FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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幽鬼の侵攻ー絶望の15分ー

 移動式要塞から巨大な砲台が現れる。長い砲身の先に4色の魔力が収束し、巨大なパワーを生み出している。あんなものを喰らえばギルドどころか街まで崩壊しかねない。しかし、今の自分にはあれを止めるアイテムも力もない。

 

「全員伏せろーーーーー!!!!」

 

 号を発したのはエルザだった。エルザはいち早く陸の先端まで移動し、鎧を換装する。身に纏ったのは金剛の鎧。彼女の持つ鎧の中ではトップの防御力を誇る鎧ではあるものの、ジュピターを防ぎきるにはいささかの無茶がある。その証にメンバーたちも止めに入る。下手をすれば死にも繋がることだ。しかしジュピターは考える時間を与えることもなく発射される。

 

 エルザは両腕の大盾を合わせ、ジュピターと真正面から対峙する。2つがぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃が周囲に広がった。衝撃に耐え、ただ見ていることしか出来ない、それがとても歯痒いものだ。

 

 ジュピターの圧倒的なパワー、破壊力は金剛の鎧を徐々に追い詰めていく。少しずつ盾は壊れ、鎧が剥がれ、そして遂には鎧を突破した。しかしジュピターもそこで力尽き、エルザは後方に大きく吹き飛ばされながらもギルドを守り切った。それでも既にエルザは戦える身ではない。妖精の尻尾の重要戦力が更に一人削られてしまったのだ

 

「マカロフ、そしてエルザも戦闘不能。もう貴様らに凱歌は上がらねぇ。さっさとルーシィ・ハートフィリアを渡せ」

 

 城からジョゼの声が聞こえてくる。しかしジョゼが何と言おうと、この身がどれだけ傷つこうと仲間を渡すことは無い。それが家族、それが妖精の尻尾。ギルドメンバー全員がジョゼに敵意を剥き出しにする。ルーシィは今までいなかった自分を命よりも大切に思ってくれる存在の声達に涙を流して聞くばかりだった。それでも圧倒的な不利状況は変わらない。声々に怒りを覚えたジョゼは更に強力なジュピターを準備させる。

 

「ならば更に特大のジュピターを食らわせてやる! 装填までの15分、恐怖の中で喘げ!」

 

 ジュピターが再装填を始めると、城内から大量の兵士が出てくる。それは人間の兵士ではなくジョゼが魔法で生み出した魔法の幽霊兵士、幽兵(シェイド)

 

「リベンジだ。城に乗り込んでジュピターを止める」

 

「俺も行く!15分だろ。やってやる!」

 

「シェイドの足止めは皆に任せる。それと俺のアトリエに行け。アイテムが置いてある。もしも魔力が切れそうだったらいくらでも使っていい」

 

「よっしゃ行くぞララン!」

 

「あぁ!」

 

 空飛ぶじゅうたんに乗って移動要塞に向かう。ナツは乗り物には乗れないのでハッピーに掴まって要塞を目指した。続いてグレイ、エルフマンも要塞に乗り込んでいく。ギルドの守備はカナを筆頭としてマカオやワカバ、ロキ達が担当することになる。

 

 すぐに砲身に辿り着くと、ナツが炎の拳で砲身を殴りつけるが頑丈な素材でできた巨大な砲身はびくともしない。アイテムで殴ってはみたがやはり効果は無さそうだ。

 

「流石に砲身そのものを破壊するのは無理か。出来れば一番手っ取り早いんだけどな。中に入って止めよう」

 

「おっしゃ! 行くぞ」

 

 砲身の中から要塞内部に侵入すると、そこはジュピターの制御室になっていた。魔力を集める巨大なラクリマが鎮座しており、ラクリマを破壊すればジュピターを停止させることが出来る。のだが、そんな大切な場所をガラ空きにしているほど愚かではない。

 

「見張りか」

 

「どうでもいいさ。邪魔な奴は消すだけだ」

 

「させないよ」

 

 ナツが見張り役の男に持ち前の炎の拳で襲い掛かる。しかし見張り役は一歩も動くことなくナツを睨みつけた。するとナツの拳はナツ自身の顔を殴りつける。何が起こったのかは分からない、ナツ自身も体が勝手に動いたと発言している以上、相手の魔法には違いないのだろうが。

 

「私は火をエレメントを操りし兎兎丸。すべての炎は私によって制御される。敵であろうと自然であろうと全ての炎は私の物だ」

 

「俺の炎は俺の物だ」

 

「おい! こんな奴相手にしてることはない。ラクリマを壊すぞ」

 

