FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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ロロナの夢

「俺?」

 

「あぁ。この塔にはもう一人俺達の仲間がいる。それがロロナだ」

 

「ちょっと待て。ロロナとラランに何の関係がある」

 

 エルザが口を挟んだ。ここまでひた隠しにしてきたが、ここまで言われてしまってはもう隠し通すのは無理だろう。シモンも何故か知っているみたいだしもう話してしまった方が楽だ。

 

「ロロナとはエルザ達がこの楽園の塔で出会う以前からの仲だ。アーランドで同じアトリエで同じ師匠の元で錬金術を学んだ。ロロナは俺の姉弟子だよ」

 

「俺やショウたちがカジノに到着した時、ララバンティーノを見てロロナは泣いていた。そこで何かあるんだろうとは思っていたが、まさかそこまで深い仲だったとは」

 

「ジェラールはお前らに任せるが、ロロナだけは何としても俺が叩く。それだけだ」

 

「まずは火竜とウォーリー、ミリアーナが激突するのを防ぐ」

 

 一行は部屋を出て、上層部に向かい走り出す。そこでシモンは念話を使い、ウォーリー、ミリアーナと通信を取ろうとするが、二人は現在、念話を切っており、通信が届かない状況にあった。既にナツとウォーリーたちが衝突している可能性があると指摘したエルザが、ミリアーナの部屋に向かうように言う。

 

 その時だった。壁一面に通信用の口が現れた。恐らくはジェラールがこの塔に侵入した者達への警告を行うための物だろう。つまり、俺達の行動は全て把握されている。

 

「ようこそ皆さん。楽園の塔へ。俺はジェラール。この塔の支配者だ。互いの駒は揃った。そろそろ始めようじゃないか。楽園ゲームを」

 

「ゲーム……?」

 

「ルールは簡単だ。俺はエルザを生贄とし、ぜレフ復活の儀を行いたい。すなわち、楽園への扉が開けば俺の勝ち。もし、それをお前たちが阻止できれば、そちらの勝ち。ただ、それだけでは面白くないのでな。こちらは四人の戦士を配置する。そこを突破できなければ俺には辿り着けん。つまりは4対8のバトルロワイヤル。」

 

 四人の戦士……その中にロロナも含まれているのか。ロロナだけは絶対にこの手で倒す。そして連れ帰すんだ。あの純真無垢なロロナが何故こんなことに協力をしているのか。それは実際に会って確かめたい。

 

「最後に一つ。特別ルールの説明をしておこう。評議院が衛星魔法陣でここを攻撃してくる可能性がある。全てを消滅させる究極の破壊魔法エーテリオンだ。残り時間は不明。しかしエーテリオンの落ちる時、それは全員の死。勝者なきゲームオーバーを意味する。さあ、楽しもう」

 

 エーテリオン。評議院が所有する最大最強の破壊兵器。四元素の融合による莫大な魔力を空に打ちあがった衛星魔法陣からこの世界のどこへでも打ち出せる。その破壊力は一発で一国をも破壊すると言われるほどで、攻撃を受けた場所は塵も残らない。

 

「そんな、何考えてんのよ、ジェラールって奴。自分まで死ぬかもしれないなんて……」

 

「エーテリオンだと……? 評議院が? あ、ありえん。だって……」

 

 エルザが評議院からの攻撃に対して懐疑的な表情をしていると、突然、カードに閉じ込められてしまった。ショウの仕業である。こっそりとエルザの背後に近づいたショウはカジノでギャラリーをカードに閉じ込めた魔法を使い、エルザをカードに閉じ込めた。突然のことにグレイ、シモンも対応できず、ショウはエルザのカードを手に取る。

 

「姉さんには誰にも指一本触れさせない。ジェラールはこの俺が倒す!」

 

 そう言うとショウは、ジェラールの元へ走り去っていった。

 

「待て! 一人じゃ無理だ! クソ! 俺はショウを追う。お前たちはナツを探してくれ!」

 

 続いてシモンもショウを追って走っていく。

 

「どいつもこいつも協調性がないな。グレイとジュビア、ルーシィはナツを探せ。俺はやることがある」

 

「ちょっと待って。それじゃラランが一人になっちゃうじゃない。あたしも一緒に行く!」

 

「それは良い心がけです。ルーシィさん。ジュビアとグレイ様の間に水を差さないでください」

 

