FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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時の対決

「どこだ……」

 

 一人別行動で遺跡の中を走っていると、壁の崩れる音が響いた。きっとナツかグレイが時を操る人物と交戦しているのだと考え、その方向である遺跡の下へ走った。その途中、目の前の壁に突き抜け、ナツが飛び出していった。ナツの元に駆けつけると、ナツはすぐさま立ち上がり、壁の破損によって生じた煙の先を見つめる。そちらを見ていると、煙が晴れると仮面を被った男、ザルティが立っていた。そしてその奥には氷漬けになっているはずの怪物、デリオラが鎮座している。しかしその氷はデリオラの上半身までが既に砕け散っていた。ナツはザルティとの戦闘で既に傷だらけだったが尚も立ち向かおうと両手に炎を纏わせる。

 

「ララン! こいつの魔法、変だ!壊しても元に戻っちまう」

 

「やっぱりか。ナツ、こいつは俺にやらせてくれ。こいつの魔法を俺は知ってる」

 

「ほんとか!?」

 

「あぁ! これ以上あの氷を溶かさないために上にいる儀式をやってる奴等を叩いてくれ!」

 

「……負けんじゃねーぞ!」

 

 ナツは少し考えて、その場を任せて儀式の阻止へ向かった。ザルティと対峙すると、臨戦態勢は取らず、話を持ちかける。

 

「あんた、魔導士か? それとも錬金術士か?」

 

「錬金術士……まだこの世に存在していたのですか。しかし残念、私は魔導士でございます」

 

「そうか、残念だ」

 

「ではこちらからも。あなた、私の魔法を知っていると言いましたが」

 

「あぁ。知っている。錬金術士の線が消えた以上、あんたの魔法は失われた魔法。時間操作魔法だ」

 

「ほぅ。なるほど確かにお知りのようだ!」

 

 不意打ちで水晶を放ってくる。それを躱すと手に石板を出現させた。仮面の人物は水晶を操りながら攻撃する。水晶は規則性もなく縦横無尽に暴れまわり、襲いかかってきた。

 

「あなたが魔導士ではなく錬金術士だとして、時を操る私の敵ではない」

 

「それはどうかな。時の石板!」

 

 手の石板に力を込めると水晶の動きがピタリと止まった。歩いて水晶に近づくと石板で水晶を叩き割る。ザルティそんな馬鹿なと叫びながら水晶に魔力を込める。

 

「錬金術士が敵ではないとは慢心も程ほどにしておけよ魔導士。確かに俺はあんたみたいに時間を急速に進めたり、戻したり、止めたりは出来ない。でも時の流れを限りなく遅くすることは出来る」

 

「馬鹿な! くそ! 戻れ!」

 

「これで終わらせてやる! ドナー・スト……!?」

 

「来たぁ!!」

 

 隙だらけのザルティにドナー・ストーンを叩き込もうと、手に握りしめる。しかしその時、デリオラの氷に更にひびが入り、左足までが解放された。残った氷が僅かになった事に危険を感じて、ザルティの水晶にかけた時の石板の効力を解除してデリオラに対峙する。一方のザルティの水晶に溜まっていた魔力は時の石板の効果が解除されたことで一気に解放され、形の復元、さらに大きく暴れまわって仮面の男の頭にぶつかった。

 

「復活しかけの今ならまだ本調子じゃないはず。精霊石に封印して……がぁ!」

 

「封印などさせませんよ。せっかく三年もかけて復活させたのですからね」

 

 デリオラに気を取られている間にザルティが時のアークで操った大量の瓦礫が降り注いできた。全く注意をしていなかったため全てが直撃し、大きなダメージを受けてしまう。何とか瓦礫を払いのけて、立ち上がり、すぐさまバックから回復アイテム、ヒーリング・ベルを使用する。

 

「ヒーリング・ベル」

 

 ヒーリング・ベルの振り、一度鳴らすとその癒しの音色は身体を包み込み、今受けた傷のほとんどを消し去り回復させた。しかしザルティは回復の最中にも水晶による攻撃をかけてくる。今度はしっかりと躱し、時の石板で再び水晶の時間を遅らせる。

 

「なぁあんたの目的は何だ? デリオラを復活させて何をしたい? 事情を聞く限りあんたは前線にも出てこねぇ、復活の儀式もやらねぇ、明らかに零帝に本気で協力しようとしてないよな」

 

「ほっほっほ、いやはや敵いませぬな。零帝様、いやあんな小僧ごときではデリオラは倒せませぬ」

 

「じゃあ何のために」

 

「ただ我が物にしたい。不死身の怪物も操る術はございます。あれだけの力を手にできれば、さぞ楽しそうではございませぬか?」

 

「力か。いざという時に必要なのは力、だな」

 