 兎兎丸を突破出来ないうちにジュピターが再装填を始める。4つのラクリマから1つの巨大なラクリマに魔力が収束していき、ジュピター発射まであと5分のアナウンスが流れる。徐々に焦りが出てくる。残り5分でギルドが完全に破壊され、仲間たちの命も危ない。その命運が自分の肩に乗っているかと思うと、重圧で押しつぶされそうになる。自分の力でラクリマが破壊できなかったら? そんなことが頭を過る。ナツと兎兎丸が相対している間に自分でラクリマを破壊するのが最も速い解決策ではある。しかし行動は伴ってくれない。どこかでナツに破壊してほしい、他人に任せたいという思いが出てしまう。

 

「火が効かないのはわかった。じゃあこれでどうだ。エンゼルライト!」

 

 杖を振りかざし、兎兎丸に向かって強烈な光を放つ。これで奴を目晦まししてる間にナツにラクリマを破壊してほしいところだ。エンゼルライトは完璧に入った。これから数十秒、兎兎丸の視界は奪われる。視界が戻ったとしてもしばらくの間は攻撃が当たり辛くなるはず。ナツに合図を送るが、それは無視され、ナツは兎兎丸への攻撃態勢を取る。

 

「くっ、小癪な技だ」

 

「よっしゃぶっ倒してやる!」

 

「おい! そいつじゃなくてラクリマを!」

 

「ジュピター発射まであと30秒」

 

 ナツが兎兎丸に炎を纏わせず素手で殴りかかるが、それすらもすべて躱されてしまう。ナツと兎兎丸が戦っている間にラクリマを破壊するしかない。

 

「おっとっと、魔法を諦めて素手か。ならば剣を持っている私の方が有利!」

 

 兎兎丸がナツの方へ行った。今のうちにアイテムでラクリマを破壊する。ジュピター再発射まであと1分を切ってる。時間が無い。焦りは更に強くなる。ここまで来れば自分でやるしかない。アイテムを持つ手が震える。ただ投げるだけだ。丹精込めて作ったアイテムだ。この程度のラクリマを壊せないはずがない。

 

「ドナークリスタル!」

 

 ラクリマに向かって投擲する。ラクリマは凄まじい雷に覆われ、大ダメージを受けるが全体にひびが入った程度で破壊までは至らなかった。

 

「壊れないのか!?」

 

 そんなはずはない。品質Aのアイテムだ。どれだけ大きかろうとラクリマ程度破壊できないはずがない。中型モンスターなら一撃で沈める威力を持っているんだ。もう一度、投げようとドナークリスタルを握り直す。そこで痛恨の事実に気づいた。

 

「しまった。劣化だ……」

 

 錬金術アイテムは自然劣化する。劣化を防ぐ特性を含んでいなければほとんどのものが差異はあれど劣化を始めてしまう。ドナークリスタルも例外ではない。長く保持しすぎていたこと、劣化アイテムを選択してしまったこと、普段はしないミスだ。焦りがそうさせてしまった。基礎中の基礎であるアイテムの確認を怠ってしまったのだ。

 

「ジュピター発射まであと10秒」

 

 残り10秒、万事休すか――

 

「ララン! どけ!」

 

 ナツからの声が聞こえた。次の瞬間、顔のすぐ横を折れた剣の刃が通過していき、ラクリマに突き刺さる。そしてナツは兎兎丸ですら制御しきれないほどの巨大な炎を両手に纏わせた。

 

「これは制御返し!? 戦いの中で身に着けたと言うのか!?」

 

「喰らいやがれ!」

 

 巨大な炎は拳となって兎兎丸に襲い掛かる。しかし兎兎丸は制御せず、いとも容易く躱してしまった。もう時間がない。もう一度ドナークリスタルを投げれば間に合う。いや、ドナークリスタルでは発動が遅い。もっと速く効果を発揮するアイテムを……

 

「制御できなくても当たらなければ意味がない」

 

「ジュピター発射まで3,2,1……」

 

 しかしナツの炎は兎兎丸からラクリマに突き刺さった刃へ方向転換する。そして炎の拳が刃を押し込むようにして見事に巨大ラクリマを粉々に打ち壊した。

 

「はなっからお前なんか狙ってねぇよ」

 

 ラクリマが破壊され、収束した魔力が爆発。その衝撃でジュピターの砲身も爆発し破壊された。外のギルド防衛最前線からはジュピター破壊を祝ったギルドのメンバーたちの喜びの声が聞こえて来る。これで士気も上がることだろう。

 

「なんて奴だ……」

 

「炎ってのは強引に言うこと聞かせるもんじゃねぇよ。心から求めりゃ応えてくれるもんなんだ」

 

「助かった……」

 

 ラクリマを破壊し、残るは兎兎丸のみとなる。ナツと共に戦闘態勢を取ると、要塞が大きく揺れた。外を見て見ると城の塔が動き始めていた。

 

「なんだこれは!? どうなってる!」

 

