これからは1話当たりの文字数を今回くらいを目安にします。
長座体前屈、片手だけ伸ばしました
雄英高校入学の日の朝、アレンはドクヒーロー事務所に来ていた。そこには当然毒島もいた。この三週間、早朝はずっとトレーニングホールで訓練を行っていたが、その日は違った。今回は二人の服装が訓練時のジャージ姿とは異なる。一方はブレザーの制服、もう一方は白衣を着ている。
「必殺技威力向上訓練は昨日で終わった。だから今日は、高校生になるお前に改めて釘を刺しておく」
毒島は真面目な口調でアレンに話し始めた。アレンは直立した姿勢のまま背筋を伸ばし話を聞く体勢になる。
「これは何度も何度も言ってる事でアレンも耳タコだとは思うが、『助けていいのは手が届く範囲まで』だ。自身の能力を超えたところに首を突っ込んでも、余計な被害が増えるだけだ。だから自分の限界はどんな時でも忘れるなよりこの訓練でそれも明確になったからな」
「はい、出来る範囲で頑張ります」
「これまでの訓練と違って高校では実戦だってあるんだ。そこは間違えるなよ」
伝えたい事は話し終えたのか、毒島はふうと一息つく。そして表情を少し和らげ会話を続ける。
「結局、100%をコントロールするまでは出来なかったな。現時点で出来ないんだ。しばらくは無理だろうから無茶すんなよ。80%くらいは完璧にコントロール出来たんだ。それだけの威力があれば戦闘には十分だ」
「……そうなんですか? 僕は入学までに100%をコントロールするつもりだったんですけど」
「当たり前だろ? 80%でもよほど戦闘に特化したヴィランでもない限り十分な威力だ。他の技術を身につける方が優先順位は高いぞ。……それに副産物ではあるが、妙な能力も手に入れたしな」
アレンは訓練において目標であった『100%の十字架ノ墓(クロス・グレイヴ)を使っても怪我なく気絶せず』は、達成できなかった。しかし幾度となく限界を超える行動を繰り返した結果、予想外の力を身につけた。
「はい。あれのおかげで戦いの幅が広がります」
「……戦いの幅……か」
毒島はアレンの言葉に何か思うところがあったのか少し考え始める。そんな師匠にアレンは疑問を抱いたのか質問を投げかける。
「どうかしたんですか、師匠?」
「アレン、お前の夢はなんだ?」
「え?」
毒島はアレンの疑問に答えず、逆に問いかけた。そんな唐突な言葉に面食らいつつも、アレンは素直に返答した。
「ええと、はい。……僕の夢は全ての人を救うヒーローになる事です」
荒唐無稽な夢だ。現実を、世間を、残酷を知らない、無知で無垢な幼い少年が抱くような夢である。しかしそんな夢を、現実も世間も残酷も知っている幼くないアレンが真剣に話していた。
毒島は軽くて頷くと口を開いた。
「そうだ。それがお前の夢だったな。現実味がない事はこの際置いておこう。『救う』という事において戦闘力は絶対的なものではない、もちろんあるに越したことはないが。そもそも戦闘ってのは手段の一つでしかない。戦わないで済むならそれが一番いい。最も被害が小さいからな。わかったな?」
「わかりました。自分の限界を踏まえて行動する。戦闘はあくまで『救う』為の手段、ですね」
アレンが理解した事を確認した毒島は、軽く伸びをして続けた。
「まぁ、細かい事は学校で学べ。そのためのヒーロー科だ。あそこは教師も優秀だしちゃんと言うこと聞けよ?」
「はい。……もしかして、これから師匠との訓練はなくなるんですか?」
何かを期待するような、不安を抱えているような様々な感情が混在した不思議な表情でアレンは尋ねる。
「……基本的にはな。ヒーローとしての心構えだとか知識なんかは学校でだ。私に時間があれば個性の訓練くらいなら見てやる。感謝しろよ?」
笑顔でそう答えた毒島に、アレンもまた笑顔で感謝を伝えた。
「ありがとうございます良かったです嬉しいです」
「感謝の気持ちが見えないぞ。気にしないけど」
「……いや、師匠との訓練は結果は出るから嫌じゃないですけど、すごい辛いんですよ。怪我はないから身体は大丈夫でも精神が保ちません」
「別に問題はないだろ? 今、普通に会話出来てんだから精神に異常はない」
毒島はアレンの苦情を何でもないように返した。
「とにかく、雄英高校入学はお前にとってのスタートラインだ。これからヒーローとしての基礎を学ぶ事になる。大変だろうけど頑張れよ、アレン。言いたい事は以上だ。遅刻しないようにさっさと行ってこい」