「ええ。必要になる時は来るのです」

 

「でも今の俺は怪物の力より、自分の力と仲間の力を信じたい」

 

「うぬぼれは身を滅ぼしますぞ。天井よ、時を加速し朽ちよ」

 

 ザルティが天井に魔力を向けると、天井が崩れ、大量の瓦礫が再び降り注ぐ。そこでデュプリケイトよりも更に高速でアイテムをコピーできるスキル、クイックデュプリを使用して時の石版をコピー。瓦礫の時間を遅らせて、そこから横っ飛びで避難した。しかしオリジナルとクイックデュプリでは時の石板の質に大きく差があり、瓦礫の降り注ぐ場所から移動した直後に効果は切れ、ガラガラと瓦礫は崩れ落ちた。その隙にザルティは水晶を動かす。転倒から急いで立ち上がり素手で水晶を防ぐが、想像以上のパワーに手は弾かれ、水晶が腹部にめり込み、吹き飛ばされる。ヒーリング・ベルで傷は回復するが、息は切れたままである。

 

「貴方の時の石板で時間を操れる対象は一つだけ。違いますか?」

 

「正解だ。じゃあ、あんたの魔法は生物には効かない。違うか?」

 

「御名答でございます。我が魔法、時のアークは生物には効きませぬ。なのでウルであるデリオラの氷は溶かせませぬ」

 

「なるほどな」

 

 ザルティと睨み合ったまま、動かない。お互いに有効打がない以上、下手に魔力を消費したり、アイテムを消費することは愚策であり、動かないことが最善手であった。だが、動かねば勝利は得られない。そこで取り出したのはハコベ山のバルカン戦で使用した神秘のアンク。時を動かすザルティに対して生物ではないアイテムの投擲ではアイテム自体の時を動かされて的外れの場所で効果が発動させられて通用しないため、肉弾戦で決着を付けようとという考えである。

 

「神秘のアンク、スピードアップ」

 

 アンクを発動させ、背中に携えた杖を両手に持ち、構える。すると只の木で出来た杖が変化を始める。杖は金属製に変わり、頂点には大きな翡翠色の玉が出現する。それを覆うように翼が生える。

 

「天使の杖。一撃で決めよう」

 

「貴方の時の石板がもうないことは分かっているのです。貴方に我が時のアークが止められますか!?」

 

 ザルティによる時のアークが周りに散らばった岩を動かし、一斉に襲いかかる。しかし、それを石板で止めようとはせず、一直線にザルティに向かって飛んだ。神秘のアンクによってスピードは格段に上昇しており、一瞬でザルティを飛び越えた。それに応じて岩の照準を整え再発射されるが、動じず飛んできた岩を杖で叩き割る。全ての岩を砕かれたザルティはどうすることも出来ず、あたふたしながら天使の杖が振りかざされるのを待つしかなかった。

 

「エンゼル・シュート!」

 

 天使の杖がザルティの頭頂部を直撃する。その瞬間、杖から炎、氷、雷、振動が発生。ザルティは燃やされ、凍らされ、痺れ、体内機能を混乱させられた。重すぎる一撃を受けたザルティは絶叫しながら吹き飛ばされて見えなくなってしまった。

 

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 

「あいつ、女だったのか……」

 

 ザルティの叫び声が女性らしい甲高い声だったことでようやくザルティが女性だったことに気づいた。しかしその直後、デリオラの右足の氷が砕け、完全なる復活を遂げた。再びあの大きな唸り声を上げると、その声圧で吹き飛ばされそうになるが必死にこらえる。デリオラに釘付けになっていると後ろから水音が聞こえた。敵かと後ろを向くとそこには傷だらけのグレイの姿があった。

 

「グレイ! こいつはまだ復活したばっかだ! 叩くなら今しかない!」

 

「くくく、お前らには無理だ……あれは俺が……ウルを超えるために……やっと会えたな、デリオラ……」

 

「リオン! お前の方が無理だよ! 引っ込んでろ!」

 

 そう言うと、グレイの後ろから這いつくばって体を地面に擦り付けながら迫ってくる者がいた。彼こそ、グレイの兄弟子であり、デリオラを復活させようとした張本人である零帝、リオンである。しかしリオンは既にグレイに敗北し立つことすらままならず、デリオラに勝つなどこの中で最も無理な状況である。決死の力でリオンは立ち上がり、デリオラに挑もうとする。それを見たグレイはリオンの背後から首に手刀を叩き込み、リオンを戦闘不能にさせた。そしてデリオラに向かって両手を伸ばして交差させる。その構えは師匠ウルがデリオラを封印した魔法絶対氷結(アイスドシェル)の構えである。再びデリオラを封印する気のグレイにリオンと共に叫ぶ。

