FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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過去を乗り越えて

 所戻って魔導巨人内部。ジュピター制御室からエレメント4を探して駆けているのは妖精の尻尾一番の漢・エルフマン。長い廊下を走り続けるエルフマンが踏みつけた地面からギョロっと目が浮かび上がる。それはエレメント4の一人、ソルの魔法で編み出した目であり、目でエルフマンの存在を感知したソルがエルフマンの前に立ちはだかった。

 

「サリュー」

 

「エレメント4か……」

 

 エルフマンは学ランを脱ぎ捨て、情熱の赤のタンクトップ姿になる。その目には一点の曇りもなく、自信に満ち溢れているようだった。漢という名の鎧を来た彼には過去の事件のことなど既に過ぎ去りし昔の話。例え戦う敵がギルドの幹部だとしても、己が魔法で粉砕する、それだけが彼の思いだ。

 

「私はソル、ムッシュソルとお呼びください」

 

「ちょうどいい。貴様を倒してこの巨人の止め方を吐かせてやる」

 

 エルフマンは不敵な笑みでソルを睨みつけると戦闘態勢を取る。一方のソルは魔法で地面から身体を土筆のように突き出し、上半身はラランをも苦しめた軟らかい体をくねらせている余裕を見せている。

 

「ビーストアーム・黒牛!」

 

 エルフマンの魔法は接収。モンスターの力を吸収し、体に宿す魔法である。彼の右腕は猛牛の屈強な力を宿した姿に変化している。その右腕でソルに襲い掛かるが、パワー型のエルフマンの魔法はその分スピードが遅い。軟体でかつ地面を自由に移動出来るスピードを持つソルからすれば避けることは容易である。中々攻撃を当てられないエルフマンは力任せの攻撃でスタミナを削り、自ら首を絞めてしまう。

 

「右腕だけで良いので?」

 

「くっ……」

 

「あの噂は本当だったようですねぇ」

 

「ごちゃごちゃとうるさいんじゃい!」

 

 心理戦を仕掛けてくるソルの言葉を振り切るようにエルフマンはソルに拳をぶつける。しかしソルはいとも容易く躱し、エルフマンに言葉を投げる。

 

「貴方、妹様がいたでしょう」

 

 何故それを知っているのか、エルフマンがそう考えた瞬間に少しの隙が出来てしまった。その隙を見逃さなかったソルは土属性の魔法でエルフマンを攻撃する。

 

砂の舞(サーブルダンス)

 

 周囲に小規模の砂嵐を発生させ、エルフマンの視界を遮る。その内に背後に回り、更に連撃を仕掛ける。その攻撃にエルフマンは為す術もなくやられるばかりである。

 

岩の協奏曲(ロッシュコンセルト)

 

 ソルの巻きあげた砂嵐に加え、大小様々な岩や石礫がエルフマンに襲い掛かる。攻撃をまともに食らいながらも受け身を取って距離を離したエルフマンだったが、ソルはそれを許さない。地面を通って、エルフマンの右足から右腕にかけて巻き付いた。単純に通常の人間にはあり得ない体技に不快感を示すエルフマンはソルを引きはがそうと空いている左腕で引っ張るがしっかりと巻き付いているために離れる気配がない。

 

「離れんかムッチュソル!」

 

「ムッシュにございます」

 

 ソルは強く巻き付いていたかと思うと体をエルフマンの頭の前あたりに高速で収縮させ、そのままを頭を蹴り飛ばして吹き飛ばした。ダメージを与えられないエルフマンに対して、的確にダメージを与えてくるソル、エルフマンはそのふざけた見目と喋り方に相反してソルの強さを認めざるを得なかった。そこに更にソルの心理作戦が突き刺さる。

 

「ところで貴方、昔全身接収に失敗し、暴走を起こしたとか」

 

 ソルの言葉によってエルフマンの目に曇りが生じた。ソルがその情報をどこで仕入れたのかは不明だが、情報は真実である。エルフマンは全身接収に失敗したばかりか失敗に伴う暴走により実の妹リサーナを殺害してしまっている。その事件後、接収を右腕だけに留めるようになっていた。

 

「やかましいわ! ビーストアーム・鉄牛!」

 

