FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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突入 楽園の塔

 楽園の塔が聳え立つ島に上陸すると、岩陰に姿を隠す。そこから顔だけを覗かせて、周囲を見渡す。武装した兵士たちが何十人といるところを見るとかなり厳重に警備をしているように見える。岸辺には破壊された軍の船が打ち捨てられていたし、この島周辺に近づく鳥や魚は糸が切れたかのように次々に命を落としていた。この島はおかしい、この場にいる全員が直感で感じ取っている。

 

「正面突破は無理か」

 

「どうすんだ」

 

「ジュビア、俺についてこい。水中から別ルートを探す」

 

「貴方に命令されるのは癪です」

 

 この期に及んでもそんなことを言うのかと思ったが、ぐっと堪えてジュビアを手招きする。

 

「グレイ、ジュビアに命令してくれ」

 

「何で俺が……ジュビア、ラランと一緒に行ってくれ」

 

「はい! グレイ様の為なら喜んで!」

 

 呆れながらもジュビアと共に海に潜る。流石大海のジュビア、水中でのスピードは魚より速いとすら思わされた。ジュビアの活躍もあって、島の反対からのルートを見つけた。一度、陸に上がり、ジュビアと周囲を探索する。幸い敵の姿もなく、安全に侵入できそうなことを確認できた。

 

「戻ろう。あいつらも、特にナツがいつ暴れだすか分からん」

 

「グレイ様をいつまでも危険に晒しておくわけにはいきません」

 

 来た道を戻り、ナツ達と合流する。

 

「向こうに通れそうな道があった。そっちから行こう。勿論水中を通ることになるから、これを舐めてくれ」

 

「何だこりゃ」

 

「エアドロップ。舐めている間は飴から酸素が供給されて、苦しくなることはない」

 

 ナツ、グレイ、ルーシィがエアドロップを一粒ずつ口に運ぶ。ジュビアにも勧めたが、水中で息が出来るどころか水そのものであるジュビアには不要だと突っぱねられてしまった。しかしグレイが美味いと言うと、ジュビアにも一粒と欲しがってきた。

 

 全員がエアドロップを口に含み、水中を通って裏口へ。濡れた服を乾かしながら内部への侵入を試みようとすると、空中からパトロールしていた飛竜と呼んでいいのか分からない異形のモンスターに乗った武装兵に見つかってしまう。あっという間に増援を呼ばれ、取り囲まれた。

 

「何だ貴様らは!」

 

「上等くれた相手の名前も知らねえのかよ! 妖精の尻尾だ!」

 

 各々が魔法を駆使して武装兵たちを蹴散らしていく。武装兵たちの中に魔法を使う兵士はおらず、幸いにもそこまでの苦戦を強いられずに済んだ。全員を倒すと塔への扉が開き、道が示された。

 

「全員倒したから、次のステージが開けましたって訳では無いよな。完全に向こうのボスにはバレてるが行くしかない」

 

「ここまで来て引き下がれねえ」

 

 グレイの賛同を得て、ぞろぞろと塔の内部へ入る。全員が塔へ入ると、道は閉ざされ、扉も閉めれられた。どうやらまんまとしてやられているようだが、今の状況でそんなことは些細なことだ。たとえ帰る道を閉ざされたとしても、毛頭帰るつもりなど無い。前進あるのみだ。

 

「ここは、食堂か」

 

 初めに着いた部屋は食堂だった。歓迎されているかのように暖かいご馳走が用意されている。ナツやグレイは何の躊躇もなく食べているが、ここは敵陣地のど真ん中である。グレイが食べるならと、そのすぐ横の席に座ったジュビアも黙々と食べている。

 

「姫、食堂でそのような格好ははしたないかと」

 

「はしたない!?」

 

 そう言ったのは、先の戦闘でルーシィに呼び出されたバルゴだった。そのルーシィの恰好はというと水着である。水中を通った際に服が濡れてしまった為に脱いだのである。

 

「お召し替えを」

 

 厭らしい手の動きと共にバルゴはルーシィににじり寄り、無理やりその場で着替えを始めた。その様子を見ていたグレイは鼻の下を伸ばすが、ジュビアに見てはだめと恥ずかしがりながらも叱責される。

 

「じゃーん。どう?」

 

「星霊界のお召し物です」

 

「動き辛そうだな」

 

「全身覆ってるローブ着てるあんたに言われたくないわよ」

 

「確かに」

 

 完全に一本取られた。確かに傍から見れば、これ以上ないというくらい動き辛そうに見える服を自分が着ていた。と談笑ムードもそこまで。先ほどの騒ぎを聞きつけた表の武装兵たちが食堂に雪崩れ込んできた。

 

「また来やがったか」

 

 臨戦態勢を取るが、瞬間に無数の斬撃が武装兵たちに降り注ぐ。大量の武装兵が一瞬のうちに壊滅した。その斬撃の主は囚われたはずのエルザだった。

 

