憐れな敵《ヴィラン》に魂の救済を   作:エキストラ

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オリキャラを持て余し気味なこの頃

今回はオリキャラしか登場しません。



●REC 孤児院

 私の名前は玻璃硝子。プロヒーロー、ドクが運営する孤児院に二年前から暮らしている中学三年生の少女。

 これは、そんな私が暮らしている孤児院のとあるひと時の記録。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 時刻は早朝6時過ぎ。私は『ドクヒーロー事務所』の敷地内にある訓練施設『トレーニングホール』にいる。ここでは2人の少年が組み手を行なっている――はずだったけど、今は休憩中の様子。話を聞いてみましょうか。

 

「お二人はいつもこの時間に訓練をされているんですか?」

「ん? 唐突な質問、というかその口調とそのカメラは?」

「これは昨日買ったばかりの新品。とても、とっても、使いたくて堪らなくなったの。なので、インタビューでもしようと思って……。口調は……それっぽくしたかったのよ。いいでしょう? 別に。さあ、質問に答えて?」

「……ええと、そう、訓練についてでしたね。最近は基本的に僕1人での訓練なんですが、今日は久しぶりに弾と一緒ですね」

 

 微笑みながらそう答えたこの白髪の少年は、亜蓮行人。彼はこの孤児院の設立時からいる古株。そのせいなのか敷地内の施設や構造、規則には大半の職員より詳しい。

 そして、雄英高校に通う高校一年生だ。そう、雄英高校、先日ヴィラン連合を名乗る集団から襲撃を受けた事は未だに注目の高い話題である。

 

「先日襲撃事件がありましたけど、何かお話聞いてもよろしいですか?」

「よろしくない。流石にそれは無理ですよ。言っちゃいけない事が多いし……でも、まあ、もっと頑張らなきゃとは思った……」

 

 ……どうやらあの事件は、良くも悪くも行人に対して大きな影響を与えたらしい。

 

「なるほど。ところで体育祭の日が迫ってますが、意気込みを聞かせてもらっても?」

「師匠から『優勝しろとは言わない。けど、優勝しなかったら……まあ、ふふっ。楽しみにしとけ』って言われました……。優勝目指して頑張ります……」

 

 あ、表情が消えた。死んだ目になってる。可哀想に……。

 さて、弾にもインタビューしないと。

 

「最近、訓練されてないとの事ですが、何かあったんですか?」

「俺は訓練したいんだけどさ。行人からも師匠からも受験生なんだからもっと勉強しろってうるさくて……。今日みたいに、偶にしか付き合ってくれないんだよなあ」

 

 訓練の疲れのせいか、はたまた勉強のストレスのせいか億劫そうにしている少年の名前は、伸張弾。私と同じ中学三年の受験生……。雄英志望だけど学力に関しては不安しかないから、少なくとも入試までは勉学に集中して励んでもらいたい。

 

(同じ学校に通いたいし……)

 

 この2人はドクの弟子であり、プロヒーロー直々に鍛えられている。尤も対人戦闘の手解きを受けているだけなので弟子というのは、少し大袈裟なような気もする。

 救援ヒーロー『ドク』彼女は災害救助、治療が主な活動のヒーローだから、ヴィランと戦闘する事はほとんどない。『自分が負傷し動けなくなれば救ける事の出来る人々が救えなくなる』からだと本人は言っていた。けれど、当然、戦わなければならない場面はある。そんな時は決して怪我を負わない立ち回りでヴィランと戦っていた……。

 彼女の格闘術の基礎は回避。ドクはその『個性』の体質上、短時間の接触、接近だけでヴィランを行動不能にし捕らえる事が可能。医療従事者としての立場もあって、無用な怪我を負わせない為にも積極的に攻撃しない。話術で相手の攻撃を誘導し、それに合わせてカウンターを仕掛ける。これがドクの基本戦法である。

 弟子である2人はこの戦法を身に付けている。もちろん、ドクと比較すると完成されているとは言えないレベルではあるが。

 

 

 いくつか質問をしていると、突然ホールの扉が開かれる。

 

「お、やっと来た」

 

 そう呟いた弾の視線の先にはぐったりとした毒島がゆったりと歩いていた。顔色は悪くないが、なぜか不健康そうな気配を漂わせている。首には初めて見るチョーカーを着けている。後頭部あたりに手を当てながら口を開いた。

 

「お早う。……アップは済ませてるな? ……まず弾と私。適当にアレンが交代か参加」

「おう!」

 

