「十六夜咲夜」
紅魔館を管理する者の中で、彼女程の働き者はまずいないだろう。
彼女は、この紅魔館の主に仕えるメイド長で、多分この紅魔館に住んでいる唯一の人間である。実質的に紅魔館の一切を取り仕切る立場におり、家事一切をほぼ一手に引き受けている。
この徐の能力での効果か、館の空間操作まで行っているので、実質彼女無くして「紅魔館」は成り立たないだろう。
そんな彼女の後に付いていくシンヤは、最近どうなの?と聞いたりしてこの静寂を消そうと気楽な言葉をかける、そんなシンヤに彼女は「そうですね、最近はどこかの誰かさんの為に健康食のご勉強が楽しみであります」
と皮肉を言いながら返して来た。
これには流石のシンヤも思い当たることが多すぎて、言い返すこと出来なく小さな声で「面目ない」と呟き、
「しかしなんで俺に健康食なんかを?」と聞き返すと彼女はこう言い返してきた。
「父親が娘の心配するように、娘が父親のことを心配するのは当然のことです」
父親。彼女が自分に向かってそう言うようになったのは随分昔のことである。
あの寒い冬。まだ幻想郷も誕生する前。ある国で放浪していた私は、裏路地で寒さに震えやつれ、寒さを防ぐ為か踞っていた銀髪の女の子が見つけた。
私がその子に近づこうとすれば、女の子は怯えているのだろう、私から距離を置くが私は近づいて怯える女の子を抱き締めた。
女の子の耳元である言葉を囁いた。
「ようやく見つけたよ可愛い我が子よ」
それが私と咲夜との出会いであり、咲夜が私をお父さんと呼ぶようになった出来事であった。
未だにお父さんと呼ばれるのは中々なれないけどね。
「お父さんは相変わらず。誰かの世話になりやすいのだから普段から気を付けてよ?」
だってこうして自分の娘に説教されてるから、時々父親としての威厳がないのかな~と思ってしまうことが多々感じられる。
この前も可愛がろうと頭撫でたら、流石にもう恥ずかしいのか顔を真っ赤にして怒られた。もう昔の自分とは違うと言うことかな~、巣立ちした子供がいるとこんなにも心に虚無を産み出すのか、改めて子を持つ父親の気持ちが理解できた。
「お父さん」
咲夜に呼ばれて咲夜の方に俯いている顔を上げると、急に抱き締めてきた。
「ふふ、やっぱりお父さん匂いは落ち着くわ」
突然のことでオドオドしてたシンヤであったが、そんな咲夜の満悦な顔を見れば落ち着きを取り戻し、こちらも抱き締め昔の様に頭を撫でたりする。
「くすぐったいわお父さん。だけどこれが大好きよ昔も今も。恥ずかしいけど、さっきお父さんが妹様の頭をこうして撫でている場面を見てて嫉妬しちゃって」
といってきた咲夜に対してシンヤは自分の娘可愛い過ぎないか?マジ尊過ぎて、顔がにやけていた。
俺今度からここに住み着こうかな~と呟くと、駄目ですわと答え、自分から離れる咲夜。
「お父さんがここにずっといたら、お父さんを縛り付けてしまう。旅に行かせない様にしてしまう。お父さんから自由を奪ってしまってはならない。確かに私や御嬢様たちは喜ぶけど、こうしてたまに来てくれるだけでも喜んでくれるわ。それに」
「お父さん言ったよね?普通に生きるのが俺の夢だって。だからお父さんは今までのように、私も頑張るから」
昔俺がある人から教えてもらった言葉である、それを咲夜にも教えた、「夢なんてなくても生きていける、普通に生きるのが俺の夢だ」と。
咲夜がどれだけ自分の事を思っているのかがわかったシンヤの後ろから、巨大な殺気を感じ、恐る恐る後ろを振り返って見ると、フランとは違う吸血鬼の特徴である羽を持ち、この紅魔館の主「レミリア・スカーレット」が激怒してこちらを見ていた。
助けてもらおうと咲夜の方を見るが姿はなかった。
時を止めてる間に離れたのだろう、まぁ仕方ないと諦めたシンヤは激怒状態のレミリアに引っ張られながらどこかに連れてかれる。
そんな途中で、ごめんねお父さんと言う声が聞こえたシンヤは改めて娘は可愛いと再確認するのだった。