「…それじゃあ、ログアウトするよ。」
「ここから先、何が起きるか分かりません。気をつけて下さいね、マスター。」
「うん。」
シロのホームで、レイが見送ってくれた。
ログアウトをしたら、シロはナーヴギアを被って、死銃との戦いに挑むつもりだ。
********
ーー現実世界。
目の前にある、ナーヴギアを手に持つ。
手は微かに震えている。
ましろは大きく、深呼吸するとナーヴギアを被った。
アミュスフィアに比べると、重たくて、暗い。
「リンク、スタート」
言葉と共に、意識は仮想世界へ。
********
暗闇から、目の前に景色が広がる。
無事にログインできたらしい。
シロは隣を見る。
そこには、シロと同じく驚いているレイが、そこにいた。
「……!?マスター、ここはどこなのですか?」
「私にも分からない…。それより、レイはどうしてここに?ホームにいたはずじゃ…」
「はい。わたしは数秒前まで、マスターのホームで待機していました。」
2人はとりあえず、前へ進んだ。
「ちょっと!」
不意に聞いた事のある声がする。
声の方を向くと、なんとクレハがいた。
「なんで、あんたがここにいるのよ!」
「それはこっちのセリフだよ、クレハ。」
「まさか…デスガン…あっ、いや…。あ、あんたの顔は今は見たくないの。早くログアウトしなさい!」
「いま、死銃って言ったよね」
「はい、クレハは確かに言いました。」
「レイちゃんまで…!というか、ログアウトしないなら…」
「ログアウトなら、できないわよ。ログアウトボタンが選択できなくなってるわ。」
「「!」」
今度の声の主は、ツェリスカだった。
「まさか、あなたたちがいるなんてね。」
「ツェリスカまで…もしかして、死銃に?」
「ええ、そうよ。」
ツェリスカとクレハの話を聞くと、2人とも死銃に誘い出されて、ログインしたらしい。
「どこから手に入れたか知らないけど、ナーヴギアを自宅にまで送ってこられたわ…。」
「待って。それじゃあ、私と同じく、2人ともナーヴギアを…?」
シロの質問に、うなずく2人。
この場に居るレイ以外の全員が、ナーヴギアを送りつけられて、被るよう指示があったらしい。
「まだ疑問は残るけど、ここにずっと居るわけにはいかないし、気をつけながら進みましょう。」
周囲を警戒しながら進むと、転送ポートが見えてきた。
「これって…罠だよね。」
「他に道はなさそうだし、ここを行くしかなさそうね。」
「私が先に行ってみますよ、マスター」
「ちょと…レイ!」
止めようとしたときには、既にレイは転送ポートの中へ入ってしまった。
無事にレイは転送されたらしく、姿が消えた。
「私も先に行ってるから!」
レイに続き、シロも飛び込む。
転送された先は、円形の広場だった。
シロの横にはレイもいた。
「こら、危ないから勝手に行かないの。」
「えへへ…。ごめんなさい、マスター。」
そして、ツェリスカ、クレハも続けて転送されてきた。
「ここは…どこなの?」
広場の中央まで歩いて進むと、男性の声が聞こえた。
「やぁ…皆様、お揃いで。」
「!」
シロ達の目の前で、誰かが転送されてきた。
「ようこそ、GGOとは似て非なる、デスゲームの世界へ。」
「イツキ、パイソンさん!」
「嘘でしょ…。」
「どうして、あなたたちまで…」
シロ、クレハ、ツェリスカが驚きの声を上げる。
「それは簡単な話です。私が、死銃だからですよ。」
「えっ!?」
パイソンの唐突な言葉に、ツェリスカはすぐに銃に手を触れる。
いつでも行動できるように、パイソンとイツキの動向に注目する。
「あなたも落ちぶれたものね、イツキ。」
「僕は違うさ。パイソンくんから、このデスゲームエリアの話を聞いてね。楽しそうだから、付いてきたんだ。…ちなみに、僕らの頭にも、ナーヴギアを装着されている。面白いだろう?」
「そんな…」
イツキの言っていることに、動揺するシロ。
パイソンは楽しそうに話し出す。
「これも全部あなたがイケないんですよ。シロ…いいや、《神谷 ましろ》」
「どういうこと?」
全く身に覚えの無いシロは、理解できない顔をする。
「あなたや、あなたを取り巻く人間達がイツキさんを変えてしまった。」
「僕は別に変わったつもりはないんだけど。」
「いいえ…あなたは前とは違う。以前のあなたは孤高でとても魅力的な人でした。」
「…。」
「前にも言ったと思いますが…。《アルファルド》に集まっている私も、彼らも、みんなイツキさんを慕って集まっているんです。それなのに…シロ。あなたが来てから、全てが変わってしまった。」
