FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

27 / 52
再会

 てな訳で、やってきたアカネビーチ。ナツ、グレイ、ルーシィ、エルザ、ハッピーにホム2人と一緒に大勢での観光というのはギルドにやってきてから初めての体験だ。もう既に全員が水着に着替えて、遊ぶ準備は万端だ。

 

「ホム、ちゃんと日焼け止めは塗っておくんだぞ。肌が焼けるとヒリヒリしちゃうからな」

 

「ホムンクルスって日焼けするの?」

 

「知らん。でも塗っておいて損はない。もしも日焼けされたら大変だからな」

 

 普段、露出の少ない服を着ていることで日焼けのことなどは考えたこともなかったが、二人とも水着を着用するのも初めてだし、初めての海だ。用心するに越したことはない。このためにホム君とは一緒に水着を買いに行き、ホムちゃんはルーシィと一緒に水着を買いに行ってもらった。二人にも存分に楽しんでもらいたいのだ。

 

「さて、遊ぼうぜ!」

 

 そこからはビーチバレーに海水浴、ウェイクボードにと日ごろの仕事の疲れを癒す、楽しい時間を過ごした。一通り遊びつくした後は、例のリゾートホテルに移動した。普段あまり身体を動かさないものだから、遊んだことによる心地よい疲れが抗えない睡魔を呼び込んだ。そこで、少し仮眠でもとテラスにあるデッキチェアで眠りについた。そこでは夢を見ていた。過去の回想のような夢だった。

 

 ソファに腰掛けた状態で目が覚めた。目の前に広がるのはこじんまりとした部屋に二人の女性とホム達。一人の女性は鼻歌交じりに釜をかき混ぜている。もう一人の女性はもう一つのソファで読書をしている。鼻に感じるのは甘いパイの香り。ここはアーランド王国のアストリッドのアトリエ。錬金術の全てを学んだ場所だ。

 

「あ、ララくん起きたー?」

 

「……ロロナ?」

 

 この言葉を発した瞬間、何故か涙が込み上げてきた。理由は分からない。彼女は頑なにラランと呼びたがらなかった。ンぐらい略さずに言えばいいのに、ララバンティーノだからララくんと最初に決めてからずっとこの呼び方だ。

 

「あれ、何で泣いてるの? 怖い夢でも見た?」

 

「え、あ、いや」

 

 涙が頬を伝っていることに気づいた彼女は、自分の服の袖で、涙を拭ってくれた。そればかりか彼女はよしよしと頭を撫で、涙の止まらない様子を見ると母のように抱きしめた。懐かしい温もりだった。人懐っこくて泣き虫でドジ、でも誰よりも頑張り屋で負けず嫌い。彼女の名前は、ロロライナ・フリクセル。通称ロロナ。いつも俺の隣にいた。彼女の言う通り今まで怖い夢を見ていたのかもしれない。この世界が現実であり、今までは全て夢だったのだ。

 

「ロロナ、怖い夢を見たんだ。この国がドラゴンに襲われて亡くなってしまう夢」

 

「なにそれー、ララくん変なのー。そんなドラゴンが来ても師匠がやっつけてくれるよー。ねっ師匠?」

 

「んー? すまない。本に夢中でな。もう一回言ってくれ」

 

「もー、ドラゴンが来ても師匠がやっつけてくれますよね?」

 

「あぁ! 勿論だとも。国のことなどどうでもいいが、可愛い弟子は守ってやるぞ!」

 

 そういって拳を握りしめたのは、俺達の師匠アストリッド・ゼクセス。この小さなアトリエの店主。町の人達のことを良く思っておらず、逆に町の人からも良く思われていない。ほとんどないアトリエの仕事は弟子の2人に任せっきりで昼まで寝ては本を読んで、ふらっと外に出て帰って来て寝る。そんな生活を繰り返しているような人だ。それでも弟子には意地悪なところもあるが、優しくいつも微笑んでくれていた。大体が小馬鹿にしたような笑いだったが。

 

「どうしたララくん。そんな不安そうな顔をして」

 

「アストリッドまで! いや不安っていうか……」

 

「こら!お姉さまと呼ばんか! で、なんだ、お前はそんなものに竦みあがる男だったのか?」

 

 そこで場面は転換した。次に目を覚まして見えたのは赤だった。燃え盛る火炎。見渡す限り全ての建物が燃えている。そうだ、あれは夢ではなかった。平穏で楽しい日々に終わりを告げる竜王の咆哮。目の前に巨大な龍が降り立つ。身体は痺れ、既に戦ったのか、それとも事故に巻き込まれたのか動くことはない。もう終わりだ。この命はここで潰える。

 

「起き上がらんか!」

 

