憐れな敵《ヴィラン》に魂の救済を   作:エキストラ

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省くところは省く、これからはそんなスタンスでやってきます


委員長決めと自主トレと救助訓練

 A組初めてのヒーロー基礎学があった次の日のHRの時間。爆豪と緑谷に戦闘訓練での事について相澤から一言注意があった後、本題であるクラス委員長を決める事になった。飯田の案により多数決が行われた結果、緑谷が委員長、八百万が副委員長に選ばれた。

 しかし、昼休みに事件が起こった。雄英高校が誇るセキュリティ、通称雄英バリアを突破されマスコミが校内に侵入される事態が発生した。この事態に食堂では生徒の迅速な避難によるパニックが巻き起こっていた。この状況は飯田が機転を利かせた事で落ち着かせた。その活躍がクラスメイトに認められ、委員長の肩書きと非常口という渾名が与えられ一日が終わった。

 

 

 そして翌日早朝、ドクヒーロー事務所のトレーニングホール。アレンが黒いくせ毛の少年に組み伏せられていた。

 その状態のアレンは、自分の関節を極めている少年にタップして負けを認めた。

 

「――降参です、弾。これで7対2……やっぱり中々勝てませんね」

「おう」

 

 アレンに勝った少年の名前は伸張弾。アレンと同じく孤児院に暮らしている子どもの一人である。

 降参を聞いた弾はアレンから離れる。弾の表情は勝利を収めた人間には見えない不満げなものだった。そんな様子を不思議に思ったのか質問するアレン。

 

「どうかしたんですか?」

「いやさ、……ハンデ貰って勝ち越しても当然っつーか面白くねぇなぁと思って」

 

 早朝に行われるアレンと弾の自主トレ。監督者がその場にいない事もあり、毒島からはアレンの『十字架』の発動禁止を言い渡されていた。その一方で弾の個性『ゴム』は常時発動の異形型。それ自体が殺傷能力を持つものではないので制限が掛けられなかった。

『ゴム』という個性により衝撃をほぼ無効にする身体を持つ弾にとって近接格闘は得意分野である。

 弾にとって一方的に優位な条件での格闘訓練は好ましいものではなかった。

 そんな言葉を聞いたアレンは笑顔で返す。

 

「そんな台詞は全勝してから言ってくださいね。ハンデがあっても、二回は負けてるじゃないですか。油断してる証拠」

「うぐっ!」

「僕が言える立場じゃないですけど……ヒーローならどんな不利な条件でも勝ちを拾わなきゃいけない。だったら有利な条件で負けるのは論外でしょう。それに――」

「……最後の一戦始めようぜ」

 

 話を途中で遮り、弾は訓練の続きを促す。アレンは、やれやれ子どもだなぁ、と呟きながら弾から距離をとり構える。

 

「それじゃあ再開しましょうか」

 

 アレンがそう、言い終えた瞬間。弾はアレンから三メートルほど離れているにも関わらず、その場で回し蹴りを放つ。常人であれば届く事はないが、弾の繰り出した脚は個性により長く伸び、ムチのようなしなりを持つ攻撃となってアレンの腰部目掛けて放たれた。

 アレンの言葉に苛立ちを覚えた弾は速攻で終わらせようと強力な一撃を誇る回し蹴りを放つ事に決めた。

 アレンは迫ってくる蹴りに構うことなく前方に全力で駆け出し弾へと接近する。

 回し蹴りをしている弾の身体を支えているのは左脚のみ。弾はそんな不安定な体勢でアレンを懐まで近づかせた事に動揺し対応が一手遅れた。

 既に動きが遅くなっていた弾の右の太腿を左手で下から力を込める事で蹴りの軌道を上にずらした。

 自分の想定外の動きをさせられた弾はバランスを崩す。アレンはその隙を見逃さず、弾の左脚の裏側に脚を掛け右腕で肩を押さえ込み床に倒した。

 

「抵抗しますか?」

 

 アレンが問う。

 

「無理……。……参りましたー。ちくしょう」

 

 悔しさで顔を歪ませながら弾は降参を宣言した。降参を受けアレンは起き上がり伸張に手を差し伸べる。

 

「今日は終わりですね。戻りましょうか、朝食の準備も終わってるでしょうし」

「…………」

 

 アレンの手を取り立ち上がった弾は黙ったまま孤児院へ足を進める。

 

「ああっと、9戦目の後に言ったことなら気にしないでください」

「ん?」

「嘘は言ってないですけど挑発の意味もありましたから」

「そうか……」

 

 並んで歩く二人は先ほどの訓練について話し合う。

 

「打撃による攻撃が決定打にならない弾を相手にする時は勝つ方法が限られる。なので最後は弾の体勢が不安定になる回し蹴りを使わせようと考えました」

 

 アレンは挑発する事で一撃で勝負を決められる攻撃を、距離をとる事で中遠距離攻撃を、させるように思考を誘導した。その結果は回し蹴り、強力だが片足立ちで脚の長さを伸ばす必要のある分隙の大きい蹴りに繋がった。