 

「よせグレイ! あの氷を溶かすのにどれだけの時間がかかったと思っているんだ! 同じことの繰り返しだぞ! いずれ氷は溶け、再びこの俺が挑む!」

 

「やめろ! 命を賭して封印することはない! 今の俺達ならこいつを叩ける!」

 

 しかし、グレイの決心は固く、絶対氷結の構えを解くことはない。そして絶対氷結は発動を始め、グレイの周りに冷気が漂い始める。一方のデリオラもそれを易々と良しとするはずもなくグレイに向かってその大きな腕を振り上げる。自らの体を犠牲にしてでもグレイを守ろうとグレイの前に出て、杖を構えた。

 

「ララン! 何してる! どけ!」

 

 デリオラの腕が振り下ろされようとした瞬間、動きがピタリと止まる。そしてその腕は、ひび割れ、砕け落ちた。更には顔、体、足まで全てが砕け、デリオラはバラバラになってしまった。既にデリオラは死んでいたのである。ウルによる絶対氷結から十年、徐々に命を奪われていたのだ。そして彼らはその最後の瞬間を見ていたに過ぎなかった。

 

「……すごいんだな、グレイの師匠」

 

 リオンは地面に拳を叩きつけ、自分は師匠を超えられないと涙を流し、グレイはウルとの過去を思い出し、感謝しながら涙を流していた。その後、エルザ、ナツ、ルーシィと合流し、リオンもヒーリング・ベルによる回復を受けて、何とか回復した。

 

「いあーーー! 終わった終わったーー! これで俺達もS級クエストクリアだ!」

 

「何言ってんだお前ら。俺とエルザが何のためにここに来たのか忘れたのか?」

 

 ナツとルーシィがあたかも全て解決、ハッピーエンドのような雰囲気を出していたが、その言葉によって現実に引き戻される。二人が来た理由はあくまでもギルドの掟を破ってS級クエストを受けたナツとルーシィを連れ帰ることである。怒りの表情に満ちたエルザの表情を見たナツとルーシィは冷や汗をダラダラと流した。しかしエルザはそれよりもと付け足した。

 

「その前にやることがあるだろう。S級クエストはまだ終わっていない」

 

「え!?」

 

「そうだ。俺達が聞いた話じゃ、依頼の内容はデリオラを倒すことでも儀式を止めることでもない。悪魔にされた村人の呪いを解くために月を破壊することだろ」

 

 ナツ、ルーシィ、グレイはハッとしたような顔をした。しかしルーシィはでもでもと反論する。

 

「デリオラは死んじゃったし村の呪いだってこれで……」

 

「いや、呪いはデリオラが原因じゃない。月の雫の膨大な魔力が村の人々に影響を与えたんだろう」

 

「じゃあとっとと治すかーー!」

 

 ナツが勢いよくそういうが、どうやってという疑問が残る。グレイがふと後ろを振り返ると岩肌に背中を預けて座っているリオンが目に入った。グレイと目を合わせたリオンはその会話に参加する。

 

「俺は知らんぞ」

 

「なんだとォ!?」

 

「でもあんた達が知らなかったら他にどうやって呪いを……」

 

 知らないと白を切るつもりだと思ったナツとルーシィがリオンに突っかかるが、それを宥めて、リオンは話を続ける。

 

「三年前、この島に来た時、村が存在するのは知っていた。しかし俺達は村には干渉しなかった。奴等から会いに来ることもなかったしな」

 

「三年間、一度もか?」

 

「というか、三年間、村人と同じ光を浴び続けていたリオン達は何で何ともないんだ」

 

 そう言うと、全員が確かにと納得する。

 

「気をつけな。奴等は何かを隠してる。ま、ここからはギルドの仕事だろ」

 

 一旦、話に決着がつくとエルザの号令によって皆はリオンを残して遺跡を立ち去ろうとする。グレイ以外の全員がデリオラが鎮座していた部屋から出ると、グレイはリオンの方を振り返った。

 

「お前もどっかのギルドに入れよ。仲間がいて、ライバルがいて、きっと新しい目標が見つかる」

 

「くだらん。さっさと行け」

 

 リオンは顔を背けながらそう言うが、どこか照れているような、今までの零帝リオンとは全く違う表情をしていた。グレイはそれ以上は何も言わず、皆に続いて遺跡を後にした。




登場した錬金アイテム

時の石板

時間を操ることの出来る石板。時間の進むスピードを速めるもしくは遅くすることが可能。決して時を戻すことは出来ない。

ヒーリング・ベル

音色を聞いた者の傷を持続回復するアイテム。対象者は音色を聴いた使用者の味方のみ。例外的に味方以外でも使用者に認められた場合、効果が及ぶ。

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