FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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愛弟子の誕生と女王の罪

 『鉄の森』によるギルドマスターを狙ったテロ事件は一躍大ニュースとなり国中に知れ渡った。そしてまたそれを解決した『妖精の尻尾』も良い意味でも悪い意味でも更に有名になった。『鉄の森』が壊滅してから数日、ラランは魔力の過度な消耗により、自宅での療養を余儀なくされ、ホム達の介護を受けながら何とか生活を送っていた状態であった。

 

「こんにちはー」

 

 療養のため、最近ギルドを訪れることのなかったラランの様子が気になったルーシィは、ラランのアトリエを訪れていた。玄関扉をノックし、しばらく待っているとゆっくりと扉が開くが、中から出てきたのはラランでは無くホムちゃんだった。

 

「何用でございましょうか。ピコマスター」

 

「あ、あのラランのお見舞いに来たんだけど……」

 

「……マスターは就寝中ですがどうぞお入りください」

 

「うん」

 

 ルーシィはホムちゃんに案内されるままアトリエの中に入る。前回来た時とは別の家のように綺麗で片付けられていて、素材の一つも落ちていない。部屋には調合を行っているホム君とベットで静かに寝息を立てて眠っているラランがいた。

 

「いらっしゃいませ。ピコマスター」

 

 釜をかき混ぜていたホム君がルーシィに気づくと、作業の手をいったん止めてルーシィに一礼した。ルーシィは2人の主人であるラランにここまでさせてしまったことに罪悪感があるのか少し遠慮がちに挨拶を返す。少し気まずい空気が流れた始めた時、唐突にホムちゃんが切り出した。

 

「先日、魔力を消耗しきったマスターがピコマスターの皆さまに運ばれてきた時、ホムは心が痛みました」

 

 さらにホム君が続ける。2人の目にはうっすらと雫が光っているが、その透明な雫が目から零れ落ちることはない。

 

「ホムはマスターをお守りしなければならない存在。しかしマスターが傷ついている中、お傍にいることも出来ませんでした」

 

「しかし、それはもうどうにもなりません。ホム達は動けないマスターに代わり、錬金術士としての仕事をせねばなりません。休んでいる暇も泣いている暇も無いのです」

 

「ホムちゃん……ホム君……」

 

 ホム達は悲しそうに俯く。その様子を見たルーシィももらい泣きしてしまう。しんみりとした空気でホム達はまたそれぞれの作業を再開する。一人残されたルーシィはラランの眠るベッドに近づいて、ラランの顔を覗けるように座り込む。ルーシィがラランの寝顔を見ながら感傷に浸っていると突然ラランの目がギョロっと開いた。

 

「人の顔をじろじろ見てどうした。何か付いてるか?」

 

「きゃっ!?」

 

「大きな声を出すな。ホム達が驚く」

 

「いつから起きてたの?」

 

「ホム達と話してるあたり。それはともかく見舞いに来てくれてありがとう」

 

「ううん、仲間として当たり前よ」

 

 ラランはゆっくりと体を起こし、近くにあった薬の粉を水と一緒に飲むとベッドから立ち上がり、ホム達の方へ向かっていく。ホム君の背後から回しているかき混ぜ棒をひょいっと手に取る。

 

「ホム君、ルーシィにお茶とパイを出してやりなさい。ここから俺がやるよ」

 

「かしこまりました」

 

「えっ、もう動いて大丈夫なの?」

 

「魔力を使いすぎただけで数日動けないなんてことはない。ただ疲れるだけだ。魔導士と違って魔力が全てのエネルギーじゃないんでね」

 

「じゃあさっきまで眠ってたのって……」

 

「ただ寝てただけだが」

 

「もぅーーー! 心配して損した!」

 

 ホム君はかき混ぜ棒を手放して、ルーシィに紅茶とパイを出して一礼する。ルーシィは出された物を食しながらラランの背中を見る。ルーシィは背中を見ながら今までの事を思い出す。

 

