憐れな敵《ヴィラン》に魂の救済を   作:エキストラ

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準備

 ヴィラン連合の襲撃から2日後の放課後、アレンたちの所属する1年A組の教室の前には大勢の他クラスの生徒で人集りができていた。

 

「待てコラ。どうしてくれんだ。おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」

「関係ねえよ……」

 

 敵情視察、宣戦布告などの目的で集まっていた生徒を前に不遜な態度で対応する爆豪。A組にヘイトが集まったと言う切島に対して、爆豪は関係ないと一蹴した。

 

「上に上がりゃ関係ねえ」

 

 一同はそんな台詞に思わず息を飲む。

 

「く……!! シンプルで男らしいじゃねえか」

「上か……一理ある」

 

 それまで静観していたアレンが口を開く。

 

「まあ、どんな意図であれ初対面であの対応はダメでしょう……。本当にヒーロー志望なんですか? 彼は」

 

 近い位置にいてその呟きが聞こえていた緑谷は、爆豪を庇うように呆れ顔のアレンに話しかける。

 

「かっちゃんはヒーローになるよ、絶対に。そこだけは何があっても変わらないし譲らないと思う」

「そんなもんですか……。ところで緑谷、頼みたい事というか相談したい事があって、これから少し時間貰っても良いですか?」

「え? ああ、うん。良いよ」

「ありがとうございます。僕らの『個性』に関する事です。詳しいことは外に出てからで……」

 

 アレンは廊下にいる生徒を搔きわけるようにして移動し始める。

 

「『個性』に、関する……?」

 

 緑谷に緊張が走った。出会ったばかりのクラスメイトに自分の秘密――『ワン・フォー・オール』について何か知られたのではないかという疑惑。緑谷は言いようのない不安を胸に抱えたままアレンの後を追った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「端的に言うと、一昨日使った僕の『個性』について黙っていて欲しいんです」

 

 校舎から出て演習場にたどり着くと同時にアレンは話し始めた。辺りに人影はなく、そこにはアレンと緑谷の二人しかいない。

 いったいどんな会話が始まるのかと不安に駆られていた緑谷はほっとしつつアレンに確認する。

 

「それってあのヴィランに攻撃した時の左腕のこと? 授業で見た時とは違う形になってた……」

「それの事です。体育祭が終わるまでお願いします」

 

 緑谷の脳裏に浮かんだのはヴィランに捕らえられているアレンの姿。あの時、アレンは左腕を爪から大砲へとその形状を変化させ攻撃していた。ピンチになってから使用した事から、あれは秘密兵器だったのだろうと緑谷は判断した。朝、相澤から連絡があった体育祭。勝つ為の考えなのだろう。

 

「奥の手的なものとして隠しておきたいって事か……。うん、わかった。誰にも話さないよ! ……あれ? そういえば、僕以外にも見られてたよね?」

 

 あの場面には他の生徒も何人かいた事を緑谷は思い出した。

 

「はい。あの時近くにいた常闇と蛙吹、峰田には昼休みに頼みました。因みに蛙吹と常闇には口止め料として今日の昼食代を代わりに払いました」

「……峰田くんには?」

「峰田には、師匠の写真を渡しましたよ。あ、緑谷にも差し上げましょうか? 写真なんてあまり出回ってないからレアですよ」

「それは……! 是非っ!」

 

 眼を輝かせ、即座に首肯する緑谷。

 ドクの写真は以前、雑誌のインタビューをした時くらいのものしか存在しない。非常に珍しく入手困難な代物である。ヒーローオタクである緑谷には願っても無い言葉だった。

 喜ぶ緑谷にアレンは声をかける。

 

「では、君の『個性』について話をしましょう」

 

 一転、その一言で緑谷から歓喜の感情が消え狼狽する。

 

「ぼ……僕の『個性』? なん、で?」

「一昨日の朝、僕の十字架(左腕)について話した時、制御の仕方について聞こうとしていたじゃないですか。緑谷は『個性』をコントロールできていないんでしょう。だから一緒に訓練しませんか?」

 

 思い掛けない提案を受けて言葉に詰まる緑谷。自身の『個性』の真実は誰にも知られてはいけない。ならば、制御の訓練を共に行うのは悪手ではないのかと考えられる。

 しかし1人で訓練するよりも実際に『個性』の暴走を訓練で克服し制御したというアレンの助言が欲しいのもまた事実。

 そこでふと緑谷は疑問に思った。

 

「どうして訓練に付き合ってくれるの? 奥の手を準備する程、体育祭は勝ちたいんでしょ? だったら、僕の訓練なんてしない方が……」

 