パイソンはイツキの事を崇拝しているのだろう。
そんなイツキが目の前で1人の人間に固執していく…そんな姿を見るに耐えれなかった。
パイソンの手には銃が握られている。
それをシロに向ける。
「神谷ましろ。あなたはここで死んで罪を償うべきだ。」
「本当に残念だなぁ、ましろ。展望台で話したこと、あれは全部本心だったんだけどね。君との冒険も、ここで終わりみたいだ。」
イツキは自身の襟につけている赤いカフスをトントン、と叩いてウィンクをする。
一歩先にいる、パイソンは、それには気付かない。
「…!」
シロはそれを見て、根拠はないけれど、イツキは敵じゃない気がしてきた。
「パイソン…。私に用があるなら、クレハ達は関係ないわ。ログアウトさせて。」
シロは喋りながら、パイソンとの距離を少しずつ縮める。
「言ったでしょう。あなたと、あなたを取り巻く人間…。それは《黒の剣士》たちも入ってるのですよ。」
「キリト達も…!?」
「あなたたちが死ぬことで、死銃の存在は完成し、イツキさんも前みたいに戻ってくるはず…。」
「残念だけど、みんな生きて、帰るわよ。」
「ログアウトもできないのに、どうやるつもりですか?」
パイソンは勝ち誇った顔で、シロを見つめる。
「イツキ!」
シロは叫ぶと同時に、UFGをパイソンに向けて撃つ。
「!」
パイソンは一瞬驚くが、UFGのことは前から知っていたため、イツキとは反対側に避けた。
「そのくらい、避けられないと…思いましたか?甘いですね。」
「それじゃあ、これは避けられるかな?」
「!?」
パイソンが驚いて、後ろにいるイツキを見ると、ハンドガンの銃口を自分に向けていた。
「あなたは…結局…裏切るのですね。」
「僕は君の仲間になった覚えはないよ。」
「…あなたは、そういう人でしたね。なら、こいつの出番ですね。」
パイソンはメニュー画面を開く。
「…!なにか、よくないものが来ます!気をつけて下さい!」
広場の中心から、何かが転送されてきた。
黒いブラックホールの渦から出てきたのは、マントを羽織ったエネミーだった。
パイソン以外の全員が突然のエネミーに驚き、一瞬の隙をパイソンに与えてしまった。
「きゃぁっ」
「クレハ!?」
クレハの叫び声が聞こえ、視線をうつすと、パイソンがクレハを人質にとり、銃口を彼女に当てていた。
イツキがすぐに銃口をパイソンにあわせる。
「いいんですか?このままでは、彼女の脳はナーヴギアで焼き尽くされて、死んでしまいますよ。」
「イツキ…。」
「悪いけど、僕の1番大切なのは、君だ。」
「私は誰ひとり、死んで欲しくない。」
「僕は君さえ無事でいてくれれば、それでいい。」
イツキは頑に、パイソンに銃口を向けたまま。
「パイソン…クレハちゃんを離しなさい。人質なら、私がなるわ。」
「…悪いが、君のようにずる賢い女性は、嫌いでね。」
ツェリスカの説得にも、パイソンは耳を貸さない。
今度はシロがパイソンの方へ向かって喋る。
「クレハを離して。」
「そうですね…あなたが死んでくれれば、考えてあげてもいいですよ。」
パイソンの言葉に、イツキはいっそう険しい顔をする。
「約束して。私が死ねば、クレハを、みんなを無事に返して。」
「シロ!ダメよ!」
クレハが焦って止めるが、シロはゆっくり広場の端に向かって歩き出す。
「泣ける友情ですね。…そこから飛び降りるつもりですか?」
「自分で引き金をひく勇気はないからね。」
「ダメです!マスター!」
「止めろ、シロ。止めるんだ。」
イツキは慌ててシロの後を追う。
シロは広場の端ーーーフィールドの端へ辿り着くと、下を覗き込む。
真下は雲のオブジェクトしか見えず、自分が高い所に立っていることが分かる。
このまま落ちたら、間違いなくフィールド外の死亡判定を受けるだろう。
「イツキ、そう言えば、また答えてなかったよね。」
「何を…」
振り返ったシロはほほ笑んでいた。
「私がGGOを続ける理由。ーーそれはね、強くなって、イツキの横に立っていたかったんだ。」
「シロ!」
イツキの焦った声が大きく響く。
なぜなら、シロの体が後ろへ傾いたからだ。
シロの背後は何もない。
つまり、そのまま落下すればシステム的に「dead」の判定になる。
支えを失ったシロの体へ必死に手を伸ばすイツキ。
イツキの指先がシロの服を掴む。だが、2人の体はすでに空中へ投げ出されていた。
「マスタアァー!!」
レイの悲痛な叫び声だけが響いた。