FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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出会いと別れ

「ロロナ! 何してる! やめろ!」

 

「ジェラール言ってたでしょ。生贄が向こうからやって来たって。私、もしエルザさんが何らかの理由でRシステムに使えなかった時のスペアだったの。だからジェラールは使えない私をずっと置いてたんだと思う。私だって本当はこんなことしたくない。でもララ君やシモン、ミリアーナ、ウォーリー、妖精の尻尾の皆の為なら……エーテリオンと融合して暴走を止める」

 

「させねえよ……」

 

 ロロナの身体はどんどんとラクリマに呑み込まれていく。ただそれを見ているだけで見殺しにするなんて絶対にできなかった。動かない足を動かすことは諦め、這いつくばってロロナの元まで移動した。まだ呑み込まれていないロロナの右足を掴む。それから腕力の限り、ラクリマから引き抜こうとするが全く抜ける気配は無かった。

 

「大丈夫だよ。ララ君。私を信じて」

 

「ロロナ……」

 

「カジノでララ君にまた会えた時、本当に嬉しかった。あの時は酷いことしちゃって本当にごめんね。あれでも涙をこらえてたんだよ? もうアーランドは無くなっちゃったけど、まだ世界のどこかには生きてる人がきっといる。ララ君はその人達を探してあげて。私もずっと見守ってるよ」

 

 そういうとロロナの身体はラクリマに完全に呑み込まれた。ロロナが触れればあれほど軟らかく変化していたラクリマは俺が叩けば鋼鉄の壁のように固い。何度も何度もラクリマを叩くが沈んでいくロロナを助け出すことは出来なかった。

 

 己の無力さを感じるのは何度目だろう。結局最後は誰かに頼ってばかりだ。頼られる存在でありたいと振舞っていたが、本質は何も変わっていない。いつもどこかに誰かがやってくれるという心があった。

 

 ロロナと融合したエーテリオンはその膨大な魔力を爆発させた。しかしその魔力は塔全体を巻き込む巨大な竜巻として顕現し、溢れ出る魔力は天へ高く打ち上げられた。空中に分散されたエーテリオンは分解され、楽園の塔は完全に消滅した。

 

 

 ロロライナ・フリクセルは夢を見ていた。生まれ故郷であるアーランド王国が黒き龍の襲撃を受け、一夜にして亡国と化す夢だ。その後にはカルト教団へ連れられ奴隷としての生を送り、最後は仲間の為に散った。

 

「あれ……ここ……」

 

 目を覚ましたのは、見覚えのあるアトリエだった。ソファで寝そべった姿はいつもと変わらない。懐かしさすら感じる景色にロロナは困惑しながらも一抹の安堵を覚えた。

 

「なーんだ! やっぱり夢かー! それにしても凄い夢だったなぁ。あんな夢はお子様っぽいってくーちゃんに言われちゃうかも」

 

 しかしふと違和感を覚えた。アトリエにいるはずのララバンティーノ、ホム達がいない。師匠であるアストリッドもいない。どこかへ出かけているのか、そう思ったロロナはアトリエの玄関扉を開けた。

 

「え……?」

 

 活気に溢れた町の景色はガラリと変わり、人の姿は一つも見えない。とにかく誰かを見つけなければ、ロロナは走った。広場、工業地区、レストラン、武器屋、雑貨店、王宮。至る所を回った。だが誰も見つからなかった。

 

「ララくーん! くーちゃーん!……イクセくーん? 皆どこに行っちゃったんだろう……」

 

 門を出て、城下町の外に出てみる。すると人間の後ろ姿が見えた。見覚えのある後ろ姿だ。何よりゆったりとしたフード付きの白いローブが特徴的だった。ようやく見つけたと言わんばかりにロロナは駆け寄っていった。

 

「ララくーん!」

 

 ロロナは少し驚かしてやろうとその背中を両腕で押した。しかしロロナの手はララバンティーノに当たることなくすり抜けていった。訳が分からない、そういった様相でもう一度触れてみる。やはり透過するだけだ。そしてラランはロロナに気づいている様子すら無い。

 

「あれ? もしかして見えてない?」

 