 緑谷はそこまで口にして少し後悔した。わざわざ自分の為に訓練の提案をしてくれたクラスメイトに対して失礼な事を言ってしまったのではないかと。

 そんな緑谷の心中とは裏腹に、アレンはあっさりと答える。

 

「確かに体育祭では競い合う敵同士になりますけど、困ってる人に手を差し出さず見過ごすようではヒーローにはなれないと思います。それに『個性』を扱い切れずにいるって不安じゃないですか。少なくとも僕はそうでしたから……」

 

 後半からは、アレンは少し照れたように指で頬をかきながら自身の考えを伝えていた。

 そんなアレンの考えを聞いた緑谷は決めた。

 

「ありがとう。訓練……、僕からお願いするよ。『個性』を制御する為に協力してくれるかな?」

「はい、もちろん」

「……それで、訓練って具体的にどんな事をするの? というか、そもそも亜蓮くんは実際にどうやって制御したの?」

 

 緑谷は以前質問し聞きそびれていた事を改めて確認した。もしあの襲撃事件がなければ、その日の放課後にでも聞き自身の『個性』の制御にも参考にしていただろう。

 しかし、不幸中の幸いか緑谷はあの事件で制御を可能にする一つの()()()()を得ていた。

 

「僕の場合は、……ええっと、そうですね。簡単に言うと『必殺技』のようなものを作りました」

「『必殺技』? 授業の時に使ってた十字架ノ墓(クロス・グレイヴ)とかヴィランに攻撃してたアレの事?」

「はい、十字架ノ墓(クロス・グレイヴ)はまさしく僕が『個性』をコントロールする為に編み出したものです」

 

 アレンは緑谷から距離を取り十字架(クロス)を発動させた。左腕は瞬時に銀色の巨大な鉤爪へと変化する。

 

十字架(これ)を使用している状態での安定した攻撃行為を、必殺技として身体に定着させたんですよ。同じ行動、一連の動きを繰り返してイメージとして頭でも覚える。そうすると、余計な力を込めずに十字架(クロス)を扱えるようになりました」

 

 説明の途中でアレンは緑谷から少し離れた方を向いて十字架(クロス)を構え、そして振るう。

 

十字架ノ墓(クロス・グレイヴ)!」

 

 地面に叩きつけられた力は地割れや隆起、砂埃など様々な形で現れる。その規模は緑谷がいる位置の直ぐそばにまで及んだ。

 

「こんな感じで今ではイメージ通りに使いこなせます。緑谷は『個性』を制御している自分がイメージできますか?」

「制御している自分……。一昨日、一度だけヴィランを殴った時腕が壊れなかったんだ。初めて人間に使おうとしたから無意識のうちに力をセーブしたんじゃないかって」

 

 緑谷は昼休みにオールマイトと話した内容を思い返しながら喋る。殴った瞬間のイメージは忘れないようにずっと反芻していた。

 

「なるほど……。それなら取り敢えず、そのイメージで僕に殴りかかってください。もちろん()()()()()使()()()

「へ?」

「もし力が抑えきれなかったとしても、十字架(クロス)で受け止めれば大怪我しないと思います。なので僕の心配は要りません」

 

 アレンは有無を言わせず、左腕を自身の体格程の大きさまで巨大化させ地面に突き立て固定させ構える。緑谷からはアレンの姿が十字架(クロス)に隠れている。

 

「緑谷は自分が怪我しないように制御する事だけを考えて殴ってください」

 

 銀色の腕の陰に姿は隠れ声のみが緑谷に届く。どんな表情をしているのか緑谷からは見えないが、その声から真摯な思いは伝わっていた。

 訓練とは言え、未だに制御できていない力をクラスメイトに向かって振るう事に迷いを感じていた緑谷。しかしアレンの声を聞いた事でそれを断ち切った。

 

「それじゃあ、いくよ……!」

「ええ。どうぞ!」

 

 すう、と息を吐きながら右腕を後ろに引く。

 

(電子レンジのワットを下げて、卵が爆発しないイメージ。……そして()()()の腕が折れなかったパンチ)

 

 緑谷は脳内で何度も何度も、繰り返し、イメージを反芻させながら十字架(クロス)に殴りかかる。

 

(卵が爆発しない、爆発しない、しない。腕が折れない、折れない。爆発しない。折れない)

「Smash!!」

 

 緑谷の拳が十字架(クロス)に突き立てられる。

 両者ともに全く動じず、二人の間を風が突き抜ける。

 

「……い――」

「い?」

「痛い……」

 

 アレンは十字架(クロス)の陰から顔を出す。そこには右手を抑え蹲る緑谷。

 アレンからは予定外の痛みに地味に悶絶しているように見えた。心配になったアレンは十字架(クロス)を小さくさせ近づき、しゃがみ込んでいる緑谷を覗き込む。

 

