マグノリア西部地域の盗賊団のアジトにて―――
「エーテルシュート!」
「やっちゃってタウロス!」
振り回した杖が盗賊の頭部を直撃。糸が切れた人形のようにその場に取れた。一方のタウロスも自慢の拳が盗賊の頭部にクリーンヒット。アジトの壁まで吹き飛んで行った。
「やったね一丁上がり!」
「モォーーー! ルーシィさん、今日も素敵なナイスバディ!」
「歯ごたえ無かったな。それはそれでいいんだが」
「ララン、何で杖で戦ってたの?」
「こんな狭いところで爆弾使ったら俺達もろとも吹き飛ばすからな。怖いだろ」
「うっ……確かにそれは怖いかも」
タウロス、ルーシィとハイタッチを交わして、別の部屋を制圧していたナツ、グレイ、エルザと合流する。ナツとグレイは倒れた盗賊たちを足で踏む、壁に押し付けるという、通称死体蹴りをしていた。一人逃げ出した盗賊に対してはエルザが一撃を入れて尻を足で踏みつける。その行為に興奮したタウロスがエルザに迫るがルーシィが強制閉門を施し無事に仕事を終えた。
「ルーシィ見てー。この宝石」
「ぎゃああああ! 勝手に持ってきちゃダメでしょ!?」
「お、ペンテローグじゃないか。いい素材だ。俺が貰っておこう」
「そ、そんなぁ~。ん?あそこにいるのロキじゃない?」
ハッピーが指さした先には確かにロキと思しき、人物がいた。近づいて声をかけるとやはりロキ本人だったが、どこか顔色が悪く元気がない。
「ロキもこの辺で仕事か?」
「ああ。皆も?」
しかしルーシィを見た途端にロキの様子は変わった。ロキは星霊魔導士が苦手でルーシィを見ると一目散に逃げだしてしまうのはいつもの事なのだが、今日はそれ以上に慌てふためていた。何か隠し事でもあるかのように。
「るるるる、ルーシィ!? 僕まだ仕事の途中だからぁああああああ!!!!」
「すごい勢いで逃げてった。ルーシィなんかしたか?」
「何もしてないー!」
そういえばここ最近はロキの姿をギルドで見かけることは少なかった。ギルドの再建作業にもあまり顔を見せていなかったし何か理由があるからだと楽観視していたが深刻なことでもあったのだろうか。
「ま、いつもの事と言えばいつもの事だろ」
「うん……」
その後、ロキの事はすっかり頭から抜け去って歩いてギルドへの道を進んでいた。その途中、見えてきた街を見てルーシィが提案をした。
「せっかく早く仕事が終わったんだし、たまには温泉にでも行ってのんびりしない?」
「ルーシィ……」
エルザの厳しい目が光る。行ってはいけないことを言ってしまったとルーシィは怯み、男三人衆は目を逸らした。
「いい提案だ」
しかしエルザは乗り気で、喜々として温泉街に向かって歩き出した。その様子を見た四人はホッと胸をなでおろすのだった。向かった温泉街は今マグノリアで最も人気のある温泉街ホウセンカ村。何でも東洋被れの公爵が設計した観光地らしく、その大胆さと微妙な東洋っぽさが話題を呼んでいる。
男女に別れて温泉に入り、仕事の疲れを癒した後、宿泊することになった旅館の部屋へと移動した。ここで素直に眠りにつく妖精の尻尾ではない。勿論ここからが本番である。
「はーじめんぞコラァ!」
「旅館と言えば!」
「枕殴り!」
「枕投げだよ」
ナツと共に両脇に枕を抱えて、部屋に襖を開ける。既に布団に入っていたグレイを起こしてしまったが、寝ていたとしても枕をぶつけて起こすつもりだったのでむしろ好都合だ。
「質の良い枕は全て私が抑えた」
旅館の枕に質の違いがあるのかは不明だが、エルザも枕投げのやる気は満々でルーシィは不安そうに後ろから見つめている。そしてもう我慢できなくなったナツのフライング枕で試合が開始される。
「俺はエルザに勝つ!」
エルザに向かって投げられたナツの枕はエルザの回避によって、ちょうどその後ろにいたグレイの顔に直撃。グレイは激怒し、枕投げ戦線に加わった。しかもちょうど準備されたかのようにグレイの足元に大量の枕が用意されており、圧倒的な戦力をグレイが保有することになる。
「喰らえ! エルザ!」
「甘いなララン。そんな遅い枕では私は捉えられんぞ」
「それはどうかな」
「何っ!?」
投げた枕はエルザに回避され、後方に飛び去っていた。しかしここからが枕投げの真骨頂。枕に仕込んでおいた糸を思いっきり引っ張り、枕をエルザの後方からヒットさせた。しかし体幹の強いエルザは後方から一撃喰らったとしても崩れることなく豪速球を投げつけてくる。
「ずあああああああ!!」
とてつもない威力の枕が顔面を直撃した。首から上だけがそのまま飛んでいきそうなほどの威力だが、それを身体が許さない。身体も顔と一緒に吹き飛んだ。
