「ゲホッ···ゲホッ···!」
一人の少女が、苦しそうに咳き込み寝込んでいる。
(やって···しまいましたわ···)
彼女の名前は ミモザ・ヴァーミリオン
魔法騎士団 《金色の夜明け》団に所属している一人の魔導士である。
そんな彼女が何故寝込んでいるのかというと、
(まさか、ノアさんのお見舞いに行った翌週に私自身が風邪を引いてしまうなんて···)
―――――――――――
先週のこと、ノアが風邪を引いたとたまたま近くを歩いていたフィンラルから聞いたミモザ。その時はフィンラルがナンパに誘っていたが、全く聞いていなかった。
と、いうよりもミモザは自分の命の恩人であり、何故か気になっているノアのことが心配になり、それどころではなかった。
そんなことよりも今はノアの見舞いに行きたい。そう思ったミモザは、話を続けるフィンラルにノアの居場所を訪ねた。
「此処···ですわね」
フィンラルの空間魔法でノアの居る場所まで連れてきてもらったようだが、彼女の目の前には、古く寂れた様子の建物が建っているだけであった。
それまで、ミモザは此処が最低最悪な魔法騎士団で知られている《黒の暴牛》団のアジトだということを知らなかった。というか、ぶっちゃけるとノアは一人で此処に住んでいるとばかり思っていた。
(ノアさんったら···こんな寂れた所で暮らしてるなんて···)
何をどう勘違いしたらノアが一人で暮らしてるなんて考えられるのか分からないが、その時のミモザは少なくともそう考えていた。
ノアが、聞いていたら「え?何でそう思った?」と口にしていたことだろう。
ミモザはノアの部屋がどこにあるかフィンラルから聞いており、急いで向かうことにした。因みに、ノアの部屋はアジトの一階それも外側の近くにあるのだが···
「何処にノアさんがいるのか分かりませんわ」
どうすればいいのだろうか?そう考えていたミモザの中で一つ案が浮かんだ。
《植物創生魔法 魔花の道標》
こんなことで魔法を使うのはどうかと思うが、全てはノアの為である。ミモザはこれにより、ノアの部屋を突き止めて窓から侵入した。まるで泥棒みたいだが、ミモザ本人は気にしていないようだ。
そしてノアのベッドに入り込み、ノアの横顔をジッと見つめていた。
(ノアさん···苦しそう···)
見るからに
「······めろ」
「ん?」
ノアが何かを呟いた事に気付いたミモザはノアの声を聞くために彼に近付いていく。
「俺は···何も悪くない···!!!」
「!」
普段見せることの無い涙を流して、そう呟いたノアにミモザは自身の心が苦しくなるのを感じた。
「俺は···俺は······!」
「大丈夫ですよ。」
ノアが言葉を発する前に、ミモザは自身の胸にノアを抱き寄せて頭を撫でる。
「例え、ノアさんの事を…この国の人達全てが…馬鹿にしたとしても···私だけは、いつもノアさんの味方ですから···だから、泣かないでくださいまし。」
ミモザがそう言うと、聞こえたのかノアは涙を止めてそのまま眠りに着いた。
「ノアさん···」
この時、ミモザは自分の胸の内で何か熱いモノを感じていた。
(何でしょうか…この感覚は…?)
それが“恋”だという事に彼女が気付くのはもう少し先のことである。
そして、ミモザもいつの間にか眠ってしまった。
その後ノアは目を覚まし、暫くしてこう叫ぶのだった。
「風邪が伝染るだろうが!!!」
―――――――――――――――
「まさか···ノアさんの言うとおりになるなんて···」
あの日の事をふと、思い出してそうミモザは呟いた。
(そういえば、ノアさんは今日···何をしてるのでしょうか?)
本来ならば、任務でクローバー王国を離れているであろうとミモザは思い出し、任務に行ってるのだろうと自己完結した。
「心細いですわ···ね。···風邪を引くと、こうなるのは分かっていましたが···」
今は昼過ぎ。ミモザはひとり、部屋で寝込んでいるためか心細く感じていた。
(何故でしょうか···こんな時までノアさんの事を思い浮かべるなんて···)
あまりにも寂しさを感じた為か、いつの間にかノアの事を思い浮かべていた。
「ノアさん···」
いつでも全力で戦い、時には庇ってくれたり守ってくれるノア。そんな彼の事を思い浮かべては直ぐに頭からかき消し、また思い浮かべるミモザ。
そんなことをしていると、次第に顔が赤くなっていくのを感じていた。
(な···何で私、こんなにノアさんの事を考えているの···!?)
