FAIRY TAIL~妖精の錬金術士~   作:中野 真里茂

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新装オープン フェアリーテイル

「ほぉ~」

 

 ジェラールとの戦いが決着し、シモン達と別れを告げて、俺達はギルドへ帰還した。エルザ、ナツ、グレイ、ルーシィ、そして新たにギルドに加わるロロナもだ。楽園の塔で協力体制を取っていたジュビアは一足先にギルドに帰っているらしい。一刻も早くギルドに加入したいからだとか。惚れた女の行動は時に大胆だ。

 

「てか、でかくねえか?」

 

 ギルドに帰ってきたのはいいのだが、目の前に聳えるギルドは、慣れ親しんだギルドより一回り大きくなってリニューアルされていた。幽鬼の支配者によって破壊されたギルドはアカネビーチへの出発時では、まだ再建途中かつ、よく分からない設計図が頼りだったため不安視していたがこんな立派になって帰ってくるとは思いもよらなかった。

 

「よぉおかえり。早く中入りなよ」

 

 新しいギルドの門前で唖然としていた俺達に声をかけてきたのはカナだった。ガラリと変わったギルドの中を案内してもらうことになった。

 

「オープンカフェにグッズショップまで……売り子はマックスか」

 

「いらっしゃい。ギルドTシャツにリストバンド、マグカップにタオル、オリジナルラクリマも売ってるよ」

 

 ショップ売り子のマックスの手には様々なグッズが握られている。どのグッズも良い値段がするが、売れ行きから見てもかなりの売り上げを残していそうだ。その中からマックスが一番人気と持ってきたのは、所属魔導士たちのフィギュアだった。

 

「良く出来てるな」

 

「だろ? もちろんキャストオフ付きだ」

 

 マックスがそう言ってルーシィの持っていたルーシィ人形に取り付けられた装置を動かすと服を着ていたルーシィがキャストオフして水着姿になった。

 

「きゃあああ!! 何してんのよ!」

 

「俺のはキャストオフないのか」

 

「男のキャストオフなんて誰に売れるんだよ。それに俺、ラランがそのローブ脱いだところ見たことねえから作れねえしよ」

 

「俺のは最初から脱いでるぞ」

 

 グレイが自分のフィギュアを見せてくる。確かにそもそもパンツしか服が作られていない。手抜きと言えばそれまでだが、忠実に再現されているとも言える。

 

 カナに案内されて酒場へ入る。そこは荒くれ集団妖精の尻尾の酒場とは思えないほど綺麗に輝いていた。ミリのずれもなく整頓された机と椅子に装い新たに生まれ変わったウェイトレスさん達。全員が新たなギルドに目を輝かせている、と思ったが、ナツだけは前と違うと言って不満面だった。

 

「酒場の奥にはプールが! 地下には遊技場! そして一番変わったのは2階。誰でも上がっていいことになったのよ。勿論S級クエストに行くにはS級魔導士の同行が必要だけどね」

 

 カナが言う通りギルドのあらゆるところが変貌を遂げている。2階へ行ってもいいというのは1階だけに行動が限られていた魔導士にとっては嬉しいらしく、ルーシィやグレイを初めとして喜んでいた。

 

「帰って来たかバカタレども」

 

 馴染みの声がした方向を振り返るとマスターとジュビアが立っていた。ジュビアは妖精の尻尾の紋章のペンダントを首から下げている。

 

「新メンバーのジュビアじゃ。かーわええじゃろ」

 

「よろしくお願いします」

 

「ははっ。本当に入っちまうとはな」

 

「アカネでは世話になったな」

 

「皆さんのおかげです。ジュビア頑張ります」

 

 ジュビアはグレイやエルザたちと挨拶をしてにこやかに振舞う。ルーシィにだけは恋敵と敵視するような視線を向けていたような気がしないでもない。

 

「む? ララン。その後ろに隠れている子は?」

 

「ロロナ、ここのマスターだ」

 

「あ、あの! ララ君とは昔からのお友達で、エルザちゃんともお友達で! そのあの、よろしくお願いします!」

 

「そーかそーか、よろしくの」

 

「ロロナはアーランドの頃の友人です。是非妖精の尻尾に招待したいのです」

 

 ロロナは加入手続きの為に一時離れていった。マスターはジュビアともう一人の新メンバーを紹介すると言って、テーブルの一角を指さした。そこにいたのは見たこともない男だったが、ナツとルーシィは驚きふためいていた。

 

「ガジル……!?」

 

 ナツがそう言った瞬間に理由が分かった。ギルドを破壊し、レヴィ達への恥辱を行った、幽鬼の支配者の黒鉄のガジル。初めて会ったからこそ誰だか分からなかったが、漂う険悪な雰囲気はひしひしと感じ取れる。

 

