FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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錬金術士と火竜

 魔法がごく普通に存在し、魔法を用いた魔導士という職業すら存在するこの世界。そんな世界の一国であるフィオーレ王国、ハルジオンの街。

 

 派手な桜色の髪に鱗柄のマフラーを巻いた少年ナツとところどころに煤汚れが目立ち、指先から足先まで頭以外の全てを覆う白いローブを羽織り、杖をついて歩く青年ララン、そして二足歩行で歩く猫のハッピーが横並びで歩いていても、誰も気に留めることはない。

 

「なぁ、火竜(サラマンダー)ってのはイグニールのことだよな?」

 

「確かに火竜と言えばイグニールが真っ先に思いつくけど」

 

「だよな。やっと見つけた! ちょっと元気になってきたぞ!」

 

 ナツが探しているのは火竜(サラマンダー)と呼ばれるドラゴン。本当の名前はイグニールというらしい。

 

 ドラゴンに会ったことはないのでよく分からないが、ドラゴンは既に絶滅したと言われている。

 

 そもそもドラゴンのような巨大と思われる生物がこんな街中にいるはずはないと心中では思ってはいるが、ナツを悲しませない為に嘘をついていた。

 

 しかしここまで信じられると、なんだか申し訳なくなる。かれこれイグニールを探して七年らしい。確かに早く見つけたいという気持ちは分かるが。なんせそのドラゴンはナツの育ての親だと言うのだから。

 

 イグニールを探して街を歩いていると、前方に女性の黄色い声がこだまする人だかりが見えた。しかもその声々の中には『火竜様』と叫びにも近い声も聞こえる。その声が耳に入った途端にナツとハッピーはその集団に向かって走り出した。

 

「噂をすれば何とやらって!」

 

「あい!」

 

「ちょ、ちょっと待て!こんな街中にドラゴンがいたら…ってもう遅いか……」

 

 止めようとしたが時にすでに遅し。慌ててその後を追う。女性たちの中心には長身の痩せた男がファンサービスのように女性たちにサインや写真撮影に応じていた。声を聞けば確かに彼は火竜様と呼ばれ、周りを囲う女性たちはが火竜の虜のように目をハートを浮かべている。

 

 ナツは女性たちの厚い壁を潜り抜けて、なんとか中心にまでたどり着く。どう壁を破ろうとしてもナツの元へは行けそうになかったので女性たちの厚い壁の上からナツの様子を見守っている。

 

 ナツは火竜に向かって、「誰?」と一言、つまり人違いであった。ナツの求めた火竜ではなく、全くの別人だった。相手は人で、こちらが探しているのはドラゴン。当たり前のことだが一目見ただけでわかる。

 

 明らかにテンションを落としたナツはしょぼくれて、帰ろうとしたが、女性らに『火竜様に対して失礼である』と憤慨され、一方的に殴られ蹴られた挙句に壁の外へ弾き出された。

 

 あの男が浸かっているのは魔法、それも魅了魔法だ。本来心優しい女性たちの心を操り、暴力を振るわせる。魔法の根源はあの火竜様とやらの指輪か。

 

 魅了系の魔法は簡単に人の心を奪うことが出来る。ただ使ってるのがバレると十中八九嫌われる。魔導士ではない一般人に対して使えば、ほぼほぼバレることはないが。

 

 確か魅了魔法は危険性や倫理の問題点から禁止されていたはずだ。気にならないこともないが、今日はイグニールを探す目的で来ている訳で、正規の依頼でもない。首を突っ込みすぎるのも良くない。というか面倒だ。

 

 火竜様は足元から紫色の炎を噴出させ、それを足場にして立ち去った。『夜は船上でパーティをするから、皆、参加してくれるよね』というセリフを残して。

 

「なんだアイツは」

 

「やっぱり人違い、いや竜違い、だったな。それにしても小賢しい奴。あの指輪、魅了効果の指輪だ。そこまでして女を惹きつけて何がしたんだか」

 

「本当いけすかないわよね」

 

 声のした方を振り返ると、先ほどまで火竜を取り囲んでいた女性陣のうちの一人がそこにいた。しかし、既に火竜に魅力を感じている様子はない。しかも『さっきはありがとね』とナツに感謝を述べたかと思うとレストランにまでつれていってくれると言う。

 