自分でも分からない。なぜこんなにも彼のことを意識しているのかなんて、とベッドの中で蹲るミモザ。
(そういえば、あの時···)
ミモザは叙勲式であった事を思い出していた。
――――――――――
「今回の魔宮攻略、確かに彼女にも落ち度はあったのでしょう···しかし、彼女の回復魔法がなければ我々は死んでいたかもしれない···彼女を辱めるだけでなく、評価すべき点は評価すべきではないでしょうか?」
そう言って彼 ノア・レイダスは自分の前に立ち、物怖じすることなく庇ってくれた。
(この人は他の人とは違う。レオポルドさんやフエゴレオンさんならまだしも、他の人は私の魔法しか見てくださらない。なのにこの人は、ちゃんと私を見て、そう言ってくださる)
それが、ミモザにとっては何よりも嬉しかった。自分の事をちゃんと見てくれている人がいたということ。自分の力を認め、自分の代わりに立ち向かってくれた事。
ミモザはノアに感謝している。今までも、そして恐らくはこれからも
「ノアさん···会いたいですわ···」
そう呟き、ミモザは再び眠りに着いた。
――――――――――――――
「ミモザ!」
暫くしてレオがミモザの見舞いにやってきた。しかし、どうやら興奮している様子だがそれでもミモザが目を覚ますことはない。
「おっと、ミモザは眠っているんだったな いかんいかん。」
外から差し込む光からもう夕暮れ時であることがわかる。どうやらミモザはずっと眠っていたらしい。
「よく眠っているようだ····帰るとするか。」
そう言ってレオは自分の騎士団へと帰るのだった。
――――――――――――――
「······れで、よしと」
(んう?)
レオが見舞いに来た後、暫く眠っていたミモザだが、誰かの気配を感じ、目を覚ました。
「後は、書き置きを···」
声の主は何かを作っていたようで、それが終わると机の上に書き置きを残した。
それと同時にミモザも段々目を覚ましつつあった為、誰が来ているのかやっと理解し始めた。
「これでよし···さて、ミモザを起こさないように出ていかないと」
「!」(この声は···!)
漸く目覚めたミモザは誰が来ているのか理解し、踵を返した時、慌てて引き止めようと“彼”に手を伸ばす。
「ま···待ってくださいまし!」
慌てていた為かミモザは見舞いに来た“彼” ノアのローブの裾を掴んでいた。
「あ······///」「や、やぁ···ミモザ元気そうで何より。」
ノアと目が合った途端、ノアは笑顔をミモザに見せ、それを見たミモザは、
「キャアアアアア!!!」
と大声を上げ、顔を真っ赤にしてしまった。この時、近くに誰も居なかった為何事もなかったがもし誰か居ようものならノアは犯罪者扱いされていただろう。
――――――――――――――――――
「は···恥ずかしいですわ···///」
淑女が出してはいけない声を出し、大騒ぎしてしまったからかミモザは恥ずかしそうに布団を頭まで被ってしまった。
「気にしないで···それと、事情はレオから聞いた···何か出来る事はないかと思って薬を作って来たんだ。」
ノアは近くの椅子に座り、そう告げた。
「薬···ですか···?」
恥ずかしがるミモザを宥め、目的を伝えるノア。ミモザは目元まで布団を下げてノアを見た。
「あぁ。俺が子供の時、シスターに教えてもらった薬だ。」
そう言ってノアが手に取ったのは緑色の液体であった。
「あの···これは···?」
初めて見る異様な液体に、ミモザも少し引いている。
「一応薬草を煎じて作った薬なんだけど···俺が子供の頃に飲んだ薬と同じものだから飲めるとはずだけど···」
「えぇ······」
飲みたくはないのかミモザは身をよじって逃げている。
「まぁ、後で飲んでくれればいい···それよりも、水分をしっかり取った方がいい。その方が、治りも早くなる。」
「え、えぇ分かりましたわ。」
アドバイスを貰った為、後で試そうかどうか少し悩むミモザ。初めて見た薬(と呼ばれた緑色の液体)に戸惑っているようだ。
「それじゃあ、風邪が感染るといけないし···もう行くよ」
「えっ···!?」
「今はゆっくり休んだほうがいいよ、それじゃあ俺はこれで」
そう言って立ち上がろうとした時、
「ま、待ってください!」
ローブを思いっきり掴んで引き戻そうとするが、
「うおっ!?」
突然だったからかノアはバランスを崩してその場に後ろから倒れてしまう。
「あっ···ご、ごめんなさい!」
「ミモザ···意外と力あるな···イテテ」
ノアも受け身を取り損ねて蹲っている。
「あの···もう少しだけ、此処にいて下さらないでしょうか?···その、心細くて···」
恥ずかしそうに照れた様子でもじもじしながらそう言うミモザ。
「う〜ん···」
