――――目を覚ますと天井が見えた。見たことのある天井だ。体のあちこちが痛むが傷はない。少し頭が混乱しているが全てを思い出した。エレメント4に敗れ、ルーシィを連れ去られた。でも何故病院にいるのか。あのジュビアという水魔法を使う女に拘束されてはずだ。
「ララン! 目を覚ましたのね!」
体を起こすと、ベッドと体が擦れ合う音に反応してカーテンが開けられた。そこにいたのはミラジェーン。驚いて口が空きっぱなしになってしまったが、ミラは深刻な顔でこちらを見つめていた。
「よかった……」
「ミラが俺をここまで運んでくれたのか?」
「いいえ、ホムちゃんがラランとホム君を運んで、泣きながらギルドにいた私に知らせに来たの」
「涙を……そうか、俺がもっと強ければルーシィは……」
「ラランは必死にルーシィを守ろうとしてくれたわ。私こそ何も出来なくて……」
「……この話はやめよう。過ぎたことは仕方ないさ。だから俺はルーシィを助けに行く」
ミラはそれが無茶だとわかっていた。しかしその目を見ると何故か止めることは出来なかった。ミラは胸に手を当てて協力することを決めた。
「エレメント4直々に拉致しに来たんだ。恐らくルーシィの居場所はマスタージョゼと同じ場所」
「幽鬼の支配者の支部でジョゼがいるのは多分ここよ」
「ルーシィを助けたらすぐに戻る。ジョゼには到底敵わない」
「……ホムも行きます」
話し合っている所に入って来たのは傷だらけの体を包帯で覆ったホムちゃんだった。既に傷ついたホムの参加を止めようとしたものの、傷ついているのは自分も同じ。ホムの同行を許可するしかなかった。
「じゃあ気をつけてね」
「あぁ、すぐに戻る」
病室から出て、ミラの見送りを受けると、空飛ぶじゅうたんを広げてジョゼのいる幽鬼の支配者支部へ飛び立つ。
支部へ向かう途中にホムとお互いの傷をアイテムで治療し、万が一ジョゼと戦闘になった時にすぐに逃げる程度は出来るように身体を休めた。そして高い塔がシンボルの支部が見えてくる。
「あれだ……ホム、メルクリウスの瞳でルーシィがどこにいるか見えるか?」
「魔力によってバリアが張られていて、透視が防がれています。しかしピコマスターがいるのは最上階だと思われます」
「ま、そうだよな。最上階の最も奥か地下の最も奥、捕虜の居場所はどっちかって決まってんだ。とりあえず最上階に乗り込むぞ。ホムも見えないクロークを着てくれ」
物体を覆うことによって一時的に姿を視認させなくするアイテム、見えないクロークによって姿を潜め、支部最上階に近づくと、支部の作りは最上階のみ、窓はなく、そのまま部屋と外と繋がっていた。飛び降りても死ぬだけだからだろう。その一室を覗き見るとそこには両手を縛られたルーシィが座り込んで軟禁されていた。すぐさま助け出そうとした瞬間、正面の重厚なドアからマスタージョゼが入ってくるとルーシィに話しかけた。ここで飛び込むには機が熟していないと判断し、二人の会話を聞くことにした。
「お目覚めですかな、ルーシィ・ハートフィリア様」
ハートフィリア……!? 国でも有数の大富豪じゃないか。ルーシィが自分のファミリーネームを語りたがらなかったのはそういうことだったのか。しかしファントムはどこでその情報を得た?