 聞こえたのは聞き覚えのある声だった。いつもはぐうたらで仕事もしない師匠、アストリッドの声だ。ドラゴンが来ても弟子は守る、師匠は大事な約束だけはなんやかんや守る。後ろにはホム達を従え、ドラゴンの前に立ちはだかった。そして遅れて登場した戦士がもう一人いた。

 

「この国は私が守らなければならない。そして息子の命もな」

 

 アーランド国王にして我が父、ジオバンニ・ルードヴィック・アーランド。大陸一と称された剣術であらゆる怪物を一太刀で倒してきた百戦錬磨の剣士だ。

 

「ホム。ラランを連れて逃げろ! ロロナはもう逃がした」

 

「「かしこまりました」」

 

「父上、アストリッド……」

 

「今まですまなかったな。父としてすべきことは何もしてやれなかった。だがここでその責、果たさせてほしい」

 

「私を誰だと思っている。天才錬金術士アストリッド様だ。こんなやつすぐに追い払って見せるさ。だから、な、また会おう」

 

「嫌です! 俺も一緒に戦います!」

 

「逃げろ。お前には未来がある。元気に生きろよ。息子よ」

 

「父上にもまだ……!」

 

「そんな立つことも出来ない体で何が出来るんだ? 最後ぐらい『お任せしました、お姉様』ぐらい言えんのか」

 

「最後って……」

 

「おっと口が滑ったな。ホム、さっさと連れていけ!」

 

「父上! アストリッドーー!!」

 

 ホムに抱えられ、燃え盛る街から逃げる。何度も抵抗し、2人の方へ手を伸ばした。涙も鼻水も涎も垂れ流しだった。逃げる中で二人とドラゴンの戦いはずっと続いているのを見ていた。見えなくなるまでずっと戦い続けていた。

 

 

「……!?」

 

 夢か。怖い夢、されど懐かしい顔が出てきたものだ。ロロナにアストリッド。何も変わっていない。俺は十年の時を経て、成長し、大人になった。だが、思い出の中の二人は同世代の少女と麗しい女性のまま。

 また会おう、か。いつかまた会えたなら、また錬金術を教えてくれるのだろうか。それともお前にはもう教えることはないとでも言ってくれるのだろうか。

 父上は生きていれば60歳近くになっているはずだ。また会えたなら、大きくなったなと言ってくれるだろうか。幼い頃に目指した父の背中をもう一度、見て見たいものだ。

 そして、ロロナは、あの最後の場面にはいなかった。師匠は逃がしたと言っていたが、ホム達は二人ともこちらにいる。ロロナは一人で逃げ切れたのだろうか。逃げた先でもうまくやっているだろうか。一つ年上の彼女だったがどうにも頼りにされるばかりだった気がする。しかし、いざという時に頼りになるのはいつも彼女だった。

 

「ララーン!」

 

「……ルーシィか、どうした?」

 

「あれ、何で泣いてるの? 怖い夢でも見た?」

 

「……!? いや眠っていて起きたばかりなんだ。それで少しあくびをしただけだ。で、どうした」

 

「地下にカジノがあるんだって! 行ってみない? ナツやグレイはもう遊んでるよ!」

 

「いいな。たまには行ってみるか」

 

 ロロナとルーシィが重なって見えた。あまり似ている所はないが、あんな夢を見たせいだろう。もうロロナはいない。俺のいる場所はアーランドじゃない。マグノリアの妖精の尻尾だ。

 

「そういえばホム達はどこだ。寝る前まではこの部屋にいたんだが」

 

「え、うーん。ナツ達が連れて行ったんじゃない?」

 

「カジノに行けば会えるか」

 

 不安ではあったが、特に問題視することなく、カジノへ向かった。ホム達が突然どこかへいなくなるというのはあまり経験が無い。ナツやグレイが連れて行ったのであればいいのだが。

 

「結構すごいな」

 

「お、エルザも来たのか」

 

「ナツ達に声をかけられてな。たまにはいいだろうとやってきたのだ」

 

 カジノの入り口でエルザに出会った。エルザはいつもの鎧ではなく、カジノに見合ったエレガントなドレスを纏っている。三人でカジノに入ってトランプゲームのゾーンへ行った。エルザが得意だと言うので、任せて見れば、それはもう強い。あり得ない確率で役を作り上げ、連勝に次ぐ連勝を重ねた。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、ちょっと待っててくれ。気になるものがあった」

 

 ふと視線を逸らした時、エルザの連勝ぶりに集まったギャラリーの隙間から見覚えのある帽子が見えた。ピンクと白に羽がアクセントで付いている。まさかな、出来すぎたストーリーだ。でも気になるものは気になる。

