ここは、とある田舎の村。 名前をハージ村という。
とある三人の少年達が魔法帝を目指し、日々鍛練を積んでいたのだが、
「....なんだこれ。」
この物語の主人公 ノア・レイダスは、漸く手に入れた自分の魔導書《グリモワール》のページを確認しそこに載っていた魔法を使ってみたのだ。そして現れたのは"剣"だった。
もう一度言おう。"剣"だ。"剣"一本だけだ。その剣の見た目は、赤黒い刀身の両刃の剣で銀色の鍔が付いている。握ってみると意外に持ちやすく。それでいてあまり重くは感じられない作りになっている。
「いやまぁ。俺も魔法が使えるようになるのは嬉しいんだけど。なんで"剣"なんだ?...普通、魔法って火や水を出したりするものじゃないのかよ。....訳分かんねぇ。」
ノアが一人、川の岸で呟いていると不意に後ろから誰かに声を掛けられる。
「どうしたノア?さっきから一人で何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「ん?....ああ、なんだユノか。」
ノアに声を描けたのはノアと共に魔法帝になることを夢見て日々鍛練を積んでいるもう一人の少年だ。ユノはノアの隣に座ってノアの話を聞くことにした。
「いや、俺の魔法なんだけどさ、なんで"剣"なんだろうって思ってさ。....普通、火とか水なんだけど何でだろうなって。」
「そうか。....もしかしたらお前以外にも武器を使う魔法の使い手はいるんじゃないのか?」
「そうかな?.......でもそう考えたら何だか気が楽になった。ありがとうユノ。」
「気にするな。それよりアスタのことなんだが。」
「ああ。聞いた。」
アスタとはノア達と同じで魔法帝を目指しているのだが、ただ二人と違う点があり。それは、アスタには生まれつき"魔力"が無いという事だ。
「あいつは生まれつき魔力が無い。だからあいつはグリモワールには選ばれない。....そう村の連中は言ってるが、お前はそう思ってないだろユノ。」
「ああ。あいつが選ばれないなんて有り得ないからな。あいつは俺達以上に努力を重ねている。選ばれて当然の奴だ。」
ユノは空を見上げながらそうノアに話す。
「それで、俺の所に来たのはアスタの事を村の連中と同じ様に考えてるか聞きに来たのか?」
「.....ああ。」
ユノはノアが話すのを少し待ってから聞く。
「俺もお前と同意見だよ。アスタが選ばれない訳ないだろ。俺もお前もアスタは魔法帝を目指すライバルだと思ってる。....だからあいつは絶対に選ばれる筈だ。....違うか?」
ノアはユノの目を見てそう答える。
「.....そうだな。俺達があいつを信じてやらないとな。....ライバルとして。」
ユノはフッと笑い。そうノアに言った。
「そうだな。....さてと、ちょっと行ってくる。」
「アスタの所か?」
「ああ。あいつは絶対に諦めない。なら俺があいつに言う事は一つだけだ。」
ノアはユノにそう言い放ち、その場を後にする。
─────────
教会前。
「アスタ。」
「ん?なんだノアか。.....まさか、お前まで俺の事を馬鹿にして...」
アスタがそう言いかけたが、ノアはそんなアスタにデコピンをする。
「痛って~~~~!何すんだノア!?」
アスタはノアに食って掛かるがノアはただニコッと笑うだけだ。
「バ~カ。俺が何時、お前の事を馬鹿にしたんだよ。俺はお前のその諦めない強い思いが羨ましいんだ。少し嫉妬はするが、お前の事を馬鹿にしたりはしねぇよ。」
「お、おう。それでノア、お前の魔法ってどんなのだ?」
「ん?俺の魔法か。.....えっと、"武器魔法 炎魔の剣"」
ノアが魔導書を開き、そう呟くと魔導書のページから先程の剣が出てくる。
「これが俺の魔法。武器魔法....らしい。」
「らしいってなんだよ。知らないのか?」
「いや、今までそんな名前の魔法。見たことも聞いたこともないからさ、最初にこの剣を出したときも少し戸惑ったんだ。」
「ふ~ん。でもいいじゃねぇかよ。俺なんか魔導書貰えなかったし。」
「そう言うなよ。お前は必ず魔導書に選ばれる。俺とユノはそう信じている。」
「.......そうか。」
「...うし!....なら、今からもう一度魔導書貰いに行こうぜ。もしかしたらまだ余ってるかもしれないしな。」
ノアはそう言って走る。
「ちょっ、おい待てよノア!」
そんなノアを追いかけて走るアスタ。二人は何処か楽しげに走って向かうのだった。
───────────
授与式会場。
そこではユノの四つ葉の魔導書を狙った魔法使いがユノを拘束していた。
「では魔導書を頂こうか。」
男がユノの魔導書を奪ったその時、
「「ちょっと待ったー!!」」
アスタとノアが男の前に飛び出した。が、アスタは寸での所で転んでしまいそのまま壁に転がっていってしまう。
「アスタ...!それにノアまで....!」