 そこまでの説明を聞いた弾はアレンに確認する。

 

「そんな簡単に相手の考えを狙い通りに変えられんのか?」

「いえ、普通は上手くいきませんよ。今回は『僕が弾の性格を知っている』『弾が素直な性格だった』『直前に数回の戦闘を交えていた』ここまで揃って漸く僕は誘導できました」

 

 師匠ならもっとスマートなんでしょうけどね、と続ける。

 

「ん? さっきのやつ、俺バカにされてた?」

「そんな事ないですよ、むしろ良い性格だと褒めましたよ」

「そっか。ならいいや」

 

 とても素直な男、伸張弾だった。そうして訓練の反省をしていた二人だったが、唐突にアレンが話題を変える。

 

「そういえば、弾との早朝訓練もそろそろ潮時ですかね」

「なんで止めるんだよ? ずっと続けようぜ」

 

 弾の返答にアレンは溜め息を吐く。

 

「僕は構いませんが、弾は受験生でしょう。雄英志望なら実技は十分なんですから勉強しなさい、勉強を」

「ああ。勉強……めんどくせー」

 

 しかめっ面の伸張に呆れるアレン。

 

「たまになら気分転換として組み手に付き合いますよ」

「一日三回、頼む」

 

 多い、と弾の頭をアレンは軽くはたく。

 そうこう話しているうちに孤児院に到着する二人。入口には玻璃硝子が立っていた。

 

「お疲れ様。朝ご飯はもうすぐできるけれど、先にシャワー浴びて来てね。食事中に汗臭いのは嫌だもの」

「へーい」

「それ言うためにここで待ってたんですか……?」

 

 返事を返しそのまま浴室へ歩きだす弾と疑問に抱き問いかけるアレン。

 

「弾、ちょっと待って。戻ってきて。そう、ありがとう。……もちろん他にも用があるわ。これにサインしてほしいの」

 

 硝子は紙とペンを弾とアレンに手渡す。

 

「これは? 契約書……ですか?」

「そこまで仰々しいものじゃないわ。ここのホームページに写真とか動画載せる時に顔が映る事の同意書よ。二人とも別にいいでしょ?」

「いいよ。じゃあシャワー浴びてくる」

 

 即答した弾は自分の名前をサインして、今度こそ浴室に行く。

 

「僕もいいですけど……」

「ありがとう。動画はもう出来てるからあとはアップロードだけだったの」

 

 そう言い残し立ち去る硝子。アレンはなにも言う事はなくシャワーを浴びに移動した。

 アレンと弾がシャワーで汗を洗い流し、硝子が自室で作業を終えた後、孤児院の朝食の時間。

 5人の子供たちと孤児院担当職員の1人の大人が一緒に朝食を食べていた。食事中にその場にいるただ1人の大人ーー瀬和八姫が話しだす。

 

「二つ、お知らせがありまーす。まず一つ目、もう皆んな聞いてると思うけど今日から『ドクヒーロー事務所』のホームページに孤児院の写真と動画が載ります」

「おれたちニュースにでるのか! 有名人だ!」

「チメードが上がってしまうのね。大変だわ!」

 

 途端にはしゃぎ出す獅郎と兎季子。瀬和はそんな年少コンビを窘めるように話を続ける。

 

「残念ながら、そこまで有名にはなりません。というかニュースは別物よ。あくまで施設の紹介に写真や動画を載せるの。あなたたちは基本的に少し映り込むかもってくらいね」

 

 瀬和の否定をそーなのかー、と特に気にするでもなく獅郎と兎季子は受け容れる。

 

「重要なのはこっちのお知らせよ。よく聞いてね。少し前に中学生の行方不明事件がありました。痕跡が全く見つからない事から家出じゃなくて誘拐の疑いが出てきたらしいの。しばらく獅郎くんと兎季子ちゃんは私と、硝子ちゃんは弾と一緒に登下校すること、いい?」

「いいぜ!」

「わかったわ!」

「りょーかい」

「わかりました」

 

 子どもたちは口々に返事をする。一人、名前を呼ばれなかったアレンは確認の意味を込めて質問した。

 

「僕はいいんですか?」

「行人くんと弾くんは毒島さんの弟子だもの。逃げたり避けたり守ったりは得意でしょ? 信用してるわ。きっと大丈夫よ。」

「…………」

 

 そんな会話とともに孤児院の朝食は終わった。

 そして、時間は経過しアレンが登校して教室に着いた頃。アレンが席に座って1限目の準備をしていると、突然ドアが開き教室に1人の生徒が飛び込んで来た。その生徒はそのままアレンに近づいた。

 

「亜蓮くん!! えっと……ちょっと聞いてもいいかな!! コレの事なんだけど!」

 

 テンションの高いその生徒、緑谷は自分のスマホを指してアレンに問いただした。

 

「……ええと……何ですか?」

「あ。……ごめん。そこでコレ見てびっくりしちゃって。ここにいるの亜蓮くんであってる?」

 

