FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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消えた依頼書はS級クエスト

「やっぱシャバの空気はうめぇなーー! 最高にうめぇ!」

 

 エルザを追ってナツが評議員に殴り込みをかけてから数日、ナツもエルザもひょっこり帰って来た。ラランが依然言っていた通り、形式通りの逮捕であった。ナツの殴り込みがなければもっと早く帰れていたとエルザが愚痴っていたが、ナツはそんなことは露知らず、外の空気の美味さに感動してバーカウンターの上で踊り狂っている。その後もギルド中を暴れまわるといきなりピタリと動きを止めてエルザに食って掛かる。

 

「そうだ! エルザ、この前の続きだ!」

 

「よせ、疲れているんだ」

 

 エルザは決闘の続きにあまり乗り気ではなかったが、そんなことは関係なくエルザめがけて突っ込んでくるナツが見える。エルザはやれやれと息をつきながら、大槌を換装して大きくスイングした。大槌が顔にクリティカルヒットしたナツは吹き飛ばされ、地面に何度もぶつかりながらギルドの壁を破壊してようやく止まった。もちろんナツは戦闘不能、エルザは始めようと意気込んだが、そんなことは出来るはずもなく、エルザの完勝となった。

 

 それを見ていたグレイやエルフマンなどギルドメンバーはナツを笑い飛ばし、ギルド中ががやがやとしている、そんな騒々しいギルドの中でマカロフ一人だけがうつらうつらと目を閉じようとしていた。すると騒々しかったギルドがまさに瞬く間に静まり、全員が眠りに落ちていた。マカロフだけはその眠りの魔法に気づき、来訪者を招き入れた。

 

「ミストガン」

 

 ミストガンと呼ばれた頭のほとんどをバンダナとマフラーで覆った男は、一直線に依頼板に歩いていき、一つ紙を手に取るとマカロフに提出する。

 

「ララバンティーノへ頼んだ物は完成しているか」

 

「む、あぁ。これじゃ」

 

「では行ってくる」

 

「これっ! 眠りの魔法を解かんか」

 

 ミストガンは依頼紙とラランへ依頼していた石板を二つ受け取るとマカロフの言葉に「自然に解ける」とだけ返し、ギルドの入口へ向かっていく。その間ミストガンは魔法が解けるまでのカウントダウンをして、ギルドから出るとその名前の通り霧のように消え去った。そしてミストガンのカウントダウンが零を迎えると、今まで眠っていたメンバーたちが一斉に目を覚ます。

 

「この感覚はミストガンか」

 

「相変わらずすげぇ眠りの魔法だ」

 

 眠りから覚めたメンバーたちはその感覚からミストガンが来たと察し、その眠りの魔法の強大さに感心している。唯一ミストガンの魔法を知らないルーシィだけは頭にクエスチョンマークを浮かべている。近くにいたラランがミストガンの魔法を説明すると名前だけは知っていたようで感心していた。

 

「で、何でかは知らないけど顔を見られたくないみたいで、ギルドに来る時は毎回眠りの魔法で皆を眠らせる。マスター以外は顔を知らない」

 

「なにそれ、怪しすぎ!」

 

「いんや、俺は知ってっぞ。ミストガンはシャイなんだ。あんまり詮索してやるな」

 

 ラランの「マスター以外は誰もミストガンの顔を知らない」というところに反応した声が、ギルドの二階から聞こえてくる。すると一階にいるメンバーが一斉に二階を見上げ、ラクサスだとその声の正体を明らかにした。

 

「ララン、お前いつまで下で燻ってんだ。さっさと上がってこい。それともガキのお守りが染みついちまったか?」

 

「上に行くのは面倒臭くてな。下の空気が俺には合ってんだよ」

 

「うおおおおお! 俺と勝負しろラクサス!」

 

 ラランとラクサスの睨み合いに空気を読まず、ナツがテーブルの上に立って宣戦布告する。ラランとの会話では笑みもあったラクサスの表情は一転して全く無関心になる。

 