「はい、行ってきます」
そう告げたアレンは出口に向かって歩く。ドアの前で立ち止まり、振り返って一言。
「今までありがとうございました! これからもよろしくお願いします!」
そしてすぐに出ていった。毒島を残す部屋には徐々に遠くなる足音が響いていた。
アレンが遠ざかる音も届かなくなったころ、毒島は呟いた。
「……漸く、一段落着いたな。ふう……この先
毒島の溢した言葉は誰にも聞こえる事はなかった。
そして、毒島との会話の後、急いで登校したアレンは遅刻することなく教室にたどり着いた。
ドアを開け中を覗くと教室にはほとんどの席に生徒が座っていた。アレンは入室し空いている席に座ると後ろにいる眼鏡をかけた生徒に挨拶した。
「おはようございます。僕は亜蓮行人です。これからよろしく」
「おはよう。俺は飯田天哉だ。こちらこそよろしく頼む」
眼鏡をかけた生徒、飯田天哉はハキハキとアレンに返した。出身校など簡単な自己紹介をお互いにしていると、ガラガラッ! と大きな音を立てながら乱暴にドアを開け、逆立った金髪の生徒が教室に入ってきた。その生徒は自らの席に着くと椅子に座った直後、机の上に足を掛けた。
一部始終を見ていた飯田は立ち上がりアレンとの会話を切り上げた。
「談話中に悪いが彼を注意してくる」
「はい」
その鬼気迫る表情にアレンは一言しか返事をする事ができなかった。
飯田は件の生徒の元へ近づき、憤る感情を隠さずに話しかけた。
「君!! 机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ。テメーどこ中だよ、端役が!」
金髪の生徒は飯田の言葉に聞く耳を持たないどころか逆に煽り始める。くそエリート、ブッ殺し甲斐、などおよそヒーロー志望とは思えないような言葉を飯田へ投げかけた。
収まる様子を見せない二人の状況に仲裁に入ろうか悩んでいたアレンはふと、ドアの隙間から教室の様子を窺っている人物に気付いた。
同じくその人物の存在に気付いたのか、飯田は金髪の生徒の側を離れドア付近まで移動し自己紹介を始める。
「俺は私立聡明中学出身の……」
「聞いてたよ! あ……っと僕は緑谷。よろしく、飯田くん……」
聞こえていた、と飯田の自己紹介を遮り緑谷と名乗ったモサモサとした癖毛頭の生徒。どうやら少なからず面識のあった二人はそのまま何やら会話を続けていた。その様子に問題がないと判断したアレンは席に座ったまま間も無く来るであろう担任の教師を待つ事にした。
すると、新たにやってきた女子生徒を加え会話に花を咲かせていた緑谷たちを止める者が現れた。黒い髪を無造作に伸ばしている寝袋に身を包まれている男性である。いそいそと教壇まで移動していた。
「はい。君たちが静かになるまでに8秒かかりました。まったく合理性に欠けるね」
時間は有限だってのに、と小言を溢しつつその男性は名乗った。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
自らを担任だと言った相澤の言葉に教室にいた生徒たちは驚愕した、この社会生活不適合者のような風体の男性が高校教師でありプロヒーローでもあるという事実に。相澤はそんな呆気に取られている生徒たちに構わず、寝袋から体操服を取り出して指示を出す。
「早速だがコレに着てグラウンドに集合だ。個性把握テストを行う」
「個性把握テストぉ!?」
担任の教師による突然の指示にいくつもの驚愕の声が重なり響く。
「ええ!? ガイダンスは? 入学式はどうするんですか?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。……雄英は『自由』な校風が売り文句。それは『先生側』もまた然りだ」
慌てふためく生徒たちに相澤は淡々と告げた。
「わかったらさっさと着替えてグラウンド出ろ」
体操服に着替え終えたA組の生徒20名は全員グラウンドに集まった。
「さて、個性把握テストの概要を説明するが、……単純だ。お前らが小中と義務教育でやってきた体力テスト。それの『個性禁止』という制限を解く」
説明しながら先ほど飯田と言い争っていた金髪の生徒にボールを渡す。
「爆豪、ソフトボール投げ何メートルだった?」
「……あ? 67m」