 毒島先生が一言、二言言い終えると二人の組み手が始まった。弾が突きや蹴りで攻めて、毒島先生は只管防御している。

 

「休日は一日中寝てるのに……珍しいわね」

「そんなことないですよ。最近、休みの日は、この時間に僕らと一緒に特訓してます。とは言っても、今月は初の休日ですけど」

「ふ~ん……ん? 『僕ら()()()()特訓してます』って、先生自身の特訓にもなってるの?」

 

 行人の言葉に引っ掛かりを覚えた私は聞き返した。

 勿論、毒島先生も技術を衰えさせないために、向上させるために訓練を定期的に行っている。しかしそれは『特訓』と呼ぶほどのものではない。

 

「『個性』のデメリットを克服する技を完成させるために最近始めたんですよ」

「先生の『個性』のデメリット……。確か、疲労が溜まるのと時間が掛かる、だったかしら」

「それは、それまでに生成した事のない毒薬を生成する場合のデメリットですね。一度、生成したものは割と楽らしいですよ? 今回の特訓で克服を図っているのは『個性』の連続使用によるデメリットです。師匠、毒島薬理の『個性』のデメリットには段階があります。まず第一段階が精神的な疲労、そのまま使い続けると第二段階の過剰な眠気に襲われます」

 

 アレンの解説の途中も毒島先生と弾の組み手は続いている。毒島先生の動きが以前見学した時と少し違うように見える。避ける動作よりも受け止める回数が多く感じる。

 

「本来ならこの段階で眠りに就くので、それで終わりです。しかし、そこで師匠が思い付いたのが『常に眠気覚ましの薬を体内に生成しとけば良いじゃん』です」

 

(……ええぇ〜。仮にも薬剤師がそんな考えで良いのかしら)

 

「『個性』の過剰使用(オーバーワーク)に脳は耐えきれず身体を休ませようと睡眠を促すが、薬により阻まれ活動は止まらない。そんな状態に陥ります」

「それって大丈夫なの? 身体的にも精神的にも」

「大丈夫じゃありませんでした。ハイになります。リミッターが外れて身体機能は上昇しますが思考は単純に口調は短絡的に行動は直線的になります。早い話が暴力的な性格に変化します。しかも時間が経過するほど強まる。通称、狂化中毒(ドーピング・ホリック)。一度なってしまうと眠るまで戻りません」

 

 唖然。デメリットを打ち消そうとして、新たなデメリットを生み出している。

 

「……もしかして……今それ?」

「はい。まさしく狂化中毒(ドーピング・ホリック)ですよ。それをある程度制御することが師匠の特訓ですから」

 

 そこで行人はふと思い出したように問いかけてきた。

 

「――というか、硝子は知らなかったんですね。いつも師匠の手伝いもしてるのに」

「私がやってるのは、薬品の整理とか簡単な事務仕事の手伝いよ。いくら先生の部屋にいる事が多くても知らない事は知らないわ」

 

 毒島先生は弾に殴りかかり、避けられた。先程まで防戦一方だった先生が徐々に攻めに転じていた。

 いつものカウンター戦法ではなく積極的に攻撃している。この戦い方は狂化中毒(ドーピング・ホリック)(何だこの名前)故という事なのだろうか。

 

「どうした!? そんなもんか? ああ!?」

 

 乱暴な言葉とともに先生が果敢に攻める。打撃技では弾の『個性』の性質上、効果的なダメージは与えられない。そんな事は先生も承知のはずだが、殴る、蹴るといった単純な攻撃しか行っていない。おそらく、弾は身体的ダメージを全くと言っていいほど負っていない。

 しかし、優勢なのは毒島先生だ。攻守が逆転し始めてから5分足らず、弾は唯の一度も攻撃できていない。殴ろうとすれば肩を突かれ、蹴りを放とうとすれば足を踏まれ、攻撃の起点を悉く潰されていた。

 

「身体機能の上昇って、格闘戦で弾に対してあんなに一方的なほどなのね」

狂化中毒(ドーピング・ホリック)だけが理由ではありませんよ。あそこまで一方的になっているのは師匠が『攻め』のみの戦法だからです。」

「……攻めるだけで、強くなるの? だったら普段からあの戦い方にしたらいいのに……」

 

 私の呟きに行人は苦笑しながら答える。

 

「いえ、あれは狂化中毒(ドーピング・ホリック)の特性によって可能なんですよ。強化された身体――――」

 