「エルザに負けたばっかじゃねぇか。エルザに勝てねぇようじゃ俺には勝てねぇよ」

 

 それを聞いたエルザはそれはどういうことだと闘志をメラメラと燃やしていた。ナツは望むところだとラクサスのいる二階に上がろうとするが、それを見たマカロフが腕を伸ばして巨大化した拳骨で押しつぶして止めた。

 

「2階に上がってはいかん。まだな」

 

「ははっ怒られてやんの」

 

「ラクサスもよさんか」

 

「妖精の尻尾最強の座は誰にも渡さねぇ。エルザにもミストガンにもあの親父にもな。俺が、最強だ!」

 

 ラクサスは1人、2階から高らかに宣言するとナツやエルフマンなどの血気盛んなメンバーたちはラクサスを睨みつけて食って掛かるが、マスターがラクサスや1階にいるメンバー達を諫めて、その場を収め、なんとか事無きを得た。それからラクサスは2階から降りてくることはなく奥へ消えた。1階のメンバーたちも仕事に向かう者、帰宅する者とそれぞれ散っていった。

 時は過ぎて夜。ほとんどのメンバーがいなくなったギルドではラランとルーシィがバーカウンターでミラと話している。内容はラクサスのいる2階についてである。

 

「ミラさん、さっきマスターが言ってた2階には上がっちゃいけないってどういうことなんですか?」

 

「ルーシィにはまだ早い話だけどね。2階の依頼板には1階とは比べ物にならないくらい難しい依頼が貼ってあるの。S級の冒険よ」

 

「S級!?」

 

「一瞬の判断ミスが死を招くような危険な仕事よ。その分、報酬もいいけどね」

 

「うわ……」

 

 死という言葉を聞いて、冷や汗をかきながら引いたルーシィ。

 

「今、S級依頼を受けられるのはラクサスを始めとして6人、エルザもその一人だ」

 

「ラランは受けられないの?」

 

「権利は持ってる。ただ、道具のストックが万全の時だけだ。行ったことはない。それだけの道具を用意するのが面倒だからな」

 

「まぁS級なんて目指すものじゃないわよ本当に命がいくつあっても足りない仕事ばかりなんだから」

 

「みたいですね……」

 

 そう言うミラに苦笑いしながらルーシィは返した。そしてルーシィはその流れで昼から気になっていたことをラランに質問する。

 

「そういえば、ラランとラクサスって仲良いの?」

 

「ん?」

 

「だってナツとエルザの決闘の時もラクサスにはすぐに会わせてやってもいいって言ってたり、昼間もラクサスから早く上がってこいーなんて言われてたし」

 

 その質問に何かを感じたミラが話を逸らそうとしてくれたが、別にいいと止める。グラスに入っていた水を一気に飲み干してルーシィの質問に答える。

 

「仲は良いよ。今も。同い年だし、妖精の尻尾では一番付き合いも長い。ここに来た10年前の子供だった頃からよく遊んでたし、つい何年か前まで一緒にチーム組んで仕事にも行ってたんだ」

 

「10年もここにいるんだ。結構昔からいるのね」

 

「ラランはギルドでも古株よ。私やナツ、エルザより前からいるわ」

 

「ま、話せるのはこのくらいだな」

 

「えー、まだ聞きたいことあるのに!」

 

「また明日な。これ以上帰りが遅くなるとホム達が心配する」

 

「ふふ、ラランはホムちゃん達が大好きね」

 

「当たり前だ。自分の子どもが嫌いな奴がいるか?」

 

 ラランはそう言い残すとルーシィとミラを残してギルドを出た。

 

 

 翌日、ラランはまたルーシィに色々と聞かれそうだと覚悟をしながらギルドに入った。しかし入った途端に聞こえたのはミラの叫び声だった。なんだなんだと騒ぐギルドメンバーに混じるようにラランも2階への階段から降りてきたミラの近くに寄った。

 

「マスター! 2階から依頼書が1枚消えています!」

 