「思いっ切りやってみろ。円から出なきゃ何してもいいから、早よ」
相澤は急かすように爆豪にボールを投げるように促す。爆豪は軽く肩を回しながら円の内側まで歩いていく。円の中で構えた爆豪は掛け声とともに勢いよくボールを投げた。
「そんじゃまあ、……死ねぇえ!!!」
謎の殺意を込められたボールは爆風をまとい遠方へ飛んでいく。相澤は手にしていた計測器によって普通のソフトボール投げでは考えられない記録を生徒らに見せる。
「まず、自分の『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
相澤の言葉、爆豪の派手な個性を使った結果、それらに色めき立ち感想を口にする生徒たち。
「なんだこれ!? すっげー面白そー!!」
「705mってマジかよ!!」
「個性使っていいの!? さすがヒーロー科!」
騒ぎ始めた生徒たちの様子に、おもしろそー……か、と少し落胆したように口を開く。
「ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごすつもりか? ……よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」
「はぁああああ!!!??」
「最下位除籍って……そんな初日から、いや初日じゃなくても理不尽過ぎる!」
多くの生徒が驚きを露わにする。先ほど教室で緑谷と会話していた女生徒、麗日は相澤の宣言に異を唱えるが相澤は気にかけない。
「デモンストレーションは終わりだ。始めるぞ。まずは50m走だ」
そして個性把握テストが始まり、生徒はそれぞれ自らの個性を活かしてテストに臨む。
50m走、ある者は脹脛のエンジンでの加速。
立ち幅跳び、ある者掌からの爆破による空中機動。
握力、ある者は複数の腕を合わせた怪力。
反復横跳び、ある者は自らを弾く球体を利用した高速移動。
ソフトボール投げ、ある者はボールにかかる重力をゼロにするなど。
どの生徒も何か一つは好記録を残していく中、緑谷は一人焦りを感じていた。
彼は未だ個性を制御出来ていないのである。その個性は『ワンフォーオール』No.1ヒーロー、オールマイトから授かったもの。緑谷は受け取ってからまだ日が経ってない事もあり、使う時は100%の出力でしか発動できない。そして100%で使用すれば彼の身体はその力に耐え切れず、その部位が壊れてしまう。
今回のように何度も立て続けに力を発揮する必要のある事態は避けなければなかった。しかしこれは避ける事の出来ない、乗り越えなければならない苦難である。
残り3種目となったところで緑谷はソフトボール投げで個性を使用することにした。
緑谷の個性を使わない様子に不安を抱く飯田。
「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」
「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」
飯田は当然と結果と言わんばかりの爆豪に対し反論する。
「無個性!? 彼が入試時に何を成したのか知らんのか!?」
「はあ?」
会話を打ち切った爆豪だったが、その内容に興味を持ったアレンが飯田に話しかける。
「緑谷は入試の時に何をしたんですか?」
「ああ、彼はな。先ほどの∞女子を0Pヴィランから守ったのさ。あの巨体目掛けてジャンプし、そのまま正面から殴り倒したんだ。あれは一瞬の出来事だったぞ」
「……! あれを一撃!? 一瞬で!?」
アレンは自らも止めたからこその衝撃を受けた。アレンの場合は、まず十字架(クロス)を巨大化させあの大きさに対抗した。その上でバランスを崩す事でなんとか動きを止めたのだ。
しかし、緑谷はたった一発のパンチで倒したというのだ。規格外の個性、驚愕の結果である。
アレンが飯田から話しを聞いている間に、緑谷は一投目を投げ終えていたらしく何やら相澤と話している。
「抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!!」
緑谷は相澤に向かってヒーロー名を叫ぶ。その叫びを聞いた生徒は様々な反応を見せる。
「イレイザーヘッド? 誰それ?」
「知ってる! アングラ系ヒーローだ!」
メディアへの露出が少ないヒーロー、イレイザーヘッドの存在を知っていた生徒は多くはなかった。