 レストラン

 

「ナツ、お行儀がよろしくないぞ」

 

「あんふぁいいひほがだぁ」

 

「すまない、こいつは最近良い食事が取れていなくて。今はあんた、良い人だなぁと言ったんだ」

 

 レストランに着くやいなや、ナツは料理を大量に注文し、三品を同時食べるなど、あり得ない速さで食べ続けていた。ハッピーも同様で来店からずっと魚をむさぼり続けている。一応注文はしたものの、こうも横で豪快に食べられると食欲がなくなってしまったので先の女性に話しかけた。

 

「自己紹介が遅れた。俺はララバンティーノ・ランミュート。長くて呼び辛いから人は皆、ラランと呼ぶ。君もそうしてくれると嬉しい。こいつはナツ、この猫はハッピー。よろしく」

 

「あ、あたしはルーシィ。よろしく」

 

 ルーシィは自分は魔導士であり、先ほどの火竜が魅了の魔法を使って人々の心を引き寄せていたこと。ナツが人だかりに飛び込んできたことで魅了が解け、正気に戻ったことを丁寧に話してくれた。わかっていることだが、熱心に話してくれる彼女を無下には出来ない。最後まで聞いているとルーキー魔導士とは思えないほどちゃんと見ており、細かい分析をしている。

 

 更にルーシィはまだ魔導士ギルドに所属していないもののギルドについて熱く語ってくれた。中でも特に入りたい意中のギルドがあるようで。そのギルドの名前は『妖精の尻尾』らしい。

 

 その後、話題はナツ達が探していたイグニールについて。ルーシィはてっきり人間だと思っていたようだが、ナツの口から本物のドラゴンであることが伝えられると、目を丸くし『こんな街中にドラゴンがいるわけがない』と至極真当なことを言っていたがナツ、ハッピーは今気づいたというような顔をする。

 

 そう、それが普通なんだ。

 

「じゃ、あたしはそろそろ行くけど、ゆっくり食べなよね」

 

 ルーシィは札束をバンっとテーブルの上に置き、帰ろうとする。そのあまりにも潔く、格好のいい様にナツとハッピーは感銘を受け、涙を流し、土下座で感謝述べた。

 

「「ご馳走様でした!!!」」

 

「ってもこれで今食べた量、払いきれるか……?」

 

 

 ―夜―

 

「ぷはぁーー!食った食った!」

 

「あい」

 

「それにしてもよく食べた。ルーシィがくれたお金で足りるかヒヤヒヤしたよ」

 

 レストランでの食事は夜まで続き、ようやくナツが満腹を迎えて店を出た。それから食後の散歩として、海を一望できる高台を歩いている。ハッピーがふと海の方角を見ると、港から少し出た所に一隻の大きな船が煙を上げていた。

 

 あれほど大きな船でパーティか。いいご身分だと思わざるを得ない。船に荷物を積んでいるゴロツキ共はあの火竜様の手下か。悪そうな奴らだ。

 

 だがドレスコードをした女性たちが船乗り場に駆けつけているのを見ると、確かにあの船で間違いないらしい。どうにも良い予感はしないな。

 

「そいや、火竜が船上パーティをやるって。あの船かなぁ」

 

「うぷ、きもちわりぃ……」

 

「想像しただけで酔うのやめようよ……」

 

「頼むから吐かないでくれよ」

 

 ナツの背中をさすりながら薬を飲ませていると、横を通りかかった女性二人組が例の船を指差して喋っていた。それを盗み聞くというわけではないが、二人組の話に耳を傾ける。

 

「見て見て~! あの船よ!火竜様の船! あ~ん、私もパーティに行きたかったぁ~」

 

「火竜?」

 

「知らないの? 今この街に来てる凄い魔導士なのよ。あの有名な妖精の尻尾の魔導士なんだって」

 

 『妖精の尻尾』という単語が女性の口から発せられるとピクリと反応する。ナツは船の方を見ながら小さく『妖精の尻尾』と呟いた。更にしゃがみ込んで、落下防止の柵の隙間から、例の船をじっと見つめている。

 

 火竜様の船、船上パーティ、たくさんの魅了魔法をかけられた女性たち。どうにも我慢出来ず、事情を聴くべく二人組に話しかけた。

 

「すまない君たち、火竜様というのは昼に女性たちを魅了していた男性で間違いないか?」

 