 ミラの言葉にマスターは飲んでいたお茶を噴き出し、ギルドにいた皆のざわつきは更に大きくなる。すると2階にいたラクサスは羽の生えた猫が依頼書を引きちぎっていくのを見たという。羽の生えた猫とはつまるところハッピーの事である。

 

「これは重大なルール違反だ。じじい! 奴等は帰り次第、破門……だよな。つーかあの程度の実力でS級クエストに挑むたぁ……帰っちゃこねぇだろうがなぁ」

 

 ラクサスが笑いながらそう言い飛ばすとミラが知っていたなら何故止めなかったと怒鳴る。ラクサスは猫が紙を加えて逃げたようにしか見えなかった、まさかそれがハッピーでS級に行ってしまうとは思いもしなかったと不敵に笑いながら主張するが、その笑みは明らかにわかっていたと言うような顔だった。ミラはラクサスを鬼の形相で睨むが、ラクサスはその顔は久しぶりだとと挑発するばかりで恐れる姿はない。

 

「まずいのぅ。ミラ、消えた紙は?」

 

「呪われた島、ガルナです」

 

「悪魔の島か!!」

 

 それまでどうしたものかと目を瞑って考えていたマスターもその消えた紙の依頼を聞いて目を見開いて驚く。マスターの驚き様にギルド内も更にざわついた。

 

「ラクサス! 連れ戻してこい!」

 

「冗談……俺はこれから仕事なんだ。自分のケツを拭けねぇ魔導士はこのギルドにはいねぇ、だろ?」

 

「今ここにいる中でお前以外に誰がナツを力づくで連れ戻せる!?」

 

 マスターの怒号に二人の男が立ち上がる。

 

「じーさん、そりゃぁ聞き捨てならねえな。ナツを力づくで止めるなんて簡単だ」

 

「マスター、俺も行きます」

 

 マスターは考え込んだ後、ナツをギルドに連れ戻す命を出した。それを聞くとすぐに走ってギルドを飛び出す。

 

「グレイ、ナツは恐らくハルジオンだ。ガルナ島へは船で行くしか方法はない」

 

「なるほどな。じゃあハルジオンまで急ごうぜ」

 

 ナツがいると見当をつけたハルジオンの街へ急いだ。

 

 それから数時間、ハルジオンの街に到着したグレイと手分けしてナツを探す作戦に出た。自分は街の陸側を、グレイは港側の捜索を始めた。

 

「すいません。ピンク色のつんつんした髪の男の子と青色の猫を見ませんでしたか」

 

「あぁ青色の猫なら見たぞ! でも少年の方は見てないなぁ。その青い猫は金髪の女の子と一緒だったよ」

 

「金髪の女の子……」

 

 それを聞いて頭にルーシィの顔が過る。まさかとは思いながらも話を聞いた男性に礼を言って、走り始めた。それからも聞き込みを続けたラランは住人達の証言から間違いなくナツとハッピーの他にルーシィが来ていることを察する。この事を知らせようと港側を捜索していたグレイの元に向かう。多くの船が停泊している港を探し回っていると視線の端に氷が映る。

 

「いた! ナツやルーシィも!」

 

 確信を得て、そこに向かって走るが如何せん距離が遠く、ナツやルーシィ達を目で捉えながらも、あと一歩及ばずナツがグレイを船に蹴り入れて縄で縛り、船は出航してしまう。

 

「ナツーーー! 戻ってこーーーい!!」

 

 船が出た波止場から大声を出して叫ぶが、ナツは笑顔であっかんべーとこちらを煽り、そのまま船は進んでいった。ルーシィは罪悪感に溢れた表情をしながらも戻ってくる素振りはなかった。

 

「くそ。グレイまで連れてかれたんじゃどうしようもない。一旦ギルドに戻ろう」

 

 その場で拳を握りしめるしかなかった。とりあえず状況を伝えるためトラベルゲートを潜ってギルドへ帰還した。ナツを連れ戻せなかったこと、グレイまでガルナ島に連れていかれてしまったことなどマカロフに叱責されたが、すぐさま新たに命を出される。それはエルザと共にガルナ島へ赴き、ナツ達を連れ戻すことである。

 




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