憐れな敵《ヴィラン》に魂の救済を   作:エキストラ

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アレンが加わってもA組は20人クラス……。ええ、つまりはそういう事です。一人居なくなりました。というか消しました。

前回、戦闘描写が云々と言ってましたが、あれは忘れてください。


コスチュームのデザインを決めたのも……

 雄英高校1年A組で個性把握テストが実施された翌日のこと。A組では午前の通常授業を終えて、昼休みの後ヒーロー基礎学が始まった。

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」

 

 授業開始時に教室へNo. 1ヒーロー、オールマイトが入ってきた。登場しただけで生徒たちは沸き立つ。

 

「オールマイト……!! すっげえ。ホントに先生やってたんだ!!」

「銀時代のコスチューム……!! 画風が違い過ぎて鳥肌が…………!!」

「確かに。繰り返し休載し、掲載雑誌が変更になった漫画の現在と初期くらい画風が違いますね……」

 

 アレンもぼそりと呟く。生徒たちの反応を受けてオールマイトは授業についての説明を始める。

 

「ヒーロー基礎学!! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ! 因みに単位数も最も多いぞ! 早速だが今日は戦闘訓練だ!! そしてそいつに伴って、こちら……!!」

 

 そこまで説明したオールマイトは手元のリモコンを操作し教室の壁の一部を動かす。するとそこから番号の貼られたケースが現れる。オールマイトはそのまま説明を続ける。

 

「入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた……」

戦闘服(コスチューム)! おおお!!!」

 

 戦闘服(コスチューム)というヒーローならではの物を自分も所持するのだという事実に興奮を隠せない生徒たち。

 

「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!」

「はいっ!!」

 

 オールマイトの指示に生徒たちは声を揃えて返事をする。

 そして、A組の生徒が全員着替えてグラウンドに集合した。そんな生徒たちをオールマイトが褒める。

 

「うんうん、いいじゃないか! 格好いいぞ!!」

 

 アレンの戦闘服(コスチューム)は全身に銀の装飾がされていて左胸に十字架が入った黒地のコート。アレンを見て声をかける生徒がいた。赤い髪色をした尖った歯を持つ男子生徒、切島鋭児郎と金髪で軽薄そうな雰囲気の男子生徒、上鳴電気の二人である。

 

「おお、おめーのそれ。すごい凝ったデザインだな!」

「だよな。動きづらくね?」

「ええ、まあ。デザインは諸事情で決められてしまって。確かに少し動きづらいですけど、機動性より防御性能を重視なので仕方ないんです。……説明始まりますよ」

 

 アレンは授業中という事もあり、会話を途中で切り上げる。

 

「ーー今回行うのは、屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

 オールマイトの説明した訓練の内容は、『敵』がアジトに『核兵器』を隠しそれを『ヒーロー』が処理するという状況設定で、生徒が『ヒーロー役』と『敵役』に分かれ2vs2の屋内戦をするというもの。

『ヒーロー役』の勝利条件は、制限時間内に『敵役』を捕まえるか『核兵器』を回収する事。

『敵役』の勝利条件は、制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーロー役』を捕まえる事。

 くじによって各組み合わせが決定し、『ヒーロー』Aチーム緑谷&麗日vs『敵』Dチーム爆豪&飯田の初戦が始まった。その内容は終始Dチームが優勢だったが逆転を決めAチームが勝利した。負傷した緑谷を除いた生徒たちの講評も終えた。

 そして続く第二戦。『ヒーロー』Iチーム尾白&障子vs『敵』Pチーム亜蓮&瀬呂の訓練が始まろうとしていた。

 痩せ気味で黒髪の生徒、瀬呂範太と痩せ気味で白髪の生徒、アレンが話し合っている。

 

「お互いの個性について確認しましょうか、瀬呂」

「おう。見ての通り俺の個性はこの両腕だ。肘からテープが出せる。もちろん切り離しても使えるから罠も作れるぜ! 確か亜蓮の個性も腕だったよな」

「はい。左腕を鉤爪状に変える事ができます。大きさや長さを変えたり遠距離攻撃も可能ですが、屋内戦闘だと使いづらいですね」

 

 お互いの個性について情報交換したアレンと瀬呂はそのまま作戦会議を続ける。

 