 最初に会った時はナツよりも体が大きいのにあまり戦う姿を見ることは無く小さな背中だった、ハコベ山でのマカオ救出時には凶悪モンスターであるバルカンを苦手だと言う肉弾戦で圧倒し少し大きな背中が見えた。最初にチームを組もうと誘ってくれた、初仕事のエバルー邸では様々なアイテムを駆使して、道を示してくれた。ラランの力なしでは依頼を完遂できなかった。そして『鉄の森』との戦いでは、辛い縁の下の力持ちを自ら買って出た。もしあの魔道四輪をララン以外の誰かが運転して、戦う時に魔力が足りなくなったり、エリゴールに追いつけなかったら、考えただけでも恐ろしいことになっていた。そしてルーシィは気づく。

 

(そっか。あたし、ラランに助けられてばっかなんだ)

 

「依頼納品は明後日だ。今回は余裕持って作れて良い感じ」

 

「ララン! あたしにも錬金術教えてほしいんだけど……」

 

 だんだんと尻すぼみになりながらも、はっきりと自分の言葉をルーシィは伝えた。

 

「……」

 

「ダメ、かな」

 

「……ホム、聞いたか」

 

「はい」

 

 ラランは釜をかき混ぜていた手を止め、ホムに確認を取る。ホムが手に持ったレコーダーを再生すると、先ほどのルーシィの音声が再生され、「錬金術を教えてほしい」と確かにはっきりと聞こえた。それを聴いたラランはプルプルと震える。ルーシィは何事かと思い、ラランの名前を再び呼ぶが返答はない。

 

「今の言葉に間違いは無いな?」

 

「う、うん! あたし、ラランの手助けをしたいの」

 

 ルーシィがそう言うとラランはバッとルーシィの方に飛び、抱き着く。ラランのハイテンションは止まることなくルーシィに頬ずりして、喜び部屋の中を踊り舞う。ルーシィは顔を赤くしながらも呆気に取られて、ホム達の方を見ると、彼等もラランと一緒に踊っていた。

 

「今日はめでたい! 2人目の錬金術士の誕生だ!」

 

「じ、じゃあ!」

 

「今日からルーシィは俺の愛弟子だ。弟子の失敗は俺の失敗、弟子の成功は弟子の成功。楽しく錬金術を学んでくれ」

 

「うん!」

 

「で、そろそろあの時間だな」

 

「あの時間?」

 

 ラランは覚えてないのかとルーシィに聞くが、ルーシィは頭にはてなを浮かべるばかりで、何もピンと来ていない様子だった。ラランはこの物忘れの酷さで錬金術士が出来るんだろうかと不安になり、頭を抱えながら言った。

 

「こないだ、ナツが言ってたろ。ナツとエルザの決闘」

 

 

 

 魔導士ギルド『妖精の尻尾』門前の広場

 

「おす、まだ始まってないだろうな」

 

「おう、まだだ。本気の漢の勝負を見届けていけ」

 

 ラランとルーシィがギルド前の広場に到着すると、近くにいたミラ、エルフマン姉弟に話しかける。エルフマンとミラの間に二人が入り、戦いが見やすいように円に入り込む。ルーシィはミラにラランと一緒に来てどういう関係だと質問責めにされている。

 

「あらあらルーシィはラランのお家に行って何かあったの?」

 

「いや、そんなんじゃ……」

 

 広場には対峙するナツとエルザを取り囲んでギルドメンバーたちがヤジを飛ばしている。幸いにもまだ決闘は始まっておらず、カナはどちらが勝つかの賭けを行っている。現状ではエルザの方が優勢なようだ。マカロフが2人の間に立ち、決闘開始の合図を出そうと腕を天に振り上げる。

 

「カナ、俺はエルザで」

 

「おっちゃんと来れたんだね。はい」

 

「ありがとう」

 

「でも最強チームの二人が衝突したらどうなるの?」

 

 ルーシィが最強チームと言うが、グレイはオウム返しのように最強チームと聞き返す。それに対しルーシィはエルザ、ナツ、グレイ、ラランで『妖精の尻尾』のトップ4なのではと返す。

 

「はぁ? 誰がそんなくだらないこと言ったんだよ」

 

 グレイの心ない言葉を聞いたミラは顔を覆って泣き崩れた。グレイもまさかミラが発信者だとは思っていなかったのかすぐさまフォローを入れるが、ガヤからミラを泣かせたと一斉に罵られる。

 

