「ああ、くそっ……殺せなかった……」
屈辱に苛まれる死柄木。十分な戦力を備え計画を実行し自分にミスはなかったと憤慨し苛立ちを感じている。
USJから撤退した死柄木はバーの床に俯せに倒れていた。
「完敗だよ……。手下どもは瞬殺された……。生徒も強かった……かなり邪魔された。――……そして、なにより……!!」
死柄木はモニターに向かって叫ぶ。
「……オールマイトは衰えているんじゃなかったのか!? 先生!」
「そんな事はないさ、弔。確かに殺せなかったが、実際オールマイトは全盛期のそれよりも数段弱い。今回は、見通しが甘かった」
モニターに映っている死柄木から先生と呼ばれた人物は、死柄木や黒霧の報告を受けていた。
「脳無はどうだった? わしと先生の最高傑作なんじゃが……」
「オールマイトを追い詰める事は出来ましたが、最後は殴り飛ばされました。……
そこでもう一人の主犯、プルトンが口を挟む。
「回収可能だったのは私のおかげでしょう。まあ、自分の為でもあるけど。……それにしても、あんな入試を合格しただけあって中々強かったねえ、生徒たちも」
「……生徒。ああ、そうだ。あのガキめ、最後にあいつが邪魔さえしなければ……!」
「うん、あいつは凄かった。あのスピード、オールマイトにも匹敵するんじゃないか?」
「ほう……」
オールマイトに匹敵する子どもの話に興味を持った『先生』は、機嫌良く相槌を打つ。
「ところで、約束通りあの脳無は私にくれるんですよね、先生?」
「もちろん、君に従うように改良しておこう」
「待て、何の話だ?」
『先生』とプルトンの会話の内容に不満があったのか、話を遮る死柄木。
「何の話も何も、今回の襲撃は私の『個性』の実験も兼ねさせてもらったんだ。オールマイトには勝てなかったけど、実戦でも問題なく活用できた。結果如何に関わらず、あの脳無は私専用にさせてもらう」
「ああ? まさかお前手ェ抜いたりした訳じゃないだろうな?」
「それこそまさか。真面目にやらなきゃ実験にならないし」
と、そこまで聞いた死柄木は苛立ちを隠そうとともせずにその場から離れる。
「荒れてるなあ、弔。あんなんで襲撃した意味ないですよね?人集めたりとかの手間が無駄になっちゃったか……」
「無駄じゃないさ。今回の事は必ず弔の糧となる。ヒーローもヴィランも関係ない。失敗から学ばせ、成長を促す。それが教育には大切なのさ」
「はあ、なるほど。そんなもんなんですね」
「ああ、そんなもんなのさ。――――それで、君のもう一つの目的はどうだったんだい?」
唐突な『先生』からの質問に、プルトンは笑顔で答えた。
「見つけました」
「そいつは、良かったじゃないか。これでようやく君の復讐が始まるわけだ」
プルトンは笑顔のまま首を横に振り否定する。
「いやいや、私のは復讐なんて仰々しいものじゃないですよ。……ただの八つ当たりです」
◇◇◇
「負けた……勝てなかった……。……それに……、あれは……」
敗北感に苦しむアレン。自らの実力を過信していた事を改めて実感し、その傲慢に羞恥を感じている。
更に、死柄木に追い詰められた時の事が引っかかっていた。ヴィランとの戦闘中に生じた、その違和感を無視できないでいた。
USJを襲撃したヴィラン連合が撤退した後、アレンは孤児院に帰宅してからずっと自室で思い悩んでいた。
そしてしばらくして、部屋にノックの音が響いた。コンコンという音にふと我に返ったアレンは入室を促した。
「……どうぞ」
普段、アレンの部屋にノックする者は限られている。マナーに気をつけている硝子とアレンに対して兄弟子としてある程度の敬意を持っている弾、そして基本的に孤児院にいる唯一の大人である瀬和、この3人が該当する。
幼い子供二人はそもそもノックをしない。大人がアレンに用がある場合は、基本事務所に呼び出される事が常である。