「次に相手チームの二人について何か知ってる事はありますか?」

「んー、そうだなあ……。一人は見たまんま『尻尾』だよな。そんで、タコみたいな奴! あいつやばいぞ、昨日のテストで握力500キロくらいあったぜ! 」

「だとすると、彼の個性は怪力の複腕ですかね……」

「そんなとこじゃねーか? そんでどうする? 『ヒーロー』捕まえるか、制限時間まで『核』守るか」

「それは、ーーーー」

 

 そして第二戦の開始時間を迎えた。『ヒーロー役』の細目で大きな尻尾を生やした生徒、尾白と、口元をマスクで隠し両肩から膜のあるニ対の触手を生やした長身の生徒、障子は建物の入口にいた。

 障子目蔵の個性は『複製腕』である。これはアレンたちの予想していたものを超えた性能を誇る。それはただの怪力のではなく身体の各部位を触手の先端に複製する事ができる。さらに複製した部位は機能が強化されるのである。耳なら聴力、目なら視力といったように。即ち障子は個性による優れた索敵能力を持つのである。

 入口に立つ障子は、その個性を使用して建物内部の様子を探っていた。

 

「『敵』チームの二人はどうしてる?」

「一人は四階の広間の周囲を……時折止まっているが、基本的に移動し続けている。もう一人は……二階のフロア……を移動中だな」

 

 尾白に対戦相手の状況について聞かれた障子は手に入れた情報を伝える。

 

「むこうが二手に分かれてるなら、作戦通り真っ直ぐ『核』を目指そう。広間の周りを移動してるならそこにあるんじゃないかな」

「……そうだな。一階にいる奴は避けて行動しよう。おそらく四階いるのはテープの奴だ。移動し続けているのは周囲に罠を仕掛けているのだろう」

「よしっ。それじゃあ行こうか」

 

 行動指針を決めた二人は建物に入る。常に障子が個性を使用し索敵する事で全く会敵せずに二階へ三階へと建物を上っていく。

 そして四階に着き、窓のある通路を進んでいく。五個目の窓に差し掛かった所で『ヒーロー』チームはとうとう一度も戦闘を行う事なく、『核兵器』があると想定していた広間に繋がる通路まで辿り着いた。そこで待機していた瀬呂は通路の反対側に現れた二人を見て驚く。

 

「……おいおい、マジかよ。亜蓮、何やってんだよ! 四階まで来ちゃってんぞ! 今どこだよ? はぁあ!? 一階ィ!!? 速く来いよ、ヤバいだろ!! ーーは? 迷ったぁ!? なんで見取り図持ってんのに、迷うんだよ!! バカか!!」

 

 瀬呂は通信機で亜蓮と連絡を取りつつ、いつでも個性が使えるように構えを取る。そんな瀬呂と相対している二人のうち、尾白は苦笑いを浮かべながら腕を胸の前に構え戦闘態勢に入る。一方、障子は先端に耳を複製している触手を拡げる。

 

「……尾白。どうやら、本当にもう一人は一階にいるぞ……」

「……了解。方向音痴なのか……? まあいいさ。一階にいるんなら走っても5,6分はかかる。だったら、今のうちに『核』のところまで急ごう」

 

 索敵を終えた障子も複製していた耳を消して戦闘態勢に入った。会話を聞いた瀬呂は再び驚く。そして同時に納得した。

 

「え? その個性、耳とかも出せんの!? ……それで亜蓮の場所がわかるのか。今みたいに腕しかないのかと思い込んでたぜ……」

「考えが甘かったな」

「……はあ。二対一とか不利すぎるだろ、勝てねーよ」

 

 瀬呂が言葉を言い終えたと同時に尾白が走り出し接近を図る。『尻尾』というシンプルな個性しか持たない尾白だが、それ故に同世代の人間と比べ身体を鍛えている。そんな尾白は当然走るのも速い。ただ一直線に瀬呂の元まで行くだけなら数秒で事足りるだろう。しかし、三歩目を出した瞬間、急ブレーキを掛け横に倒れこんだ。尾白の身体があった場所を一本のテープが通り過ぎていく。テープは開けられた窓のすぐ横に貼り付いた。

 

「……まぁ、負けるつもりもないけどな!!」

 

 瀬呂は先ほどまでとは打って変わって自信に満ちた表情で断言した。瀬呂の個性はこの状況において有利に働くからだ。

 彼の個性『テープ』は両肘部からテープ状の物体を射出することができる。つまり中距離攻撃が可能となる。決して広いとは言えない通路での戦闘において一定の距離を保ったまま攻撃ができるというのは大きなアドバンテージになる。今回、瀬呂の対戦相手が近接格闘しか出来なかったのは幸運と言える。