「イレイザーヘッド。相澤先生が……」
「ん? 亜蓮くんはイレイザーヘッドを知っていたのか?」
「名前だけは聞いた事があります。それよりもあの二人いったい何を?」
「そうだな。何を話しているんだろうか?」
アレンと飯田は教師自身の事よりも会話の内容に興味を抱いた。やがて伝えたい事は言い終えたのか相澤は緑谷の元を離れる。
そして、始まる二投目。緑谷は出力調整の出来ない個性を人差し指でのみ発動させる事で、この苦難を乗り越えた。指一つを犠牲にした、その結果は約700mと大記録だった。
爆豪は納得できない事があるのか、緑谷に対して個性を使用して飛びかかろうとする。が、近くに立っていたアレンが咄嗟に十字架(クロス)を発動し身体を掴む事で爆豪を止める。
「ああ!? 離しやがれ、モヤシ野郎!!」
「な!? モヤシ!? 誰がモヤシですか、誰が!! 絶対離しませんよ、突撃するつもりでしょう? 危ないですよ!」
言い争う二人を個性と武器を使い窘める相澤。
「騒ぐなよ、そこの二人。俺はドライアイなんだから個性使わせんな!」
途端、身動きが取れなくなる爆豪とアレン。爆豪は苛立ちを隠しはしないもののアレンとともに相澤の言葉を受け大人しくなる。
その後、テストは進み終了する。アレンは立ち幅跳び、握力、ソフトボール投げ、長座体前屈において個性を発動する事で大記録を残した。その他の種目も単純な身体能力で悪くない記録だった。
結果、クラス順位で最下位は緑谷だった。が、生徒らの最大限を引き出すための合理的虚偽、という相澤の言葉により緑谷は除籍を免れた。
緑谷は保健室で治療を終えた後、飯田、麗日と共に下校していた。そんな三人をアレンは後ろから追いかけ声をかける。
「おーい。待ってください!」
「おや、亜蓮くんじゃないか」
アレンの呼びかけに三人は立ち止まり、飯田が返事をする。
「そちらの二人にはまだ自己紹介してなかったですよね。亜蓮行人です」
「ええと、緑谷……出久です」
「麗日お茶子です。よろしくね! アレンくん!」
「二人ともソフトボール投げが凄かったですよね。緑谷は負傷しつつもかなりの球威を出してましたし、麗日に至っては∞でしたね」
アレンは個性把握テストでの結果について相手を褒める。それは友好的に接するためのお世辞ではなく、純粋な賞賛による言葉だった。続けて心配そうな表情で確認する。
「指はもう大丈夫ですか、緑谷?」
「うん。保健室でリカバリーガールに治してもらったから、もう平気だよ」
「それは良かった」
四人は会話をしながら駅まで一緒に歩いていく。
彼らのヒーローアカデミア、その始まりの一日は友情を育んで締められた。
……長さの割に内容が薄くなってしまった。
次回は戦闘訓練なので、戦闘時の描写の練習してきます。
あと視点について悩んでます。一人称か、三人称か。ポエムっぽい事書くなら三人称の方が良いかなとは思うんですが、どこまでを描写すべきなのか線引きがよく分からないんですよね。
(登場機会は少ないだろうけど
折角考えたんだからやっておこう的な)
人物紹介
名前:玻璃硝子
個性:ガラス。※初登場時の「透き通った肌」は比喩でも誇張でもなかった可能性がある。
好きなこと:友人を揶揄って暇を潰すこと。その為に画像、動画の編集を勉強している。なお揶揄う対象はしっかりと選ぶ。
嫌いなこと:乱暴に扱われること。物理的にも精神的においても。
性格:卑怯。一般的な倫理観の範囲内で手段を選ばない程度。
自己評価:「身体だけでなく心もガラスなの。繊細に扱って」
第三者の評価:「確かに彼女の心はガラスかも知れません。衝撃を与えると亀裂は入りますがそれは見た目だけ、実際にはまるで問題ない。まさしく防弾ガラスのハートですね」
詳細:孤児院の子どもの中ではヒエラルキーの頂点。理由は口喧嘩に強いから。暴力に訴えるものには個性を使用して自身を脆くする。その状態の彼女は下手すると大怪我を負うことになるので、心優しい孤児院の子どもたちは手が出せなくなる。これは相手の優しさに依存した手段なので信頼関係を構築するまで使用できない。
友人を揶揄う時以外は概ね害のない人当たりの良い人物である。
孤児院担当職員作成プロフィールより
我ながら玻璃硝子って名前かなり気に入ってます。
まぁ、出番はほぼないですけど。