「まあいい。グレイ。ナツは頼んだぞ」

 

「ああ。お前も決着、付けて来いよ」

 

「勿論だ」

 

 そう言い交わすとグレイ、ジュビアとは二手に別れて、目的別に行動を始める。グレイ達はナツの捜索。そして四人の戦士と対することがあれば、その撃退。こちらはロロナの捜索。そして戦士の撃退。

 

 塔内を走ること数分。部屋や廊下を数々探したが、どこにもロロナは見つからなかった。ナツも同様だ。すると凄まじいまでの音圧のエレキギターの音色が響いてきた。

 

「何だこの音。品が無いな」

 

「ヘイ! ヤ―! ファッキンガールエンドボーイ!」

 

 その音の根源は床まで届く黒いロングへアーを振り乱しながらやってきた。顔を白く塗り、目と口の周りを黒く塗ったメイク。刺々しい肩パッド。デスメタルとはこのことだろう。

 

「地獄のライブだ」

 

「お前が四人の戦士の一人か」

 

「いかにも。暗殺ギルド髑髏会! 三羽鴉の一羽。ヴィダルダス・タカとは俺の事よ! ロックユー」

 

 ギターの音色と共にその長い髪による鞭のような攻撃が襲い掛かってくる。その威力は岩で出来た壁や床を破壊するほどで、直に受ければ大ダメージは避けられない。

 

「ルーシィ!」

 

「あ、ありがとう」

 

 髪の攻撃を避けきれないルーシィに飛びついて、攻撃を躱す。すぐに立ち上がって迫り来る追撃を迎え撃つ。

 

「戦う魔剣」

 

 両手に剣を持ち、髪を切り裂く。切り裂いた髪は無残にも生命を失い、零れ落ちた。

 

「ルーシィ。ここは任せろ」

 

「う、うん。頑張って!」

 

 ルーシィはそそくさと岩陰に隠れる。剣を持ったままヴィダルダスと対峙する。するとヴィダルダスは更に攻撃を仕掛けてくる。

 

「ボーイに用はねえんだよ!」

 

「俺もお前なんかに用はない!」

 

 迫り来る髪を切り裂きヴィダルダスに攻撃をしかける。しかしヴィダルダスは後ろに躱して髪だけを切り落とす形になった。

 

「お前なんか俺の相手じゃねえ。サキュバスにやられちまいな! ヘイヤー!!」

 

 ヴィダルダスはギターを奏で始める。しかしこちらには何も被害はなく、ただうるさいだけだ。何の攻撃かは分からないが今の内に倒す。

 

「隙だらけだ!」

 

「隙だらけなのはどっちだ?」

 

「……がはっ!」

 

 突然背後に激痛が走った。後ろから誰かが攻撃した。現在後ろにいるのはルーシィしかいない。だがルーシィがそんなことするわけが……

 

「ルーシィ!」

 

 後ろを振り返るとヴィダルダスと同じメイクをしたルーシィがサジタリウスを呼び出していた。背中に刺さった三本の矢を引き抜き、投げ捨てる。あのメイクを見るに、ヴィダルダスの仕業に違いない。さっきのギターだ。こちらには何の影響もなかったギターだったが、ヴィダルダスの狙いはルーシィだった。ギターの音を聴かせることで人格を支配する魔法か。

 

「地獄地獄地獄ぅ! 最高で最低の地獄を見せてやるよ! クソガキぃ!」

 

「下品な……」

 

 こんなルーシィは見たくなかったが、しかしヴィダルダスに操られているのは明白。こちらから何と声をかけようと全く通じないだろう。解除するにはヴィダルダス本体を仕留めるしかない。それにしても何故ルーシィだけを操るのだろう。二人とも操ってしまった方が早いだろう。

 

「仲間同士の醜い同士討ちがお望みか?」

 

「ヒヒっ。そうさ。俺が見てえのは仲間だのと宣う奴等が醜く争い、絆とやらぶっ壊れる戦いってやつよ!」

 

「最低だな」

 

「最低こそ最高の賛辞だぜーー! イヤーー!」

 

 ヴィダルダスがギターをかき鳴らすと呼応してルーシィがこちらに襲い掛かってくる。星霊魔法を主に使うルーシィが肉弾戦を仕掛けてくる。洗脳の効果かパワーや身体能力も強化されているようで力強いパンチを繰り出してくる。