「初めまして、だな。ガジル」

 

 過去に行った非道はあれど、こうして仲間になるのだから誰かが橋渡しをしなければならない。ガジルに話しかけ、手を差し伸べた。

 

「……アリアとマスタージョゼとやりあってた奴か。慣れ合うつもりはねえ。仕事が出来ればそれでいい」

 

 握手を求めた手は弾かれ、ガジルはそっぽを向いてしまう。ナツやグレイが食って掛かるがガジルは意に介していない様子だ。ガジルはジュビアが誘ったらしく、いつも孤独なガジルを放ってはおけなかったらしい。マスターとしてもジョゼの命令でやったことであるし、道を外れた若者を再び正しい道に導くのも己の役目だとギルドへの加入を認めたようだ。エルザは反対の意を見せつつもマスターの言う事ならと納得していた。遠くのテーブルからはガジルの被害を受けたシャドウギアの面々、レヴィは怯えていたが、ジェット、ドロイはガジルの事をやはりよく思っていないのか、彼を敵視するような視線を向けていた。

 

「見て見てララ君!」

 

「ん?」

 

 そこへ何も知らないロロナが帰ってきた。ニコニコとした笑顔は険悪だったムードを少し和やかにしてくれた。彼女が見せてくれたのはギルドの紋章が刻まれた左手の甲だ。

 

「えへへ、ララ君と同じ場所にしたんだ。色はピンクだけど」

 

「晴れてここの一員だな」

 

「うん! あ、そうだ。さっき聞いたんだけどそろそろイベントがあるらしいよ!」

 

「イベント?」

 

 そんなことは全く聞いていないと思っていると、ギルドの照明が一気に落ちた。すると新設されたステージの幕が上がり、ギターを携えたミラが弾き語りを始める。大歓声が巻き上がり、ギルド内のボルテージは最高潮に達している。その時だった。隣のテーブルに座っていたガジルがナツにちょっかいを出したようで怒ったナツがガジルに食って掛かった。ミラの歌を聞きたい誰かがナツとガジルへジョッキを投げつける。ヒートアップしていた会場の雰囲気にも巻き込まれて、ナツはテーブルをひっくり返すと止めようとしたグレイがエルザと接触。エルザが頬張っていたケーキは皿ごと無残にも地面へ放り出された。姉の歌を聞けと鉄拳制裁を加えるエルフマンにはケーキの怒りが爆発したエルザの鉄拳が炸裂。こうして一つのきっかけを契機に偶然に偶然が積み重なって、ギルド内はたちまち喧嘩騒ぎになってしまった。

 

「ら、ララ君! 皆喧嘩してるよ!? と、止めなきゃ……!」

 

「いいんだよ。これがスタンダードだし」

 

「え、そうなの? でも確かに皆、笑ってるね!」

 

 騒ぎを見たミラも立ち上がり、ロックスタイルに変更。更にギルドは盛り上がりを見せる。そこには笑顔が溢れて、いかにも妖精の尻尾らしさが出ている瞬間だった。

 

「何故あと一日我慢できんのじゃ。クソガキども……」

 

 マスターは一人だけ泣いていた。一周回ってそれは怒りへと変換され、暴れまわる者達を止めようと自らも魔法によって巨大化し、メンバーたちの騒ぎに乗じていった。

 

「明日は雑誌の取材なんじゃぞーー!」

 

 騒がしくごたついたギルドが小奇麗に取り繕われていたのはそのせいだったのかと納得しながらマスターの巨大な手から逃げ回る。慌てふためくロロナは皆の流れに振り回されながらも楽しそうにしていた。

 

 その後、マスターの怒りに触れた皆でギルドの片づけをして、明日の雑誌取材に向けてクリーンなギルドイメージをアピールするためのお膳立ては整った。マスターからもこれ以上壊されては困るとギルドを追い出され、明日まで出禁になった。仕方なく、アトリエに帰ろうと歩き出すとローブの裾を捕まれ引っ張られる。

 

「ララ君」

 

「どうした?」

 

「私、お家ない……」

 

「あ、そうか……まぁしばらくはアトリエに泊ってけよ」

 

「あ、ありがとう!」

 

 ロロナと二人でアトリエに帰ると、勿論いつもの二人が出迎えてくれる。俺にとっては毎日の当たり前のような光景。だがロロナにとっては10年ぶりの再会であった。

 

「おかえりなさいませ。マスター……!?」

 

 ホム達も驚いている。それはそうだろう。礼から頭を上げると10年ぶりに再会した主人の一人が大粒の涙を浮かべて飛び込んできているのだから。

 

 ロロナは泣き止むと、そのまま寝入ってしまった。色々と疲れることが続きすぎたこともあるだろう、ホム達がベッドへ運び、その様子を暫く見ていた。ロロナがこうして安心して寝られるのはいつぶりだろう。こうしてスヤスヤと眠るロロナを見ることが出来ただけでも頑張った甲斐があるというものだ。