「や、やるじゃないか。だが、こちらの枕は二つ。エルザは0。枕投げで投げる枕がないなどお話にならんな」
しかし枕投げをしているのは4人。後方でナツと投げ合っていたグレイがナツに向けて放った枕を無理やり強奪したエルザは一対一が2つの状態から四人入り乱れてのデスマッチ型にステージを変えた。
「あはは、よーしあたしも混ざるかな」
そこに入って来たのが枕投げ初心者のルーシィである。この場において圧倒的な弱者だ。そしてここは戦場、弱肉強食の世界。四人から放たれた豪速枕がルーシィの全身に襲い掛かった。その威力にルーシィは襖を突き破って旅館の庭まで吹き飛んで行った。これは仕方のないことである。覚悟の無い者が戦場に紛れ込んでしまえばこうなることは予見できたはず。我々に非はない。
「やっぱやめとこうかなあたし。下手したら死んじゃうし……」
そこからはハッピーも加わっての五人制デスマッチ。ハイレベルな枕投げ大会が行われた。この運動によって汗をかいたので再び温泉に入り直すことになった。
「ルーシィはどこ行ったんだ」
「さあなー。ハッピーもいねえし。トイレじゃねーか?」
「ハッピー関係ないだろ」
「ま、帰ってくるか……」
とは言ったものの少し心配ではある。ホウセンカ村は有名観光地であるが故に悪漢も多い。中には魔法を使える輩もいるようで星霊魔法を封じられると只の女の子になってしまうルーシィには一人で出歩くには少し危険なところだ。
「ちょっと見に行くか」
旅館を出て、少し歩いたところで少し変わった場所を発見した。全てが綺麗に舗装された道の中で少しだけ窪みが出来ている。何か強い力で傷をつけたように見える。何も無ければいいが。
「ん? ルーシィ……?」
窪みを調べていると前方からルーシィが走って来た。声をかけようとすると横を通り過ぎてそのまま通り過ぎ去られてしまった。ルーシィが無事ならと思い、旅館に帰ろうと思ったが、ふと地面を見れば、水分の痕跡がほんの少しだけ見えた。雨は降っていない、周りに水を発生させる物もない。何よりこんな少しだけ、そして突発的に出来た跡ならば、一つしかない。
「涙……?」
ルーシィが涙を流して走り去ったのに理由が無いわけが無い。この先で何かあったのか。この先には食事処がいくつかあるはずだが、そんなところで涙を流して走って帰るほどの理由が出来るのか。いやそんなことはないだろう。何か人的理由がありそうだ。気になる、進んでみよう
「あ」
「おや奇遇だね。ララン」
進んだ先で出会ったのは仕事の終わり際にも出会ったロキだった。やはりいつもの快活さはなくどんよりと落ち込んだ雰囲気だった。そして何より生気が感じられない。
「何だロキ。来てたのか」
「あぁここに紛れ込んだ男二人組を捕らえる仕事でね」
「仕事は終わったみたいだが、顔色が優れないな」
「……少しね」
「右頬が赤いが、その二人組に抵抗されたのか?」
「あ、あぁ。相手も魔導士だから少し手こずってしまってね」
「嘘だな。抵抗する男が平手打ちなんかするか」
「……」
もう答えは出ている。ルーシィがあの姿を見せたのは間違いなくロキと何かあったからだ。ロキも理由有りのようだが、女性に涙を流させるのはいただけない。洗いざらい話してもらうとしよう。
「ルーシィに何をした?」
「口説こうとしただけだよ。そしたらこの様さ」
「……ルーシィは泣いていた。悲しみの涙だ。全部話すまで帰さないぞ」
「……敵わないな。誰にも話さないでくれるかい?」
「約束しよう」
ロキは全てを話してくれた。ロキのターゲットであった二人組がルーシィを襲ったところを捕縛。二人で飯処に入った後にルーシィを口説くために口説き文句で距離を詰めて抱きしめた。その口説き文句と言うのがよろしくなかったというわけだ。
「流石に僕の命はあと少しなんだは不味いわな」
「ははは、そうだね。やりすぎてしまったよ」
「で、その口説き文句は嘘じゃないな。クソナンパ野郎」
「えっ……」
「全部話すまで帰さないと言ったはずだ」
ロキにはまだ話していないことがあるはずだ。ルーシィとあったことは全て真実だろう。ただ話には裏があるはずだ。そしてロキの口説き文句にさっきの言葉があるはずがない。ロキは女を守るタイプだ。自分が去るような
言葉を使うとは到底思えない。だから命があと少し、という言葉は真実であると考えられる。
「そうか……僕はもう死にゆくだけの存在。話すだけ話してあげるよ」