 黙ったままのラランは何処かへ移動を始める。何のヒントもない今、見失うことは出来ないとロロナはついていくことにした。後ろを歩いて行くこと数分、着いたのは近くの森だった。

 

「あっ」

 

 そこにはたくさんの人がいた。ラランはそこにいた人たちに挨拶をする。振り返る人々は皆涙を流していた。前の方からは大きな叫び声が聞こえる。その声は鼻声で涙を流しているのが分かった。何に対しての悲しみなのか。人が集まる前方へロロナは移動した。そこでは親友だったクーデリア、イクセルが大泣きしている様子が見えた。そのすぐ後ろには両親がいる。視線の先には一つの墓標が建てられていた。

 

「ロロライナ・フリクセル ここに眠る……ってえぇ!? 私、死んじゃったの!?」

 

「何で死んじゃったのよロロナ!」

 

「こんなことってあるかよ……」

 

 挨拶を済ませたラランが2人に寄ってきた。

 

「ロロナ……俺、集めたよ。皆を……でも、ロロナがいないと……ぐすっ……意味ねえよ」

 

「ララ君……皆…泣かないでよ……私、皆の為に頑張ったのに……皆集まったのが私のお葬式なんて悲しいよ! こんなの夢であってよ!」

 

 ロロナの祈りは天へ響いた。

 

「ロロナ……目が覚めたか?」

 

「シモン? 私……夢を見て……」

 

「ララバンティーノがロロナを抱えて波打ち際まで辿り着いたんだ」

 

 ロロナは再び目を覚ました。初めに目に映ったのは笑顔を浮かべたシモンの顔だった。そして辿り着いたアカネビーチ近くの療養所に運ばれていた。エーテリオンに呑まれた後、どうやってここまでたどり着いたのか分からない。記憶すらもない。ロロナの身体は激しく痛んだ。

 

「いたたた。そういえばララ君は?」

 

「隣のベッドだ。命に別状も無い。ただ足へのダメージが酷いらしくてな、しばらくは歩けないだそうだ。なに、エルザやルーシィが看病に当たっているから心配はない」

 

「そっか。結局、みんなに迷惑かけちゃったね」

 

「そんなことはない。ロロナがいたから皆助かったんだ」

 

「そ、そうかな。えへへ」

 

 ロロナは微笑んだ。それに応じてシモンも微笑む。隣のベッドからもララン、エルザとルーシィの談笑の声が聞こえてくる。ロロナはボロボロになりながらも笑顔に包まれた空間に幸福を感じていた。

 

 それから1日が経過した。

 

「暫くは車椅子だから世話頼むぞ」

 

「傷はすぐには治らないもんね。皆でラランのお世話してあげよ」

 

 医師からは内臓へのダメージもあったことから入院を勧められたが、無理やり退院をさせてもらった。今は誰かに車いすを押してもらうことで移動をするしか手段が無い状態だが、ルーシィや皆も手伝ってくれるようで何とかなりそうだ。

 

「エルザたちは?」

 

「浜の方だ。お前の友達、ロロナだっけ? も一緒に行ったぞ」

 

「そうか。じゃあ帰ってくるまで待っていよう」

 

 グレイは行かなくていいのかと尋ねてきたが、せっかくの喜ばしい仲間との再会に水を差すのは野暮だろう。ホム達に車いすを押してもらって、窓からビーチを眺めると小さくエルザたちの姿が見える。ずっとあの島で暮らしてきた彼等がこれからどのような選択をして生きていくのか、それは計り知れないものだが、どんな道を進もうと正しい道ならば、応援したい。この場にいる皆がそう思っているだろう。

 

しばらくして、エルザ達が帰ってきた。纏まった話として、エルザからの提案でロロナたちが妖精の尻尾への加入することになった。行く宛のない彼等の初めの1歩としては良い選択だと思う。そして今日は新人の歓迎会としてパーティを開きたいということ、これも勿論エルザの提案だ。

 

パーティはホテルの一室で行われた。エルザから俺達へロロナ、シモン、ショウ、ウォーリー、ミリアーナの紹介がされ、またエルザからロロナたちへ俺達の紹介がされた。一人一人と握手が交わされる。特にシモンには良くやってくれたと力強い言葉を貰った。それにしても握手の力が強い。