 行人の説明の最中にも組み手は止まらない。先生の猛攻に弾は対応しきれなくなっている。

 

「――っと。すみません。そろそろ交代するので、質問は弾にお願いします」

 

 行人は駆け出すと同時に『個性』を発動させ、そのまま真っ直ぐ二人目掛けて突き刺すように伸ばす。

 その銀色の鉤爪の介入に弾は後方へ跳ぶことで回避し、毒島先生は両手を横から当てそこに小規模の()()を発生させる事で軌道を逸らす。

 回避した弾は、文字通り跳ねるように移動して私の近くまで下がり、行人と先生から離れた。

 弾は座り込んで荒い呼吸を整える。

 

「……ふぅ〜。やっぱりキツいな」

「少し聞いてもいいかしら?」

「……ん?」

 

 返事をするのが億劫なのか、弾は言葉を発さずに質問を促す。

 

「あの状態だとどうしてあんなに強いの? 身体機能が上昇するとは別に戦い方がどうのって行人が言いかけてたのだけれど……」

「知らん――」

「はぁ?」

 

 思わず間抜けな声が出てしまった。

 

「――知らんってか、……聞いたけど理解できなかったから忘れた」

 

 弾らしいと言えば弾らしいけれど、はあ……。

 

「そう……。なら他の質問、どうしてあの距離で戦い続けたの? 離れた位置から腕なり脚なり伸ばして攻撃したらいいじゃない」

 

 二人の組み手を見ながら考えていた。

 狂化中毒(ドーピング・ホリック)時に使用できないのか使用しなかったのかは分からないが、毒島先生は毒を使わなかった。つまり、離れた相手に対する攻撃手段がなかった事になる。

 ならば、弾は先生から距離を取り遠距離攻撃に徹する事が最善の策だったのではないか、と。

 しかし、弾は行人と交代するまで後退する事はなかった。

 ……オヤジギャグ…………。

 

「訓練だからな」

「え?」

 

 下らない事考えて、ぼーっとしてた……。気をつけないと。

 

「これが本番、ヴィラン相手の戦闘だったら俺も距離を取ったけどさ。でもまあ訓練だし、好きなやり方で良いかなあ、と思った」

「いい加減なのね」

「適当にやってんだよ。有利な状況でなくとも勝つ為の訓練だと考えてくれ。師匠も攻撃手段に『個性』を使ってない以上、俺も『個性』を使った攻撃はしたくなかったし」

「ふーん……そういえば行人も最初の一撃以外『個性』を使ってないわね」

 

 弾と先生の組み手とは異なり、先生の動きに行人が対応している。

 先程は弾が攻撃を仕掛けようとする度に、先生はその起点を悉く潰していた。今回は行人からは攻撃せずに、先生の行動に合わせて動いている。常にカウンターを狙った動きをしている。

 

「あの事件があってから『個性』の訓練より体術やら素の格闘訓練ばっかりやってる。『個性』は学校で、基礎はここで訓練するってさ」

「基礎ねぇ……。弾はどうなの? さっきは真正面からの殴り合いだったけれど……カウンターは仕掛けなかったわね?」

 

 ふと思い付いた疑問を弾に投げかけると唇を尖らせ露骨に目を逸らされる。何となく聞いてみただけなのに……。

 

「……あの状態の師匠と向き合ってると、落ち着かないというか、こう……、思わず攻撃したくなるんだよ。多分、そういう感じの興奮剤的な何かを放出してる可能性も――」

「いや、行人は冷静に組み手してるのだからそれはないでしょう。弾の性格の問題ね」

 

 そんな会話をしている内に、初めはなんとか対応できていた行人も徐々に明確に劣勢になっていた。今やほとんどの攻撃をそのまま受けている。行人の表情は痛みによって歪んでいる。

 

「おいおい、そんなもんか?! ああ?! 未熟な技でどうにかできるわけねぇだろ!! その不完全な『個性』でも使ってみろや!!」

 

(…………。先生の口調は最早チンピラのものになってるわ。アレを聞いて「あ、ヒーローだ」と思う人は極少数でしょうね……)

 

「あと少しだから俺もやってくるわ。そろそろ行人1人だと辛そうだし」

 

 言うが早いか、弾は2人の組み手に乱入した。一気に距離を詰めながら、そのスピードを拳に乗せて先生へ殴りかかった。

 組み手の状況は一対一から二対一の戦闘へと変わる。流石に直々に鍛えている弟子2人を相手にするのは厳しいのか、先生の攻撃回数が格段に減っている。それでも圧倒的な反射スピードによって戦況は均衡している。