「エルザ! 無事だったか」

 

「……何故お前たちがここに」

 

 ここでエルザと無事に合流できたことはこちらとしては喜ばしいことだ。ここに来た一つの目的を早々に達成できたのだから。しかし当のエルザはそれを喜んでいない様子だ。

 

「帰れ。」

 

「それは出来ない。ホム達とハッピーも攫われている」

 

「何? ハッピーはミリアーナか...」

 

「ハッピーはどこにいる!?」

 

ナツが吠える。

 

「それは分からない」

 

「分かった!」

 

何もわかっていないが、ナツはそれだけ言うと爆速で塔の中へ走り去って言った。ナツの暴走はいつでも初めから計算に組み込まれているものなので、ルーシィ以外はそこまで焦っていない。いいように言えば、それだけナツの強さは信頼されているのだ。

 

「よし、あたし達も行こう!」

 

「ダメだ!」

 

 エルザは剣で行く手を遮った。勝手に先走ったナツ、そしてハッピー、ホム達は責任を持って連れて帰るから、速く帰れと言う。この状況になっても、まだ彼女はこれは自分だけの問題だと認識していた。ギルドの者を巻き込むわけにはいかないと彼女なりの責任感なのだろう。しかしこちらにも関係がないわけではない。むしろ関係大ありだ。かつての仲間が敵に回っている。それを救うのは己の役目だ。

 

「悪いがここでエルザを倒してでも進ませてもらう」

 

「ラランの言う通りだ。俺達はもう十分巻き込まてんだよ。あのナツを見ただろ」

 

「エルザ、この塔は何? ジェラールって誰なの!?あいつらはエルザの昔の仲間、でも私たちは今の仲間。どんな時でもエルザの味方なんだよ!」

 

「帰れ……」

 

 エルザは声を震わせる。いつもの気丈な強さを見せるエルザに似つかわしくないか細い声だ。こちらに背を向けて体を震わせるエルザはとても小さく見えた。

 

「らしくねえな。いつもみてぇに付いてこいって言えばいい」

 

「エルザ、たまには怖いときがあってもいいんだ。俺達はいつでも力を貸そう」

 

 グレイと共にエルザを説得する。するとエルザはゆっくりとこちらに顔を向けた。その顔には涙が浮かんでいた。エルザの涙を見えるのは何年振りだろう。

 

「すまない。この戦い、勝とうが負けようが、私は表舞台から姿を消すことになる。これは抗う事の出来ない運命。私が存在している内に全てを話そう」

 

「どういうことだ……」

 

 エルザは自分が死ぬことを悟っているかのように、今のうちに話そうと過去の出来事を語り始める。

 

 この塔の名前は楽園の塔。別名『Rシステム』 十年以上前、黒魔術を信仰する魔術団が死者蘇生の禁忌魔法を発動させるために建設を始めた。そのためには多くの生贄を必要とし、また生贄自身を労働力とすることで、必要な魔力を集めて行った。幼いエルザも楽園の塔で働く生贄の一人だったという。

 この塔から脱出を企てた者、歯向かった者が一人ずつ消えていった。安らぎは無かったが心を許せる友が出来た。それがカジノを襲撃した彼等である。そして同時期に出会ったのがジェラールだった。

 ジェラールは気高く、自由を欲していた。この状況にも決して怯えることはなかった。懲罰独房に入れられたエルザを助け出す為にジェラールは一人武器を手に取り、エルザを付けだした。もう後には退けない。戦うしかないとジェラールは言った。しかしジェラールは後から現れた魔法兵に敗れ、囚われの身となる。 

 その後、エルザは元の牢獄に戻された。そしてジェラールの言葉を信じたエルザは武器を手にした。反乱を起こしたのだ。全ての生贄に武器を手に取らせ、リーダーとして戦った。自由のために、ジェラールを救うために立ち上がった。生贄達は強かった。普段から重労働をこなしている生贄達の力は教団信者達の力を遥かに凌ぎ、あっという間に制圧した。しかしそこに現れたのは圧倒的な力を持つ魔法兵。生贄達に魔法を使える者はいない。制圧に協力した生贄達も魔法兵の前に逃亡を始め、反乱の一派は一瞬にして瓦解した。

 エルザは逃亡する生贄達を食い止めようと必死に声をかけるが、効果はなかった。そして魔法兵の攻撃対象となったエルザに光弾が放たれる。しかし、エルザに攻撃が届くことはなかった。エルザを守るように両腕を広げて前に立ったのは生贄達の長老的な存在であったロブという老人。元は魔導士として名を馳せたが、既に魔力は尽き、この塔で生贄として暮らしていた。だが、若き命は奪わせないとエルザを守り、魔法を弾き返す。なおも続く魔法兵の攻撃を一身に受け続け、やがてロブの身体は塵も残らず消え去った。その悲しみ、怒りにエルザの潜在能力が爆発。魔法の力によって散らばる剣が一斉に魔法兵を穿ち、魔法兵を殲滅した。逃げ惑う生贄達もエルザの姿を見て、再び立ち上がった。そして完全に塔を制圧。船を奪い、脱出の準備を進めていた。エルザだけはジェラールを救うため、独房へ走った。

