FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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番外編 初めての錬金術

 ナツがエルザを追いかけて評議員フィオーレ支部に殴り込みをかけにいった。ナツ以外のメンバーはマカロフの一声により大人しく結果を待ち、二人の帰還を願うことしかできていない。そんなことがあった翌日のこと。

 

 特にすることがないならアトリエに来いと誘われたルーシィは昨日に続いて今日もラランのアトリエを訪れていた。つい昨日、錬金術を習いたいと言った手前、今日やることは分かっている。初めての錬金術だ。ルーシィはラランの使うような凄いアイテムが自分にも作れるのかという期待半分と失敗してラランを怒らせないかという不安半分の心持ちでアトリエの扉を叩いた。

 

「お、来たな。入れ入れ」

 

 ルーシィを玄関で出迎えたラランは既に弟子が出来、教えることが出来る喜びでニコニコである。その足取りも軽く、スキップしながら部屋に入っていく。ルーシィが部屋に入ると何か違和感を覚えた。いつもと同じようで少し違う。なんだか狭くなったような気がしたのである。

 

「いつも違わない?」

 

「気づいたか……これを見よ!」

 

 ラランが横にステップして背中に隠れていた物をお披露目する。そこにあったのはラランが使っている釜と全く同じ新品の釜だった。ふふんと鼻を高くするラランに対し、ルーシィは自分のために作ってくれたのかと喜ぶ。

 

「これ、私のためにわざわざ作ってくれたの?」

 

「愛弟子の為に労力は惜しまない。最高の環境で学んでほしいからな」

 

「ありがとうララン!」

 

「おいおい、抱き着くほどのことじゃない。俺もそうされてきたんだ」

 

 抱き着くルーシィを窘めて、ラランは近くの本棚から一冊の本を取り出す。その本をパラパラとめくって所定のページに付箋を張り付けていく。その後本を閉じるとルーシィに手渡し、今度は素材の詰まったコンテナから適当に数個の素材を取り出して床に投げる。コンテナを閉じると投げ散らかした素材を拾い集めて、それもルーシィに手渡す。

 

「ルーシィに最初に作ってもらうのは『中和剤』だ」

 

「中和剤? それってどんな物なの?」

 

「そうだな……普通に使うってことはほぼない。基本的には錬金用のアイテムだ。俺がよく使うフラムやレヘルンとかの爆弾とかを作る時にもいれなきゃいけない。錬金するときに素材になることがすごく多いアイテムだな。だから初歩の初歩のアイテムとはいえ俺だってしょっちゅう作ってるし、あって困らない物だ」

 

「へぇ、じゃあこの中のどれを使うの?」

 

「別にどれでもいい。中和剤は何を混ぜても出来る」

 

「そんな適当なのね……」

 

「まぁやってみろって」

 

 そう言われるとルーシィは新品の釜に向かい、手に持った素材をぐつぐつと紫色の液体が煮えくり返る釜に放り込む。見様見真似で近くにあったかき混ぜ棒を手に取り、釜に差し込みかき混ぜようとするとラランがそのかき混ぜ棒に手を添える。

 

「しばらくはこうやって俺も一緒にやる」

 

「え、あ、そう、お願い」

 

 ルーシィは思ったよりも体も顔も近いと赤面してしまうが、錬金術中は真面目で失敗したくないラランにはその気持ちは全く届かず、ラランは釜の様子だけを見ている。ルーシィはラランにかき混ぜ棒の大半の力加減を委ね、そのかき混ぜ方などを体に覚えさせている。しばらくすると液体の色が緑色に変わり、シューっと音を立て始めるる。それに動揺したルーシィはどうしようとあたふたしながらラランの方を見る。

 

「ん? 大丈夫だ。これは絶対に起こるから。このペースでかき混ぜてみて。俺は手を放す」

 

「えっ、うん。やってみる」

 

 ラランが手を放すとルーシィはかき混ぜ棒を両手でがっしりと握り、緊張がバレバレなカクカクした動きで釜をかき混ぜる。その様子を見てラランはルーシィにバレないように後ろで笑うがそれと同時に懐かしい感覚に浸っていた。

 

 ラランがアドバイスを送り、ルーシィが落ち着いて釜を回すことが出来るようになると釜の様子がまただんだんと変化を始める。緑色の液体は青色に変化し、大量の煙が立ち込める。二回目の変化にやはり戸惑うルーシィはラランの指示を仰ごうと後ろを振り返ろうとするとラランは既にルーシィの横でかき混ぜ棒を手に取って回していた。

