。ちょうど良かった。」
「何かしら、イツキ。それに、シロ…?どうしたの、そんな顔をして。」
「君も知っておくべきだと思うよ。」
イツキはシロを見ながら、ツェリスカに話す。
「いったい何の話?」
イツキは、ダンジョン内で起きたことを話した。
《エリオス》しか知らない事を、シロは知っていた事。
ツェリスカはそれを聞きながら、シロに本当なのか事実を確認する。
「要するに、《エリオス》のアカウントは残したままで、新しく《シロ》のアカウントを作ってるのね。それで、その事を今まで黙ってたと。…これで、あってるかしら?シロ。」
シロはうなずく。
「さすがの僕も騙されたよ。似ているなとは思っていたけど…まさか、ね。」
「イツキ。あなたは少し落ち着きなさい。」
「僕が?僕は落ち着いてる。」
「いつものあなたらしくないわね。言葉の端々にトゲを感じるわよ。」
ツェリスカの言葉にイツキは怒った表情をする。
「当たり前だろう。君だって…!」
「私のことは良いの。今はあなたの事を言ってるのよ。」
「…。」
ツェリスカの言葉にイツキは黙る。
「とにかく、イツキはシロのホームにでも行って、2人でよく話して来なさい。」
「…はぁ。先に行って待ってるよ。」
それだけ言い残すと、イツキは先に行ってしまった。
ツェリスカは今度はシロの方を向く。
「シロ、私も突然のことで驚いているわ。だから、イツキの後は私の所へ来て。」
「ありがとう…それと、ごめんなさい。」
「今は早く、イツキの所へ行ってあげなさい。」
「うん。」
シロは急いで、自分のホームへと向かった。
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シロは深呼吸をすると、自分のホームへ入って行った。
ホームはイツキ以外に人の気配はなかった。
イツキはイスに座って、待っていた。
シロも黙って隣のイスに座る。
「君の話を聞かせてくれないか。」
シロは正直に、簡潔に説明をした。
エリオスでログインをして遊んでいたが、家庭内のトラブルで離れたこと。
クレハに誘われたのがきっかけでまたやり始めたこと。
そして、ちゃんとイツキとツェリスカには話そうと思っていたこと。
「クレハくんは君がGGOをやっていたことは知らなかったんだね。」
「そうだね。この後クレハにも全部話すよ。」
「知ったら、クレハ君はきっと怒ると思うよ。」
「それでも。話すべきだと思う。」
シロの言葉にイツキは見守る事にした。
「それでね、イツキ…。」
そう言いながら、シロが立ち上がる。
「今回の事は、本当にごめんなさい!」
シロは頭を下げて、謝った。
「そうだね…。シロ、顔をあげて。」
イツキの言葉に、シロは顔をあげイツキを見る。
「今度、買い物に付き合ってよ。それでチャラにしてあげる。」
「いや、さすがに…」
「もちろん、全部君のおごりだよ。」
イツキの表情はいつもの笑顔にもどっていた。
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シロはツェリスカとクレハの所へ行って、事情を全部話した。
「あんた、ALOやる時点で私も誘いなさいよ!」
「ご、ごめん…。」
「怒ってるんじゃないの。ゲームはあんたとやってる方が楽しいんだから!」
「そうね。シロのケットシーの姿は興味あるあわね。」
「ツェリスカ…。」
「それより、シロ。あんたはSBCフリューゲルに行く準備しないと。ショップへ付いてってあげるから、一緒に行きましょう。」
クレハはシロを連れて、ショップへ行ってしまった。
残ったツェリスカはイツキのホームへ向かう。
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「イツキはいるかしら~。」
「これは…ツェリスカさん。イツキさんは、いますよ。」
出迎えたパイソンがイツキを呼ぶ。
「今日は何度も君の顔を見る気分ではないのだけど。」
「あら、冷たいわね。お礼の1つも出ないのかしら。」
「何が言いたいのか、分からないなぁ。」
「シロが私の所へ来たわ。」
「…説明しに行くと、言っていたね。」
「あなたにとって大切なものなら、はぐらかさないで、ちゃんと向き合いなさいよ。」
「ははっ。僕はいつだって正直に生きてるさ。」
「そうかしら。指をくわえて待ってるように見えるわ。僕を選んで欲しいって。」
「その『人の気持ちを理解しています』って話し方は気分が悪い。」
「あら、じゃあ私がシロを独り占めしちゃっても構わないのね?」
「…。」
「無言は肯定ってことで受け取るわよ。」
「どう解釈しようが、好きにすると良いよ。」
これ以上イツキに何を言っても無駄と悟ったツェリスカは、邪魔したわね。
と言い残して去って行った。
パイソンはイツキの不機嫌な顔を黙って見つめていた。