憐れな敵《ヴィラン》に魂の救済を   作:エキストラ

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感想、お気に入りありがとうございました。

伏線を回収する前に露骨に説明しちゃダメじゃね? という冷静な判断により、前書き編集しました。


入試結果

 雄英高校ヒーロー科実技試験から数時間が経過した夕方。この日プライド故に救助される事を拒んだ人物を助ける為、巨大ギミックを退ける事に成功した少年は、全力を尽くした事によりその後気絶した。そして現在、正座をしていた。

 その場所はいくつかの机と椅子が置いてあるごく普通の事務室である。そこにいる人間は二人だけだった。一方は中肉中背の身体を強張らせ正座している白髪の少年。もう一方は、白衣を着た女性。肩まで伸びているストレートの黒髪を手櫛で整えながら椅子に腰掛けている。体格は変わらないはずの二人だったが明らかに一方が小さくなっていた。そして椅子から見下ろされていた。

 

「禁止されていたにも関わらず個性を最大解放してすみませんでした」

 

 一息に謝罪を述べると頭を床にぶつかるまで下げた。少年は正座から土下座へと姿勢が変化させる。しかし目の前で椅子に腰掛けている女性の表情は、全く変わらない。その顔は笑みを浮かべている。口角を上げて白い歯を少し覗かせている。紛れも無い笑顔だ。しかしその眼だけは鋭く少年を睨みつけていた。

 

「なあ。おい、アレンよ。最大解放は訓練がまだ終わってないから試験じゃ使うなと言ったよな。何度も何度もさあ。いや、ひょっとしたら、私の勘違いだったかな? まだ老化が始まってるとは思ってなかったけど、もうボケ始めたのかなあ? どう思うよ、アレン?」

 

 女性は髪を左手で梳かしながら、一定のトーンで言い切った。表情に変化はなく、その視線はずっと少年――アレンから離れなかった。

 

「し……師匠はまだ若いのでボケではな――」

「そんなんわかってんだよ!! 私が聞きたいのは、お前は禁止されたのを、ちゃんと理解してんのかってことだよ!!」

 

 師匠と呼ばれた女性にとってアレンの返答は期待外れだったらしく怒鳴り声が響く。その言葉にアレンは閉口し俯いてしまう。そんな弟子を見て女性は溜め息を吐く。

 

「……っはあ〜。()()()()()()()()からわかるさ。助ける為だったんだろう、アレン? でもな。何度も教えてるが、助けていいのは自分の手が届く範囲までなんだ。昨日のは確かに結果的には救えたよ。それは良かったな。しかしだ。可能性で言えば、最大解放を制御しきれず暴走して、お前自身が大怪我になるかも知れなかった。良くはないがそれだけならまだ良い方だ。最悪、暴走によって助けようとしてた奴まで巻き込むことだってあり得たんだ。わかるよな?」

 

 女性は先程までの感情的に怒鳴っていた時とは異なり、諭すような口調で語りかけた。同意を求められたアレンは顔を上げ口を開く。

 

「……分かってます。解ってはいるんです。自分でも馬鹿な台詞だと思いますが、頭では理解してても心では納得できないんです。今冷静に考えれば、試験なんだから死ぬわけじゃない。怪我しても治すことができる。助けなくても大事にはならなかったって。……でも、聞こえちゃったんです。助けて、ってこの耳に聞こえたんですよ! そしたら、気づいたら既に身体が動いてて」

「もういいよ。喋るな」

 

 女性は左手で顔を覆いながら、アレンの話を中断させた。アレンの話では、このまま説教を続けたとしても意味がないと女性は考えた。これはアレンの心の問題であり、長い時間をかけなければ解決できないと結論を出した。

 

「ひとまず、説教は終わりだ。正座ときな」

「……ありがとうございます」

 

 説教が終わったことでアレンはもう一度頭を下げてから立ち上がる。そのまま部屋を出ようとしたところで、女性に呼び止められた。

 

「ちょっと待て。説教は終わりだが、罰をまだ与えてないからな」

「罰ですか?」

「師匠との約束を破ったペナルティだよ。あるに決まってるだろ」

「そうですね。師匠がペナルティを与える機会を逃すなんて有り得ないですね」

「アレン、お前ちょっと余裕あるだろ? さては反省してないな……」

 