 さらには、決して広くはない通路という環境での戦闘であるのも大きい。人数差が有利になるのは相手を囲む事が可能な場合である。この場面のように、瀬呂から見て一方向にしかいないのでは、たとえ人数で優っていてもそれを活かす事はできない。

 もちろん一人を盾、犠牲にすれば突破することは容易ではある、だが尾白と障子がお互いを信頼した行動を即座に選ぶには、知り合ってからの時間が短過ぎた。

『ヒーロー』と『敵』がいる通路に風が通り抜ける。

 

「さあ、どうする? ……拘束されるの覚悟で突っ込んで来るか? それとも『敵』に背を向けて逃げるか?」

 

 瀬呂は立ち止まっている『ヒーロー』に向かってあからさまなを挑発した。言葉だけは立派だが、少し声が震えていた。何かを恐れているような雰囲気になっている。

 

「おそらく奴は強行突破されるのを恐れている。今の挑発も時間稼ぎの為のものだろう。あちらは合流するのにまだ時間が掛かるだろうからな。……それに拘束されるかも知れないがそれは一人だ」

「うん。なら俺が行くよ。ここまでは障子のおかげで来れたからさ、俺だって活躍しないとな」

「……いや、俺が盾になる。尾白は『核』のところまで急いでくれ」

 

 視線だけは瀬呂から逸らさずに会話していた二人は改めて身体を前方に向ける。

 

「おっと、相談は終わったか『ヒーロー』ども!」

 

 瀬呂は演技に熱がこもり始めていた。

 それに対して障子は口を開く。

 

「ああ。『ヒーロー』らしく立ち向かってやるさ」

 

 そう言い終わると同時に障子と尾白は走り出した。先ほどのようにテープが射出されるが、障子が盾となった上で触手などにわざと当てることで脚を止めないようにしていた。

 障子は瀬呂の元に辿り着くまでの僅か数秒でまともな戦闘は行えないほどテープでぐるぐる巻きにされていた。

 しかしその甲斐あって、尾白は全くテープに当たることなく瀬呂に接近した。

 尾白は障子の大きな身体の陰から飛び出し、瀬呂を抑え込む。

 

「障子の犠牲は無駄にしない!」

「いえ、これでチェックメイトです」

 

 尾白は後方から聞こえてきた声に思わず振り返る。

 

十字架ノ墓(クロス・グレイヴ)

 

 眼前に迫っていた銀色の物体を身体に叩き込まれ壁まで吹っ飛ぶ尾白。

 

「……手加減はしたんですけど、大丈夫ですか?」

「……ああ、なんとか」

 

 窓から駆け足で近づいたアレンは倒れている尾白に確保テープを巻き付けつつ声をかけた。同時に瀬呂も確保テープを障子に巻き付けていた。

 

「敵チームWIIIIN!!!」

 

 スピーカーからオールマイトの声が鳴り響いた。

 

「それじゃあ四人とも、モニタールームまで戻ってきてくれ。講評を行うぞ」

 

 そしてアレン、尾白、障子、瀬呂の四人がモニタールームまで戻り講評が始まる。

 

「ーーさて、これから講評を始めるわけだが、尾白少年と障子少年に確認だ。最後に亜蓮少年の不意打ちにより訓練は終了した事に疑問があるんじゃないか?」

 

 オールマイトは『ヒーロー』チームの二人に対して質問する。その問いに尾白が答えた。

 

「一階にいたはずの亜蓮がどうやってあの短時間で四階まで来れたのか、わかりません。一階にいた事は、障子も確認していたので間違いないはずですけど」

 

 納得ができないといった様子の尾白。

 隣にいる障子も同じような事を考えていた。自らの個性により一階にいる亜蓮の存在を把握していた。それ故にあの場面に亜蓮が間に合った事が理解できなかった。

 

「亜蓮少年は建物の外壁を登って移動して窓から入ったのさ! 少年は階下へ移動する時、いくつかの窓を開けていたんだよ。瀬呂少年から通信を受けた亜蓮少年は一階の窓から個性を発動させ一気に四階まで移動したんだ。この際、瀬呂少年は挑発する事で注意を自分に引きつけていたね、ファインプレーだったぜ! あそこで後ろを向かれていたらバレる可能性が高かったからな」