 エルフマンは右腕を更に硬化させた牛腕に変化させ、ソルに飛び掛かる。するとソルは笑みを浮かべて自身の前に魔法でリサーナを造形した。その姿を見たエルフマンの攻撃はピタリと止まる。

 

「リ、リサーナ……」

 

「失礼ながら先程貴方が私を踏んづけた時に記憶の断層を読ませていただきました」

 

「貴様……」

 

「可愛らしい妹様ですねぇ。今は一体どちらにいらっしゃるのでしょう」

  

 ソルの口撃は止まらない。エルフマンへの精神攻撃を続け、その効果はエルフマンの顔を見ればすぐに分かるほど覿面であった。ソルは一歩も動いていないのに対してエルフマンはリサーナを目前にしてじりじりと少しずつ退いている。そこでソルは止めを刺すが如く目を見開き、リサーナの顔の横から自身の顔を覗かせて言い放つ。

 

「あぁ……これは失礼。冷たくて暗い土の中でしたねぇ。あぁ、可哀想に。貴方は何故あんなにも残酷なことを」

 

 そこでエルフマンの魔法は解け、右腕は素の状態に戻ってしまった。リサーナを目の前にして戦意を喪失してしまったのだ。リサーナを見つめ、今にも泣き崩れそうなエルフマンに対して、ソルは更に追い打ちをかける。

 

「ねぇ、エルフ兄ちゃん……」

 

 ソルの言葉と共にリサーナの声がエルフマンの頭の中に響き、リサーナの目がグロテスクな形に見開いた。

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

「ノンノンノン。いけませんねぇ。貴方は全身接収に失敗で暴走して、どうなったのか、何をしてしまったのか」

 

 リサーナの為にも己の過去には負けない。その意思でエルフマンは全身接収に挑んだ。しかしソルの魔法によって更にリアルに再現されたリサーナは複製に複製を重ね、エルフマンの四方八方を塞ぐほど大量に生み出されている。そのリサーナ一人一人が本人と同じ声でエルフマンに呼びかける。

 

「「忘れっちゃたの? エルフ兄ちゃん」」

 

「う……うぁああ」

 

 リサーナの声が脳裏に響き、エルフマンは全身接収に再び失敗してしまった。そしてその失敗によって魔力のほとんどを消費してしまう。

 

「卑劣な奴め。漢なら正々堂々と拳でこんかい!」

 

「漢ならですか? ノンノン、聞き捨てなりませんね。貴方には漢がどうとか語る資格はないのでは? 妹をその手にかける屑野郎にはね」

 

「くっ」

 

石膏の奏鳴曲(プラトールソナート)!」

 

 エルフマンはソルの必殺の魔法で壁際に吹き飛ばされてしまう。さらに魔道巨人の壁は魔法の爆発によって破壊され、外部が露わになる。そこには自らを犠牲にしてジョゼを激昂させ、魔道巨人に捉えられたミラジェーンの姿があった。爆発の様子を見ていたミラはそこで戦っているのがエルフマンだと気づくと必死に声を掛けた。

 

「エルフマーーン!!」

 

「何だ……何で……何でそんなところにいるんだよ、姉ちゃん!」

 

「ほう、姉上。というとあの方がかつて魔人と恐れられたミラジェーン様ですかな? すっかり魔力も衰えてしまって一体誰のせいなんでしょう。彼女には我々を欺いた罰を受けてもらっています。直に潰れてしまうでしょう」

 

 ソルの口撃が再び始まる。エルフマンには唯々潰されそうになるミラを見ていることしか出来ない。

 

「姉ちゃんを放せ!」

 

「貴方は妹様に続いて姉上を目の前で失うのです。それも貴方が漢とは口先だけの無力な魔導士だからなのですよ」

 

 ソルはエルフマンの背後から魔法を仕掛ける。

 

「私は紳士として貴方が許せません。よって永遠の苦悩を与えてあげましょう。封印魔法、メルシー・ラ・ヴィ」

 

 ソルの封印魔法にエルフマンは頭を抱えて苦しむ。そしてエルフマンは意識を失ってしまった。

 

「……あ、あれは、俺?」

 

 次にエルフマンが目を覚ましたのは周囲の見えない深い霧の中だった。そして目の前には幼い頃の自分が何かの墓の前で泣いている。

 