「え、あ、はい! 私もお昼に火竜様のサイン貰ったんです!」

 

「そうか、それは幸運だったね。それで彼が『妖精の尻尾』の一員だとは何処で?」

 

「えーと、火竜様の仲間の人が言ってたんです。俺たちは天下の『妖精の尻尾』だからーって」

 

「なるほど。ありがとう、参考になったよ」

 

 ラランは女性たちから例の火竜の情報を聞き出すと、ナツの方へ戻った。先ほどまでの空想船酔いをしている様子はなく、ただぶつぶつと『妖精の尻尾』と呟きながら船を眺めたままだった。

 

「ナツ、依頼にはないけど、あれを壊しに行くか? 偽物退治も必要だろ」

 

「当たり前だ!」

 

「トラベルゲートだ。船に着いたらこれを船内のどっか適当に投げておいてくれ」

 

「よっしゃあ!」

 

 ラランはナツに白い輪を渡すとこつんと拳を合わせる。それを合図にナツが勢いよく高台から飛び出した。女性2人組は突然、高台から飛び降りたナツに驚いて絶叫したが、その後にすぐ、ナツがハッピーを呼ぶ。

 

「ハッピー!」

 

「あいさー!」

 

 ただの猫だったハッピーから翼が生え、ナツの服を掴むとそのまま飛んで船の方へ一直線に進んでいく。杖を地面に一突きしてナツに渡した白い輪をもう一つカバンから取り出し、足元に置いた。

 

「壊すのはナツに任せて、船内にいる人々の救出が最優先だな」

 

 奴らの狙いは女性たちの売買もしくは奴隷化で九割九分間違いないだろう。そのために奴らは火竜の名を騙り、あんな昼間から魅了魔法で女性たちを魅了し、自分についてくるように仕向けていた。

 

 しばらくすると船がナツの攻撃によって損傷。銃声が高台にまで響き渡り始める。これを機と見た。すぐさま足元のトラベルゲートに飛び込み船内へワープする。もう片方のトラベルゲートの輪から体を出すと既に臨戦態勢に入っているナツと火竜の一味。囚われの身となったルーシィが見えた。

 

「ナツ! ララン!」

 

「ララン! 邪魔するな。こいつは俺がやる」

 

「はいどうぞ! 俺はパーティの参加者をこの船から避難させる!」

 

「こいつ、どうやってここに来たんだ!?」

 

「トラベルゲートは必需品だ。馬鹿者が!」

 

「くそっ! やっちまえ!」

 

 火竜の一味は突然現れたように見えたので驚くが、すぐさま襲い掛かってくる。乱暴な言葉で反撃するが、言葉とは裏腹に一味の屈強な男たちから逃げるように、トラベルゲートの片輪を持って船室を走り抜けた。逃がすなとばかりに数人が追いかけてくるが、そんな奴等には目もくれず走っていた。が、しかしいい加減にしつこい男たちに痺れを切らした。

 

「しつこい奴らは嫌いだよ。クラフトでも食らっとけ」

 

「おわっ。なんだ!爆弾か!?」

 

 黄色いカプセルに棘のついた爆弾を数個放り投げると男たちの前で爆発し、爆風で男たちのほとんどが海に落とされる。その隙を突いて再び走り出す。この船に騙されて招待された女性たちが集まる部屋があるはずだ。しばらく走り回るとようやく、女性の叫び声が聞こえる部屋を見える。鍵が掛かったドアだったがショルダータックルでこじ開けて、部屋に倒れこみながら入った。

 

「皆さん! この船は危険です。とにかくこの輪の中へ!」

 

 トラベルゲートを設置するとナツの攻撃の爆音で慌てふためいていた女性たちは藁にもすがる思いでトラベルゲートに飛び込んでいく。全員がトラベルゲートに入り終えたことを確認すると速やかに回収し、ナツのもとへ走ろうとした。その瞬間だった。

 

「わっ!?」

 

 船が大きく揺れ、港方面へ流されていた。ラランが何とか外へ出て海を確認すると、ルーシィとハッピーが見え、ルーシィの近くには人魚が見えた。それを見て何の魔法か推測する。

 