後にロロナから聞いた話だが、エーテリオンの暴走を止めたのはロロナではないらしい。そうすればジェラールが止めたのではないかと。確かにあの時のことはよく覚えていないが、ロロナがエーテリオンと融合すれば、ロロナの身体は分解されて、見つけ出す術が無くなる。そしてもし見つけたとしても元に戻す事も出来ない。ならば初めからジェラールがやったとすれば辻褄は合う。

そしてロロナは小さく呟いた。ゼレフに囚われたジェラールもまた被害者だと。何もしてやれなかった自分の弱さが悲しいと。ジェラールに対して可哀想と言って良いのかは分からない。ただ救うべき人としてジェラールも数えるべきだったと今更ながら感じた。

パーティがお開きになって、ホテルの客室で眠っていると、エルザが扉を開けて入ってきた。

 

「ララン! シモンたちを見なかったか?」

 

彼らは同じホテルに泊まっているはずだ。彼らの部屋を尋ねればいいものを、とは言えないような慌てようだ。

 

「見てないな。まさか出てったのか?」

 

「チェックアウトは明日だと言うのに。あのバカもの達め...」

 

「探しに行くか?」

 

「いや...ナツたちに花火の準備だと伝えてくれ」

 

そういうとエルザはUターンして部屋を出ていってしまう。花火の準備だと言われても花火師ではないが。だが、言われたからには用意しない訳にはいかない。エルザにはもう彼らの居場所は分かっているのだろう。ホムたちに車椅子を押してもらってナツ、グレイ、ルーシィの部屋を訪ね、花火の準備を伝えた。

 

一応、シモンたちの部屋を見てみよう。もしかしたらたまたまと居なかったということもあるかもしれない。

シモン...いない、ショウ...いない、ウォーリー...いない、ミリアーナ...いない。そして最後、ロロナ。半ば諦めの気持ちで扉をノックした。

 

「あれ、どうしたの。出発明日でしょ?」

 

いた。今まで寝てましたと言わんばかりの眠そうな眼と手を口の前に当てて、大きなあくびをする姿は緊張感の欠片もない。シモン達がいなくなったことを伝えると、何か知っているようで俯いてしまった。

 

「皆、本当に……」

 

「どこにいる?」

 

「多分...ビーチだと思う。でも止めないであげて。皆が決めたことだから」

 

「エルザがどうするか、だ」

 

そういうとロロナは大きく頷き、後ろに付いてきた。ビーチ近くでナツたちと合流すると、エルザは既にシモンたちと向き合っていた。ここで出番まで待つ算段らしい。にしてもあの4人はあんな小さな船で出ていくつもりだったのか。

彼らは、解放され妖精の尻尾へ加入することも考えたが、これからは自分たちの力で自分たちの為に生きていきたいと主張した。これから初めての外の世界に触れていく彼等には驚きや戸惑い、時には悩み、喧嘩もするだろう。そしてエルザもその言葉を聞いて、少しはにかみ、止めようとはしなかった。

 

「だが、妖精の尻尾を抜ける者には三つの掟を伝えなければならない。心して聞け!」

 

 エルザはそう言うと鎧を換装する。彼らが妖精の尻尾に正式に加入したとかしてないとか今はいいのだ。これがエルザなりのやり方、彼らを精一杯送り出してやりたいという気持ちの表れだ。

 

 妖精の尻尾の紋章が描かれた団旗槍を握りしめたエルザは掟を詠唱していく。

 

「一つ! 妖精の尻尾の不利益になる情報は生涯他言してはならない!」

 

「二つ! 過去の依頼書に濫りに接触し、個人的な利益を生んではならない!」

 

「三つ……!」

 

 エルザは空を見上げた。目から零れ落ちそうな涙を必死にこらえている。旅立ちを迎えんとする彼らももらい泣きしてしまっている。

 

「三つ! たとえ道は違えど強く、力の限り生きなければならない! 決して自らの命を小さなものとして見てはならない! 愛した仲間の事を生涯忘れてはならない!!」

 

 零れ落ちる涙が砂浜へ到達した時、エルザは団旗槍を天高く掲げた。これが彼女からの合図だ。一斉に彼らの前に飛び出し、盛大な花火を打ち上げる!