『エルフ兄ちゃん!』

 

 背後から死んだはずのリサーナが駆け寄ってくる。エルフマンは笑顔で迎え入れようとするが、リサーナはエルフマンを通り越して、過去のエルフマンへ話しかけた。

 

『元気出して、エルフ兄ちゃん』

 

『俺のせいでインコが死んじゃったんだ……』

 

『違うよ。エルフ兄ちゃんのせいじゃない。だって生きてるものは皆いつか死んじゃうんだもの』

 

 エルフマンはその様子を見ることしか出来なかった。幼いころの記憶を見せられていると気付きつつも、その様子を見てどこか懐かしさを覚えていた。

 

『エルフ兄ちゃんが覚えてる限り、その子はずっと心の中で生きているはずだよ』

 

 エルフマンはリサーナの言葉に頬を緩めた。リサーナのことを自分が忘れないことで心の中でリサーナをずっと生かしておくことが出来る。エルフマンは今までの罪悪感が少し消えたような気がした。

 

『知った風なこと言うな!』

 

 しかし過去のエルフマンはリサーナを突っぱねて泣きながらどこかへ去ってしまった。残されたリサーナは慰めたエルフマンに拒絶された悲しみ、寂しさで泣き出してしまう。それを見た今のエルフマンはリサーナが自分を認識していないことを忘れて、あたふたしてしまう。そこで後ろから視線を感じて振り返ると姉のミラが見守っていたのだった。そこでその時の記憶の断片は終わり、更なる霧に包まれた。そして霧が晴れるとそこは夕日の差すギルド近くの公園。そこではリサーナとラランが話していた。

 

『またラクサスと喧嘩?』

 

『ん、リサーナ。戻ってたのか。別に喧嘩じゃない』

 

「待てよ……この時は確か……」

 

 エルフマンは何かを思い出していた。少しその様子を見ていると、後ろから自分の声が聞こえてきた。振り返ると先ほどより成長した自分とミラの姿があった。

 

『リサーナ。仕事だ仕事』

 

『え、でもまだ戻ってきたところじゃない』

 

『S級だよ、S級。姉ちゃんが受けた仕事のサポートに行くんだ』

 

『S級ねぇ。どんな仕事なんだ?』

 

『緊急討伐さ。獣の王ザ・ビーストってモンスターを締めに行くのさ。ララン、お前も来ないか? お前が来れば仕事も楽に終わるしよ』

 

『えー、面倒くさいしいいや』

 

 会話を聞く中でエルフマンは全てを思い出していた。この記憶はあの事件の数時間前の出来事。この直後、エルフマンは仕事を面倒だと言ったラランを漢ではないと叱責しながら、漢たるもの一人で家族を守るべしと胸を張るのだ。全て覚えている。その過去を何とか変えようとエルフマンは触れる事の出来ない記憶の断片に手を伸ばす。ラランを何としてでも連れて行き、未来を変え、リサーナの生きている世界に戻りたいとエルフマンは誰よりも考えていた。

 

 しかしその記憶も霧の中に散っていった。そして広がるのは広がる戦火の中に傷つき立ち上がることの出来ないミラとザ・ビーストを接収し、理性を失ってしまったエルフマンの姿だった。

 

「あれが、俺……」

 

 そこにリサーナも駆けつけ、ミラから情報を受け取った。そしてリサーナは暴走したエルフマンの前に出た。

 

『どうしたのエルフ兄ちゃん。私の事もミラ姉のことも忘れちゃったの?』

 

 傍観することしか出来ないエルフマンはこの後、何が起きるのか知っている。だからこそ、届かないと分かっていてもリサーナに必死に呼びかける。

 

「ダメだ、リサーナ。逃げろおおおおおお!!!」

 

 しかし、ビーストを接収したエルフマンの魔の手は大きく振りかぶると薙ぎ払うようにリサーナを吹き飛ばした。それを止められなかったエルフマンは再び失意の底へ叩きつけられる。拳を何度も地面に叩きつけ悔しさと取り返しのつかないことをしてしまった罪悪感を思い出して押しつぶされそうになっていた。

 

「エルフマン……エルフマン……」

 

