マルスの眼前に剣を手にし、立ちはだかったノアが彼と鍔迫り合いの状態となっている。
「フンッ!」
マルスはノアの剣を弾き、ノアはそのまま後方へと下がる。
「ミモザ、下がってアスタの回復を頼む。」
「は、はい。」
ミモザにアスタの治療を頼み、ノアはマルスに再び向き直る。
「何故だ...何故俺の前に立ちはだかる。」
「決まってるだろ....お前が俺達の邪魔をするからだ。」
マルスを睨み付けたノアは、剣をマルスに向かって投げつける。
「こんなもの......!」
剣を弾き飛ばし、ノアを攻撃しようとするマルス。しかし、
「なっ...!?」
その直後、ノアは彼の前から姿を消したが、
「くっ...!!!」
背後に気配を感じ取り、更に守りを固める。
「くっ...やっぱ硬いな。」
マルスの背後に現れたノアは再び剣を投げ、マルスの眼前に姿を現す。
「貴様...何だその力は...!?」
「ファントムソードだ。」
「ファントム...ソード...?」
聞いたことの無い名前にマルスは疑問符を浮かべる。
「聞いたことが無いのも仕方ない....これは遥か昔の時代に存在した国の、歴代の王が使用した武具の総称だからな。」
「過去の...国?」
「この武器の使い方は...手に取るように分かる...こんな風にな!」
再度、ファントムソードである賢王の剣を投げる。
するとまたもやマルスの眼前に移動を成功させたノアがマルスに斬りかかる。
「くっ...またか...!」
マルスは、巨大な腕でガードして攻撃を受け止める。
「やるな...だったら、これはどうだ?」
自身の魔導書から複数の剣や短剣を召喚し、ノアは四方に投げ付けた。
「さぁ行くぞ魔導士....覚悟はいいか?」
ノアが目の前から消えたと思ったら、背後に、続いて左右に、移動を続けて攻撃を繰り返す。
「まだまだ行くぞ....オラッ!」
最初は見えるスピードで移動と攻撃を繰り返していたノアだったが、次第に速度を上げ、現在マルスの目には残像しか見えなくなっていた。
(くっ....どこだ....一体奴は....何処に!?)
マルスは必死でノアの姿を目視しようと試みるも、やはり残像しか見えないでいた。
「これで...終いだ...!」
ノアが再びマルスの眼前に姿を現した時、彼の手には新たな大剣が握られていた。
淡い光を放つそれを片手で回し、マルスに斬りかかった所で、
「甘い!」
マルスに受け止められてしまう。
「勝負あったな。」
勝ち誇ったようにマルスはニヤリと笑みを浮かべた。
だがノアは、
「どうかな?」
マルスと同様、勝ち誇ったようにニヤリと笑みを浮かべた。
「なに?...まさか..!」
その直後、大剣は四つの剣に分離し、ノアの持つ一本を残して空中に浮かび上がった。
「オラッ!」
残った剣でマルスを打ち上げ、ノアは飛んだ。
「これで決める...!」
先程のファントムソードでの瞬間移動...シフトブレイクほどでは無いものの、残像を生み出しながらマルスに次々と攻撃を繰り返していく。左右から次々と、残像を作っては斬撃を加えていく。そして、計15回もの斬撃を加え、ノアは地上に降り立った。
「合体剣1st...奥義、超究武神破斬Ver5...!」
空中に分離した剣は全て、ノアを中心として彼の周囲に円を描くように突き刺さった。
「これなら....奴も......動けない...筈だ。」
流石に連戦だった為か、ノアは肩で息をしていた。
「ミモザ、アスタの回復が完了したら次は...!」
奥義を決めたノアの身体は、背後から無数のハルパーによって貫かれた。
「な...に...?」
ノアはその場に倒れ、身体はハリネズミのように串刺しになり、召喚していた剣は全て彼の魔導書に戻った。
「お前みたいな甘い奴が...俺に勝っては駄目なんだ...!!」
ノアの身体に穴を開けたマルスは、うわ言のようにそれを呟きながらノアへと迫っていく。
(奴の炎回復魔法はアスタの斬撃で解除されている...!!今なら止めを刺せるというのに━━━...!!)
(もう少し...!!もう少しでこの拘束を解ける...のに━━...!!)