 

「この変化が起こったらラストスパートだ。もう少し強く回す。そして数秒辞めてまた強く回す。この繰り返しだ。一緒にやろうか」

 

「うん!」

 

 ルーシィが両手で棒を持つところから更に上の部分をラランが片手で握って釜をかき混ぜる。それから数分後、釜の液体は綺麗な透明の液体に変化し、底から緑色の液体が瓶詰めにされて浮かんでくる。ラランはそれを取って近くのタオルで軽く雫を拭き取り、ルーシィに手渡す。

 

「おめでとう。初めての錬金術は成功だ」

 

「これで終わり?」

 

「まぁ今回は終わりだな。本来はまだあるけどそれはまた今度」

 

「そっか。でもこれが第一歩なんだよね!」

 

「俺みたいに作れるようになるには先は長いぞ!」

 

「もう、自信たっぷりね。あたしに追い抜かされても知らないわよ?」

 

「はっはっは!!! 是非そうなるように頑張れ」

 

 

 

 ルーシィが初めての錬金術を終えてから数時間、ラランが調合するところを近くで見たいと言ったルーシィはアトリエに残り、ラランの調合する姿を後ろから見ている。それもホム達から出されたお茶をお菓子をバクバクと食べながら。

 

「自分で言うのも何だけど見てて楽しいか?」

 

「うん。ラランを見てるの楽しい」

 

「それ、錬金術じゃなくて俺見てるのが楽しいってことか」

 

「うん。あっホムちゃーん。パイおかわりー」

 

「かしこまりました」

 

 すっかりアトリエに慣れてしまったルーシィは我が家であるかのようにホムちゃんにパイをお願いする。ピコマスターであるルーシィの命令には逆らえないホム達はそそくさとパイの準備をしてルーシィに支給する。ラランはその様子を見て、ため息をつきながら肩を落とすが、ルーシィは全く意に介さず美味しそうにパイを頬張っている。

 

「パイを食べるのは構わんが、暇なら買い物に行くぞ」

 

「え、何買うの?」

 

「素材だよ。自分で収集した方が良い物は作れるけど、ギルドの依頼だったり、民衆の依頼を全部やるためには買った素材も混ぜないと量が足りないからな」

 

「へー、じゃああたしもついてこうっと」

 

「ホム君、これ作っといてくれ。出来るだけ早く戻る」

 

「かしこまりました」

 

 ラランは棒をホム君に渡すと、コンテナの中から大きな手編みの籠を取り出して、ルーシィに声をかける。ベッドに座っていたルーシィはそのまま立ち上がり、手ぶらでラランの後について、アトリエを出る。

 

 ラランはアトリエを出ると迷いのない足取りで目的地に向かって歩いていく。世の中は休日とあってマグノリアの商店街は人々で賑わい混雑している。その時、ラランがふと後ろを向くとルーシィが人々に流されて遠くに行ってしまっていた。手を挙げてラランを呼ぶルーシィはどんどんと流されていくが、人の波を掻き分けてルーシィを追っていくラランはついに目の前まで追いつき、腕を掴んだ。そのまま旋回し、人込みを抜ける為に二人は密着して先へ進み、ようやく広いスペースに出る。

 

「やっと出れたな」

 

「え? う、うん」

 

「……顔赤すぎ」

 

「えっ嘘!?」

 

 ルーシィの体に密着したことで多少意識した部分もあったが、そこは年上として余裕がないところを見せたくないと必死にカバー出来ているはず。対してルーシィは顔を真っ赤にして明らかに動揺した様子を隠せていない。こっちの言葉も聞いているのかどうか分からず曖昧な返事しか出来ていない。

 

「そんな恥ずかしがられると俺も恥ずかしいんだが」

 

「え、いや、そんなつもりは……ないんだけど……」

 

「まぁいいよ。ここ。目的の店」

 

 ラランが立ち止まって店の看板を指さす。看板には『ロウとティファの雑貨店』と文字が書かれている。ラランとルーシィが店に入るとチリンと入り口に設置された鈴が鳴る。すると中にいた男性数人がビクッと反応して店の商品を見ているふりをし始める。

 

「またいるのかおっさん達は……」

 

「あら~ララン君、いらっしゃい」

 

「ティファナさん、今日もお綺麗ですね」

 

「またまた、こんなおばさんをからかっちゃダメよ」

 