ノアはミモザの体調が気掛かりだったが、本人の要望とあっては仕方ないと考え、
「分かった。それじゃあ、俺は何をしたらいい?」
「そうですわね···」
少し悩んだ後、
「ノアさんの話が聞きたいですわ。」
そう言って、ノアに笑顔を見せるのだった。
――――――――――――――――――
それから、ノアはミモザに色んな話をした。
「今日はアスタとペアで討伐任務に行ってきたんだけど···偶然レオ達と鉢合わせちゃって···そしたらレオが、アスタに『どっちが多く倒せるか勝負だアスタ!』って···アスタも『乗った!』っていつの間にか任務そっちのけで···」
「あらあら、レオさんらしい···」
と、微笑みながら話を聞いていた。
他にも子供の頃の思い出などを話していた時、
「そういえば、ノアさんっていつから魔法を使えるようになったんですの?」
この世界では、魔力を持っていれば誰でも魔法を使うことが出来るようになるのだが、発動出来るようになるまでに個人差があるのだ。
それも人によってはかなり異なっており、例えば早くて4歳から使えるものもいれば、遅くても8歳から使える者もいる。
ミモザの質問はこれを指しているのだ。
「そうだな···確か、5歳くらい···だったと思う。」
「早かったんですね···因みに私は6歳からでしたわ。」
「そうか。」
「ノアさんが初めて使った魔法はなんですの?」
「そうだな···」
ノアは自分の思い出を遡り、思い出す。
―――――――――――――
『あれは、確かユノのネックレスが奪われた時の事だった。』
「オイ、お前!それはユノの物だ返しやがれ!」
我先にアスタがネックレスを奪った男に立ち向かう。
「うるせぇな、ガキがこんなもん持ってるほうが悪いんだよ。」
男は無茶苦茶な事を言って煙に巻こうとしている。
「だったらお前も、大人のクセに子供のもの盗ってんじゃねぇよ。」
ノアはそう言って男に立ち向かった。
「うるせぇ!ガキが知ったような口聞いてんじゃねぇ!」
そう言って男はアスタ達に殴りかかってくる。
「うるせぇ!いいから返しやがれ!」
アスタも負けじと殴りに行く。
しかし、大人と子供では体格差や色々と違う為アスタが負けてしまう。
「返しやがれ!!!」
それでも負けずにまた立ち上がるアスタ。
殴られるアスタ。
立ち上がるアスタ。
ノアはアスタがやってくれると信じているのか何もしない。
いや、してはならないのだ。そう考えていた。
その時、
「こうなりゃヤケだ!オラァ!」
何度も立ち上がるアスタに苛ついたのか、男は懐からナイフを取り出し、アスタに向かって襲いかかろうとする。
「アスタ!」
ノアが慌ててアスタの元へと向かう。
アスタは突然のことで反応が遅れてしまう。
「死ねぇ!」
男が振りかぶった瞬間、
「やめろぉ!!!」
ノアの叫びに答えたのか、男に向かって炎が飛んでいった。
「な、何だこれ!」
炎は男を包み込むと男のポケットから奪い取ったユノのネックレスをアスタに投げつけた。
「おっと」
「これで取り返した。ユノの所に行こうぜ。」
「お、おうそうだな!」
アスタはそう言うとそのまま走っていってしまった。
「さて、」
ノアは炎に包まれた男を冷たい目で睨み付ける。
「あばよ、クソ野郎···!」
ノアは魔法を解除することなくその場を去り、ユノの元へと戻るのだった。
―――――――――――――
「···アさん···」
「···」
「ノアさん!」
「!」
「どうされたんですの?話の途中でぼーっとされていたみたいですが···」
「······」
どうやら少し過去に戻っていたようである。
「いや、何でもない···それよりも、他に聞きたいことはあるか?」
「そうですわね···」
この後も、日が暮れるまで二人の話は続いたそうだ。
――――――――――――
後日、
「おはようございます。皆さん。」
「ミモザ···!もういいのか?」
「はい!ノアさんのおかげです!」
ミモザは任務先でノアとばったり遭遇する。
「病み上がりなんだから無理しないようにな。」
「大丈夫ですわ、むしろ休んだ分働かないといけませんから···!」
「そうか?でも···」
「え···!?」
ノアは突然ミモザの額に自分の額をくっつけた。
「うん。熱は無いみたいだ。」
ノア本人はミモザの体温を確認するためにしたようだが、ミモザ本人からすれば思わぬ急接近であった。
ミモザは興奮と緊張のあまり、顔を真っ赤にしてそのまま倒れてしまった。
「はひゅう···」
「ミモザ!?うわ!すごい熱!やっぱり休んでた方が良かったんじゃないのか!?」
それを遠くから見ていたノエルは一言
「バカなんじゃないの···?」
と、呆れてノア達を見るのだった。
もっと、尊い作品が書きたいです。