「でも最強チームを組むならラクサスやミストガンにあのエロ親父も入ってくるだろうな」

 

「誰?」

 

「まぁいずれ会うよ。ラクサスならすぐに会わせてもいいけど怒るだろうな」

 

「そういえばラランはラクサスと仲良いよな」

 

「この中じゃ一番付き合い長いしな」

 

 ガヤ達の話がだんだんと脱線してきたところでナツとエルザの決闘がいよいよ始まろうとしている。エルザは開始早々に炎の攻撃を半減する炎帝の鎧に換装し、ナツもそうこなくちゃと炎を拳に纏わせて戦闘態勢を取る。マカロフの声によって戦いの火蓋が切って落とされると、ナツはその性格通り、エルザの懐に突っ込み、拳を振り下ろし、先制攻撃を仕掛ける。それを冷静に躱したエルザは剣でナツを薙ぎ払うと更にそれを躱したナツに低めの回し蹴りでナツを転倒させる。一旦距離を取ろうと考えたナツは口から炎のブレスを吐く。それに巻き込まれるガヤ達がヤジを飛ばすが、その視線の先にはブレスも華麗に躱し次の攻撃のために剣を握るエルザしか見えていない。エルザとナツが同タイミングで飛び出し、その剣と拳がぶつかろうとした瞬間だった。

 

「そこまでだ。全員その場を動くな」

 

 手を叩く音が一回響くと時が止まったかのようにその場の人間が動きを止める。招かれざる客の正体はカエルの姿をした評議員の使者だった。そして衝撃的な発言をする。

 

「先日の鉄の森テロ事件において、器物損壊罪、他11件の罪の容疑でエルザ・スカーレットを逮捕する」

 

「え?」

 

「何だとぉぉぉっ!?」

 

 突然の事にナツ以外は声を上げることが出来ない。エルザ本人でさえも小さく疑問の声が漏れ出ただけで事実を受け止めることが出来ていない。その場の全員が状況をよくわかっていないまま、エルザは評議員に連行されてしまった。その後、ようやく何が起こったのかを理解し始めた皆はギルド内でどんよりとした雰囲気の中、評議員が相手ならばどうすることも出来ないと嘆いていた。ただ一人小さなトカゲの姿に変えられ、逆さにしたコップの中に閉じ込められているナツだけは口うるさく評議員を殴りに行くと騒いでいる。

 

「やっぱり放っておけない! 証言に行きましょ!」

 

「やめとけ。エルザが鉄の森事件で逮捕されるなら今まで俺達は全員逮捕されてる。今回は形だけの逮捕だろう。すぐに帰ってくるさ」

 

 窘めてもまだ納得の出来ないルーシィは食い下がるがマカロフにも宥められる。不当逮捕だ、判決が出てからじゃ間に合わないと叫ぶルーシィだったが、マカロフは今から急いで行っても判決にも間に合わないと冷静に返す。

 

 ルーシィの抗議にコップの中のナツが便乗するように俺を出せとナツがまた騒ぎ立て始める。それに対してもマカロフは冷静に本当に出してもよいのかと問う。すると今までの叫びぶりが嘘のように静かになってしまう。マカロフは、ナツの元気がなくなったなと不敵に笑う。魔力を飛ばして、コップを弾き飛ばし、ナツをコップから出すとトカゲの姿だったナツは元の姿に戻る。と思いきやトカゲの姿から変わって現れたのはマカオだった。

 

 いててと頭を抑えるマカオは以前ナツやラランにハコベ山で助けられた恩を返そうとしての今回の行為だった。からくりは自分をナツに見せかけるためにトカゲに変身して、息子のロメオに自らを捕まえさせ、ナツを装って似たような言動を取って時間を稼いでいたということだ。つまり本物のナツは既に評議員のところに向かっている。

 

「ナツなら評議員でも殴り飛ばしそうだな!?」

 

「シャレになんねぇよ!」

 

「全員黙っておれ。静かに結果を待っておればよい」

 

 マカロフの一言によって、ヒートアップしていたギルド内が一斉に静まり返る。結局、全員はその場に座る。皆、エルザを追っていったナツを追いかけることは出来ず、二人が無事に帰るのを待つことしか出来ない歯がゆさに拳を握りしめていた。




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