 

「どこにいったんだ」

 

 すぐに追いかけたはずが、どこかへ消えてしまった。やはり見間違いかと思って、ルーシィとエルザのところへ戻ろうとすると再びギャラリーの隙間からあの帽子が垣間見える。また追うとまた消え、戻ろうとすると現れる。弄ばれているようで非常に腹立たしい。追いかけっこをしていると、カジノの照明が一斉に落ちた。何も見えない。周囲はギャラリーによるざわめき、奇声、叫び声で音による情報も全く入ってこない。臨戦態勢で周囲を警戒し続けていると、正面から何らかの液体が降りかけられた。

 

「これは暗黒水……」

 

 超高等アイテムともいえる暗黒水。これは錬金術によって編み出されたものだ。最近このアイテムを作ったことは記憶にない。つまり、本当に彼女が目の前にいる。毒を秘め、筋肉を弛緩させ、力を奪う暗黒水のダメージを受けながら、一歩一歩前へ歩く。その時、照明が回復した。

 

「久しぶりだね、ララくん」

 

「ロロナ……」

 

「十年ぶりかな。大人になったね」

 

「ロロナもな。で、これは何の冗談だ。いきなり暗黒水をひっかけるなんて習ってないぞ」

 

「ごめんね。でも私にもやらなきゃいけないことがあるの。だからね」

 

 そういうロロナの後ろからホム達が姿を現した。

 

「ホム! ロロナ、お前がホム達を」

 

「そうだよ。だって私の方が先に師匠の弟子になったんだからホム君たちはララくんより私の命令を優先するよ。あ、もう時間だって。ごめんね。ジェラールのところに帰らなきゃ」

 

「ジェラール……?」

 

「ホム君とホムちゃんは貰っていくね。さよならララくん」

 

「待て!」

 

「エーテルライト!」

 

 まばゆい光が視界を覆う。次に目を開けた時には既にロロナの姿はなかった。

 

「ロロナ……うっ……」

 

 暗黒水の毒が全身に回り、その場で気を失ってしまった。

 

 

 

「ラン……ララン!」

 

 声が聞こえた。今度はロロナの声ではない。もっと最近聞いた声だ。はっと目を覚まして体を起こすと、目の前にはルーシィとグレイ、そしてつい先日の幽鬼の支配者との戦いでお世話になったエレメント4のジュビアがいた。

 

「ルーシィ、グレイ。どうしてそいつがいる」

 

「あ、あの……ジュビアは……」

 

「ララン、こいつは敵じゃねえ。俺を守ってくれた」

 

「……まあいい。今はそれどころじゃない。ホム達が攫われた」

 

「えっ! ホム君たちも!?」

 

「もってなんだ」

 

「実はエルザも攫われちゃったの。エルザの昔の仲間だったっていう人たちに。エルザが奴隷として働かされてた時の仲間」

 

「何……じゃあロロナも……?」

 

 そんなはずはない。いやエルザは今19歳、ギルドに来たのは7年前。アーランド滅亡は10年前。ギリギリ被った可能性もあるか。思慮に耽っていると背後から瓦礫が崩れ去る音が聞こえた。敵襲かと振り返ると、天に昇る炎を吐き出したナツの姿があった。ナツも襲撃を受けたようで、喉奥に銃弾を受けるという一般人なら完全アウトの攻撃を喰らって怒り心頭だった。またエルザ、ホムに続き、ハッピーも誘拐されたようで、ナツはそのまま外へ飛び出してしまった。

 

「追うぞ。あいつの鼻ならエルザをさらった奴等の場所へ行けるかも」

 

 ナツを追って走って走って、浜辺から船を使って海を渡って。挙句の果てに迷った。

 

「こっちで合ってんのか!?」

 

「ナツ、どうなんだ」

 

「うぷ……」

 

 迷ったまま船を漕いで、進んでいると遠くに大きな塔が姿を現した。ルーシィはそれを指さして楽園の塔と言った。それはエルザを攫った奴等が口にした帰るべき場所だという。そして昔エルザが奴隷として働かされていた場所でもあるらしい。

 

「とりあえず上陸しよう。陸上ならナツの鼻も利く」

 

 かくしてエルザ、ホム、ハッピーを奪還する為、楽園の塔なる地に上陸することになった。何故ロロナがあの場所にいたのか、エルザを攫った者達とロロナの関係は一体。気になることは沢山あるが、まずはもう一度会いたい。そして話をしたい。きっと分かり合えるはずだから

 

 




暗黒水

強力な毒性を秘めた真っ黒な水。毒と毒を掛け合わせて作るため強い毒が生まれる。異臭と強い酸性を持つため、注意が必要

感想、評価などお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。