「貴方の態度次第では捕虜ではなく最高の客人としてもてなす用意は出来ていますよ」
最高の客人? ジョゼの狙いはルーシィ本人ではなくハートフィリア家の財産か。ルーシィを出汁に父親を脅して有り金踏んだくろうってことか……
「私たちの本当の目的はハートフィリア家令嬢ルーシィ・ハートフィリア様、貴方ですよ」
「誘拐ってこと?」
「いえいえ、滅相もございません」
誘拐ではない……ジョゼの目的はルーシィ、でも誘拐ではない。どういうことだ。既にこうやってルーシィを捕まえている以上、ハートフィリア家は黙っていないはず……
「貴方を連れてくるよう依頼されたのは、他ならぬ貴方の父上なのです。可愛い娘が家出をしたら探すでしょう。普通」
「しない……あの人はそんなこと気にする人じゃない。あたし絶対帰らないから! あんな家には帰らない!」
……盲点、先入観にやられていた。親は子を守るものだと思い込んでいた。いや、その先入観はある意味当たっている。ルーシィのことを探している父上とその財力を得たい幽鬼の支配者の利害の一致だ。偶然にもルーシィが妖精の尻尾にいただけで、妖精の尻尾と幽鬼の支配者の仲が悪いとか、全面抗争とか、この問題には関係のないことだったんだ。全てはジョゼの「ついで」で起こった出来事だ。
「てか、トイレ行きたいんだけど……」
「随分と古典的な手法ですね」
ルーシィがここから逃げる手段を提案した。これはチャンスだ。ジョゼの隙をついて隠密にルーシィを奪還する。
ジョゼはバケツを取り出し、ルーシィの前に差し出す。これに用を足せということだろう。そんなこと仮にもお嬢様がするわけ……
「はぁ~バケツか~」
するんかい!! ってそんなこと言ってる場合じゃない。ジョゼが要らぬ紳士振りを見せて後ろを向いた。この隙に付け入る他ない。ルーシィは更にジョゼの股間にキックを叩き込んだ。ジョゼが悶絶している間に遂行する。
じゅうたんに乗ったまま部屋に飛び込み、ルーシィを捕まえて強引にじゅうたんに引きずり込む。見えないクロークは最初に包んだもの以外に触れると姿が見えるようになってしまうためルーシィに触れた瞬間からジョゼに姿が見えるようになる。ジョゼはダメージを追いながらもこちらを目視する。
「貴様! 妖精の尻尾!」
「クソ! バレちゃしょうがねぇ! 全速力で逃げるぞ!」
「馬鹿め、ここは空の牢獄」
「馬鹿はお前だ。空を飛ぶなど錬金術には赤子の手をひねるより簡単だ!」
「なっ!?」
空飛ぶじゅうたんは全速力で空の牢獄から離れていく。ジョゼは逃げられたショックと股間の痛みで再び悶絶して反撃はしてこなかった。
「ありがとう、ララン」
「礼は言うな。俺はルーシィを助けられなかった」
「どういうこと? たった今あたしを助けてくれたじゃない」
「俺は街でエレメント4に敗れ、目の前でルーシィを攫われた」
ホムがルーシィの腕の縄を解き、自由になったルーシィと話している。ホムの使うアイテムによってルーシィの傷も次第に回復しつつあり、何とか奪還作戦は成功した。
「ごめんね……」
「謝罪もするな。ジョゼとの話はすべて聞いてた。とんでもないお嬢様を弟子にしたもんだ」
「……全部あたしのせいなんだ……それでもあたし、ギルドにいたい。妖精の尻尾が大好き……」
ルーシィは自分のせいで今回のすべての出来事の引き金を引いてしまったと後悔し、涙を流した。その姿を見て、ルーシィが自分の本当の名を明かした今、自分も明かすべきだと感じた。
「ルーシィ・ハートフィリア。俺の名前を言ってみろ」
「……え、ら、ララン」
「違う。フルネームだ」
「ララバンティーノ・ランミュート、でしょ。違うの?」
「違うな。俺の名はララバンティーノ・ランミュート・アーランド」
「アーランド……?」
ルーシィはアーランドという言葉に聞き覚えがあるような、ないようなと思いながら思い出そうと必死に考えていた。