 声が聞こえた。自分を呼ぶ声が。記憶の断片からではない。今、現在、戦っている自分の傍から聞こえてきている。その時、封印魔法に囚われたエルフマンの目が少しだけ現在を捉えた。そこには魔導巨人の腕に挟まれ締め付けられながらも必死にエルフマンの方へ手を伸ばし、涙を流すミラジェーンの姿が見えた。

 

「何で……もう姉ちゃんの涙は見ねえって誓ったんだ。なのに何で泣いてんだよ!!」

 

 ミラの涙を見たエルフマンは封印魔法から自力で抜け出し、魔力を体内から爆発させて体を拘束していた岩を剥がしていく。エルフマンの怒りは魔力と共に爆発し、全身から光を放つ。その光は全身接収を行う際に起こる光と同様のものであり、それに気付いたミラはエルフマンを止めたが、怒りに歯止めの利かないエルフマンはそのまま魔法陣を展開させ、ビーストを接収した。それにソルも同様し、この戦い始まって初めての焦りを見せた。

 

「ウオオオオオオ!!」

 

「そ、そんな、これが……」

 

「全身接収、ビーストソウル」

 

 エルフマンは猛獣の雄たけびを上げる。その目に理性は無くソルを見つめ、襲い掛かった。ソルも魔法で対抗するが直撃しても全く微動だにしない。エルフマンはソルを滅多打ちにして気絶させると、外で捕まっているミラを見つけると、腕を俊敏な動きで移動し、ミラの目の前に立った。

 

「貴方……また、理性が」

 

「……」

 

 何も言わないエルフマンは、ミラの前で動こうともしない。ミラが何度か声をかけるがそれに反応する素振りもない。そしてエルフマンはソルを襲った時のようにミラに向かって腕を振りかぶった。襲われると感じたミラは咄嗟に目を伏せたが、いつまで経っても痛覚は反応しない。それどころか、目を開けると今まで体を締め付けていた魔導巨人の腕が緩み、大きな胸に抱き留められていた。

 

「ごめんな、姉ちゃん。もうこんな姿二度と見たくなかったよな」

 

 エルフマンは獣王ザ・ビーストをコントロールし、理性の宿った目をミラに向けた。

 

「貴方、理性が……」

 

「俺がこの姿になったせいでリサーナは……でもこれしかねぇと思ったんだ。姉ちゃんやフェアリーテイルを守るためには俺が強くなるしかねぇって」

 

「リサーナは貴方のせいで死んだじゃないのよ。あの時だって貴方は必死に私たちを守ろうとして」

 

「守れなかったんだ。そのせいでリサーナは死んじまった」

 

「私は生きているわ。あの時決めたじゃない。あの子の分まで生きようって。一生懸命頑張ろうって」

 

 ミラは接収の解けたエルフマンの体に身を寄せた。彼女の暖かさが体中を包み、リサーナに続いてミラまでも失わずにすんだこと、ミラを守ることが出来た安心感がエルフマンを満たした。それが実感として湧いてきた時、自然とエルフマンは涙を流していた。

 

「もう、貴方が泣いてどうするの」

 

「だ、だってぇ~~」

 

 泣きじゃくるエルフマンを横目にミラが何かに気づいた。それは魔導巨人が魔法陣を描く速度が落ちてきていること。アビスブレイクに必要な四元素。そしてエレメント4。思い立った仮説を立証するため確エルフマンに質問する。

 

「残ってるエレメント4は後何人?」

 

「え、えっと……2人、かな」

 

「やっぱり。あいつらがやられて巨人の動きが遅くなってるのよ」

 

「どういうことだ?」

 

「つまりこの巨人の動力は四つのエレメント。エレメント4を全員倒せばこの魔法は阻止できるわ」

 

「本当か!?」

 

「急ぎましょう。残りの2人がこの巨人の中にいるはずよ」

 

 エルフマン対ソルの勝負は全身接収を見事にマスターしたエルフマンに軍配が上がった。兎兎丸に続いて二人目のエレメント4撃破によって残るはソルと共にラランを撃破した大海のジュビア。そしてマスターの魔力を奪い、戦闘不能に陥れた大空のアリアの2人となる。魔導巨人右肩部の通路では残るジュビアとグレイが相対していた。

 

「しんしんと……ジュビアはエレメント4の一人にして雨女」

 

「エレメント4、てめえが……」

 




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