「大丈夫ですか? 赤くなってますけど。まあ、折れてないようでなによ……――ん?」

「ダメだダメだ。卵が爆発しないイメージとヴィランに対して攻撃した時の記憶がゴチャゴチャになってた。ワン・フォー・オールを使う事への意識が薄くなってた。怪我しなかった結果を思い出しても意味ないんじゃないか……? 殴った瞬間の記憶を思い出して……いや、違う。そうじゃない。出力を抑える事を考え過ぎてたんだ。今はまだ100か0なんだ。そりゃ出来る限り小さくしようとしたら0になるよな。当たり前だ。だったら――」

 

 アレンは痛くてしゃがみ込んでいると思い近づいたが、そんな事はなかった。緑谷はぶつぶつと只管呟いていた。

 

「あの、えっと……緑谷?」

「――なるべく単純に……。あ、ごめん」

 

 アレンに声を掛けられた緑谷は、やってしまったという表情で謝罪した。

 

「つい考え込んじゃって……。亜蓮くんもこんな感じの訓練してたの?」

「僕の場合、制御できなくても自分の身体へのダメージは心配無かったので、緑谷よりは気楽にやらさ、……やってました」

 

 アレンは一瞬言葉に詰まるも話を続ける。

 

「……あと最近は()()()()()を意識してます。何の為にこの力を使うのか。威嚇の為、救助の為、勝利の為……。目的意識がはっきりしていればどの程度の威力が必要になるかより明確になりますから」

「目的……か……」

 

 再び考え込み始める緑谷に苦笑しつつ、アレンは雄英の実技入試のことを思い返していた。

 アレンは試験終了間際に一人の生徒を救ける為、巨大仮想ヴィランに立ち向かった。十字架(クロス)を十全に扱う自信はなかったものの身動きの取れない生徒を背にして全力で攻撃したのである。

 しかし、その場面を見ていたという毒島は、あれは100%の力ではないとアレンに伝えていた。100%の十字架(クロス)の力即ち、初めて十字架(クロス)を発動させ暴走したアレンを知る毒島の言葉に間違いはない。

 では、何故アレンの意思とは裏腹に力がセーブされたのか。それは救ける為に『個性』を発動させたからだとアレンは結論付けた。

 あの時アレンの意思通りに100%の力で十字架(クロス)を開放していた場合、ほぼ確実に暴走していた。これはその後の訓練でも100%は制御できなかった事から確信した。

 あの場面で十字架(クロス)を暴走させていたら、救けたいと望んだはずの生徒すら巻き込んで大きな被害を引き起こしただろう。

 アレンは無意識のうちにその可能性を恐れていた。だからこそその時点で制御可能な範囲の力で仮想ヴィランに対抗したのである。

 この一件でアレンは十字架(クロス)を制御するコツを掴んだ。その結果、一時的に相手の行動を止める為の攻撃、投降を促そうと実力を見せ付ける為の威嚇、感情に身を任せたヴィランを倒す為の一撃、どんな時も意識的無意識関わらず『目的に見合った出力での攻撃』を可能になった。

 

「今度は僕の全身が見えるようにして、やりましょうか。さっきのだと()()()()()って感じじゃなかったですね」

「え、ああ。うん、お願い!」

 

 その後、二人の訓練は緑谷のケータイが鳴り慌てて帰宅の準備を始めるまで続いた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……ただいま」

 

 帰宅したアレンは普段よりも疲労していた。肉体的に、というより精神的に、だ。訓練は怪我なく終わったが中々疲れるものであった。

 拳が十字架(クロス)に直撃する寸前まで、緑谷の『個性』がちゃんと発動しているのかがわからない。よって毎回100%の力で殴られる事を想定して構えなければならなかった。集中力を持続させる必要があった為アレンにとっても良い訓練になったと言える。

 

「おかえりー」

「おかえりなさい」

 

 リビングでくつろいでいた弾と硝子がアレンを迎える。

 そんな二人に対してアレンは開口一番。

 

「お腹空いた……」

 




おまけ
【昼休み、食堂にて】

アレン「グラタンとポテトとドライカレーとマーボー豆腐とビーフシチューとミートパイとカルパッチョとナシゴレンとチキンにポテトサラダとスコーンとクッパにトムヤムクンとライスあとデザートにマンゴープリンとみたらし団子20本で」
ランチラッシュ「!?」
アレン「全部量多めで」
ランチラッシュ「!!!?」
梅雨ちゃん「……亜蓮ちゃん、全部食べられるの?」
常闇「暴食の化身……」
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