 あれは星霊魔法の類か? 珍しいものを見た。しかもあれは黄道十二門のアクエリアス。世界に12しかない鍵の星霊だけあってパワーは一丁前だ。俺の精霊とは姿格好が可愛らしすぎるかな。

 

「……痛っっ!!」

 

 船は陸に乗り上げ、衝撃で壁に打ち付けられる。しかし、すぐに立ち上がり、服に付いた埃を払うと、するべきことを思い出し、ナツの元へ走り出した。ナツのいた部屋へ戻ると、まだ戦いは激化していないようで数人の男たちと偽火竜がいた。そこにルーシィが駆け込んで部屋に入ってくる。

 

「ナツーーー!!!」

 

「あまり話しかけない方がいい」

 

「あ、ララン。船の女性は?」

 

「皆、避難させた。あとはナツがすべてやる。俺はその後始末だ」

 

「で、でもあいつ……」

 

 ナツのことが心配そうに見つめるルーシィを見て、そういえば言っていなかったと思い出した。ローブの袖をまくり、ルーシィに左手の甲を見せてニッと笑って見せる。その手の甲を見たルーシィは驚きで目を丸くし再びナツの方を見つめる。

 

「お前が『妖精の尻尾』の魔導士か?」

 

「それがどうした?」

 

 ナツが火竜ににじり寄る。しかし数的優位もあり強気な姿勢を崩さない偽火竜。

 

「よくツラ見せろ」

 

 火竜の部下二人がナツに襲い掛かる。

 

「オレは『妖精の尻尾』のナツだ! おめぇの顔なんか見たことねぇ!」

 

 一蹴りで部下たちをのしてしまうと火竜の表情も焦りに変わる。妖精の尻尾を騙っていたことにも動揺し、誤魔化す様にナツに炎の魔法を浴びせた。これでどうだと偽火竜はナツを倒したことを確信したが、その表情はすぐに驚きに変わった。

 

「なんだぁコレぁ。お前本当に炎の魔導士か? こんな不味い炎は初めてだ」

 

 ナツは全身に炎を纏いながら、炎を口に運び、もぐもぐと噛みしめながら確かに食べていたのだ。やがてすべての炎が食い尽くされると、自然と炎は無くなる。偽火竜にとって開いた口が塞がらないとはこの事である。火を食べるなど聞いたことも見たこともないと

たじろく。

 

「ふーーご馳走様でした」

 

「これに懲りたらもう名前を偽るなよ。少なくとも『妖精の尻尾』はな」

 

 間違ったんだ。騙るギルドを、騙る人物を。全てはそこだ。ただそれだけを間違ってしまったから彼らは壊滅することになる。運が悪かったということが最も彼らを傷つけない言葉だろう。

 

 ナツが大きく息を吸い込む。ボラという偽火竜の本当の名前も部下から明かされ、全員が見るからに慌てふためいていた。

 

 そんなことはお構いなしに火炎放射と形容するのも生温い灼熱の息吹でボラやその部下を焼き尽くす。その後も暴れ足りないと言わんばかりにナツは暴れ続けていた。

 

 それを終わるまで傍観していたが思いのほか事が大きくなっていたようで、サイレンと共に軍隊がやってくる。

 

「おいナツやりすぎだ! 軍が来た!逃げるぞ!」

 

「やべっ!? 急げ急げ!」

 

「ルーシィ!君も来い!」

 

「なんであたしまで!?」

 

「入りたいんだろ。妖精の尻尾!来いよ」

 

「うん!」

 

 ルーシィの腕を引っ張り一緒に軍隊から逃げる。まさか軍隊から追われているとは思えないような満点の笑顔で。

 

「そうだララン! トラベルゲートは!?」

 

「家に繋いでるやつをひっぺがして使ったんだから、使えない! 帰りはまた列車だ!」

 

「なにーーー!?!?」|




登場した錬金術アイテム

トラベルゲート

特定の場所を繋ぐことのできるアイテム。二つの輪で場所を繋ぎ合わせるため、家から何処か他の場所への移動は不可能。一つの輪を固定した場所においておけば遠地から固定地への帰還が楽になる。ラランは片輪をアトリエに固定している。劣化版ど〇でもドア

クラフト

簡易型爆弾。殺傷能力はそこまでなく、爆風によって相手を吹き飛ばす。錬金術としては初歩の初歩のアイテム。初心者でもすぐに作成可能。

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