 組み手が始まってから30分は経ち、このまま組み手は続くかと思われたが、不意に毒島先生の動きが止まる。そしてパタリと仰向けに倒れてしまった。

 

「ふぅ〜……。終わったー」

「……僕らもギリギリでしたね。はぁ……さて、師匠を部屋に運びますか……」

「「最初は、グー!」」

 

 先生が倒れてから一息ついた行人と弾は声を揃えて拳を突き出しジャンケンを始める。

 

「「――ジャーン、ケーン、ポン!」」

 

 出された手は弾がグーで行人はパー。行人の勝ちだった。負けた弾は若干項垂れつつ、床に仰向けになっている先生を起き上がらせ背負った。訓練後のせいか辛そうに見える。

 気になることがあるので、出口のある此方へ歩いてきた2人に疑問を投げかけた。

 

「先生はどうしたの? 2人が慌ててないなら、大丈夫なんでしょうけど」

「時間になったので寝ただけですよ。ほら、このチョーカーで予め設定した時間に睡眠薬を体内に注入したんです。こうでもしないと狂化中毒(ドーピング・ホリック)は止められないとか」

 

 行人が弾に背負われてる先生の首元を指差しながら説明してくれる。

 弾はあまり先生に振動が伝わらないようにと気を付けているとはいえ、移動中そして近くで会話もしているというのにまるで起きる気配がない。

 近くまでくると微かに寝息が聞こえる。先程まであんなに激しい格闘をしていたとは思えない程、安らかな表情で熟睡している。

 

狂化中毒(ドーピング・ホリック)を打ち消す程の睡眠薬だから、かなり強力らしいぜ。目が覚めた後も暫くはぼーっとしてたし」

「そうですね。10分近くは簡単な会話しか出来なかったですね。しかもその話した内容も全く記憶にないみたいでした」

 

『個性』のデメリットを打ち消す為の技のデメリットが重過ぎる気がする。これは本末転倒なのでは? 結局眠ってしまう点が解決できていない。むしろより深い眠りに就く分悪化している。

 

「……硝子が考えてる事はわかりますよ。でも師匠は割と納得してるようなので何か考えがあるんでしょう、たぶん……」

 

 本人があまり信じていない事が語尾に表れている。アレンは毒島先生の事を、信頼できる存在だとは思っているが信用していい性格だとは思ってない。

 

「まぁ、いいわ。それよりも、先生今日はずっと寝てるって事? 平気なの? 仕事とか」

「確か……出張、だったかな……。出張があったと思いますよ。今日から一週間は出張で事務所を空けるとか言ってました」

「大丈夫大丈夫。時間になったら、そのチョーカーから眠気覚ましの薬が出てくるから。昼過ぎに出るとかだったから、12時頃には起きるだろ」

 

 弾が疑問に答えてくれた。

 

「それは便利ね。私も目覚まし時計として欲しいわ」

 

 指定した時間にほぼ確実に起きる事ができる。というか強制的に覚醒される。これはいざという時に役に立つかも知れない。

 

「あれ、師匠にしか使えないらしいですよ。普通の人には健康を害する恐れがあるとか何とか……危険な薬物でも配合されてるかも知れませんね、はは……」

 

 冗談を言っているようにも聞こえるが、割と本心なのでは……。先生ならやりかねないという斜め上な信頼。流石、10年以上の付き合いなだけはある。

 

(確かにあの人の人間性から考えるとあり得るわね。違法薬物なんかも配合されてるかも知れない……)

 

 

 ◇◇◇

 

 

 いや、これ、投稿できない……? 出来ないでしょうねぇ……。だって狂化中毒(ドーピング・ホリック)とか、これ絶対公開しちゃダメなやつじゃない……。

 仕方ない。いつ投稿できるかも分からないし、編集するのも暫く様子を見てからにしましょうか。

 えっと、今時間は……14時18分、ね。という事は先生はもう出かけてるのかしら?

 さて、邪魔者も消えた事だし家捜しに行きましょうか。普段は時間が足りなくて調べられない場所も一週間もあれば十分でしょうし。一つでも多く弱みを見つけないと。

 

 

 

 

 ――復讐の為に。




玻璃硝子の人物設定は『亜蓮行人の協力者』と『復讐者』です。

次回体育祭開始。
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