ロキの正体は人間の魔導士ロキではなく獅子宮のレオ。星霊だ。そして彼女の元契約者である魔導士ギルド青い天馬所属のカレン・リリカは腕の立つ魔導士だったようだが、如何せん性格に難ありだったようで、気の弱いアリエスという星霊に無茶なことをさせたり、暴力を振るったりと目に余る行動が目立っていた。我慢の限界に至ったレオは彼女にお灸をすえるために人間界に常駐しカレンに魔法を使えなくした。星霊界に戻る条件をレオの鍵とアリエスの鍵を手放すこととした。しかしカレンは己可愛さにそれは出来ず、無理に星霊を召喚しようとして負荷に耐え切れず死亡した。それからというものいつまで経っても何をしてもカレンの亡霊が憑りついているという。そして星霊が契約者を殺めることは御法度。破れば星霊界への帰還を禁じられる。そのため今日までの三年間、レオはロキとして人間界に居続け、遂にその時を迎えようとしている。
ロキは人知れず消滅すると決めていたようだが、それはあまりにも酷だ。本人にもギルドの仲間たちにも。本人が望んでいることをさせるのが個人的な理想ではあるのだが、このままロキを死なせてしまうのはロキだけの問題にはならない。その死は新たな悲しみを生むだろう。
どうにかする方法としては、魔力の供給がなく常に魔力を消費する者に対して、魔力を供給するという難易度の高いもの。メンタルウォーターのような誤魔化しではダメだ。量が少なすぎる。常に留まり続けるならホムのような無限機関でも作るしかない。ただそれは今の力では不可能。本来の星霊のように鍵による門の開閉で別空間から呼びだすのが一番だ。しかし星霊が星霊界以外の空間で生存可能なのかは全く分からない。星霊が住みよい空間が作り出せればいいのだが。
「あとどのくらい持ちそうなんだ?」
「分からない。いつ消えてもおかしくない状況だ。でも君を信じて限界まで持ちこたえてあと一週間ってとこかな」
「そうか……残る余生を楽しむんだな」
「あぁ、」
ロキと言葉を交わし、その日は旅館へ戻った。そして夜が明けて、ロキを助ける方法を考えつつギルドに帰った。その帰路の間もルーシィの顔色は暗かった。ロキが星霊であることは知らなくても、星霊魔導士として気になる部分がある、もしくはロキのことに関して感づいていることがあるのだろう。
帰還後はアトリエに引きこもり、本を読み漁る日々だ。既にあるアイテムを改良して、星霊の鍵と門に似た構造を持つアイテムを作り出す。鍵で星霊界という別次元の門を開くことによって星霊を人間界に呼び出す。それが星霊魔法のプロセスだ。一分一秒がとても早く感じられた。タイムリミットの一週間までどんどんと時間が減っていく。焦りに焦りが重なる中、新アイテムの研究は減りゆく時間とは逆に完成までの道のりは遠のくばかりだ。初日から三日目までは順調に研究が進んでいたのだが、あと一歩になったところで一つ直しては一つダメになるという状況に陥ってしまった。
そして研究を始めてから五日が経った夜だった。ほとんど寝ていなかった頭に衝撃を起こす知らせをグレイが持ってきた。
「やべえ! ララン。ロキがギルドから出て行っちまった!」
「なぁんだってぇ!?」
一週間というタイムリミットは最大の日数。本人もいつ消えてもおかしくはない状況にあると言っていた。あれだけ大きなことを言っておいてあと一歩のところから進めていない。何としてでも彼を救って錬金術の力を見せなければならないのだ。こんなところで諦めるわけにはいかない。
「ここから行くとしたら……一発勝負だ……」
最後の一回の調合を始めた。これまでの研究の成果、満たさなければいけない全ての条件を満たすアイテムを作り出す。この調合で失敗すれば彼の命は費える。このアトリエに無残に散らばる調合の失敗作の灰のようにさらさらと散るだろう。
「俺も後で探しに行く。グレイも探しててくれ」
「おう!」
グレイはそう言うとアトリエを飛び出して、ロキを探しに行った。恐らくロキはもうこの街にはいないだろう。彼がいるのは己の死に場所に選んだ場所。墓、それもマスターの墓だ。そこで全ての罪を清算するつもりなのだろう。
「ホム! カレン・リリカの墓を調べてくれ!」
「かしこまりました」
この最後の一回。死んでも失敗出来ない。彼を助けるためにも必ず成功させなければならない。そして――
「出来た! これでロキを救えるはずだ。これぞ星霊石! 鍵に代替できるはずだ」
出来上がった星霊石を握りしめ、カレン・リリカの眠る墓の元へロキの元へ、アトリエを飛び出した。
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