 

「開けぇ! 金牛宮の扉タウロス!!」

 

「モーー!! 地獄に送るモーー!」

 

「お前もかよ!」

 

 タウロスの強力な攻撃に徐々に押されていく。操られているとは分かっていても手を出すことが出来ないでいるうちにどんどんと逃げ場を失っていき、壁際まで追い込まれる。何とかタウロスの隙を突いて斧による攻撃を躱して、態勢を立て直す。

 

「美しい絆だねえ。くだらねえ! とっととイカしてやりなルーシィちゃんよぉ!」

 

「新アイテムをまさかルーシィ相手に使うことになるとはな。万物の写本」

 

 取り出したのは絢爛豪華な装飾が施された分厚い本。本を開き、ルーシィにかざすことでルーシィの魔力が本に吸い込まれていく。ダメージを与えない方法ならば、この策が最適であろう。試作品だったが上手くいったのは幸いだ。本当はちゃんとしたときに試したかったが、やむを得ない状況であった。ルーシィが魔力を吸い取られたことで戦闘不能になったことでタウロスも消滅し、残る敵はヴィダルダスのみとなる。

 

「お前に構ってる暇はねえんだよ。戦う魔剣!」

 

「へイヤー!! てめぇもサキュバスに変えてやる!」

 

「格の違いを思い知れ。アインツェルカンプ!」

 

 刹那の瞬間に幾百の斬撃がヴィダルダスを切り刻む。ヴィダルダスの長い髪も斬撃によって全て切り刻まれ、カツラがすっぽりと抜け落ちた。戦士の一人、ヴィダルダスを討ち取り、残る戦士は三人。早く次の階層に進まなければならない。魔剣が使用完了につき消え去ると、ルーシィの元へ向かう。

 

「ルーシィ。大丈夫か?」

 

「ごめん、あたし……」

 

「いいんだ。魔力を吸い取ってるから体に力が入らないだろう。ほら、背負っていくよ」

 

「ううん。大丈夫。あたしこれ以上ついていったらラランの邪魔になっちゃう。だから一人で行って。止めないといけないんでしょ。ロロナって人のこと」

 

「……わかった。回復アイテムは置いていく。エーテリオンのこともある。危険があればすぐに逃げろ」

 

「気を付けてね」

 

 ルーシィの言葉に頷き、その場を後にした。塔の上層部に上るに連れて、辺りに漂う魔力が増えていくのが感じられる。そしてヴィダルダスのいたフロアから一階上でまた先程よりは少し狭い空間に出た。そしてそこには見覚えのある少女が待ち構えている。

 

「ここまで来れたんだねララ君」

 

「ロロナ……お前はジェラールが何をしようとしているのか分かってるのか!?」

 

「知ってるよ。ゼレフって人を生き返らせようとしてるんでしょ。でも私、ゼレフって人のことはわからないんだ。でもジェラールは私の夢を叶えてくれるって約束した!」

 

「夢?」

 

「私は楽園の塔の力で皆をアーランドの皆を生き返らせる! それでまた昔みたいに大変で楽しい毎日が過ごしたい! それが今の私の夢。ララ君にだってわかるでしょ!?」

 

「……皆は、皆はもう生き返らない。俺達に出来るのは死んでいった皆の分まで生きることだ。だが生きてる奴を俺はずっと探してるよ」

 

「嘘だ! くーちゃんもイクセくんもいなくなっちゃった。りおちゃんやタントさん、ステルクさんもエスティさんも。師匠も! お父さんとお母さんだって! 誰一人だって見つけられてない! もう皆死んじゃったんだ!」

 

「皆どこかで生きてるさ! 一緒に探そう! 希望を捨てるな!」

 

「ララ君なら分かってくれると思ったのに。ホム君、ホムちゃん! やっちゃえ!」

 

「「かしこまりました」」

 

 ロロナの背後からホム君とホムちゃんが現れた。二人の手には今まで持っていなかったはずの剣が握られている。ホム君の手には龍をも切り裂きそうな大剣が、ほむちゃんの手には手数重視の細双剣が握られている。この武器には見覚えがある。小さかった頃、放浪している父に代わってよく遊んでもらっていた父代わり、母代わりの人たちの武器だ。

 

「ロロナ! その武器はどこで手に入れた!?」

 