「まさかあれをやる気か!? ここには水平維持の機能が無いんだぞ!」

 

「水平!?」

 

 要塞は変身を続ける。顔、腕、手、身体と次々に出来上がり、そして股関節と足が出来上がると遂には立ち上がった。要塞は魔導巨人へと姿を変えたのだ。

 

「うぷ……」

 

「ナツ!? これは乗り物判定なのか」

 

「そいつはもう使い物にならんようだな。2人同時に我が最強魔法で塵にしてくれる。消し飛べ!」

 

「くっ……」

 

「って何よこれぇ!?」

 

「漢なら空を見上げる星になれ!」

 

 兎兎丸の最強魔法に身構えたが、兎兎丸は腕から凍り付き始め、全身氷漬けになる。後ろを振り返れば頼もしい二人の男がいた。ジュピターを破壊して、次は魔導巨人。一難去ってまた一難ではあるが、こいつらとなら勝てる、そう感じた。

 

「グレイ! エルフマン! 助かった」

 

 エルフマンのビーストアームによって兎兎丸は遥か彼方へ吹き飛ばされた。敵がいなくなったところで現在の状況を把握するためハッピーが外へ出向き、情報を集めてきた。魔導巨人は指先で四元素魔法アビスブレイクの魔法陣を描いているという。さらにその巨大さはギルドのみならずマグノリアの街ごと破壊する規模。一刻も速く止めなければ明日はない。

 

「アビスブレイク!? 禁忌魔法の一つだぞ!?」

 

「なんだそりゃ!?ありえねぇ!」

 

「手分けしてこの巨人の動力源を探すしかねぇな」

 

「全く次から次へと……」

 

「よっしゃ! やるか!」

 

「「「おう!」」」

 

 ナツ、グレイ、エルフマンと別れ、魔導巨人撃退に動き出す。四散し、エレメント4とガジルの元へ向かう。エルザ、ラクサス、ミストガン、そしてマスターを欠く今の現状で滅竜魔導士のガジルに対抗出来るのは同じ滅竜魔導士のナツだけ。その為にナツがエレメント4と戦うのは避けたい。そして残るエレメント4は兎兎丸を除く3人。グレイ、エルフマンと共に一人ずつ倒すことが最善策だろう。

 

 ――一方その頃、ギルド防衛戦線では――

 

「ミラ、あの魔法が発動するまでどのくらいかかる?」

 

「10分ってとこかしら。何とか動力源を壊せれば」

 

「中にいる連中も同じことを考えてるはずだよ」

 

「ナツとララン以外にもいるの?」

 

「グレイとエルフマン」

 

 ジュピター破壊によって士気が向上した妖精の尻尾はジョゼの幽兵を何とか退けていた。そこでリーダー格のカナと狙われているルーシィを逃がし、己をルーシィの姿に変えたミラが話し合っている。

 

「エルフマン!? 何で!?」

 

「何でって……あいつだって」

 

「無理よ、エルフマンは戦えないの。カナだって知ってるでしょ」

 

 エルフマンの実姉ミラジェーンはエルフマンのことを心配していた。勿論姉だから、家族だからという理由もある。しかしそれ以上に過去の事件によるエルフマンの心の傷のことを想っていた。

 

「エルフマンだって前に進もうと努力してるんだよ。分かってるだろ」

 

「……」

 

 ミラの脳裏には弟のエルフマン、そして事件の犠牲となった末妹リサーナの顔が浮かび上がる。エルフマンも前に進もうと努力している、カナの言葉によってミラも前に進む覚悟を決めた。ミラは壊れかけのギルドから出て、魔導巨人に向かっていく。それを見たカナ、アルザックらは必死に止めたが、ミラは時間を稼ぐ為、最前線でマスタージョゼに語り掛ける。

 

「貴方たちの狙いは私でしょ!? ギルドへの攻撃をやめて!」

 

 ルーシィの姿をしたミラの体を張った作戦はマスタージョゼをも欺き、巨人の中で戦う4人の助けになるかと思われた。しかしマスタージョゼは聖十大魔道の一人。魔法の腕のみならず頭も切れる鬼才である。

 

「消えろ……偽物め。はっ、初めから分かっていたんですよ。そこにルーシィがいないことはねぇ」

 

 ジョゼに小手先の欺きは通用しない。ミラの変身は解け、元の姿に戻ってしまう。戦闘力のないミラはカナに守ってもらいながら撤退しようとするが、欺こうとしたことがジョゼの逆鱗に触れ、空間転移魔法によって地面に引きずり込まれると魔導巨人の指と指の間に転移し、今にも潰されそうなピンチに陥る。

 

「我々を欺こうとは気に入らん娘だ。ゆっくり潰れながら仲間の最後を見届けるがいい……」

 




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