 懲罰独房には拷問を受けるジェラール、そして二人の信者がいた。エルザは怯える信者を切り伏せ、ジェラールを縛る縄を解いた。しかし既にジェラールは変わってしまっていた。ゼレフを復活させると言い、何かに囚われたように、苦しむ信者を使えなかったはずの魔法で痛めつける。あまりにもやりすぎだと感じたエルザはジェラールを止めるが、ジェラールは止まらず、信者の一人を身体の内部から爆発させ、消滅させた。

 ゼレフ復活のため、生贄達を再び楽園の塔復活のために働かせると言う。エルザは塔から一人エルザを出した。条件として、このことは誰にも言わないこと、もしも評議員にバレれば、仲間を一人ずつ殺すと。仮初の自由、仲間の命を背負って生きろと言われ、エルザは逃がされた。そしてフィオーレの海岸線に流れ着いたのだ。その後、ロブの背中に描かれた魔導士ギルドの紋章を追って、妖精の尻尾に辿り着いた。

 

「ちょっと待てよ……話の中に出てきたゼレフって」

 

「ララバイから出てきた怪物もゼレフ書の悪魔って言ってたよね」

 

 グレイの言葉にルーシィが合わせる。そしてエルザが付け加えた。

 

「それだけじゃない。デリオラもゼレフ書の悪魔の一体だ」

 

「何故ゼレフを復活させようとする?」

 

「理由は分からんが、ショウ、かつての仲間が言うには復活の暁には楽園にて支配者になれるとか」

 

 楽園の支配者、ロロナもそれが目的か。しかし楽園の支配者とやらになったところで何をする。虐げられた奴らに復讐するなんてロロナは考えないだろう。

 

「ちょっと待てよ姉さん。どういうことだよ。そんな与太話で仲間の気を引こうって。真実は全然違う!」

 

 現れたのはエルザのかつての仲間の一人、ショウ。ショウの話では、エルザが船を爆破し、一人で塔から脱出した。ジェラールがそれに気づいていなければ全員が海の底に沈んでいた。そしてジェラールは言った。これが魔法を不完全な形で覚えたものの末路だと。エルザは魔法の力に酔い、過去を清算しようとしているのだと。

 

「お前の知ってるエルザはそんなことするのかよ」

 

「そ、それは……」

 

「エルザの言うことが事実だ」

 

「シモン!」

 

 突然背後に現れたのは、エルザのかつての仲間の一人。カジノではグレイとジュビアを襲撃したシモン。非常に大柄な男で筋骨隆々だ。

 

「てめぇ! カジノの!」

 

「待ってください。グレイ様」

 

 グレイが食ってかかるが、ジュビアが止めた。カジノでシモンは確かにグレイとジュビアを襲撃したが、シモンはグレイが氷の分身体であることを分かって攻撃したと言う。辺りを暗くした闇の魔法を使う魔導士が暗闇の中を見通せていないはずがないというのだ。ジュビアはそれでもシモンがグレイを攻撃した理由を聞くことがここに来た一つの理由だと言う。

 

「流石噂に名高い元エレメント4の一人。あの時、誰も殺めるつもりはなかった。だがそれをバレるわけにもいかなかった。ショウたちを欺くためにわざと分身体を攻撃した。分身体でいてくれたのは助かった」

 

 シモンの話を聞くショウは段々と体の力が抜けていくように膝から崩れ落ちた。

 

「何故俺は姉さんを信じられなかったんだ……」

 

「ショウもウォーリーもミリアーナもロロナもジェラールに騙されているんだ。機が熟すまでは俺も騙されたふりをせざるを得なかった。俺は初めからエルザを信じている。会えてうれしいよ。心の底から」

 

「シモン……」

 

 シモンは少し照れ臭そうに頭を掻いてエルザと抱き合った。感動の再会だが、ついに名前が出た。ロロナの名前だ。だが、まだロロナとの関係を明かすには早い。まだグレイたちはシモン達のことを完全に信用してはいない。そこでその仲間であるロロナと仲間であったことが知れれば、いい方向には転ばないだろう。

 

「俺はずっとこの時を待っていた。強大な魔導士が集まる時を。ジェラールと戦うんだ。その為には火竜の力、そしてお前の力が必要だ。ララバンティーノ」

 




登場した錬金アイテム

エアドロップ

水中でも息が続くようになる飴玉。舐めている間は飴から酸素が供給され、長時間の行動が出来るようになる。




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