「前、鉄の森と対戦して、定例会場に行く時の魔道四輪でエルザが勝手に口走ってたの覚えてるか?」
「……そういえば、ラランは王族の生まれだって……え、アーランドってアーランド共和国!?」
「そうだ。アーランド王国、後のアーランド共和国。しかし10年前に黒い竜の突然の襲撃によって一瞬にして滅亡した。俺はそこの生き残りだ。そんな奴ですらギルドには居場所がある。ルーシィがいちゃダメなんて言うやつはいないよ」
「うん……」
ルーシィが後ろから抱き着いてくる。既に親のいない身としてルーシィの気持ちを分かってやることは出来ない。してやれることは傍にいてあげることだけだ。
「ルーシィ、君がどんな家の生まれだろうと、どこで生まれようと、妖精の尻尾の一員で、俺達は家族だ。ギルドが帰る家だ」
「うん……」
「マスター、ギルドに着きます」
「よし、ルーシィ立てるか?」
「大丈夫」
ギルドの前にじゅうたんを止め、ルーシィに肩を貸しながらギルドに入る。するとそこには傷だらけの妖精の尻尾の魔導士たちが傷の手当をしていた。
「皆……帰った」
「ララン、すまない。私たちは……」
初めに話しかけてきたのはエルザだった。妖精の尻尾が幽鬼の支配者にしかけた戦争。結果としてはマスターマカロフの脱落によって妖精の尻尾の士気が低下し、撤退という形になったという。またエレメント4及び黒鉄のガジルは誰一人として戦闘不能に追い込むことは出来ず、損害の大きさで言えば妖精の尻尾の大敗だった。
ルーシィの許可を取って、今回の騒動の事、ルーシィの出身をギルドメンバーに話した。それを聞いた彼らは傷ついた身体で立ちあがり、ルーシィを守るんだと次の幽鬼の支配者との対決に向けてラクリマを用意したり作戦を練るなど準備を始める。
「……ごめんね。私のせいで、私が家に戻れば全部解決するよね……」
「戻って何がある。帰りたくもない所に戻って何があるんだ」
「あ……」
「泣かないでくれ、皆、ルーシィの涙を見ないために頑張ってるんだ」
「うん……うん……」
椅子に座っているルーシィと同じ目線になるようにしゃがみ込んでルーシィの頭を撫でる。泣くなと言っても難しいことだろう。事件の核が自身の父親で責任を感じている部分もあるだろうし、こっちが何と言おうと、自分は本当にここにいていいのかと葛藤もあるだろう。
ルーシィにローブの袖で涙を拭かれたが、それは名誉として受け取っておく。ようやくルーシィも落ち着き、ワカバ、マカオらと次の作戦を練ろうと移動した時だった。
「な、なんだ!?」
突然、大地を揺るがす地震が起こった。しかしこれは天災ではなかった。一斉に外に出てギルド後方、海の方を見てみると、そこには巨大な六足で歩く幽鬼の支配者の支部の姿があった。
「ギルドが歩いてるよ!?」
ハッピーがそう言うのも無理はない。確かにギルドが歩いているのだ。ギルドが変形してロボットになるとかではない。足の生えたギルドそのものが海を歩いてこちらへ向かってきている。
「こんなの想定外すぎる」
あまりにも唐突で対処のしようがなく、慌てふためいている妖精の尻尾に対し、歩行ギルドを操るマスタージョゼはさらに追い打ちをかけるように指令を出す。
「魔道収束砲ジュピター用意」
登場した錬金アイテム
見えないクローク
装着者を外部から見えなくするアイテム。相手に触れられる、もしくは触れるなど接触があった場合とクロークを身体から離した場合に効果は解かれる。
空飛ぶじゅうたん
その名の通り、空を飛ぶ絨毯。空を飛ぶことは魅力的だが移動スピードは遅め。それでも魔力を消費することでスピードアップは可能
メルクリウスの瞳
全てを見透かす眼鏡型アイテム。人に使えば、弱点などがわかり、ピンポイントで攻撃することが出来る。透視能力も持ち合わせ、岩壁の1枚や2枚見透かすことは容易い
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