 

「お前ら―! また会おうなーー!」

 

 ナツは口から小さな炎の球を打ち上げて本家さながらの見事な花火を咲かせた。

 

「氷もあるんだぜ!」

 

 グレイは、アイスメイクによる氷の花火を。

 

「じゃああたしは星霊バージョン」

 

 ルーシィは星霊たちによる光の花火を。

 

「元気でやれよー!」

 

 そして俺はメテオールによる星々の花火を、それぞれがそれぞれなりの花火を打ち上げて、彼らを送り出した。そしてロロナは旅立つ彼らに駆け寄っていき、四人に抱き着いた。

 

「いつかまた会えるよね。私も私のやりたいこと見つけるから、皆も……うぅ……」

 

「泣くなよロロナ姉さん」

 

「ロロちゃんはずーっと変わらないみゃあ」

 

「俺達だってロロナやエルザと離れたくないゼ。でもよ、俺達といると二人には辛いこと思い出させちまう」

 

「ロロナ、お前にはララバンティーノがいる、それに外の世界も知っている。一緒に旅に出れば大きな負担をかけてしまうだろう。だから誘わなかった。すまない」

 

 五人が泣きながら抱き合っているところにエルザも参加し、ロロナの後ろから抱き着いた。

 

「どこにいようとお前たちの事を忘れはしない。そして辛い思い出は明日への糧となり、私たちを強くする。誰もがそうだ。人間にはそう出来る力がある。強く歩け。私も強く歩き続ける」

 

 花火咲く夜空に美しい友情と別れの涙。思わずもらい泣きしてしまう。

 

「この日を忘れなければまた会える。元気でな」

 

「絶対にまた会おう。約束だ」

 

「約束……皆、これあげる」

 

 ロロナは恵みのクリスタル、翡翠結晶のペンダントを四人の首にかけた。その後、エルザと自分の首にかけて、皆でお揃いだねと言ってにへへと笑う。それにまた彼等の涙腺は崩壊してしまって、ロロナは慌てて謝った。

 

「皆に良いことがありますようにっていうお願いだよ。また……会う日まで持っててね。約束!」

 

「約束だ」

 

 花火に民衆の注目が集まり、市街地が盛り上がっているのが分かる。ここに押し寄せてくる前に出航したいとシモン達は船に乗り込み、旅立っていった。エルザは団旗槍を彼らの姿が見えなくなるまで降り続けていた。ロロナや俺達も姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「これで良かったんだよな」

 

「あぁ、この選択は間違っていない。さぁ明日は朝早くに出発だ。もう休もう」

 

 エルザの切り替えは速かった。だが、一番早くホテルへ歩き出したエルザはずっと上を向いて歩いていた。その後を続いてホテルへ帰ろうとするが、ロロナだけは波打ち際から動こうとしなかった。

 

「ロロナ……?」

 

「会いたい人がいっぱいいるね」

 

「え?」

 

「くーちゃん、イクセくん、師匠、ステルクさん、エスティさん、りおちゃん、タントさん。街の皆にも会いたい。そして今旅立っていった皆にも」

 

「あぁ……」

 

「でね、ギルドに着いて、一段落したら行きたい場所があるんだ。一緒に行かない?」

 

「いいぞ。どこだ?」

 

「アランヤ村ってところ」

 

 




登場した錬金アイテム

恵みのクリスタル

錬金術によって作られた宝石ペンダント。本体が主効果はなく、特性を付けることしか出来ない。完全な宝飾品である。


今までは書いていたような書いていなかったような感じでしたが、本編と流れが変わらないシーンは基本的にカットしています。具体的には主人公やロロナが登場しない、その場にいないシーンなので登場しないキャラクターも出てきます。楽園の塔編では斑鳩は全く出てませんし、梟も名前のみです。

カットの理由は本編と変わらないからです。そこも見たいという方には申し訳ありません

ここはあった方がいいかもしれないと思う部分は描写するかもしれません。


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