「アーランドだよ。国が亡くなった後、ここに捕まる前にアーランドに来たの。誰かと会えないかと思って探したけど、誰もいなかった。お城の方でステルクさんとエスティさんの武器を見つけたから持ってきただけだよ」

 

 剣術を父と共に厳しくも優しく教えてくれたステルク、受付嬢の仕事をしながらよく遊びに来てくれたエスティ。どちらも思い出深い人だ。だからこそ、ロロナに楽園の塔を使わせる訳にはいかない。悲しみを乗り越えて、生きていかなければいけないのだ。

 

 ホム達が剣を振りかざして接近してくる。だからといってアイテムや杖を構えることはしない。家族であるホム達を傷つけることは出来ない。だから抗戦はしない。二人の剣がこの身を切り裂いても二人を許そう。

 

 重たい一撃と幾多の連撃が身体を刻む。真っ白なローブには血が染み込んでいく。

 

「どうした。それで終わりか?」

 

「マスター、ホムは胸のあたりがざわざわとしています」

 

「マスター、これは何でしょう」

 

「それは愛だよ。確かにお前たちは俺を斬った。だが、お前たちがその剣を用いて本気で斬っていたなら、俺は一撃で死んでいただろう。でも俺は死ぬどころか立って喋ってる。傷も浅い。感情を持たないはずのホムンクルスが感情を、愛を感じているんだ」

 

 幽鬼の支配者が襲撃した際にエレメント4に敗れ、病院に運び込まれたことがあった。その時に運んでくれたほムちゃんは涙を流していたとミラが言っていた。思えばその時には既に感情が生まれていたのだ。気づかないだけでもっと昔から芽生えていたのかもしれない。

 

「ホム、剣を捨てるんだ」

 

「「はい、マスター」」

 

 ホム達は剣を落とす。その二人に近づいていき、二人を同時に抱きしめる。過ちは誰にでもある。斬られても、刺されても、愛しいからこそ二人を許そう。

 

「えっ嘘……ホム君? ホムちゃん?」

 

 ロロナは明らかに狼狽えていた。昔から言えることだが、ロロナ本人には戦闘能力は全くと言っていいほど無い。ホム達をこちらから奪うことで自らの戦力としようとしていたのだろう。そのホム達が剣を置いた今、戦っても結果は見えている。

 

「ロロナ、もうやめよう」

 

「ううぅ~~……うあーーー!!!」

 

 ロロナは叫びながら突っ込んでくる。女性の力のないパンチを顔面に受ける。その後も何度もぽかぽかと殴られるが痛みは微塵も湧いてこなかった。ロロナの拳からは悲しみだけが伝わって来て、この10年間、アーランドの生き残りを探したいと思っていたが、マグノリアでの生活は居心地が良かった。安心感を理由に皆を探してやることも出来ず、何も出来なかった。その不甲斐無さを痛感した。

 

「ごめんなロロナ……」

 

 ロロナの顔は涙と鼻水とでぐしゃぐしゃになっていた。そっと背中に手を回し抱きしめる。震える小さな背中は10年前よりは大きくなったが、それでもまだ小さい。いつも誰かに守られていたロロナがたった一人で何かをしようと頑張っていたんだ。それは楽園の塔を使用しようとしたことは褒められたことではないが、まだ人生やり直すには間に合う。

 

「……えぐっひぐっ……皆にまた会いたいだけなのに……ジェラールは会わせてやるって言ったのに……」

 

「皆は絶対生きてる! こんな黒魔術を使わなくたって皆にまた会える。皆そんな簡単に死ぬような人じゃない。この世界に散り散りになってても俺が絶対に集めて見せる。だからロロナ、俺を信じてくれ」

 

「……ジェラールは一番上にいるよ。約束、絶対だからね」

 

「ああ」

 

 ロロナはホム達を連れて、エーテリオンに備えて避難すると言っていた。ルーシィ共々無事に避難してくれることを祈ろう。

 最上階までもう少し。ジェラールを止め、この楽園の塔を止める。エルザとの因縁の事もあるが、それは二の次だ。清純で何でも信じるロロナを悪用したジェラールは必ず成敗する。




登場した錬金アイテム

万物の写本

魔力を吸い取り封印する本。吸い取った魔力を誰かに還元することは不可能。敵の弱体化に用いることが一般的。日ごろ騒々しい妖精の尻尾のメンバー達の威圧、抑止に使用することも。

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