 

 モニターから見ていたオールマイトと生徒らは、アレンが壁伝いに移動していたことが一目瞭然だった。

 あの時、アレンは窓から身を乗り出し個性を発動させ左腕を伸ばした。そして爪を屋上の縁に引っ掛けた状態で徐々に左腕を短くする。そうした動作で四階まで移動していたのだ。

 

「それじゃあ、具体的な講評に入るぞ! まずは『ヒーロー』チームからだ。尾白少年は概ね正しい行動が取れていたな。重箱の隅をつつくようだが、瀬呂少年に最初に駆け出した時にもう少し思い切りが良ければ、それで相手を抑え込めたかも知れない点は惜しかったな」

「はい。ありがとございます」

 

 尾白は思いの外、高評価を貰えた事に驚きつつ感謝を伝える。

 

「次に障子少年だ。今回の君の失敗は、亜蓮少年が一階にいるとわかった時点で個性を解いた事だな。君の強みである索敵能力は敵地にいる限りできるだけ使用し続けるのがベストだ。もちろん、四階まで会敵しなかったのは素晴らしかったぜ!」

「はい。……精進します」

 

 オールマイトの助言を聞き受け容れる障子。

 

「そして『敵』チームだ。瀬呂少年、君は個性をよく活かしていた。自分と相手の出来る事を理解した立ち回りはグッドだ!今回のMVPは君だぜ、瀬呂少年!」

「よっしゃー! ありがとうございますっ、オールマイト!」

 

 瀬呂はオールマイトからの賞賛に飛び上がり、ガッツポーズを取り、全身で喜びを表現する。

 

「最後に亜蓮少年。建物の外側を通るというトリッキーな手段で不意打ちを成功させ見事、勝利を掴み取った。しかし市街地で屋内に隠れていた敵がとるにしては少々派手な行動だったな。あと、これは瀬呂少年にも言える事だが相手の個性への警戒が薄かったぞ。今後は気をつけろよ!」

「わかりました。反省します」

 

 少々厳しいオールマイトの意見もアレンは素直に聞き入れた。

 オールマイトは見学していた生徒らの方を向き話し始める。

 

「よし、講評も終えた事だし次の組! 行くぞ!!」

「はい!!」

 

 オールマイトの声に気合い充分な生徒ら。

 こうして屋内対人戦闘訓練は授業が終了するまで続いた。

 そして時は放課後。

 A組の多くの生徒たちは教室に残りヒーロー基礎学の授業であった事に会話を弾ませていた。

 

「それにしても、今日のヒーロー基礎学良かったよな! これぞヒーロー科って感じでさ!!」

「うんうん。相澤先生の時よりもずっと優しい雰囲気だったよね!」

「オールマイト、教師を勤めるのは今年が初めてですからね。探り探りでやっているのかも知れないですね」

 

 切島と紫に近いピンクの肌をした黒目がちで頭に二つの触角を持った女子生徒、芦戸三奈そしてアレンの三人が話している。

 

「やっぱ、最初の緑谷と爆豪の戦闘はアツかったよな!」

「動きがすごかったよね! 最初の攻撃避けたやつ!バッて避けてた、バッて!!」

「二人は幼馴染らしいので、お互いの事を知っている上での攻防があったんでしょうね」

 

 そこに包帯を巻いた緑谷が教室に入ってきた。

 そんな緑谷に駆け寄り自己紹介を始める生徒ら。既に緑谷と自己紹介を済ませていたアレンは他の生徒に近づいた。

 

「尾白……でしたよね、僕はアレンです。先ほどの攻撃で怪我はしませんでしたか?」

「ああ。平気だったよ。あの時、不意打ちを当てる前に声を掛けたのは俺に受け身を取る余裕を与える為だったんじゃないか?」

 

 そんな言葉にアレンは少し困ったように表情を変えて答える。

 

「……それは、買い被りですよ。瀬呂が先に捕まりそうだったので声を出して動きを止めたかったんです」

「あともう一つ。道に迷ったってのは本当だったのか、それともこちらを油断させる為の嘘だったのか、どっちだ?」

 

 その質問にアレンははっきりとした笑顔を浮かべて返答した。

 

「ノーコメントで」

 

 

 




瀬呂は原作で他生徒より不運な目にあってるので活躍させたかった。

個人的にはスーマンが出てきた頃の絵柄が一番好きです。

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