ーーー次の休日。
約束した通り、ましろは伊月に会うために待ち合わせ場所に向かった。
ましろの要望で今回は海浜公園に行くことになっている。
この日も予定の時間より早く来たはずなのに、先に伊月が来ていた。
「お待たせ。」
「そんなに待ってないさ。」
伊月が前回と同じく、ましろの上から下まで観察する。
「今日もかわいいね。」
「はいはい、お世辞をどうもありがとう。」
「本心なのに。ひどいなー。」
何も変わらない、やりとりに可笑しくて、ましろはクスクス笑う。
海浜公園へ向かうバスに乗ろうと、停留所へ行くと、すでに目当てのバスが来ていた。
「あっ、あれじゃないかな?」
「慌てなくても、大丈夫だよ。」
バスの中で、伊月はこれから行く海浜公園のページを見せながら、どこへ行こうか話し合う。
*********
2人は海浜公園の中に併設されている、水族館へ向かった。
「綺麗だねー。」
ましろが大きな水槽を下から上に眺める。
水槽の中を大きなマグロやサメがゆっくり泳いでいる。
「君と会った時は、こんな所に来るとは予想もしなかったよ。」
「だって、人のこと、あれこれ探ってたじゃない。」
「まだ、根に持ってる?」
「少しね…。あっあれ見て。」
ましろが指差す先にはエイが泳いでいた。
周囲の人が多くて、自然と伊月はましろの後ろに移動して、ましろを覆うように両手をガラスに触って上を眺めている。
一般的に言う、壁ドンをしている状態だ。
壁ではなく、ガラスだが。
「エイを下から見ると、案外かわいい顔してるんだね。」
伊月の声がすぐ真上から聞こえてきて、ましろは顔を上げる。
「あれって、顔じゃないらしいよ。」
「えっそうなの?」
驚いた伊月が、笑いながら真下にいるましろの顔をのぞく。
「ちっ近い…。」
「ごめんよ。人が多くて、ね。」
笑顔で両手を離して、距離をあける、伊月。
「あっちにペンギンいるらしいよ。」
パンフレットを見ながら、次へ移動する。
「うわぁー!ペンギンがあんなに沢山いるよー!」
ペンギンを目の前にして、ましろのテンションが上がる。
「この後、飼育員の人が餌を食べさせるみたいだね。」
餌やりの時間まで、近くのイスに座って、待つことにした2人。
「伊月さんって…」
「いい加減、伊月、でいいよ。」
「それじゃ、伊月は、今退屈に感じてる?」
ましろが恐る恐る聞く。
「…ましろには、どう見える?」
「うーん。GGOとは違うけど、楽しんでくれてるように…思う。」
「正解。君といると楽しいよ。」
「そっか…。」
よく分からない感情が、ましろをくすぐる。
「あのデスエリアで、君が飛び降りたとき、僕が行かなかったら…どうしてたんだい?」
不意に、気になってたことを質問する、伊月。
「うーん。その時は、その時かな…って思った。でも…。」
笑顔で伊月を見つめる、ましろ。
「何となく、イツキは来てくれるって予感はしたし、実際イツキは手を伸ばしてくれた。」
伊月は困ったような顔を浮かべる。
「…まさか、僕が感情で動く日が来るとはね。」
「理由なんて、後から付いてくるような感覚でしょ?」
「ああ。君を失いたくない。…君がアファシスをかばった時って、こんな思いだったんだね。」
「イツキは…知らないだろうけど。」
「?」
「私って大切なものはぜーんぶ守りたいって思うくらい、欲張りなんだよ。」
「はははっ。あの時も、『みんな生きて、帰る』って言ってたもんね。」
「その通り。…だからね、イツキ。」
「なんだい?」
「私は、イツキをもっと知りたい。全部を理解できるかは自信ないけど、イツキが何を考えているか話して欲しい。話してくれないと、分からないことが沢山あるの。」
伊月が驚いているのか、目を見開く。
「…本当に、いつも僕の予想以上のことをするよね、君って。」
「それって、どういう意味!?」
「褒めてるんだよ。…ほら、飼育員の人が来た。餌を食べさせるんじゃないの。」
ペンギンのエリアには、それを見に人だかりが出来ていた。
「しまった。ちょっと見てくるね」
「僕はここで待ってるよ。」
ましろはペンギンへ真っすぐ向かって行った。
「…言いたいこと、先を越されてしまったな。」
はしゃぐ本人を見ながら、伊月は呟く。
*********
「水族館、楽しかったねー!」
「楽しそうにはしゃぐ、ましろを見るのが一番楽しかったよ。」
「魚を見なさいよ。」
水族館をひと通り見た後は、海沿いの道を歩いていた。
「そういえば、お見合いの話なんだけど。」
「主任とちゃんと話せたのかい?」
「うん。『今すぐって話ではないから、ゆっくり考えなさい。』って言ってたよ。」
「…意外な答えが返ってきたね。」
「あと、伊月のこと、褒めてたよ。何かしたの?」
「うーん。秘密ってことで。」
「うわぁ…聞きたくないから良いや。」
太陽が傾き始め、親子連れの人たちが帰る姿がちらほら見える。
「時間経つの早いなー。帰りたくないなー。」
「こらこら。GGOでも会えるんだから。それに、異性の前でそんなこと言うもんじゃないよ。」
伊月の言葉に、少し不満顔をするましろ。
「ましろ。」
立ち止まった伊月が、ましろを呼ぶ。
振り返る、ましろ。
「どうしたの?」
「聞いて欲しいことがある。」
真面目な顔で言われたので、ましろも姿勢を正す。
「君のことが、好きだ。付き合って欲しい。」
「えっと…お見合いの話の続き?」
「違うよ。そんな話が無くても、好きだって言ってるんだ。」
ましろの顔がどんどん赤く染まって行く。
伊月は手を伸ばして、ましろの顔をあげる。
「好きって言われて、嫌だった?」
「えっ…嫌じゃない。むしろ、嬉しい。」
ましろの言葉に、伊月は満足そうに笑う。
「なら決まりだね。」
「えっ、ちょっと…待って。話が…。」
「これからも、よろしくね。ましろ。」
「いや…だから。人の話を…。」
伊月がましろの口に軽く触れたのは、すぐ後だった。