「よう。ユノさっきぶりだな。....それよりなんだ、こいつは?」
「俺の魔導書を狙った盗賊だ。」
「成る程。なら渡す訳にはいかないな!」
"武器魔法" 炎魔の剣
ノアは剣を取り出し、男に立ち向かっていく。
「そうだ!魔導書は授かった奴だけの大切なものだ。渡すかよ!」
アスタも男に向かって走っていくが、男は魔法で鎖を出してアスタを捕らえ、壁に叩きつける。ノアは男の不意を突いて剣で斬りつけるが、男は鎖で剣を防ぎ、アスタと同じ様に壁に叩きつける。そして男はアスタに向かってこう言った。
「頑張ったお前に良いことを教えてやろう。お前には魔力が一切無い。生まれつきだろうな....そりゃあ魔法が全く使えない訳だ...!!」
男は更にアスタに言い放つ。
「お前はこの世界じゃなぁ~んも出来やしない。何もかも諦めな。生まれながらの負け犬くん...!!」
(そうだよな。努力してもどうにもなんねー事もあるんだよな....もう"諦め"─)
アスタが諦めかけたその時、
「オイ...誰が負け犬だ...!!アスタは、俺のライバルだ!」
ユノがそう男に言った。
「は?」
「そ...うだ。俺のライバルでもあるんだ。アスタを馬鹿にすんじゃねぇよ!」
ノアも立ち上がり、ユノに負けじと男に立ち向かっていく。
が、やはり防がれてしまう。その時、
「まだだ...!!!」
先程まで諦めかけていたアスタの瞳に光が灯り、男を睨み付ける。
「情けねーとこ見せたな....ユノ、ノア。ちょっと待ってろ...今、こいつを倒す...!!」
アスタが男を睨み付けると、突然横の壁から黒く汚れた何かがアスタの前に飛び出してきた。
「...魔導...書....!?」
「...やっぱりな...アスタが選ばれないなんて...ありえねー...!!」
すると魔導書のページから黒く汚れた大剣が出て来てアスタの前に突き刺さった。
「やっとか、全く待たせやがって。....アスタ、やるぞ!」
「ああ。いくぜノア!!」
アスタとノアがユノの魔導書を取り返すため、タッグを組む。
「な...何なんだそれはぁー!? 魔力の無いグズがぁぁぁぁぁー!!!」
男は鎖で応戦するが、アスタの大剣が鎖に触れた途端、消えてしまう。
「俺の魔法を...無効化したー!?」
「魔力が無くてもオレは魔法帝になるぁぁぁぁぁ!!!」
「魔法帝になるのは俺だぁぁぁぁぁぁ!!!」
アスタとノアが男に対して同時に斬りかかり、吹き飛ばして壁に叩きつける。
「いょっしゃーい!! 何か知らんけど魔導書手に入れたぁー!!」
「やれやれ、やっとだな。....!?」
その時、ノアが何かに気付いた。
「な、なぁアスタ。その魔導書、ちょっと見せてもらっていいか?」
「ん?別にいいぜ。..ほら。」
アスタがノアに自分の魔導書を手渡すと、ノアは魔導書の表紙をしきりに眺める。
(この魔導書.....俺のと、同じだ。)
ノアは自分の魔導書を手に取ると、表紙を確認する。
ノアの魔導書とアスタの魔導書には同じ"五つ葉"の模様が描かれている。
(俺の魔法って、もしかして普通じゃないのか?.......いや、それよりもアスタは、)
ノアはアスタの方に顔を向けるも、アスタは不思議そうな顔をするだけだった。
(気付いていないみたいだし、黙ってよう。)「いや、何でもない。俺の勘違いみたいだ。....悪いな、アスタ。」
「いや、別にいいぜ。」
ノアはアスタに魔導書を返すと、男が落としたユノの魔導書を拾い、そのままユノに返す。
「大丈夫か、ほらお前のだ。」
「ああ、ありがとう。ノア。....お前に助けられたのは初めてだな。」
ユノはノアから魔導書を受け取るとそうに言った。
「貸し一つだ。....何時か返してくれればそれでいいからさ。其れよりも。」
ノアはアスタの方に顔を向け、ユノに何かを言いたげにする。するとユノは、暫くしてから頷くとアスタに向かって歩いていく。
「アスタ。また...助けられちまったな...この借りはいつか必ず返す...!」
「約束...憶えてるか?」
「ユノこそ憶えてたのかよ。」
二人は互いの拳を合わせて向き合う。
が、まだ何も言わない。
「おい!何やってんだノア。お前も来いよ!」
「え!?俺もか?」
ノアは突然、アスタに呼ばれ、少し戸惑いを見せる。
「...俺は二人の事知ってるから待ってたんだけど。」
「何を言っている。お前も魔法帝を目指すなら、俺達とはライバルだ。....それにノア、お前さっき言ったろ。"俺のライバルでもある"って。」
ユノの言葉にノアは頭を抱えて踞る。
「あ~言わなきゃ良かった!」
「何言ってんだ、ほら。」
「おっと。」
アスタがノアの腕を掴んで立ち上がらせる。
「はぁ。分かった。」
ノアはアスタとユノが合わせている拳に自分の拳を当てる。
「「「誰が魔法帝になるか勝負だー!!!」」」
こうして、アスタとユノ。そしてノアは魔法帝になるべく新たな第一歩を踏み出すのだった。