 緑谷が見たのは『ドクヒーロー事務所』のホームページに載せられた1枚の画像。その画像にはプロヒーロー『ドク』と1人の少年が一緒に映っていた。その少年は赤黒い左腕に白い頭、つまりは亜蓮行人だった。

 

「……確かに、これは僕ですね」

「やっぱり!! 亜蓮くんはドクと会った事があるんだね! プロヒーロー『ドク』!個性『毒薬』の生成は体内体外どちらでも可能。わざと毒を摂取したりウィルスに感染する事で特効薬や抗体も自由に作れる。ヒーローの他にも孤児院の経営、医者をやっていて当然医療行為もできるけどどちらかといえば、個性柄薬剤師としての活動が多い。そしてヒーローになる前は当時存在していなかった特効薬を生成するという素晴らしい功績を持つ。新薬の生成を出来る限り行わない理由として「一人の人間の個性に頼りきりになってしまったら、技術の進歩が遅れる事に繋がるかも知れないから」と雑誌のインタビューで答えていたり。他にも――」

「ちょ、ちょっとストップ!」

 

 ブツブツ……とドクに関する情報を語り続ける緑谷だったが、アレンによって止められる。

 

「ご、ごめん。ええと……それで聞きたかったのは、なんでヒーロー活動時にしか姿を見せないドクと一緒の写真に写ってたのかって事なんだ」

「僕がその孤児院に住んでいるからですよ。でもその事に負い目は感じていないので自然に接してくれると嬉しいですね」

 

 質問した事を後悔した様子になった緑谷に、笑顔で話しかける。

 

「そうなんだ……。うん。教えてくれてありがとう。――ドクについて色々聞いてもいいかな?」

「もちろんいいですよ。……すごく詳しかったですけど師匠のファンなんですか?」

「うん、ドクのファンっていうよりヒーロー全般のだけどね。特に好きなのはオールマイ……え? 今、師匠って言った!?」

 

 アレンの発言に今日一番の大声が出た緑谷。周囲にいるクラスメイトの視線が集まるが、そんな事は御構い無しにアレンに問い掛ける。

 

「はい。初めてこの十字架(左腕)を発動させた時に暴走させちゃって、それ以来制御の為に鍛えてもらってます」

「暴走して……制御……そんな経緯があったのか……」

 

 緑谷は反芻しながら思案する。

 

「そういえば、緑谷は個性を使ったあと怪我してましたね。僕も暴走した時は左腕がボロボロになりますよ」

「ん? 『なりますよ』ってことは今も?」

 

 アレンの言葉に違和感を覚えた緑谷は聞き返す。

 

「はい。全力で十字架を使うと制御しきれずに暴走しちゃうんですよ」

「できたら、制御にどんな特訓したのか――」

「お早う。席に着け」

 

挨拶とともに相澤が教室のドアを開ける。

 

「――また後で質問いいかな?」

「ええ。長く話せる昼休みか放課後にしましょう」

 

 そしてヒーロー基礎学の時間。救助訓練を行う為にA組の生徒はバスに乗り訓練場へ移動していた。

 バスの中では、どんぐり眼の蛙のような風貌の女子生徒の蛙吹梅雨の発言がきっかけで個性について議論が始まった。

 緑谷の個性はオールマイトに似ている、似ていない、ヒーローとして人気がでるのはどんな個性か、派手な個性といえば誰だ、など。

 

「轟とか爆豪の個性は強いし派手だよな!あと亜蓮と常闇のもカッケー!」

 

 切島のクラスメイトに対する評価を聞き蛙吹は言葉を返す。

 

「亜蓮ちゃんの個性は変わってるわ。左腕だけの個性なんて珍しいもの。特に目立つんじゃないかしら。でも爆豪ちゃんはすぐキレるから人気でなそう」

「確かにな。この付き合いの浅さでもクソを下水で煮込んだ性格だって認識されるんだから、マジやべーよ」

「んだと、てめーのボキャブラリーはなんだコラ!! 殺すぞ!!」

 

 そんな会話で車内は騒がしくなるが――

 

「もう着くぞ。いい加減にしとけよ」

「はいっ!」

 

 相澤の注意で大人しくなる。

 そして今回の訓練場、嘘の事故や災害ルーム(USJ)に到着した。

 そこで待っていたスペースヒーロー『13号』から個性の危険性、それを救命の為に使う授業の要点を聞く生徒たち。ヒーローとしての心得を教師から説かれたことで、授業への意欲が高まっていた。

 相澤が授業内容について説明しようとしたその時。

 

「おい……オールマイトいないのかよ。……はぁ」

 

 未熟な生徒が相対するには早過ぎる、途方もない悪意が現れた。

 

「……子どもを殺せば来るのかな?」




委員長の件は敵連合襲撃のためにも書いとかなきゃって思ったけど、蛇足感すごい。
伸張弾って名前ダサいけど鉄哲徹鐵がありならと思って、再考はやめました。
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