 アレンは墓穴を掘ったと呟き、項垂れる。女性はニヤニヤと笑みを浮かべながらペナルティ案を挙げていく。

 説教が始まった時と似たような光景だが、先程とは異なり師弟ならではの親密さが表れている。

 

「よし決めた! 『僕、亜蓮行人は約束を破った悪い子です』って書いたプラカードを腹と背中につけたまま施設の掃除1週間にしよう」

「ええ?! ……いえ、今までのに比べたらマシな方ですね」

「そうか。なら修行もいつもより厳しくするか……死にかけるレベルのやつ」

「師匠? 恐ろしい単語が聞こえた気がしたんですけど?!」

「気のせいだといいな。せいぜい祈ってろ」

「プロヒーローの台詞ですか? それは?!」

「何言ってんだ。むしろヒーローだからこその台詞だろ? 祈る時間与えてやってんだぞ。慈悲深いだろ」

 

 師弟の間に価値観の相違が発生していた。

 

「この件については、取り敢えず以上だ。さっさと夕食の準備しとけ。チビたちも腹すかせてるだろうしな」

「はい。失礼しました」

 

 アレンは軽く頭を下げ部屋を出た。部屋に残っている女性は椅子に座りなおし書類を取り出した。ヒーローとは別の兼業に関する資料をまとめ始める。

 彼女はプロヒーローであるとともに孤児院の経営も行なっている。孤児院では積極的に子どもを受け入れることはなく、彼女のヒーロー活動中に関わった、保護者を失い身寄りのない子どもを受け入れている。現在、孤児院ではアレンを含め5人の子どもを育てている。年齢に多少の差があっても、基本的に子どもたちの仲は良好である。

 ――決して私からのペナルティを恐れて仲良くしているわけではない。私は恐れられてなどいない。親しまれていると言っていいだろう。むしろ敬われている、いっそ崇めたてられていると表現しても過言ではない。

 

「……過言だろ。……集中できてないし朝食の後にするか」

 

 彼女はそう呟くと資料を元の場所に戻し大きく伸びをした。

 

「修行はどんな内容にしてやろうかな」

 

 彼女は楽しそうににやりと笑った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 入試から1週間後、二枚のプラカードを腹と背中にぶら下げ窓を拭いている少年がいた。つまりはペナルティ中のアレンである。

 その横には、7歳程度の少年少女がついている。二人は不満そうな表情でアレンに話しかけていた。

 無邪気な子どもそのものである。その無邪気な子どもが『悪い子などと書かれたプラカードをぶら下げて掃除をしている兄』に対して好奇心を抱くのは当然と言える。

 

「ねぇねぇ〜。遊ぼうよ〜」

「そうだぜ! もうユキトのカッコにも飽きた!」

 

 二人はペナルティが始まってから、ずっとアレンを揶揄っていた。しかし1週間も同じでは慣れてきたらしく、単純に遊び相手を要求していた。

 悪意がないのであれば、叱りつけるのは良くないだろう。ここは落ち着いて宿題でもやりなさいと窘めるべきだろう。それが大人の対応である。

 

「うるさいですよ。さっさと離れないとこれからの夕食は毎回ピーマン、ナス、トマト、セロリを入れます。……あとおやつはサルミアッキの飴にする」

 

 アレンもまた子どもだった。15歳の少年に大人の対応は出来なかった。それだけの事である。そんな少年の対応に恐れ慄く子どもたち。

 

「おれたちの嫌いな物を毎日食べさせるだと! 悪魔のショギョーだ!!」

「そうよそうよ! 世界一マズイ飴をおやつにするだなんて!! ショッケンランヨーよ!! オーボーだわ!!」

 

 本気で嫌がる子どもたちはより一層アレンに縋りつき反対する。そんな二人の様子に、アレンは対応を間違えてたか、と辟易する。

 

「冗談。冗談ですよ。このままだと掃除できないのであっちで遊んででください」

「ホントに? よかった〜。焦ってソンしたぜ!」

「いえ、いつユキトお兄ちゃんの気が変わるかわからないわ! 早く離れましょう!」

 