 鈴の音に反応して、店の奥から出てきたのは若い女性。この女性こそ店の主であり、この店を繁盛させている第一の理由である美人店主ティファナ・ヒルデブランド。彼女もアーランドから流れてきた一人である。色々な地域を経て、数年前にマグノリアに辿り着き、再会した。それ以来、マグノリアに定住し、アーランドでも経営していた雑貨店を再び開業した。

店の中にいる中年の紳士たちはティファナをその目で拝むことを目的とし、所持金も少ないのにほぼ毎日のように来店しては、ティファナに接客してもらおうと安い商品を買っていく常連である。

 

 仲良さげに話すラランとティファナを見て、急に置いてけぼりを喰らったルーシィは頬を膨らませて拗ねたような表情を見せる。その様子に気づいたティファナにルーシィのことを訪ねられる。

 

「で、その後ろの娘はララン君のガールフレンドかしら?」

 

「が、ガールフレンド……ち、違います! あたしは弟子で……」

 

「だそうです」

 

「あらそうなのね。おばさんの早とちりだったみたいね~」

 

 ティファナと会話をしながら今回買うものを次々に注文していく。店の品のほとんどを買い占めるように注文を終えたラランはその全てを籠に詰め込み、代金を支払う。その間ずっと紳士たちとルーシィの視線を一身にラランは受けていた。

 

「じゃあ、また」

 

「えぇ。いつでも来てね」

 

 籠を抱えて店の外に出るのに続いて、ルーシィが外に出ようとするとティファナがルーシィを呼び止める。ルーシィはビタッと足を止めて振り向くとティファナはにやにやと笑っており、カウンターから出てきて、ルーシィに耳打ちした。

 

「あの子のこと気になってるんでしょ。頑張ってね。おばさんも応援してるわ」

 

 それを聞いたルーシィは頭から湯気をだして顔を真っ赤にして恥ずかしがる。ティファナはクスクスと淑女の微笑みを浮かべながらルーシィの肩を優しく叩いて店の奥に戻っていった。

 

 ルーシィは頭から湯気を出したまま、外に出る。大変に驚かれたが、今の彼女はそれを意に介することが出来る状態ではなかった。その後も2人は様々な店を回り、その度に大量の素材を買い占めては籠に詰め込んでいく。ルーシィはどの店でも店員と仲良く話す姿を見て、この街に自分もいつかはこんな風に馴染めたらいいなと考えるのであった。それと同時にこの街にいつからいるんだろうという素朴な疑問が浮かび上がってくる。

 

 一通りの買い物が終わるとアトリエに戻るためにトラベルゲートを取り出して、床に置く。その時ルーシィはもう少し彼と話したい、歩いて帰りたいと何故か思った。ティファナの言う通り、彼のことが気になっているのかもしれないと自覚するのに時間はかからなかった。

 

「あ、あのララン?」

 

「どうした」

 

「今日は歩いて帰らない?」

 

「……いいよ。ゆっくり帰ろうか」

 

「うん!」

 

 茜色の夕日に照らされた2人はアトリエへの帰路につく。ラランの片手には籠が握られ、もう片手にはルーシィの手が握られている。ラランがまた迷子になると困るからと既に昼のような混雑もない道では苦しい言い訳を使いながらも提案したのである。ルーシィはその提案にうんとも嫌とも言わず、黙ったまま手を出してラランの手を握った。二人の間に言葉は無く、顔を赤く染めている。しかしその顔の赤さも夕日にかき消されて、心の内に秘めた恥ずかしさだけが残っていた。

 

「おかえりなさいませ。マスター、ピコマスター」

 

「ただいま」

 

 二人がアトリエに着くとホム達が出迎える。その夜はルーシィもラランとホム達と食事をして、ルーシィは帰宅した。初めての錬金術から始まり、買い物ではラランとの距離が一気に縮まった。それが良かったのか悪かったのかは本人にしか分からないが、家への帰り道では笑顔に溢れていた。

 

 一方のラランはアトリエで、今日は色々やりすぎたから明日からどう接しようと不安になりまくっていた。ホム達にも相談するが、ホム達は、すみません、わかりませんの一点張りで全く頼りにならない。ラランはもうどうしていいのかと苦悩しながら眠りについた。




登場した錬金アイテム

中和剤

全ての錬金術士が最初に作る物。誰でも作れる物にして難しいアイテムにも使われる汎用性の高いアイテム。中和剤なくして錬金術は成立しない。

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