((間に合わな━━━━━))
そしてマルスが近付いてレーヴァテインを振り下ろそうとした時、
「ノア━━━━!!!」
いち早くマルスの鉱石を破壊してノアの助けに入ったのは、ユノであった。
(俺の魔導書のどの魔法を使っても間に合わない━━━━こんなところで...死なせない!!!!)
ユノの思いが確固たる意志となった時、彼の魔導書に描かれた四つ葉が輝き始め、ユノは眩しく感じて目を閉じる。
(━━━━...?)
直ぐ様目を開くと、自身の周囲の時が止まったようにアスタ達は静止していた。
右隣を見ると、妖精らしき存在が眠そうに欠伸をしている。
(一体....何が?)
ユノはこの現象の正体に未だ、理解が追い付いていなかった。
妖精が目を擦ってから息をフゥッ、とマルスに向かって吹き掛ける。
すると時が戻り、マルスはタイタンの重鎧から背後の壁に叩きつけられていた。
『!?』
ノエル達は何が起こったのか理解できず、衝撃を覚えていた。
「...ユノが...やったのか............!?一体何を━━━...!!」
マルスが倒れた事により、クラウス達を拘束していた鉱石が解除されていく。
「魔法が...解けた......!今度こそ...倒した.........!!」
ユノが再び妖精のいた場所に目を向けるも、そこには何も居らず、魔導書のページを捲るとそこには新たな魔法が追加されていた。
(...これは...さっきの巻物の文字.........!?)
どうやら妖精の息吹きとも言うべき攻撃がユノの新たな魔法のようだ。
アスタの使用した剣も、彼の魔導書に吸い込まれていき、アスタの魔導書も新しいページが追加された。
「ミモザ...俺はいい...ノアを...」
「は...はい━━!」
アスタの治療に専念していたミモザ、アスタの容態が安定した事を確認すると、直ぐ様ノアの治療に移ろうとした時、
突如として魔宮内の崩壊が始まる。
「.........!!これ...は...!!」
「魔宮が...崩壊する...!!」
「............!!」
どうすべきかと悩んでいたノエル達だったが、そこでユノが動いた。
《風創成魔法"天つ風の方舟"》
「みんな乗れ...脱出する!!」
ラックが直ぐ様ノアを抱えてユノの魔法に飛び乗り、他の面々もそれに続いて乗り込む。
「ミモザ...ノアを頼む...!!」
「はい━...!.........!!」(これは..........!私の残りの魔力で治せるか━━...)
「ユノ」
「アスタ...!」
回復したアスタがユノに話しかけた。
「あいつも...助けてやれねえか?」
指を差した方向には、先程ユノが倒したマルスが転がっていた。
「な.........!!何を言っているのだ...!?奴は我々を殺そうとした敵国の者だぞ━━━━...!?」
「アスタの...言うとおりだ...」
「...喋らない方が......!」
ノアはミモザの言葉が聞こえていないのか、そのまま言葉を続けた。
「...俺...達は......魔宮を攻略しに...来たんだ.........敵を...殺...しに...来たんじゃ...ない.........」
それだけ言うと、ノアは気絶した。
ユノは倒れているマルスを凝視し近付こうとしたが、マルスとユノの間に巨大な瓦礫が落ちてくる。
「...もう無理だ!間に合わん...!行くぞ━━!」
ユノは皆を乗せて、出口を目指そうとする。しかし、頭上からは魔宮を構築していた壁や天井がどんどん崩れ落ちてくる。
「............」(どこに行けば━━━...!?ミモザは今"魔花の道標"を使えない...!)
その時、ラックがユノに言った。
「右だよ。」
「!」
「僕が案内する!!」
「はい━━━...!!」
ラックが感知能力を駆使して出口までの道のりをユノに伝える。
だが、瓦礫は次々にユノ達の脱出の妨害となっているため、次々と落下してくる。
《鋼創成魔法"旋貫の激槍"》
《雷魔法"迅雷の崩玉"》
瓦礫をクラウスとラックが魔法で破壊する。
(━━━━絶対に...)
(ノアを...)
(死なせません.........!!)
(((((生かして...ここから出る━━━━!!!)))))