 アレンの冗談が余程効いたのか、子どもたちは走ってその場から逃げ出した。

 すると同じ方向から一人の少女が歩いてきた。ショートカットで揃えた髪型に長い手脚に透き通った肌を持つ少女である。

 

「相変わらず、行人は兎季子と獅郎に懐かれてるわね」

「あれは懐かれてるっていうより馬鹿にされてると言った方が正しいですよ、硝子」

「どちらにしても親しまれている事は変わらないでしょう。大差ないわよ。私なんて、ショーコお姉ちゃんには逆らえないわ! って直接言われるのよ。私と行人とは一つ歳が離れてるだけなのに、どうしてこうも違うのかしら」

 

 硝子は微笑みながらアレンに話しかける。兎季子と獅郎同様、アレンを揶揄って楽しんでいるようだ。二人と異なる点は、余裕を持っているかどうかの差だろう。

 

「自虐かと思いきや自慢だったとは……。その手に持っているのは? ああ……そうか」

「お察しの通りあなた宛の郵便物。雄英からよ」

「そうですか。僕の部屋にでも置いといてください」

「あら? 結果は気にならないのかしら?」

 

 アレンの態度は自らの進路に関わる重要なものとは思えない素っ気なかった。アレンの様子が予想していたものと違っていたらしく、硝子は首を傾げる。

 

「筆記試験はこの前自己採点したら合格ラインに届いてました。それに実技を見ていたらしい師匠の態度はいつも通りでしたから。まず合格でしょうね」

「へえ。なるほど。……毒島先生は雄英にいたのね」

 

 アレンの言葉に硝子は納得したらしく頷いた。そしてアレンの師匠である毒島について確認する。

 

「実技試験は大勢の怪我人が出る可能性の高かったですから、雄英にも保険医はあるでしょうけど師匠は念の為に呼ばれていたのでしょう」

「そう。まぁいいわ。これは行人の机に置いておきます。ではペナルティの掃除頑張って」

 

 そう告げると、硝子は背を向けて手をひらひらと振りながら去っていった。

 一人になったアレンは窓拭きを再開する。

 

「これで不合格だったら恥ずかしい……」

 

 彼の呟きは誰にも届かず、キュッキュッと窓と雑巾の擦れる音にかき消された。

 数十分後、窓拭きを終えたアレンは迅る気持ちを抑えて廊下を歩き自分の部屋へと向かう。

 孤児院の子どもの中では最年長であるアレンは、受験生という事もあり一人部屋が与えられていた。この事が決まる際、獅郎たちは暴動を起こした。しかし次の年には自分も一人部屋を貰えると察した硝子により鎮圧された。

 自分の部屋にたどり着いたアレンはゆっくりとドアを開けそっと入室した。すると今までとは別人のような速さで机に向かう。

 机の上には雄英からの郵便物が無雑作に置かれていた。入学試験の結果がこの中にある。その事実にアレンの身体が固まる。緊張しつつも決心のついたアレンは開封した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 アレンが部屋を出るとそこには、硝子がスマートフォンを片手に構え立っていた。そしてそのままアレンに尋ねた。

 

「結果は?」

「もちろん合格ですよ」

 

 アレンは喜びを隠しきれない笑顔で、そう答えた。

 

 




続いた
ぶっちゃけ、ここまでが内容的にもプロローグですね。まぁ気にしないでください。
とりあえず、連載にしますが更新は不定期です。

おまけ
オリキャラ(未登場含む)の個性

毒島薬理(ブスジマ クスリ)…個性、毒薬生成。化学物質つくることができる。手元にあるものをコピーするだけなら瞬時に生成可能。知識のみの場合より時間が必要になる。新しい物質を作り出す場合、短くても1週間集中し続けなければならない。

野原獅郎(ノハラ シロウ)…個性、ライオン。ライオンっぽいことができる。

月島兎季子(ツキシマ トキコ)…個性、ウサギ。ウサギっぽいことができる。

玻璃硝子(ハリ ショウコ)…個性、ガラス。身体をガラスに変える、触れたガラスの形状、形質を変化させることができる。

伸張弾(シンチョウ ダン)…個性、ゴム。ゴムのように身体の伸び縮み張り弾む。自分の意思である程度は操作できる。あくまでゴムのような性質の身体になっているだけでゴムそのものではない。電気は効かないと本人は言い張っている。
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