 

 眠るロロナを背に錬金をしていると玄関の扉を叩く音が聞こえた。ホム達も休憩しているし、自分で玄関を開けるといつも通り寒そうな服のルーシィが立っていた。

 

「家帰ったらナツがベッドで寝てたから避難してきた」

 

「またかあいつ。入りな」

 

「うん」

 

 ルーシィを招いて、家の中に入れる。いつも通り紅茶とパイを出して、話をしていると、匂いに釣られたのかロロナが寝室から起きて出てきた。ロロナの姿を確認した瞬間にルーシィはどこか不満げな表情を見せた。

 

「えっ……何でロロナさんがいるの」

 

「家が無いんだから、仕方ないだろ」

 

「そ、それでも大人の男女が二人で住むっていうのはぁ……」

 

「ホム達もいる」

 

「ホム君達は、その、何て言うか違うっていうか」

 

 ルーシィがもじもじとしている間にロロナは俺の隣に座り、寝ぼけながらパイを食べ始める。ルーシィはそれにも不満げである。

 

「そ、そうだ! 明日取材に来る週刊ソーサラーって知ってる?」

 

 無理やり話題を変えるように振ってきた。週刊ソーサラー、勿論知っている。うるさい記者のいる雑誌だ。よく妖精の尻尾の魔道士は掲載されてるし、その活躍ぶりも特集されている。ただしそのほぼ全てが破壊記録だ。

 

「ソーサラーの取材はチャンスだ。俺やロロナがここにいることが分かれば、再会を求めて誰かが来るかもしれない」

 

「そうだね。でも雑誌の取材なんて緊張しちゃうね」

 

「ギルドに取材が来るのは初めてだけど、そのぐらいでどうこうなるような奴等じゃないだろう」

 

「ふぐぅ……」 

 

 ルーシィと話し込んでいるとパイを食べて、また眠ってしまったロロナが肩にもたれかかってきた。食べてすぐ寝ると太るぞ、と言えるような眠りの浅さではない。ルーシィに断りを入れてロロナを抱えて寝室へ運んだ。

 

「悪いな」

 

「い、いや、いいんだけど。ロロナさんとはどういう関係なの? 随分と仲が良いみたいだけど。そ、その、昔付き合ってたとか……?」

 

「それはない。そんなことをしたら二人の女性に暴行を受けるだろう。まぁでも関係か。昔話になるな」

 

 ルーシィに昔話を始める。

 

 10年前のアーランドにあった小さなアトリエ、店主はアストリッド・ゼクセスという。ただこの女性が大変な曲者で民衆や王国からの信頼も揺らいでいた。そこで見かねた国の大臣がアトリエを潰そうと画策した。アトリエ存続の為にアストリッドに強引に店主の座を譲与され、その口車に上手く乗せられたロロナが王宮からの課題をこなすようになった。そこでお目付け役になったのが俺とステルクという騎士だった。ステルクは騎士という仕事があるが、俺は何かと暇でよくアトリエに足を運んでいた。ロロナとは同世代なこともあって話が合ったし、王宮の外に出て冒険をするのは楽しかった。錬金術も最初は趣味ぐらいで始めたが、これが中々楽しくて奥が深い。そんなに時間が経たないうちにどっぷりとハマっていた。最初は警戒されていたが、アストリッドも認めてくれるようになった。

 

「ま、仲間の一人なのかな。ロロナは。ロロナは俺に恋愛感情なんてないよ。俺よりもステルクとか、もう一人イクセルっていうロロナの幼馴染の方に気が合ったんじゃないかな」

 

「そう、なんだ……」

 

「で、ロロナと出会って一年経たないくらいが過ぎた頃かな。アーランドは亡くなった。今もロロナ以外は行方不明。でも俺はどっかで生きてるって信じてる。だからロロナに会えた時は素直に嬉しかったな」

 

「じゃ、じゃあさ! 見つけようよ! ラランの仲間! あたしも手伝うよ」

 

 

「……ありがたい話だ。その時はぜひ頼むよ。明日の取材もよろしくな。俺もそろそろ寝る。ルーシィもロロナの部屋にもう一つベッドがあるから、そこを使っていい」

 

「うん、ありがと」

 

 その日は明日の取材に備えて休息を取った。そういえばもうすぐファンアジアの時期だ。マグノリアの収穫祭であり、フェアリーテイルも大規模なパレードを行う。この時期はパレードに使う大道具の作成で多忙になる。その間は仲間探しも少し後回しにせざるを得ない。ファンタジアが終わったら色々なところへ依頼で出かけて、仲間たちの情報を集めよう。

 


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