━━━━━━━━━━━━━━
「な...なんだ━━━...!?」
「魔宮が崩れるぞ━━!!」
崩れる落ちた魔宮、その瓦礫の中から飛び出す一団。
『助かった━━━...!!』
それは、魔宮に入っていったアスタ達であった。
ノア以外、全員が無事に脱出を成功させて瓦礫の中から飛び出す。
「...ノアをあっちに運ぼう━━━━...」
時を同じくして、ユノ達から少し離れた場所で、
「...いや~~~~~彼らが道を作ってくれたお陰で助かったね.........!」
そこにはアスタ達が戦ったダイヤモンド王国の魔導士 ロータスが宝物を積んだ自身の魔法で創成した乗り物に乗っていた。
「オジサンのとっておきの隠し玉透明になれる"隠者の濃煙"で実はずっとそばにいたのバレなかったね~~~~...何はともあれ生きててよかったよかった。」
ロータスの隣には、倒されたマルスがいる。
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マルスは夢を見ていた。過去に体験した...辛く、悲しい記憶を...
「...なんで...なんで━━━━━━━」
"ファナ"を手にかけ、絶望しているマルスの顔に触れる手。
そこから炎が上がり、マルスを癒す為に包み込む。
「............!!」
(傷が...癒えていく...!?)
『...ああでもしないと...マルス...私を殺せないから............』
「............!」
『一番強いマルスが...一番...生き抜ける可能性が高い.........』
『私の文まで...外の世界を見て来てね...マルス......!』
それが、マルスの見た"ファナ"の最期であった。
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目覚めたマルスは、まだハッキリとしない意識でボーッとしている。
「お、気がついたかい?マルスくん」
「.........ロータス...?」
「いや~ご苦労様!君のお陰でこんなにお宝が手に入ったよ~」
ロータスの言葉と周囲の様子を見て、思い出す。
(...すべて...思い出した.........)
"ファナ"とした約束を....
「ロータス...」
「?」
「助かった...感謝する。」
マルスの言葉を聞いて、ロータスは嬉しそうに微笑みを見せた。
「なぁんだ...そーゆーことちゃんと言えるんじゃん。」
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「あいだだだ...」
「俺...生きてる...のか...?」
「アスタ...ノア...!」
「よかった...!」
魔宮から脱出してから数分後、漸くアスタとノアは目を覚ました。
「無事ならいいのよバカスタ、ノア。」
「信じられませんわ━━━とんでもない回復力です...!」
「ノアは兎も角...アスタは丈夫なとこだけが取り柄だから。」
「何だとユノォ~...!他にもなんか色々あるわぁぁ...!」
それに、とアスタが続けて、
「魔法帝になるまで死んでたまるか...!」
「魔法帝になるのは俺だ...!」
そんな二人を見て一言、
「俺も忘れるなよ~」
と、弱々しくノアも口を開いた。
「おう!」
「当たり前だ...!」
そんな三人を見て、
「お前ら.........」
「クラウス先輩」
クラウスが詰め寄ってくる。
「本当に...」
何をするのかと、ユノが構えていると、
「すまなかった!!」
まさかのハグしながらの謝罪であった。
「下民だのとお前らを認めなかった自分が恥ずかしい...!!...お前達はクローバー王国の素晴らしい魔法騎士だ...」
「メガネのダンナ...イタイ...」
「先輩...暑苦しいです...」
抱き締められたアスタは吐血し、ユノは冷めた様子でクラウスに言い放った。
「なんだと!?せっかく私が━━━...」
「なんだお前イイメガネだったのか...!」
「イイメガネとはなんだ貴様あああ!!」
「クラウスさんは真面目すぎるだけですわ。」
「ねぇねぇユノくん!今度僕とやろうよ!」
「え イヤです。」
「ん?ノエル服がすげー破けてるぞ」
「キャアアアアア///」
「ノア...」
「やれやれ...って、クラウス...さん?...なんで、俺の方に近付いて....って、まさか...!...いや、今はやめましょう?....俺一応、重病に...」
「すまなかった!!」
「ギイヤアアアアア!!!!」
最後の最後にクラウスの抱擁+謝罪によって塞がりかけたノアの傷口が開いてしまい、大量出血を起こして再び気絶。
結局、最後まで締まらないノア達であった....