この時、アレンは無意識にこの3人が呼びに来たと思っていた。しかし、ドアを開けて現れた人物は硝子でも弾でも瀬和でもなかった。アレンの師匠、毒島がアレンの部屋を訪れていた。
予想外の訪問者に目を見開いくアレンだが、次の瞬間には元の表情に戻った。
「珍しいですね……。師匠が部屋まで来るなんて」
「雄英からヴィランに襲撃されたって連絡がきた。で、仕事終わらせて事務所に戻ったら、お前が帰ってからずっと部屋で悩んでるみたいだって心配してる子どもたちに様子を見てくれと頼まれた。だから来た」
皮肉交じりのアレンに毒島は部屋に来た経緯を簡素に説明した。
「アレンは何を悩んでんだ? 雄英から聞いた限りでは、全員無事にヴィランを退けたそうだが……、何かあったのか?」
「チンピラのような敵を何人か倒して、思い上がってました……。主犯格には手も足も出なかった……! どころか、
アレンは毒島に対して素直に心情を打ち明け始めた。
「……それだけじゃない。ヴィランの言葉を間に受けて、オールマイトのピンチに手を出せなかった。
己の慢心を、後悔を、羞恥を、今感じている自身の弱さの全てを曝け出していた。
そんなアレンの言葉を聞き終えた毒島は口を開いた。
「……真面目だなあ……アレンは」
「……え?」
「いや、真面目じゃなくて自信過剰か? 全く反省しないのはどうかと思うが、アレンは考えすぎだ。……初のヴィランとの戦闘で何もかも完璧に出来るわけないだろ。お前は未熟、まだプロヒーローじゃない。これからヒーローになるんだ。今抱えてるその気持ちは、成長の糧にするくらいの心構えでいろよ!」
「……そう、ですね。『慢心していた』と考える事が慢心ですね。……――自分が最適解を選んで行動すればなんとかなる、だなんて思い上がりも甚だしい……」
一つの悩みが解決したアレンだが、新たなに発見した自身の無意識の思いに恥ずかしがる。
「ふふっ……。それで悩みはもうないか?」
「――んんっ! ……ええと、師匠に確認したい事があるんですが……」
アレンは咳払いをし場の空気を真面目なものへとリセットさせ、話を次の話題へと変える。
「……? なんだ?」
「……ああ、いや、すみません。やっぱりいいです」
アレンは話さなかった、残っている悩み、疑念を。それは疑心暗鬼に陥ってしまったが故に話せなかったのである。その疑念が当たっていた場合の事を考え話す事を躊躇ってしまった。
もし仮にアレンの想像した事が事実であったなら、それは、
――――この左腕、
この質問がアレンが毒島に尋ねようとした疑念である。
これは、アレンが脳無に捕らえられた際に相澤の『個性』で死柄木の『個性』を抹消した時に生じた違和感から思い至ったものである。
あの時、アレンの
しかし、アレンの左腕はオールマイトに救出されるまで、ずっと発動状態を維持していた。
その時のアレンは、自分の失態を反省していた為、漠然とした何かを感じつつもその事を気にしてはいなかった。が、自室で冷静になって反省の為、自分の行動を全て一から思い返す事で気がつく事ができた。
脳無というヴィランの存在も、この疑念に拍車をかけている。
相澤との戦闘から脳無のオールマイトと同等のパワーは『個性』によるものではなく素の身体能力だという事が明らかである。
そして、死柄木の言っていた『作られた』という言葉。あれほどの力を人工的に作る事が可能ならば、自分の
「そうか。なら私は戻るぞ、仕事残ってるし。……今日は早めに寝ろてゆっくり休むように」
毒島は考え込んでいるアレンに、声を掛けて部屋を出ていく。
その際、口から溢れた呟きはドアを閉める音と重なり、アレンの耳には届かなかった。
――――勘付いたか? お前の……に……
因みに1Aから消えた人物は砂藤力道くんです。
嫌いって訳じゃないんですけど、『個性』がワンフォーオールの劣化版っぽいしいいかなって、まあ、そんな理由です。
彼のヒーローアカデミアを期待していた読者の方には、すみません。